団長ラブ勢のギャルハーヴィンだってそうさ!!必ず存在する!!!!   作:梏 桎

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修行パートと言いつつ、修行要素がほぼありません。

22/05/01 加筆修正


進展はあったろう?

 

 

 未明頃に叩き起こされた私が次に目覚めたのは、愛しの妹君(エリスマルル)が寝ている私にダイブしてきた昼前の事だった。

 ……前世の私なら兎も角、今世の私が出しちゃいけない汚ったない呻き声が第一声となってしまった。

 

 お仕置と称して妹君をくすぐり(合法的に幼女を触り)ながら私は今日やる事を脳内に並べる。

 

 

 先ずはオクトーに逢いに行って昨日の謝罪が最優先。

 あのお爺ちゃんの事だから全く気にもしていないだろうけど、私が言わなきゃ気が済まないのでグイグイ行くことにする。

 

 後はサラッと私淑させてもらう。

 どうせ師事を願っても小言を返されるのが関の山だ、勝手に見て勝手に技を盗む。

 当初のプランに立ち返ったともいう。

 

 

 次に必要なのは……なんだろう?

 

 オクトーとの力量差があまりに大き過ぎるせいで、何をするのが正解かイマイチ分からない。

 どうすればこの大きな差を埋められるのだろうか?

 

 魔力感知以外の気配の探り方……は後々必要だろうが、今鍛えると同じ戦法を繰り返す方に自分の視野が狭まる気がする。

 かといって、なにか新しいものを身に付けようにも何も湧いてこない。

 

 

 うーむ……インスピレーションが欲しいところだ。

 こういう時は、好きな事をして一度スッキリした方が良いと相場が決まっている。

 

 

 既にこの世界に生を受けて10年と少し。

 今世の私には前世と違う趣味が芽生えた。

 

 

「ご馳走様! ママ、今日のお昼ご飯も美味しかった!

 今度作り方教えてね!」

 

「お粗末様でした、ルミちゃんが気に入ってくれてママも嬉しいわ〜。

 それじゃあ、今度一緒に作りましょうね」

 

「うん! それでね、ママ。

 今日、()に行きたいんだけどダメかな?」

 

 

 私は趣味を敢行する為に、昼餉を手早く済ませてマッマに打診をする。

 

 目的地はこの村から山を越えた先の港町だ。

 ()とは言うがここはグラブル世界で、この島は別にアウギュステの一部でも無い。

 必然的に面しているのは空で、迎え入れるのは騎空艇だ。

 そして港は物流の要所。 この村より遥かに物に溢れている。

 

 そう、目的は買い物。

 主に服と布地類、それと菓子だ。

 

 

 今世の私は前世と違ってオシャレに関心が向くようになった。

 何せ素体となる(ロイルミラ)が可愛いのだ、色々と自分に着せたくて堪らなくなる。

 最初の内は羞恥心が勝っていて冒険する事も無かったのだが、日頃から村人に『今日も可愛いわねぇ』とチヤホヤされれば人間は変わるものだ。

 今ではそれなりの露出も受け入れられるようになったし、スカートは既に日常で着用する事に違和感すら覚えない。

 ただ、残念ながらハーヴィンの服は港でも取り扱いが少ない。

 ヒューマンの子供服に手を加えたりする事で選択肢を広げる事は出来るのだが。

 

 又、そういう一手間加える作業をし続けていたからか今世の私は裁縫にも自信ありだ。

 天才デザイナー(コルワ)みたいに自分の魔法糸を使って仕立ても出来る。

 無論、私の魔法糸に気分を左右させる効能は無い。

 属性元素に反応して最大で約1680万色に光るだけである。

 

 菓子はまぁ、私が好きだからだ。

 前世も今世も甘い物に目が無く、妹の土産にも最適だしで隙が無い。

 

 

 それに港町は情報も多く行き交う場所。

 私のこの行き詰まった状況を打破する何かが得られるかもしれないし、それを抜きにしても原作に関連した情報収集も出来る。

 

 

 実は港には行った事がある。

 まだ私の修行が本格化する前にパッパと行ったきりで、最後に行ったのが何年前だったか、我ながらうろ覚えなのだが。

 しかもその時はパッパ同伴なのも相俟って碌に情報は得られなかったと記憶している。

 確実に覚えているのは、人の多さとヒューマンの大きさぐらいだ。

 

