ウマ娘 潮騒のアレグレット   作:秋月@小説

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 第二章第十六話です!
 やっっっと投稿できました!
 大学の期末テスト、再履修かつ必修で絶対に落とせない科目に掛かりきりでした!多分今度は大丈夫なはずです!またぼちぼち投稿していくのでよろしくお願いします1



 
 ―-雑談で御座います。今回の話、というか本作における中央の設定なのですが、自分の脳内で考えた要素とシンデレラグレイ、アニメ版、ゲーム版から引用した設定をその都度都合よく当てはめて描写しています。今回に関してもラストはアニメ一期のオマージュですね。分かる方には「おっ」って思ってもらえるように工夫を凝らしていく所存です。

 それと今回も新キャラが出るのですが、中央編では荒尾と比べてキャラクターの個性を強めに設定しています。これは荒尾との明確な差異を出す為でもあるのですが、私の経験則として”何か一芸が秀でている人間はキャラが濃い”と考えているからです。
 大学に入ってから色んな人に出会ってきましたが、概ねこの傾向は正しい気がしています。サークルで出会ったとある成績優秀な後輩はサークルを六個掛け持ちする変態プレイをしてましたし、成績は良いのに朝に弱すぎて単位を落としかけてました。
 同級生のコミュニケーション能力が異常に高くバイト先で敏腕販売員として正社員並みの給料を稼いでる奴は逆に学生としての適性が無さ過ぎてただでさえ一浪してるのに二留しかけてます。
 優秀な奴はやべー奴だし、やべー奴は優秀なんです。
 ウマ娘のキャラクター達が魅力と個性に溢れているのもそれなんじゃないか、と思って本作でも中央の子はちょいキャラ濃いめにしてます。
 とは言えまあゴ●シ並みに濃いのは多分出さない予定なんで安心して(?)ご覧ください。

それでは本編をどうぞ~



ピッチアップ

 ウマ娘にまみれた環境で過ごしているとついつい感覚がマヒしがちだが、毎年この国に生まれてくる子供たちの中で、ウマ娘が占める割合は二~三パーセント程しかない。

 そしてウマ娘として生を受け、その中で競走ウマ娘としての適性があるのがだいたい五割弱。実際にトレセンに入るのがさらにその半分くらいで、その中で中央に所属できるのが二、三割。さらにその中央所属ウマ娘の中で一勝でも出来るのが三十五パーセント。オープンクラスまで勝ち上がるのは三パーセント。さらにそこから重賞以上を勝てるウマ娘となったら一パーセントにも満たない。

 マクロの視点では、彼女達は上澄みの上澄みのさらに上澄みの中でその上下を競っているようなものだ。

 

 分かっている。この舞台に立つ事が出来るというのがどれほどの奇跡なのか。

 何千という少女たちの儚い夢の屍の上にあの子が立っているのか。

 分かっている。ここに来られたというだけでも一生誇れる事なのだと。でも、だからこそ──

 

 勝たせてあげたかった……

 

 

 

                     ◇◇◇

 

 

「“約束”……?」

 

 目の前に居る女性──増永トレーナーは、確かにそう言った。

 

「うん。ネイチャちゃんと約束したの。あなたを輝かせるって」

「なんで……?」

 

 話が飛躍して訳が分からなかった。

 なんでネイチャさんが私がここに来ることを予測していたのか。そのことをこの人まで知っているのか。

 

「えっとね、ちょっとややこしい話になるんだけど──」

 

 

                     ◇◇◇

 

 

 あの日。

 あの子にとっては三度目になる有マ記念の日。

 

 最終直線、奇跡が起きた。

 二年前の二冠ウマ娘。無敗三冠の夢を骨折で奪われ、残った無敗の称号もライバルの前に砕かれ、挙句の果てに二度目、三度目の骨折。

 並みの少女ならとっくに心が折れていても不思議じゃない。だが、“帝王”は不屈であった。

 

 数多の逆風に耐え抜き、彼女は364日ぶりにターフに立った。多くのファンにとってはそれだけで奇跡であったが、それどころか彼女は並み居る新世代のウマ娘を撃破して栄冠を掴み取った。

 

 割れんばかりの大歓声。感涙にむせび泣く観客。響き渡るコール。

 間違いなく、日本レース史に残る名場面だった。記録にも、記憶にも残る──

 

 ……そして、あたしにとっても。

 

 

「くそっ……!」

 

 誰も居ないバックヤードで、あたしは壁を殴りつけた。

 コンクリートの固く冷たい衝撃が拳にビリビリと響く。それすら今のあたしには大した痛みでは無かった。

 

 仕上がりは完璧だった。作戦も──今思い返しても大きな欠点があったとは思えない。観客の評価は十番人気と辛辣だったが、それでもあたしは勝算はあると思っていた。

 でも届かなかった。“帝王”にも、それどころか二着のウマ娘にさえ。

 

