偽りだらけの義兄妹生活   作:高町廻ル

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再婚はなんかヤダ

 今日から夏休みが終わって一ヶ月近く無人だった教室にも久しぶりの活気が戻っていた。

 夏休み前と変わらない人もいれば、すっかりイメチェンを果たした人、高校受験を控えて一切の遊びや友人関係を断っていたため同級生のアップデートが間に合わない人など様々な人種がこの場に集まっている。

 机の上で既に憂鬱そうな表情になっている紅陽に対して声をかけたのは彼の友人である三島優人だ。

 

「よう紅陽久しぶりだな…ってどうしたん?」

「ああ、一週間ぶりくらいか」

「ほんとどうした?元気なさそうだけど…登校鬱には早すぎないか?」

 

 優人は夏休み明けに自殺する人が多いというそれを心配する。

 だが本気で死にたくなるほど学校が嫌いなわけでも、夏休みという長期休暇環境にどっぷりつかっていたわけでは無い事くらいは知っているため半分冗談なのだが。

 

「ん、まぁ…色々となぁ…」

「ははぁ…ん…」

「なんだよ」

「夏と言えば出会い…恋かな?」

「はぁ…?…夏と言えばって……」

 

 別に夏は恋愛に積極的になる季節ではないだろと紅陽は思ったのだが、ふと脳裏に浮かんだのは古都をナンパしていた三人組だった。

 夏である事がイコール関係にあるのかは不明だが、夏だからで髪の毛を染めたり大胆に行動をするようになるものなのだろうか。それを言ってしまったら女装にハマっている彼も中々に大胆なものなのだが。

 

「遠からず近からずか?」

「マジで?」

 

 からかったつもりが相手の表情に真剣みが帯びた事に驚く。

 元々問題がこじれた原因の元をたどればあの時ナンパ現場に飛び込んだことにある。ただ最も紅陽の気分が重いのはそれ以外の部分に多くの比重があるのだが。

 

「心配してるのは本当だぜ?そんなしんどそうな顔されちゃあこっちも調子狂うっての、出来るなら話してみ?溜め込むよりは吐き出した方がいいかもよ?」

「優人……」

「ところで他人が苦しんでるのを見ると飯がうまいな?」

「優人てめっ!」

 

 仲良し特有のそんな冗談を大声で言い合っているとそれを遠巻きから見ていたクラスメイト達も群がってくる。

 

「基山何かあったの?」「えー!そらくんなんかあったのー?」「てか基山くんに彼女ってマジ!」「あの女に無関心の賢者基山がマジかよっ」

 

 クラス内でそこそこ話す同級生たちがイジるネタを求めて二人の元へと群がってきた。

 

 

 四人掛けのテーブル、そこに一同は揃っていた。目の前には美味しそうな料理がずらりと並んでいる。

 

「改めまして、いただきます」

『いただきます』

 

 吉志家と基山家の顔見せ兼食事会が始まる。

 最初はお互いにこのお肉が美味しいとか、味付けがどうとか当たり障りのない会話を行っていたのだが徐々に子供たちが口を挟まずに淡々と食事を摂り始めたので会話の中心が顔見知り同士に集中する。

 

「…それで…でしたよ…それで…」「…私も…今日は…ですよ…」

 

 自分たちの娘と息子そっちのけで洛と杏の二人は最近あった事など当たり障りのない世間話に花を咲かせている。

 だが問題の子供たちはこの場所に違う意味で居づらかった。

 

(不味い不味いマズイッ!もし白夜の正体がバレたら本当に不味いって!)

(ど、どうすれば…男に話しかけるって…どうすればいいのっ…!)

 

 何が何でも自分から意識を逸らしたい紅陽、何が何でも相手に話しかけたい古都、そんな二人だった。

 

(こんなところで退いてちゃ白夜さんに笑われちゃう!)

 

 古都はこの日の為にあんなに恥をかいてまで努力をしたのを思い出すと、勇気を振り絞って相手の顔を見て話しかけようとする。

 

「あ、あの…基山さん…」

「…………」

 

 だが話しかけられた相手は突然の事で驚いたのか少しだけ肩を震わせて一瞬目を合わせる。

 

(あれ…?)

 

 すると何故か不思議と相手の顔を見てもそこまで恐怖心が湧きたたない事に気が付いた。何も感じないという話ではない、確かに僅かばかりの怖さのようなものはあるのだが硬直して何も出来なくなるほどではなかった。

 彼女はハッキリと相手の顔を直視していた。

 

(もしかして…白夜さんのおかげ…?)

