ランボー / 怒りのメスガキわからせ   作:エロスはせがわ

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後輩の方が、よっぽど馴染んでるよ。

 

 

 

 

「……わかってます。私に()()()()()をする気でしょう?

 悪人への制裁として」

 

 あの戦いが終わり、二人の感動的(?)な抱擁シーンから、すぐ後のこと。

 

「いいの! 仰らないで下さいまし! カリーナは知っているのですっ!

 この浮浪者めいた汚いおじさまに、無理やり私を凌辱させる気ですね!?

 くっ……なんて酷いことを考えるの!? この悪魔め!」キッ!

 

 いまランボー達の眼前には、あたかも「来ないでよ! この人でなし! えっち!」とばかりに、こちらを睨み付けながらジリジリと後ずさりするカリーナちゃんの姿があった。

 だが後ずさりはポーズだけで、むしろグイグイとランボーにプレッシャーをかけている始末。

 

「いくら私が犯罪者(わるい子)でも、して良い事と悪い事があるでしょうに!

 それが正義のバッジを付けた保安官のする事ですかっ! それでも人間ですかっ!!」

 

「巨乳&ドスケベ眼帯ピキニとはいえ、私はまだEight years old( 8才なのです )(ええ声)

 それなのに……それなのに! 住所不定無職のおっさんをけし掛けるだなんて!

 未熟な果実を思わせるような、美しくも幼いこの身体に、忌まわしい劣等遺伝子をドピュドピュ注ぎ込もうだなんて! 何度も何度もしようだなんて!」

 

「あぁ! 何という事でしょう!? Fucking bullshit( バカげているッ )!!!!

 無理やりちんぽされ、泣き叫ぶ姿を私を見てニヤニヤしようと言うのね!?

 そんな事をして喜ぶか、変態どもが!」ペッ!

 

 あぁいやらしい、いやらしい。鬼畜の所業です。そうプルプル首を振るカリーナちゃん。

 ちなみにメスガキのポリスの4名は、ただただ彼女を見ながら ( ゚д゚)ポカーン って顔をしている。

 事の決着がついたので、一応は公務執行妨害および森への不法侵入罪などで、彼女をやんわり連行しようとしたのだが……その途端にこの有様だ。

 

 一体この子は、何を言っているのか?

 それはこの場の誰にも分からない。

 

「しかし侮るなかれ、私もメスガキの末席たる女。屈するものかっ!!

 ではランボー様、こちらへ♡ どうぞどうぞ♡」クイクイ

 

「えっ」

 

 アン〇ニオ猪木vsモハ〇ド・アリ戦を彷彿とさせる姿勢で、カリーナちゃんが寝転がったまま手招き。ランボーを呼びつける。

 

「――――さぁ好きになさい! それで貴方の気が済むならね!(服従する犬のポーズ)」

 

「えっ」

 

 \ババーン!/という勢いで、カリーナがお腹を見せて寝そべる。

 ついでに「わおーん♪」と可愛い声で鳴く。

 

「ふんっ! この幼い身体を、どうとでもすれば良いわ!

 ――――でも私は、ぜったい屈しませんから!!」カッ!

 

 決意に満ちた顔。真っすぐな強い瞳。

 その姿は神々しさすら纏い、ランボー達を圧倒する。

 

「折ってごらんなさい! この信念(こころ)を!

 さぁ! 悪はここですジョン・ランポー!

 今こそ正義を示す時! 全ての想いを、そのざこちんぽに込めてっ!」

 

「ここで私を倒さなければ、いずれ第二第三の悪が、メスガキシティに現れる……。

 それでも良と仰るのっ!? 貴方の正義は、それを許すのですかっ!?」

 

 えっ、コレしなきゃいけない流れ? なにその世界観。その迫真の演技。

 ランボーもメスガキポリス達も、ただただボケーっとカリーナを見守る。

 誰も何も言っていないのに、どんどん台本のような物が決められていく。すごい勢いだ。

 

「……ほらほら、ここはひとつ勇気を出してっ! がんばれ♡ がんばれ♡

 据え膳食わぬは男の恥です♪ やっちゃいましょ、おじさま♡」ボソッ

 

「えーコホン! では改めましてぇ……。

 くっ! 野獣のような瞳が、私の幼い肉体を視姦しているっ!

