偽りだらけの義兄妹生活   作:高町廻ル

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哀しい男の哀れな話

「始業式なのに午後から授業とかねー」

「ねー」

 

 親友である美弥の愚痴に同意を示す古都。

 彼女は歩いておすすめの喫茶店へと友人を連れてきていた。店の場所は学校を挟んで古都の住んでいる家とは真反対にあるのだ。

 

「ほーここが例の喫茶店ね」

「うん、外装オシャレでしょ?」

「せっかく家から反対方向なんだから相応の美味しいケーキとか出るんでしょうね?」

「それは大丈夫だよ。今思えばケーキも美味しかったようなそうだったような…」

「ええ~…何でそんなに曖昧なのー?」

 

 美弥は呆れてしまうがそれも無理のない話なのかもしれない。

初めてこの店に来た時の古都は女性とはいえ初対面の相手に自分の悩みを暴露したうえで一緒にお茶をするという、彼女の現状の人間レベルでは困難なミッションを立て続けに行ってしまったため緊張のせいでケーキの味を覚え続けるのは困難だった。

 

「お、美味しいはずだよ…だって白夜さんおかわりしてたし…」

「また白夜…」

 

 今日一日だけで何度も出てくる人の名前に若干だが嫉妬によって美弥は頬を膨らませる。その姿はとっても可愛らしい。

 

「と、とりあえずお店に入ろうよ」

 

 相手があからさまに不機嫌を極めたため慌てて相手の手を取って店内へと入っていく。店内は木張りの天井に壁、そしてシーリングファンに長細い名前が謎な観葉植物。

 

「こーいう店って漫画とかでしか見た事無かったけどすっごいオシャレな感じ」

「でしょでしょ?雰囲気いいよね」

 

 漫画の世界が飛び出した気分になりちょっと興奮している感じの美弥とそんな様子をみて楽しくなる古都。

 彼女は店が褒められた事で、それを教えてくれた白夜も褒められたように感じて嬉しくなる。

 

「……?」

 

 そこで突然古都は周りをきょろきょろと見回す。そんな挙動不審な行動を見て美弥は問いかける。

 

「どしたん?」

「ん、何か変な感じが…気のせいかな…」

 

 心配させていけないと思った彼女は何でもないと相手に返す。実際は古都に熱い視線を送る人物が一名いたのだがまさかこの場にいるとは思ってもいない。

 

「二名様でよろしいでしょうか」

「あっ…その…二人でお願いします」

「カウンター席とボックス席どちらになさいますか?」

「その…ボックスの方でお願いします……」

 

 古都は突然男性店員に話しかけられて怯んでしまうが、何とか相手の顔を見ながらガチガチに固まりながらも無難な返しをする事に成功する。

 相手男性は彼女らを奥の空いている席にへと連れていく。

 そんなやり取りを見て体をわなわなと震わせる散華。

 

「…まさか…あの古都が店員さんとはいえ…自分から男に話しかけた…だと…!?」

「そんなに驚かなくていいでしょ!?」

 

 ここが静かな雰囲気をウリの一つにしているのも忘れて二人は大声で掛け合いを始めてしまう。周りは若干奇怪な視線を送るがそんな事に二人は気が付かない。

 

「ではごゆっくりどうぞ」

「はーい」

 

 店員からかけられた言葉に美弥は笑顔で返す。

 そして二人は席に座ると一息つく。熱い外から解放されてゆっくりと座れる冷房の効いた室内でやっと体の硬直を解いた。

 

「さーて…それじゃあいきましょうか」

「うん、それじゃあ…」

「取りあえずメニューを……」

「あ、あら?いやいいんだけどね…」

 

 朝の続きかと思いきや既にお店のケーキをロックオンしている事に肩透かしを食らってしまう。とはいえここに来た目的の一つが目の前の友人とお茶を楽しむことであるため別に嫌な気持ちにはならない。

 美弥はメニュー表を見ながら「これいいな」「こっちも捨てがたいな」などどぶつぶつと呟きながらも楽しそうにメニュー欄を物色している。

 

「おすすめは?」

「チーズケーキ?」

「何故に疑問形?」

「味を覚えてないんだってば…」

「覚えてないって…じゃあパンケーキでいいや…」

「そこはせめてケーキ系を選ぶんじゃないの…?」

 