 

 ある意味正解である意味不正解なのだ。

 何故なら目の前にいる男こそが白夜本人なのだから。ただそんな事など知りようもない古都は自分自身が成長しているのかもしれないと少し違った解釈をしてしまう。

 そしてもう一つ、直前に白夜から貰ったメールの影響も大きい。

 

 

『ん?』

 

 父親に車で例の食事会に連れて行ってもらっている車内で彼女は自分のスマホの着信が鳴って反応してしまう。

 

『どうした古都?』

『ちょっとメールが…』

 

 娘が何やら気になる声を漏らしたのをみて、視線を前方に固定したまま問いかける。

 古都はスマホを取って画面を見るとそこには一週間ほど前に貰ったアドレスからメールが来たのを確認する。

 彼女はアドレス自体を交換したは良いもののどう話を切り出せばいいのかが分からずに半場放置状態にしてしまったのだ。そうしているうちに相手から切り出されてしまうという中々に情けない現状なのだ。

 

『これから会いたくないけど、どうしても会わなきゃいけない人達がいるんだけどどうしたらいいと思う?』

『ん、ん?』

 

 一番最初に送られたメールはいきなりすぎる内容だった。

 いきなりどこか重い雰囲気をまとった、どこか切羽詰まったような感じだった。

 

(なんかこう…最初の挨拶って…もっと畏まった感じじゃないの?)

 

 相手からのメールを受けて何が何やらだ。

 もし仮に自分からメールを送るとしたら「ご無沙汰しております。先日は、ありがとうございます」のような畏まった内容から入っていたかもしれない。

 

(会いたくない人…か…)

 

 相手の相談内容を把握してふと自分にダブる部分があるなと最初に思った。決してこれから会う相手に嫌悪感を持ってはいけない事は分かっている、けれど彼女の中にある恐怖心をすべて消し切れるわけでは無い。今こうして向かう車の中でも意識しなければ震えてしまいそうだ。

 だからきっと自分と同じで白夜もまた恐怖や弱きに呑み込まれそうになりながらも必死に立ち上がろうとしている。

 そうであるなら吉志古都に出来るのは力強く、そして確かな力で相手の背中を押す事だけなのだ。

 そう思い至ると自然とメール本文を打つ手がスラスラとスワイプしていく。

 

『…えっ…なに…これは…』

 

 十分後に打ち終わってみるとそこには中々そこには臭くて男らしい文章が仕上がっていた。

 

『うっ…うううぅ…』

 

 後はそれを白夜に送るだけなのだが一向に指が送信ボタンをタップしてはくれない。

 別に既読等が付くわけでは無いため一旦落ち着いてからもう一度本文内容を考え直しても問題はない。

 だが同時に相手の質問が急を要する場合、罪悪感が酷い事になるだろう。そもそも白夜は相談されたその日に真剣に相談に乗ってくれたというのに自分がそうしないのは何か悪い事をしているかのようだった。。

 

(女は度胸っ!)

 

 そう考えて臭いメールを送った。

 

 

(私ってすっごい成長してる?)

 

 自分から見ず知らずの男に話しかけるという快挙を達成して少しだけ誇らしい気持ちになる。もっとも話しかけたのかは中々微妙はラインだが。

 

「…あーいやごめんなさい…吉志さん…可愛いからちょっと緊張しちゃって…」

 

 紅陽はこの場で相手と呼び掛けに対し、ここで無視は不味いと思い適当に思いついた言葉を口にする。

 

「あ、え?…はっ!?」

 

 自分から話しかけておきながらいざ反応があるとそれはそれで驚いてしまう。そして何よりも彼女を乱したのは自分の事をかわいいと相手が言った事だ。

 これまで親戚や同姓の友人に言われたことはあるが、異性からとなると言われた回数は数えるほどになる。

 実際に古都はぷっくりとした卵型の輪郭でありながら小さな顔に、パッチリとした二重と穏やかな目元、そしてスッとした鼻梁。幼さ特有の可愛らしさを残しながらも、大人になっていく過程にある美人の香りも十分に感じる容姿だった。

 

「あら紅陽ったら古都ちゃんを口説いちゃって!」

「うっさい…」

 

 すっかり機嫌がよくなっている母親の杏は自分の息子に生温かい視線を送りながらも背中をバンバンと叩いている。

 弄られているのを感じて母親に対してキッと人睨みしてから、自分の手を軽く振って相手を振り払う。

 別に口説こうとしたわけでは無かった。ただ自分の正体を悟られない事だけに意識のリソースを多く割いていたためうっかり無意識化で思っていた事が口から洩れてしまっただけだった。

 

「あはは、良かったな古都」

「え、えぇ~…うーん…」

 

 何やら二人を良い雰囲気にでもしようとしているのか洛もまた自分の娘を少しだけ弄っていたが、それに対して彼女はまだ混乱冷めやらないため曖昧な返事をしてしまう。

 小さな子供ではないためさすがにその煽りには困惑しか返すことしか出来ない。

 

「でもまだまだ二人とも固いわね。この場に吉志さんは二人いるし、基山も二人いるわ。これじゃあ区別つかないな~」

 

