カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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焦りと苔

 サマヨールによる開戦の一撃が、モスク内で落雷のような轟音を響かせた。

 

 そうだよな。お前ならそう動くと信じていたよ。今はこっちよりもショゴス達の方が危険度は高いからな。

 

「不意打ちとは使徒にふさわしい所業――」

 

「敵対勢力を前に余裕を見せるのが悪い」

 

 ついでにソイツは俺達の仲間でもないぞ。

 

 来ると分かっていた分、ハンドサインを使って先んじて指示を出していたこちらが少しだけ早い。ショゴス・ロードに対して、大賀(ハスブレロ)達が先制で波導系や吸収系などの弱点属性中心の攻撃を叩き込み始めた。

 

 御神木様(テッシード)が【がんせきふうじ】。

 

 網代笠(キノココ)が【ギガドレイン】。

 

 大賀と夕立(シャワーズ)が【みずのはどう】。

 

 まず最初に大賀と夕立の放った渦巻いたリング状の水の塊(【みずのはどう】)が、15m程の距離を通って真っ直ぐにショゴス・ロードへ向かってゆく。ある程度の弾速はあれども、戦闘慣れしている相手なら余裕をもって迎撃できる弾速でしかない。

 

「この程度で!」

 

 すぐにショゴス・ロードは人の姿のまま身構えた。わかっていたが反応からして耐性持ち。ついでにブレのない自然な構えから、武術の経験があることを伺える。

 

 こいつ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そのまま薙ぎ払うことで迎撃するつもりなのだろう。――――だが、お前を思い通り自由に行動させるわけないじゃないか。

 

 次の瞬間、ショゴス・ロードの視界が横から現れたスライム状の壁によって覆われる。俺達の攻撃対象外となったショゴスが隣にいるショゴス・ロードを庇い、肉壁となるために粘体の身体を大きく膨張させた。

 

 粘体の身体を変化させる速度が外に居たショゴス達よりも速い。願いを託された精鋭というのは伊達ではないか。

 

 渦巻いたリング状の水の塊(【みずのはどう】)が直撃する直前に、少し遅れて御神木様が放った2m程の岩石群(【がんせきふうじ】)が、ショゴス・ロードの後方と上部を覆い隠し、視界を遮った。これでショゴス・ロードはほんの少しの間だけだが、周囲を確認できなくなる。

 

 彼からしてみれば、護衛として当たり前の行動をしただけ。後方に壁が作られることが予想外だと言える。それでも真正面の攻撃だけは耐えてみせると全身を硬化させた。

 

 護衛なら壁となるように動くよな。たとえ即死しない攻撃が来るとわかっていても、偉大な英雄に攻撃を通すわけにはいかない。ああ、わかるよ。大切な相手だもんな。役割以前に、心情的に傷つけられたくないのだろう? 麗しい自己犠牲精神というやつだ。

 

 彼らが心と理性をもって動いてくれるから助かった。本能だけで動く獣相手ではこうはいかない。単純な理詰めでどうにかできない部分がどうしても出てくる。予測がしやすい分、思考も回しやすい。

 

 ――――だからその慢心を利用させてもらうぞ。

 

 偉大な英雄の盾となる為にその場から動くことができない肉壁に対して、渦巻いたリング状の水の塊(【みずのはどう】)が2つ突き刺さる。ショゴスの絶叫と共に粘体の身体に衝撃が全身に伝播し、拒絶反応でスパイク現象のような突起を全身から生み出して硬直した。

 

 追撃で更に硬直時間を引き延ばす。サンドバッグとなったショゴスの身体から、立て続けに搾り取るように光の粒が引きずり出(【ギガドレイン】)され、網代笠へと強奪されてゆく。

 

 こうして一方的に攻撃し続けていても、このショゴスの体力を1割も削れていないのが恐ろしいところ。ついでに攻め手を緩めた途端に回復していくのだから、相手にするのならば一気に刈り取る必要がある。もっとも、それだけの瞬間火力は条件を整えなければならない訳だが。