 自分に最初から意見が求められてなどいなかった事に気が付いて少しだけ不貞腐れてしまう。

 

「すみませーん、注文いいですかー?」

 

 だが美弥はそんな相手の事などお構いなしにさっさと注文を取ってもらうために店員を呼んでしまう。

 

「ご注文をお願いします」

「私は…ケーキセットでチーズケーキにコーヒーのミルク多めでお願いします」

「はい」

「じゃあこっちはパンケーキにカフェラテで」

「はい、ではケーキセットのチーズケーキとコーヒーの一点にカフェラテにパンケーキでよろしいですね」

『はい』

 

 店員は注文を受けて厨房の方へと向かって行く。

 するとそれを終えた美弥は対面していた親友の顔をじろじろと見る。その物珍しそうな興味深げな視線を受けて何だか恥ずかしくなる。

 

「なによ」

「ほー…ほんとに古都って前より成長したなぁ…前は私に注文させてたのに自分から積極的に注文をしに行くなんて」

「私だって日々成長してるんです」

 

 相手のその言葉を誉め言葉として受け取った古都は少しだけ胸を張って嬉しそうにする。実のところ褒めている半分とあきれている半分なのだがそのことに彼女は気が付いていない。

 

 二人は注文した食べ物が来るまでの間、夏休みの間にあったお互いに知らない出来事を話し始める。

 夏休み中に行った場所、食べたもの、学校には無い新しい出会いなどそれぞれに起こった出来事を話し始める。ただし古都の再婚話だけは何も言わなくても自然と避けていたが。

 

「へーおいしそ~」

 

 綺麗なきつね色に焼けたパンケーキ、その上にシロップとホイップクリームが溶けながら乗っかって食欲をそそって来る。

 

「おいし」

 

 古都は自分の前に出て来たチーズケーキをフォークで切って一口。彼女は自分の口の中に広がる酸味に頬を緩ませる、酸っぱいけども舌に残る甘さがとても楽しい。

 そしてフォークを置いてコーヒーを口にする。ミルクを多めに頼んだためか色は灰色に限りなく近くなったコーヒーカップに入ったそれのふちに彼女は自分の唇を付ける。

 

「にが…」

 

 元々苦いもの自体は苦手なためコーヒーは好きでは無いのだが、喫茶店の雰囲気にのまれてうっかり頼んでしまうそれの味を舌で堪能してストレートに感想を言う。

 美弥はそんな親友が喜と哀を連続して行う姿に呆れながらも話しかける。

 

「さっきも思ったけど、頼まなきゃいいのに…なんだよ~みゃーさんの好感度アップだぞ」

「い、いいもん…これでちょっとは大人な女性の経験値ゲットだもん」

 

 古都は相手からの意見にそう反論した。

だがコーヒーがイコールで大人な飲み物であるという発想が子供っぽいのだがそんな事には彼女は気が付かない。

 

「大人な女性ってあれか、例の白夜さんの事?」

「そうだけど」

「ふぅ~ん……」

「み、みゃーちゃん…?」

 

 自分の質問に予想通りの答えが返ってきた事で何やら面白くなさそうな美弥。

 一方で何やら妙な圧を受けてしまい戦々恐々としてしまう古都。今日一日、彼女が白夜の事を口にするたびに何故か目の前の親友は機嫌を損ねてしまうのだ。

 

「やたらその白夜って人信頼してるよねー」

「それは…そうだけど…だって何だかんだで優しく接してくれたし…」

「優しい…ねぇ…」

「な、なによ」

 

 白夜の事を高く評価している古都が気に入らないのか、なにかと棘のある美弥の言い方にどこか鼻についてしまう。

 

「いやさー、私はその白夜って人にあった事無いから知らないけど、私だったら自分のメアドも教えてくれない相手って知ったら中々信じられないかな~」

 

 美弥は少しだが鼻につく言い方と本当に薄っすらとした微笑みでそう言う。その言い方をした事にどんな裏があるのか、その事は本人にしか分からない。

 

「白夜さんを悪く言わないでよ。たしかに怪しい所もあるけど間違いなく誠実な人だもん。たしかにみゃーちゃん以外の人に男性恐怖症の事を漏らしたのはうかつだったと思ってるけど…」

 

