団長ラブ勢のギャルハーヴィンだってそうさ!!必ず存在する!!!! 作:梏 桎
出す予定が当初無かったキャラが書いている内にモリモリ増えていて困惑しています。
22/05/01 加筆修正
フュンフの夜泣きで目覚めないという、ここ最近では貴重な朝を迎える。
港町の宿からおはようございます。
昨夜はあの後──一方的にではあるが──帝国軍人に絡まれたのもあって、パッパが外出禁止令を発令。
夕餉はパッパの持っている携帯食、風呂は部屋に備えられていないので水で濡らした布で身体を拭いただけとなってしまった。
前世の私は入浴に関して特に思い入れも無かったのだが、いざこうして無くなってしまうと恋しくて仕方ない。
この身体としては10年、転生の自覚からは8年も経過するのに未練が消えない辺り、前世の感覚は未だ色濃く残っている部分も有るということだろう。
グランサイファーには無理を言ってでもシャワーと風呂を完備して貰わねばなるまい。
「ルミ、今日の予定は決まっているのかい?」
「一日中、買い物の予定だよ!
服でしょ、靴でしょ、布でしょ、アクセサリーも見たいし……」
「小遣いと相談して、程々にな」
「うん! パパはどうするの?」
「パパは今日も見回りだよ」
パッパと部屋で朝餉を食べながら今日の予定について話す。
今日もお仕事らしいパッパを元気付ける為に、後で久々にハグしよう。
パッパは私より先に起きていた。
何でも、宿側に無理を言って朝餉を部屋に持ち込む為の交渉をしていたらしい。
そこまでする必要があると判断する程、パッパとしては私を帝国軍人という脅威から遠ざけたいのだろう。
(ごめんねパッパ、ここの宿で良いって決めたのが大事に思ってくれている
「ルミ。 先に釘を刺しておくが、エルステの軍人と問題を起こさないように」
「問題なんて起こす訳ないじゃーん! もっと娘を信用してよ〜」
思考の先をいくようにパッパから釘を刺されるが、私は別にエルステに今すぐ喧嘩を売りたい訳じゃない。
寧ろ私がしたいのは装備や練度の観察なのだから、いっそ仲良くなれた方が効率が良いとか思っていない。
「……今までのルミの行動を振り返れば、パパが釘を刺す意味が分かるだろう。
ルミは頭が良いから、パパの言いたい事も分かるな?」
どうやら私の脳内にあった『仲良くなろうとする分には問題を起こすに該当しない』という屁理屈も、パッパ的にはアウトらしい。
直接的には言ってきていないが、目は口ほどに物を言うとは正にこの事なのだろう。
私は適当にしょぼくれたような返事をして、スープを口に流し込む。
一足先に仕事の為に宿を出るパッパをハグしてから見送ったら、私も準備に移る。
本日の予定はパッパに話した通り、買い物しかない。
他にも知識の確保の為に本屋を覗いたり、よろず屋に赴いて少しでもシェロちゃんと仲良くするつもりだが、こっちは急ぎでも無いのでこなせなくても良い。
そもそも何か他に買おうにも、別に我が家は特別に裕福だったりしないので、服と靴と布を買った時点で私の小遣いは残らないと思う。
優先順位を自分の中で改めて確認する。
主目的は買い物。 知識欲やコネ、果ては軍人の装備観察なんかはおまけ。
私は身支度を済ませ、宿を出るまで頭の中でこれを反芻させた。
何故そこまでしたかと言えば────
(あの兜を持ってる軍人さん、どう見てもデリフォードなんだけど……!)
ゲームで見たキャラに新しく出会って、仲良くなろうかと心が揺れていたからである。
§ §
デリフォードは酷く憂鬱だった。
切っ掛けは朝礼時、同期──と言っても特に交流は無い──が烈火の如く怒られていた事に端を発する。
然しそれだけなら、多少気の毒にこそ思うがそもそもが自業自得なのでどうと言うことは無い。
問題は隊長の怒りが班全体に向いた事だった。
有ろう事かこの隊長、喧嘩を仲裁しなかっただけで本日の鍛錬を倍増させ、更には隊長がやるべきである筈の『エルステ帝国とこの島の領土交渉』すら押し付けて来た。
因みに領土交渉に関しては『穏便に済ませなければ貴様らの首を飛ばす』という
そしてこの班において、誰よりも事を穏便に済ませられるだろうと白羽の矢が立ったのがデリフォード。
現在30歳、おじさんである事を身体が訴え始める年頃に、心まで老け込むような出来事が舞い込む。
デリフォードは自分の不運を嘆いた。
事の発端である同期──メルドとクレティ──は既に、特別指導という名目で隊長にシバかれており、これ即ち隊長が朝の意見を変えるつもりが無いことを表している。
現在デリフォードは町の視察・巡回を終え、束の間の休憩で宿に戻っていた。
そしてデリフォードは、この休憩が終わったら町長の処へ交渉に行かなければならない。
この町との交渉は既に何度か行われつつも空振っている。
それでも撤退しないのは、他所の島に比べて交渉の席を設けてくれるだけ希望があるからに他ならない。
隊長はあくまで穏便に済ませる事を最優先事項としているが、だからと言って交渉もそこそこに仲良くお茶会でもしろとは言っていない。
やるからには成果を、そうでなくともその足掛かりを提供する必要があるとデリフォードは考えていた。
然しこれといって有効な手も浮かばず、思わず兜を外して長い溜息を吐く。
(いかんな、このままでは交渉において下に見られかねん……む?)
