団長ラブ勢のギャルハーヴィンだってそうさ!!必ず存在する!!!! 作:梏 桎
初手から別視点な上に捏造設定です。
それは春が終わりを告げて、そう遠くないうちに夏が来る頃の話だった。
例年、これぐらいの時期になると行商人なんかがやってきて、この村の特産品とも言い切れない品々を仕入れに来たり、色々と売買したりする。
但し『特産品とも言い切れない』なんて前置きしたぐらいには他島でも入手出来るものばかりなので、毎年来るとは限らない。
それ以外の来訪者も少ない。 旅人はまず来ないし、賊なんて更に来ない。
島の環境か森の祠が関係しているのか、他所から凶悪な魔物が飛来しても居座ったりしないので、騎空士も来る理由が無い。
住人は多少の不便も承知で生きているし、衣食住も問題無いから積極的に島を出ようともしない。
要するに、この島────ザンクティンゼルで他所から来た存在はとても目立つ。
それが魔物でも、人間でもだ。
「ふぅ……なぁ、ルミちゃん。 俺はずっっっっと思っているんだけどさぁ、村はもっと島の玄関に寄せて作るべきだと思うんだよね」
「えぇ? 『門』からここまで精々30分あったかどうかでしょう?
そりゃ魔物は無防備だったら5回は喰われてたぐらいには狙われましたけど、全部牽制で済んだし住みやすそうじゃないっすか」
「嘘っ!? 俺達の前に魔物来たの1回きりだったじゃん! しかもルミちゃんが瞬殺!!
俺の知らないとこでそんなに命の危険あったの!?」
「オーバーすぎてウケる。 私がいりゃそんな危険ありませんから気にしないでいいんすよ。
あ、見えましたね」
「見えたのは村だよね!? さっきの話のせいで魔物かと思っちゃう!
というかどっちにせよ見えないよ!! ルミちゃんは目も良いんだね?」
「おじさんの視力に問題があるって、それは。 ほら、森の終わり見えません?」
「見えません!!!」
……いやゴメン、これだけ騒がしかったら多分この島じゃなくても目立つ。
僕は木の陰に身を潜めるようにして、2人の会話を聞いていた。
1人はヒューマンで大人の男。
持っている荷物や魔物に怯えるような発言からして行商人では無いか、そうだとしても新米なんだと思う。
島に根を下ろして商いをするような人だって偶にこの島に来るけれど、それは行商人に比べれば頻度がずっと低い。
そして、こういう人は決まって護衛の人を連れているから、もう1人は護衛なんだろうけれど……
(どうみても子供に見える……)
もう1人は女の子だった。
僕よりもうんと低い背丈に、不釣り合いなぐらい長い武器を持っていて、話を聞く限り魔法が使えるらしい。
島では見た事の無い派手な髪色に小麦色の肌と黒いマスク、暗めな赤色のローブを風に靡かせている姿は『都会の魔導師』って感じがする。
実際にどうなのかは分からないけれど、僕の中の都会像としては間違い無く彼女は都会っ子だ。
「おーい、グラーン! まだ休憩すんのかー? オイラ、もうリンゴ食い終わっちまったぞー!」
「え? ……あぁ、うん! 今行く!!」
少し離れた場所から呼び掛ける相棒の声に応えて、僕はその場を後にする。
僕はその際に気付かなかった。 女の子が僕を見ていた事も、その意味さえも。
§ §
この空において田舎の島や辺境の島なんてのは数えればきりが無いが、此処────ザンクティンゼルはその中でも異質な部類だと私は思う。
人口は100にも満たず、世帯数にして20と少し。
極小数のドラフを除いてヒューマンしか居らず、更に村は島の中央部に存在するキハイゼル村だけ。
加えて棲息する魔物は島の外縁たる山脈に近い程凶暴で、森林に入れば一転して弱々しい魔物ばかり。
そして何より外縁が山脈地帯になっているが故に、小型騎空艇でも無ければ艇を降ろす場所が限られる。
中型以上の騎空艇は基本的に『碧空の門』に艇を着けるしか無く、そんな唯一の箇所さえ他に比べたら山頂が低くて窪んでいるだけの山に変わりない。
閉ざされた島とはよく言ったものだ。
実力の足りない者はそもそもこの島から出られず、外部の人間も不便が過ぎるこの島に好んで訪れなどしない。
(寧ろ帝国はよくこの島に星晶の祠があるなんて掴んだよね。
アレかな、ルリアの実験中にルリアが反応しちゃったとかなのかな)
「ルミちゃ〜ん! 魔物を追っ払うのは本っっっっ当に君だけが頼りだからさぁ!
