団長ラブ勢のギャルハーヴィンだってそうさ!!必ず存在する!!!!   作:梏 桎

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遅くなったのは戦闘描写が苦手だからです。


決行日はあったろう?

 

 

 夜が短くなって月を眺める時間が少なくなってきた頃から、更にほんの少し過ぎた晩夏。

 

 

 クラーバラの嫁入りが近付くに連れ、屋敷は騒々しくなる一方だった。

 

 先ずクラーバラが結婚するという話を聞いて、サビルバラの道場で世話になっていたであろう沢山の人達が島の内外問わず押し寄せて来た。

 女性陣は嫁入り前の確認やら何やらでクラーバラをあちこちに連れ回し、男性陣はサビルバラを囲んで酒盛りして勝手に宴会が行われる始末。

 私は女性陣の群れに突っ込まれてクラーバラと一緒に何故か着せ替え人形にされたり、男性陣の酒注ぎやツマミ作りを任されたりで、これまでの人生で一番大変だったと思う。

 

 そしてそんな賑やかな人達が何故こうしてやって来たかと言えば、婚前の荷物整理の手伝いもあるだろうが、何より花嫁行列に参列する為だ。

 要するにこの人達もコルウェルが襲撃してきたが最後、命を落とす人達という訳である。

 

 

 花嫁行列はこの屋敷から始まり山を越えてカラクラキルの家まで続く長丁場であるが、その行列を護るのは任命された数少ない護衛だけ。

 他の人は晴れの場であるが故に基本的に帯刀すら出来ず、サビルバラも細太刀のような戦闘に適さない儀礼用の刀を当日は佩くという。

 私もありがたい事に参列させて貰う訳だが、当然帯刀は禁止。

 然し流石に素手と魔法だけでコルウェルと戦える気はしない。

 

 ここで輝くのが転移(ヴィタラナ)だ。

 既に刀にマーキングを付ける事でより精度を上げて、きっちり転移出来るようにしてある。

 

 

 それと、昔のお弟子さん達が来た事で剣術修行の相手も一気に増加。

 お陰様で新技も出来て、サビルバラや兄弟子の皆様方に試したら『インチキだろそれ』って怒られたので実用性はバッチリ。

 

 腕が鈍らないように魔術も使用可能な試合もさせて貰った。

 但し呪縛(バンダ)で発生した鎖だけで無力化出来てしまったりするケースも多く、マトモな試合と呼べたのはサビルバラとクラーバラだけ。

 カラクラキルも一矢報おうと呪術らしき技を扱って来たから他の人よりは試合と呼べるものだったが、剣術で簡単に逆転出来てしまい、彼が剣術を不得手としているのを如実に感じた。

 

 物凄かったのはこの時点のミリンちゃんで、本当に何というか脳筋そのもの。

 何せ彼女、呪縛(バンダ)の鎖どころか私の開発途中の術ですら無力化出来てしまう程だったのだ。

 人を疑う事を覚えろとは言わないが、搦手を使う相手に出会した時の対処は学んだ方が良いと思わず進言してしまったぐらいである。

 それに対して『じゃあルミちゃんなら信頼出来るし相手してね!』と返ってきた時は、彼女からの余りに大きな信頼に目を丸くしたものだ。

 一瞬だけ『エッチな悪戯でもしてやろうか』と思ったけれど、何故だか私が着けている月の髪飾りから物凄く黒いオーラを感じて即座にそういう考えを頭から追い出した。

 

 

────ツクヨミ様はもしかして髪飾りを通して私を見たりしているのだろうか?

 

 

 実はこの髪飾り、ツクヨミ様との共同制作なのだが一部の素材が私にも()()()()()()()

 ツクヨミ様はこういった物の作成経験は皆無なので殆どは私が用意した素材で出来ている。

 完成までもう少しという所でツクヨミ様に預けて仕上げを頼んだのだが、結果的によく分からない所が幾つかある代物となったのだ。

 

 

(何を仕込んだのかは教えてくれなかったけど……まぁ、ツクヨミ様が私に害のあるものをプレゼントしたりする訳無いっしょ!)

 

 

 と言った具合に考える事を放棄していたのだが、もしかして監視装置だったりするのか。

 だとすると私のあれやこれやをツクヨミ様にバッチリ見られている可能性が……?

