団長ラブ勢のギャルハーヴィンだってそうさ!!必ず存在する!!!!   作:梏 桎

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皆様のコメントや評価は読んでいるのですが、如何せん良い返信が思い付きません。
はぁ……鬱い……(子神並感)


窮地はあったろう?

 

 

────サビルバラは呆然としていた。

 

 

 

 時はロイルミラが花嫁行列を抜けて一直線に駆ける頃まで遡る。

 

 魔力を用いて異常なまでに加速したロイルミラを止める事すら出来ずに見届けてしまったサビルバラは、直後に最前から聞こえたロイルミラの声と刀の鳴らす金属音によって意識を切り替えて身構えた。

 すると見慣れぬ人影が竹林へと吹き飛び、ロイルミラがそれを追う。

 

 

「すいません! 式には参加出来そうに無いです!!」

 

 

 いっそ場違いとすら思える発言を残して竹林へと姿を消すロイルミラに向けて、心配そうな呟きを漏らす妹。

 サビルバラはそんな不安気な顔を隠しもしない妹を一瞥し、次いで大きく手を鳴らした。

 

 

「クラーバラ、それにおんしらも。 わしが見に行くき、おんしらは予定通りカラクラキルの家に向かってくれ。

 ロイルミラはああ言いよったが、わしが連れ戻すき安心しろ」

 

 

 参列者達はざわめくが、その中から護衛を務めていた1人がサビルバラに告げる。

 

 

「サビルバラさん、俺が行きます。 余りにも一瞬だったので強さこそ分かりませんが、あの謎の人物が発していた殺気は本物です。

 今は儀礼用の刀しか佩いていない貴方を向かわせる訳には──」

 

「そうか……やったら尚の事、行かんとならんぜよ」

 

「な、何を!?」

 

 

 サビルバラはそう言うと、佩いていた儀礼用の刀を他の参列者に預けて、目の前の護衛から刀を盗る。

 

 

「すまん、ちっくと借りる! きっちり手入れして返すき許いてくれ」

 

「いや、そうでは無く──」

 

「あんちゃん」

 

 

 突如サビルバラに掛かった妹の声は、複雑な感情が乗せられたものであった。

 

 

「……ルミちゃんをお願いね」

 

 

 その瞳は不安そうで、これから嫁入りするとは思えない酷い顔だとサビルバラは思う。

 故に彼は力強く、そして出来る限り元気に言葉を返す。

 

 

「任せろ! 大事な祝いの日は皆が集まってこそだ」

 

「うん……! あんちゃんも、気を付けて」

 

「おう」

 

 

 遣り取りを済ませれば、周りの声を振り切ってサビルバラも竹林へと駆ける。

 

 何故か()()()()()()()()()()()()()()かのような自分の弟子を追い掛けて、そして聞かねばならない。

 襲撃者の素性も、彼女が隠していた何かも。

 

 

(思えば昨日、あんな物を渡いてきた時点で勘付くべきやったのかもしれん)

 

 

 彼は懐に入れた御守りを服越しに触れ、彼女の無事を願う。

 そうして駆けて、駆けて、駆け抜けた先に見た光景は────余りにも現実離れしたものだった。

 

 竹はどれもこれも切り倒され、それらには赤色が少しといえどこびり付いている。

 地面は不可解な抉れや隆起が混じり、魔術には明るくない彼ですら分かる程の濃密な魔力と属性元素が一帯を覆っていた。

 

 そしてその中心には、暴風雨の如く荒れ狂う正体不明の男と────

 

 

「ロイルミラ!!」

 

 

────幼き弟子が対峙していた。

 

 

 

  §  §

 

 

 

 私の封じられた五感が最終的に視力なのは不幸中の幸いだろう。

 何せ今まで夜闇に縁のある星晶獣と関わり続けていたのだ、今更視界が効かなくなった程度では私の動きは鈍らない。

 

 然し経緯は不明だがサビルバラがここに来てしまった。

 これが非常に宜しくない。

 

 現在の私は左肩が風通し抜群な上に、あちこちが切り傷まみれでハッキリ言って可愛くない。

 知り合いではあるが、何より原作でプレイアブルキャラであったサビルバラも私の推したるハーヴィンである事に違いは無く、そんな推しに醜い姿を見せるのはオタクとして拒否反応が出る。