ちゃんと俺を護ってね!! 商談はキッッッッチリ済ませるからさ!!」
「分かった、分かりましたからそこまでにして。 近いし煩いしウザいです」
「ヒドい!!!」
この超絶喧しい人は、今回の依頼主でありシェロちゃんの友人でライバルな商人様である。
出会った時から相当喧しかったが、島に近付くにつれ音量が上がった気がする。
顔もリアクションもオーバー極まりないこの人だが、商人としての手腕は素晴らしいとシェロちゃんが言っていただけあり、他島に比べても質が高いらしいザンクティンゼルのハニースターを求めて今回の依頼と相成った。
ハニースターはこのファータ・グランデではありふれた花である。
色鮮やかな黄色の花弁が美しい事から観賞用としても人気な他、色艶の鮮やかな美味しい蜜が取れる事で美容や食用関係でも耳にする事が多い。
商品の為に自らが現地に赴いて商談をしようという気概は私も凄いと思っている。
依頼人はシェロちゃんみたいに1人で店を仕切っているタイプでも無いし、況してや行商人でも無いのだから、部下に任せて店に専念すれば良いと思うのだが。
上の人間だからこそというのであれば矢張り素晴らしいと思うけれども、遠くに見えるだけの魔物にビビらない程度の胆力は身に付けてから来てくれ。
(まぁ……こんなにも早く
マスクの下で口角が上がる。 おっと、気を確かに保たなければ。
バッチリ仕上げてきた衣装を整えながら騎空艇を降りる。
今日の格好は『実装される時の衣装』をテーマに長年私が考え続けていた魔法戦士風の服装に、幾つかの小物が増えた感じ。
髪型は変に手を加えずストレートで、月を模した髪飾りも添えるように着ける。
名目上は護衛の依頼なので黒マスクは仕方無いが装着。
この世界でマスクを着けても落ちないリップは果たして開発されるのか。
待つぐらいならいっそ作ろうかな。 魔法でどうにか出来そうだが、魔道具は整備するならまだしも作製はなぁ……。
服装はYシャツにベージュカーディガンでミニスカという最強ステレオタイプなギャルだ。
まぁその上にローブ──色味はワインレッドが近いかな──をしているので、パッと見は魔導師っぽさの方が際立っていると思うけれど。
魔導師は刀なんか持ち歩かない? 私より長い棒なんだから杖みたいなもんよ。
因みに、お洒落は見えないところまで気を遣えという教訓に則り本日は勝負下着だ。
更に言えばギャル感を高める為に敢えてリボンは緩め、Yシャツは2つボタンを開けている。
上に装飾を集中させている分、下はシンプルを意識したグレーのショートヒールブーツと黒のサイハイソックスに白の脚絆。
イメージしにくい? 魔法戦士ジータちゃんの下半身を目に焼き付けてきなさい。
(依頼は当然手を抜かないけど、この島でヤって────じゃない、やっておきたい事も幾つかあるし、楽しみだなぁ)
「
「蜘蛛ォ!? ……ル、ルミちゃん? 蜘蛛は心臓に悪いからやめない?」
「追加注文は3000ルピから受け付けまーす」
「それは流石にぼったくりが過ぎるよ!!」
「ジョークですよ。 ほら、こーんな美少女がおじさんにお金をねだる構図、どこかで見たことありません?
それの再現、みたいな」
「いや、そもそも俺はハーヴィンをそういう目で見た事無いし──」
「あ?」
「いやいやいや!! まぁ!? ルミちゃんレベルで可愛いと普通は対象外の俺でもなぁっていうか!?」
「え……それはちょっと」
「理不尽の極みッッッッ!!!」
依頼人で遊びながら、此方に敵意を向けてくる魔物を片っ端から牽制する。
以前の調査における露払いと違って、あくまで少し通過するだけなので必要以上の殺生はしない。
無論、襲撃されたら殺る。 そうならないように牽制しているんだけれども。
(主人公の修行相手でもある魔物を減らすのは良くないからねー、っと。
吹き抜ける風に紛れて私の手から不可視の鳥が羽ばたいていく。
それらは陰より私達を狙う魔物に向かい、認識する前に痛打を与える。
然して魔物を退けて進み、キハイゼル村が確認できた頃。
「ふぅん?」
「こ、今度は何?」
「あー、いや。 何でもないです」
「逆に気になるやつ!!」
本当に何てことはない。 遂に見る事が叶っただけだから。
(取り敢えずグラン君は確定ね。 こっそり覗くなんて可愛いじゃん?