 視線だけで、私を孕ませるつもり?! 性欲が服着て歩いてるの!?」

 

「分かったわ……本当は嫌ですけれど、ここは甘んじて受け入れましょう。

 尊い人間性のために。……そう! 人間性のために!」

 

「さぁハイパーちんぽタイム突入です! ガトチュ☆エロスタイムッ!!!!

 おいでなさいジョン・ランボー!! Just do it(いたしましょう)♡」ワクワク

 

 ――――めんどくさッ! この子めんどくさい!!

 物凄く善人であるハズのランボーが、生まれて初めてそう思った。

 

 一人で「ハァイ! ハァイ! ハァイ!」と手拍子をおこない、カリーナ劇場はどんどん続いていく。あたかも「ちんぽするまで、ここを動かんぞ!」とばかりに。蒼き鋼の意思だ。

 この子、見た目はまごう事無く“白銀の妖精”なのだが、とても残念な事になっている。

 

「なぁ、彼女はいつもこうなのか……?」

 

「うん。あたしカリーナとは友達で、よくランチとかも行くんだけど……平常運転かな?」

 

 ランボーのボソッとした問いかけに、隣に立つメスガキブルーが応える。

 彼女もカリーナに負けず劣らず、情緒不安定な所があるで、意外と気が合うのかもしれない。

 保安官と犯罪者の垣根を越えた友情。メスガキシティの“めんどくさい同盟”であった。

 

「あ、でも誤解しないで?

 この子ぶっ飛んでるけど、根はすごく優しいし。めちゃめちゃ友達想いな子だから……」

 

「分かっている。

 君の友人なんだ。俺もそう思うよ」

 

 

 ニコリと笑いかけるランボー。それにつられてブルーも「えへへ♪」と微笑む。

 とりあえずこの後、「やーん!」とジタバタ駄々をこねるカリーナを、あの手この手で宥めすかし、なんとか立たせてやることに成功。

 ようやくこの騒動は収まりを見せ、メスガキフォレストに平穏が戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 ………

 …………………

 …………………………………

 

 

 

 

『――――いや、戻ってないでしょ。

 まだおわってないからね、お じ さ ん ?』

 

 約1時間が経過した頃の、メスガキフォレスト。

 今ランボーの所持する無線機に、デカちゃんからの通信が入っている。

 

『なんでアンタたち、ふーやれやれ! みたいなフンイキ出してんの?

 なんでくつろいじゃってんのよ。ピクニックみたく』

 

「……」

 

「「「…………」」」

 

 無線機から響く、マジトーンの声。

 ランボーを含めたこの場の誰もが、ただただ無言で聞き入っている。上司に叱られてる時のリーマンみたいに。

 

『というかもう……ピクニック()()()()()()()()

 なにそのバーベキューセット。その料理のかずかず。

 ゼンリョクで山を楽しんでたよね? トーボーシャってことも忘れて』

 

「……」

 

 彼女が指摘した通り、いまこの場には大きなバーベキューグリルや、美味しそうな肉料理が並ぶテーブルなんかが置かれていたりする。

 ジュースの入った紙コップのみならず、ランボーの為のお酒まであったりするのだ。

 まさしく、キャンプ場で家族サービスをする休日のお父さん、その物である。

 

 今朝森で獲って来たばかりの、新鮮な獣肉。それをこの子らの前で手際よく捌き、「どんどん食えよ~!」とばかりに次々と焼いていく。

 その頼りがいのある姿に、メスガキ達は「おじさんすごーい!」と歓声を上げ、キャッキャと喜んでくれた。とても気分が良かったのだ。

 

『あんたらもさぁ……ニンム忘れちゃダメでしょ。いま仕事中でしょ。

 なにヘリ使って、町まで買い出しに行ってるの? やさいとかジュースとか買ってんの?』

 

「「「「…………」」」」

 

『あとカリーナ。アンタも()()()()()()()()

 ウエイトレスだし、キューシが上手かもしれないけどね?