己がどれだけ渋い顔をしているかなど、鏡を見なくても分かる。
然しこれでは交渉の際に弱みを見せているも同義。
帝国の威信に泥を塗ったと知られれば、隊長どころか国から処罰されかねない。
心を入れ替えて顔を引き締めようとした所、ふと感じる視線。
見てみれば、立てられている仕切りから顔を覗かせる幼子がいた。
見つめ返せば即座に引っ込んだ。 その際に何かを落として。
「そこの君! 落し物を……」
引き止めるよりも早く、幼子は既に宿を出てしまったようだ。
近くに人の気配も無い。
(帝国軍人しか宿泊していないと思っていたのだが、何故ここにあのような子供が……?)
ふと、幼子の落とした物に目をやる。
糸で紙片が括り付けられた小袋、その中身は砂糖菓子のようだ。
幼子に胸中で詫びつつ、少しでも幼子の手掛かりを得る為に紙片を開く。
紙片には殴り書きされたメッセージが残されていた。
────お仕事頑張ってください!
デリフォードは目を見開いたが、ゆっくりとその顔が喜色を帯びていく。
デリフォードにとって、今日が酷い日なのは確かだ。
交渉は確実に穏便に済ませるが、成功の手立ては未だに何も浮かばない。
交渉が終われば倍増した鍛錬が待っていて、暫くは筋肉痛で動く事も億劫になるだろう。
だが、それでも────
(ここは踏ん張り所だデリフォード。 何せ私は
彼は砂糖菓子の小袋を開けて1つ口に入れ、その甘さに少し顔を歪ませながらも、軽い足取りで町長の処へ向かった。
§ §
デリフォードと接点を作るという誘惑を振り切る事に成功した(していない)私は、
そもそも、ただの買い物で何かトラブルに巻き込まれる方がおかしいのだが、昨夜の件もあって気も
だが、取り敢えずここまでは平和に靴と服を見る事に成功している。
靴は主人公と出会う頃にまた変える予定なので、取り敢えず履き潰す前提の機能性を重視したものを購入。
結果として、以前履いていた靴と大差無いデザインになってしまった。
服はどうも私の好みに合わないものばかりで、今回は購入を見送った。
現在地はこの町で唯一の生地屋。
服を扱う店はそれなりに数があるし、そういう店でも生地を売ってない訳では無いのだが、生地を専門とするのは此処だけだ。
目当ては勿論、魔法戦士風の衣装に相応しい生地の入手。
後はステレオタイプのギャルを目指すので、カーディガンが必須だと私は思う。
なので良さげなウールか、アクリル生地があれば手に入れておきたい。
この世界にアクリル生地の製法が生まれているのかは定かでないけれど。
オクトーに『身体と精神の年齢差がバレているのでは?』という疑惑が上がってから、私は自らの演技が主人公にも看破される事を恐れてどうしようかと頭を悩ませていた。
ずっと落とし所を見つけられず、取り敢えず原点に立ち返って『主人公とこんなイチャイチャがしたい』という妄想に耽っていた時に、自らの原初の願望を思い出したのだ。
────『これもスキンシップだよ♡』とかいって頬に接吻するようなギャルハーヴィンになりたい。
ギャルハーヴィンになりたい。
忘れていた願望だった、然し叶えたい願望でもあった。
どうして忘れてしまっていたのだろう。
いつから
これも偏にオクトーのお陰だ。
何せ原点に立ち返って妄想をする決め手となったのは、彼の『畢竟、己を見失わぬ事が肝要よ』という激励を貰った日の夜の事なのだから。
────ありがとう、お爺ちゃん。 私に
然して私はこの先どう行動するかも、その為の服装も決まったのだ。
目指すのは前世におけるステレオタイプのギャル。
更にはオタクの夢*2である『僕にだけスキンシップが過剰なギャル』を主人公に向けて敢行する。
恥も捨てる。 外聞も捨てる。
露骨と言われようが気にしない。
そういう
前々から決めている通り、あくまで向けるのは『好意』であって『劣情』では無い。
少しは邪念が漏れるかもしれないが、それは人たらしな主人公が悪い(暴論)
行動指針に関しては非常に単純で、
後は先の通り、主人公への好意も明け透けにする。
(もしかして最近の妄想内容がヤバいのは、この行動指針のせいなのでは……?)
