私こと、霧雨魔理沙にとって、博麗霊夢と言う存在はあまりにも完璧で、あまりにも輝かしい。
そう、まるで太陽の存在だった。
一緒にいるだけで嬉しいし、心がぽかぽかとする。
霊夢は私にとって、かけがえのない友人なのだ。
いつだって一緒に居たいと思っているし、いつまでも一緒だとも思っている。
それぐらい、私にとって霊夢は大切な存在なのだ。
でも、最初からそうだったというわけではない。
そりゃあ、あんなにも完璧な存在を前にしたら、誰だって嫉妬の心は出てくるだろう。
私も例外ではなく、昔の私にとって霊夢と言う存在は、醜い嫉妬の対象でもあったのだ。
それが今のような愛するべき存在となった日はいつだっただろうか?
かなり昔にさかのぼる。
──霧雨魔理沙のメモリー
いつもどおり、弾幕ごっこで惨敗してしまった。
私は負けたことに対する悔しさと、こんなにも簡単に自分を嫌悪してしまう精神の弱々しさが、私の劣等感を刺激する。
実際、私は霊夢よりも優れているところがない。
弾幕ごっこでもそうだし、ほかのどんなことも霊夢に勝るところなんて一切ない。
言うなれば霊夢は本当の天才なのだ。
どれだけ私が努力しても、どれだけ私が鍛えても、霊夢がいるところにはどうやってもたどり着くことはできない。
天賦の才には、凡人がどれだけ頑張ろうと敵わないのだ。
そして、そんな才能を持つ憎き者。
そんなのが私の前にいるのだから、軽い……いや、もう重症かもしれないスランプに陥ってしまった。
劣等感、コンプレックス、自己嫌悪、鬱、低迷、嫉妬。
人間の悪い感情全てを集めたような醜く腐った感情がどろどろと渦巻く。
「魔理沙、大丈夫? ずっと地面に手をついてるけど」
誰のせいだ。
私は目の前の巫女にそう叫んで激昂したかった。
でも、それではだめだ。
そんなことしたら、とうとう私は本当に醜くなってしまう。
真摯に努力をし続ける。
それだけが私の取り柄なのに。
「……あぁ、大丈夫だぜ」
私はそれだけ言って、差し伸べられた手を無視して、自分の力で立った。
もとより私は霊夢の事が嫌いだ。
それなのに、霊夢は私に関わろうとしてくる。
何度も何度もあしらったり、無視したり、霊夢に塩対応を演じていたが、一向に私と関わるのを止める兆しが見えず、むしろもっと私と関わろうとしてくる。
それが私の劣等感を的確に刺激し、私の苛立ちを与えてくる。
私にとって霊夢は本当に邪魔な存在なのだ。
でも事実として目の前にいる。
私に対してお節介を焼いてくる。
本当に私は霊夢の事が嫌いなのだ。
「ほら、お茶。隣座るわね」
霊夢はそう言って私にお茶を差し出し、縁側で私が座っている隣にお茶を飲みながら座った。
正直、離れていてほしいとは思ったけれど、ここは無視が一番いい。
下手に抗ったところで結果は見え透いているんだし。
「……あぁ、ありがとな」
私の渇いていない喉を潤し、煎餅を食べる。
……このような関係、そして生活が何日も続いた。
何の進展もなかったし、何も変わらなかった。
私はそんな関係を本当に嫌に思っていたのだ。
ある夏の日の夜の事だった。
朝から調子は悪かった。
頭痛もしたし、吐き気すら感じていた。
そんな状態が夜まで続いたし、何なら頭痛や吐き気はもっとひどくなったし、熱もひどかった。
最近、精神的にも調子が悪かったことも災いしたのか、私の心は本当に孤独や寂しさを感じていた。
ベッドの中で蹲っていて、昼も夜も何も食べていないからお腹はすいているけれど、痛みで立つことすらできない。
心も弱ってきて、もう死にたいとすら思っていた。
……そんな時、私の家の扉が開かれる音が聞こえたのだ。
アリスかな?
最初はそう思っていた。
だけれども、アリスは今日、紅魔館に泊まりに行くと言っていたので、その考えはすぐに取り消された。
じゃあ、誰なのだろうか?
