大喜君がバドミントンに本気になるのを早くしてみた   作:もう何も辛くない

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今回少し文字数少ないけど実際このくらい(5000字)くらいに収めるのを理想としてます。


VS針生先輩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ありがとうございました」」

 

 ネットを挟んで向かい合う相手と礼を向けながら挨拶を交わし、足を壁際に置かれたホワイトボードの方へ向ける。

 そのホワイトボードにはブロックごとに分けられた勝敗表が書かれており、俺の名前はAブロックの表に載っている。

 

「大喜、また勝ったのか」

 

「ん、まあ」

 

 ホワイトボードに先程行った試合の結果を書き記す。

 俺の名前の所にゲームカウント2‐0、対戦相手の先輩の名前の所に0‐2とかいてから二ゲームの得点を書く。

 

「…針生先輩も全勝か」

 

「あの人なら当然でしょ。あまり大きい声では言えないけど」

 

 匡がホワイトボードに書かれたブロック表を見上げながら、さらに言えば()()()()()()()()()A()()()()()()()を見上げながら呟いた。

 その呟きに俺も声量を抑えながら呟きを返す。

 

 今の所俺は全勝だが、同じく針生先輩もここまで全勝で来ている。しかも俺と違って針生先輩はここまでの試合全て2-0で、すなわち一ゲームも落とす事なく勝ち続けている。

 

「どうやって戦う気だ?最近針生先輩すげぇ調子いいし、相当難しいぞ」

 

 試合が終わり、結果を書きに来た先輩に場所を譲ってその場を離れながら、匡が問い掛けてきた。

 

 匡の言う通り、ここ最近の針生先輩はかなり調子がいい。

 傍から見てるだけでも相手の打球がよく見えているのが分かるし、足もしっかり動いて、スマッシュも面白いようにコースに決まっている。

 あれで絶好調じゃなかったら逆に怖いくらいだ。あれが正常だったらぶっちゃけ勝てる気しない。

 

「先輩がどれだけ調子良かろうと関係ないよ。俺は俺のプレイをするだけだし、ていうかそれしか出来ないし」

 

 匡の質問に答えながらアリーナを出てすぐのホールへと入る。

 

「あ」

 

 直後、匡がそこにいた人達を見て小さく声を上げた。

 

「…」

 

「こらこらどこへ行く。水飲みに行くんじゃないのか」

 

 俺もそこにいる人達を見て踵を返す─────前に匡に襟を掴まれてしまう。

 

 くそ、何で集中したい今この時に集中が乱れてしまう場面に出くわしてしまうんだ。

 そこにいたのはバド部と女バスの二年生四人組。その中には千夏先輩と針生先輩の姿もあった。

 

 本当に…どうして千夏先輩と針生先輩の組み合わせを見るだけでもやもやするんだろう。意味が分からない。

 こうなったのはあの時から─────商店街で歩く千夏先輩と針生先輩を見てからだ。

 あの時から、普通に話す二人の姿を見て胸がもやもやするようになった。その事を匡に相談してもマジか、て顔をするだけで碌な答えを返してくれないし。

 雛には何か知らないけど話さない方が良いって勘が叫ぶし。

 

「こいつ今全勝してんだよ」

 

「今の所、な」

 

「ご謙遜を」

 

「謙遜なんかじゃねぇって。次の試合はマジで負けるかもだし」

 

「…まあ、次のお前の相手大喜だしな」

 

 隠れて話を聞いていたら思わぬ形で俺の名前が出てきた。

 

「なに?針生の次の相手ってそんなに強いの?」

 

「あぁ。最近すげぇ伸びてて、正直絶対に勝てるとは思わない」

 

 あれよという間に話題が俺の話に移っていくのを聞きながら、ふと千夏先輩の表情に視線が行った。

 

 少し目を見開いて、驚いているのだろうか。先輩って少し何を考えているのか分からない所があるから、驚いているという点も正しいのか定かじゃない。

 

 でも、何だろう。俺の話になってから少しだけだけど、胸のもやもやが薄くなった気が─────

 

「まあ、俺が勝つけど」

 

「…」

 

「大喜の奴ここまで全勝で来てるし、ここらで調子に乗らないようコテンパンにしてやるのが先輩の役目ってもんよ」

 

「……」

 

「俺、あいつに負けちゃったし。仇とってくれよな針生」

 

 任せろ、と胸を張っている針生先輩の姿に少し、ほんの少しだけカチンと来た。

 調子に乗らないよう?コテンパン?先輩の役目?