 ……というのは半分冗談で、本音を言えばそもそもこの戦いは1対1(サシ)の方が楽なのだ。

 

 コルウェルの妖刀がまさかのランダム五感封じ(仮称)とかいうやりにくい事この上ない性能だったせいで、この戦いは必ず五感のどれかが犠牲になる。

 先程少し距離を空けた際に弱体回復の曙光(ウシャス)の印を結んでみたが効果無し────つまり最悪の場合は、私はこの先の人生で主人公の顔を拝めない事になってしまった。

 無論そんな事は私が許せないので落ち着いたら色々試すけれど、兎にも角にも治療法が不明な現在は犠牲者の数を減らすべきだ。

 

 

 更に悪い報せとして、サビルバラの呼び掛けはコルウェルの荒れ狂う意識を呼び戻すのに十分なだけの声量があった。

 つまるところ、彼からすれば獲物が増えた訳で。

 

 

「……ごきげんよう」

 

「サビルバラさん!!」

 

 

死ねェッ!

 

 

 コルウェルは標的をサビルバラに移して斬り掛かる。

 耳障りな金属音が発生した事で辛うじて斬られていないと認識した私は、コルウェルの背後を狙って刀を振り下ろす。

 

 

「ぐおぉ!? 何ちゅう力ぜよ……! おんし、もしや妖刀を……!?」

 

「ハッハッハッハ!」

 

重江天斬(ちょうこうてんざん)!」

 

「がぁ!?」

 

 

 私を迎え撃つ為にサビルバラを蹴飛ばすコルウェル。

 それで良い。 サビルバラには悪いがこれは私の戦いだ。

 私は罅の入った刀が妖刀と衝突する直前に増幅した光の属性元素をそのまま射出。

 刀はまだ壊す訳にはいかないから、ここは打ち合わずにサビルバラから意識を逸らすことだけに注力する。

 何も見えてはいないが、先程やたらと魔法を使っただけあってここら辺は私の魔力まみれ。

 お陰様でそれ以外の流れを感知するだけで相手が何処にいるかも、妖刀の動きさえも問題なく認識出来る。

 

 私は刀を最低限の打ち合いだけで済ませながらコルウェルに連撃を見舞い、サビルバラに向けて喋る。

 その間も攻め立ててコルウェルの意識を私に集中させる事は忘れない。

 

 

「サビルバラさん! 来てくれたのに悪いんですけど逃げてください!

 こいつ、斬った相手の五感を封じる妖刀持ちなんでサビルバラさんが居るのはハッキリ言って邪魔です!!」

 

「だ、だが──」

 

「逃がす訳が無いだろう?」

 

 

 途端に刀が空を裂き、コルウェルが人外じみた速度でサビルバラに迫っているのだと察する。

 私は縮地(クシャナ)の印を結んで彼を追い抜き、刀では無く拳を振りかぶる。

 左肩に穴が空いた程度、魔力で無理矢理ブーストすれば拳として十分に機能する。

 

 

金剛拳(ヴァジュラ・ムシュティ)!!」

 

「くく……」

 

 

 縮地(クシャナ)による加速と、魔法によって硬化した私の左拳はコルウェルの妖刀と真っ向からぶつかって衝撃波を起こす。

 その際に風通しの良くなった左肩が悲鳴を上げて血が吹き出るが、そんな事が瑣末に思える程の激痛が左腕全体を襲う。

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あぁァ!!」

 

 

「気持ちいいいーー!!」

 

「ロイルミラ!」

 

 

 激痛に負けて気を逸らした私をコルウェルが狙わない道理など無く、妖刀が私の首を狙う。

 

 

「血をォッ!」

 

「させん! 連華刃!」

 

 

 咄嗟に前に出たサビルバラの連撃によって距離を開けるコルウェル。

 私は最早感覚が希薄な左腕に魔力を集中させて回復を促しつつ、サビルバラに詫びる。

 

 

「はぁ……はぁ……すみません…… カッコつけといて、こんなザマで……」

 

「そがな事はええ! それよりおんし、怪我は!?」

 

「あはは……正直、痛すぎて泣きたいです。 でもまぁ、致命傷は全部避けたんでセーフみたいな?」

 

