ランボー / 怒りのメスガキわからせ 作:エロスはせがわ
「――――こらぁー! そこのザコちんぽぉ! 止まれぇ~!」
その日、ベトナム帰還兵のジョン・ランボーはビクッと驚き、その場に立ち止まる事となった。
何年かぶりに戦友に会おうと、ひとり見知らぬ土地を訪ねて来たは良いが、ソイツは既に亡くなっているとご家族の方に告げられてしまい、「どうするかな~」とトボトボあてどなく歩いていたのだが……、そこにきてコレである。
なにやら元気いっぱいな、自信にあふれた小生意気な声。だがまるでパッと花が咲いたかのような、愛らしい響きを併せ持っている。
そんな可愛い声に、いま突然、背後から呼び止められたようなのだ。
聞いた瞬間に、それが「10歳ほどの幼い少女の声だ」という事を、ランボーは瞬時に悟ったのだが……、なんか
なんだ、ザコちんぽって。人生史上はじめての言葉だ。
「お、ちゃんと止まってくれたのね。かんしんかんしん♪
おはようおじさんっ! こんな所で何をしてるのぉ~?(はぁと)」
天使がいる――――それが第一印象だった。
彼が戸惑いつつも背後を振り返った途端、まっさきに目に飛び込んで来たのは、小さな女の子の姿。
活発さを感じさせるヘソ出しキャミソールと、白い生足がまぶしいハーフパンツ。“エロかわ”を体現したような恰好。
長くて艶やかな赤い髪は、二つのボール型の装飾が付いた髪留めによって、一部をサイドテールにまとめられている。
それが背中のランドセルとあいまって、子供らしさを演出。
寡黙で人見知りなランボーをしても、見ているだけで微笑ましい気持ちになる。
一見して、“可愛らしい女の子”。いわゆるザ・女の子だ。
きっと沢山ボーイフレンドがいて、クラスのリーダーでもやってるんだろうな~って感じの、とてもキラキラした雰囲気の子だった。
もし“花の化身”というものがいるのなら、それは彼女のような姿をしているのではないだろうか? ランボーはそんな印象を受けた。
しかしながら……何故そんな女の子が、自分になど声を掛けたのだろう?
こちとら髪も不精髭もボーボーの大男で、しかも長旅のせいで薄汚い身なりをしているというのに。
ランボーはそう疑問に思ったのだが、いま彼女が乗っている車と、その頭に被っている物を見た途端、すぐに答えが分かった。
パトカー。そして警察の紋章がデカデカと入った帽子だったのである。……信じがたい事に。
「誰か訪ねてきたの? ともだちとか?
ここって田舎町だし、みんな顔見知りばっかりだから、よその人が来たらすぐ分かるの。
おもわず声かけちゃった♥」
「いや、俺は……あぁ」
言いよどむ。とにかく「うん」と頷いて、なんとか肯定を示す。
このような女の子に話しかけられるなど、ランボーはほとんど未経験。長く軍隊や戦場で生きてきた彼には、子供と接すること自体が稀である。
だから、この子とどう喋って良いものか分からなくて、ぶっきらぼうになってしまう。
彼女を怖がらせてしまったり、変に思われてやしないかと、少し心配だった。
「そっか! もう用事はすんだ? 今おヒマかしら?
ならおじさま、アタシと遊んで下さらない? もっとお話したいわ♥」
「えっ」
一瞬、拘束されるのかと思った。
自分は浮浪者に近い風体だし、この子はパトカーなんて物に乗っている以上、間違いなく警官なのだ。
流れ者が面倒を起こしたら厄介だと、強制的に町の外に追い出されるか、それとも適当な罪をでっち上げて牢にぶちこまれるのか……。
ランボーは思わず身を硬くし、警戒を強める。そして探るような目でじっと彼女の方を見つめる。
しかしながら……なんか調子抜けしてしまう程に、女の子は能天気な声。ニッコニコの笑顔。
「あぁっ……! 男の人と会うのって、
この町の名は“メスガキシティ”。
住んでるのはみんな、ちっちゃい女の子ばかり――――メスガキしかいない町なんだもん♥」
「ッ!?!?」
ランボーの口から「ふ゛お゛っ゛!(cvささ〇いさお)」的な声が出る。
自分は生まれてこのかたアメリカに住んでいるが、そんな町があったなんて、見た事も聞いた事も無い。
たしか自分は、今は亡き戦友の故郷にいたハズだが……、どうやら傷心のままトボトボ歩いている内に、なんか見知らぬ土地に来てしまったようだ。
“メスガキシティ”という、謎の町に迷い込んでいたのだ! なんという事だろう!!
