ウマ娘 潮騒のアレグレット   作:秋月@小説

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 えー皆様お久しぶりです、先者の秋月です。
 まずはここ二か月投稿が止まっております事をお詫び申し上げます。色々事情はあるのですが、最も大きな原因として第二章後編の執筆が難航している事があります。
 次回から中央での物語を描くことになるのですが、まず登場させるキャラクターの選定に難航しています。どのような展開にするのかはかなり前から決めていたのですが、キャラクターの方は後から合いそうな競走馬をピックアップしてあてがえばいいと軽く考えていたのですが、ふたを開けてみればケイウンヘイローと関連性があり、かつ現在想定しているストーリーに合致する競走馬がほとんどおらず、やむなく妥協してそれに合わせてその都度ストーリーの方も修正しているので肝心の執筆が遅々として進んでいません。
 それに伴い、これ以上執筆を停滞させるわけには行かない為、今まで原則として登場させるキャラクターは基本実在した馬ないし人物をモデルとしてきたのですが、今回ばかりは完全架空のウマ娘を登場させようかと考えています。ストーリーを進める為ですので、どうかご理解の程宜しくお願いします。

 で、失踪していないことをアピールする為に今回番外編を執筆しました。今まで基本ケイウンヘイローの視点中心で語って来た本作の、外側からの視点のつもりです。こんな風にも見えていたのかな、程度に考えてください。

本編の方は恐らく十月に入ってからの投稿になると思われます。もうしばらくお待ちいただけますと幸いです。


番外編 ウマ娘Aの視点

 そのウマ娘は、東京からやって来た。

 

 入学式の後、自己紹介の時間に私たちの前に立ったあの子は、どこか緊張した面持ちをしていた。身長は普通くらいだったけど、すらりと長い手足と小さな顔はモデルさんみたいで、東京のウマ娘は体型から違うのかと思わず感心した。しかし髪型はただ後ろでポニーテールにしただけで、髪飾りも地味な緑のリボンが一つだけ。どうにも素材を生かし切れていない、垢ぬけない様子がアンバランスさを感じさせる、それが第一印象だった。

 何故東京からこんな田舎にまでわざわざ来たのか、なぜもっとお洒落をしないのか……色々聞きたいことがあり興味が湧いたから話しかけようと思った。だけど既に先客がいて、その子達に囲まれっぱなしだったから結局その日は話しかける事が出来なかった。

 

 その後も彼女は五人くらいのグループでずっと固まって過ごしていて、私が話しかけられる隙は無くなってしまった。彼女はクラス行事にはちゃんと参加するが、どうやら積極的に交友関係を拡げようとするつもりは無いらしいと分かり、私も次第に話しかける気を失っていった。

 

 ただ一月ほどが経って、初めての中間テストの結果が貼り出された時、彼女の名が学年三位として掲示されているのを見てあの子は勉強まで出来るのだと知った。容姿と学力……少なくとも天は二物を与えるらしい。

 だがその半月後、私達世代の最初のメイクデビューが行われて……天は三物以上才を与えるのだと思い知らされた。

 彼女は最初のレースで三着だったが、二戦目であっという間に初勝利を飾るに至った。彼女は脚まで速かったのだ。

 だが彼女は常に一番では無かった。容姿でも、学力でも、走りでも。上には上がいて、彼女にとってはそれがある種のコンプレックスだったようだ。

 

 ──無性に腹が立った。

 それだけ恵まれた才能をいくつも与えられているのに、まるで自分は悲劇のヒロインですと言いたいばかりに思い悩んでいる様子が鼻についた。

 いいじゃん、そんなに恵まれているのに。いいじゃん、二着には入れているのに。それ以上何を求めるの? 一つくらい欠けた所で他でいくらでも埋め合わせられるはずなのに。

 そもそもそんな才があるなら、なんでわざわざこんな田舎のトレセンに来たの? あの子がここ来たせいでこっちの子が一人入学できなくなって、レースで本来勝つはずだった子が勝てなくなっているんじゃないの? 

