ランボー / 怒りのメスガキわからせ 作:エロスはせがわ
「……わかってます。私に
悪人への制裁として」
あの戦いが終わり、二人の感動的(?)な抱擁シーンから、すぐ後のこと。
「いいの! 仰らないで下さいまし! カリーナは知っているのですっ!
この浮浪者めいた汚いおじさまに、無理やり私を凌辱させる気ですね!?
くっ……なんて酷いことを考えるの!? この悪魔め!」キッ!
いまランボー達の眼前には、あたかも「来ないでよ! この人でなし! えっち!」とばかりに、こちらを睨み付けながらジリジリと後ずさりするカリーナちゃんの姿があった。
だが後ずさりはポーズだけで、むしろグイグイとランボーにプレッシャーをかけている始末。
「いくら私が
それが正義のバッジを付けた保安官のする事ですかっ! それでも人間ですかっ!!」
「巨乳&ドスケベ眼帯ピキニとはいえ、私はまだ
それなのに……それなのに! 住所不定無職のおっさんをけし掛けるだなんて!
未熟な果実を思わせるような、美しくも幼いこの身体に、忌まわしい劣等遺伝子をドピュドピュ注ぎ込もうだなんて! 何度も何度もしようだなんて!」
「あぁ! 何という事でしょう!?
無理やりちんぽされ、泣き叫ぶ姿を私を見てニヤニヤしようと言うのね!?
そんな事をして喜ぶか、変態どもが!」ペッ!
あぁいやらしい、いやらしい。鬼畜の所業です。そうプルプル首を振るカリーナちゃん。
ちなみにメスガキのポリスの4名は、ただただ彼女を見ながら ( ゚д゚)ポカーン って顔をしている。
事の決着がついたので、一応は公務執行妨害および森への不法侵入罪などで、彼女をやんわり連行しようとしたのだが……その途端にこの有様だ。
一体この子は、何を言っているのか?
それはこの場の誰にも分からない。
「しかし侮るなかれ、私もメスガキの末席たる女。屈するものかっ!!
ではランボー様、こちらへ♡ どうぞどうぞ♡」クイクイ
「えっ」
アン〇ニオ猪木vsモハ〇ド・アリ戦を彷彿とさせる姿勢で、カリーナちゃんが寝転がったまま手招き。ランボーを呼びつける。
「――――さぁ好きになさい! それで貴方の気が済むならね!(服従する犬のポーズ)」
「えっ」
\ババーン!/という勢いで、カリーナがお腹を見せて寝そべる。
ついでに「わおーん♪」と可愛い声で鳴く。
「ふんっ! この幼い身体を、どうとでもすれば良いわ!
――――でも私は、ぜったい屈しませんから!!」カッ!
決意に満ちた顔。真っすぐな強い瞳。
その姿は神々しさすら纏い、ランボー達を圧倒する。
「折ってごらんなさい! この
さぁ! 悪はここですジョン・ランポー!
今こそ正義を示す時! 全ての想いを、そのざこちんぽに込めてっ!」
「ここで私を倒さなければ、いずれ第二第三の悪が、メスガキシティに現れる……。
それでも良と仰るのっ!? 貴方の正義は、それを許すのですかっ!?」
えっ、コレしなきゃいけない流れ? なにその世界観。その迫真の演技。
ランボーもメスガキポリス達も、ただただボケーっとカリーナを見守る。
誰も何も言っていないのに、どんどん台本のような物が決められていく。すごい勢いだ。
「……ほらほら、ここはひとつ勇気を出してっ! がんばれ♡ がんばれ♡
据え膳食わぬは男の恥です♪ やっちゃいましょ、おじさま♡」ボソッ
「えーコホン! では改めましてぇ……。
くっ! 野獣のような瞳が、私の幼い肉体を視姦しているっ!
視線だけで、私を孕ませるつもり?! 性欲が服着て歩いてるの!?」
「分かったわ……本当は嫌ですけれど、ここは甘んじて受け入れましょう。
尊い人間性のために。……そう! 人間性のために!」
「さぁハイパーちんぽタイム突入です! ガトチュ☆エロスタイムッ!!!!
おいでなさいジョン・ランボー!!
――――めんどくさッ! この子めんどくさい!!
