団長ラブ勢のギャルハーヴィンだってそうさ!!必ず存在する!!!! 作:梏 桎
前回の投稿から7時間程ですが、出来てしまったので放出します。
可哀想な女の子は可愛い。
例えそれが、TSであっても。
22/04/30 加筆修正
フュンフの魔力暴走は空気が張り詰める感覚が最初に発生するので分かりやすい。
そして1度発生すれば大気すら巻き込むのだから誰の目にも明らかになる。
そうなる前に家から飛び出す私と、どこからともなくやってくるオクトー。
魔力を包んで流す私と、刀で打ち消すオクトー。
これが日に数回も行われるのだから、村人が慣れるのも道理だ。
私としては自分のやりたい事がほぼ全て出来ない、乃至は途切れ途切れで集中出来ないので大変なのだが。
とはいえ、勝手に首を突っ込んで起きながら泣き言を吐くのは筋違いである。
オクトーの魔力の打ち消し方は、フュンフ出産時こそ抜刀していたが今は納刀したままだ。
私からすると乱雑に振っているだけにしか見えないのだが、摩訶不思議な事に被害無く魔力を霧散させている。
(よーく観察しろ、私。
同じ事が出来るようになれなんて話じゃないのだから)
最初こそ他の事に構っている余裕が無かった魔力暴走への対処だが、フュンフの心根が多少は反映されているのか回を増す毎に規模自体は小さくなっていた。
単純に私が慣れ始めているだけという線も無い訳では無いけれども。
兎も角、余裕が出来たならば私の鍛錬に存分に活かさせて貰おうじゃないか。
魔力の識別に関しては、これだけ同じ魔力と対峙すれば嫌でも覚える──フュンフのは特に判別が容易──ので鍛錬としては怪しい。
そこで白羽の矢が立つのがオクトーだ。
改めてではあるが、私の目標たる魔法戦士は刀──それと格闘という名の魔法──を扱うジョブである。
そして幸か不幸か
つまりは何かを学び取れ、という事なのだと私は勝手に納得した。
技術を根こそぎ盗んでやろうなどと大言壮語を吐くつもりは無いが、『なんの成果も!!得られませんでした!!』なんて言った日には、末期の言葉が昔日の私への恨み節になりかねない。
大事なのは観察と、強くなりたいという思い。
幸いにもオクトーは何も言ってこない。
弱者が高みを目指す上で強者の技を盗むのは万事における初歩である、とか思っているのだろうか。
それとも単純に、自分の技術を盗めるような奴は居ないという自信の表れなのか。
私としては何方でも構わないけれど、予想としては単純に『他人に興味が無い』というのが、オクトーらしい気もする。
彼女が懸命に観察をしている頃、オクトーは自問をしていた。
────何故、赤子の癇癪を宥め賺す手伝いをしているのか?
オクトーは根っからの武人であり、基本的に善悪を分別は付けても区別はしない。
正義だ悪だに固執せず、只管に己を鍛え高みを目指す者だ。
ならば何故、
何故、特異な気色を放つ童に宥め賺しを一任しないのか。
オクトーは答えを見出せずにいた。
オクトー自身は全く覚えていないが、オクトーは昔から人の世話を何かと焼く人物だった。
気紛れだろうと
そうして無自覚に人を導いて、救っていた。
オクトーという人物は畢竟、善人である事に違い無い。
但し説明もしない、自覚も無い、それを悪びれもしないという、人間関係を拗らせる天才でもあった。
────故に之もまた気紛れ。
オクトーは自らに投げた問いを容易く斬って捨てた。
捨ててしまえた、のかもしれない。
彼が他人に少しでも関心を向けるのは、それこそ
童にせがまれ続けている勝負を引き受けるのも又、気紛れに他ならないと彼は斬って捨ててしまうだろう。
§ §
フュンフの対処が完全に日常の一部と化した頃、私はオクトーに1本先取の勝負を頼んでいた。
正確には、フュンフの対処に余裕が出来た時点から頼んでいたのだが、この日までただの一度も承諾された事は無かった。
決まって幾つか小言を言われて、最終的には無視して山に籠られる。
然し今日、返ってきた言葉は『構えよ』の一言のみ。
遂にオクトーと戦う権利を手に入れた!