「だからアタシ、とってもうれしいのっ! いま胸がドキドキしてるっ……!
夢にまで見た生ちんぽ……じゃなかった。男の人とお話してみたいって、ずっと思ってたの♪
ねぇ、いいでしょ~おじさーん? おねがーい♥」
パトカーを降り、テテテと走って来きた彼女が、そのままピョーンとランボーの腕に飛びつき、「~♪」と頬をスリスリ。なにやらご満悦の様子だ。
生まれて初めて見たという男の人に、これでもかという位に甘えている。まるでネコか何かのように。
重ねてになるが、ランボーにこのような経験、あるハズがない。
ただただ彼はピキーンと硬直し、その場で立ち尽くすばかり。
女の子に触れられるのが嫌、というワケではなく、むしろこの状況に対する戸惑いだったり、ちょっとした恐怖感を覚えている感じだ。
自分のような大男が、もし身体をよじりでもしよう物ならば、この子に怪我をさせてしまうかもしれない。相手はとても小さく、か弱い女の子なのだから。ゴリラがガラス細工を扱うようなものだ。
そう内心ビクビクと恐れ、ただただ黙って少女のアスレチックと化すランボー。
ムキムキだし、すごく強面ではあるけれど、とても優しい男なのだった。
「いや、俺は今から、飯を食いに……。
だから君に付き合うことは……」
「なになに? ごはん行くのぉ~?
ならアタシといっしょに食べよーよ♪
アタシ
「その……。俺は誰かに見られてると、食いづらくて……。
すまないが、店だけ教えてくれたら、それで充分たすk
「えっ、そーなの? じっと見られるのがヤなんだぁ~?
ならアタシ、向かいの席じゃなくて、
ぎゅ~っておじさんに引っ付いとくから、気にせず食べてていーよ♥」
「お゛っ……!」
「あ、なんなら『あーん♪』してあげよっか?
アタシがんばるよアタシ! まかせといておじさん♥(フンス!)」
もう星が散らんばかりのキラッキラした瞳で、嬉しそうにランボーにまとわりつく。
ねーいいでしょ~? ね~? と可愛くおねがい。
歴戦の戦士であるランボーも、これにはタジタジであった。
そして、なんか乗り気じゃないっぽい雰囲気を感じ取ったのか……、やがて女の子が「ぶっすぅ~!」と頬を膨らませ、じとぉ~っとランボーを見つめる。
きっと彼女は睨んでいるつもりなのだろうが、ただただ可愛くて仕方ないという、愛嬌のある仕草。
ランボーはさらに狼狽え、どうしたものかとオロオロしてしまう。こんなに困ったのは生まれて初めてだ。幾多の死線をくぐってきたハズなのに。
「ふーん……。
おじさんは、アタシとごはん行くのイヤなんだぁ~?
こーんなかわいい女の子のおねがいを、ことわっちゃうんだぁ~? ……へーえ」
「あ゛っ! いやそうじゃないんだがッ! ただ俺はッ!」
「その、国旗を縫い付けたジャケット、鋭い瞳、鍛えこまれた身体……。
おじさん兵士でしょ? もしかして、
「うッ……!?!?」
心臓を抉られた気がした。それほどの衝撃だった。
さっきまでの驚きとは違う。今度こそ本当に、ランボーは動けなくなった。
未だに癒えぬ心の傷と、自分の深い部分を、容赦なく突かれたのだ。
こちらをじっと見つめる少女の目が、怖い。
あの戦場から帰国して以来、彼が民衆から受けてきた数々の仕打ちが、脳裏にフラッシュバックする。
こんなに幼く、自分の半分にも満たない背丈の女の子を、心の底から恐れた。
次にこの子が口走るであろう言葉……いや罵倒を想像し、ランボーの目は大きく見開き、身体が震えた。
だが……しかし。
「――――
放たれた言葉は、想像とは違っていた。
いまこの小さな女の子は、こちらに深々と頭を下げ、心から敬意を示したのだ。
「アタシはまだちっちゃいけど……、“あの戦争”のことは知ってるわ。
毎日のようにニュースでやってたもの」
「まちがった戦争、タイギのない戦いだって……。
なんてひどい事をしたんだ、ソコクの恥だって、そうデモをしてる人達を見た事がある。
帰国した兵士たちに向かって、ヒステリックにさけぶ大人たちを、見た事がある。
きっと……あなたも言われたんでしょうね。ひどい事たくさん」
「でもアタシは、
この国の……みんなのために戦ってくれて、ありがとう。
無事にかえって来てくれて、ありがとう――――」
弱々しく、だがニコッと花のような笑みで、少女が微笑む。
そのあまりに優しい顔に、上辺だけじゃない心からの言葉に、ランボーはあんぐりと口を開けてしまった。なにも言うことが出来ずに。
「大体ね? あなたをひとめ見れば、わるい人じゃない事くらい分かるわ。
大人っていうのは、ずいぶん見る目がないのねぇ~?