 

 あの子は常に上だけを見ていた。レースの時だって、モブである私達になんて目もくれず、ゴールの先ばかり見ていた。きっとあの子に見えていたのはあの子のライバル……私たち世代の最強のウマ娘の背中だけだったのだろう。

 だからこそ、あの子がレースで勝てない度に、それを見てほっとする自分がいた。ああよかった、あの子はまだ完璧じゃないのだと……

 

 ……しかしそれも、今年の六月、あの子がライバル相手に幾度もの敗北の果てに遂に圧勝してしまった事で、あえなく消え去った。彼女は世代最強となったのだ。

 あの子はどんどん上へと上って行った。ウマチューブの広告にあの子が映っているのを見た時なんて気がおかしくなりそうだった。“ヒロイン気取り”が“ヒロイン”になってしまった事が恨めしくて仕方なかった。

 そして幸か不幸か、彼女は中央へと移籍する事が決まった。ようやくあの子は正しい鞘に収まるのだ。流石のあの子も中央で目立つことはあるまい。私の心にも平穏が訪れるのだ。

 

 さようなら。できればそのまま帰って来ないでね。

 

                   ◇◇◇

 

 私はノートを閉じた。

 

 荷物整理の折に見つけた“ストレス発散帳”と書かれたノートの一節に綴られていたのは、中等部の頃、血気盛んだった私が感情のままに書きなぐった回顧録のような文章だった。

 今思い返せば、思春期を迎え何かと他人と自分を比較しコンプレックスを抱くようになったからこそ、突出した才の無い自分へのもどかしさが、あの子への怨讐に代わっていたんだと思う。私はあの子をストレスの捌け口に使ったんだ。

 あの頃の私は、競走ウマ娘である事に情熱を注いでいた。今思えば異常なほどに……“走らなければならない”というある種の義務感の下にあった。

 たぶん、あの子だったのはたまたま目についたからだ。あの子よりも顔も頭も良い子は他に居た。いや、もしかしたら“だからこそ”かもしれない。絶対敵わない方じゃなくて、少しでも自分に近そうな方を無意識のうちに選んだのだ。

 結局あの子と言葉を交わしたことはほとんど無かった。だからあの子は、私から恨まれていたなんて知る由もない。当然この先も伝えるつもりなんて無いから、この秘密は私が墓場まで持って行く。

 

 その時部屋のドアがノックされる音がして、母が入って来た。

 

「ねえねえ、あんた桐たんすはどんなのが良かと? やっぱり大きか方が良かよねぇ」

「はぁ? だから要らないってそんなの! 部屋のコーディネートに合わないよ!」

「何ば言っとると! 昔から嫁入り道具は桐たんすって相場が決まっとるとよ!」

「その価値観が古臭いって! せめて家電とかにしてよ!」

「え~もう仕方ない子やねぇ……」

 

 母はぶつぶつと何かを口にしながら部屋を出て行く。私はため息をつくと、ふと左手を見る。薬指にはプラチナにダイヤが埋め込まれた真新しいリングが輝いていた。

 

 幸せを手にするのに、必ずしも突出した何かは必要じゃないと気づいたのはもう少し大人になってからだった。あの子が今どこで何をしているのかなんて知る由も無いけど、少なくとも今この瞬間だけは、私はあの子よりも幸せだと確信している。

 

 あの子は誰かにとってはアイドルで、あるいはヒーローで、友達で、ライバルで、先輩で、後輩で、憎むべき相手だった。

 今の私なら、普通に話せるのだろうか? ……いや、きっと無理だ。あの子は特別だったからこそ意味があるんだ。話して、どんな人柄なのかが分かってしまえば、私はきっと自分を許せなくなる。勝手にストレスの捌け口に使った罪悪感が溢れ出てしまう。

 

 あの子には思い出の中で、偶像のままで居て欲しい。

 私達が妬み、嫉み、憧れた、”あの子”のままであって欲しい。

 

 ……このノートにはまだまだ続きがあるが、今更思い出すのも恥ずかしいし、無かった事にしてしまおう。

 私はノートを無造作にゴミ袋に突っ込んだ。

 

 さようなら、ケイウンヘイロー。さようなら、わたし。

 

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