 あたしはまた、あの子を一番にしてあげられなかった。

 

「お~いヒロミさん、もー何しちゃってるのさ。右手痛めるよ」

 

 聞き慣れた飄々とした声が聞こえる。声のする方を見れば、ふわふわのツインテールの少女が少し汚れた勝負服を纏って立っていた。

 

「ネイチャちゃん……ごめん……」

「なんでヒロミさんが謝るのさ。負けたのはアタシだよ?」

「違う、違うの! あたしがもっと良い作戦を考えられてたらこんな結果には! あたしに……! もっと、知識があれば……」

「“三年連続三着”。アタシはアタシらしくて好きだよ、この称号。それにね、アタシ勝ったのがあの子で良かったって心底思ってる。アタシたちの世代のヒーローが帰って来てくれて本当に嬉しかった。嘘なんかじゃないよ」

「なんで……? どうして貴女はそんなにすんなり現実を受け入れられるの……?」

「決まってるじゃん。慣れっこだもん。こんな事」

 

 恐ろしいほど達観した言葉──いや、きっとこれは“諦観”なのだろう。

 この子はいつもそうだ。何かにつけて予防線を張って、素直な誉め言葉さえはぐらかして、いつからか悔しささえ押し殺すようになった。

 あたしがもっとしっかりしていれば、この子をこんな脇役根性にまみれた少女なんかにしなくて済んだはずなのに……! 

 

「……あれ、ネイチャちゃん……髪飾り、どうしたの?」

 

 ふと彼女の右耳の辺りを見ると、普段から着けている緑色のリボンが無くなっている事に気付いた。

 

「あ~これ? ファンの子にあげちゃった」

 

 彼女は何気なくそう言った。

 

「“あげちゃった”って……あれはネイチャちゃんが小さいころからずっと大事にしてた髪飾りじゃないの!?」

「大事にしてたって程じゃないよ。替える気がなかったから使ってただけ」

「それにしたって!」

「というより、あげたくなったの。運命的な何かを感じちゃって」

「なにそれ……?」

「そうだ、ヒロミさん。お願いがあるの。もし、もしもだけどさ。いつかアタシと同じ緑色のリボンをつけたウマ娘が、ヒロミさんの前に現れたら……そしてその子がもし何かに悩んでいたり、困っていたりしたら──ヒロミさんに導いて欲しいんだ」

「え?」

「アタシも自分がよく分かんないこと言ってるって分かってる。けどさ、ちょっとあんまり上手く説明できないって言うか……とにかくこんなアタシの我儘、聞いてくれないかな?」

 

 それが彼女の言う通り本当に説明できない事なのか、それとも私には言えない事で理由をはぐらかされたのか、そこまでは分からなかった。

 でも──理由がどうあれ、信用も信頼もとうに失ったと思っていた当時の私にとって、あの子に頼られたという事実は縋りつくには十分すぎる程の魔力を放っていた。

 

「……分かった。約束する。もしその子を見付けたら、例えどんな問題があったとしてもあたしが担当する。その子の夢を、絶対に叶えて見せる!」

「うん、お願いね。頼んだよ──」

 

 ──その後も、あの子は三年に渡って最前線で戦い続けた。同世代のほとんどが引退し、いつからか古豪と呼ばれるようになった後も……脚部不安により六回目の有マ出走を断念し、引退したその日まで。

 

 そして後には、あの子に約束を託されたあたしだけが残された。

 

 

 

「……それが事の顛末。あたしが知っている全て。後はあなたが何か知ってたら、私としても謎が解けてすっきりするんだけど」

「え……」

 

 話を聞いてみても、私が知らないネイチャさんの一面が見えた、くらいなもので。むしろ困惑が深まったと言えよう。

 

「……私が憶えてるのは、ネイチャさんにこのリボンを渡されるときに『いつかきっとあなたの夢を助けるから』って言われた事くらいです」

「そっか~……じゃあまあ、多分だけどあたしがあなたを見付けられる目印として渡したって事なのかなぁ。でもそれじゃあの子があたしに託した理由が分からずじまいだよね……じゃなくて。それでさ、あたしに担当させてほしいって話、どう? 受け入れてくれる?」

 

 私は答えに窮する。

 

「えーっと……正直自分の知らないところで話が勝手に進んでいた感じでまだ受け入れられる気がしないって言うか……」

「そうだよね。じゃあまず、あたしのチームに見学だけでも来て欲しい。それを見た上で、決めて欲しいんだ。あたしがあなたのトレーナーとして相応しいか否か」

 

 話が急だからイメージが湧かないが、正直願ってもない提案だ。荒尾に引き続き特に苦労もせずトレーナーが見つかるなんて恵まれすぎていると言って良いだろう。

 

「あー、こほん! そこの君とトレーナー!」

 

 声がした方向を向くと、『生徒会』と書かれた腕章を付けた長躯のウマ娘がどこか寒気を感じる笑みを湛えながら立っていた。

 