アタシには、あなたがとてもステキな人に見えるわっ!
ちょっと恥ずかしがり屋さんだけど、セイジツでやさしい人♪ みんなを守るヒーロー♪」
アタシって保安官でしょ? だから人を見る目はあるつもりなの。
そう彼女が「えへへ♪」と笑う。コテンと小首を傾げる姿が、たまらなく愛らしかった。
まだ小さい子なのに、まるで救いの女神のように、あっさりランボーの心を軽くしてみせた。
ずっと胸に抱えていた苦しみや葛藤を、あたかも太陽の光で照らすかように、消し去ってしまったのだ。
「――――ついでに言うと、
でしょ? アタシには分かるわ」
ドテー! とひっくり返る。吉本新喜劇のようなコケ方。
ちなみにだが、この“ドテー”と“童貞”は、なんの関係も無い。
「だ か ら ぁ !!
こんなちんぽからガマン汁たれ流してる危ないおじさんを、ちっちゃくてかわいい女の子ばかり住んでるこの町に、一人で放り出したり出来ないでしょ! アタシ保安官だもんっ!」
「ッ!?!?!?」
「さぁウダウダ言ってないで、車に乗りなさいよっ!
ごはんでも何でも連れてってあげるし! このクソザコちんぽ! ゴミちんぽ!
この町にいる間、アタシがくっ付いとかなきゃいけないのぉ! そーいう決まりなのぉ!
コアラみたくギュ~ってするからネ! ずっと♥」
もう「むきゃー!」とポカポカ追い立てられ、ランボーが車に乗り込んでいく。もちろん助手席に。
別に抵抗しようと思えば出来たのだが、それがあまりに必死で愛らしい姿だったので、思わず素直に従ってしまう。
「さぁ出発するよぉ~! おじさんはホットドッグとハンバーガー、どっちが好き?
アタシってアメリカの保安官だけど、別にドーナツばっか食べてるワケじゃないんだからね!
いい女は、男を立てることが出来るのよっ!
おじさん試してみるぅ?(はぁと)」
「……ッ!!」
座高が足りなさ過ぎて、きっと前が見えてないんじゃないだろうか?
そう思わざるを得ないくらいに小さな女の子が、いまランボーの隣で、ぐっとハンドルを握っている。
ピンク色のキャミソールに包まれた、まだ凹凸に乏しい平らな胸には、彼女が警察官である事を示すエンブレムのアップリケが、でかでかと縫い付けられているのが分かる。
その横で、未だ混乱から立ち直れていない様子の男が、いきなり急発進した車の勢いに驚いて、あわてて上部の取っ手にしがみつく。
こんな大きな身体をしておいて、たいへん情けない姿だ。
女の子はおかしそうに「うふふ♪」と笑う。
「アタシは“メスガキ
ゲンミツには、保安官と刑事って別物なんだけどね? でもみんなそう呼ぶの♥
おじさんは、なんていう名前なのぉ~?」
「じょ、ジョン・ランボーだ……」
グイ~っとアクセルを吹かし、田舎道をかっ飛ばしていく。
そんなスピード出して良いのかとは思うのだが、彼女こそ法の番人。取り締まる側の人間なのだ。文句は言えなかった。
「ランボー!! かっこいい名前ね♪ 勇ましいヒビキだわっ!
おじさんたくましいし、とっても似合ってると思うよ♪
なんかおまたが、じゅん……! ってきちゃった♥」
「そうか……。
あ、ありがとう……?」
――――勝てん。絶対に勝てん。
そうランボーは直感する。歴戦の兵士の勘(?)が、「何をしようがこの女の子には敵わない」と告げていた。
マイペースな彼にとっては、まさに嵐のようなひと時。
これが5分かそこらの会話だったなんて、とても信じられない気持ち。
まぁなんだかんだと、それを経たランボーが、ある意味での“任意同行”によって、ランチに連れられて行った。
彼はよく知らない言葉だが、【メスガキ】と称されるタイプの、ちいさな女の子に――――