ご了承ください。
──霧雨魔理沙の日記
〇月Ω日
今日の夜、私の家に紫が来た。
霊夢やアリス以外私の家に来ること自体が、珍しい事だったし、何より家に来たのは紫だ。
正直、めちゃくちゃ警戒した。
また何かしらの面倒事かと少しばかり恐れていたけれど、どうやら違うようだった。
私から見て紫の姿は、どこか真剣そうな雰囲気がしたのだ。
それだけでも、異常なことだった。
大体いつもの紫は、持ち前の胡散臭さを醸し出し、何なら扇子を使って口を隠すもんだから、本当に何を考えているのか分からない。
でも、今の紫はそんないつもの雰囲気は全く感じさせず、真剣そうな、そして心なしか悲痛そうな顔をしていたのが印象的だったのだ。
もちろん、私はその異常をすぐに察知したから、紫をすぐに追い返すなんてことはしなかった。
「……何か用か?」とだけ言って、その後の紫の行動を見極めるつもりだった。
……でも、私がそういった後の紫の表情はさっきと比べて、誰がどう見てもわかるほど泣きそうな顔をしていたのだ。
流石におかしかった。
幻想郷の創設者ともあろう妖怪が、私のようなちっぽけな人間に対して、弱いところを見せるなんて前代未聞だ。
私が困惑している中、紫は言いにくそうに口を動かした。
紫は悲しそうに「……本当に急でごめんなさい……でも、どうしても伝えなければいけないことがあって、ここに来たの」と言った。
その時の私は間抜けな顔をしていただろう。
紫からそんな大事な情報を伝えられるなんて、今日の朝の私は想像もしなかったはずだし。
そして、ゆっくりと紫は言葉を続けた。
「……霊夢は……霊夢はもう……1年しか生きられないって言ったら、信じてくれる?」
紫から放たれた言葉は、あまりにも現実味がなく、あまりにも突拍子がない。
普段の私であれば、ただの戯言、質の悪い冗談だと言って、一蹴りしていたと思う。
でも、今回ばかりはそうはいかなかった。
紫がこんなに真剣で、泣きそうな顔で。
そして、最近の霊夢の様子。
それらが、最悪の形で結びあってしまったのだ。
はっきり言って、「信じるわけないだろ」と、言いたかった。
……でも、その時の私はどうしてもそのようなことは言えなかった。
本能的に、正しいと悟ってしまったのかもしれない。
とにかく、その後に紫からはいろいろ話された。
でも、内容は全く覚えていないし、知りたくもなかった。
これ以上、霊夢について聞きたくもなかった。
そんな私の心情を紫も悟ったのか、ゆっくりと私に近づき、ハグをしてきた。
そして、泣いた。
どちらも泣いた。
私はもう何も考えたくはない。
その後、私は疲れて寝てしまった。
もう、霊夢とは会えなくなる。
そんな思いだけが、私の心を支配した。
正直、霊夢と会うのが怖い。
現実を突きつけられたくない。
私は何日か、引きこもることになった。
〇月□日
ようやく、私は少しだけ立ち直ることができた。
だけれども、私の心にはまだネガティブな感情ばかりが巣食っている。
だが、このまま現状維持は私の性分ではない。
しっかりと霊夢と会って、霊夢と話して、現実を見なければいけないのだ。
私はそう思った。
だから私は今日、博麗神社に向かった。
足取りはとても重く、今にも私の家に帰って、現実から目を背けたいとも思っていた。
だけれども、それは私自身が許さない。
現実を見るまで、絶対に心を閉ざさないと決めているのだ。
そんな決意もあったせいなのか、気が付いたら博麗神社にはついていた。
だけれども、階段を上るのがどうしても遅かった。
そして、後何段か上ることで、博麗神社を見ることができるところまで私は来ていた。
ここまで相当、私の心の中にある悪いものが暴れまわって、今にも爆発しそうなほど、精神は摩耗していた。
霊夢に会えるまで、あとちょっと。
そう思ったら、私の足取りは自然と早くなっていった。
あとほんの少しの階段を上り切って、とうとう、霊夢と会うことができた。
久しぶりだった。
実に1週間ぶりだ。
私がそんなに何日も霊夢と会わなかったことは、ほとんどない。
今回が初めてぐらいだ。
そして、私は霊夢に向けて、手を振ったのだ。
久しぶりだな!
私はそう言おうとした瞬間のことだった。
突然、霊夢に一切の生気がなくなった。
その時、まるで咲夜の能力が使われたかのように、世界が完全に止まった。
呼吸はもちろん、心臓も、血も、頭も、何もかもが機能停止しているかのようだった。
その時に私が感じた感情は、紛れもない恐怖だ。
妖怪と会う程度では感じることができない。
まるで世界最高の怪談を聞いた後のような、妙なおどろおどろしさ。
そんな気持ち悪い感覚だけが、私の全身を搔き乱した。
……うッ……うぅ……
そして、そんな霊夢の呻き声が聞こえてきた。
私はその音を聞くことで、世界の時間が動いたのだと錯覚してしまった。
とにかく、何かしないといけない!
ようやく動いた私の頭は、とりあえずそんな答えを導き出し、急いで霊夢のもとに駆け寄り、霊夢の背をよしよしと撫でてあげた。
近くで見ればわかったけれど、どうやら霊夢は心臓を押さえているようだった。
心臓。
人間にとって、最も重要な臓器だ。
そして、今、霊夢はそんな臓器に痛みを感じて、こうやって苦しんでいる。
自然と、先週言っていた紫の言葉を思い出してしまった。
「霊夢はあと1年しか生きられない」
その言葉の真実性が、こんな形で証明されることになるなんて。
本当に最悪だった。
その言葉が真実なのは、今の霊夢を見たら誰だって信じるだろう。
そして、親友である私ですら信じてしまった。
もう、私の顔は涙でいっぱいだった。
情けない声を上げて、霊夢に思い切り抱き着いた。
離れないでほしい。
そんな思いがある中、どこか消えてしまうような、そんな感触もあった。
そんな考えが私の頭をよぎる中、ようやく霊夢を縁側で寝かすことができた。
そして、霊夢はどこか覇気がない声で「……ごめんなさい……迷惑かけたわね……」と言ってきた。
……お願いだからそんなことは言わないでくれ。
霊夢だけは、そんなことは言わないでくれ。
いつも私といるときのような霊夢みたいに元気出してくれよ。
お願いだ。
神様お願いだ。
どうか霊夢を救ってやってくれ。
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