とある魔道具店店員の手記   作:シュワシュワ

41 / 44
番外編と銘打っていますが、中身は四章の続き。不定期更新です。


番外編
5-1 ダンジョンアドバイザー①


【爆裂探偵めぐみん、即解決編】

 鉄砲玉――じゃなかった、めぐみんがうちへと怒鳴り込んできた。

 

 掻い摘んで言うと、私がゆんゆんの族長試練のパートナーにアイリス王女を推薦した件がバレた。

 これといって口止めしていなかったのだから、まあ当然の帰結だ。

 次期族長の座を勝ち取ったゆんゆんは、喜び勇んでライバルの元へ報告へ向かったらしい。そこで『相方は誰だ』とツッコまれ、あっさり露呈したとか。

 

 王女を連れ出した件は、私としても不慮の事故だった。

 ……とはいえ、そう言い訳したところでキレられることに変わりはない予感がする。さもすべて計算通りでした、という態でやり過ごした。

 アホだの、無鉄砲だの、考えなしだの、頭がおかしいだの。めぐみんには散々罵られた。

 あの日、王女に会うため王城に突進した私を、ゆんゆんは『まるでめぐみんのようだった』と評していたのだけれど――まあ、あえて指摘はするまい。

 

 上記とはまた別件となるが。

 アルカンレティアのセレスディナは私の親戚なのかと、めぐみんが唐突に尋ねてきた。

 

 その話を彼女にした覚えはない。

 だがアクアには、アルカンレティアに血縁がいると、誰かは伏せて話したことがある。

 まず、私自身はアルカンレティアとの縁が薄い。訪れた回数も数えるほどだ。

 ならば、候補者は自然と絞られる。

 

 先日、めぐみんはアクアを迎えにアルカンレティアを訪れた。

 その際セレスディナと顔見知りになり、彼女とウィズのやり取りの中で、どうやら私とも知り合いだと知った。

 加えて、彼女は元魔王軍幹部。専門は諜報と謀略。……得意分野が、どこかの誰かさんとそっくりだ。

 改めて観察すると、顔立ちもどことなく似ているような。

 そういえば、体面を取り繕う手腕と、無駄に外面が良い点も共通している。

 

 最後のほうはだいぶこじつけに近かったが。

 とにかく、そうした積み重ねの末に私とセレスディナの関係を疑うに至ったとか。

 

 一体どうしたのだろう。今日のめぐみんは、やけに賢い。

 確かに図抜けた知力の持ち主ではある。ただ普段は、そこらのチンピラと大差ない知性しか発揮していないのに。

 驚きを率直に伝えて推理の正しさを認めると、褒められたはずのめぐみんはなぜか額に青筋を立てた。

 しかも胸ぐらを掴む前兆のように手をワキワキとさせ始めたので、私は咄嗟に後ずさった。

 

 そんな彼女は、私の倫理観の無さが魔王軍っぽいと急にコケにしてきた。

 さらに、特技や強みが重なる親族のセレスディナ以上に魔王軍向きな気がするから、私が魔王軍へ走らないか心配だと皮肉を飛ばしてくる。

 

 ……めぐみんは知らないことだけども。

 私はセレスディナだけでなく、めぐみんとも血の繋がりがある。

 今日の彼女は、ブーメランの投擲も絶好調のようだった。

 

 


 

 

【アクセルのゴースト】

 街の往来で、クリスと行き合った。

 この盗賊娘は、私をして神出鬼没と言わざるを得ない。とはいえ、今日は街にいたらしい。

 

 暫し立ち話をしていると、クリスがふと、ハッと何かを思い出した顔になる。

 人目を気にするように周囲を一瞥し、顔を寄せてくる。今から時間はあるか、と耳打ちされた。

 そのくらいは問題ない。内心首を傾げつつ、導かれるまま近くのカフェへ足を運んだ。

 

 クリスに奢られながら切り出されたのは、とある都市伝説だった。

 彼女が初めて耳にしたのは、めぐみん盗賊団のアジトだった。貴族界隈でこんな噂があると、イリスが教えてくれたのだとか。

 盗賊団がまだ活動していた頃の話だから、結構前のことだ。

 