 でもニッコニコしながら、お手伝いしちゃダメでしょ。

 おじさんといっしょに、幸せそうな顔でお肉やいたらダメでしょ。……何してんのよアンタ』

 

「…………」

 

 メスガキポリスの4人、そして犯罪者であるカリーナも叱られ、黙って下を向く。

 立場や仕事を忘れ、全力で遊び惚けていた事を、言い訳の仕様がないほど痛烈に咎められている。

 

『おじさーん。アタシいま仕事してんのぉー。

 だれかサンが大あばれするモンだから、そのタイオーにおわれて忙しいのぉー。

 たくさんの人をドーインして、いろんな人にメーワクかけて、この作戦やってんのぉー』

 

「……」

 

『でもそのチョーホンニンが、かわいい女の子はべらせて、山でBBQよ。

 おいしーお肉をたべ、お酒をガブガブのみ、たのしそーにワハハと笑ってるわけよ。

 ……ねぇ、これどー思うおじさん?

 アタシ今がんばってるんだけど、なにか思うトコロはない?』

 

「…………」

 

 冷たい声色。失望の滲む呆れた声。

 まるで、幼子にこんこんと言って聞かせるお母さんのように。

 ランボーはもう、返す言葉もない。

 

『アタシ見てたんだけど……、なんかさっき、カラオケみたいな事してたよね?

 こんな森で、メスガキ達をカンキャクに野外ライブ?

 いいゴミブンね~? きぶんはロックスター?』

 

「ッ!」

 

『いい声してたなーおじさん♥

 ゆうーべ、眠れずにぃ~♪ 泣いてぇー、いーたんだろぉ~♪ ……ってさ。

 あれ何ていったっけ、“もうひとつの土曜日”? 名曲ぅー♥』

 

「……ッ!!」

 

『ねぇ? なにハマショー歌ってんのよおじさん……。わざわざグラサンまでかけてからに。

 世代かもしれないけども。ファンかもしれないけども』

 

「……ッッ!!??」

 

『その後おもむろに、ショートコント! ベトナムきかんへー!

 ……とかやりだした時は、ホントどうしよっかなこの人、って思ったよ。

 わかる? そん時のアタシのきもち。ゼックよゼック』

 

「ッッ!! ッッ!!??」

 

『あげくのはてに、ブーメランパンツ一丁で、ダンスショー?

 どっかのゲイバーみたく、筋肉ダンスですかぁー。へぇ~。

 おじさんのパンツ、なんか10ドル札がたくさん挟まってるみたいだケド……、それあの子たちが入れたのよね? きゃーステキーとか言って』

 

「////」

 

『わぁー。やりたいホウダイだなーおじさん♥ ……ひくわー。

 アタシかなしいなー? もっとマジメな人だと思ってたなー?

 ねぇねぇ、コレどう思うー?』

 

「……すまん! 本当に君にはッ……いつもすまないとッ!!!!」

 

 ランボーおじさんが叱られている間に、メスガキ達がそそくさとこの場を片付ける。

 ギターも、マイクも、BBQセットもヘリの中に仕舞われ、この場は来た時と同じ状態になった。キャンパーのマナーである。

 

「我を忘れてたッ……自分を見失っていたんだッ!

 こんなにも幸せな事、今まで無かったッ!! 俺には無かったからッ……!!」

 

『重い重い重い。

 んなとこで、ベトナム帰還兵の悲哀ださないでよ。

 もったいない、もったいない』

 

「こんな楽しいのか、BBQってこんな面白いのかと、正直涙が出そうだったッ……。

 いつも一人で肉を焼いてるが、それとは全く感じ方が違うんだッ!

 誰かと一緒に居るってだけで、人はこんなにもッ! こんなにも安らぎをッッ……!!!!」

 

『やめて、おこれなくなる。

 かわいそ過ぎて、もうなにも言えない。切なくなっちゃうアタシ』

 

 泣かないでおじさん。おねがいだから……。

 そうデカちゃんは、エグエグするランボーを窘め、暫し泣き止ませる事に終始。

 

 小学生に説教され、ガン泣きする三十路の男――――

 彼はジョン・ランボー。名誉勲章を授与されし、ベトナムの英雄である。

 

『それじゃあどうするぅ? おじさんもう帰ってくるぅー?