 いや、よそう、私の勝手な推測で以下略。

 

 兎も角、摩訶不思議な髪飾りである事には違い無い。

 誤って落としたぐらいでは傷すら付かない妙な頑丈さがあり、私の魔力に反応しているのか光源も無いのに光る時があったりする。

 

 

 

 さて、そんな不思議な髪飾りは置いておいて話を戻そう。

 長々と連ねずに取り敢えず結論だけ言えば、コルウェルは矢張り襲撃してくる。

 

 これは開発中の新技を用いて動物と視界をリンクさせた事で知ったのだが、コルウェルは小型の騎空艇を島の外れに隠すように降ろしている。

 恐らく彼としては妖刀さえ取れれば良いだろうから、これが普通の花嫁行列であれば、私達を無視して道場に忍び込み妖刀だけ盗んで雲隠れしていただろう。

 然し今回のクラーバラの結婚は、サビルバラの家に伝わる妖刀の譲渡・封印も併せて行われるもの。

 どこから情報を仕入れたのかは分からないが、コルウェルからすれば折角の目当てが封印されかけている────彼としては何としても阻止したいのだと推測出来る。

 だからといって、犯人がコルウェルだと露呈させない為だけに参列者を皆殺しにするのはどうかと思うが。

 

 何度か動物の視界を借りて彼の様子を探っているが、島の地形把握から始めているようで今は大人しい。

 様子からして、彼は未だ妖刀に侵食されながらも冷静な部分が多く見える。

 これが非常に恐ろしい所で、コルウェルはその残っている冷静さで自らの足跡を残さない事を何より重視している。

 同時に、足跡を消す為ならば犠牲がどれだけ出ようと構わないぐらいには狂っている訳だ。

 

 既に彼が山の竹林に向かって歩いている所を私は確認済み。

 幾つか罠を仕込みはしているが、果たして効果があるかは不明。

 魔力残滓も指紋も残さないように細心の注意を払ったから特定はされないだろうけれど、何せ妖刀持ちとの対決は初めてだから未知に溢れている。

 

 

 私は最後の仕上げの為にサビルバラとクラーバラにとある物を渡す予定。

 式が明日に迫るこの夜、私が宛てがわれている部屋に2人を呼んだ。

 

 

「来たぞー、ロイルミラ。 話があるとは聞いたけんど何の話だ?」

 

 

 私は2人に座るよう促し、姿勢を正して話を始める。

 

 

「まずは、改めてクラーバラさんのご結婚おめでとうございます」

 

「いやっちや、改まって挨拶なんて! やけんどありがとうね、ルミちゃん」

 

「固い挨拶はせいでええぜよ。 そがな話をする為に呼んだ訳やないだろう?」

 

「ちょっとあんちゃん!」

 

「いえ、そうですね。 明日は大切な日ですから、早速本題に移ります」

 

 

 そして私は2人の前に小さな袋────御守りを差し出す。

 

 

「? えっと……ロイルミラ、こいつは?」

 

「私の作った御守りです。 サビルバラさん、クラーバラさん、カラクラキルさんの3人分を用意しました。

 既にカラクラキルさんには渡してあります」

 

 

 これは今の私が作れる最高傑作、守護の護符入りの御守りである。

 護符には気持ち悪くなりそうな程に細かく丁寧な術式を書き込み、更には開発途中の()()まで盛り込んだ、正に私の集大成作品。

 

 なお、カラクラキルには渡した直後に呪術混じりなのがバレた。

 更には『君が呪術について随分と興味を持っているのは理解していたから、少しばかり警戒もしていたんだけどね』なんて返されるオマケ付き。

 

 カラクラキルは私の発言を受けて反応しなかったのでは無く、()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 その演技は見事に成功して、私はまんまと彼が無警戒だと思い込んで何も考えずに今の今まで接していた訳である。

 最終的に『ここの呪言を少し変えると効力がより高まるだろうね』というアドバイスまで頂戴して、私は顔を真っ赤にしながら護符の書き換えをする事になった。

 とんだ生き恥を晒し、人に鎌をかけるような態度は改めようと思わされた瞬間だ。

 

 

「貰うてええならありがとう貰うが…… 一体どいて?」

 

「ありがとうねルミちゃん。 あんちゃん、動揺しすぎて訛りが酷うなっちゅーよ」

 

 

 驚くサビルバラと対照的に素直に受け取ってくれるクラーバラ。

 私は正直に中身やらを話すつもりも無いので適当に誤魔化す。

 

 

「特に深い意味は無くて、強いて言うなら新しい始まりを迎えるにあたっての応援……ですかね?