 端的に言えば、様々な貴族家への乗っ取りを画策するフィクサーがいるらしい。

 誰が言い出したのか、『ゴースト』と呼ばれている。

 

 もちろん、アンデッドとは関係ない。

 いくら探っても痕跡らしい痕跡は見当たらず、幽霊のように実態が掴めない。その有り様から付いた渾名だという。

 噂を裏付ける証拠は何もない。つまり、荒唐無稽な与太話だ。

 

 しかし噂は何年も前から広まっており、今なお終息の兆しはない。亡霊に化かされたかのごとく、まことしやかに語られる。そんな不気味さがある。

 だからこそ誰もが下らないと切り捨てながらも、ひょっとすると何かがあるのでは、という一抹の疑念を拭えない。

 それがまた、噂の蔓延に拍車をかける。

 

 正体は、さる貴族とも、国内経済を牛耳る豪商とも、あるいはずっと昔に引退し世間から忘れられた大物冒険者とも言われる。果ては、魔王軍の謀計だという説まで。

 ちなみに最終目的は、国家の簒奪が有力視されている。

 なお、アクセル在住の貴族は既に多数が魔手に堕ちているとの説があり、ゴーストの素性もまたアクセル住民ではないかとささやかれている。

 

 興味を持ったクリスは以来、折に触れて真相を追ってみた。しかし本当に、まったく、糸口のひとつも見つからない。

 だからきっとガセネタだろうと、彼女自身はさして信じていない。

 完全に手詰まりとなり、どうせ実在するまいと軽い気持ちでダクネスに相談した。すると親友は、情報通な人物として私の名を挙げたのだという。

 それが今回の顛末へと繋がる。

 

 なお、噂の内容をクリスが語ったのは、ダクネスが私を推薦した後のことだ。当時ダクネスは『ゴースト』の名前を耳にした途端、むせて紅茶を吹き出しかけたという。

 それはそうだろう。だって彼女、噂の発信源を知ってるし。

 先にゴーストの話を聞いていれば、私を紹介しようなどという考えは出なかったはずだ。

 

 噂については私も聞いたことがある、何か手がかりを入手したら連絡する――と答え、クリスとは別れた。

 聞いたことがあるも何も、本当は全部知っているけど。

 

 ……いや、ビックリした。

 彼女の様子からして、絶対に違うという確信はあったのだけど。

 それでも二人きりの場で、図ったようにゴーストの話題を持ち出してくるものだから。よりにもよって、それを私に語るのかと。

 もしや、承知の上でわざとやっているのではないか。ほんの少し、そんな疑心が頭をもたげてしまった。

 

 というのも、クリスがお探しのゴーストとは、私のことである。

 

 


 

 

【ウィズ魔道具店安全基準条例】

 本日、アクセルの街で新たな条例が制定された。

 冒険者ギルドへポーション等の消耗品を大量に差し入れる場合、その品質と数量に上限を設ける――というものだ。

 大物賞金首への対処のように、パーティーの垣根を超えて大勢の冒険者が投入されるケースを想定している。

 

 一見、有事に身動きが取れなくなるだけの悪法に映る。

 だが実際は、かなりの余裕を持たせてある。杞憂に過ぎない。

 それこそ身の程を弁えず、差し入れのし過ぎで破産の道を突き進む破滅主義者か、救いようのない真正の愚か者でもなければ抵触しない。

 該当者は、ウィズくらいだ。今後も新たに現れることはないだろう。

 まあ、タイトルがそのまま条例名なのだから、実質的にウィズ魔道具店だけを狙い撃ちにしているのは一目瞭然なのだが。

 

 いやはや。権力者とのコネがあるとやはり便利だ。自由にルールを定められる。

 元々、商人ギルドと冒険者ギルドで同様の取り決めを設けさせてはいた。

 私としても当初はそれで十分満足していたのだけど、前領主が失踪し、奇しくも新領主一家との縁ができた。

 そこでせっかくだからと条例へ格上げし、拘束力を強化したのである。

 