「すまないが話は別の場所でしてくれないかい? 交通の邪魔になっているよ」

「あ! ごめんなさい! じゃあケイウンヘイローさん、考えておいてね! あたしの部屋は名刺に書いてあるからー!」

 

 増永トレーナーは散らばった書類を乱雑に搔き集めると、ぱたぱたと駆け出して行った。

 私も立ちあがってスカートの裾をはたくと教室へと急ぐ。五時間目に遅れてはたまったもんじゃない。

 

 どうにか教室に駆け込んで自分の机にどてっと腰掛けると、隣の席のユリちゃんが怪訝な顔で話しかけて来た。

 

「遅かったね。どうしたの?」

「いや……なんか……トレーナーにスカウトされた……」

「え?」

「私も正直まだ現実味がない……」

「……受けるの?」

「うーん、まだ分かんないかなぁ」

「……そう」

 

 さて、とりあえず今日の予定は決まった。五時間目のスポーツ科学が終わったら増永トレーナーのチーム部屋に行って、見学してから入るかどうかを決めよう。あ、せっかくだし例の“逆評定”で評価を見ておこうかな。

 

 私は机の中に突っ込んでいた冊子を取り出し、索引から増永トレーナーのページを開く。

 増永浩美:C・主な担当ウマ娘──

 

 ……あれ? 

 

「はいみんな席に着いて、授業始めるぞー」

 

 先生が教室に入って来て、私は冊子を再び机の中に入れる。

 その時感じた違和感は、一旦忘れ去ることにした。

 

 

                     ◇◇◇

 

 

 さて、荒尾においてチームの部屋とは小さなプレハブ小屋の事を差し、コースに隣接した各チームの部屋が密集する地区の事を“団地”と揶揄していた。

 だが、ここ中央ではその辺りの事情も多様である。荒尾と同じくグラウンドの近くに小屋を設けているチームもあるが、便宜の良いここを使えるのは成績のいいトップ層のチームが優先されるらしい。他のほとんどのチームは校舎西側の道を一本挟んだ反対側にあるチーム棟に詰め込まれているが、トレセン学園の近くにトレーナーの自宅を兼ねてチームの部屋を設けている所があったり、名家のお抱えチームともなれば近郊に専用のトレーニングから保養までを一括で行える施設を有していたりと、自由度は極めて高い──というのが、こっちに来てから知りえた中央のチーム事情である。

 五時間目が終わり足早に教室を出た私は、チーム棟の前まで足を運ぶ。中等部と高等部の棟から出てきた生徒が人の流れを作り、チーム棟へと吸い込まれていく。二千人強の生徒の内現役が半分だと仮定しても千人前後か……改めて凄まじい数だ。

 名刺に記された場所を頼りに階段を上って二階へ。廊下の突き当りがその場所らしい。

 

『チーム“アルドラ”』

 

 白木の表札に力強く記された文字が示すこの部屋が増永トレーナーのチーム部屋だ。

 私はとんとんと扉を叩く。

 中からガタゴトと物音がする。こちらへ誰かが駆け寄って来る足音が聴こえ、ガラッと扉が開いた。

 

「あぁ、ケイウンヘイローさん! 早かったね」

 

 扉の向こうに立つ増永トレーナーは、昼休みに会ったままの金縁丸眼鏡にジャージを羽織った姿だった。

 

「こんにちは、もう入っても大丈夫ですか?」

「あ~本当はもうちょっと整理したかったんだけど、まあいいや。どうぞ!」

 

 増永トレーナーに招き入れられて私は中に入る。ぱっと見で十二畳ほどの部屋の中には、壁際にあるホワイトボードを囲むようにパイプ椅子が六、七脚ほど乱雑に置かれ奥には木製の大きめの棚が。

 反対側の壁際には本来は応接スペースだったのかテーブルと一人がけのソファが二つ置かれているが、今は雑多な物で溢れている。そして部屋の右奥には書類置き場が……じゃなくて、どうやらトレーナーのデスクらしい。書類の山で武装され、その頂点には何かを示威するが如く栄養ドリンクの空き瓶が燦然と輝いている。

 つまるところ、世間一般の基準だとそこそこな汚部屋判定にせざるを得ない空間が広がっていた。

 

「ごめんね~散らかってて。あ、そのあたりの椅子適当に使って良いから。まだみんな集まらないと思うし」

「あ、はい分かりました」

 

 ま、まあ私は潔癖では無いからこのレベルなら我慢できる範囲だ。パイプ椅子の一つを拝借して腰掛ける。目の前のホワイトボードにはチームの誰かのローテが記されている。

 

「あ、気になる? ジュニア級の子のローテなんだけどさ。マイルが得意な子でこの前デビューして、初勝利はまだだけど掲示板は外してないしどうにかして阪神JFに出せないかって考えてたの」