「冗談を言いゆう場合か!」

 

 

 寧ろ冗談を言うぐらいの気持ちに戻さなければ、本当に泣いてしまいそうなのだから許して欲しい。

 

 死を感じた瞬間は良くも悪くもパッパとの決闘で急所を狙われまくったので理解しているから、致命傷を全て避けられたのはパッパのお陰だろう。

 けれど実際にここまでの大怪我は前世でも多分経験していない。

 身体中に切り傷をこさえ、左肩は穴が空いて更には腕がグチャグチャである。

 これだけの痛みを与えられてなお、臆す事無く戦えているだけ褒めてくれても良いぐらいだ。

 

 

「さっきのは反射か?」

 

「だと思います。 妖刀ぶち抜いてぶん殴るつもりだったんですけど、そのせいで被害甚大です」

 

「相変わらず無茶苦茶な事を実行する奴ぜよ……」

 

 

 コルウェルは先程から動きを見せない。

 

 私は無詠唱で羅睺計都(ラーフ・ケートゥ)を行い、周囲に散った魔力を回収する。

 これでまだ戦える。 まだサビルバラを逃がすチャンスを作れる。

 然し私の考えは喋ってもいないのに筒抜けだったようで────

 

 

「まだおんしは、わしが言われた通りに逃げる思うちゅーか?」

 

「……言っておきますけど、今の私は妖刀(アレ)のせいで目が見えてませんから、間違って斬るかもしれませんよ?」

 

「ほう? そいつぁまるで、おんしがわしを斬れる言いゆうように聞こえるが?」

 

 

 こんな時でも憎まれ口なのだから、最早何も言うまい。

 間違うヘマなど犯さないが、先に忠告はしておいた。

 コルウェルが何もしてこないとは言え、流石に説得までは待ってくれないだろう。

 

 

「その辺の決着はこれが終わったらで。 まぁ私は手負いでもサビルバラさんぐらい余裕ですけどね?」

 

「わしも手負いのガキを甚振る趣味は無いき助かるぜよ」

 

「……話は終わったか?」

 

 

 私達が取り敢えず戦闘続行を決意したところにコルウェルが声を掛ける。

 

 

────もしかして待っていたのだろうか?

 

 

「わざわざ待っててくれたんですかー? そういう人には見えませんけど」

 

「煩い口を削ぎ落とす方が、物言わぬ口より気持ち良いだろう?」

 

「……理解出来ん感性だ。 ロイルミラは? おんしはわしより()()()寄りだろう?」

 

「はぁ!? アレと一緒にしないでくださいよ! 私はそこまで悪趣味じゃありません!」

 

「良く言うぜよ、村の子供に魔法の蜘蛛を仕向けて追い回しちょったくせに」

 

「あの子達がレオノーラの夢を馬鹿にする方が悪いんですよ!」

 

「煩いよ……」

 

 

 おっと、関係の無い事で白熱しすぎたようだ。

 痺れを切らしたコルウェルが私達に刀を振るう。

 

 最初の一撃は私に向けられ、私はそれを下がって回避。

 サビルバラはその隙を狙い刀を振るうも、コルウェルの人並外れた速度によって空振りに終わる。

 私は聴覚と魔力の流れを頼りにコルウェルの位置を割り出して魔法を放つ。

 魔法を斬る音が聞こえたのを合図に距離を詰め、胴を貫かんと刀を突き出す。

 

 

「うおっ!?」

 

 

 コルウェルがまたも異常な速度でその場から消え、次いで聞こえるサビルバラが驚愕する声。

 コルウェルは一瞬の内にサビルバラを捕まえて、その怪力を駆使して私に向かって放り投げたのだ。

 私がサビルバラを突き殺せば面白いとかそういう魂胆だろう、悪趣味な奴め。

 刀の軌道を強引に逸らしてサビルバラを避け、羅睺計都(ラーフ・ケートゥ)でコルウェルを牽制しながら魔力回収。

 回収した魔力で治癒を促す傍ら、私は取り敢えず使い物にならなくなった左腕の代替手段を用いる事にする。

 

 

「サビルバラさん。 10秒、いや5秒だけ時間を稼いで貰えませんか?」

 

「……5秒で良いんだな?」

 