 服だけを溶かす魔改造スライムを違法に所持している貴族の情報を餌としてぶら下げたところ、大いに張り切ったダクネスが諸々をなんとかしてくれた。

 風の噂によると、彼女は監督権を盾にその貴族の屋敷へ乗り込み、収奪したエロスライムを一時預かりの名目でダスティネス邸へ運び込んだそうだが……。

 一応擁護しておくと、条例そのものは真っ当な説得によって了承を得ている。スライム云々は、やる気を引き出すために用意したご褒美に過ぎない。

 

 なぜここまで大がかりな真似をしたのか。理由は無論、ウィズにある。

 

 昨年のこと。上位悪魔が近隣の森に出没し、冒険者ギルド主導で討伐隊が編成されたことがあった。

 そこであのポンコツ店主は、冒険者のために店のポーションストックをタダで全放出するという、とんでもない暴挙に打って出た。

 彼女が溢れんばかりの商才を遺憾なく振るった結果、当店が扱うポーションは、この街の駆け出しにはどう足掻いても手の届かない高級品ばかり。

 それを一挙にばら撒くなど、正気の沙汰ではない。あのときは本気で、店の存続を懸けた瀬戸際だった。

 

 アクセルは基本的に平和な街だ。再発の可能性は低いとは思っている。

 だが、無いとは言い切れない。だからこそ二度とこんな事態が起きぬよう、規則で縛ることにした。

 

 それでもウィズ相手では、牽制程度の効果しか期待できない。

 彼女は規律を重んじはする。けれど価値観の拠り所とはしていない。

 己の正義の心に従い、必要とあらばこんな条例などガン無視してくる。

 

 決め事を杓子定規に遵守する人間は、そもそもリッチーになどならない。

 もしそうであったなら、私と出会うこともなかっただろう。

 

 


 

 

【マンドラゴラばら撒き事件】

 バニルがポーション素材として仕入れたマンドラゴラを、ご近所からのお裾分け野菜と勘違いしたウィズが無料で配ってしまった。

 

 煎じれば薬になる。だが、野菜感覚で調理すれば害にしかならない。

 やらかした彼女へ、仮面悪魔のお仕置き光線が炸裂したのは、言わずもがな。

 

 幸い、大事には至らなかった。

 とはいえ、マンドラゴラを口にして錯乱した者が街中で暴れ出し、警察の厄介になる騒ぎは発生した。

 冒険者ギルドでも、原因究明のクエストが発行される始末。

 そして私は、それら一連の後始末に忙殺された。

 

 ……偶然なのだろう。

 だが、条例を制定した直後にこんな騒動を引き起こすとか、私への当てつけか何かか。

 

 


 

 

【ダンジョンが生えてきた】

 街の傍らにダンジョンが出現した。

 

 現在の冒険者ギルドは、その話題で持ち切りとなっている。

 手付かずのダンジョンには財宝が眠っている。攻略難易度次第とはいえ、確実なリターンが見込めるのだ。この盛り上がりも当然だろう。

 

 なお、今回のダンジョンは地下迷宮タイプではない。巨大な塔――つまり、全体が地上へ露出した構造である。

 ……何というか、早くもその末路が見えている気がする。

 彼女、大きくて立派な建物を爆裂で無惨に破壊するのが好きらしいし。

 

 ちなみに、ダンジョンマスターはバニルの知り合いとのこと。

 こともあろうに、この街にあんなダンジョンを構えてしまうとは。運が悪いか、はたまた経営センスに乏しいのだろう。私はそう踏んでいる。

 

 


 

 

【デッドスクリーム・ブラッディマリーはもういない】

 商店街を歩いていると、私と同じく夕食の買い出し中だったアクアと鉢合わせた。

 いや、正確には一方的に見つかり、ジャガイモ選びに付き合わされた。

 