 それだけ期間が空いているのだから、色んな意味でまた港町に行きたいと私は思っていたのだが────

 

 

「構わないけれど……大丈夫? ルミちゃん、明日は満月よ?」

 

「あっ」

 

「それに村じゃ話題に上ることも無いけれど、今の港は()()が泊まる事もあるってパパも言ってたわ。

 ママとしては心配なのだけれど…」

 

「えっ」

 

 

 港町へ行くには山を越える都合、ハーヴィンの足だと日帰りは難しい。

 魔物との遭遇頻度にもよるが、山を越えるのに平均して半日近く必要になるからだ。

 

 だから明日が満月だと、私はロクに仮眠も取らないままツクヨミ様と逢う事になるだろう。

 マッマが心配するのは当たり前だし、私も失念していた。

 

 

────ただ、それよりも。

 

 

「ね、ねぇママ? その帝国って、エルステ帝国?」

 

「? えぇそうよ。

 数年前に帝国に名を改めてから、色んな島を帝国のものにしているんですって」

 

 

 怖いわよねぇ、とマッマは零した。

 

 

(何で私はこんな大事なことも忘れてるんだ……!)

 

 

 私は自分の記憶のガバガバ具合が怖くて堪らないよマッマ。

 

 エルステが王国から帝国に変わるのは原作開始の約10年前。

 フュンフが産まれた事から分かるだろうが、今は原作開始の約7年前。

 

 

(既に3年もエルステが帝国として活動している!

 というかマッマの言う通り、マジでこの村の人間が話題にしていた記憶無いんだけど!?

 危機感が欠如しているのか肝が据わっているのか分からないぞこの村!)

 

 

────色々と再確認した、港に行くのはまた今度だ。

 

 

 今世をエンジョイする事は大いに結構だが、今は自分の記憶をしっかり喚び起こす方が圧倒的に先。

 またうっかり忘れて主人公に合流し損ねるとか絶対にやっちゃいけない。

 

 

(覚えている限りの全てを思い出せ! 前世の私(中年陰キャ)……!!)

 

 

 

  §  §

 

 

 

 『港に行くのは考え直すね』とマッマに告げて、私は当初の予定通りオクトーが瞑想をしているだろう山に向かっていた。

 

 無論、頭の中は当時の記憶(グラブルの情報)を喚び起こすのに躍起になっている。

 

 

 原作開始の約7年前、明確に時期の分かるイベントは無かったはずだ。

 ……本当に無いのか? 必死に探れよ、私。

 

 パッと思い出せる次のイベントは1年後。

 アルビオンの領主がヴィーラに変わるイベントで、これが原作開始の約6年前だ。

 そしてこれは同時に、カタリナのエルステ入軍を意味している。

 カタリナはここから6年で機密の少女(ルリア)の世話を任される程度に軍内で信頼を稼げると思うと、人柄の良さが分かるというものだ。

 その人柄故に、軍を裏切るわけではあるが。

 それにこの件の実態は……いや、私じゃどうしようも出来ない案件である。

 

 更に1年後、別空域ではあるがトリッド王国が『天罰』によって崩壊する。

 仔細は省くが、結果としてナル・グランデの混乱の始まりがここだ。

 ……別空域に易々と行く手段は無いので、知っていても何も出来ないのが少々歯痒くもある。

 が、ナル・グランデを本当にどうにかしたいなら真王も関わってきて面倒臭いのでこれ以上の思考は無益だ、次。

 

 原作開始の約4年前はこれと言って思い浮かばないが、3年前ならある。

 レホスという1人のエルーンの死だ。

 主人公がアウライ・グランデを旅する中で欠かせない『蒼の解放戦線』に関する一連の件が原作開始の約3年前になる。

 これも又、別空域の話だから何もしてやれる事は無いだろう。

 

 

 私にとって今大事なのは時系列の整理だから容易く切っているが、メインに関わる事だけでもこれだけの出来事がある。

 シナリオイベやグランサイファーに乗船する仲間の過去を含めたらキリが無い。

 

 それでも、傲慢にも救いたいと思うものは有る。

 ずっと内に秘めてはいるが、私がツクヨミ様と親交を深める目的の一つになる程に心を傾けている事柄だ。

 そろそろツクヨミ様には明かしておく必要があるだろうか。

 明日が満月の夜なら好都合、機会を伺って話すか。

 