 

 ともあれ、これで一時的にショゴス・ロードを檻に閉じ込めた。数秒は稼げるだろう。

 

「攻撃続行!」

 

 ほんの数秒程度だが、その数秒が重要なんだ。殺しきるまで時間がかかるのは最初から分かっているので、攻撃の手を緩める気は無い。相手が立て直す前に畳みかける。

 

 司令塔を行うに当たって避けなければならない状態、それは情報を遮断される事である。次状況を確認するにも、指示を出すにも情報が必要だ。だから最初にソコから切断する。

 

「スブブブブ!」

 

「キノコッコ!」

 

「シャワワワワッ!」

 

 大賀達が前へ出ながら波導系と吸収系の技を連続で叩き込んでゆく。続くように御神木様に指示を――

 

「クギュルルルルルル!」

 

 御神木様の身体からばら撒かれた苔が、モスク内に一気に浸食を始めた。

 

 外で生やした苔が内部で生えていなかったのはモスク側が原因だと漠然と思っていたのだが、もしかすると御神木様が意図的に生やしていなかったのかもしれない。

 

 ――でもそれにしたって、お前ここにきて攻撃よりも苔生やす方優先する?

 

 いやまぁ、御神木様は物理技がメインで、ショゴスに対してまともに通りそうなの【やどりぎのタネ】しかないけども。ついでに夕立を攻撃に回している今、代わりに回復リソースを担ってくれるのはありがたいけどさ。

 

 ただそれはそれとして、相手の回復リソースを潰す為に【やどりぎのタネ】は撃ち込んでくれ。

 

 奥の巨大な魔法陣を綺麗に避けて、白を基調としていたモスク内部を苔一色に塗り替えてゆく。20mはありそうな割れたステンドグラスや、崩れた幾何学模様の彫刻も苔に蹂躙されて最早見る影もない。

 

 やがて苔は周辺の環境だけでなく、大賀達から集中攻撃を受けているショゴスにまで襲い掛かり始めた。苔に寄生されたショゴスは、【やどりぎのタネ】を当てた時以上に拒絶反応が酷くなってゆく。光沢のあるスライム状の表面の一部は既に枯死したように硬化し始めている。

 

 街中のショゴスが教会から引いて行ったのはこの苔が原因だったらしい。

 

 相当な劇物を振り撒いているようだ。後の事を一切考えたくなくなってくるな。元々でさえアレだったのに、絶対にまともな環境とは言えなくなっているだろう。

 

 そんな御神木様を尻目に、ユウキ君側へ目を向けた。初手で片方のショゴスを潰したのだから、そのままの勢いでもう片方のショゴスも潰してくれないかなと淡い期待を寄せてみる。

 

 だがそこまで上手くは行かなかったらしい。こちらほどタイミングが合わせられなかったのか、攻撃に移ろうとしたヨノワールの胴体にショゴスの触手が突き刺さり、貫通させたまま壁に叩きつけているのが見えた。あれは致命傷だろう。

 

 ショゴスの攻撃に合わせて、サマヨールが踏み込んだ。赤黒い雷状の波動を全身に纏いながら接近戦を仕掛ける。

 

 一歩踏み込みながら放たれた右手の一撃に対し、その場で体表の至る所に新しく生み出された眼球をギョロギョロと動かしながら、ショゴスは直撃するであろう身体の部位に大きく穴を開ける事で避けた。

 

 紙一重で掠るのも嫌なのだろうな。器用な避け方しやがる。

 

 そして、何故サマヨールが無拍子での攻撃を行うようになったのかを理解した――――接近攻撃の場合、攻撃速度が遅いとあの数多くの目で攻撃を見切られて、その隙をショゴスに利用される。

 

 ただでさえ遠距離攻撃に耐性があるのに、接近戦にまで対応してくるとかもうちょっと油断してくれ。俺達に楽をさせろ。

 

