団長ラブ勢のギャルハーヴィンだってそうさ!!必ず存在する!!!! 作:梏 桎
書きたいように書いたら、散策パートまでいきませんでした(ネタバレ)
22/05/01 加筆修正
「────なるほど〜! ラスフェレンさんの娘さんだったんですね〜!」
手紙に目を通した後、シェロちゃんが最初に掛けてきた言葉は宿の手配などでも何でもなく雑談からだった。
ラスフェレンはマッマの名前だ。
そしてシェロちゃんの反応で察するかもしれないが、私とマッマはあんまり似ていない。
分かりやすく遺伝しているのは髪の色と、この先伸びるか怪しい身長ぐらいなもの。
他はほぼパッパに似ているのが
逆に
「あんまり似てないですよね……パパの方が似てるって、村でも言われます」
「確かに、ジルヴェイルさんの面影が強いですね〜。
刀も相まって余計に、というのもあるかもしれませんが〜」
言うまでも無いと思うがジルヴェイルがパッパだ。
というかこの感じだとパッパも当然のように知り合いなのか。
どういう経緯で知り合ったのか気になったので聞いてみる。
「ママとパパとは、どういう関係なんですか?」
「お二人が貴女の親になる少し前からの知り合いですよ〜。
ラスフェレンさんからはお薬を、ジルヴェイルさんからは魔物から得られる希少な素材などを買い取らせてもらってます〜。
お二人から買い取れる物はどれも品質が良くて、シェロちゃんも大助かりです〜!」
成程、作った薬や解体した魔物の行方が判明した。
昔から、何処に持っていっているのか疑問ではあった。
村に定期的に回収に来る業者は知っているのだが、その人は輸送業者なので取引先とは言い難い。
妹君が産まれる前にマッマに聞いた事があったが、具体的な取引相手や職業の名前を出さずに──困っている人の所に運んでもらうのよ、といった──幼子に向けたフワフワした説明しかされなかった。
それ以降、改めて聞く事も忘れていたのだが、8年近く経って疑問が解消する事となった。
「そうだったんですね!
ママに昔聞いたんですけどはぐらかされちゃったので、ちょっとビックリしちゃいました」
「ふふふ〜! シェロちゃんもお二人の娘さんに出会えてビックリしましたよ〜!
そういえば、宿の手配についてですが……実は少し、困った事がありまして〜」
「困った事、ですか?」
雑談から入って本題に移行するシェロちゃん。
もしかして、私の緊張を解す意図があったりしたのだろうか?
それとも困った事が本当に面倒な案件だから、少しでも空気を軽くしておきたかった?
前者なら兎も角、後者はちょっと勘弁願いたい。
私がそういった事に巻き込まれるようになるのは、主人公と合流して彼らのお人好しに振り回される形だけで結構だ。
「実はですね〜、ご紹介したい宿がその……エルステ軍の方が宿泊しておりまして……」
────それはそんなに困り事なのだろうか?
貸し切られているなら、素直に別にすれば良いだけだろう。
私の考えている事がシェロちゃんにも伝わったのか、シェロちゃんは話を続ける。
「他の宿をご紹介したい所なのですが、帝国が一部の宿を完全に貸し切っていまして……
港町の規模と見合った量の宿しかこの町には有りませんから、残った他の宿に宿泊客が押し寄せているようなんです〜」
「成程……宿の空きが分からないって事ですか?」
「そうなんですよ〜! 普段なら問題無いのですが、つい先日、商団艇が流れの商人や旅人を乗合艇とは別で運んで来てしまったので〜……」
「そんな事があったんですね……
でも、宿が空いているかの確認って念の為に取っていただくことは出来ませんか?」
「それぐらいなら問題ありませんよ〜。 少しお時間を貰いますね〜」
そういってシェロちゃんは店の奥に一度姿を消した。
通信機がこの世界にあるのは知っているが、電話があった描写は記憶に無いが……
いや、単に店の裏手から出ただけかもしれないし、考えても分からないので店内でも眺めて大人しく待とう。
先程からシェロちゃんと話していたこの空間は恐らくレジカウンターだと思う。
私は推定レジカウンターから離れて、一旦店の入口付近まで戻る。
この辺は小物と書籍が多い。
入口付近に本があるのは益々コンビニっぽいが、ぐるっと回りやすい店を考えると自ずとこういう配置になるのだろうか。
「この手帳可愛いな……でも少し値段が気になるなぁ、使ってる紙が良かったりするのかな?