物凄く善人であるハズのランボーが、生まれて初めてそう思った。
一人で「ハァイ! ハァイ! ハァイ!」と手拍子をおこない、カリーナ劇場はどんどん続いていく。あたかも「ちんぽするまで、ここを動かんぞ!」とばかりに。蒼き鋼の意思だ。
この子、見た目はまごう事無く“白銀の妖精”なのだが、とても残念な事になっている。
「なぁ、彼女はいつもこうなのか……?」
「うん。あたしカリーナとは友達で、よくランチとかも行くんだけど……平常運転かな?」
ランボーのボソッとした問いかけに、隣に立つメスガキブルーが応える。
彼女もカリーナに負けず劣らず、情緒不安定な所があるで、意外と気が合うのかもしれない。
保安官と犯罪者の垣根を越えた友情。メスガキシティの“めんどくさい同盟”であった。
「あ、でも誤解しないで?
この子ぶっ飛んでるけど、根はすごく優しいし。めちゃめちゃ友達想いな子だから……」
「分かっている。
君の友人なんだ。俺もそう思うよ」
ニコリと笑いかけるランボー。それにつられてブルーも「えへへ♪」と微笑む。
とりあえずこの後、「やーん!」とジタバタ駄々をこねるカリーナを、あの手この手で宥めすかし、なんとか立たせてやることに成功。
ようやくこの騒動は収まりを見せ、メスガキフォレストに平穏が戻ったのだった。
………
…………………
…………………………………
『――――いや、戻ってないでしょ。
まだおわってないからね、お じ さ ん ?』
約1時間が経過した頃の、メスガキフォレスト。
今ランボーの所持する無線機に、デカちゃんからの通信が入っている。
『なんでアンタたち、ふーやれやれ! みたいなフンイキ出してんの?
なんでくつろいじゃってんのよ。ピクニックみたく』
「……」
「「「…………」」」
無線機から響く、マジトーンの声。
ランボーを含めたこの場の誰もが、ただただ無言で聞き入っている。上司に叱られてる時のリーマンみたいに。
『というかもう……ピクニック
なにそのバーベキューセット。その料理のかずかず。
ゼンリョクで山を楽しんでたよね? トーボーシャってことも忘れて』
「……」
彼女が指摘した通り、いまこの場には大きなバーベキューグリルや、美味しそうな肉料理が並ぶテーブルなんかが置かれていたりする。
ジュースの入った紙コップのみならず、ランボーの為のお酒まであったりするのだ。
まさしく、キャンプ場で家族サービスをする休日のお父さん、その物である。
今朝森で獲って来たばかりの、新鮮な獣肉。それをこの子らの前で手際よく捌き、「どんどん食えよ~!」とばかりに次々と焼いていく。
その頼りがいのある姿に、メスガキ達は「おじさんすごーい!」と歓声を上げ、キャッキャと喜んでくれた。とても気分が良かったのだ。
『あんたらもさぁ……ニンム忘れちゃダメでしょ。いま仕事中でしょ。
なにヘリ使って、町まで買い出しに行ってるの? やさいとかジュースとか買ってんの?』
「「「「…………」」」」
『あとカリーナ。アンタも
ウエイトレスだし、キューシが上手かもしれないけどね?
でもニッコニコしながら、お手伝いしちゃダメでしょ。
おじさんといっしょに、幸せそうな顔でお肉やいたらダメでしょ。……何してんのよアンタ』
「…………」
メスガキポリスの4人、そして犯罪者であるカリーナも叱られ、黙って下を向く。
立場や仕事を忘れ、全力で遊び惚けていた事を、言い訳の仕様がないほど痛烈に咎められている。
『おじさーん。アタシいま仕事してんのぉー。
だれかサンが大あばれするモンだから、そのタイオーにおわれて忙しいのぉー。
たくさんの人をドーインして、いろんな人にメーワクかけて、この作戦やってんのぉー』
「……」
『でもそのチョーホンニンが、かわいい女の子はべらせて、山でBBQよ。
おいしーお肉をたべ、お酒をガブガブのみ、たのしそーにワハハと笑ってるわけよ。
……ねぇ、これどー思うおじさん?
アタシ今がんばってるんだけど、なにか思うトコロはない?』
「…………」
冷たい声色。失望の滲む呆れた声。
まるで、幼子にこんこんと言って聞かせるお母さんのように。
ランボーはもう、返す言葉もない。
『アタシ見てたんだけど……、なんかさっき、カラオケみたいな事してたよね?