 攻撃を避けたショゴスは、鋭く硬化した触手を自切し、サマヨールが体勢を戻す前に槍を作り出した。串刺しにするのだろう。

 

 サマヨールの赤い目が槍を認識した瞬間、【薄い橙色の半透明の壁(リフレクター)】を差し込んで左半身を覆った。そのまま突き出していた右手を真横に振りぬく。攻撃を行いながらも、体勢を変える事で【リフレクター】で防げる面積を広げて対応か。読みやすいが効率的な手だ。

 

 突如視界内に現れたはずの【リフレクター】に対し、予測できていたとばかりに繰り出し始めたばかりの槍が角度を変えて()()()()()する。直後、ガラスが砕け散る音と共に【リフレクター】が貫かれた。

 

 速度の乗った攻撃ならともかく、出し始めですら真正面から【リフレクター】を砕くか。

 

 多少は勢いが弱まった攻撃に対して、サマヨールが体勢を崩したまま残された左手で横に受け流そうとする。だが一瞬の均衡の後に力負けをした結果、左わき腹を抉る(えぐる)軌道で突き出され――――

 

「クギュルルルルル!」

 

 ――――あれは直撃すると判断した瞬間。神がかった反応速度で御神木様が【タネマシンガン エアバースト】を連続で放ち、槍を持つ触手を爆撃する事で外から攻撃に割り込んだ。

 

 今まで撃ってきた【タネマシンガン エアバースト】よりも弾速と威力が高いように見えるな。あの苔のせいだろうか。

 

 ショゴスは遠距離攻撃がダメージとして通り辛くとも、受けた衝撃の全てを即座に無効化はできない。それが出来るのなら波導系の技は今ほどダメージを与えられていないだろう。

 

 突き出された槍は軌道がズレてサマヨールの真横を貫く。身体を覆う包帯を少し掠めただけで切り抜けることに成功したようだ。

 

「ザ……マッ!」

 

 即座に触手槍に対して赤黒い雷を纏った手刀を振るい、切断しながらその場から飛び退く。

 

「テケリ、リ」

 

 ショゴスもこちらに対して多くの目玉を向けながらも、切断された槍を伝って赤黒い雷が手元に昇ってくる前に、切断された槍を投げ捨てて触手で新しい槍を作り出してゆく。

 

 御神木様に邪魔されたことが癪に障ったようだ。

 

 ヘイトコントロールが難しい。あんまりこちらにばかり引っ張ってもダメなんだよな。

 

 この戦闘は非対称戦。しかも、サマヨール達は別に味方という訳ではない。あくまで一時的に利害が近しいだけ。互いに出し抜く方法やタイミングを考えながら戦闘しているはずだ。

 

 全員が全員、自分以外の陣営が潰れる事を期待している三つ巴。どのタイミングで勝負を仕掛けてくるのか。判断材料を求めてユウキ君本人に軽く目をやる。

 

 貫かれかけたサマヨールを無視し、壁に叩きつけられた生死不明のヨノワールには目もくれずに、ユウキ君はネンドールを繰り出した。その場に浮かび上がったネンドールは、目を光らせながらユウキ君と共にゆっくりと後退してゆく。溜めが必要な技か? 援護もせずに? この状況で?

 

 ……いや、それにしては戦闘領域から離れすぎてないか? 居座っていたはずの魔法陣の上から離れるどころか、サマヨールへの援護すら期待できないほどに遠い。

 

 仮に溜めからの遠距離攻撃だとしても、離れれば離れるほど相手に反応されやすくなる。視認しづらいエスパータイプの技でもそれは変わらない。そして相手をしているショゴスは、そんな盲撃ち(めくらうち)ではまともにダメージすら入れられない相手だぞ。

 

 ――――サマヨールとユウキ君で連携が取れていないな、これ。どうしたものか。

 

