八雲紫の日記──
〇月◆日
最近、霊夢の様子が明らかにおかしい。
前の宴会で見た時は、元気溌剌と言わんばかりに騒いで、飲んで、食べまくる。
そんな感じで、全く以て体調が悪い予兆なんて欠片も見当たらなかった。
だけれども、今の霊夢を見ると前の宴会であった時の面影がほとんどない。
体調は悪そうに見えるし、どこかげっそりしているようにも見える。
ただの風邪であるとも思ったが、どこか悪い予兆と言うのだろうか、そのような予感が私の思考をよぎってしまう。
ただ、そのような直感で何かしらの判断を委ねるのは、私としてはいただけない。
最近は、博麗大結界の調子が少し不安定で、何日も徹夜で作業を続けていたこともあって、疲れている部分もあるのだろう。
そのような精神的な状態では、私の脳でさえ不安定になってしまうのは無理はない。
そろそろ休息が必要なようだ。
まだまだたくさんの仕事は残っているが、まあ藍に全部任せてもいいだろう。
いろいろと言い訳を述べたが、結局のところ私の奥底に眠る心情は面倒くさいということは内緒だ。
まあ少し位楽をしても誰も責めはしないだろうし、今日はたっぷりと寝よう。
追記
藍に仕事をすべて任せていたおかげか、私の脳の疲れはほとんど取れ、正常な判断が取れるようになった。
その後の藍の様子は、明らかに霊夢の比じゃないくらいの体調の悪さではあったが、式神なのだしもう少ししっかりとしてほしい。
藍にそれを伝えると「もう、勘弁してください……」とげんなりした顔で言われてしまった。
解せない。
〇月■日
どうして私は気づかなかった。
ありえない程、醜く気味の悪い自己嫌悪が湧いてしまう。
一昨日、私が感じていた直感は正しかったのだ。
霊夢は一昨日会った時とは比べ物にならないぐらい、体調が悪そうにしていて、今にも命が燃え尽きそうにしている。
私はすぐに霊夢の体調を確認したが、灼熱にも感じられるほどの熱と、全く覇気がないその姿から、明らかな異常を感じて、すぐに永遠亭に移動した。
永遠亭の永琳も霊夢の様子を見て、明らかな驚きを感じていたから、この事態の異常さをふつふつと物語っている。
永遠亭の兎……確か名前は鈴仙だったはず、鈴仙に落ち着いてくださいと言われ、さすがに何かできるわけではないので、私はその言葉に従ってじっと待っていた。
そして、幾分か時間が流れ、永琳が私の前に現れた。
その時にいくつか永琳に知らされたことがあるが、私も冷静でなかった分、ちゃんと理解することは難しかった。
曰く、今の霊夢の状態はかなり危なくなっているが、手掛かりがほとんどないらしい。
私ですら天才であると認めているあの永琳が手掛かりを見つけられないとなると、相当霊夢の今の状態は絶望的なのだろう。
しかし、今はくよくよしている場合ではない。
一刻も早く、博麗神社に向かって何かしらの手掛かりを探そうとした。
しかし、いくら探しても手掛かりらしい手掛かりはなく、あの永琳が見つけられない何かを今の私が探すなんてことできないとマイナスな感情さえ湧いてしまった。
私も大分、滅入っているようだ。
〇月Ω日
最悪な知らせが私の元に届いた。
日記を書く気力すら湧かない。
霊夢はもう、1年しか生きられないらしい。
追記
霊夢について詳しく日記に書いておこうと思う。
永琳が言うには、これは病気や細菌と言った科学的なことでもなく、私も何も手掛かりを見つけられないことから妖力的なものでもなく、霊力的でも、魔力的でも、神力的でも、法力的でもない。
明らかに未知の〝何か〟が霊夢の体を蝕んでいるらしい。
それは呪いのようでそうでないもの。
確実に霊夢の身体を蝕んでいくけれど、原因らしい原因は見つからず、永琳の薬でさえ何の役にも立たなかったらしい。
さらに絶望的なことに、霊夢はもう1年以上生きることはできないらしい。
寿命を延ばすことも、それを回避することもできない。
ただ死ぬのを待つだけの状況、それが今の霊夢の状態だ。
はっきり言って、私は今まで感じたことがないほどの強い憤慨を覚えた。
それは近くに居た鈴仙を気絶させるなんて容易なほどだったらしい。
しかし、永琳はそんな私を見ても全く動じず、私の目をじっと見てくるだけ。
私は自然と永琳の目線を避けて、少し下を向いたら永琳の手も、私と同様に震えていたのがしっかりと分かった。