勝ちは当然狙うが、相手の技術を盗む事も肝要だ。
『両方』こなさなくっちゃあならないってのが『挑戦者』のつらいところだな。
覚悟はいいか? 私はできてる。
私は間合いを取るオクトーを観察しながらそんな文言を頭に浮かべる。
────この時の私は、当然の如くまともな
魔法戦士は刀と共に魔法を扱う都合、片手は空いている方が好ましい。
勿論、戦いの最中では両手で刀を握る事も有るだろうが、それは臨機応変な対処の結果に過ぎない。
然しドラフ程の大柄なら兎も角、ハーヴィンで片手を空けて刀を構えるのは
……サビルバラやシャルロッテのような例外もいるが、アッチが可笑しいのであって私の認識の方が普通である……筈。
それに加え、私の使っている刀はパッパのコレクション品の中で一番重い。
理由は単純にこの刀が一番私の魔力が浸透しやすく、刀に属性を付加しやすかったから。
ヒューマンからすれば大脇差ぐらいのその刀は、漸く年齢が2桁になったハーヴィンの私が持てば斬馬刀と大差無い。
要するに、現状の私には長すぎるのだ。
だが、先述の通り片手は空けておきたい。
未だ成長の途上にある私の筋力を加味すれば、行き着く先の構えは1つ。
刀を背に回して、肩で担ぐように抜刀。
今の私の身長だと、曲抜きみたいな方法を採用しない場合はこれしか抜刀のしようが無い。
抜刀したら鞘をその辺に投げ、刀を肩に担ぐ。
姿勢を前傾に、左手は正面に、視線は相手に。
何処ぞの『妖怪首おいてけ』スタイルである。
「……来い」
「ッ!」
声と共に走る。
どうせ関係が無いのなら走って詰めた方が良い。
私の刀を届かせ、私の実力でも査定して頂こう。
オクトーの刀ならもう届く距離に入っても、未だにオクトーは動かない。
それどころか、人に構えさせておいて自分は刀に手を置いているだけ。
(構える価値すら無いってか……?)
私にも多少なりともプライドがあったらしく、その姿に苛立ちを覚えずにはいられない。
何だかんだ、私自身も自分が才能有る存在だと信じて疑っていなかったのかもしれない。
(ぜっったいに一泡吹かせてやるからな……!)
左手に魔力を込める。
使う属性元素は土と風、それに少しの闇。
技術を盗んでやろうなどと言っている場合では無くなった。
力量差がハッキリしているからとは言え、構えすらしないなどバカにされているにも程がある。
何せオクトーと私の力量差が天と地程あるか、紙一重なのかは
「うらァ!!」
視界を覆う土煙と黒煙。
名前も何も無いしょうもない小細工だが、バカ正直に突っ込むよりは幾分かマシだろう。
私は更に視界不良の中で小規模の魔法を撃つ。
弾かれるような音がするから、ちゃんと狙う事は出来ているようだ。
オクトーの魔力は試合前にキッチリ把握している。
何処にいるかは私からはちゃんと分かっている訳だ。
オクトーの周囲を回るようにしながら撃てる限りを撃って、土煙と黒煙が酷さを増す。
一向に動きもしないオクトーを訝しみつつ、それならば好都合だと私はオクトーの
まだオクトーの魔力はそこにある。
(ガキだからって舐めるからこうなるんだ……!)
跳躍して、右手に力を込めて刀を振り下ろし────
(居ない……!?)
おかしい、魔力はしっかり此処にあるのに。
動いた形跡など欠片も無いのに。
────私は一体いつから
私の頭に疑問が浮かんだ直後、私の刀が
「戯れは終いか」
「んな!?」
何処から現れたのか、オクトーが私に声を掛けてくる。
最早私には理解不能の事態だった。
何をどう間違えた? 何処から相手の手の内だ?