 メスガキシティにもどるんなら、その子たちといっしょに、ヘリのったらいーけど』

 

「いやッ! それは流石に締まらないというかッ……! 面目が立たないというか……」

 

『じゃあ逃げんのね? まだできるのね?

 ならまた追っかけるけど……、こんどはマジメにやるよね? エロ本ひろったりしないね?』

 

「やるッ! ちゃんとやるッ! 今度はふざけたりせずにッ!」

 

『あれ~? なんか“Sir”がついてない気がするなぁー?

 くちからクソを吐く前と後には、Sirをつけろ~って、ならわなかったのかなー♥』

 

「――――Sir! やりますッ! 自分は大丈夫でありますッ! Sir!!」

 

『ほら、アンタたちもよー?

 なにおじさんだけやらせて、たすかった~みたいな顔してんのよぉー。……なめてんの?』

 

「「「「――――Sir! 本当に申し訳ありませんでしたぁ! Sir!!」」」」

 

『あと雌豚(カリーナ)、あんた後で【鼻フックの刑】だからー。

 ペットボトル2.3本ぶらさげて、ぶさいくにするから。カクゴしときなさいねぇ♥』

 

「――――Sir! 謹んで頂戴します! ありがたき幸せですわ! Sir!!」

 

 

 全員足がガクガク震えている。残像が見えるくらいの勢いで。

 監視カメラで見ているデカちゃんに向かい、ピーンと直立不動で敬礼。

 

 さっきまでの楽しかった空気など、もう微塵もない。

 なぜかランボー達の頭に、“恐怖政治”という言葉が浮かんだ。

 

 

 

 

 ♥ ♥ ♥

 

 

 

 

「でてこぉーい! ざこちんぽぉー! 大人しくお縄に着きなさぁーーい!!」

 

「……ッ!?」

 

 その後、目を瞑って「いーち! にーい!」と数えるメスガキポリス達をその場に残し、ランボーは全力で駆け出した。

 100数える間に逃げろという、もうまんま“かくれんぼ”の時にやるヤツではあるが、いったん仕切り直すためには仕方ない。

 ここからまた、ランボーの逃走劇が幕を開けたのだ。

 

「おじさん見ぃーっけ! ……ってなんだ、ただの木かぁ」

 

 メスガキブルーが「やれやれ」って顔をしながら、この場を立ち去っていく。

 それを確認した後、草だの枝だので身体をカムフラージュしていたランボーが、イソイソと移動を開始する。

 

「動くなぁ~! この低賃金日雇い労働者ぁー☆ ってな~んだ、ただの岩かwww」

 

「おじさんやっとみつけ……ってなーんだ、トーテムポールかぁー♡」

 

「そこに居たのねおじさ……ってなんだ、カーネル・サンダースか」

 

 ポリス達が迫ってくる度に、色々なものに擬態してやり過ごす。

 元兵士であり、ジャングルの専門家であるランボーのスニーキング技術、マジでとんでもなかった。

 

 気が付けば、みんながメスガキ刑事にマジ説教を喰らってから、すでに1時間ほど経過。

 周囲には無数のメスガキ兵が配置され、フォワード役のポリス達4人に追い回されているというのに、彼が捕まってしまう気配は、全くと言って良いくらい無い。

 大人が全力でかくれんぼをすれば、こんな事になってしまうのか――――

 そう思わざるを得ない程、ビックリする位の()()()()()であった。

 

 

 

「おじさま、そこを右へ。

 北を目指して下さいまし」

 

 お姫様だっこをされているカリーナが、指で方向を指示する。

 実は逃走を始めようとした時、「では私も」とばかりにヒョイっと抱き着いて来たカリーナを、一緒に連れて来てしまったのだ。

 現在ランボーは、腕の中にいる彼女に指示を受けながら、猛然と森の中を疾走している所だ。

 