生地を見ながら自らの思いを整理していれば、何やら気付いてはいけない事に気付いてしまった気もする。
身体に精神が引っ張られているのと何方がマシか暫し考えたが、結局どう取り繕っても既に主人公を懸想している事実は拭えない。
……考え無かった事にして、私は改めて生地を見遣る。
今見ているのは魔法戦士風の衣装において非常に大事な、赤のスカート部分。
カーディガンに使用する予定のウールやアクリルと思しき生地も見付けたが、色が好みで無かったので既にスルーした後だ。
とはいえ戦闘服として扱う予定のものなので、着心地や色ばかりを重視してはいけない。
耐久性は勿論、基本は空の旅だから防寒も大事だ。
どれだけ安くてもダメな時はダメなので、ある程度スペアを確保しやすい値段であるかも見ておきたい。
魔法で強度や防寒性に補正をかける事自体は出来るけれど、常時発動させるにせよスイッチ式にせよ、その手の魔法は燃費が良いとは余り言えない。
それに補正を強めても、あくまで布の強度をあげていると言うよりは、魔法によって力を分散させていると言った方が正しいので、破ける時はどう頑張っても破ける。
その後も暫く生地を見ていたのだが、今日はこちらも目当てのものが無さそうだ。
理想の服装はパッと見がギャルJK、しっかり見れば魔法戦士である事。
カーディガンを求めた理由はここにあって、あくまでパッと見はJK風でありたい。
そしてギャルJKと言えばステレオタイプはYシャツの上にカーディガンと相場が決まっている*3。
そこに赤のミニスカ、黒サイハイ、白の脚絆にグレーブーツで下半身を魔法戦士スタイルで染める。
後は某イギリスの魔法学校よろしくローブでも着てみたいが、この辺まで来ると実際合わせてみないと分からないところでもある。
(ま、都合良く見つかる訳も無いか。
シェロちゃんに頼んで取り寄せとかも考えた方が良いのかなー……と?)
目が止まったのは小物売り場。
そこにあったのはマスクが入った箱。
前世の私が絶望的に似合わず、一度付けたっきり使った事の無い黒マスクがやたらと綺麗な箱に入っていた。
(
出来心か、もっと純粋な興味かは分からないが、何故だか非常に惹かれてしまっている私がいるのだけは確かだった。
私は黒マスクを購入して、次の目的地を目指した。
§ §
────ゴクリ。
私は目の前の鏡を覗く決心が付かないまま下を向いていた。
アレから本屋にあったファータ・グランデの空域図と国が書かれている小さな図鑑と、よろず屋で追加のお菓子を購入したぐらいで、めぼしい物が無いまま私の港町遠征は終わりを迎えた。
家に帰れば愛しの
抗議だけでは物足りず、覚えたての風魔法で人のスカートをめくる嫌がらせまで始めたので、お返しに私は闇の魔法で視界を覆った上で全身をくすぐった。
くすぐりに負け、笑いすぎてぐったりした妹を見て正直めっちゃエロ────じゃない、やり過ぎてしまったと反省。
砂糖菓子と飴を1本贈呈すれば許して貰えたのだが、妹君がチョロくて姉は少し心配です。
港町であった事などを夕餉の際にマッマに話して、済ませたら部屋に戻って買ったものを整理する。
そして、黒マスクを取り出して装着すれば、先述の状況に戻って来る。
(大丈夫、
この黒マスク、
この世界のマスクを私は知らないので、そもそも菌などを防ぐ効果があるのか、それともただのオシャレアイテムなのかすら分からない。
だが何とこの黒マスク、先程外側に少し魔力を流したら
そして装着すると私は
(やっぱこのマスク、ヤバいんじゃないのか……?)