私の頭に次々と疑問が浮かんでは、解消する事も無く積み重なっていく。
何よりも────
(私はそもそも、どうやって
「気配の探り方を絞れば、破られた時点でうぬの敗北は必定。
仕合いたくば、小手先の術を磨くより先に鍛錬でもせよ」
────
§ §
オクトーに負け、私は身体中の水分を放出する勢いで泣いていた。
どうやって帰ってきたのかもうろ覚えな程のショックだ。
別に私はこれまで無敗で生きてきた訳じゃない。
木剣の試合とはいえパッパには随分とボコされていたし、魔物との戦闘も最初の頃はおっかなびっくり戦っていたせいで窮地に陥った事もある。
だが、それらは全て『後に勝利する事で取り返せる』という、どこか確信めいたものを持てた上での敗北だった。
然し今回は違う。
そもそも何故勝てると思って挑んだのかが今の私には分からない。
アレだけ目の前で『魔力を刀で霧散させる』という無茶苦茶な事をする相手に勝負が成立すると思っていたのか。
両親も愛しの
私は何故泣いているかも分からないだろう家族の心配する目線に益々居心地が悪くなって、帰宅早々に部屋に籠った。
────話にならなかった。
勝った負けた以前、力量差がどうこう以前の問題。
刀を構えて貰えなかったという
私とオクトーの実力差が
試すまで分かっていなかったのは、天才と囃される自分を『天才なのは当然』と驕っていた、私自身の愚かさだろう。
何を自信満々に『勝ちは当然狙うが、相手の技術を盗む事も肝要だ』なんて思えていたのか。
精神は前世の分込みで中年もいい所だと言うのに、あまりにも幼稚な自惚れに空の底まで落ちたくなる。
その時ふと、私が塞ぎ込んでいる部屋の戸が開く。
言っては悪いが、こういう無作法を働くのは妹君しかいない。
「……お姉ちゃん」
「ぐすっ……なぁに、エリス」
こんな時でも最低限の姉としての威厳を保ちたいからか、私は涙を拭って応じる。
その癖して顔は背けたままだし、普段なら有り得ない程に妹君に素っ気無い態度をとっているが、今の私にそこまで気を回す余裕が無い。
「どうしてそんなに泣いてるの?」
「……」
「言いたくないの?」
「……うん」
実際、とても言いたくない。
私の事を天才だなんだと吹聴し始めた本人に、『自分が天才だと思って挑んだら勝負以前のボロ負けで心が折れて泣いているんです』とか恥ずかしすぎる。
ベコベコに凹んでいようとも、私にもプライドというものがある事は先程知ってしまった。
そのちっぽけなプライドを守る為に妹君に隠し事をする辺り、今の私は非常に惨めなのだろうが。
「うーん……じゃあ聞かない! だからお姉ちゃん遊ぼ!」
────え? いきなり何を言い出すんだこの妹。
突然の方針転換に着いていけずに私の思考が止まる。
聞かないでくれるのは有難いが、だからといって遊ぶ気になどなれやしない。
それよりも私としてはオクトーにどうやって勝つかを考えなければ。
今回は勝負ですらない何かだったが、次もそうではいけない。
勝つ方法は何一つとして浮かばないし、そもそも再戦してくれる気すらしないけれど。
「な、何言ってんのエリス。 お姉ちゃん、今はそれどころじゃなくて──」
「嫌! あーそーぶーの!!」
妹君の誘いを断ろうとするも、私の話すら遮って主張を強めてくる妹君。
普段なら可愛らしい強情さだが、今の私に愛でている余裕は無い。
後を思えば、この時が自分の
それ程までに勝手に自分を追い詰めて、余裕が無くなって、何も取り繕う事が出来ない状態だった。
「……ッ! 遊ばないって言ってんだろ!! いい加減にしろよ!」
「いい加減にするのはお姉ちゃんの方でしょ!!」
私が自分の口調にも気付かずに勢いよく振り返って怒鳴れば、それを上回る程の怒りで返された。
ただでさえ朦朧としている頭が真っ白になる。
妹に怒鳴られたのは、人生で初めてだ。
────なんでエリスは怒っている?
「お姉ちゃんが何で泣いてるのかエリスには分かんないし、聞いたって話してくれないじゃん!
それなのにメソメソずっとしてて、エリスにはどうすればいいか分かんないもん!!」
「だ、だから放っておいてって──」
「放っておいたらお姉ちゃん元通りになるの!?
いつもみたいに遊んでくれるの!?
絶対違うじゃん!! お姉ちゃん、どこか遠くに行きそうな顔してるもん!!」
「……じゃあ! エリスには何が出来るんだよ!!