 完全に見下されているその言い方が俺のプレイヤーとしてのプライドに触れた。

 

「お、おい」

 

 足を踏み出す。さっきまでの胸のもやもやとか、先輩達に見えないよう隠れてた理由とかもうどうでも良かった。

 

 背後から匡が俺を呼び止める声がしたが、構わず水飲み場の方へと歩く。

 

「げっ。た、大喜…」

 

 最初に俺の姿を見つけ、声を上げたのはさっき針生先輩に仇をとってくれと頼んでいた先輩だった。

 その声を皮切りに針生先輩が、女バスの先輩が、千夏先輩も俺の存在に気付いて視線を向けてきた。

 

「大喜、さっきの試合どうだった?」

 

「…勝ちましたよ」

 

「おー、おめでとさん」

 

 こちらに振り向いた針生先輩からの質問に答えてから、水道の前に立って蛇口を捻る。

 背中に先輩達の視線を感じながら水を飲んでから振り返り、軽く針生先輩ともう一人の先輩を睨みながら、文句を言うべく口を開く。

 

「ずいぶん好き勝手言ってくれてましたね」

 

「あ、はは…あれは、そのー…」

 

「盗み聞きは趣味悪いぞ」

 

「聞くつもりはありませんでしたよ。でも、いきなり俺の名前が耳に入ったら出づらいでしょ」

 

 嘘ではないが、真実でもない方便で針生先輩の話題逸らしを受け流す。

 

「『調子に乗らないようコテンパンにしてやるのが先輩の役目』、でしたっけ」

 

「…」

 

「それを言うなら、勝ちが続いて先輩が有頂天になる前に正気を戻してやるというのも後輩の役目だと思うんで」

 

 言いながら笑みを向けてやると、針生先輩もまた好戦的な笑みを返してくる。

 

 そんな俺と針生先輩の視線の応酬を、先輩達は少し引き気味で見ていた、というのは後から匡から聞いた話。

 

 ただ、この場に居なかった匡には聞こえていなかったのだろう。というより他の誰にも聞かれていなかったし、俺も気のせいかと思える程に微かなものだったけど。

 

「頑張れ」

 

 千夏先輩の声がこの時、聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラヴオール、プレイ」

 

 という事で後輩と先輩の心温まるやり取りはそこそこに、俺と針生先輩の試合の番が回ってきた。

 サービスは針生先輩から、ラケットをバックハンドに構え、放たれたサーブは前方へ。素早く腕を伸ばして落下するシャトルを拾い相手コートネット際を狙う。

 

 針生先輩の反応は素早く、あっさりと簡単にドロップは拾われる。だけでなく、針生先輩もドロップを返してきて俺もネット際へと引き摺り出されてしまう。

 このまま反応勝負に持ち込むのもいいが、まだ序盤。序盤の内は針生先輩の状態を()()()()()()に割きたい。

 

 そのために俺は高くロブを上げる。

 針生先輩の背後、コート後方のライン際を狙った際どいショットだ。

 打った直後にコートの中央へと足を戻し、後ろへ下がってラケットを振り被る針生先輩に目を向ける。

 

 ─────速い。

 

 針生先輩の落下地点に入る速度は凄まじかった。というよりもしかしたら俺がロブを上げるのを読んでいたのかもしれない。

 

 針生先輩のジャンプスマッシュが放たれる、が、一撃で決めさせはしない。

 スマッシュこそ打てたが体勢的には余裕がなかった。故に、体の向きから打つ方向を限定し、リアクションステップで打球に追いつきスマッシュを拾う。

 

 後方からのスマッシュだったため、比較的余裕を持って反応が出来た。

 針生先輩がスマッシュを打った右後方の位置から対角線上、左前方へシャトルを落としてやる。

 

 このドロップも拾われる、が、今度は先程とは違って俺のバック側後方へとロブを上げてきた。

 回り込んでスマッシュ…は、余裕を持った体勢で回り込めなそうなので止め、素直にハイバックでクリアーする。

 

 高く上がるシャトルに、今度は余裕を持って針生先輩がスマッシュの体勢に入る。

 体の角度からは打つ方向は読み取れない。なら、ラケットの角度から打つ方向を読み取るしかない。

 

 ─────右…いや!