 今回の鍵は俺達ではない。サマヨールだ。どうにもコイツ、他に目的を持って行動している節があるからな。あまり視界から消さない方がいいだろう。ユウキ君はその辺り分かっているのだろうか。

 

 ユウキ君の顔を盗み見る。その目は暗く澱んだ憎悪に満ちていた。こちらなんて眼中にない程に。生物的嫌悪感程度では、ああはならないだろう。攻撃的な表情に対して消極的な行動がまるで釣り合っていない。

 

 どこかで見た事のある目だ。いつかどこかで、俺自身に向けられた目。

 

 一瞬のフラッシュバックが脳裏を過る。燃え盛る病院の屋上。手が届きそうな程大きくて、滴る血のように真っ赤な満月。頭を引き千切られた院長。『()()()()()()()()()()()()()()。』『5()()()()()()()()()()()()()()()()()、憎いと喉が張り裂けんばかりに叫んだ先輩。』

 

 ――――ああ、そうだ。あれは復讐者の目だ。その身の何もかもを生贄に捧げてでも、目的を達成しようとする者の目だ。

 

 そしてそんな人間が憎悪する対象を相手に、態々引かなければならない理由なんて限られてくる。勝つための戦術的な行動ならば理解できるが、今はそれは当てはまらない。寧ろ自陣の勝率を悪化させていると言っていい。

 

 屈辱だろう。憎悪する相手を前にして、自分から自陣を不利にしていく。余程忠誠心が高くない限り、無視して特攻しても不思議ではない。それこそ()()レベルでの忠誠心が必要だ。

 

 裏を返せば、そうまでして下がる必要がある訳だ。下がる事のメリットは――逃走が比較的に容易になることか? つまり生存を優先している?

 

 ただでさえ通行の利便性が皆無な地下都市なんだ。崩落などを考えると、通常の出入り口以外に緊急時の避難方法ぐらい用意しているはず。たとえば手持ちに居たネンドールが【テレポート】を使えるとか。

 

 しかしそれならば戦闘など行わず、巻き込まれる前にさっさと逃げる事ができただろう。今だってそうだ。

 

 となると、逃げる条件が整っていなかったか。或いは時間がかかる作業を行っていた? ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ユウキ君が更に後方へと下がる準備をしてやがる。君が死ぬ気がないというのはいい事だが、もしかしなくてもこいつ等の相手を完全に俺達に任せる気か? 流石にサマヨールまで消えると手数がキツイんだが。

 

 とりあえずあっちはもう戦力にはならなさそうだな。

 

「邪魔だ!」

 

 肉壁の後方が爆ぜる。もう【がんせきふうじ】が破壊されたようだ。分ってはいたがやはり火力が凄まじいな。攻め手に回られたら一方的に蹂躙される。

 

 だが、()()()()()()()()? おちょくってくる俺達よりも、ユウキ君側の視界を得る事を優先した。やはりと言うべきか、ショゴス・ロードの優先順位は俺達よりもユウキ君が上。なるほど、道具説が濃厚か。

 

 この場合ショゴス側がもっとも犠牲を出さない方法は、後方の壁を破壊せずに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 その場合、大賀が攻撃役として普段より前に居るので、恐らくリカバリーは間に合わない。そのままショゴスが主導権を握って初手でこちらの陣形を崩壊させたら援護もしようが無くなる。いくらあのサマヨールがユウキ君側に居るとしても、ショゴス・ロード+ショゴスの質量攻撃で蹂躙できただろう。

 

 だがそれを行わなかった。

 

 こちらへの攻撃よりもユウキ君を優先したのは事実だろうが、それは有効な手を使わない理由としては弱すぎる。この一手を挟んでも手番はそこまで変わらないのだから。

 

 ――――このショゴス・ロード、【じばく】指示が出せないタイプだな?