こんな森で、メスガキ達をカンキャクに野外ライブ?
いいゴミブンね~? きぶんはロックスター?』
「ッ!」
『いい声してたなーおじさん♥
ゆうーべ、眠れずにぃ~♪ 泣いてぇー、いーたんだろぉ~♪ ……ってさ。
あれ何ていったっけ、“もうひとつの土曜日”? 名曲ぅー♥』
「……ッ!!」
『ねぇ? なにハマショー歌ってんのよおじさん……。わざわざグラサンまでかけてからに。
世代かもしれないけども。ファンかもしれないけども』
「……ッッ!!??」
『その後おもむろに、ショートコント! ベトナムきかんへー!
……とかやりだした時は、ホントどうしよっかなこの人、って思ったよ。
わかる? そん時のアタシのきもち。ゼックよゼック』
「ッッ!! ッッ!!??」
『あげくのはてに、ブーメランパンツ一丁で、ダンスショー?
どっかのゲイバーみたく、筋肉ダンスですかぁー。へぇ~。
おじさんのパンツ、なんか10ドル札がたくさん挟まってるみたいだケド……、それあの子たちが入れたのよね? きゃーステキーとか言って』
「////」
『わぁー。やりたいホウダイだなーおじさん♥ ……ひくわー。
アタシかなしいなー? もっとマジメな人だと思ってたなー?
ねぇねぇ、コレどう思うー?』
「……すまん! 本当に君にはッ……いつもすまないとッ!!!!」
ランボーおじさんが叱られている間に、メスガキ達がそそくさとこの場を片付ける。
ギターも、マイクも、BBQセットもヘリの中に仕舞われ、この場は来た時と同じ状態になった。キャンパーのマナーである。
「我を忘れてたッ……自分を見失っていたんだッ!
こんなにも幸せな事、今まで無かったッ!! 俺には無かったからッ……!!」
『重い重い重い。
んなとこで、ベトナム帰還兵の悲哀ださないでよ。
もったいない、もったいない』
「こんな楽しいのか、BBQってこんな面白いのかと、正直涙が出そうだったッ……。
いつも一人で肉を焼いてるが、それとは全く感じ方が違うんだッ!
誰かと一緒に居るってだけで、人はこんなにもッ! こんなにも安らぎをッッ……!!!!」
『やめて、おこれなくなる。
かわいそ過ぎて、もうなにも言えない。切なくなっちゃうアタシ』
泣かないでおじさん。おねがいだから……。
そうデカちゃんは、エグエグするランボーを窘め、暫し泣き止ませる事に終始。
小学生に説教され、ガン泣きする三十路の男――――
彼はジョン・ランボー。名誉勲章を授与されし、ベトナムの英雄である。
『それじゃあどうするぅ? おじさんもう帰ってくるぅー?
メスガキシティにもどるんなら、その子たちといっしょに、ヘリのったらいーけど』
「いやッ! それは流石に締まらないというかッ……! 面目が立たないというか……」
『じゃあ逃げんのね? まだできるのね?
ならまた追っかけるけど……、こんどはマジメにやるよね? エロ本ひろったりしないね?』
「やるッ! ちゃんとやるッ! 今度はふざけたりせずにッ!」
『あれ~? なんか“Sir”がついてない気がするなぁー?
くちからクソを吐く前と後には、Sirをつけろ~って、ならわなかったのかなー♥』
「――――Sir! やりますッ! 自分は大丈夫でありますッ! Sir!!」
『ほら、アンタたちもよー?
