ウマ娘 潮騒のアレグレット   作:秋月@小説

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第二章十四話です。
今回も投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。大学の学園祭や所属しているサークルで参加する大会などがここ一月毎週のようにあって忙殺されておりました。
なお構成の都合で今回やや短めとなっております。



今回の雑談は少々悲しいニュースとなります。
昨日、2006年のクラシック二冠馬である元競走馬、メイショウサムソン号の訃報が伝えられました。
昨年の同じく2006年の牝馬二冠馬、カワカミプリンセス号の訃報に引き続き、あの世代の主役と言っても良い二頭が虹の橋を渡ってしまいました。関係者の方には心よりお悔やみ申し上げるとともに、偉大なる名馬の冥福を祈るばかりです。

ここからは少々個人的な事になるのですが、今回の訃報を受けて感じたのが2006年世代、21歳の馬が亡くなってしまうような時期が訪れてしまったという事の衝撃です。
2006年世代の馬は2003年生まれ、私と同い年です。
人間と馬の時間感覚が違う事は百も承知ですが、自分と同じ年齢の馬が次々と亡くなるというのは少々来るものがあります。
そしてこんな事を考えること自体不謹慎なのかもしれませんが、ケイウンヘイローも同じく2006年世代の一頭なのです。彼は今も宮城県の方で乗馬として元気に活動していますが、彼にもいつかはその日が来てしまう、そしてそれは必ずしも遠い未来の話ではないかもしれないと思うとどうしようもない焦燥に苛まれる事があります。
私は彼が元気なうちにこの作品を終わらせ、彼の馬生の事を多くの人に知ってもらう事ができるのか、と。

この作品は荒尾競馬場廃止十年の節目の年に書き始めました。そして第一章を書き終える前に荒尾競馬場最後の名残だったメインスタンドは解体され、最早荒尾競馬場は記録と記憶の中だけの存在となってしまいました。
また私の前に荒尾競馬を題材にウマ娘小説を書かれていた先駆者様の作品における主人公も昨年逝去し、荒尾競馬を走った事のある馬も急速に減少している現状です。

荒尾競馬の輪郭がどんどん不明慮になって行く今が、作品として荒尾競馬を扱う事が出来る最後のチャンスだと感じています。願わくばこの作品を見てくれた誰かが荒尾競馬に興味を持って、その歴史を調べる中で私が見つけられていない新たな星を見出し、作品として世に送り出して貰えたら。荒尾競馬の名を多くの人の記憶に刻んで貰う、その一助になれたらと思い執筆をつづけています。

まあケイウンヘイローは曾祖母にウラカワミユキ、祖父にナイスネイチャと長寿の二頭を先祖に持つのできっと長生きしてくれるはずととりあえず楽観視しながら、しかし危機感は頭の隅に置く事で自分にムチを打ちながら、まだ一文字も書いていない第十五話の執筆にとりかかります。

長くなってすみません。本編をどうぞ。


マスカレイド

 あらすじ──転校生としてスタートを切ろうとしたら、キャラが濃いのに上書きされた。

 

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして突っ立っている私の眼前には、たった今強烈なインパクトと共に登場した黒髪のウマ娘が立っている。

 

「ユ、ユリノシルヴァさん? 遅刻はこの際不問にしますが、急いでいる時でも足元には気を付けましょうね?」

「あーすみません先生! 来るときに謎の科学者に捕まって実験体にされていたら遅れました!」

「……この学園なら絶妙にあり得なくもない理由ですね。ともかく、次からは気を付けてくださいね?」

「もちろんです!」

 

 生徒たちの中からくすくすと笑い声が聞こえる。確信した。今この瞬間、この教室に居る全員の関心はこの子に取って代わられた。私は“滅茶苦茶キャラの濃い転校生の前に来たなんか普通の転校生”になってしまった! 

 くそ、こうなるとと分かっていれば私も自己紹介の時に一発芸の一つでもしておけば……じゃなくて。何かこの子、どこかで見たような……? 