 

 それにしても、全部救えるなんて傲慢な思いを抱いたつもりは無いけれど。

 

 

(想像以上に自分が無力だと思い知らされる。

 どの件も知っているだけで関われない、乃至関わったところで解決出来ない……)

 

 

 空の世界に蔓延る闇は思っているよりも根深い。

 知っているだけで解決出来る案件は非常に少ないのだ。

 

 ……まぁ、そもそも今の私は自由に島外に行けないが。

 

 

 脳内での時系列整理に一段落をつけた頃、私は祠の所に来ていた。

 眼前ではオクトーが某死神漫画の刃禅のような体勢で瞑想している。

 

 忘れてはいけないが、今回の目的はオクトーへの謝罪と『これから貴方の技を勝手に盗みます』と宣言する事だ。

 ……後者は無論、言葉を選ぶとも。

 バカ正直に言い放っても怒らなさそうだけど。

 

 

「……お爺ちゃん」

 

 

 言葉は返ってこない。

 これぐらいは想定済みだ、勝手に話し掛け続けるとしよう。

 

 

「昨日は済みませんでした。 とても試合とは呼べないようなものに付き合わせてしまって」

 

 

 言葉は返ってこない。

 

 

「だから、お爺ちゃんの技を見せて貰えませんか! それで私、きっと何かを得て──」

 

「不要だ」

 

 

 一言で斬り捨てる。

 これも想定済み、というか多分この感じだと────

 

 

「えっと、不要って、その」

 

「謝罪は要らぬ。 許可も要らぬ。 好きにせよ」

 

 

 ヨシ!(現場猫) 満点の回答を得られた。

 

 オクトーの事だから私の目的は筒抜けだと思うが、通したいものが通った以上は些事だ。

 下手したら私がそう言って欲しいと願っている事すらお見通しかもしれないが、まぁそこをネチネチ責めてくるような人でもない。

 

 

「然し異な事を言うな、童。

 うぬは(もと)より我が刀を見て己を鍛え、自らを名刀せしめんと躍起であったように思うが」

 

「い、いやぁ……はは、その。 改めての宣言も大事と言いますか……」

 

「童らしからぬ無用な気遣いよな。 童の時分でしか為し得ぬ事も有ろう」

 

 

 訂正、多少は小言を言ってくる。

 

 然し成程、そこを突いてくるのか。

 折角だし、ほんの少しだが探ってみるか?

 

 

「……やっぱり子供らしくないんですかね、私」

 

「然もあらん。 而して童で有る事に囚われる勿れ。

 畢竟、己を見失わぬ事が肝要よ」

 

「は、はぁ……」

 

 

 うーむ、結局この人が何処まで私の事を見透かしているのかまるで分からん。

 分からないが、多分さっきのはオクトーなりの激励だ。

 どうにかオクトーに勝つ方法を、と焦った末にやりたい事すら見失ってはいけない。

 そういう点では有難いアドバイスだ。

 ……まぁ、私は割と昨日の時点で吹っ切れてしまっているから、こういう受け取り方になってしまっているけれど。

 

 こういう面を見ると不器用な人なんだと思えて、(いかめ)しい容姿の割に可愛く見えてくる。

 オクトーなりに折った──と見えなくもない──心を治す方法を考えてくれていたのかもしれない。

 

 

(その不器用な激励をナルメアにも与えていれば、絶対()()()()拗れなかっただろうに……)

 

 

 少なくとも現状では私にしか知り得ない情報を胸中に浮かべながら、私は明日の満月の夜に備えるべく、オクトーの元を去った。

 

 

 

  §  §

 

 

 

────翌日。 満月の夜、祠前。

 

 

 オクトーの来訪やフュンフの誕生があって慌ただしいここ最近だが、ツクヨミ様との密会──断じて逢瀬でもデートでも無い──は何事も無く続いている。

 

 ……いや、少し嘘が混じった。 何事も無く、という点が。

 

 オクトー来訪の後、ツクヨミ様と出逢う機会は満月の夜だけになっていた。

 理由は彼が村に来てからの最初の新月に、私の家に向かう途中でツクヨミ様とオクトーが戦闘を行ったからだ。

 この村で私と家族を除いて初めてツクヨミ様を認識した存在なのに、出会って早々にドンパチした訳である。

 