 

 もっと言えば()()()()()()()()()()のだろう。さっきの演説からしてショゴス・ロードとしては、かつての扱いとは違うのだとイデオロギーを証明する為に、そういった指示が出せないのだ。たとえソレが有効な手段だと分かっていても。

 

 きっとショゴス・ロードがその指示を出せたら、ショゴス達はそのまま喜んで指示に従う。だが絶対にできないと分かっているのなら、それはこちらの手札と言ってもいい。

 

 若干ストレスを覚えるが、都合がいいのは事実。俺の心のささくれなど気にせずに、ぜひそのまま縛りプレイを続けてくれ。

 

「逃がすものか。()()()()()は返してもらうぞ!」

 

 気炎と共に大きく踏み込んだショゴス・ロードが、弾丸のようにユウキ君へと突っ込んでゆく。

 

 流石に移動の妨害は無理そうだな。向こうに頑張ってもらおう。ネンドールが【透明な壁(ひかりのかべ)】と【薄い橙色の半透明の壁(リフレクター)】を同時に張り、防衛陣を作っているのが見えた。

 

 同時にサンドバックになっていたショゴスだが、護衛対象が居なくなり、無理に壁役を維持する必要がなくなったことで動きを変わる。

 

「テケリ・リ」

 

 ここからが本番だ。

 

 ぶつんと何かが切断された音が響く。攻撃を受ける度にビクビクと痙攣していたショゴスの表面が、大賀達からの攻撃を弾き返すほどにガチガチに硬直した。ハメ固めていたのに復帰が早い。相変わらずの再生能力に辟易する。オートリジェネを許すな。

 

 攻撃を受けて駄目になった表面を切り捨てて、組成を変えながら肉体の表面を殻のようにしたようだ。他のショゴスが触手から槍を作り上げた時のように、中心部を守る鎧代わりに使うのか。外殻の全体に眼球が付いている辺り、巨大で不気味な胡桃のオブジェにも見える。きっと俺が集合体恐怖症ならば、このグロテスクな光景に眩暈を覚えていただろう。

 

 それだけなら衝撃が浸透するはずなのだが、その様子もない。更に殻を自切してから最小限の接続を維持することで、波導系の攻撃から身を守っているらしい。有効打が出せない間、ショゴスの体力は回復し続ける。

 

 現状、時間は基本的にユウキ君側の味方だ。逃走の準備が整い次第容赦なく逃げそうな雰囲気がある。次いでショゴス側。体力面で恩恵を受けやすい。

 

 悲しい事に一番恩恵を受けないのが俺達。

 

「一旦後退!」

 

 それでも一度引いて距離を取らせる。時間が惜しいのは確かだが、焦っても状況は改善されない。つまり試行錯誤の時間だ。

 

 とりあえずこちらからの攻撃を防ぐ外殻の破壊が必要だな。弱所を見つけるか、作り出すか。王道ならば目玉だが……どうだろう。鎧となった外殻に所せましと並んだ眼球群。そのどれもが蠢き、俺達に対して視線を向けてきている。

 

 その内の一つの目を貫いて、先端の鋭く尖った触手が出現し、最も近場に居た御神木様を無視して網代笠を貫きにかかった。

 

「【バトンタッチ】!」

 

「シャワ!」

 

 次の瞬間、網代笠の立っていた場所に夕立が立っていた。また直撃する瞬間、夕立と御神木様が入れ替わる。

 

「クギュル!」

 

 交通事故じみた衝突音が響き、貫こうとした触手が真上に受け流される。追撃で触手に対して夕立が【みずのはどう】を叩き込むと、すぐに触手は殻の中に引っ込んで穴を塞ぐように眼球が復活した。これは殻にデカい一撃でも与えないと厳しいな。

 

 【かわらわり】で割れないか? だがショゴス相手に接近戦はミスった時のリカバリーが効きづらいからなるべくは避けたい所だ。

 

 受け流した御神木様も無事ではなく、攻撃を受けた場所が拉げて痛々しい亀裂が走り、棘は砕け散っている。だがすぐに苔から光が流れ込み始めて、映像を逆再生したかのように傷が修復されていく。今までも正式なポケモンバトルでは絶対に使えない技術を総動員させた戦闘になっていたが、これはとびきりだろう。