なにおじさんだけやらせて、たすかった~みたいな顔してんのよぉー。……なめてんの?』
「「「「――――Sir! 本当に申し訳ありませんでしたぁ! Sir!!」」」」
『あと
ペットボトル2.3本ぶらさげて、ぶさいくにするから。カクゴしときなさいねぇ♥』
「――――Sir! 謹んで頂戴します! ありがたき幸せですわ! Sir!!」
全員足がガクガク震えている。残像が見えるくらいの勢いで。
監視カメラで見ているデカちゃんに向かい、ピーンと直立不動で敬礼。
さっきまでの楽しかった空気など、もう微塵もない。
なぜかランボー達の頭に、“恐怖政治”という言葉が浮かんだ。
♥ ♥ ♥
「でてこぉーい! ざこちんぽぉー! 大人しくお縄に着きなさぁーーい!!」
「……ッ!?」
その後、目を瞑って「いーち! にーい!」と数えるメスガキポリス達をその場に残し、ランボーは全力で駆け出した。
100数える間に逃げろという、もうまんま“かくれんぼ”の時にやるヤツではあるが、いったん仕切り直すためには仕方ない。
ここからまた、ランボーの逃走劇が幕を開けたのだ。
「おじさん見ぃーっけ! ……ってなんだ、ただの木かぁ」
メスガキブルーが「やれやれ」って顔をしながら、この場を立ち去っていく。
それを確認した後、草だの枝だので身体をカムフラージュしていたランボーが、イソイソと移動を開始する。
「動くなぁ~! この低賃金日雇い労働者ぁー☆ ってな~んだ、ただの岩かwww」
「おじさんやっとみつけ……ってなーんだ、トーテムポールかぁー♡」
「そこに居たのねおじさ……ってなんだ、カーネル・サンダースか」
ポリス達が迫ってくる度に、色々なものに擬態してやり過ごす。
元兵士であり、ジャングルの専門家であるランボーのスニーキング技術、マジでとんでもなかった。
気が付けば、みんながメスガキ刑事にマジ説教を喰らってから、すでに1時間ほど経過。
周囲には無数のメスガキ兵が配置され、フォワード役のポリス達4人に追い回されているというのに、彼が捕まってしまう気配は、全くと言って良いくらい無い。
大人が全力でかくれんぼをすれば、こんな事になってしまうのか――――
そう思わざるを得ない程、ビックリする位の
「おじさま、そこを右へ。
北を目指して下さいまし」
お姫様だっこをされているカリーナが、指で方向を指示する。
実は逃走を始めようとした時、「では私も」とばかりにヒョイっと抱き着いて来たカリーナを、一緒に連れて来てしまったのだ。
現在ランボーは、腕の中にいる彼女に指示を受けながら、猛然と森の中を疾走している所だ。
彼女はメスガキ署の人間ではなく、彼と同じ“追われる側”の立場にある。
なら一緒に逃げよう、という事なのかもしれないが……、先ほどまで敵同士であった事もあり、ランボーは少し複雑な気分だ。
まぁ彼女をあの場に残しておくよりはと、流れに身を任せて、一緒に逃げているワケなのだが。
「この先に、今はもう使われていない“廃坑”があります。
そこへ逃げ込みましょう」
「了解だ」
障害物や、足場の悪さを感じさせない、まるでカモシカのような疾走。
彼女たち追跡者が動き出さない内に、少しでも遠くへと駆ける。
こうして指示をくれている事からも分かる通り、彼女はこの森に詳しいようだった。
確かに地元の人間ではあるが、なぜこのような幼い少女が、ここの地形を知っているのか? ここに来たことがあるのだろうかと、一抹の疑問が湧く。
けれど今は、それを気にしている場合じゃない。とにかく安全な場所まで移動するべく、全力で足を動かしていく。
「まずい! これハイコウに向かってる……!?」
司令部にいるメスガキ刑事が、とつぜん焦燥感が滲む声で、叩きつけるように叫ぶ。
「アンタたち、おって! そっちへ行かせたらダメ!
ぜったいにソシしてっ!!
「……なっ!?」
彼女の隣に立ち、成り行きを見守っていたメスガキ大佐が、思わず目を見開く。
この優しい娘が「ランボーを撃て」などと口走った事が、にわかには信じられなかった。
「同志よ、一体どうした?
他ならぬお前が、あの御方を“撃て”などと……何を焦っているのだ」
「……っ」
「たしかにヤツらが握っているのは、カリーナを威嚇するために持たせた麻酔銃。
いわばメスガキ印の、“ざこライフル”というべき物ではあるが……」
らしくない。先ほどまでの余裕が消し飛んでしまっている。
これは鬼ごっこの延長めいた作戦であったハズなのに。もうそんな軽い雰囲気は、微塵も無い。
大佐ちゃんは問いかける。どこか心配の色が浮かぶ瞳で。
だがメスガキ刑事がそれに応える事は、無かった。
「――――なにやってるのっ! はやく撃ちなさいっ!!