 

 針生先輩がラケットを振り下ろすその瞬間、両足を床から離してリアクションステップをとる。

 足が床から離れている間に針生先輩のラケットの面の角度から右側に打ってくると判断し、左足を床に着ける。

 が、それと同時に面の角度が僅かに変わる。

 

 俺が動いたのを見てからじゃ間に合わない。またしても、針生先輩は俺の思考を読んできた。

 

 辛うじて右へ動く前に反応したが到底間に合わず、針生先輩のスマッシュはがら空きのコート左側へ突き刺さった。

 

 ここまで見事に逆を突かれてスマッシュを決められたのは久しぶり、というより部内戦が始まってからは初めてだ。

 やっぱり針生先輩は強い。ほんの少しの油断も許されない。

 

 だからといって、負けるつもりは毛頭ない。

 先程の得点は針生先輩だったから、サービス権は針生先輩のまま変わらない。

 

 針生先輩が構えてから俺も自然体で相手のサービスを待つ。

 

 今度のサービスも前方へ、右足を踏み出して腕を伸ばし、拾ったシャトルはネットを越えて針生先輩のコートへと返っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イン、5-1」

 

 大喜と針生先輩の試合は序盤、針生先輩のペースで進んでいた。

 大喜も良く粘っているけど、調子よくどんどん攻めてくる針生先輩の勢いに押されているのは目に見えて明らかだった。

 

 そう、針生先輩のペースなのだ。それは二人の得点から見ても間違いない。

 

 が、傍から見てる俺達にはそんな印象はあまり持てない。

 

「ねぇ、大丈夫?かなり一方的だけど」

 

 大喜と針生先輩のラリーを見ていると、視界の外から心配が籠った声が聞こえてくる。

 振り向けば、大喜の方を見ながらこちらに歩いてくる蝶野さんがいた。

 休憩中か、蝶野さんは上にジャージを着ていわゆる萌え袖と言われる格好で大喜の試合を見に来ていた。

 

「一方的、か」

 

「?そう見えるけど、違うの?」

 

 話している内に試合の得点が動く。長いラリーの末、大喜がミスってしまいシャトルをネットに掛けて針生先輩の得点になる。

 得点が捲られたのを見てから、試合に集中する大喜の背中に視線を向ける。

 

「まあ、大喜が序盤リードされるなんて珍しくないし」

 

「そうなの?」

 

 まず、大喜が序盤にリードされるというのは決して珍しくない。それは、大喜が試合の序盤を目一杯使って相手の今日の調子、様々なショットの状態を確かめているからだ。

 そしてその事を、部員の殆どは知っている。だからこそ、この序盤に針生先輩がリードしていてもまだ大喜が不利とはあまり感じられないのだ。

 

 ただこの試合に関してはもう一つ、どちらが有利、不利かが判断できない理由がある。

 

「…ラリー長ぇな」

 

 それがたった今、俺の近くにいた一年部員が小さく呟いた台詞にある。

 

 ここまでの大喜と針生先輩の得点、合わせて七点。全て長めのラリーの末の得点だった。

 どちらかが集中を切らしてミスをしてもおかしくなかった。高い精度によるラリーの応酬の中、少しでも何かが違えば大喜の得点になっていてもおかしくなかった。

 

「っ、よしっ」

 

 大喜のスマッシュがオープンスペースに突き刺さり、得点が入ると蝶野さんが小さく拳を握りながら喜びを見せる。

 

 一方、コートの中にいる大喜の表情は変わらない。まだリードを許している展開だし、何より大喜の中ではまだ様子見は終わっていないのだろう。

 点を加えた喜びを感じる暇もなく、その目は針生先輩の方へと向けられたまま。大喜の顔からはその脳内で何を考えているかは全く読み取れない。

 

 大喜のサーブから再びラリーが始まる。

 ドロップをドロップで返したかと思えば、コート後方のライン際を狙ったロブが上がり、ハイバックから速いラリーが始まる。

 

 どちらの反応も神懸っていた。しかし先に速い展開から逃れたのは大喜だった。

 針生先輩のバック側後方に向けてロブを上げ、一呼吸を得てコート中央へと戻る。

 

 針生先輩は後方へと下がり、大喜のロブをクリアーする。

 

「─────」

 

 意外だな。スマッシュしないのはともかく、何の変化もなくただ素直に()()()()()なんて。

 

 コート中央で余裕を持って構えていた大喜にはチャンスボールだ。

 一発で抜けはしなかったが、粘る針生先輩を振り切る形でここの一点を何とか捥ぎ取り連続得点。五点差から三点差へと迫る。

 

「よしよし…。追いつけるよ、大喜…!」

 

「…?」

 

 大喜の連続得点に蝶野さんの応援の声に僅かに熱が籠る。

 それを感じながらふと、視界の奥、他の部活との練習スペースを区切るネットの向こうで大喜の試合を見つめる人を見つけた。

 

 その人はすぐに練習へと戻っていったが、大喜の試合を見ていた時のどこか心配げなその瞳がどうも印象に残ってしまう。

 

 ─────頑張れ。

 

 勝ってほしい。

 そんな事を考える自分にほんの少し驚きながら、コートを駆け回る大喜を見る。

 

 ─────お前が見てほしいだろう人も見てるぞ。

 

 決して大喜には届かないエールを、心から送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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