 

 どこでそんな技術を学びやがった。そんなことまでのを教えた記憶がないぞ。

 

 やがて完全に元通りになった御神木様がやってくれたなとばかりに、【タネマシンガン 弾幕】を叩き込んでゆく。小手調べの意味合いも強いのだろう。直撃部位では跳弾してカンカンとけたたましい音が響き渡るものの、全体的に効いている様子はない。眼球に当てたモノも衝撃を受け止められてその場に落下している。

 

 少なくともこちらに見せている外殻には脆い弱所はなさそうだな。ただでさえショゴスは弾丸には耐性があるのだ。やはり()()()()()()()()【タネマシンガン】の系列はダメージ源にはなりそうにない。

 

 そのまま攻撃を続けていると、次第に【タネマシンガン 弾幕】の跳弾時の音がガンガンと重たく鳴り始めた。

 

 ぶっつけ本番で弾丸の組成を変えているらしい。苔を出してからどうにも御神木様の思考パターンが変化しているな。ここまで挑戦的ではなかったぞ。本当に大丈夫か?

 

 ショゴスによる触手強襲、御神木様とのバトンタッチ、苔による急速回復。【タネマシンガン 弾幕】での反撃。これらを2サイクル回した辺りで御神木様が動きを変えた。

 

 一見すれば無意味な行動の繰り返しだが――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 同時に網代笠を始め、全員が殻に籠って隙を伺っているショゴスに対して一斉攻撃を繰り出し始める。水やら種やら光やらが飛び交う中、不意に御神木様が放った弾丸がパコンと小気味の良い音を立ててショゴスの外殻を貫いた。

 

 そして空いた穴の回りに苔が生えたのが見えた。殻の内部を苔で浸食し始めたらしい。苔にエネルギーを吸い取られた影響で枯死した外殻が一気に脆くなったようだ。

 

 直後、今まで張られ続けていた弾幕の威力が変化して凄まじい勢いで外殻を破壊し始める。空いた穴に大賀達の攻撃が集中し、想定外のダメージを受けたショゴスはその場から後退した。

 

 追撃の中で再度外殻を纏ったショゴスだが、今度は装甲が抜けずに攻撃が弾かれてしまう。装甲を更に厚くしたようだ。その目は怒りに狂っていた。

 

 眼球だらけの外殻が泡立ち、弾けた泡から空気が解放されて蜃気楼のように周囲の景色を揺らす。なんだ? ガス?

 

 ほとんどの目は動かずにあらぬ方向に向いたままだが、僅かながらの生きている視線は御神木様に集中している。狙いは御神木様か。

 

 よほどこの苔が忌まわしいらしい。この手の駆け引きが未熟な分、もう少しの間は先手は取れそうだ。出来れば気づかれないうちに潰しておきたいのだが。あと少し火力が足りない。

 

 弾けた泡の付近にあった苔から煙が昇る。温度の上昇……発火!

 

 次の瞬間、ショゴスの全身が火柱と共に盛大に炎上し始めた。炎に巻き込まれた周辺の苔が燻っている。炎ポケモンのタイプ一致技と同程度だろうか。相当な熱量だ。

 

 大賀と夕立が【ねっとう】を叩き込んでいるが一向に鎮火する気配がない。垂れてきた液体も炎上し続けている辺り、ガソリンに近い物を内側で生成して表面に湧かせているのか。

 

 とはいえ、だ。今まで何度炎タイプのポケモンと戦ってきたと思っている。完全に消火しきれなくとも、勢いを殺せればそれだけでも十分だ。

 

「大賀は【みずあそび】、夕立は【あまごい】!」

 

「スブッ!」

 

「シャワワ」

 

 室内で急激に雨雲が発生し、雨が戦闘領域全体を濡らしてゆく。同時に大賀が水を撒き散らして、周囲を浸水させた。

 