 そうだ、こっちに来た時に教室で会ったあの子だ。でも、目の前に居るウマ娘はあの時見たどこか委縮したような雰囲気すら感じさせたあの子とは別人のように思えてならない。

 

「では、ユリノシルヴァさんは窓際の一番後ろの席に座ってください」

「はーい!」

 

 彼女が先生に促されて席へ向かうのと同時に、私もそそくさと自分の席へ向かった。

 

「はい皆さん、今日から二学期ですね! 夏合宿を通じて、各々得るモノがあったのでは無いでしょうか。“天高くウマ娘肥ゆる秋”とも言いますし、夏合宿を通じて得た経験を糧に、皆さんが一層活躍できることを願ってやみません。あ、でもお勉強も忘れちゃダメですよ? 来月には中間テストですからね~」

 

 クラス中から「え~」というお決まりのセリフが聴こえる。まあこういうのはどこの学校でも同じだよね。

 

「そして今日から聖蹄祭の企画募集も始まります。クラス企画は明日のHRで決めようと思いますが、何か個人でやりたいものがある人はまずは先生に書類を貰いに来てくださいね」

 

 聖蹄祭とは文化祭のようなものだ。“ようなもの”をわざわざ付けるのはその規模が桁外れだからである。

 トレセン学園は春と秋の二回ファン感謝祭があり、春はスポーツ系、秋は文化系の催しが行われる。普段レース場で遠くからしか見られないスターたちを間近で見られるとあって、どちらも普通の学校のイベントの規模を遥かに超えてとんでもなく盛り上がる。

 私も小学生の時何度か行ったことがあるが、込み合いすぎて校舎の中まで入れず、外の露店とステージだけ見て帰ったくらいだ。

 

「では連絡事項は以上となります。一時間目は全校集会ですので早めに体育館に移動しておいてくださいね~」

 

 朝礼が終わり、先生が教卓を後にするとクラスの生徒が転校生にわっと群がった。……七割方、彼女の方に。

 

「ねえねえ、ケイウンヘイローちゃんってやっぱり博多弁話せるの?」

 

 とはいえ私も転校生ボーナスの対象だ。二、三人のウマ娘が興味津々に私の机までやって来た。

 

「ううん、実は私出身は東京の目黒なの」

「え、まじ!? あたし実家の最寄り武蔵小山だよ!」

「本当? じゃあ林試の森公園とかって……」

「めっちゃ行ってた! ジャブジャブ池とかちっちゃい時よく入ったよ!」

 

 気分が高揚して身体にぎゅんと血が巡るのが分かる。一年以上ぶりに地元の話が通じる子と話しているのだから当然である。

 

「てかさー、それなら何でケイウンヘイローちゃんは東京からわざわざ熊本なんかに行ったわけ? ここ入れるんだから別に勉強もレースも出来ない訳じゃないんでしょ?」

「いや~……まぁそうなんだけど……中央は普通に落ちて、大井は受験の時に風邪ひいて、川崎はインフルになって、船橋は……って感じで全部本気が出せなかったというか……」

「「運悪すぎない!?」」

 

 どういう訳かあの時は、比較的体が丈夫なはずの私が異常なまでに立て続けに病気になった……もう神様がトレセンに入るなと言っているんじゃないかと疑ったくらいだ。

 

「でも中央に入れたなら良かったね! 地方の事はよくわかんないけど、ここは行事いっぱいで楽しいよ!」

「そうそう! 十月は聖蹄祭あるしー、十一月は近くの神社で駿大祭の流鏑メ神事でしょ? 十二月はクリスマスのお祝いが盛大にあって~……三月のドロワもめっちゃ盛り上がるし、楽しいことだらけだよ!」

「へー、そうなんだ。でもなんか聞いてる感じイベント多すぎてレースと両立難しそう……」

「そんなの気にしなくて大丈夫だよ!」

「てかあたし達まだデビューしてないしね~」

「……え、そうなの?」

 