こっちの棚は……『マナリア魔法学院監修!子供から始める魔法基礎』、『詠唱に使えるカッコいい文言ベスト100』、『アウギュステ観光のススメ』
……なんか、タイトルのセンスが
妙な本ばかりで惹かれるものは無さそうだ。
どうせなら生のポポル・サーガとかサントレザン物語をお目にかかりたかったが、無いのであれば仕方ない。
少し進むと、日持ちする食品が並んでいるエリアが迎えてくれる。
「チュ○パチャプス!? ……じゃないのか、でもロゴもラベルもそっくりだなコレ」
何処かの芸術家がロゴ原案をしていそうな棒付きキャンディを見付けて思わず大きな声が出てしまった。
前世の私は、口が寂しくなると飴を舐めるかガムを噛むかの人間だった。
煙草も少し試したが馴染まず、家にも会社にも飴を置いていた。
特に家にはチュッパチ○プスのツリーディスプレイがあったレベルなので、とても気になる。
私はその棒付きキャンディを5本ほど選び、更に近くにあった砂糖菓子を幾つか手にする。
砂糖菓子の方は妹君への土産だ。
逆に言えば飴は全て私のである。
推定レジカウンターの近くになると、生鮮食品が増えてくる。
シェロちゃんの目が届きやすいのがこの辺りなのだろう。
となると、あの机で雑に仕切っているだけの空間が、矢張りレジカウンターなのだろうか。
今は兎に角、この飴を味わいたいのでここはスルーだ。
レジカウンターまで戻ってきた。
私は会話の際に出してもらっていた椅子にもう一度座り、飴と砂糖菓子を置いてカウンターの奥を見る。
奥には武器や防具が並んでいる。
扱いに慎重を期す物なので、シェロちゃんの許可無く触られないようにしているのだろう。
武器も防具も種類やサイズが様々だが、特に高価そうな物は見えない。
そういった貴重な物は更に裏手か、注文を受けてから持ってくるのかもしれない。
一通り眺め終わり、私が刀を抱いて椅子の上で船を漕ぎ始めていれば、シェロちゃんが帰って来た。
表情が芳しく無いので結果は察しがつくが、頼んだ以上は聞き届けるのが筋だ。
「ただいま戻りました〜。
それでですね〜、結果としてはやっぱりどこも受け入れる余裕が無いとの事でして〜……」
「お帰りなさいシェロカルテさん!
そうなんですね……分かりました。 となると、私はどうすれば良いんでしょう?」
受け入れの余裕が無いのは仕方ないし、それをシェロちゃんに当たるのはお門違いだ。
然し、締め出されてしまうとパッパと仲良く野宿か、パッパに仲良しの知り合いがいると信じて泊めてもらう、ぐらいしか思い付かないぞ。
「一応、件の宿は貸し切りという訳では無いので宿泊は可能ですが……あまりお勧めは致しませんね〜」
「どうしてですか?」
「その〜、何と言うか、態度にすこ〜し問題がありまして……」
成程、侵略国としてイキイキとしている今の帝国。
それはそれは軍人の態度も大きくなっているという訳か……
そこに泊まるのは確かに常人は嫌がるだろう。
残念ながら、私は常人側では無いのだが。
「それなら問題ありません!
パパと泊まる予定ですし、私はこう見えて強いですから!」
言いながらシェロちゃんに向けて力こぶを作ってみせる。
……無論、力こぶなんて無い。
触っても柔らかい二の腕しか堪能出来ない。
「う〜ん、強さの問題では無いのですが……
ジルヴェイルさんが一緒なら、大丈夫でしょうか〜?」
その後もどうするか決め兼ねるシェロちゃんを必死で説得して、私はエルステ軍人と同じ宿に泊まる事となった。
私がここまでゴリ押した理由は幾つかある。
まず最初に、将来の敵情視察だ。
主人公とイチャイチャする事が目標の私は、エルステ帝国が崩壊するまで加入を渋るなんて事はしない。
流石に『ある程度の強さを得たのでザンクティンゼルに直行しまーす』みたいな事もしないが、どんなに遅くても帝国の崩壊までには絶対に仲間でありたい。
今世の私にとって
今が原作開始から7年も前で、帝国も名を改めて3年程度の途上国だろうと、得られる情報はきっとある。
それが将来、主人公とエルステの戦いでヒントになって、そんな情報提供をした私に対して主人公が『有難う、ロイルミラのお陰で助かったよ』とか笑って褒めてくれて、序でに頭なんか撫でられちゃったりしたら……ぐへへ。
おっと、トリップしている場合ではない。
正直な理由としては、そもそも私はエルステの軍人を脅威と思っていない。
この小さな港町に態々将官が来ないと踏んでいるのもある。
恐らく宿泊しているのも、どれだけ見積っても中尉クラスだろう。
島から何か便利な特産品が得られると聞いた事も無いし、航路として重要という訳でも無いと思う。