「へ~すごいですね。トレーナーさんはG1勝った事あるんですか?」

「それがまだ無いのよ。出走は何度かしてるんだけどね。やっぱり勝利まではなかなか……あ、そうだ。ケイウンヘイローさん、ネイチャちゃんのファンって言ってたよね? せっかくだから見せたいものがあるんだけど」

 

 そう言って増永トレーナーは青いな大きな布のようなものを持ち出してきた。

 

「これって……あっ!!」

 

『第24回 高松宮杯 優勝ウマ娘 ナイスネイチャ』

 紺地の布に白の菊花紋が染め抜かれ、金糸で刺繍が施された“それ”は……

 

「ネイチャさんの優勝レイ……!」

「そうだよ~本物です! 持ってみる?」

「い、良いんですか!?」

 

 増永トレーナーが私の腕にレイを掛けてくれた。

 思ったより重い。いや、感覚的な物かもしれないが……これはネイチャさんが駆け抜けた、確かな歴史の重みだ。

 

「トロフィーと他のレイはネイチャちゃんが持ってるんだけど、これだけはあの子が引退する時に記念にってあたしにくれたの」

「なるほどそれで……私重賞勝った事無いんで本物のレイって初めて触りました」

「ああ、そうだったね。ケイウンヘイローさんが来る前に軽く今までの戦績を調べさせて貰ったんだけど、中央に移籍して来ただけあって安定感はかなり高いけど重賞は三回出走して二着が二回でもう一回は着外。惜しい所までは行くけど勝ち切れてないね」

 

 おうふ。私が若干気にしている所を。

 

「あはは……そこは何ともお恥ずかしいと言いますか……」

「全力で戦った結果を恥じる必要なんか無いよ。むしろそれで“自分は出来ないウマ娘だ”とか思い込むようになると露骨にレースでの勝負根性に直結するからね」

 

 そんな事を話していた時、部屋の扉が勢いよく開いた。続いてウマ娘達がぞろぞろと中に入って来る。

 

「おーいヒロミちゃーん、言われた通りみんな搔き集めてきたよー!」

「こら! 扉は丁寧に開けなさいっていつもも言ってるでしょ! 全く……あ、ケイウンヘイローさん、紹介するね。うちのチームメンバーです!」

 

「まずはシニア級、エアオーサム! 現役四年目の叩き上げ! 勝つときは大体上がり最速、末脚勝負が得意な差しウマ娘! レース大好き勉強大嫌い、モノ使いが荒い問題児!!」

「キミがヒロミさんが言ってた子!? よろしくねー!!」

 

「続いてもシニア級、追い込みウマ娘ヒカリアイ! 晩成型故にデビューが遅れ初勝利も未勝利戦終了ギリギリだったけど、シニア級になった去年遂に本格化! 近走はほとんど掲示板内を逃さなくなったし、それどころかほぼ全部上がり最速で走る! でも気が弱いせいで道中が後ろ過ぎて差し切れない!!」

「お、お手柔らかにお願いしますぅぅ……」

 

「次もシニア級、ゼンノパルテノン。通称ノンちゃん! 同じシニア級の二人の一個下の世代! さらに二人とは違って先行型! 気配りが出来るみんなのお姉ちゃん的存在! なお現在怪我で長期休養中!」

「うふふ、よろしくね~」

 

「続いてクラシック級、ヒカリダイキャスト! ヒカリアイの妹でレースが好きなのではなく“レース場”が好き、さらに細かく言うなら“バ場”が好きなオタクッ娘! コースを自分の足で走る事が目的なので正直勝利にはそこまで執着がない! 未勝利戦は今月末で終わるのに依然未勝利! どうしよう!!」

「ふひひっ、よろしくでやんす」

 

「次はジュニア級、メイショウバルドル! つい先日メイクデビューで初勝利を飾った今チームで一番勢いのあるウマ娘! 元気いっぱいやる気もいっぱいだし次走は重賞にでも送り込もうかなって考えてる!!」

「よろしくっス~!」

 

「続いて同じくジュニア級、テンザンコノハナ! まだ未勝利だけど一度も掲示板は外してない安定感抜群のウマ娘! 小柄な身体で逃げが得意! だけど最後は捕まっちゃう! ノンがみんなの姉ならこちらはみんなの妹ポジション! なお絶賛反抗期中! かわいいね!!」

「はぁ!? かわいいとかナメないでほしーし!」

 

「そして最後、ジュニア級のビードラスティック! 強そうな名前と裏腹にかなりのおっとりさん! しかし潜在能力はピカイチ! 末脚の爆発力はシニア級にも引けを取らない! でもおっとりさんだからレース展開見てて正直ハラハラする!!」

「あーい。よろでーす」

 

「以上七名! これがチームアルドラのメンバーです!」

 

 ……濃い! キャラが!! 