 私は思わず聞き返した。

 

「だって私達本格化まだだし~。別にレースは高等部からでも良いかな~って感じ?」

「せっかく六年あるんだし、今は遊びたいもんね~」

 

 すました顔で彼女たちはそう言った。それを聞いた後で改めて彼女たちを見ると、確かに身体つきもまだそんなにがっしりとしていないというか、筋肉質な競走ウマ娘とは違う。良くも悪くも普通のヒトの中学生と同じ雰囲気だ。

 クラスをちらりと俯瞰しても、ほとんどの生徒はそんな感じ。意図的にそうなのかは分からないが、このクラスはほぼデビュー前の子ばかりで構成されているんじゃなかろうか。

 

「みんなー、そろそろ体育館に移動だよー!」

 

 教室の前の扉の方で、眼鏡をかけた如何にも真面目そうなウマ娘が皆にそう告げる。教室中のウマ娘がちらほらと移動を始めたため、私も話しかけて来てくれた子たちに着いて行くことにした。

 

 

                      ◇◇◇

 

 

 ──いやはや驚いた。

 全校集会の壇上に登ったのは、頭にネコをのっけた子供だった。

 ……何かの冗談かと周りを見渡しても、誰一人として困惑する素振りも見せなかったためここではアレが普通なのか、或いは私の常識がずれているだけで世の中の理事長は皆子供で頭にネコをのっけているのが普通なのだろうととりあえず私は深く考えるのを辞めた。

 そしてその理事長閣下曰く、

 

『僥倖ッ! 昨年のシーザリオによるアメリカンオークス制覇に引き続き、伝統ある凱旋門賞への挑戦! 勇気ある選択を我々も全力で応援したいッ!』

 

 ──との事で、理事長の口から海外レースへの挑戦及び理解促進のため、海外遠征の説明会開催や外国語教育の促進、食堂での多国籍メニューフェアの開催……さらに凱旋門賞当日の消灯時間延長や東京レース場で行われるライブビューイングへの無料シャトルバス運行、果てには希望者の中から数名を旅費全額学園負担で現地観戦に派遣するとまで、まあとんでもなく豪華な各種施策が発表された。

 

「なんかめっちゃスケール大きかったよね~」

「私一気に海外に興味湧いちゃったー! シーナちゃんもそう思わない?」

「うーん私はあまり……でもそうね、下の妹は海外大好きだから目をキラキラさせて飛びつくかも」

 

 他の生徒たちの反応はまちまちだが、概ね好意的な印象だ。

 私もまあ、そうだな。流石に現地観戦までは行く勇気は無いけどライブビューイングくらいは行っても良いかもな、くらいには感じた。

 

 それにしても本当に今年は凱旋門賞に対する熱の入りようが違う。一昨年のタップダンスシチー、その前のマンハッタンカフェの挑戦の時はここまで盛り上がらなかった。いうまでも無く彼女が持つ日本競バ史上最強クラスの実力によって裏付けられた圧倒的な支持が、この熱狂ともいえる現状を際限なく後押ししている。

 

 そんな熱に完全にあてられる気にはなれず、でも逆張りも性に合わないからぬるま湯くらいにはあったまった心持で体育館から教室へと人波に混ざりながら戻っていると不意に背後からとんとんと肩をたたかれた。

 

「ちょっとごめん!」

 

 私が振り返ると、そこにはついさっき見た黒髪のウマ娘の姿があった。

 

「間違ってたらごめん、キミも転入生だよね?」

「あ、うん。そうだけど」

 

 私がそう返すと彼女は快活そうに笑った。

 

「良かった~! この学校人多すぎてさ、人違いしてたらどうしようかと思ったよ~! あ、ごめんね! やっぱり同じ転入生として仲良くしておきたいって思って声かけちゃった! びっくりした?」