 クラーバラさんは言わずもがな、サビルバラさんも妹さんが少し離れて寂しくなるかと思いまして」

 

「はっはっは! 昼にも言うたけんど、やかましい奴がおらんくなって気が楽ぜよ!」

 

「はぁ……ルミちゃん。 ()()()あんちゃんのお世話、お願いね?」

 

「誰が()()()じゃ!」

 

 

 そうして誰ともなく笑う。

 笑っている筈なのに何故だか少し寂しげなその空気は、明日を思えば余りに重たい。

 

 

 

 幽き有明月が空に昇る今宵は、晩夏にしても随分と冷え込むのだった。

 

 

 

  §  §

 

 

 

 翌日。

 残暑という言葉を忘れてしまったかのような爽やかな陽光が、山を進む花嫁行列を照らす。

 

 

 花嫁姿のクラーバラはとても美しく、兄弟子や姉弟子の皆様方はまだ何も始まっていないのに感極まって泣き出す人がいる程。

 サビルバラはこんな時まで『馬子にも衣装とはよく言ったもんだ』なんて憎まれ口を叩いていたが、その顔はとても優しげで心から祝福している事は想像に難くない。

 カメラが手元にあったならば確実に収めていたであろう美麗な白詰草(クラーバラ)を見て、彼女を護る覚悟を改めて決める。

 

 

────今日という目出度き日は、人が死ぬには眩しすぎる。

 

 

 妖刀に狂う人斬り(コルウェル)を殺さずに捕縛し、そして彼には誰一人として殺させないのが目標。

 改めて思うが、難易度は今までの何よりも高い。

 コルウェルを見付けてから、暇さえあれば彼の妖刀の情報を探ったが成果無し。

 こればかりは出たとこ勝負となってしまったが、元々対策が出来るのかも不明の代物だ。

 私に出来る数少ない対策は、とある赤い彗星の言葉を借りて『当たらなければどうということはない』の1つ。

 

 

(後は()()が決まれば、或いは……)

 

 

 私は体内の魔力の流れを意識して、身体に異常が無いかを再確認していく。

 既に何度やったか分からない作業だが、それだけ今日は私の魔力が大事な日である。

 

 

「そこの者。 此は神聖なる婚姻の儀、その最中である。

 道を空けていただきたい」

 

「……」

 

(来た……!)

 

 

 私は前方の声を聞いて即座に列を抜け、驚く周りを全て無視して一直線に最前へ駆ける。

 一瞬だけ視界に映ったクラーバラの驚きと不安を感じさせる顔を見て、私が安心させなければと思わされた。

 

 

「……煩いな」

 

「何だと……?」

 

(ヤバい、間に合え! 印術(ムドラー)────縮地(クシャナ)!)

 

 

 私は足から少しだけ魔力放出をすると同時に印を結び、身体を文字通り吹っ飛ばす。

 

 

転移(ヴィタラナ)!!」

 

 

 私の詠唱とほぼ同時にギィィンと劈くような音が鳴り響く。

 魔力放出を駆使して物凄い速度のまま最前に割り込んだ私が、コルウェルの刀を受けた音だ。

 今までの刀が擦れ合う音とは似て非なる不協和音と、勢いに任せていた私の一撃を少しずり下がる程度で受け切る彼の怪力に顔を顰める。

 とはいえ、そんな顔をしている場合では無い。

 大事なのはここからコルウェルを引き剥がす事、それだけ。

 

 縮地(クシャナ)の効果時間は僅かだが残っている。

 

 

「吹っ飛べ!!」

 

「ぐっ……!」

 

 

 私は縮地(クシャナ)によって齎される人外じみた運動速度に、足からの魔力放出という過剰なまでの加速を行ってコルウェルを蹴り飛ばす。

 彼の脇腹に直撃する事を想定して放った蹴りはコルウェルの腕に阻まれて威力が少しばかり下がりつつも、彼を竹林まで吹き飛ばす事に成功する。

 

 

「すいません! 式は参加出来そうに無いです!!」

 

 

 私はそんな言葉を残し、吹き飛ばしたコルウェルを追って竹林に向かう。

 

 全員救うのだ、私が。

 自身で決めた傲慢な救済を完遂させなければ、態々此処を突き止めて下さったツクヨミ様に合わせる顔が無い。

 

 

 

「ルミちゃん……」

 

 

 然しこの時の私は失念していた。

 心配そうに幼い居候()を思う妹を、安心させる為に行動してしまう優しすぎる好漢()の事を。

 

 

 

  §  §

 

 

 

 コルウェルは私が追って来る事を見越していたのか、特に動く様子も見せずに待っていた。

 

 