 精悍で逞しいのと、プリティーかつちょっぴりセクシーなの。どちらが良いか、コメント込みでつぶさに聞き出された。

 ……心底どうでもいい。ジャガイモ男爵に何を見出しているのかもよく分からない。まず食材には不要だろう、その要素。

 

 それでも何とか選別作業を乗り切ると、余ったもう一方を、アクアから無造作に押し付けられた。

 きちんと処理はされているようだが、あまり雑に扱わないでほしい。手違いで芽が出ていようものなら事だし。

 ジャガイモの芽に、致死性の猛毒が宿っているのは常識だ。

 私もアクアも、プリーストの魔法で対処はできるけど。

 あと、私の献立にジャガイモを使う予定はないので、普通にいらない。

 

 そう言えば、彼女らは庭の畑でもジャガイモを育てていたはずだ。日数的に、収穫はまだしばらく先だろうけれど。

 そこまで考えたところで、同時期にアクアが種を蒔いて発芽させた植物モンスターのことも、芋蔓式に思い出した。

 あれは結局、どうなったのだろう。元気にしているのだろうか。

 カズマの経験値の肥やしにされていないなら、うちで引き取りたい。延々と果実を実らせる装置として従事してほしい。死ぬまで。

 そんな打算から尋ねると、件(くだん)の苗木はとっくにアルカンレティアへ移送済みだと明かされた。

 

 先頃あの街へ赴いた際、カズマが気を回して――というより、恐らく処分目的で連れて行き、そのまま現地に植えて帰ってきたという。

 寂しくならないよう人通りはある。しかし、人様に迷惑もかけない。

 そんな矛盾じみた条件で植え場所を探したところ、アクシズ教団管理の土地に、ちょうど良い一画が見つかったとか。

 

 アクア絡みだからだろう。安楽少女を置かせてほしいという頼みを、あちらは二つ返事で快諾したらしい。

 その土地は信徒しか立ち寄らないので、内輪への周知だけで事足りるとのこと。

 換言すれば、安楽少女が今後の生涯で遭遇する人間は、奇人変人と悪名高いアクシズ教徒に限定されることが確定した。

 

 連中のことだ。見た目が愛らしい少女なら、本性が人外だろうと気にも留めまい。平気でセクハラする。

 何しろあそこの教義は、モンスターを愛でることを明確に許容している。

 そして安楽少女に、自力での移動能力はない。すなわち、変態共から逃げられない。

 凄まじいストレスに晒されそうな環境だ。早死にしそう。

 朱に交われば赤くなるとも言う。いっそアクシズ教の教えに染まってしまえば、耐えられるかもしれないが……。

 

 いずれにせよ、惨い。ナチュラルに私より外道な仕打ちを強いているのでは、この女神。

 

 さしもの私も、僅かばかりの同情を禁じ得ない。

 アルカンレティアのある方角へと身体を向け、大して面識もない安楽少女の冥福を祈る。

 ……まだ死んでないけれど。

 とはいえ生きているほうが、むしろ深刻だと思うし。

 

 


 

 

【装身具を買い替えた】

 故あって、私には前々から持ち歩いている魔道具がある。

 それが少し前から、壊れそうな気配を漂わせていた。単純に、そろそろ寿命なのだ。

 

 いい加減買い替え時かと、以前購入した店を訪ねてみた。が、生憎もう取り扱っていなかった。

 機能的にアクセルでは需要が薄く、仕入れを打ち切ってしまったらしい。

 私もあくまで、念のためのお守りとして携帯しているに過ぎない。実際に役立った機会は、幸いにして無い。

 仮面悪魔の件を鑑みれば、最近は無用な気すらしている。

 

 それでも此度は、バニルに取り寄せを頼もうかと検討していた。

 しかし折よく魔道具の行商が現れ、しかもピンポイントで目当ての品を扱っていたものだから、予定を急遽変更。即決で買ってしまった。

 そしたら、ウィズが拗ねた。

 