 炎上する外殻を内側から突き破ってにゅるりと1本の太い触手が生え、ショゴスの身体を持ち上げて支えた。前へと出ながら大きく振りかぶってゆく。

 

「TEKERI-RI」

 

 槌を振りかぶったのだから、そのまま叩きつけるよな。質量差からして、直撃なんてしたら一撃で致命になるだろう。

 

 ――――だがそれは()()()()()()()()、だ。

 

「御神木様、【こうそくスピン】」

 

「クギュルルルルルルルルル!」

 

 大質量の物体が赤い軌跡を描きながら最短距離を駆け抜ける。空気を切り裂く轟音。身に纏う炎は視界を大きく遮るだけでなく、空気を歪ませて距離感を狂わせる。

 

 対抗するのは水を巻き込みながら高速回転する小さな物体。質量差は数十倍どころか数百倍はある。まともに直撃したら潰れて死ぬ。受けるのをしくじっても死ぬ。

 

 大質量が叩きつけられる前に、高速回転する御神木様が先んじて自分から突撃した。芯から外れた位置で掠り、受け流すように横に弾ける。それでも金属が擦れる甲高い音を響かせて、御神木様が勢いよく吹き飛んだ。

 

「クギュルルルルルルルル!」

 

 弾け飛んだ勢いでピンボールのように()()()()()()()()()()()()()()、高速で移動しながら苔からエネルギーを補充してゆく。どうにも苔で覆った場所に居る間は相当なバフが掛かり、御神木様の空間認識能力を含めた諸々が上がっているらしい。通常時であの反応は無理だ。

 

 そして吸収した緑色のエネルギーを全身に纏いながら、そのままショゴスへ向かって突撃するという予想外の行動に出た。

 

 大量のエネルギーが流れ込んできているせいで暴走していないかコイツ。

 

 今まで意識的に行ってこなかった行動。感じられなかったモノを感じる事ができるほど軒並み上がった能力。想像以上の溢れ出る力。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ――――それは、思いついた事が至極当然の如く即座に行えるという、ある種の全能感に近いのかもしれない。

 

「キノコッコ!」

 

 嫌な予感が思考を駆け巡る。こちらから退避の指示を出す前に、()()()()()()()()()()()()退()()()()()()()()

 

「クギュルゥ!」

 

 身に纏っていたエネルギーを急激に圧縮しながら突っ込む御神木様。直後、無理やり圧縮されていたエネルギーが全方向に解放され、御神木様を中心にした半径25m程を消し飛ばす勢いで【強烈な緑色の閃光と衝撃波】が発生した。

 

 網膜を焼き尽くさん限りの強烈な閃光が部屋一面を覆い、ある程度離れていたはずの俺の全身を衝撃波が通り抜けて行く。脳が揺れる。耳が痛い。鼓膜は破れていないようだが、一時的に麻痺している。

 

 先程以上の轟音と共に建造物の一部が塵と消えた。上部に溜まっていた雨雲が吹き飛び、消費した緑色のエネルギーの一部が粉雪のように降り注ぐ。中心地にいた御神木様は【その場で浮かび上がり】そそくさとこちら側に下がりながら、くり抜いた地面に再度苔をまぶしている。

 

 コイツ、当たり前のように浮遊してやがる。【でんじふゆう】か?

 

 予想外の直撃を受けたショゴスは爆圧で炎が消し飛び、ひび割れた外殻の隙間からどろりと血のように溢れ出てきた。衝撃波が内部にまで及んだ結果、全身をシェイクされたらしい。最早リジェネでも回復できない程に組織が崩壊してしまっている。見るからに致命傷だ。

 

 おまけに奥でサマヨールと戦っていた方のショゴスにも掠ったようで、全身の3割が吹き飛んでいる。掠ってその威力かよ。

 

 退避が遅れていたら大惨事だったぞ、おい。何をやった? そもそもそんな技あったか? 【だいばくはつ】に近しいが御神木様はピンピンしている上に、属性は恐らく草タイプ。

 

 【()()()()()()】だろうか。だがあれは()()()()()()()()のはず。

 

 波導の性質も混ざっていたのか、ショゴスにも大ダメージが入ったらしい。

 

 今まで溜めてきたエネルギーを解放したのもあって、先程よりも若干スリムになった御神木様。お前想定通りですって顔しているけども挙動が若干おかしいのバレてるからな?