「……この竹林に罠を仕掛けていたのもお前か」

 

「だったらなーに?」

 

「斬る獲物が見付かって安心した」

 

「そんなちっちゃい事を気にしてたらモテな────ッ!?」

 

 

 発言の途中にコルウェルの身体がブレて、直後に目前まで迫る刀。

 私はそれを横に避け、相手の後隙を狩らんと刀を振るう。

 

 

「人の話は聞けってーの! 冉災月殃(ねんさいげつおう)!」

 

「温い刃だ。 殺意がまるで足りていない」

 

 

 私の一撃は後隙を狩ったつもりであろうとまたも軽々と阻まれる。

 刀が合わさって音が鳴り、それが耳にいやに残った。

 

 最初に刀を合わせた際もそうだったが、何だか物凄く嫌な予感が付き纏って仕方無い。

 刀が打ち合う音で気分が悪くなるなんて初めての症状で、これもまた妖刀のせいなのかと考えつつ、私はコルウェルから少し距離を取る。

 

 

「殺意って言われても、別に私はあんたを殺す理由が無いし」

 

「俺があの連中を根絶やしにしようと?」

 

「出来ない仮定はしない方がいーよ?」

 

「ふふ……安い挑発だ」

 

 

 いつもより余裕が無いから軽口ぐらいは叩かせて欲しいだけなのだが。

 

 コルウェルは先程から剣呑な雰囲気を纏ってこそいるが、逆に言えばそれだけ。

 苛烈に攻められるのも恐ろしいけれど、妙に落ち着かれても不気味極まりない。

 然し相手が攻めないなら私から攻めるだけだ────そう思い、私は左手で魔力を練り始める。

 

 

色織り(ルーパパタ)四大元素(マハーブータ)──」

 

「……」

 

 

 コルウェルが無言で刀を構え直す様を見つつ、私は左手を天に掲げる。

 

 

「──熱水蛇(ウシュナ・ジャラナーガ)!」

 

「ハァッ!!」

 

 

 左手から熱水の蛇が天に向かって昇っていくのと同時、コルウェルが間合いを急速に詰めて斬り掛かる。

 咄嗟に刀で防ぐも、妖刀によって齎されたのだろう怪力に為す術なく押される私。

 

 

(まただ……! 何だよ、この耳に嫌な音がへばりついてる感覚は……!?)

 

 

 嫌な音に顔を顰める私を嘲笑うかのように一層力を込めて押すコルウェル。

 然し、私が打ち上げた蛇が空より彼に目掛けて襲い掛かる。

 コルウェルは私を強く弾き飛ばして蛇を躱し、私を再び斬ろうと刃を向けてくるが。

 だがその頃には、私は次の準備が整っている!

 

 

「尋常に勝負せよ!!」

 

「何が尋常にだよ、妖刀とかいうインチキ使っておいて!!

 色織り(ルーパパタ)希少元素(エーテル)────黄金の猪(スヴァルナ・ヴァラーハ)!」

 

「ハーッハッハッハッハ!! 発剣!」

 

 

 私の左手から放たれた金色の猪は、笑い狂うコルウェルの連撃の前に霧散していく。

 

 少しずつだが、コルウェルが私の知るコルウェル(ゲームの姿)に変わりつつある。

 恐らく、戦いによって彼と妖刀を刺激しているから理性が機能しなくなっているのだろう。

 要するにここからが本番だ。

 

 

「死ねェッ!」

 

「ぐぅっ! 羅睺計都(ラーフ・ケートゥ)!」

 

 

 急激に加速して私の首を狙う一撃を薄皮一枚の犠牲で済ませながら、私は周囲の属性元素を取り込む。

 然しながら、薄皮一枚と言えど私は妖刀に()()()()()()()()

 

 直後────

 

 

(あ……? 急に何の音もしなくなった?)

 

 

 

 

 世界から音が消え去った。

 

 

 

 

 コルウェルが何か口を開いているが全く聞き取れない。

 それどころか葉擦れの音も風の音も私には聞こえなくなってしまった。

 

 

(は? は? なに、何が起きてる? 何も聞こえないんだけど!?)