永琳もやはり、悔しいらしい。
私がそれに気づいたのを永琳も分かったのか、永琳も「私だってっ……どうにかしたいわよっ!」と言っていたし、この状況で永琳を恨むのは違うだろう。
私はそう思って、憤慨をかろうじて抑え、冷静になることができた。
その後は永琳も書物を読んで、霊夢の状態の手掛かりを見つけようとしていた。
私もいったんスキマ空間に戻って、この1週間をかけて絶対に何かしらの手掛かりは見つけるつもりだ。
日記はこれからあまり書くことはできなくなるだろう。
これからの私は本当に忙しくなりそうだ。
絶対に霊夢を助けよう。
〇月△日
今日は久しぶりに霊夢と会った。
1週間をかけた私の成果は、あまりなかった。
だが、何も成果がなかったわけではない。
幾つか目ぼしい情報も集めてきたから、今回は霊夢の体調不良についてもっと情報を集めようと、博麗神社に泊まることにした。
久しぶりに会った霊夢は、前見た時よりかは遥かに調子が良さそうだった。
霊夢が言うには、早苗が作ってくれたご飯で食欲がそそられ、食べたら体調が幾分か回復したらしい。
その情報はあまりにも有益だった。
早苗の功績には感謝する他ないだろう。
できるだけ霊夢の噂は出回らないように注意したおかげか、霊夢から聞いたところ早苗は霊夢の余命については最初は知らなかったようだ。
だが、早苗と神社で話している内に、倒れてしまったらしい。
そこで早苗は博麗神社に泊まって、その日の次の日の朝に昼食を作ってくれたようだ。
……ここまで聞いていると、早苗は一昨日の夜には確実に霊夢の余命について知っているのだし、あの子の能力を使わなかったのだろうか?
──奇跡を起こす程度の能力。
……いや、早苗にはその能力はあるが、基本的に天候を操る以外には使えず、幸運についてはからっきしだったような気もする。
ただ、あの子の能力がもっと進歩すれば、幸運についても操れるのやもしれない。
だとしたら、早苗を育成させて、霊夢の余命を伸ばすようにすることも可能なのか?
一つの案として、考えておこう。
追記
霊夢と話している中、少し霊夢の様子がおかしかった。
それは体調的なものでなく、単純に霊夢が何かしらの疑問を持っているような様子のおかしさ。
私がそれについて少しの疑問を持っていると、霊夢がそれについて話してきた。
「次の博麗の巫女についての話はしないの?」
そう霊夢は言った。
……正直、それを聞いたとき私の心の中は申し訳なさと悔しさが湧きおこり、同時に霊夢の事をどうしようもなく心配してしまった。
霊夢は永遠亭で自分の余命を知らされた時も、そのことに対して驚いてはいたものの、絶望はしていなかった。
あと1年で死んでしまうとは思えない程、頼もしかったのだ。
だが、それは私にとってはあまり穏やかな問題ではない。
自分の死になんて気にも留めず、ただ未来の博麗の巫女の心配しかしていない霊夢の姿を見て、私らしくもなく涙を流しそうになってしまった。
流石に霊夢の前で涙を流すわけにはいかなかったが、そんな話はしないでと覇気のない声で咎めてしまった。
そんな私の気持ちを汲み取ったのか、霊夢はそれ以降その話題には触れなかった。
本当に情けない。
霊夢にこんな心配をさせてしまうなんて。
もっと私に力があれば、霊夢にこんな違った方向の心配なんてさせなくていいのに。
……それと、霊夢は本当に自分の体について無関心だ。
私が今日は布団の中で過ごしなさいと言っても、反対してくる。
こんなことは言いたかないけれど、私は霊夢のためを思って言っている。
こういう風に言ってしまうと、過保護な親をほうふつとさせるような言葉だが、事実、彼女の体調は不安定なのだ。
心配をしない方がおかしいだろう。
取り敢えず納得はしてもらえたけれど、これからは自分の体について心配してほしい。
本当に、願っている。
〇月▽日
今日は日記を書けそうにない。
明日、ゆっくりと綴ろう。
ちょっと補足を入れると、この世界の早苗は原作に沿って、彼女の能力『奇跡を起こす程度の能力』は基本的に天候について操れるだけ、と言うことになっています。
これからの展開も期待してもらえたら嬉しいです。
それと、もし良ければ高評価、感想をお願いします。
それではまた今度。