 彼女はメスガキ署の人間ではなく、彼と同じ“追われる側”の立場にある。

 なら一緒に逃げよう、という事なのかもしれないが……、先ほどまで敵同士であった事もあり、ランボーは少し複雑な気分だ。

 まぁ彼女をあの場に残しておくよりはと、流れに身を任せて、一緒に逃げているワケなのだが。

 

「この先に、今はもう使われていない“廃坑”があります。

 そこへ逃げ込みましょう」

 

「了解だ」

 

 障害物や、足場の悪さを感じさせない、まるでカモシカのような疾走。

 彼女たち追跡者が動き出さない内に、少しでも遠くへと駆ける。

 

 こうして指示をくれている事からも分かる通り、彼女はこの森に詳しいようだった。

 確かに地元の人間ではあるが、なぜこのような幼い少女が、ここの地形を知っているのか? ここに来たことがあるのだろうかと、一抹の疑問が湧く。

 けれど今は、それを気にしている場合じゃない。とにかく安全な場所まで移動するべく、全力で足を動かしていく。

 

 

 

「まずい! これハイコウに向かってる……!?」

 

 司令部にいるメスガキ刑事が、とつぜん焦燥感が滲む声で、叩きつけるように叫ぶ。

 

「アンタたち、おって! そっちへ行かせたらダメ!

 ぜったいにソシしてっ!! ()()()()()()()()()()()!!」

 

「……なっ!?」

 

 彼女の隣に立ち、成り行きを見守っていたメスガキ大佐が、思わず目を見開く。

 この優しい娘が「ランボーを撃て」などと口走った事が、にわかには信じられなかった。

 

「同志よ、一体どうした?

 他ならぬお前が、あの御方を“撃て”などと……何を焦っているのだ」

 

「……っ」

 

「たしかにヤツらが握っているのは、カリーナを威嚇するために持たせた麻酔銃。

 いわばメスガキ印の、“ざこライフル”というべき物ではあるが……」

 

 らしくない。先ほどまでの余裕が消し飛んでしまっている。

 これは鬼ごっこの延長めいた作戦であったハズなのに。もうそんな軽い雰囲気は、微塵も無い。

 

 大佐ちゃんは問いかける。どこか心配の色が浮かぶ瞳で。

 だがメスガキ刑事がそれに応える事は、無かった。

 

「――――なにやってるのっ! はやく撃ちなさいっ!!

 アンタたち保安官でしょう!? 自分のシメイをはたすのっ! やりなさいっ!!!!」

 

 檄を飛ばす。有無を言わさない、とても強い口調で。 

 それを聞いたメスガキポリスたちが、やがて震える手でライフルを構え、ランボーに向けて発砲。

 目の前を走るランボーの身体をかすめ、すぐ近くの木や岩に着弾する。

 

 大佐ちゃんは言葉を失う。いま鬼気迫る顔をしている同志の姿に。声をかけるのを躊躇ってしまう程の雰囲気。

 ふとモニターを見れば、そこには涙でグシャグシャになった顔で発砲を繰り返す、メスガキポリス達の姿がある。

 

 たとえ殺傷力が無い銃とはいえ、あの大好きな人を“敵”と見做し、それに向けて発砲させられているのだ。

 いやだ、撃ちたくない、おじさんを傷つけたくない……という悲痛な声が、アリアリと聞こえてくるような姿。いま彼女らは、胸が引き裂かれるような想いをしているに、相違なかった。

 

「……ダメだ、ハイコウに行っちゃう。

 あそこに入られてしまうっ……!」

 

 けれど、相手はかの英雄。そして涙で滲んだ視界では、銃など当たるハズもない。

 メスガキ刑事の絶望が滲む、呟くような小さな声。

 それが聞こえてすぐ、モニターの中のランボーが、件の廃坑に到着。勢いよくその入口に飛び込んで行った。

 

 

「っ!!??」

 

「これはっ……()()()!?」

 

 

 スピーカーが割れるほどの、耳障りな爆音が、司令部のテント内に響く。

 ランボー達が廃坑に飛び込んだ途端、その入口の辺りが、突然爆発したのだ。

 落石や崩落ではない。明らかに人為的に仕掛けられた、爆薬物によるものと思われた。

 

「やられたっ……カリーナだ!