 ウィズ魔道具店の店員でありながら、余所の店で魔道具を買った。それが大層お気に召さないらしい。

 言うなれば、異性の友人と談笑しただけで目くじらを立てるような。

 付き合ってもいないのに彼女面して束縛してくる、面倒な地雷女の空気を醸し出していた。

 

 第一、私の要望に適う商品は、うちの店には置いていないだろう。

 そう弁明するも、食い気味に『そんなことはない、ちゃんとある』と否定された。

 そして売り物を取りに、奥の倉庫へとウィズは駆けていった。

 

 そして持ち出してきたのはアイテム二点。

 まず見せられたのは、店長オススメの一品。

 私の買った品とお値段変わらず、それでいて性能はずっと上。彼女はそう熱烈に語る。

 当然、知っている。デメリットも含めて。要はいつもの欠陥品だ。

 というより、従業員の私が事前にチェックしていないはずがない。実用に耐えると判断していたなら、最初からここで買っている。

 

 そう淡々と反論すると、ウィズは怯んだ。

 だが、残る一点に余程自信があるのか、すぐさま気を取り直し、セールスを続行してきた。

 

 もう一点は、性能が際立っている。しかも先のような欠点も無い。

 ただし、高い。売り値は一千万エリスを軽々とオーバー。それも身内価格で、だ。

 店での私の手取り総額より上なのだけど。……ひょっとして、ギャグで言っているのだろうか。

 

 まあ、口に出すのも憚られる後ろ暗いお金を洗浄――ちょっとアレな手を使えば、買えなくもない。

 ただ、そこまでして欲しくもない。周囲に資金の出処を怪しまれては困る。

 そもそも私の用途的に、そこまでの高性能品はお呼びでない。

 だからバニルがバイトに入る前だった前回も、ウィズ魔道具店ではない、アクセルのちゃんとしたほうの魔道具店でわざわざ買ってきたのである。

 

 ちなみに、その常用している魔道具とは、精神を侵す攻撃への耐性を付与するタリスマンだ。

 性能はごく控え目。精々、下級の悪魔――この街のサキュバスが放つチャームを弾ける程度の、チャチな代物である。

 

 


 

 

【魑魅魍魎集うウィズ魔道具店の長、その恐るべき陰謀とは】

 塔のダンジョンが出来て、三日が過ぎた。

 

 今のところ、冒険者のダンジョン探索はすこぶる順調。

 紅い瞳の爆裂魔法使いが塔の周辺を怪し気にウロウロしている以外、これと言って懸念事項も無いと聞く。

 逆説的に、着々と攻略される側のダンジョンマスターにとって、現状はちっとも芳しくなかった。

 

 そんなわけで、バニルから依頼が舞い込んだ。

 困り果てたダンジョンマスターが知人のバニルに泣きつき、そのバニルが私にアドバイザーを打診してきたのだ。

 なぜ私なのかと問えば、外道さと悪辣さを評価しての選定だという。酷い。

 おまけに、将来のダンジョン建設に向けた予行演習として、今のうちに経験を積んでおくのが私の糧になるだろうと、悪魔はほざいた。

 

 それを耳にした瞬間、この仮面、とうとうボケたのではと訝った。

 表面上そうは見えないが、この悪魔はかなり永く生きている。老化により記憶や認知に陰りが生じていても、不思議はない。

 私も相手が人間であれば、その手の兆候は即座に判別できる。

 だが悪魔族となると、接したサンプル数が根本的に不足している。力及ばず見落とすこともあるだろう。

 そうでもなければ、私がダンジョン運営のノウハウを得て何になるというのか。

 

 依然として、ウィズ魔道具店の収益は低空飛行。バニルの野望であるダンジョン建築、その元手を稼ぐ算段は遅々として進まない。

 というか、ぶっちゃけ私が生きている間には無理だと思う。

 ダンジョン造りに取りかかるのが何百年後か何千年後かは判然としない。が、その頃には私はとうに土へ還っている。

 