 これ以降、ツクヨミ様は新月にこの島に来なくなった。

 

 双方に悪気は無いだろう。

 オクトーからすれば私の家に向かう見知らぬ星晶獣、ツクヨミ様からすれば自らの道を阻む邪魔者。

 

 強いて言えば、お互い会話が出来るのだから話し合って解決して欲しかった。

 然し、話し合って解決するだけの器用さをオクトーは持ち合わせていないし、ツクヨミ様だって襲われているのに話し合おうとするほど空の民に優しい訳じゃない。

 

 ツクヨミ様が私に対して友好的なのは、私が敵対の意志を一切見せないところが大きいと思う。

 初対面なんか無抵抗で眠らされていて、そんな事されながら懲りずにまた逢いに行った挙句、最初に彼女に向けた言葉が『可愛い』だ。

 

 

────私、もしかしてツクヨミ様の中で変人に該当してるのかな。

 

 

 いや、箇条書きマジックに違いない。

 私は変人じゃない、転生している異常者なのは間違いないが変人なのは前世までだ。

 

 

「今世の私は変人じゃない!」

 

「……? どうしたのです、御空の燭(ロイルミラ)

 

「ぴっ」

 

 

 どうやら口に出ていたらしい、終わった。

 

 

「うふふ、愛らしい鳴き声ね。 此方に寄りなさい」

 

「は、はい」

 

「うふふ」

 

 

 微笑みながら私を撫でるツクヨミ様。

 

 

 何事も無く、というのが嘘である点のもう一つがコレ。

 ツクヨミ様との距離が明らかに近くなった。

 

 物理的に近い事自体は前々から有ったが、その多くは属性元素に関する授業の際の接近でしか無かった。

 

 ツクヨミ様がこうなったのも又、オクトーが来てからだ。

 とはいえ、最初の内は以前に比べてスキンシップが増えたぐらいの感覚だったのだが。

 フュンフが産まれてからそのスキンシップが過剰に増えて、今ではこうして抱きかかえて撫でるレベルにまで到達してしまった。

 

 仲良くなれた事は非常に喜ばしいのだが、このままだと前世の私(中年陰キャ)が『押し倒せ!同性同士がなんぼのもんじゃい!抱けーっ!!』と主張しかねない。

 というか既に半分くらいは主張している。

 抑え込めているのは偏に前世の私が陰キャ過ぎて、本能に従って襲おうにもビビりまくっているからだ。

 

 

(関係を壊したくは無いけど、理性と戦い続けるのも辛いよ……! 助けてクレメンス)

 

 

御空の燭(ロイルミラ)

 

「はい、ツクヨミ様」

 

「貴方とこうして逢瀬を重ねるのも、我の過ごした時からすれば瞬きの間だというのに。

 気付けば貴方と出逢う望の夜を、一日千秋の想いで待っているのです」

 

「ツクヨミ様……」

 

「然し貴方も又、遍く御空の輝きの一片。

 我が役割に徹するならば、貴方も夜闇で染めねばなりません」

 

 

 ツクヨミ様にムラムラ────じゃなかった。

 私がツクヨミ様との関係に悩んでいれば、ツクヨミ様もどうやら今の関係にお悩みらしい。

 

 

 詳しくは聞いていないが、この口振りからするとツクヨミ様も覇空戦争の際に作られた沢山の星晶獣の一体なんだろう。

 ツクヨミ様なりの言い方ではあるが、変換するなら『私の役割は空の民を殺す事なので、貴方も役割に従うなら殺すしか無い』だと思う。

 

 

「ツクヨミ様も、お悩みだったのですね」

 

「悩み……これが我の憂悶なのかしら」

 

「きっとそうだと思いますよ、ツクヨミ様」

 

「そうなのね……」

 

 

 だから────

 

 

「ツクヨミ様は言いましたよね。憂悶は時に、他人によって雲散霧消するって」

 

「……ええ」

 

「私の事なら、如何様にしても構いませんよ。

 ツクヨミ様が役割に準ずるべきと思うのも、役割を放棄するのも、それ以外の選択肢を取るのも。

 余りにもおかしな道に進むと言うなら止めるかもしれませんが……それでも、きっと私はツクヨミ様の選択を咎めたりはしません!」

 

「其れは……何故?」

 

 

「私はツクヨミ様の友達ですから!」

 