 あの子、こんな用意までしてたなんてっ!

 さいしょから、ここに連れこむ気だった!? ランボーおじさんをっ……!」

 

 状況が呑み込めていない大佐を余所に、メスガキ刑事がギリリと歯を食いしばる。

 なんて迂闊、アタシの判断ミスだと、悔し気にドンとテーブルを叩く。

 

『おじさんっ……!? 嘘でしょ!? なんで……!!』

 

『いやぁぁぁ!! おじさぁぁーーんっ!!』

 

『うわあああああっっ!!!!』

 

 現場にいるポリスたちの悲鳴、慟哭。

 おじさんが死んでしまったと、ワケも分からず泣き叫ぶ声。

 それを耳にした途端、彼女がすぐさま椅子から腰を上げる。

 

 

「泣くんじゃないのっ! メスガキポリス4名は、周囲をケーカイ!

 アタシもすぐそっちに向かうわ! それまで何もしないでっ! タイキよっ!!」

 

 

 先の爆発によって、廃坑の入り口は、岩や瓦礫で完全に塞がれている。

 その前で茫然と佇む部下たちに指示を送った後、メスガキ刑事はヘリの方へ駆け出して行った。

 慌ててその背中を追う、大佐を連れ立って。

 

 

 

 

 

 ♥ ♥ ♥

 

 

 

 

「な、なんて事をするんだ君は。

 死ぬところだったぞ……?」

 

「うふ♡」

 

 全ての脅威から守り抜くように、カリーナをその逞しい腕で抱きしめながら、倒れ込んでいるランボー。

 光が差さない、真っ暗な坑道の中で、彼女の機嫌良さげな笑い声を聞いた。

 

「流石ですね、おじさま♪

 爆炎を背に、ギリギリでのハリウッドダイブ――――

 本当に映画のようでしたわ♡」

 

「嬉しくないな……。こういうのは御免こうむるよ。出来れば」

 

 抱っこされているカリーナが、ゴソゴソと懐から“何かのスイッチ”を取り出した途端、ランボーは反射的にその場からダイブ。見事に爆発から逃れて見せた。

 流石はベトナムの英雄。流石はアクションヒーロー。

 彼の持つ、危機に対応する天性の能力があればこそ、いま自分達は無事に呼吸が出来ているワケなのだが……。でもカリーナの方はのほほんとした物だ。まったく悪びれる素振りも無く。

 

「出口は瓦礫で塞がりました。暫くの間は、誰もここへ来れないでしょう。

 さてさて、二人っきりですねおじさま♪

 いかが致します? とりあえず脱がせっこしましょうか♡」

 

「冗談を言ってる場合じゃない……生命の危機だ」

 

 お腹にまたがっているカリーナを降ろし、身体を起こす。

 未だ暗闇に慣れない目では、1メートル先すらも見ることが出来ない。

 

 一応は、デカちゃんから受け取ったランドセルを持って来ており、懐中電灯やレーションなどの道具が手元にあるので、そこは助かったのだが……。

 しかしここは廃坑。今はもう使われていないという、人の作った洞窟なのだ。

 

 先ほどの爆発による衝撃もあり、ここはもういつ崩れだすとも知れず、どのような危険があるのかも分からない場所。

 そんな中を、この幼い少女を連れたままで、移動しなければならない。

 どこかに出口があると信じ、それを探し出すというミッションに加えて、この子を命にかえても守り通さなくてはならないのだ。

 

 屈強な兵士である彼をしても、とてもじゃないが余裕など無い状況。

 いつもなら赤面し、狼狽えてしまうようなメスガキジョークを言われても、大した反応も返せなかった。

 まぁ「死んでも守らなければ」というランボーの想いがヒシヒシと感じられて、カリーナの方はとてもご機嫌だけれど。

 暗くて見えはしないが、もうニッコニコしている。

 