「はい……すみません」

 

「はっ、謝るなら全部終わってからにするぜよ」

 

「そうですね……それじゃ、お願いしますね!」

 

 

 私はそう言って刀を地面に突き刺して右手で服のポケットを探る。

 こちらに駆けて来た時は頼りない目だとか思っていたくせに結局こうして任せてしまう辺り、私はまだまだ未熟なのだと思い知らされる。

 

 

────1秒。

 

 

 コルウェルが牽制の羅睺計都(ラーフ・ケートゥ)を捌き切って私に向かって突っ込んでくる。

 サビルバラが立ちはだかってコルウェルへの妨害を始める。

 私はポケットから1つの巻物を取り出してそれを口で咥え、魔力を練りながら刀で指の皮を切って血を巻物に付ける。

 

 これはレオノーラとの忍術研究の際に作成した口寄せの術みたいなものだ。

 巻物の中にはこれまた気持ち悪くなりそうな量の術式と魔法陣、呪術用の言葉を書き連ねてある。

 これを魔力と術者の血液で起動させて私の左腕の代わりを務めてもらう訳だ。

 

 

────2秒。

 

 

 前方から耳にへばりつくような金属音が連続して響き、コルウェルの絶叫がそれを更に悍ましい音へと昇華させている。

 

 

生命を吹き込む(オーシュタウ・プラーナ)────幻の手(マーヤーハスタ)

 

 

 私は巻物を咥えたまま詠唱を念じて、魔力の宿った息吹によって巻物を宙へと送り出す。

 巻物はまるで命を得たように勝手に封を開け、私を囲んで展開する。

 

 

────3秒。

 

 

 前方から1度聞いた事のあるような嫌な音がする。

 恐らくサビルバラの刀が限界を迎えたのだろう。

 これは当初予定していたキッチリした魔術展開では間に合わない可能性が高い。

 

 巻物が空へと還り、私の後方上空に魔力で構成された両手が現れる。

 その様はまるで某格闘ゲームのグラフィティアーティストであるが、これはあちらと違って私とダメージを共有したりはしない。

 所謂『当たり判定』はあるので気を付けないと即座に霧散させられかねない他、この幻の手は私の意思など汲んでくれないので私自身が導線(パス)を通じて指示してやらないとフワフワしている不思議な手で終わってしまうのが玉に瑕であるけれど。

 

 私は幻の左手で縮地(クシャナ)の印を結びながら幻の右手で色織り(ルーパパタ)を展開、本来の右手で刀を握り直して縮地(クシャナ)で加速。

 左手は即座に印を般若(プラジュニャー)に変えて、私の力を爆発的に跳ね上げる。

 

 

────4秒。

 

 

 鉄が砕けた音とサビルバラの呻き声が鼓膜を叩き、サビルバラが怪我をしたと悟る。

 当初のプランはもっと大きな魔術で一気に意識を刈り取るつもりだったが、そんな事をしていたら怪我では済まなかったかもしれない。

 使用する魔術を切り替えたのは正解だったようで何よりだが……

 

 

(本当は怪我もさせたく無かったんだけど!)

 

 

 私はコルウェルとサビルバラの間に割り込み、幻の右手をコルウェルの肩に乗せる。

 

 

希少元素(エーテル)────雷鳴の手(メーガナーダ・ハスタ)!」

 

「があ゛ああァ!?」

 

 

 コルウェルの身体に雷が迸り、身体が完全に硬直する。

 そうして硬直した彼を刀の柄頭で顎を殴り、仰け反るような姿勢にさせてから更なる追い討ちとして幻の左手を彼の顔面目掛けて襲わせる。

 

 

「これで寝てろ! 金剛拳(ヴァジュラ・ムシュティ)!!」

 

 

 その拳はコルウェルの頬を的確に撃ち抜き、常人なら死にそうな速度で彼を吹き飛ばす。

 直後に一遍に術を使い過ぎた事と、それらの処理を行う羽目になった頭と身体から痛みという形で休むように促されてフラついてしまう。

 

 

「おい! 平気か! ロイルミラ!」

 

「問題、ありませんよ……っそ、それより、サビルバラさんは──」

 

「なんちゃじゃないぜよ、と言いたいところだが……悪い」

 