 古都は少しだけ目元に怒りを滲ませ、そして少しだけ悔恨が漏れながらも言う。

 確かに相手に何か隠している事があるのは間違いのない事実だ。だがそれを言うなら古都だって周りにいる多くの人に自分は大丈夫だと嘘をついている。

 何もかもをつまびらかに、そしておおっぴらにしなければ人と人の関りに意味が無くなってしまうと断じられてしまうのは悲しい事、彼女はそう思ってしまう。

 

「……そっ、あーうまうま~」

 

 古都のその意見を聞いて、何故か美弥は少しだけ安心したような表情になってからパンケーキを食べることを再開する。

 二人は黙ったまま少し気まずいまま一通り舌鼓を打つ。そして息を整えてから落ち着いて話始める。

 

「じゃあ朝の続きをしよっか、古都がどうしたいのかとか何をしたらいいのかとかね」

 

 空になったパンケーキが置かれていた皿にナイフとフォークを置いてから美弥は相手に向かって話始める。

 まるで先ほどまでのやり取りが無かったかのように。

 

「私のしたい事……」

「古都のしたい事は紅陽って人が前向きに再婚話に向き合ってもらうために出来る事だよね?」

「そうだね、だって…このままじゃ…あまりにもだよ…だって結婚はきっと嬉しくて楽しいものであるはずなんだよ…だから紅陽さんにも嬉しい気持ちで受け入れて欲しいの…」

 

 朝の時点で話した親から再婚話を伝えられて途方に暮れた事、白夜と出会い男性恐怖症をどうにかしようとした事、例の食事会の話。ここ半月で彼女の身に起こった出来事は多すぎて整理をして一言でまとめられるものではない。

 そんな中で沢山起きた出来事の中で、相手の連れ子である基山紅陽という相手が嫌々ながらも再婚を了承した。

 彼女はそれをどうにかしたいと何故か思ってしまった。いつもであれば関わるのも嫌なのに何故か相手の胸に秘めた何かを溶かしたいと思ってしまった。

 当然これから家族になるかもしれない相手とのわだかまりを無くしたいという気持ちも当然あるのだが、何故かそれだけではないのかもしれないと考えてしまう、だがどうしてそんな事を考えてしまうのかの答えをまだ彼女は知りようもない。

 彼女はそんな自分の中に生まれた不思議な感情に戸惑っていると、相手が思い出したとばかりに質問を投げかけてくる。

 

「…で、先に聞いておきたいんだけどさ…」

「何?」

 

 相手の若干だが深刻そうなトーンに身構えてしまう古都。

 

「その紅陽って人はカッコイイの?」

「は、はい?」

 

 突如提示されるその質問に何をどう返せばいいのか分からなくなってしまう。

 

「だって気になるじゃん!顔が良いか悪いかはとーっても大事よ」

「よく分からないよ…」

 

 これまで男性と関わる事を最小限に抑えて来た古都にとって異性の美醜への評価をするには、持っているデータがあまりにも不足しているためか正確に紅陽の容姿を評することが出来なかった。

 

「ふーむ…じゃあ筋肉質?それとも線が細い感じ?」

「痩せてたと思う…」

「肌は焼けてた感じ?それとも肌白い?」

「白かった」

「顔のほりは深めだった?それとも薄い感じ?」

「薄い感じだったかな…」

「つまり中性的な感じか」

「そう…?なのかも」

 

 どんどん投げかけられる質問に困惑しながらもなんとか返していく。

 一通り質問をしてから得た情報を吟味しうんうんと唸っている美弥。そんな相手を見て疑わし気な視線を送る古都。

 

「よし!」

 

 そして何やら頷いてから笑顔を相手へと向ける。そしてぐっと拳を握りながら力強く宣言をする。

 

「安心して古都、紅陽って人は多分私のタイプじゃないっぽいから私は全力で古都を応援するよ!」

「何を言ってるのみゃーちゃん!?」

 

 突如として親友の恋路を応援する女となった美弥。そしてその反対にいきなり紅陽に恋する乙女判定されてしまい驚いてしまう古都。

 どうやら古都が紅陽の事を何とかしようとするのは彼女自身が相手に気があるという風に解釈したからに他ならなかった。

 それに気が付いた古都は慌てて両手をぶんぶんと振りながら誤解を解こうとする。

 