魔力を吸引して装着者に還元するマスクとか曰く付きじゃないかと不安になる。
一応、呪いの装備じゃないかの確認──明らかに手遅れだが──として恐る恐る外れるか試したが、普通に外れたので呪われてはいないらしい。
ヤバいマスクなのは間違い無いが、便利な物である事も違い無い。
(後は私に似合うかどうかだ…… 幾ら便利でもクソダサかったら流石に凹むし)
私は意を決して鏡を見る。
「ヤバ、想像の5000兆倍は威圧感あるじゃん……
これじゃギャルというより不良かヤンキーだろ……
それに、付けた時点で薄々思ってたけど今の私にはちょっとデカいのもマイナス」
思わず前世由来の誇張表現を口に出してしまったレベルの驚きがあった。
似合っているかいないかで言えば、似合っていると思う。
これで睫毛をバッサバサにすれば更に
だが、言った通り今の私には少し大きくて不格好だし、何より80cmすら無い10歳の女子が出しちゃいけない威圧感がこのアイテム1つで生まれている。
(暫くは封印かな……面白い物を買えた事は幸運だけど)
私はマスクを外してそっと箱に戻す……前に、少し確認したい事が出来たので試してみる。
先述したが、このマスクは外側から魔力を吸って内側、つまり装着者に魔力を還元する仕組みが施されている。
────調べたい。
今世の私は基本的に修行ばかりしてきたが、修行内容は剣術を除けば他は凡そ全て魔法に関するものだ。
そして魔法は基礎体系こそマッマや他の魔導師に習って積み上げたものだが、そこから先は全てが私自身の研究と開発の賜物である。
前世知識という最高のイメージがあったとは言え、それを実現する魔力量や属性元素の選択は私が独自で行ったものなのだ。
要するに、今世の私は研究バカだ。
どれぐらいバカかと言えば、ツクヨミ様に万一事故が起きても防いで貰えるように見守って貰いながら、昼に狩った普通の兎と兎型の魔物をそれぞれ
因みに殆ど違いは無かったが、魔物の方には明らかに違うパーツが混ざっていて、魔力を送れば反応を返したので魔力炉のような臓器があるらしい。
更に余談だが、ツクヨミ様はこの研究中は私と一切の口を利いてくれなかった。
一通り終わって後片付けをしてから漸く喋ってくれたのだが『空の民は皆こんな事するの?』というニュアンスの質問をされてしまった。
私は『皆がするかは分かりませんけど、皆が興味持ってますよ!』と返した。
ツクヨミ様が心底理解出来ないという顔をしてて面白かったし、嘘であるとバラせば頬を膨らませて怒るので可愛くて仕方無かった。
閑話休題。
私は先ず、マスクの魔力吸収が外側の全体で行われているのか調べる為に端に向けて
(ん? 一切吸収しない? 端がダメなのか、それとも……)
その後、幾つかやって分かった情報は以下の通り。
最初に、このマスクは外側のほぼ全体で
そしてその際に周囲の魔力も少量吸い上げる。
つまりこのマスクが最初に吸収したのは私の魔力では無く、私の魔力に少し混ざっていた光の属性元素。
そのオマケで私が流した魔力を吸収したから、私はこのマスクが魔力を吸収するものだと勘違いを起こした。
次に魔力糸を吸収しなかった原理だが、私の魔力糸は純粋な魔力の塊である。
ここに属性元素を浸透させて着色するのだが、その際に魔力糸が
その後、属性元素を追い出す為に余剰に魔力を流して固める事で
私は最初、魔力を吸収するものだと勘違いしていたのもあり、この工程を一切行わなかった。
通常、魔力というのは意識しなければその当人が一番に持つ属性が多少乗ってしまう。
然し魔力糸は魔法糸にする過程で属性元素を流す都合、少しでも属性元素を混ぜない為に多大な集中力を用いて慎重に生成する。
そんな手間を掛けて生まれるのが色が変わる糸なのだから、私の最初の魔法が如何にショボいか理解して貰えるだろう。
しかも最初から属性元素を混ぜて魔法糸を生成しようとすると、まず綺麗な糸状になってくれさえしないという使えなさだ。
次に、属性元素を吸収するのはあくまで外側のほぼ全体のみ、位置が外れるものを追加で吸収したりはしない。
これは濡れる分なら問題無いだろうと、庭に出てマスクに水魔法をアホみたいにぶっ掛けて検証した。
吸収量の実験も兼ねていた中で、マスクの半分にだけ当たるように位置を調整して水魔法を撃てば、マスクに当たる場所だけ吸収するという結果となった。
このマスクの価値が私の中で跳ね上がった瞬間でもある。
魔法において、基本的に発射されたものは完成形である。
故に、一部を破壊されると全て崩れてしまう事が殆どだ。
それをこのマスクは平然と無視している。
同じ術式で構築されている魔法だろうと、当たるなら吸って、当たらなければ吸わない。
今の私では全く分からない術式が組まれているとしか思えない。
それにこういう挙動は普通の魔術では──私の知る範囲ではあるが──起こり得ないので、組み込まれている術式は恐らく呪術か錬金術の体系だろう。
────想像以上の掘り出し物だ。
私はこの日、興奮とマスクの研究で寝る事も忘れた。
翌朝、妹君に見つかって寝ていない事を物凄く怒られた。
マッマからも説教を貰い、今後は寝る間を惜しんで研究をしないよう固く誓わざるを得なくなったのだった。
ヤバいブツを所持しましたが、暫くは彼女の言う通り封印です。
次回の予定は未定です。
時が飛ぶ気もしますが、飛ばない気もしています。