 だから私個人としては、目先の売上より情報網とコネクションを拡充し、死後にバニルないし後継者へ継承することを主な目標に据えている。

 ちなみに、後継候補として目をつけているのはこめっこだ。

 ……あるいは単に、店の先行きに絶望したバニルが、現実から目を逸らしているだけかもしれないが。

 

 そんな無礼千万な胸の内を赤裸々に語れば、案の定バニルは怒り出した。

 よもや自覚症状が無いのでは――と私がなおも半信半疑でいたところ、あちらが予想だにしない爆弾を投げ込んでくる。

 というより、これを告げるつもりで話を運んでいたようだ。思わぬ不意打ちに、出端をくじかれただけで。

 

 何でも、ウィズが私でも行使できるリッチー化の禁呪を鋭意開発中だとか。

 それが完成すれば不死となる。だから途中脱落の心配はない。なのでそっちも手伝え――と。

 いや、何だそれ。私、聞いてないんですけど。

 

 どうも、この悪魔がウィズを唆したらしい。

 普通なら彼女もこんな提案には乗らない。ところが、『人間を辞めるくらいで及び腰になるはずがない』というバニルの一言に、あっさり主張を翻して話が進んだという。当の私を置き去りにして。

 いやまあ、その通りではあるけれど。

 

 それでも、延々と店で働かされ続けそうな未来には逡巡せざるを得ない。

 私は、長くても数十年後にはリタイアできる心算でいたのだ。

 そこへ永遠に終わらない可能性をポッとお出しされても、さすがに気後れする。人生設計を一から見直す必要が出てくる。

 大体、私が交わした約束は店のアシストのみ。ダンジョンはノータッチだ。

 まあ、そこまで長い付き合いになれば、乗りかかった船で最期まで協力することにはなるだろうけれど。

 

 なお、肝心のリッチー化改良は大苦戦しており、進展はゼロらしい。

 魔の道を極めた魔法使いの最高到達点。それがリッチー化の儀式だ。

 最高峰の使い手が決死で挑み、ようやく成し遂げられる魔道の奥義。

 それを、生まれつきアークウィザードの資質があるだけの素人でも扱える難易度まで落とすのが、容易なはずもない。ましてや、私は身体が弱い。

 

 もっとも、ウィズ自身は魔力も魂も極限まですり減らした瀕死の状態から、即席アレンジしたリッチー化をぶっつけ本番で試し、成功させるという離れ業をやってのけている。

 どう言い繕っても、怪物的所業としか言いようがない。

 骨にならず肉体を保持するなど、人間の面影を色濃く残しているのがその証左だ。

 本人曰く、ハイブリッドリッチー。

 

 少し真面目な話をすると。

 これから数多くの人間に先立たれるウィズが孤独に苛まれないよう、長命の友を増やそうと私を巻き込んだのだという。

 私をダシに、『お手軽リッチー化』という、世の聖職者と魔法使いが知れば揃って卒倒しかねないトンデモ技術が発明されようとしている。

 

 


 

 

【ダンジョンアドバイザーのお仕事】

 それはさておき、アドバイザーの話へ戻る。

 

 実のところ、バニルが召集したのは私だけではない。もう一人、サトウカズマも呼ばれていた。

 聞けば、彼の姑息さと悪辣さを見込んでの人選らしい。

 私たち二人のシナジーがいかなる成果を生むか、いつか自前のダンジョンを築く際の参考にしたい――バニルはそう、悪びれもなく言い放った。

 この悪魔、ダンジョンマスターも含めた私たちを実験材料にする魂胆を、隠す気が微塵もない。

 

 なおカズマは、私がバイト代を対価にアルバイト感覚で参加したと知るや、あからさまにドン引いて非難してきた。

 私は、バニルの持ち込んだ案件だからこそ端金(はしたがね)で引き受けたのだ。これが赤の他人なら――報酬を吊り上げるまで頷きはしない。

 というかいくら私でも、たかが『サキュバスの本気サービス券』とやらでホイホイ買収され、街の冒険者を平然と裏切っている男に、責められる筋合いはないと思う。

 人の心とか、お持ちでない?