「斬られ、ましたか……?」

 

「いんや。 あいつ、おんしが接近してくると分かって駄賃代わりにわしの右手を砕きよった。

 これじゃ刀が握れん……まぁ、刀は刀で折れてしもうたが」

 

 

 『これじゃ本当に足手まといぜよ』と零すサビルバラの声は痛みを悟らせない為か、はたまた自らの鼓舞を目的としているのか不自然なまでに明るい。

 

 左腕が駄目になっている私と右手が駄目になったサビルバラ。

 更にサビルバラの刀はどうやら根元から折れ、戦闘にはどうやっても扱えそうに無いときた。

 

 右手を砕かれるとなると相当な怪我なのでしっかり患部を見て癒したいが、今の私は視力が機能していない。

 かといって──私の左腕もそうだが──手が砕けたまま待機して貰うのはよろしくない事態だ。

 こうなってしまった以上、コルウェルを捕縛してから妖刀の処遇を考えるつもりだったがプランを変更し、先ずは妖刀を破壊して呪いが解ける事に賭けた方が良いだろう。

 少なくともアズサの妖刀はゲームの描写によると破壊で解呪出来ていたし、コルウェルの所持している得物も対象を斬って発動するから性質は恐らく同じ。

 それで解呪されたらコルウェルを捕縛して、じっくりサビルバラの患部を見ながら回復魔法を掛けつつ病院を目指すべきか。

 

 

「何故……どうして、俺を……」

 

 

 コルウェルと妖刀をどうするか改めて考えている内に、彼がブツブツと呟きながらゆらりと立ち上がる。

 その瞳は最早どこを見ているかも分からず、流れる血もそのまま。

 追い詰めすぎてしまっただろうか。 かと言ってこちらも余裕が無かったので遅かれ早かれコルウェルはこうなっていただろう。

 

 

「うおっ……あれじゃ『生きた死体』ぜよ……」

 

 

 サビルバラがそう形容するのも納得だ。

 それ程までに今のコルウェルからは生気のようなものを感じられない。

 

 

どうして俺だけを虐めるんだ俺は清く正しく生きていただけじゃないか何が悪かった痛いじゃないか寒いんだ助けてくれ妖刀が俺には必要だ祖父が悪かったのなら俺を虐める道理はなんだ祖父だけが原因か俺は聖騎士として悪を懲らしめ弱者を助けただろう何故俺をそうか寒い妖刀か妖刀なのか必要じゃないか妖刀が証明で必要だろう妖刀が寒い飢えているんだ血が血を妖刀が妖刀で妖刀を寒くて堪らない妖刀で証明を証明だ証明する祖父と俺を妖刀で誰に必要だ証明を────」

 

「……うわぁ」

 

「引いてる場合か、来るぜよ」

 

 

「リュミエーールッッ!!」

 

 

 空気が爆ぜ、轟音と共に目の前から猛烈な殺気が飛んでくる。

 私とサビルバラは左右に分かれるように飛び、直後に生じた爆発と錯覚しそうな程の衝撃波によって地面をゴロゴロと転がった。

 

 コルウェルは私たちのいた場所に舞う木の葉すら切り刻まんと刀を振り続けている。

 動くものは今の彼にとっては全て敵にでも見えているのだろう、お陰様で仕掛けやすいので感謝するべきかもしれない。

 ……いや、それまでに負った傷が大きすぎて釣り合っている気はしないな。

 

 

烟波縹渺(えんぱひょうびょう)

 

「ぁ……?」

 

 

 私の刀から白煙が発生し、周囲を白く塗り潰していく。

 本当は水を増幅して反射による錯覚を起こすパッパの剣技なのだが、私はパッパより器用なので様々な手で撹乱する剣技として名を借りた。

 私は今現在、目が機能していないからこの煙に影響される事は最初から無い……目が機能していても魔力感知ぐらい出来る状況下で発動するんだけれども。

 

 

「しッ!」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああぁぁぁぁ!!」

 

「うわっ!?」

 

 

 私の視覚外からの一撃を風切り音で察知したであろうコルウェルは刀を兎に角やたらめったら振り回す事で解決してきた。

 想像以上の剣圧に少しばかり気圧されるも想定の範疇ではある。

 私は刀が巻き起こす暴風を幻の手も駆使して全て捌く。

 