 

 私は敢えて大きめな声で言い放つ。

 

 抱きかかえられたままなので少々締まらないが、嘘偽りの無い私の本心。

 死にたくは無い。

 死にたくは無いが、無責任に役割を放棄しろとも言えない。

 

 

 星晶獣の生きる意味の殆どは、生まれた際に課せられる役割にある。

 役割を完遂する途中で別の事柄に強い興味を持った際、実質的な役割の放棄を行う者もいれば、逆に役割に囚われすぎて今なお人に害を為す者もいるだろう。

 星晶獣にとって役割とは、生き甲斐に他ならない。

 それ故に役割の否定は、生き様の否定に繋がる。

 それが拗れに拗れていくと、どこかの災厄(サンダルフォン)のような存在が生まれてしまう。

 だから私が出来るのはツクヨミ様の後押しだけだ。

 

 それに、生きる理由は自分で見つけた方がきっと()()()

 私の今世が楽しさに満ちている理由は、きっと前世と違って生きる理由が明確で、自分で定めた目標があるからだ。

 前世と違って容姿も才能も優れている事が楽しさの理由かもしれない。

 だが、既に才能に関しては身近に上位の存在が現れた。

 容姿だって今、正に私を抱きかかえている存在の方が完成されているだろう。

 

 それでも私の人生は今、間違い無く()()()のだ。

 

 

「だからツクヨミ様。 悩んで、考えて、自らの心と向き合ってください。

 星の獣に心なんて、とか言わせませんよ?

 今こうして私をどうするかで悩んでいる事が、何よりの証左ですから」

 

「うふふ……そうですね。 我も又、心を得たのでしょうね。

 ……友もこうして、懊悩したのかしら

 

 

 そう呟いて、ツクヨミ様は私を撫でる。

 

 

(撫でるのが上手いから別に構わないけど、扱い方がペットなんだよなぁ……

 それにこの感じだと、私の()()()を話す感じでも無いなぁ)

 

 

 この日は結局、ツクヨミ様が帰る時まで私は腕の中に収まり続けた。




分割も考えたものの、収まりが良いのでこれで出させていただきました。

次回は漸く村と山から離れて港町に出る予定です。
新たな出逢いや波乱が……あるかもしれませんし、特に無いかもしれません。
この小説、行き当たりばったりだなぁ……。




















  §  §



 眩い月が夜闇を照らす。



 此処はファータ・グランデの辺境、名も無き島の竹林。



「天満月は、人の子らの語らいに優しく寄り添う光……」


 星の獣が呟く。
 兎に似た耳を髪と共に夜風で揺らし、閉じていた眼を開く。

 月を見遣り、次に隣の獣を見遣る。
 白磁の肌と対象的な烏羽玉の髪を持つ少女のような獣は、目線を月から兎に似た耳を持つ獣へと移す。


「貴女も又、人の子と語らっているのでしょう?」

「……我は」


 隣の獣は一言発した後、続かずに閉口する。
 月に照らされた白磁の肌は、美しさより儚さを醸し出す。


「人の子との逢瀬は一夜の夢と変わりません。
 やがて来たる別離を思わず過ごせば、貴女はきっと──」

「承知しております。 ……承知した上で尚、貴女は今も思いを馳せるのでしょうに」


 星の獣は再度、月を見遣る。
 その瞳に哀感を載せて、耳を倒しながら獣は語る。


「人の子は儚く、正に泡沫の如し。
 然れど思いは永遠に続き、眼を閉じれば鮮明に蘇る」

「……辛くは無いのですか」

「悲哀は今も我が身を蝕み、涙は涸れずに流れ続けます。
 心を得た獣が故に、身を裂くような思いをするならば心など不要と願いもしました」


 そう言った後、星の獣は目元を拭う。

 確かに獣は瞳を濡らしていた。


「然れどこの身は()()()()()()()。 なれば我が身は愁えましょう、人の子の儚さを。
 並べてのものは何れ、天の原へ返り行くのですから」

「貴女の意思は……理解しました。
 ……今宵はこれにて」


 その胸に何を宿しているのかを明かす事も無く、白磁の肌をした獣は烏羽玉の髪を風に靡かせながら闇へと溶ける。

 闇に消え行く者を見送り、星の獣は月に祈る。


「天満月よ、彼の者の闇路を照らし給え……」
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