「ううん、別に大丈夫だよ。こちらこそよろしく。ユリノシルヴァちゃん、だよね」

「うん! でもごめん、あたしキミの名前分かんないや」

「遅れて入って来てたもんね……私はケイウンヘイローだよ」

「ケイちゃんね! おっけ、覚えた! ところでさ~……」

 

 彼女は突然私に顔を寄せると、

 

「この前の事、憶えてる?」

 

 やや低めのハスキーボイスで囁いた。

 

「え、この前って……あ、もしかして八月の教室の?」

「憶えてるんだ」

 

 そして彼女はさらに声のトーンを下げると、

 

 

「言った? その事、誰かに」

 

 

 その声は、凍り付きそうな程冷たく、有無を言わせぬ凄みを含んでいた。

 

「……言ってない、けど」

 

 私が何とかそれだけ絞り出すと、彼女は途端に力が抜けたようにため息をついた。

 

「良かっ……たぁ……」

「へ?」

 

 私が困惑していると、彼女は弁明を始める。

 

「いや、誰のかも知れない人の席に座ってたなんてバレたらハブられるんじゃないかって怖くて怖くて……」

「……そんなの気にする人居る?」

「居たらどうするのさ! ようやく掴んだ中央での学生生活がこれで壊れたらボク耐えられない……!」

 

 彼女の余りの豹変ぶりに私は再び鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。

 

「てか、一人称……?」

「こっちが素なんだ……中央で舐められたら終わりだって思って、ペルソナを被っているんだよ」

「何もそんな事しなくても……」

「何言ってるのさ、ここは中央だよ。都会人らしい振る舞いをしなきゃ地方から来たボクなんて田舎者のレッテルを張られて終わりだ……! キミだって地方から来たんだろ? 例外じゃないよ!」

「いや私出身はこっちだから別に……」

「なんだってぇ!? 裏切者ぉ!」

「えぇ……」

 

 なんと言うかこの子、ほっといたら危ない気がしてならない。都会のイメージが殺伐とし過ぎているし、そもそも都会人を“明るくて快活なもの”だと考えている時点で都会人の何たるかを履き違えているし、都会人ぶろうとするこの衝動が暴走して変なベクトルに行ったら、具体的にはパ何とかとかが都会人の嗜みだとか誤解し始めたら取り返しのつかない事に……

 

「……あのさ、私で良かったらユリノシルヴァちゃんが“都会人”になれるお手伝いしようか?」

「え……?」

「キラキラのギャルみたいのは無理だけどさ、一応イマドキの女の子の流行は押さえてるつもりだし。なにより下町育ちだから東京の事は下手な中央の生徒よりも分かる自信あるよ」

「……いいの?」

「うん!」

 

 彼女はメシアでも見つけたような顔をすると、人目もはばからず涙を流し始めた。

 

「ありがとう……ありがとう……」

「ちょ、ちょっとユリノシルヴァちゃん! 目立ってる! 目立ってるよ!」

 

 周囲のウマ娘からの怪奇の視線からそそくさと逃れ、私達は教室のあるフロアへの階段を上る。

 

「ねえ、ユリノシルヴァちゃんはどこのトレセンから来たの?」

「福山だよ。知ってる?」

「えっと、広島県だっけ」

「正解。言っても分かんないと思って自己紹介じゃ言わなかったんだけど、東京の人でも知ってるもんなんだね」

「……どうだろ。人によるんじゃないかな」

「ちなみにケイちゃんはどこから来たの?」

「私は荒尾からだよ」

「ふーん。まあ分かんないけど」

 

 彼女はそう言うと私より先にリズミカルにトントンと階段を上り切ると、くるりと回って微笑んだ。

 

「改めてよろしくね、ケイちゃん。お互い楽しもう! あんなとこの事忘れてさ!」

 

 向かいの窓から射す逆光に浮かぶシルエット。一瞬でペルソナを被り快活な少女に化けたその姿は、まるでどこかの学園ドラマの一幕の様に見えた。

 

 ──ただ、

 

 彼女の言葉に込められた棘のような何かを、そのペルソナは覆い隠せていなかった。

 

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