 

(脳が茹で上がりそうな処理だぞこれ……! 2回も通るか分かんないからギリギリまで待ちたかったけど、言ってる場合じゃ無さそうか)

 

 

 私はコルウェルの刀を捌きながら自らの顔を恐らくコルウェルの手があるであろう位置に向ける。

 目が見えないのはこういう時に不便だと舌打ちしたくなる気持ちを抑え、私は口を開いた。

 

 

────月中蟾蜍(げっちゅうのせんじょ)

 

 

 

  §  §

 

 

 

 サビルバラは呆然としていた。

 

 コルウェルが狂気に完全に呑まれ暴走といって差し支えない暴れ方をし始めてからというもの、竹林は再び破壊の嵐に襲われた。

 周囲は微塵切りと錯覚する程に細かくされた竹、衝撃波によって無理に折られた竹、抉られた地面、舞い上がる土煙と葉に、途切れる事無く続く金属音と魔法の衝撃。

 時折その惨憺たる光景にはどちらのものかも分からない赤色が混じり、刀を持たないサビルバラが立ち入る隙は皆無。

 

 

(何よりルミも彼奴も速すぎる! 追うだけで精一杯ぜよ……!)

 

 

 サビルバラの目に映るロイルミラは、俄には信じ難い事に視力が封じられているという。

 証拠に彼女は目を瞑り続けている訳であるが、その状態でも傷が増えているようにはとても見えない。

 そしてサビルバラが次に視界に捉えたのは、口を開き、そこから()()()()()()()()()ロイルミラの姿。

 

 

(アレは……!)

 

 

 サビルバラも、そして道場に通っていた数多の弟子が面食らった術────それが月中蟾蜍(げっちゅうのせんじょ)

 それはロイルミラの魔力放出によって突然現れる刃であり、不意打ち故に対処も困難を極める剣技とも魔術とも呼称しきれない奇術。

 彼女はその刃を視力が封じられているにも関わらずコルウェルの手に正確無比に突き出した。

 

 

「────ッ!!」

 

 

 然しコルウェルは最早、人の言葉なのかすら分からない叫びと共に手を軌道上から移動させる。

 完全な回避には至らず少しばかり肉が抉れたようで宙に鮮血が舞うも、お構い無しにコルウェルは反撃をロイルミラに繰り出す。

 ロイルミラは反撃に幻の手を合わせて防ぎ、刀によって再びコルウェルの手を狙う。

 

 

(クソッ! わしに何が出来る……!? この状況で、何か……)

 

 

 コルウェルとロイルミラの打ち合いが益々激しさを増す中、サビルバラは必死に打開策を考えていた。

 状況は芳しく無いが最悪でも無く、行動次第でロイルミラを優勢に傾ける事が出来るとサビルバラは考える。

 然し、取るべき行動を違えれば忽ちロイルミラが不利になる事も想定出来た。

 今のサビルバラにあるのは使い物にならない右手と無事な左手、ロイルミラから貰った御守りと根元から折れた刀。

 

 

(ここにルミを置いていくのは気が引けるが、助けを呼ぶ事が最善か……!?)

 

 

 それでも矢張り、焦る彼には今のコルウェルがどういう状態なのかを観察している余裕は無く、兎に角行動あるのみと痛む右手を庇いながら立ち上がって走り出す。

 

 それはとても迂闊な行動で────

 

 

「逃がすかあ゛あ゛あ゛ああアぁぁァ!!」

 

「なッ!?」

 

 

 突然コルウェルは首をぐりんとサビルバラに向け、絶叫と共に駆け出してくる。

 妖刀によって齎された異常なまでの身体能力は彼我の距離を瞬きの間に縮め、衝撃波すら纏っていると錯覚しそうな高速の突きがサビルバラの腹を確実に貫かんとしていた。

 

 

 

 その時、サビルバラは横から衝撃を受ける。

 周囲の景色が遅くなったと感じてしまう程にその光景が彼の目に焼き付く。

 

 

「ロイルミラ……ッ! ロイルミラ!!」

 

 

 

 彼の目には、幼き少女を貫く血染めの刃と────その刀身を握りながら微笑む()()の姿が映っていた。


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