「ご安心を。ここは見た目こそ“廃坑”ですが、ただのカムフラージュに過ぎません。

 ちょっとやそっとで崩れるような、やわな作りはしていないハズ。

 出口だって、複数用意されていますわ♡」

 

 赤いランドセルをゴソゴソしているランボーを余所に、カリーナが何気ない仕草でペンライトを取り出し、パチッと明りを灯す。

 彼女はフリフリスカートに眼帯ビキニという軽装なのに、一体どこにそんな物を仕舞っていたのか。

 まぁ男性に比べたら、女の子には色々と()()()()()()()のかもしれないが……、ランボーはフルフル頭を振って、それを考えるのを止めた。いかんいかんと。

 

 それにしても、なぜ彼女はペンライトなんかを?

 まるでここに来ることを、事前に知っていたかのような準備と、その落ち着き払った様子に、彼は疑問を抱く。

 

「行きましょうおじさま、案内いたしますわ。

 私はこの場所を、よく存じておりますので♡」

 

 ニコリと微笑みかけ、カリーナが坑道を進んでいく。迷いが感じられない、しっかりとした足取りで。

 未だ思考の渦の中にいたランボーは、その手にある明りを追うように、急き立てられるようにして、彼女の隣に並ぶ。

 

「ご存じの通り……私は悪い子(犯罪者)なんです。

 これまで幾度も、ブルー達に逮捕されてきました」

 

「私がおこなっていたのは、町の平穏を脅かす行為。

 いわば……このメスガキシティの()()()について、調べ周る事でした」

 

 どこかの天井から垂れ落ちる水音、そして二人の足音だけが静かに響く中で、カリーナが独白する。

 

「時に施設を破壊し、誰かを傷つけてまで、行動し続けました。

 どうしても知りたかったのです。この町の仕組みや、成り立ちという物を」

 

「一見、楽園のように思えるこの()()から、抜け出したかった。

 愛玩用として飼われる、籠の中の愛らしい鳥ではなく、たとえ皆に忌み嫌われ、ひどく薄汚れていたとしても、大空をいく鴉になりたい――――」

 

「その為の方法を、ずっと探していました。

 この廃坑のことを探り当てたのも、そんな想いからです」

 

 そうして暫くのあいだ進む内に、二人は行き止まりになっている場所へ差し掛かる。

 辺りにあるのは岩盤のみで、一見して何もない空間。

 けれどカリーナはおもむろにしゃがみ込み、身体がよごれるのも構わず、素手でザッザと地面を掘り始める。

 

 女の子が何をするんだと、ランボーは咄嗟にそれを咎めようとした。

 だが地面を掘っている彼女の、とても真剣な表情を見た途端、出そうとした手を思わず引っ込めてしまう。

 その一心不乱で、懸命な姿に、彼女の想いが伝わって来る気がして、動くことが出来なかったのだ。

 

「よかった……ありました。

 ここが地下への入口です、おじさま」

 

 爪が割れ、血と泥にまみれた小さな手を、少しも気にする事無く、カリーナがほっとした顔で笑う。

 

 土で隠された、金属製の大きな板。

 それを繋がれていた鎖を引いてどかすと、下りの階段が姿を現した。

 まるで地獄に続いているかのような、どこまでも深い闇と共に。

 

「ここへ、お連れしたかった……。

 貴方に知って頂くために、今日までカリーナは、がんばって参りました……」

 

 いつも、自信に溢れていた。

 誰も自分には敵わない、止められないという自信に満ちた顔こそが、彼女の最たる魅力だったように思う。

 

 けれどランボーには、いま目の前にいる少女が、吹けば飛びそうな弱々しい存在に思える。

 まるで、迷子になった子供が、ようやくお母さんに見つけて貰えた時のような……死にゆく者が最後に見せる笑みのような……そんな儚さを感じる。

 確かに笑っているのに、泣き顔のように見えるのだ。

 

 

「ここがメスガキシティの根源。()()()()()()()です。

 ようこそお越しくださいました、ジョン・ランボー。

 ずっと待ち望んでいた、私達のおうじさま( ヒーロー )――――」

 

 

 

 

 

 

 

 



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