 

 ほんの少しの静寂。どの陣営も現状を認識するために若干停滞する戦場。

 

 想定外だが1匹倒したので多少余裕ができた。だが、相手がこれを認識する間に行動を起こさないと、脅威度的に御神木様が袋叩きにされかねない。

 

 先手を譲った瞬間に我々は負ける。だから主導権にしがみつかなければならない。横に居る夕立にハンドサインを見せながら声でも指示を出す。

 

「夕立、もう一度【あまごい】」

 

 直ぐにまた上空に雨雲が発生する。耳は聞こえているようだが、若干聞きづらそうにしているな。乗じて大賀も再度【みずあそび】で周辺に水をぶちまける。

 

 ショゴスにさっさと止めを――――

 

「クギュッ!」

 

 追加の指示を出そうとした瞬間、サマヨールと戦闘をしていたショゴスが槍を俺に投擲してきた。

 

 ボンッ! と空中で何かを爆発させて、その勢いで俺と槍の間に割って入った御神木様が、【こうそくスピン】で槍を弾く。

 

「テ、テケリ・りりりぃ……」

 

 最早何もできない瀕死だと思っていたショゴスが破裂した。スライム状の肉片が辺りに散らばり、避けようのない一部が糸を引きながら辺り一面に降りかかる。唯一、網代笠だけが柱を盾にして回避に成功した。

 

 やはり瀕死なようで、俺にへばりついたショゴスの肉片はすぐに灰となってその場に落ちた。

 

 直後、こちらの隙を突いたショゴスが命と引き換えに強烈な電撃を炸裂させた。電撃がバリバリと危険な音を響かせながら糸を伝い、水によって拡散されてその場にいる網代笠以外が感電する。足元の水にも電撃が伝播したが、防電ブーツを履いていた網代笠は被害を免れたようだ。

 

 拙い。状況が一変した。

 

 何かに気が付いた網代笠が、床の電撃を無視してこちらに向かって走り始める。

 

 電撃で身体が動かない。夕立の【バトンタッチ】も無理。大賀、御神木様のカットもできない。相手の意地が、こちらの陣形をズタズタに切り裂いた。

 

 スローになった視界の奥に見えるのは、血の海に沈みながらもネンドールの【テレポート】で逃走したユウキ君。こちらに槍を投げた隙を突いて、もう1匹のショゴスを倒したがボロボロになったサマヨール。

 

 そして目的のモノを回収したものの、仲間が殺された事に怒りを滲ませているショゴス・ロード(解放の英雄)。その右手には儀式に使われていたであろう小型の砂時計のようなオブジェクトがある。

 

 本来砂が溜まるガラス容器の下層には【萌葱色(もえぎいろ)の珠】がはめ込まれており、上層は何かの液体で満たされていた。ガラス容器を支える板と6本の支柱はショゴスの死骸が使われているようで、無理やり加工したのか今までのような古のもの独特の洗礼されたデザインとはとても言い難い歪な形状をしている。

 

 左手には簡素な古びた杖。ただの雑な木彫りの杖のように見えるが、本能的にこちらの方が脅威であるように感じた。

 

 焦りが心を支配する。

 

 杖の先をこちらへと向けるショゴス・ロード。光が収束し、杖の表面に魔術回路が展開される。

 

「感傷だが、別の形で出会いたかった」

 

 そう言いながら放たれた光は、真横から飛び出して俺を蹴り飛ばした網代笠を貫いた。

 

 




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