 

 本題へ進もう。

 

 塔のダンジョン最上階。

 バニルに案内されて辿り着いた部屋で引き合わされたのは、メデューサだった。彼女がダンジョンマスターだという。

 アドバイザーが人間であることに、あちらは露骨な不信感を顕にした。

 それでもバニルの推挙もあってか、無闇な反発はしなさそう。ひとまずスルーでいいだろう。

 

 とはいえ、私はダンジョンへ足を踏み入れたのすら今日が初だ。

 冒険者ギルドでのバイト柄、知識はある。が、実地経験ではカズマに一日の長がある。

 そこで当面は、彼を教材に学習を優先することにした。

 

 その途中、罠の話題が持ち上がった。そこで私は、閃いた案を提言する。

 冒険者の死体でゴーレムを作ろう。外見はそのまま、接触した冒険者を自爆で吹き飛ばす仕様で。

 機能は歩行程度に絞り、戦闘技能その他はオミットする。

 この簡易型なら魔力消費も抑えられ、運用もしやすい。材料も死体を転用すればいいのだから、実にエコだ。

 

 横たわっていれば、怪我人の安否を確かめようとノコノコ近寄る冒険者を爆破できる。

 そこをクリアされても、動く死体ならアンデッドと当たりをつけ、浄化魔法で仕留めようとする一党の動揺を誘える。

 接近戦を仕掛ける戦士は、素直に爆破すればいい。

 例え撃破されても、邪魔な死体を低コストで処分しつつ、冒険者への嫌がらせにもなる。一石二鳥だ。

 

 そんなプレゼンを披露すると、メデューサが化け物でも目撃したような表情を浮かべ、私が悪魔ではないのかとバニルに確認を取り始めた。

 近頃、このパターンをよく目にする気がする。

 今日はカズマも同じ流れで悪魔扱いされたので、お仲間がいた。これっぽっちも喜ばしくはないが。

 

 ちなみに、死体をゴーレムに転用する発想は、セレスディナの傀儡化から着想を得た。あちらも似た使い方ができるので。

 爆発要素はバニル人形を参考に。ついでに爆裂岩も。

 私は既存のアイデアを拝借し、パッチワークしたに過ぎない。文句があるなら、元ネタに言ってほしい。

 

 ただし、現時点でダンジョンで命を落とした冒険者は一人もいないため、企画倒れで終わった。

 代わりに、負傷した冒険者を装った自爆人形を、トラップとして配置する運びに。

 敵感知スキルを掻い潜れるし、これはこれで悪くない。

 

 あれこれ提言した甲斐あって、最終的には目に見えて冒険者を撃退できるようになった。

 それもあってか、街へ帰る頃には、メデューサの態度もだいぶ軟化していた。

 明日以降も、当分はこちらの仕事がメインになりそうだ。

 

 ただ、私とカズマの献策は、外道さと姑息さと悪辣さがクローズアップされる傾向にある。

 この調子で継続すれば挑戦者のヘイトが激増し、終いには大変な事態を招く気がする。

 

 ひとまず、今日で大まかな要領は掴めた。

 次回は、私の取り柄をより一層ダンジョンに落とし込めるだろう。




・『ゴースト』
本作の一章にて、誰かさんがイベントフラグごとサクッと潰した『続・爆焔』一巻ボス(カレン)の代替兼、この番外編を締めくくるラスボス? 的なポジションに収まる予定。多分。

・魔改造スライム
Web版では、めぐみんの服を溶かす偉業を成し遂げての鮮烈なデビューを飾った。
改造元のグリーンスライムは、『爆焔』三巻三章で雑魚敵として登場する。

・塔のダンジョン
メモリアルファンブックの書き下ろし小説『ダンジョンマスターは世知辛い』より。
原作に忠実に則ると本来の発生時期は魔王討伐後の可能性があるが、本作ではパラレルワールド説を採ってここに挿入。

・爆裂岩
名前は『日常』のコミック一巻で登場。
自爆を食らったカズマが直後には元気にツッコミを入れているので、威力は多分そんなに高くない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。