 杏は一気に距離を詰めようとしているのか名前呼びを遠回しに要求して来る。

 

「ついてるだろ…いっ…」

 

 紅陽は小さな声で愚痴るのだが、それを口にした途端相手が軽く彼の横腹を突っついて来る。

 

「だーかーらー堅苦しい名字呼びはやめましょうか!ねぇ洛さん?」

「そ、そうですね、杏さん」

 

 杏は相手の洛に有無は言わせないといった圧を感じる口調で言った。

 

(アグレッシブでぐいぐい来る人…)

 

 一方で息子を抑えて自分の父から展開の主導権を強引に握ったのを見て、前に父から教えてもらった人物像と符号するのを見て頷く古都。

 同時に四十半ばであのテンションは中々しんどいなとも思ったが…

 そうしているとまだこの場で振られていない彼女にも相手はロックオンしてくる。

 

「じゃあ古都ちゃん!」

「は、はい!基山さん」

 

 だがその返事に満足するはずもない。

 

「私の名前は基山杏だよ?」

「あ、杏さん」

「そうそう」

 

 やっと下の名前で呼んでもらえて満足そうにする。

 何だかんだで食事会の雰囲気もいい感じになっているため、洛は自分からデリケートな部分に踏み込んでいく。

 

「そろそろ場も温まってきたところだし、二人とも何か聞きたい事は無いかな?」

 

 その声には僅かに緊張感ともいえるものが混じっていた。

 それは遠回しに再婚について子供目線でどう思っているのか、本心では家族になるのが嫌ではないのか、それは知りたくない聞きたくなくても避けては通れないものだろう。

 そして杏からもたらされた事前情報によって知っている、基山紅陽という少年は再婚に対して自分の娘とは違ってそこまで好意的に受け止めてなどいない。

 この質問はお互いにずれている認識や温度差を埋めるためだけでなく、そもそも実質的には紅陽は今回の件をどう思っているのかを遠回しに聞こうとしているのだ。

 

(そういう事か…)

 

 紅陽は相手の意図する事のおおよそを推し量った。要は相手は自分自身を安心させるための、確固たる言質が欲しいのだと。

 だから彼は悩んだ、自分自身の本心を素直に口にするのか周りに流された方が楽なのか。

 そして悩んだ末に口から言葉を漏らす。

 

「…………もし俺が再婚を…洛さんの事を断固拒否したらどうします?」

 

 

「はー…なるほどな…再婚相手とその連れ子ね…」

「まあな」

「しかもお前の女装姿で前もって知り合ってしまい気まずいと」

「まぁ…な…」

 

 学校の体育館裏で優人と紅陽はこそこそと話をしていた。

 先ほどクラスメイト達が下世話にも色々と聞こうとしてきたのだが、さすがに不特定多数を前に口にしていい事ではないためそれとなく誤魔化したのだ。

 当然その内容は再婚話とその連れ子の問題だった。

 

「てか親の再婚で悩んでたんならもっと早く相談しろよなー」

「それは…まぁすまん…」

 

 目の前の相手に相談する手もあるにはあったのだが、あまりにも自分の中に落とし込まなくてはいけない情報が多すぎてそこまで当時は考えが回らなかったのだ。

 そして優人は一通り相手の話を聞き終えてから何やら考え込んでいる。そして意を決して口に開く。

 

「質問良いか?」

「何だよ」

「そのお相手は可愛いのか?」

「君ふざけてる?」

 

 紅陽はちょっとキレかける。さんざん考えこんで出てきたのがそれかと。

 そんな彼のツッコミ姿を見て優人はカラカラと楽しそうに笑う。本気で古都の容姿が気になったというよりは悩み過ぎて深刻になり過ぎている相手を明るくしようとしたといった感じだった。

 その意図に気が付くと紅陽は何やら嫌そうな顔をする。そんな相手のリアクションを見て何やらふに堕ちなさそうにする。

 

「何だよその表情は……」

「いやね…何というか突然の良い奴アピール困るって」

「なんだそりゃ、俺なんて誰もが認めるいいやつだろ、こんな女装趣味でめんどくさいやつの相談に快く乗っかてるんだぞ」

「全くその通りで反論の余地無しなんだけど…」

 

 そんな親密な会話を行っていると、再婚の事も古都の事も大した事ではないように思えてしまう。実際はこうしている間も現在進行形で時間は進んでおり、何も解決などしていないのだがそれでも少しの間だけはそんな悩みから解放された。

 

「まあ取りあえずこれからの方針を決めようか」

「方針?」

「方針というか選択肢だな、てかお前も気が付いてるだろ?」

 

 そこで優人は人差し指と中指を立てて口を開く。

 

「女装の事をすべて明かすか、全てを黙って古都さんに対して白夜のまま接し続けるか」

 

 その言葉を聞いて紅陽はゴクリと喉を鳴らした。

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