重要な島なら、村の方まで来て領地確保に勤しむぐらいはしそうだし。
故に幾ら態度が大きかろうと、宿泊している軍人も辺鄙な島で諍いを起こすような事はしないと思っている。
私の考えがフラグだろうと思う諸賢は多いかもしれないが、かと言ってシェロちゃんにこれ以上の苦労を背負わせるのは申し訳無いというか、恐れ多いというか。
新たな宿を手配してくれみたいな無茶振りは、信頼を築いた後なら兎も角、今ツケにしたら一生ダシに使われそうだ。
シェロちゃんがその辺に関して甘くしてくれるイメージは、私には無い。
それに先述の通り、パッパが合流するので何か起きても平気だろうという楽観が含まれているのも否めない。
だがそもそもの話として、エルステの軍人と同じ宿に泊まるだけで何か問題が起きるというのが考え過ぎなのだ。
そうは思いつつ色々と策は用意したので、考え過ぎなのは私も同じかもしれないけれど。
§ §
あの後、お菓子の会計を済ませて私はパッパを待っていた。
今は日没、当初の予定通りなら合流する頃合いだ。
私は刀を抱いて、宿の外壁に背を預ける。
先に入ってチェックインを済ませるのも考えたのだが、ここに踏み込むのはエルステ軍人に囲まれるのと同義。
その辺の一兵卒に負けるとは毛頭思わないが、それは周囲の被害を考慮しない戦闘が前提でもある。
私は目くらましや意識を逸らす事を目的に、誰も居ない空間に平気で魔法を発射するタイプだ。
なので、壊してはいけない屋内戦に向いているとは言い難い。
宿泊予定の宿をぶっ壊しておいて悠々と泊まれる訳が無いのだから、大人しく待つに限る。
待つに限るのだが────
「暇だなぁ……」
口に出してしまう程に暇である。
前世も今世も、私は暇な時間を極力減らす事にしている。
傍から見た際に、アプリゲームに時間を割く人間は一般的に暇人と呼ばれるのかもしれないが、当時の私は真剣だった。
今世は時間が空いたら刀を振る、魔法研究、妹君を愛でると択が多く、ここ暫くはフュンフの魔力暴走というランダムイベントが発生するからやや寝不足なぐらいだ。
そんな人間に急に与えられた、人を待つ時間。
町中で刀を振る訳にも、魔法を放つ訳にもいかない。
妹君は私がそもそも港町に連れて行くのは危ないと判断したのだから居なくて当然。
思えば転生を自覚してからここまで、地道な修行ばかりとはいえ、ほぼノンストップで駆け抜けて来た。
一人で立って走ってが安定した時点で剣を振り始め、文字が読めるようになれば魔法を学んだ。
妹君が産まれてからは、頼まれてもいないのに立派な姉であろうと努めた。
妹君の件を除けば、これら全てが主人公とイチャイチャしたいという不純な動機で成り立っているのだから、我ながら異常なまでに懸想していると思う。
性別も分からないばかりか、そもそもこの世界にちゃんとグランやジータが産まれている保証も無いというのに。
────でも絶対いるよなぁ、私の
……いかんいかん。
勝手な決めつけ、勝手な所有物宣言、出会いもせずに想い人だなんてヤバめのストーカーみたいな思考と化している。
昔から主人公とイチャイチャしたい事を隠しもしなかったのでそこは良いのだが、どうも最近は度合いが違う気がする。
精神は兎も角、身体の方はそろそろ思春期だから思考が引っ張られているのだろうか。
中途半端に自分の妄想や思念がヤバいと自覚出来る分、普通の思春期よりタチが悪くないか?
「待たせて済まなかったね、ルミ。 ……ルミ?」
「んぁ? ……あぁ、パパ! 待ちくたびれたよー!」
「悪かった、今度埋め合わせをしよう。
それより何か悩んでいたようだが、大丈夫か?」
「だ、大丈夫! 大丈夫だよ! 本当に大した事じゃないし!」
気付けばパッパが目の前にいて随分と焦ってしまった。
誰がどう見ても下手くそな誤魔化しだったが、パッパはそれ以上の詮索をしないでくれた。
「それよりもさ! はやく宿に入ろう!」
パッパの優しさを受け取りつつ、多少の気恥しさから宿に入る事を急かす私。
パッパが頷き、宿の扉を開く。
受付のカウンターが正面突き当たりにあって、横には幾つかの仕切りが立てられている。
一角から煙草の匂いが僅かながら漂うので、喫煙所を含めたロビーなのだろう。
匂いの薄さからして、空調にも工夫を凝らしているのだと思う。
奥から賑やかな声が聞こえるが、時間帯からしてエルステ軍は食事中だろうか。
内装を見回しつつ、パッパと受付に向かう。
手続きはパッパに一任して、私は他の場所にも目を向ける。
喧騒の出処は受付の奥側なので、そこが食事場だろう。
受付の左右には廊下が伸び、更に廊下を入って直ぐに階段があるようだ。
(この構造だと厨房側に裏口の扉があったりするのかな……?