 

 

 突然の聴覚異常に狼狽える私を嘲笑うかのように、私の視界から外れるべくコルウェルが動く。

 それをパニックになりながらも半ば本能的に魔力で追う私は、彼が視界から完全に消えた事で落ち着きを取り戻す。

 

 

(斬った相手の聴覚を奪う……? いや、これだと限定的過ぎるかな。

 最悪の場合、斬った相手の五感を奪うまでありそうだが……)

 

 

 兎も角、今の私が聴覚を失った事は間違いないだろう。

 戦闘において大事な『聞く』という感覚を根こそぎ封じられたのはとても不味い。

 

 とはいえいつまでもパニックに陥っている場合でも無い。

 

 一度はパニックに陥った私がこうして急速に落ち着いて考えられているのは、偏に目の前から人斬り(コルウェル)が姿を消したからだ。

 ここでパニックになったが最後、私は今度こそ首と胴体が別れを告げる羽目になる。

 

 

(言霊を自分で認識出来ない分、下手に詠唱すると術が乱れそうだ。

 ここからは色織り(ルーパパタ)より印術(ムドラー)を主体にしないと)

 

 

清く! 正しく! 高潔にィ!

 

「ッ!!」

 

印術(ムドラー)────般若(プラジュニャー)

 

 

 私の真後ろに急接近する魔力反応を振り返って刀で受け止めれば、歯を剥き出して嗤うコルウェル。

 力負けしながらも必死に踏ん張るが虚しく弾き飛ばされた私は、魔力放出で竹林に紛れつつ印を結ぶ。

 

 般若(プラジュニャー)は死中に活を見出す智慧という意味を込めて名付けた、圧倒的な筋力補正と動体視力強化の術。

 発動条件は私が弱体状態である(デバフを貰っている)事だけ。

 とてもお手軽な強化術(バフ)だが同時に効果時間も縮地(クシャナ)と変わりないような短さなので、ここで切ったのが果たして正解かは何とも言えない。

 

 強力な補正が掛かった事で、音の無くなった世界にさえ聞こえそうな程の爆発的な踏み込みは瞬きの間にコルウェルを捉え────

 

 

一月三襲(いちがつさんしゅう)!)

 

ぐおォ!? 貴様ぁ……!

 

 

 魔力を纏った私の刀は、一突きが三条の閃きへと変幻してコルウェルを襲う。

 彼は致命傷になりかねない上段の突きを顔を逸らして躱し中段を刀で受け止めるも、予想以上の力強さに刀をそれ以上動かせず下段の突きが腿を刺し貫く。

 

 私は般若(プラジュニャー)の効果が切れる前に彼を無力化させようと、恐らく軋んでいるだろう刀に魔力を流して()()()()()()()()()

 

 

愛月撤刀(あいげつてっとう)・三日月!!)

 

やめろやめろやめろ! どうして俺を虐める……!

 

 

 突如発生した3つの衝撃に対してコルウェルは口を動かしながら刀を振り回す。

 残念ながら私の攻撃は全て無力化され、更には腿から血が噴き出している事すら気にせずコルウェルは暴れ狂う。

 それは最早私を狙ったものかすら怪しく、無闇矢鱈に周囲を斬り刻む嵐のよう。

 私はその剣閃の暴風雨を刀と急造した魔力壁で防ごうとするものの、余りの速さと手数に次第に追い詰められる。

 

 

(速すぎる……! 間に合わな────)

 

 

 次の瞬間、私の肩に走る痛み。

 またしても妖刀に斬られてしまった訳であるが、事態は私を待ってなどくれない。

 致命傷を避けながら必死に刀と魔法を駆使してなお、身体に切り傷が増えていく。

 

 

 直後に発生する身体中の異常。

 私の耳が急激にその力を取り戻したかと思えば、今度は目の前が闇に覆われていく。

 それすら瞬きの間に回復して、同時に一瞬だけ握っていた筈の刀の感覚を忘れ、感覚が戻った頃には周囲を漂う血の匂いが分からなくなる。

 そして五感の異常を一通り体験したと思われる私は、混乱の最中でもコルウェルが見舞う嵐を防いでいたのだが。

 

 このままではジリ貧だと考えていた私の耳に飛び込む刀からの異音。

 

 

(嘘でしょ!? 刀に罅が……!)

 

 

 ぼやけていく視界──恐らく最後の攻撃が視界を封じるものだった──で刀に罅が入った事を確認して、私は兎に角コルウェルが暴れ回る空間から離れようと試みる。

 

 少しばかり距離を開けた頃にはもう視界はほぼ闇の中。

 そしてそんな目まぐるしく変化する私の身体が落ち着きを取り戻しつつある中で捉えたのは、剣を振り回すコルウェルの狂乱の音と馴染みの男の声。

 

 

「ロイルミラ!!」

 

 

 

────消え行く視界の向こうに見たサビルバラは、この事態を任せるには余りに頼りない瞳をしていた。

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