後はジータちゃんがいるかだけど……まぁ、そこは村に行けば分かる話か)
何にせよ健やかに成長しているようで安心した。
私というイレギュラー1つで全部台無しになるとは思っちゃいないが、それでも多少はズレると思っているから不安もあったのだ。
実際、シャルロッテの戦いは本当に少しだがズレた訳だし。
私は一部を除いて原作の流れが最良だと思っている人間なので、兎に角ズレないように頑張り続ける所存。
────まぁ、ちょっと味見するぐらいならセーフだよね♡
私は彼らとの会話を楽しみにしながら、一先ずはキハイゼル村へと歩みを進めるのだった。
§ §
それは僕がビィに見守られながら剣を振っていた頃。
「♪Scream your name out to the ends of the sky
♪And carve your glory into legend」
さっき村に行った筈の女の子が歌いながら森に戻って来た。
聞いた事は無いし意味もいまいち分からないけれど、優しげな歌声に反して勇ましい歌詞を口遊んでいる気がする。
「♪Resound your swords to the ends of the sky
♪Devote your passion to the stars」
女の子は僕達から少し離れた場所で立ち止まった。
思わず素振りを止め、相棒のビィと顔を見合わせる。
正面から見た女の子は、派手なだけじゃなくて……その、凄く目のやり場に困る格好をしていた。
胸元は緩いし、スカートは短い。 おまけに僕を見る顔も何だか捕食者のよう。
「初めまして、覗きの少年♡」
「え!?」
「覗きぃ!? グラン、まさか……」
「何も! 何もしてないよ!!」
訝しむような視線を送るビィに、僕は必死に弁明する。
「お、おう。 冗談のつもりだったんだけど、随分必死だな……」
「可愛すぎる……♡ ねぇ、君達の名前は? あ、私はロイルミラ。 ルミで良いよ」
一瞬だけ獲物を前にした猛獣のような目で僕達を見た後、そう名乗る女の子。
努めて気にせず、僕とビィも軽く自己紹介をしてから流れで雑談に入った。
彼女は矢張り護衛の依頼でこの島に来た人間で、今は商談の最中な上に迎えの騎空艇が夕方というのもあって暇だったらしい。
それで、僕が木陰から覗いている事に気付いていたルミは空いた時間で此処に来たそうだ。
因みに、彼女は僕よりうんと小さいけれど2歳年上なんだとか。
ハーヴィン族という大人でも子供みたいな種族がいる事は知識として頭に入っていたけれど、実際に目にしたのは初めてで何だか不思議な気持ちになった。
「お父さんを追って空へ、かぁ……良い目標だね! 先に空を旅する先達として応援するよ!!」
「ありがとう。 ルミはどうして空の旅を?」
「オイラも気になるぜ! 派手な嬢ちゃん、グランとそこまで変わんねぇのに1人で旅してるんだろ?
親御さんとか心配してんじゃねぇか?」
「両親に関しては、実力を証明してるし手紙も出してるからそんなに心配されてないよ。
それと、旅の目的なんだけど、ね……」
そこで言い辛そうにルミは口を閉ざした。 何故かモジモジしているけれど、恥ずかしいのだろうか?
……旅に出る理由で恥ずかしいものってなんだろう。
「そ、そのー……貴方に会いに、みたいな……」
「「?」」
余りにか細い声で何か言ったけれど、聞き取れなくて僕とビィは揃って首を傾げる。
「いや! 星晶獣!! そう、星晶獣を探してー、みたいなね!!」
「うわぁ! 急に大声出すなよぉ……」
何かを誤魔化すように声を張り上げるルミに、思わずビィが文句を垂れた。
ただ、誤魔化しで出た言葉で『星晶獣を探す』という辺り、本当の理由はこれ以上のものだったりするのだろうか?
彼女は一体────
「それよりもさ! グランって対人の稽古とかしてる?