アンタたち保安官でしょう!? 自分のシメイをはたすのっ! やりなさいっ!!!!」
檄を飛ばす。有無を言わさない、とても強い口調で。
それを聞いたメスガキポリスたちが、やがて震える手でライフルを構え、ランボーに向けて発砲。
目の前を走るランボーの身体をかすめ、すぐ近くの木や岩に着弾する。
大佐ちゃんは言葉を失う。いま鬼気迫る顔をしている同志の姿に。声をかけるのを躊躇ってしまう程の雰囲気。
ふとモニターを見れば、そこには涙でグシャグシャになった顔で発砲を繰り返す、メスガキポリス達の姿がある。
たとえ殺傷力が無い銃とはいえ、あの大好きな人を“敵”と見做し、それに向けて発砲させられているのだ。
いやだ、撃ちたくない、おじさんを傷つけたくない……という悲痛な声が、アリアリと聞こえてくるような姿。いま彼女らは、胸が引き裂かれるような想いをしているに、相違なかった。
「……ダメだ、ハイコウに行っちゃう。
あそこに入られてしまうっ……!」
けれど、相手はかの英雄。そして涙で滲んだ視界では、銃など当たるハズもない。
メスガキ刑事の絶望が滲む、呟くような小さな声。
それが聞こえてすぐ、モニターの中のランボーが、件の廃坑に到着。勢いよくその入口に飛び込んで行った。
「っ!!??」
「これはっ……
スピーカーが割れるほどの、耳障りな爆音が、司令部のテント内に響く。
ランボー達が廃坑に飛び込んだ途端、その入口の辺りが、突然爆発したのだ。
落石や崩落ではない。明らかに人為的に仕掛けられた、爆薬物によるものと思われた。
「やられたっ……カリーナだ!
あの子、こんな用意までしてたなんてっ!
さいしょから、ここに連れこむ気だった!? ランボーおじさんをっ……!」
状況が呑み込めていない大佐を余所に、メスガキ刑事がギリリと歯を食いしばる。
なんて迂闊、アタシの判断ミスだと、悔し気にドンとテーブルを叩く。
『おじさんっ……!? 嘘でしょ!? なんで……!!』
『いやぁぁぁ!! おじさぁぁーーんっ!!』
『うわあああああっっ!!!!』
現場にいるポリスたちの悲鳴、慟哭。
おじさんが死んでしまったと、ワケも分からず泣き叫ぶ声。
それを耳にした途端、彼女がすぐさま椅子から腰を上げる。
「泣くんじゃないのっ! メスガキポリス4名は、周囲をケーカイ!
アタシもすぐそっちに向かうわ! それまで何もしないでっ! タイキよっ!!」
先の爆発によって、廃坑の入り口は、岩や瓦礫で完全に塞がれている。
その前で茫然と佇む部下たちに指示を送った後、メスガキ刑事はヘリの方へ駆け出して行った。
慌ててその背中を追う、大佐を連れ立って。
♥ ♥ ♥
「な、なんて事をするんだ君は。
死ぬところだったぞ……?」
「うふ♡」
全ての脅威から守り抜くように、カリーナをその逞しい腕で抱きしめながら、倒れ込んでいるランボー。
光が差さない、真っ暗な坑道の中で、彼女の機嫌良さげな笑い声を聞いた。
「流石ですね、おじさま♪
爆炎を背に、ギリギリでのハリウッドダイブ――――
本当に映画のようでしたわ♡」
「嬉しくないな……。こういうのは御免こうむるよ。出来れば」
抱っこされているカリーナが、ゴソゴソと懐から“何かのスイッチ”を取り出した途端、ランボーは反射的にその場からダイブ。見事に爆発から逃れて見せた。
流石はベトナムの英雄。流石はアクションヒーロー。
彼の持つ、危機に対応する天性の能力があればこそ、いま自分達は無事に呼吸が出来ているワケなのだが……。でもカリーナの方はのほほんとした物だ。まったく悪びれる素振りも無く。
「出口は瓦礫で塞がりました。暫くの間は、誰もここへ来れないでしょう。
さてさて、二人っきりですねおじさま♪
いかが致します? とりあえず脱がせっこしましょうか♡」
「冗談を言ってる場合じゃない……生命の危機だ」
お腹にまたがっているカリーナを降ろし、身体を起こす。
未だ暗闇に慣れない目では、1メートル先すらも見ることが出来ない。
一応は、デカちゃんから受け取ったランドセルを持って来ており、懐中電灯やレーションなどの道具が手元にあるので、そこは助かったのだが……。
しかしここは廃坑。今はもう使われていないという、人の作った洞窟なのだ。