そうだとしたら、実質的に出口として機能するのは正面扉と宿泊部屋の窓だけか)
あれだけ問題が起きるのは考え過ぎとか思っておきながら、こうして万が一を想定してしまう辺り、何だかんだ不安なのかもしれない。
(宿のサイズからして、収容人数は30から40ぐらい。
この町の宿の数やサイズは知らないけど、一部の宿を貸し切りつつ、ここは空きがある事を考えるならば、今来ているエルステ軍は100人前後の規模っぽいか?)
人数を推測し、更にはそこから戦闘のシミュレーションが脳内で始まろうとしていた所で手続きが完了したらしい。
部屋は2階の左端。
大した距離差では無いが、この宿で一番山側の部屋という事になる。
宿内の逃走経路を工夫せずに済むし、迎撃にも向いている良い位置だ。
パッパと共に部屋に向かって歩き出した────その時。
「おいおいおい! ガキが
刀なんか持っちゃって物騒だなァ、えェ?」
こちらに声を投げ掛け、フラフラと寄ってくるヒューマンの男。
武器も防具も無いのに得物を持つ私達に対して随分な絡み方だ。
身長差がこれだけ合ってなお非常に酒臭いので、文字通り浴びるように飲んでいたのだろう。
この港町は別にエルステの領土では無い筈だから、彼がエルステ軍人ならば今も任務中の身だと思うが、その辺は平気なのだろうか。
その上、酒のせいかは不明だがパッパもお子様扱いと来た。
パッパは少しでも子供に見られないよう──私から見ると大して似合わない──顎髭まで生やしているのだが、この様子では彼の目には映っていないらしい。
「……何か御用ですか」
「はっ、大人ぶってんじゃねェよガキがよォ。
こちとら天下のエルステ帝国所属の軍人様だぞ〜?」
パッパの返答に対して何故か急にイキり始める酔っぱらい。
「その軍人様が、我々に何か?」
「んだァ!? さっきからナメた態度とりやがってクソガキがよ!
ぶっ潰されてェのか、オイ!」
何処にそこまで怒る要素があったのかまるで分からないが、酔っぱらいは雑で大振りな拳を振り下ろす。
パッパはそれを半歩だけ動いて避ける。
「お戯れが過ぎますよ、軍人様」
「なっ、てめ! クソが!」
いくら酔っているとはいえ子供相手なら普通に殴れると思っていたのだろう酔っぱらいは、パッパにあっさり避けられて動揺する。
これで少しは酔いが覚めて、自分が何をしているのか気付いてくれれば有難いが────
「おい、メルド! まだ起きてるよなァ!?」
「うるせーぞクレティ。 起きてるよ、起きてる。
んで? 何だってガキの前で騒いでんだお前」
「コイツら、俺らがエルステの軍人と分かっていながら楯突いてきやがってよォ!
ふざけてんよなァ!? だから潰す! 手ェ貸せよ、メルド!!」
ヒートアップするだろうとは思っていたが、仲間を呼ぶとは思わなかった。
出てきたのは酔っぱらい──クレティと言うらしい──より更に背の高いヒューマンの男、メルド。
個人名をベラベラ喋っちゃって大丈夫なのかとか、子供と馬鹿にしつつ援軍を要請するのはどうなんだとか、言いたい事が山程出てくる。
然し、今そんな事を口に出したら間違いなく意味の分からないキレ方をされる。
私は変わらずパッパにこの場を任せて、事態の静観に努めた。
努めたのだが────
「なーにバカな事言ってんだクレティ、ガキの相手なんざお前一人でどうにかしろよ。
それにもう直ぐ就寝時間だろうが。 何時まで飲んでんだバカ」
「んだとォ!? 誰がバカだよクソ野郎が! まずはてめェからやってやるよ!!」
「クソ野郎とは言ってくれんじゃねぇか、酔っぱらいが調子乗ってんじゃねぇ!」
仲間を呼んだ筈なのに、勝手に始まる別の喧嘩。
最早私とパッパはクレティの眼中に無く、メルドと取っ組み合いを始めてしまった。
私とパッパは顔を見合せ、溜息を吐いてその場を後にした。
翌朝、宿の前で隊長と思しき人物からこっ酷く叱られている軍人が2人目撃されたという。
密雲不雨:雨雲で覆われているのに雨が降らないさまから転じて、兆候があるのに何も起きないこと。
次回こそ散策パートです。