 

「……あ、本日見学させて頂くケイウンヘイローです。よろしくお願いします」

「よし! じゃあケイウンヘイローさん、こっからはメンバーの子と同じメニューで動いてもらうけど良いかな?」

「はい、大丈夫です」

「よし! じゃあみんな着替えたら校門前に集合! ランニング行くよー!」

「はーい」「うぃーす」「わかりました~」

 

 そして皆が更衣室へと移動し始めたので、私もついて行く。

 どうしよう、とりあえず当たり障り無さそうな人に話しかけてみるか……

 

「あ、あの。ゼンノパルテノン先輩」

「ノンでいいよ~、みんなそう呼ぶし。なに?」

「じゃあノン先輩。えっと、これからの練習メニューってどんな感じなんですか?」

「うーんとね~まずトレセンの前からランニングだね。けやき並木通りを通って東京レース場の隣を抜けてから是政橋を渡って、稲城大橋の方を周って戻って来るの。だいたい10キロかな~」

「つまり、時速60キロ出るあたしたちの足なら6秒で帰って来れるって訳!」

 エアオーサム先輩が隣からひょいっと顔を出してしれっととんでもないことを言ってきた。それにヒカリアイ先輩がおどおどしながらツッコミを入れる。

 

「オ、オーサちゃん……単位間違ってる……そ、それに信号とか制限速度とかでいつも30分は掛かってるでしょ……」

「あれ? そうだっけ? さすがアイはあたま良いねー!」

「いやオーサちゃんが……う、ううんなんでもない……」

 

 その様子を見てノン先輩がくすくすと笑う。シニア級の先輩たちはなんやかんやお互いに仲は良さそうだ。

 

 着替えを終えて校門の前に集合する。ピークは過ぎても暑さはなかなかのもので、ツクツクボウシがしきりに鳴き声を響かせていた。

 

 

「じゃあ今日はノンが先頭ね! あたしはグラウンドの方で飲み物用意して待ってるから、終わったらこっちまで来てね!」

 

 サンバイザーを追加装備した増永トレーナーが指示を出す。

 

「はい、じゃあみんな行くよ~」

 

 ゼンノパルテノン先輩が先頭になり、シニア、クラシック、ジュニアの順で並んで走り出す。

 

「あの、ケイウンヘイローさんは地方から来たんっスよね。得意脚質って何だったんっスか?」

 

 黒鹿毛に一本まっすぐ流星が入った少女が話しかけてきた。

 

「えっと、メイショウバルドルちゃんだよね。私は逃げ先行が得意だよ」

「なるほど! やっぱ逃げ良いっすよね~! あと自分の事は“メイ”でいいっス。こっちのコノハも逃げが得意なんっスよ! まあ一回も勝ってないんスけどね!」

「ひとこと余計だし! そもそもメイはまだ一回しかレース走ってないのに調子乗りすぎだし! コノハは経験ほーふだから、本気出したコノハの方が強いし!!」

「ふたりともーケンカはやめなよー。エネルギーのムダだよー」

「ドラはだまっててほしいし! コノハより遅れてデビューした分際で経験ほーふなコノハに口出ししないでほしいし!」

「デビュー一日しか変わんないけどねー。ついでにあーしはもう一回勝ってるんだけどねー」

 

 ジュニア級の三人も、まあ仲悪いって程じゃなさそうかな。

 で、もう一人が……

 

「アタシに用でやんすか?」

「うわっ」

 

 唐突に隣からにゅっと飛び出してきたのはそのもう一人、ヒカリダイキャストちゃんだ。

 

「わ、私まだ何も言ってなかったんだけど……?」

「なんかそろそろ出番かなーって思ったんでやんす」

「そ、そう……えっと、ヒカリダイキャストちゃんは私と同じクラシック級なんだよね」

「ご名答! 今を時めくクラシックでやんす。まあアタシはケイウンヘイロー氏とは違って未勝利なんですがね」

「そっか……あれ、私戦績って言ったっけ?」

「トレーナー氏に事前に名前を聞いて今までの戦績はあらかた調べたでやんす。荒尾レース場に居られたそうで」

「そうそう。そこまで知ってるんだ」

「アタシはレース場オタでやんすからねぇ。いやー荒尾、良いっすよねぇ。開設時から同じ場所にある最古の地方レース場。一二コーナーが狭く、三四コーナーが広く作られた形状は上空から見た阪神レース場を彷彿とさせる。コースの高低差はほぼ無し。スタンドからは一面に有明海が広がる眺望。海に直接面したレース場はもはや荒尾しか現存していやせんし、まさに唯一無二! そして何と言ってもその砂質! 長崎は壱岐の海底砂を使用し、砂質はきめ細やかで水はけがよく、先行有利が多い地方の中では珍しく比較的後方脚質が決まりやすいという特徴はやはりその粒径が……」

「お、おーい?」

「……こほん、失礼しやした。まあともかく、クラシック級同士仲良く致しやしょうね。あ、アタシの事は“ヒカリ”か“ダイ”でお願いしやす。ふひひっ」

 