先ほどの爆発による衝撃もあり、ここはもういつ崩れだすとも知れず、どのような危険があるのかも分からない場所。
そんな中を、この幼い少女を連れたままで、移動しなければならない。
どこかに出口があると信じ、それを探し出すというミッションに加えて、この子を命にかえても守り通さなくてはならないのだ。
屈強な兵士である彼をしても、とてもじゃないが余裕など無い状況。
いつもなら赤面し、狼狽えてしまうようなメスガキジョークを言われても、大した反応も返せなかった。
まぁ「死んでも守らなければ」というランボーの想いがヒシヒシと感じられて、カリーナの方はとてもご機嫌だけれど。
暗くて見えはしないが、もうニッコニコしている。
「ご安心を。ここは見た目こそ“廃坑”ですが、ただのカムフラージュに過ぎません。
ちょっとやそっとで崩れるような、やわな作りはしていないハズ。
出口だって、複数用意されていますわ♡」
赤いランドセルをゴソゴソしているランボーを余所に、カリーナが何気ない仕草でペンライトを取り出し、パチッと明りを灯す。
彼女はフリフリスカートに眼帯ビキニという軽装なのに、一体どこにそんな物を仕舞っていたのか。
まぁ男性に比べたら、女の子には色々と
それにしても、なぜ彼女はペンライトなんかを?
まるでここに来ることを、事前に知っていたかのような準備と、その落ち着き払った様子に、彼は疑問を抱く。
「行きましょうおじさま、案内いたしますわ。
私はこの場所を、よく存じておりますので♡」
ニコリと微笑みかけ、カリーナが坑道を進んでいく。迷いが感じられない、しっかりとした足取りで。
未だ思考の渦の中にいたランボーは、その手にある明りを追うように、急き立てられるようにして、彼女の隣に並ぶ。
「ご存じの通り……私は
これまで幾度も、ブルー達に逮捕されてきました」
「私がおこなっていたのは、町の平穏を脅かす行為。
いわば……このメスガキシティの
どこかの天井から垂れ落ちる水音、そして二人の足音だけが静かに響く中で、カリーナが独白する。
「時に施設を破壊し、誰かを傷つけてまで、行動し続けました。
どうしても知りたかったのです。この町の仕組みや、成り立ちという物を」
「一見、楽園のように思えるこの
愛玩用として飼われる、籠の中の愛らしい鳥ではなく、たとえ皆に忌み嫌われ、ひどく薄汚れていたとしても、大空をいく鴉になりたい――――」
「その為の方法を、ずっと探していました。
この廃坑のことを探り当てたのも、そんな想いからです」
そうして暫くのあいだ進む内に、二人は行き止まりになっている場所へ差し掛かる。
辺りにあるのは岩盤のみで、一見して何もない空間。
けれどカリーナはおもむろにしゃがみ込み、身体がよごれるのも構わず、素手でザッザと地面を掘り始める。
女の子が何をするんだと、ランボーは咄嗟にそれを咎めようとした。
だが地面を掘っている彼女の、とても真剣な表情を見た途端、出そうとした手を思わず引っ込めてしまう。
その一心不乱で、懸命な姿に、彼女の想いが伝わって来る気がして、動くことが出来なかったのだ。
「よかった……ありました。
ここが地下への入口です、おじさま」
爪が割れ、血と泥にまみれた小さな手を、少しも気にする事無く、カリーナがほっとした顔で笑う。
土で隠された、金属製の大きな板。
それを繋がれていた鎖を引いてどかすと、下りの階段が姿を現した。
まるで地獄に続いているかのような、どこまでも深い闇と共に。
「ここへ、お連れしたかった……。
貴方に知って頂くために、今日までカリーナは、がんばって参りました……」
いつも、自信に溢れていた。
誰も自分には敵わない、止められないという自信に満ちた顔こそが、彼女の最たる魅力だったように思う。
けれどランボーには、いま目の前にいる少女が、吹けば飛びそうな弱々しい存在に思える。
まるで、迷子になった子供が、ようやくお母さんに見つけて貰えた時のような……死にゆく者が最後に見せる笑みのような……そんな儚さを感じる。
確かに笑っているのに、泣き顔のように見えるのだ。
「ここがメスガキシティの根源。
ようこそお越しくださいました、ジョン・ランボー。
ずっと待ち望んでいた、私達の