友を失った彼は、如何にして夢を追うことになったのか。
彼の絶望と再生の物語。
彼の絶望と再生を詳細に描く、スピンオフ第二弾です。
第1部の彼の集大成を、見届けてあげて下さい。
―――想像してほしい。
―――ついさっきまで言葉を交わしていた友人が。
―――見知らぬ間にこの世からいなくなったと聞いたとき。
―――あなたは何を想うだろうか。
異能夜行に参加した俺、泊亮一は病院で目を覚ました。
すでに、異能夜行から2週間以上が過ぎていた。
茨羽さんや風読さんと共に屍者の群れと対峙したのは覚えていたが、それ以降の記憶がなかった。
どうやら異能を酷使したことで、体というか脳に限界がきて意識を失ったらしかった。
あの時は森のような場所にいたはずだから、俺が病院にいるということは戦いは終わったと考えられるが、あの後どうなったのか、何が起こったのか知りたくて仕方なかった。
(結局、みんなはどうなった?螺鈿會は?俺たちは勝ったのか?)
ただ、答えを聞けるような状況にはなかった。
どうやら病院に運ばれた際、俺の脳は異常を起こしかけていたらしく、まだあと1週間程精密検査を受ける必要があった。
1週間後、ようやく俺は退院できた。
この間に俺は病院内を歩くことを許可され、リハビリがてら病室を見て回ったのだが、他のみんなは病院にはいなかった。どうも俺が一番危険な状態だった、ということのようだ。
退院の際には、ちとせが来てくれた。
「泊君…良かった。」
「お前こそな。」
言葉には出せなかったが、正直ホッとした。彼女がまず生きていてくれたことも、迎えに来てくれたことも嬉しかった。
病院からの帰り道、ようやくちとせに質問することが出来た。
「なあ、ちとせ。あの後螺鈿會って、どうなったんだ?」
「…事実上、壊滅したよ。
春風さんと苛内、神知は消息不明だけど、後のメンバーは粗方捕まったか亡くなったから、組織としてはもう機能してないみたい。
あ、葉月ちゃんは別。彼女は私たちの仲間になってくれたから。」
「厄介な人たちが揃って消息不明か…。」
いずれ、また彼らとは戦うのかもしれない。そんな気がした。
「それで、さ…。」
「うん…。」
何故か、この先を続けるのが怖かった。
それでも、聞かずにはいられなかった。
「みんなは、どうなった…?」
「それが…それが…。」
俯くちとせ。やがてその目から涙が零れたことで、俺は嫌な予感が当たったと分かった。
「まさか、誰か…。」
「うん。……つばめちゃんに、………逆浪君と美雪ちゃん。」
―光ガ、日向ガ、死ンダ?
(嘘、だろ…?)
頭が真っ白になった。
「なんで…、なんでそんなことに…。」
「私も、聞いただけだけど……。」
そこからの話は、恐ろしいものだった。
―苛内が日向を陵辱した上で殺害し。
―それを知った光が壊れ。
―つばめの両目、つまりロストアイを抉り取り。
―最後には2人とも春風郭公に殺される、なんて。
この話を聞いたのを最後に、俺の記憶は一時途切れる。
気づくと俺は、自分の部屋にいた。
よほど動転していたらしく、あれからどうやって自分の家の部屋に戻ったのか、一切の記憶はない。
ただ、この時の俺に、そんなことを気にする余裕などなかった。
(あいつらが、光と日向が、もういない…。)
ショックだった。
俺が今ここにいるのは、光と日向のおかげと言っても過言ではない。
2人が俺を導いてくれたからこそ、助けてくれたからこそ、俺はまっとうに生きてこれた。
その2人が、もういない。
幾つもの感情が、俺の中で渦巻いた。
2人がいないことへの、悲しみ。
何も出来なかった自分への、怒り。
助けられなかったことへの、悔しさ。
無論まともな精神状態ではなかった俺に、こんな大量の感情を処理出来る理性はなかった。
感情のまま、泣き喚き、手当たり次第部屋のものを投げつけ破壊した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
結果として―俺は壊れた。
それからしばらくの間、俺は部屋に引きこもった。