空を旅するなら、魔物だけじゃなくて悪人にも注意しなきゃいけないよ?」
「それよりもって……まぁでも、嬢ちゃんの言う事は一理あるとオイラも思うぜ。
村じゃ猟師のおっちゃんぐらいしか相手してくんねぇし、頻度もなぁ」
「それはしょうがないよ、ビィ。 おじさんだって仕事の合間で相手してくれてるんだし」
僕達の会話を聞いて少し考える素振りを見せたルミは、まるで名案でも思い付いたように手を叩いた。
「んじゃ、私とやろっか!!」
「「えぇ!?」」
それから暫く。
唐突に始まったルミとの対人想定の模擬戦は、何戦か行われたものの僕が1勝も挙げられずに終わった。
でも、得られたものも沢山ある。
攻撃を主目的とするような魔法はそもそも初めて見たし、剣技に関しても驚きの連続だった。
刃に属性を乗せる遠当てに始まり、ルミが小さい事を利用した刺突や、急に剣が伸びてきたと思わせるような歩法。
どれもこれもが新鮮で、ボコボコにされたのに何だか感動してしまった。
少し困った事として、どうも根本的に僕の体力が足りていないというか、今の剣に対して僕が未だ追い付いていない事も判明した。
ビィにも『もっと沢山食べて、沢山寝て、沢山運動しなきゃだな!』って言われてしまったし、当面は体力作りが必要なのかも。
兎にも角にも僕にとって非常に有意義な時間だった。
「お疲れ、グラン! ルミもグランの相手してくれてありがとな!!」
「お疲れー♡ いやー、筋が良いねぇ。 私が同い年だったら負けてたな、こりゃ」
「はぁ……はぁ……そんな、余裕そうに、言われても……っ!」
「珍しいなぁ、グランがここまでバテるなんてよう」
自分自身、ここまでヘトヘトになったのはいつ以来か思い出せない。
そんな僕を見て、ルミは刀を納めてこちらに近付いてくる。
「それじゃ、そんなお疲れなキミに元気が出るおまじなーい♡」
そうして僕の耳元まで口を寄せて────
「आशासे भवान् मां प्रेम करिष्यति」
「……え?」
何を言われたのかが全く分からなかった。
彼女の魔法は元々不思議な詠唱で発現すると思っていたけれど、先のそれが今までとは明らかに異なるものである事は僕にも分かる。
ただ彼女が『元気が出るおまじない』と言っただけあって、僕の身体から疲労感は何時の間にかすっかり抜けていた。
「それじゃあね、お二人さん。 そろそろ依頼に戻らなくちゃだから」
「おう! 次に会う頃はオイラ達も空を旅してるだろうからよ、その時はよろしくな!!」
「そうだねぇ……その時を楽しみに待ってるよ」
その言葉を最後に彼女は森を去っていった。
最後の彼女の言葉には、まるでこの広い空で僕達に再会できる事が確定しているかのような、そう思わされるぐらいの含みがあって。
「ねぇ、ビィ。 ルミって何者なんだろう?」
「オイラにも分かんねぇ……ただまぁ、不思議な嬢ちゃんだったな。 グランを見る目付きとか」
「あ、あはは……」
あの目はちょっと怖かったから、次に会う時は無いと良いけれど……
それ以外にも僕の疲労を抜いてくれた『おまじない』や、結局誤魔化されたままの彼女の旅の目的、そして誤魔化しにも関わらず平然と彼女が言った『星晶獣を探して』という発言。
「ビィ。 空って……想像以上に広いんだね」
「プッ……ハハハ! なんだよそれ!」
「え!? そ、そんなに笑うとこ!?」
「いやぁ、だってよぉ! 真剣な顔してるもんだから、何を悩んでるのかと思ったら空の広さって!!」
「むぅ……いいよ! そんなこと言うビィは、今日の夕飯に出す予定だったお肉貰っちゃうし!」
「な!? そりゃ無いぜ! なぁ!! 悪かったって!!」
僕と相棒の他愛もない喧嘩のような戯れ合いは、森を抜けて家に帰るまで続いた。
その夜、ものすごく距離感の近いルミに迫られ続ける夢を見て、僕は寝不足になった。
難産だった割に短めですマーン!(某悪魔男)
途中の歌はもはや懐かしい「ディフェンド・オーダーー攻勢防禦ー」です。
サンスクリットは翻訳頼りなので、その手の人からしたら間違えているかも。
もう少しで物語がまた大きく動かせるかなと思います。