 ……あの子たしかヒカリアイ先輩の妹だったよな? 姉妹でこんなにちがうなんて、遺伝子も当てにならないもんだなぁ。

 

 それにしても流石は日本最大のウマ娘教育機関のお膝元。大きい道にはウマ娘専用レーンが整備されていてとっても走りやすい。これが荒尾だと幹線国道に自転車と共用のレーンがあるだけだったもんなぁ。

 

 是政橋を渡り、左手には悠々と流れる多摩川。この辺りは東京と言えど郊外だし、人通りも比較的少なく街並みにも窮屈さが無い。住む分には都内よりよっぽど良いだろうな。

 都道九号と一緒に稲城大橋を渡って、中央自動車道の高架を潜り府中市の市街に戻って行く。著名な歌手が『右手には競バ場』と歌ったのはこの上からの眺めだそうな。東府中駅の側を抜けて甲州街道こと国道二十号を西に走り、府中駅の手前の交差点を右に。寮を横目に次の角を左に曲がると学園の敷地に戻って来た。そのまま校舎の左側を通ってグラウンドの入り口に差しかかった所でようやく減速した。

 炎天下三十分、流石に汗がだくだくと溢れている。

 

「はいみんなお疲れ! 自分のドリンク取ってね! あ、ケイウンヘイローさんは赤色のやつ使って!」

 

 グラウンド脇の日陰になっている観戦席で増永トレーナーが待っていた。氷の詰まったクーラーボックスの中にはボトルが八本冷えていて、私は言われた通り赤色のボトルを手に取る。

 周りの皆の様子をちらりと窺ってからキャップを取りぐいとボトルを傾ける。キンキンに冷えた甘酸っぱいスポーツドリンクが喉を通過し、食道の形がくっきりと感じ取れる心地がした。

 

「かーっ! やっぱこれだよね!」

「ふふ、ヒロミさんドリンク作るのお上手になられましたね」

「う、うん……初めて飲んだ時、しょっぱすぎて吹き出しそうになった……」

 

「あ、あの時は悪かったって! うっかり食塩の割合を小数に変えずに入れちゃったから……」

「普通は味見の段階で気付くべきでやんすよ~? ふひひ」

 

 しれっと恐ろしい話が聞こえてくる。適正量の百倍の塩なんて漬物でも作る気か? 

 

「ともかく! もう少し休憩したら予定通り、今日は坂路トレーニングです! 今日も二十分しか枠取れてないから、みんななるべくキビキビ動いてね!」

「えっ、坂路!?」

 

 思わず声が出た。

 

「ケイウンヘイローさん、坂路知らないんスか?」

「いや流石に知ってるけど。でもちゃんと坂路走るの初めてかも……」

「ち、地方ではどうしてたの……?」

「えっと、いつも神社の参道でした……」

「えーうっそだー!」

 

「別に珍しい事じゃないよ。そもそも地方でレースで使うコースとトレーニングコースが分かれてる方が珍しいし、坂路コース備えてる地方レース場なんて片手の指でも余るほどしか無いのよ」

 

 増永トレーナーが代わりに説明してくれた。メイちゃんがへーと気の抜けたリアクションをする。こう何て言うか、中央の子にとっては環境が恵まれてるのが当たり前なんだなって実感する。

 

「でもこういうのって枠とかがある物なんですね。私てっきり自由に走れるものかと」

「生徒数が多いからね~。みんながみんな殺到しちゃったら走るどころじゃ無いのよ。何ならグラウンドの方も五時間目終わった後から最初の二時間は各コース二十分刻みで予約したチームの貸し切りで、その後は全チームを二つのグループに分けて二十分ごとに使えるグループを入れ替えながら練習、本当に自由に使えるのは整備時間明けの二十時から消灯時間の二十二時までって決まりになってるの」

「うわぁ、何て言うか窮屈ですね……」

「でしょう? だからチームの方も各々工夫してて、予約枠を二、三チームの合同で予約したり、割り切って近隣の運動施設を使ったり……強いチームはスクーリングと称して東京レース場でトレーニングする事もあるみたいよ」

「ま、もともとは分散してた中央のトレセンをここ一か所に統合した弊害ってやつでやんす」

 

 うーむ、中央には中央なりの悩みというのがあるんだな。

 

「あ、ヒロミさん。そろそろ時間ですよ」

「わぁいけない! みんな行くよー!」

 

                     ◇◇◇

 

 慌ただしく移動した先はグラウンド西側の森の中だ。私たちを含めて二十人くらいのウマ娘とトレーナーが集まった。

 増永トレーナーが一緒にコースを使う他チームのトレーナーと挨拶を交わしているのを横目にコースの上に一歩足を踏み入れる。ざくざくとした茶色のウッドチップが一面に敷き詰められたコースが、ゆるやかな斜度をつけて一直線に森の中を貫いている。

 