思い出すのは、かつての日々。
―光・日向・ちとせに引きずり出され、なくなった図書館の本探しに付き合った日。
―3人に連れられ、ハロウィンの街にくり出した日。
―光の手を借りて、トレーニングに励んだ日。
―ちとせと休日に勉強して、サボった光を日向の手も借りて引きずり出し勉強させた日。
―そして何より、皆と出会い、皆に救われた日。
(もう戻らないのに、なんで思い出すんだ…。)
戻らない日常ばかり思い出す自分すら、嫌になった。
もはや俺は、何もかもを見失っていた。
引きこもってから2ヶ月近くが経った、ある日のこと。
ちとせが、俺の部屋を訪れた。
「泊君…。」
「ちとせ、か。」
「死のうと、してない?」
図星だった。
「なんで分かった。」
「昔みたいに、光のない目してるんだもん。分かるよ…。」
だったら、遠慮はいらない。俺は手元のハサミを、勢いよく自分に向かって振り下ろした。
「止めて!」
直後、ちとせが刃を手で握り、それを阻んだ。
「お願いだから、泊君まで死なないでよ…。」
彼女の手から、血が零れた。痛みがあるはずなのに、彼女はそんな素振りを見せない。
「私たちはさ、あの戦いを生き残ったんだよ?あんな死が隣にあるような所で戦って、それでも生き抜いた!」
目に涙を溜めながら、俺に向かって訴えてくる。
「そんな泊君が今ここで死んだらさ、あの戦いで死んでいったみんなに失礼だよ!つばめちゃんだって、美雪ちゃんだって、逆浪君だって死にたくて死んだんじゃないんだから!」
「でも…、俺は、あいつらを…、俺を助けてくれたあいつらを、救えなかった...! そんな、俺に…、生きる、意味なんて…。」
猫殺しの事件の時、俺は光を見殺しにした。
あんな光景を見たくなくて、前を向いたはずだったのに、また助けられなかった。
そんな俺が、生きていていいのか。
「………泊君。」
やりきれない思いを吐き出したら、ちとせは俺を抱きしめてきた。
「泊君だけの責任じゃない…、そんなこといったら私も同じだよ。だから、自分を責めないでよ…。」
「ちと、せ…。」
「私も、泊君が背負ってるもの、抱えて生きるから…。」
涙で潤んだ目。でもそこには、強い光が宿っていた。
「それに、生きる意味なら、まだあるよ。」
「な、に…?」
「逆浪君が言ってたこと、覚えてる?」
「異能省の、長官になるって、やつか?」
異能夜行の際に、あいつはそう言った。
そうすれば、お前の未来は変えられる、と。
「うん。そうすれば、泊君が螺鈿會に入ってまで成し遂げたかった目標が叶う。みんなも、報われると思うな。」
今の俺に、出来るだろうか…。
ちとせはそんな俺の迷いを見抜いたらしかった。
「泊君はさ、今まで異能力に苦しめられて生きてきた。それに、つばめちゃんや夢羽ちゃんみたいに、異能力に人生を振り回された人たちも見てきた。そんな泊君だからこそ、出来ることがあるはずだよ。」
「それに、もし出来なかったとしても、私たちの想いは誰かに伝わる。泊君が逆浪君の姿を見て、人助けをしようって決めたみたいに。」
ちとせの思いは伝わった。痛いほどに。ただ、まだ俺は決めかねていた。
「少し、考える時間を、くれるか?」
「分かった。待ってるよ。」
ちとせは笑って、受け入れてくれた。
少し気分を整理したくて、久しぶりに外に出た。
この町は、2ヶ月前とほぼ変わらない。まあ、そう大きく変化するようなものでもないが。
「やーい、バケモノー!」
あんまり聞きたくなかった声が聞こえた。
そちらを見ると、小学生らしき男子が同じくらいの子にいじめられていた。
「おい、お前ら何やってんだ。」
思わず声が出た。いじめていた小学生たちは突然の乱入者に驚いたが、リーダーらしき子が負けじと言い返す。
「こいついのーりょく持ってんだぞ?バケモノをバケモノって言って何が悪い!それにお前関係ないだろ。」
「関係ある。俺だって異能力持っててバケモノって言われたからな。でもな、だったら何だって言うんだ?こいつだって異能力持ってようが1人の人間なんだよ。お前らがいじめる理由なんてねえ!分かったらとっととこいつに謝れ!」