そんな疑問が私の頭をよぎる中、目に見えたのは紅白の服だった。
そう、霊夢だ。
霊夢が私の家に来たのだ。
「……ッ! 霊夢! なんでここに……」
私の嫌いな人物が私の家にいる。
それだけでも嫌なのに、私の体調が悪い弱々しい姿を霊夢に見られている。
それが特に嫌なのだ。
「魔理沙、大丈夫? お見舞いに来てやったわよ」
あまりにもお節介だ。
ただでさえ頭が痛いのに、もっと頭痛がひどくなってしまう。
「……お腹すいてそうね。台所借りるわよ」
霊夢はそう言って、私の目の前から消えて、台所に向かっていった。
少しの時間だったけれど、私の不快感を増すには本当に充分で、心なしか熱が何度か上がっているような気もする。
……だけれども、私の心は不快感を感じるとともに、どこかしら安心感を感じていた節もあった。
さっきまではあまりの苦痛と孤独で、酷い鬱に襲われていたこともあって、霊夢がここに来た時にどこか嬉しさを感じてしまったのだ。
だが、私はそれを認めなくなかった。
私が霊夢を求めているなんてこと、信じたくはなかった。
だけれども、事実、安心感を感じてしまう。
私の心は二つの感情が混じりあい、一人葛藤をしていた。
だからこそ、霊夢がご飯を作るまでの時間は、そこまで感じなかった。
「食べやすいようにお粥を作ったけど……食べれる?」
「……あぁ、いただくぜ」
そこまで元気のない声で私はそう言った。
鼻が詰まっていることもあって、匂いはそこまで感じられなかったけれど、見た感じ美味しそうで食欲が自然と湧いてくる。
「自分で食べれる? 私が食べさせてあげようか?」
「別にいいッ! 一人で食えるぜ」
何も悪気がない感じで言ってくるもんだから質が悪い。
そこまで弱っていないし、弱っていてもそんなことをしてもらうつもりなんて毛頭ない。
しっかりと自分の手でスプーンをつかみ、お粥を口に入れる。
……認めなくはないが、かなりおいしかった。
どこか懐かしい感じがあり、心なしか抱擁されているようなどうしようもない安心感があるのだ。
温かいし、とても食べやすい。
どこか愛を感じる料理だった。
そんな料理は、私の弱っている心をどんどんと弱らせてくる。
何故だか分からないけれど、涙が出そうになるのだ。
だが、霊夢の前でそんな姿を見せるわけではない。
私は何とか涙を流すのを我慢し、お粥を自分の口に掻き込んだ。
「……じゃあ、食器片づけてくるわね」
そう言われ、私は再びベッドに横になった。
正直、今にも泣いてしまいそうだ。
何故だかは分からない。
だけれども、私は握りつぶされたように心細く、よく分からない寂しさに陥ってしまっている。
何もかもをぶちまけたい。
自分の心細さを誰かに共有したい。
よく分からない欲望が渦巻いていた。
そして、霊夢が帰ってきた。
「それじゃあね、魔理沙。あんまり望まれてないようだし、私は帰るわ、お大事にね」
もう霊夢は帰ってしまうらしい。
本来だったら、私は良かったと安堵していただろう。
でも、この時の私は本当に弱っていた。
それはもう、霊夢がいなくなってしまうのを恐怖するかのように。
「ま……待ってくれ! 霊夢!」
もう限界だった。
この孤独を耐えるのは私には無理だ。
だったら……私は霊夢の手を引っ張り、帰るのを遮った。
「……! どうしたの、魔理沙?」
案の定、霊夢は驚いていた。
当たり前だ。
いつもとは全く違った私の姿なのだから。
私は言葉をつづけた。
「な……なんで霊夢はそんなに私に……私に、優しくするんだ?」
決壊してしまった私の心のダムは、もう修復はできない。
もう、何もかもを霊夢にぶつけたかった。
「私は霊夢に……いつも無視したりしてるのに……なんで、なんでなんだよぉ……」
私の顔はしわくちゃになって、涙が止まらなかった。
「もう、私に……関わらないでくれよッ! 私に優しくしないでくれよッ!」
私がそういった後、何秒か沈黙の時間が訪れた。
だけれども、私はその時間が何分も、何時間も、何日もかかっているように感じた。
その時も私の心には孤独があった。
だからこそ、だからこそ次の霊夢の言葉が、今も、そしてこれから永遠に忘れもしないような大切な言葉になった。
「友達だからよ……魔理沙が……魔理沙のことが好きだから、私は魔理沙と一緒にいるのよ」
最初は意味が分からなかった。
私と霊夢が友達なんて。
でも、どこか私が霊夢にかけてほしい言葉だったのかもしれない。
無意識に、私は霊夢と友達であることを望んでいた。
「これからも私と魔理沙は友達……だから、これからも、一緒にお茶を飲もう?」
この時、私はどのように返事をしたのかは、もう覚えていない。
肯定していたかもしれないし、拒絶していたかもしれない。
……だけれども、今の私と霊夢は親友だ。
この時のことは覚えていなくとも、今の私は霊夢の事が大好きだ。
今も、これからも、ずっと。
永遠に私は霊夢の親友であり続けるぜ!
今回のような過去編を書くことも、これから割とあるかもしれないです。
良ければ、高評価と感想をお願いします!
……できれば