「幅7m、全長550m、高低差16m。トレセン学園に二本ある坂路コースの内の古い方でやんす。新しい方はグラウンド最外周に元々あったオールウェザーコースを坂路に改造したものでやんす。世界的にオールウェザーがダートに代わって主流になるんじゃないかって言われ始めていた頃に世界に先駆けて整備したんでやんすが、ちょっと気が早すぎたみたいで結局不人気で、代わりに需要が増えすぎてパンク状態だった坂路コースを増設したそうでやんす。勾配は最初が2.0パーセント、続いて3.5パーセント、4.5パーセント、1.25パーセントと変化して行くやんす。アタシとしてはグラウンド西側じゃなくて北側に設置したほうが全長一キロは確保できて合理的だったと思うでやんすが、まあこれでも完成当時は日本最長の坂路コースでありやしたし、導入当初は坂路トレーニングの重要性がそこまで認識されてなかったのと警備の観点とかで色々あったみたいでやんす」

「へー、いやそれでも凄いね……」

 

 ヒカリちゃんの話を半分くらいで聞き流しつつ、私は思わずため息をつきながらコースを眺めた。

 増永トレーナーが片手の指でも余るほどしか無いと言っていた坂路コースを持つ地方トレセンがどこかを生憎私は知らないが、地方でも持とうと思えば持てる代物なんだよな。

 でもまあ、仮に荒尾にこれを作ろうと思ったら絶対に追加で海を埋め立てなきゃいけないだろうし、第一そんな金があるなら施設を綺麗にしてコースにターフビジョンの一つでも置くべきだ。今時ブラウン管テレビがターフビジョンの代わりなんて聞いたことないぞ。

 

「はいじゃあ三人ずつ並んで、十秒間隔で走り出してね。そして向こうに着いたら悪いけど少し休憩したら小走りで戻って来て。時間はあんまりないからね」

「まあ一人二本行けたら上出来ですかねぇ」

「はいじゃあ用意! スタート!」

 

 他チームのトレーナーがピッとホイッスルを吹くと、三人のウマ娘が軽快に走り出す。私はとりあえず最後列に並んで順番を待つ。

 それにしても、こうして大勢の中にいるとちゃんと“チーム”って感じがしてなんか良いなぁ。荒尾の時はほぼほぼマンツーマンに近かったし……

 

「ケイウンヘイローさん、一緒に走りましょうよ!」

 

 横からメイちゃんがにかっと笑いながら話しかけて来た。

 

「うん、良いよ。けど私坂路初めてだからペースわかんないかもだけど……」

「気負う必要なんて無いっすよ! 自分だけじゃなくてコノハも一緒に走るんで!」

「は? 勝手に巻き込まないでほしいし!」

「嫌なのか?」

「別にいいし!」

 

 良いんかい。

 

「はい次準備して! よーい!」

 

 私たちの順番が回って来た。いつも通り重心をぐっと落として構える。

 

「スタート!」

 

 ぐっと足に力を込めて踏み切る。そしてそのバ場の柔らかさに驚いた。

 すごい。荒尾のダートも相当柔らかい方だったけど、その数段は柔らかい。脚に衝撃がほとんど伝わってこない。それでいて足に纏わりついてくる感覚も無い。なるほど、これがウッドチップか。

 刹那、隣にいたメイちゃんとコノハちゃんがばっと飛び出した。

 キャンターで様子を窺おうかと思ってたんだけど、二人は最初からギャロップで飛ばすつもりか。

 なら、私も! 

 

 二人に並びかける為にもう一段ギアを上げる。ざくりと地面に踏み込んだ脚が身体を前へと押し出す。

 ……が。

 

「あれ!?」

 

 思った以上に前に行かない。というか、予想以上に走りにくい。ウッドチップコースだからずっと負担が少ないはずなのに、二の足が上手く出ない! 

 そして少しずつ息も上がって来る。脚も筋肉に乳酸が貯まって来たのか重くなって来た。

 

 デビューしたてのジュニア級の子相手に、引き離されはせずとも全く差が縮まらない……! 

 そして次第に傾斜が緩くなり、二人が勢いを緩めた。私もそれに合わせて速度を落とす。

 

 遂に追いつけなかった……

 

「ケイウンヘイローさん、ナイスランっス! ……大丈夫っスか?」

「はぁ……はぁ……うん、大丈夫、ありがとう……」

「どう見ても大丈夫じゃないし。強がっても意味ないし」

 

 コノハちゃんの言葉がちくりと胸を刺す。

 

「大丈夫? ケイウンヘイローさん……ここで休んでおく?」

 

 走り終えて一息ついていたノン先輩が優しそうに語りかけて来る。

 きっと心の底から心配してそう言ってくれているんだろう……だけど。

 

「──いえ、行けます。行きます!」

 

 私の奥底でくすぶる負けず嫌いな感情がそれを許さなかった。

 別にジュニア級の二人が弱いだなんて思っていない。

 でも、私は戦績に重賞の華々しさは無くても地道に積み重ねて、それで九州地区最強クラスのアオを降して這い上がって来たんだ。私なら通用するって期待して貰ったからここに居るんだ。