人の事を好き放題に吹聴して天狗に仕上げておいて、お前には何が出来るんだよ!!?」
「何したらいいか分かんないからエリスに
私は息を呑む。
情けない逆ギレをかましておいてなお、妹君は寄り添ってくれるというのか。
後に聞く事だが、この時の私はどうやら相当酷い顔をしていたらしい。
あくまで自己嫌悪の一つだったつもりだが、妹から見れば私の顔には本当に『空の底まで落ちたい』と書いてあったのだろう。
そして私はこの時に妹君には勝てないと理解した。
何せここまで無様で情けない姉に『何が出来るか分からないから話せ』というのだ。
どこまで優しくしてくれるつもりなのだろう。
誰かにここまで寄り添って貰うというのは、前世を含めてもきっと初めてだったと思う。
(参ったな、こんなつもりじゃ無かったのに)
じわじわと涙が零れ始める。
慌てて目元を抑えても、勢いを増すばかりで止まりやしない。
嗚咽も抑えられずにグズグズと泣く。
────こんな……つもりじゃ……
「ねぇ、お姉ちゃん。 お姉ちゃんはどうして泣いてるの?」
「ぐずっ……お姉ちゃんな……ひ、ぐっ……負けた、……あの大きな人に」
「……うん」
「お姉ちゃんな、自分が強いと思ってた、ぐすっ、から、悔しくて……」
「うん」
「弱いお姉ちゃんで……ごめんね……!」
涙で視界が滲む。
エリスが今、どんな顔をしているかも分からない。
失望させただろうか、魔法糸製の綾取りを褒めてくれて『お姉ちゃんの魔法は凄い』と羨望の眼差しを送ってくれた妹を。
軽蔑するだろうか、天才と吹聴された事に最初こそ困っていたのに、結局それを受け入れた私がたった一度の敗北で無様に泣いている事を。
更に言えば、みっともなく泣きじゃくる姉の中身が中年だと知ってしまったら。
正真正銘、7年しか生きていない妹はどう思うのだろう。
「ううん、お姉ちゃんは強いよ」
「ぇ?」
「お姉ちゃんはエリスが産まれるより前から頑張ってるんでしょ?
それなのに、エリスとも遊んでくれるし、プレゼントもくれるよね!」
────何を、
「それにお姉ちゃんはオシャレさんなんだー、ってみーんな言ってるよ!
あんなに頑張っててオシャレさんでもあるなんてお姉ちゃんが『
────何を言っているんだ、
「あと、お姉ちゃんは頭もイイよね!ママのお手伝いしてる時にいつもママに聞かされるんだー!
この前ね、私もお姉ちゃんみたいになりたいから魔法教えてーって頼んだんだよ!
『天才少女』のお姉ちゃんと同じなんて、ちょーカッコイイもんね!!」
────何故そんなに楽しそうに私の話をするんだ、この妹は。
「だからそんなに色々できるお姉ちゃんが弱いわけないよ!
安心して! お姉ちゃんが強いのはパパもママも、エリスも知ってるよ!!」
そこから後は、記憶も視界もあやふやだ。
家族の温もりを感じた気もするし、逆に何もされなかったのかもしれない。
唯一覚えているのは、止まらない涙だけ。
気付けば私は布団の中で、隣では愛しの妹君が寝息を立てていた。
その寝顔を見て、妹の言葉を思い出して。
私は1つの誓いを立てる。
(強くなろう。 私を強いと信じてくれる家族の為に)
目標は変わらない、それに到る為に学ぶ事も今までと変わりはしない。
ただ
今度は天狗になるだけでは終わらせない。
正真正銘の『天才少女』────そして最強の魔法戦士になる。
────明日、またオクトーと話をしなければ。
私は静かに燃ゆる決意を胸に、妹を一撫でして眠りに就いた。
未明頃にフュンフの夜泣きによって緊急出動する事になったのは、我ながら締まらないなと思わずには居られなかった。
戦闘描写も挫折描写も稚拙すぎて後々に黒歴史となる事が確定している気もしますが、世に出さずして成長無しと自らを鼓舞しての投稿と相成りました。
次回からまた修行です。
というか原作合流までは実質ずっと修行パートです。