小学生相手にヒートアップしてしまった。この子が昔の自分と重なって見えたのかもしれない。
気づいたらいじめていた小学生たちはいなくなっていた。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「どういたしまして。」
「お兄ちゃんも、いじめられていたの?」
「ああ、君と一緒だ。」
そんな話をしていたら、この子の姉らしき少女が迎えに来た。
「お姉ちゃん!」
「遅くなってごめんね、いじめられなかった?」
「いじめられたよ。でも、このお兄ちゃんが助けてくれたんだ!」
「…そうなの。ありがとうございます。」
見たところ、高校生ぐらいか。おそらく歳は俺と大して変わらない。
きっと、ちとせや光が俺を支えてくれたように、姉がこの子を支えているんだろうな。
「いえ、大丈夫です。大したことじゃないので。」
「そうですか。……あの、何か迷われてますか?」
「…なんでわかりました?」
俺はそんなに表情に出るのだろうか。
「…あの、何も言わないで聞いて下さい。
俺は今、友人が残してくれた夢を、追うか否かで迷っています。その夢はとても叶えるのが大変で、出来るかどうかなんて分からない。」
気づけば俺は、身の上を話し出していた。
何故俺は、会ったばかりのこの少女にこんな話をしたのか。自分でもよく分からない。
多分だが、友人が残した夢であるからこそ、誰か知らない人に委ねてみたかったのかもしれない。
彼女は迷惑な顔一つせず、俺に応えてくれた。
「…お話は分かりました。
私は、あなたのことをほとんど何も知りません。でも、私は追うべきだと思います。
あなたは私の弟を助けてくれた、強くて優しい人です。きっと出来ますよ。
それに、友達が残してくれた夢なら、きっとその友達はあなたなら出来ると思って託したはずです。」
光は、俺なら出来ると思って夢を残してくれた―。
その言葉が、やけに心に刺さった。
「…ありがとうございます。吹っ切れました。」
「お力になれたのなら良かった。」
「すみません、急にこんな話をしてしまって。」
「いえ大丈夫です。では、私はこれで。」
彼女は弟を連れて帰っていった。
(しまった、名前一切聞かなかった。)
まあいい、きっとどこかで会える。そんな気がした。
帰り道、携帯でちとせに電話をかけた。
『決まった?』
「ああ。やってやる。」
『そう来なくっちゃ!私もついて行くからね!』
「おい待て、どうしてお前まで…。」
『私も見てみたいもの、泊君が作る世界を、泊君と一緒に。』
「…分かったよ、誰かと一緒なら安心するしな。」
とても久しぶりに、声をあげて笑った。
あれから2年。
俺は今、東京の町を歩いている。
松ヶ崎町とは比べものにならない都会感。何故かテンション上がり気味だ。
「ちょっと泊君、そっちじゃないよ!」
道を間違えたらしい。ちとせに怒られた。
「悪い、テンション上がって間違えた。」
「私もちょっと不思議な感じだけどさ、それにしたって上がりすぎ。」
そんな会話をしていると、目の前に大きな門と、その向こうに建物が見えてくる。
城南大学。
官僚や科学者など、所謂エリートと呼ばれる人たちを多く輩出している大学であり、俺たちがこの春から進学する大学だ。
「ようやく、ここまで来たな。」
「大変だったもんね。ひたすら勉強して、高卒認定試験取って、ここの試験受けて。」
「大学に入るのに、2年かかっちまったもんな。」
「でも、まだ頑張らなきゃ。みんなのためにも。」
「ああ。せっかくここまで来れたんだ。最後までやってやる。行こうぜ。」
「うん!」
なあ、光、美雪。
悪いけど、当分そっちには行かない。
俺は、お前らが残してくれた夢を実現してみせる。
誰もが異能力に左右されず、笑って暮らせる世界を作る。
俺がそっちに行くのはそれからだ。それまで、お前らの分まで生きて、努力してみせる。
だから、見ててくれよな。
いかがでしたでしょうか?
最後までお読みいただき、ありがとうございました。