「ち、違うからっ!別に紅陽さんの事が…い、異性として好きとかじゃないから!」

「ほんとぉ?」

「本当!私ってほら男性恐怖症だし!?」

「その男性恐怖症って別に医者に診断してもらったわけじゃないでしょ」

 

 父親を心配させたくないためか、彼女は男の子全般に対しての苦手意識を持っている事自体を多くの人物に相談しなかった。そのため男性恐怖症というのは古都自身がそう言い張っているに他ならなかった。

 とはいえ男性に対してのコミュニケーションに難がある事自体は間違いが無いので、診断を受けようが受けまいがそこはさしたる問題ではないのかもしれないが。

 

「うーん…まず思ったんだけどさ、いきなり再婚しますって言われたらそら不安になるというか…そもそも古都みたいに簡単に首を縦に振る方がおかしいんじゃないの?」

「それは…」

 

 古都はその指摘を受けて無自覚下で自分が唐突に振りかかって来る展開に何の違和感も嫌悪感も感じていなかった事に気が付いた。

 

『まだ再婚そのものが確定したわけじゃないんだが…古都はいいのか?いきなり知らない人たちと家族になるのは…』

 

 かつて自分の父親が言った言葉が脳裏をよぎる。その時の彼女は質問の意味を図りかねていたが今ならばそれを分かるような気がしていた。

 いきなり今の生活が乱される、知らない他人と親密にならないといけない。それを伝えられれば困惑の一つくらいあって然るべきだ。なのに古都は連れ子の一件こそあるのだが、基本的に再婚の後押しをしていた、するための努力を疑いもなく行なっていた。

 

「や、別に古都が悪いとかじゃないんだよ。お父さんの幸せを一番に考えられるなんて良い事だと思うし」

「…………」

 

 相手からのそのフォローの言葉を聞いても古都の表情が晴れる事は無い。

 古都は息を呑んで何も言えなくなってしまう、だが僅かな沈黙の後に重い口を開く。

 

「でも…それは…私には自分の考えが無いって事だよね…ただお父さんの思いに流されてるだけ…」

「それは……」

 

 その自虐を聞いて美弥は次に出る句が無かった。

 彼女は考えてしまった。父親の為と言えばその献身さは凄く美しく見えてしまうのだが、自分の意見が無い事を誰かの為にという建前によって誤魔化しているのではと思ってしまう。

 そうであるなら同い年の中学生である紅陽が口にした自分は養われる立場だから扶養側の人間が家庭の事を好きにすればいいという、一見すれば投げやりな意見の方が誤魔化しのない考え方をしているのではと思ってしまう。

 自分の考えや先の事を他人に委ねるのはずるい考えではないのか、それは相手がそう指摘したわけでは無いのだが想像に想像を折り重ねてありもしない妄想を膨らませる。

 美弥は動揺からか手を震わせるだけで、相手に触れる事も出来ない。目の前にいる親友をへこませる事しか出来ない現状に彼女はオロオロとするだけで次の行動を取る事が出来ないでいた。

 

「自分の考えが無い…私はそんな単純な話じゃないと思うな」

 

 そんなここから何をどうすれば事態を良い方向へと動かせるのかお互いに図りかねている二人の中に割り込んで来る一人の人間がいた。

 

「え、え?」

 

 美弥は相手の顔を見てもその顔に身に覚えが無かったためリアクションに困ってしまう。

 

(え、誰…てかうわー…まつ毛長いー…てかめっちゃ綺麗……)

 

 割り込んできた相手はにこりと人懐っこさを滲ませた笑顔を見せる。彼女はそれを見てそんな感想を抱いてしまう。

 ただその容姿はつい見とれてしまうほどに美しかった。まるで下民には触れるのは勿論に拝む事すらも許さないと言われているかのように彼女の脳がそのように錯覚してしまった。

 彼女自身も周りから自分を良く見せるためメイクから食生活、そして運動等々努力を惜しまずに継続している。だがそれでも競う前から白旗を上げたくなってしまう。

 

「びっ白夜さん!?」

 

 だが古都はそんな親友を尻目に席から立ち上がって件の人物を名前を叫ぶ。

 そんなリアクションが面白いのかいたずらに成功した子供のような笑顔を見せ、手を軽く振りながら口を開く。

 

「おっすー」

 

 そこには白夜という自称を騙る、哀しい男の情けない姿があった。

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