 信じてくれた皆の為に、強い自分で在りたい。

 

 小走りでスタート地点に戻る。さっきのペースで駄目だったのなら、次は走り出しを意識して……

 

「ケイウンヘイローさーん!」

 

 スタート地点の少し手前で増永トレーナーが私に呼びかけている。

 

「はい! なんですか?」

「えーっとね、ケイウンヘイローさん。ちょっと言いにくいんだけどね」

「?」

 

 増永トレーナーはちょっと気まずそうな顔をした。

 

「……坂路の走り方が、根本的に間違ってる……」

「えっ?」

 

「あのね、ケイウンヘイローさんの今の走り方はかなりストライドを意識した走り方なの。きっとそれはケイウンヘイローさんのありのままの走りだと思うから、それ自体は問題無い。だけど、坂路では別。この長い坂路を走る上で適しているのは、ストライドじゃなくてピッチ……歩数を意識した走りなの」

「えっ……い、一応私としてはピッチも、意識してた、つもりなんですけど……」

「うーん、ケイウンヘイローさんとしてはそのつもりかもしれないけど、まだ足りてないね。分かってるかもしれないけど、なぜ坂路ではストライド走法が不向きなのか、それは一歩の間隔を広くすれば広くするほど、脚を元の位置に引き付けにのに掛かる時間が長くなるから。

 平地なら問題無くても、坂路では十分引き付ける前に地面が足に迫って来る。つまり二の足が上手く出せない訳。だから動きがすごくぎこちなくなって、ものすごく走りにくい。で、ペースが上手く維持できなくて速度は出ないのに体力だけをいたずらに消費するの。だからストライド走法は根本的に坂路との相性が滅茶苦茶悪い。もちろん引き付ける力を滅茶苦茶鍛えればピッチとストライドの両立は理論上可能なんだけど……少なくとも今の現役ウマ娘でそれが出来るのは“英雄”ただ一人。手っ取り早く坂路を上手くなるには無理しないでピッチだけを意識したほうが良い」

「は……はい」

「荒尾で階段ダッシュはやってたんだよね? なら、やる事は同じ。太ももを高く上げて、すとんと振り下ろす。初めての坂路だからって気負わなくていいよ!」

 

 増永トレーナーがぽんと背中を押す。

 

 私、自分で解決しようとしてた。それも、増永トレーナーに言われなかったらもっと間違った方法を実践しようと……

 そうだよね、頼って良いんだ。そのためにプロであるトレーナーが居るんだから。

 

 もう一度スタート地点に立つ。息も十分整えた。今度は負けない。

 

「よーい、スタート!」

 

 合図と共に駆け出す。気負わず、軽く、ピッチを速く! 

 驚いたことに、さっきとは違ってぐんぐんと身体が前に行く。ウッドチップを踏みしめる小気味いい足音とびゅうびゅうと風を切る音が爽快だ。

 良かった、走れる。ちゃんと中央の子と遜色ないペースで行けてる! 

 楽しい──! 

 

「なーんだ、ケイウンヘイローさん速いじゃないっスかー!」

「……負けたし」

 

 二本目、今度はジュニアの二人を数バ身離して先着した。

 

 後ろからは三本目を走り出しているウマ娘も居たが、私がスタート地点に帰る前に号令がかかってそこで坂路トレーニングは終了になった。

 

 

                     ◇◇◇

 

 

「あの、今日はありがとうございました!」

 

 十八時頃に練習が終わり、集合したタイミングで私は皆に礼を言った。

 

「ケイウンヘイローさん、お疲れさま! うちのチーム、どうだったかな?」

「えっと、皆さん親切にして下さって、充実したトレーニングができました! ……あの、それで。もし良かったら、私このまま──」

 

 言い終わる前に、増永トレーナーがぱあっと喜色を顔一面に出して私の手を握る。

 

「もちろん!! 大歓迎だよ!」

 

 斯くしてあっさりと契約が結ばれた。

 

「良かったね~ヒロミちゃん」

「こ、断られたら簀巻きにしてでも引きずり込むって息巻いてたもんね……」

「そうなんですか……?」

 

 それは聞かなかったことにしておこう。

 

「そうだ、ケイウンヘイローさん! いきなりなんだけど……」

 

 トレーナーさんがニコニコしながら話しかけてくる。

 

「はい!」

「来週末のレース、出ようか!」

 

「……は?」

 

 

                     ◇◇◇

 

 

『──フルゲートで争われます。各ウマ娘ゲートイン、整いました!』

「は?」

 

 *九月十七日 三回中京三日目 第12レース

 クラシック級以上条件戦 ダート1700m左回り バ場状態:良

 

 ──斯くして、

 私の余りにも慌ただしい中央生活が。

 

『スタートしました!』

 

 

 

 

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