ランボー / 怒りのメスガキわからせ 作:エロスはせがわ
「どこにいるの?」
「この先500メートルです、Sir!」
メスガキ刑事を乗せたヘリが、メスガキマウンテンに降り立つ。
彼女は雪に覆われた地面に足着くのと同時に、この場で警備にあたっていたメスガキ兵に声をかけ、現場の位置を問いただす。
そしてすぐ、猛然と山道を進んでいった。
「……」
少し遅れて、メスガキ大佐もヘリを降りる。(背丈が足りないので、誰かの手助けがいる)
メスガキ兵を労うように敬礼を交わした後、テテテと急ぎ足で追いかけて行く。
アイツは今、明らかに冷静さを失っている……。どういう事だ? 一体この“廃坑”に何が?
そう一人思考を巡らせながら。たまに雪でステーンと転び、地面におしりをぶつけて涙目になりながら。
「――――なにやってるのっ!? 人力じゃムリよ! やめなさいっ!!」
そしてなんとか追いつき、現場に到着してみると、そこには先に着いたメスガキ刑事が、部下たちを必死で止めている光景があった。
きっとメスガキポリスの4人には、ランボーが爆発に巻き込まれたように見えたのだろう。この瓦礫の下に、いま彼が埋まっていのだと、そう思い込んでいる様子だった。
おじさんが死んじゃう! はやく助けてあげなきゃ――――
そう涙を撒き散らしながら、必死で瓦礫をどかそうとし、素手で土砂を掘り返そうとしている。だいの大人でも動かせないような木材を、懸命に持ち上げようと藻掻いている。
まだ身体が小さく、力も弱い小学生の子に、出来るハズもないのに。
だがそんな事もおかまいなし。むしろこの現実を受け入れられず、「いやだいやだ」と駄々をこねるようにして。
「おちつくの! はなれなさいアンタたちっ!
ガレキがくずれでもしたら、どうするのっ!!」
掴みかかるようにして、部下達を止める。
彼女らは、信頼するボスの姿を見た途端、まるで糸が切れたように崩れ落ち、悲痛な声で泣き始める。
デカちゃんはそれをしっかり抱きしめながら、必死に声を上げて宥める。
「だいじょうぶよ! すぐオーエンがくるから! しんぱいないのっ!!
ざこブルトーザーと、ざこシュベルカーと、ざこ救急車を手配したから!」
――――ろくなモンがねぇな、この町は。
こんな時だというのに、大佐ちゃんはそう思わざるを得ない。
ちなみに、さっき彼女が乗ってきたヘリも、正式には“ざこヘリコプター”と呼ばれる機体らしい。よく墜ちずに辿り着けたものだと、内心安堵した。
「恐らくは、無事だ。
爆発があったのは、彼らが廃坑に飛び込んでから、暫くした後。
あの御方ならば、きっと回避出来ているよ。安心して良い」
やがて暫しの時が経ち、ようやくメスガキポリス達を落ち着かせ、後方の部隊に預ける事が出来た。
そのタイミングを見計らって、大佐ちゃんがメスガキ刑事に声を掛ける。
辺りのメスガキ兵たちが、必死にざこスコップを奮う音が響く中で、彼女と向かい合う。
「しかし、どうやらお前は、
逃げ込む事じゃなく、ここに侵入されること自体を恐れた。……相違ないな?」
「……」
「何がある? この廃坑は一体なんだ?
聴かせてくれないか、同志よ」
目を合わせようとしない。今も彼女はそっぽを向き、じっと押し黙っている。
それでも大佐ちゃんは辛抱強く、じっと彼女を待ち続ける。
偽りのない、仲間としての信頼を宿した瞳で見つめる。
「ここじゃダメ。また夜、ふたりのときに話すわ。
ごめん……。それまでまって大佐」
♥ ♥ ♥
巨大な空間があった。
そこはまるで、地底にもうひとつ町を作ったかのように、大小さまざまな小屋が乱立している。
「ここは、とある宗教団体が住処としていた場所です。
百年以上も昔に作られたそうですが、今は誰も住んでいません」
太陽の光が届かぬ、淀んだ空気だけが支配する世界。
たとえどれほどのスペースがあろうとも、こんな場所で生活をするなど、正気の沙汰では無いように思える。
自分達の息遣い、それ以外は全く音がしない、完全な静寂。
これだけ広ければ、何かいそうなモノだが、不思議なことにネズミ一匹すら見かけない。
「行きましょう、おじさま♡
この先に、教祖が住居としていた建物……、神殿があります」
カリーナが持つペンライト、そしてランボーが持つ懐中電灯の光を頼りに、二人は足元を確かめつつ、ゆっくりと歩みを進めていく。
整地のされていない、凸凹だらけの地面。未だに倒壊していないのが奇跡的に思える、ボロ板で作られたような住居の数々。
いくらライトで見渡そうが、あるのはその位のものだった。
ランボーはとくに信仰に厚い方ではないけれど、もし仮に“地獄”というものが存在するのなら、きっとこの場所のような感じではないだろうか?
暗く、肌寒く、不快な空気、それに加えて何もないこの空間は、罪人が堕ちるとされる場所に相応しい。
自分ならば、好き好んでここに居たいとは思わない。きっと数日と経たぬうちに、精神に異常をきたす事だろう。
「すべての住人が信者。村まるごとカルト教団であり、そこで独自の法と文化を築く。
……現代においても、少しばかり田舎に行けば、こういうのは普通にあるそうです」
彼女の語りに耳を傾けている内に、やがて大きな門の前に到着した。
それは木造で、部外者の侵入を拒む役割など、すでに果たしていない程にボロボロだった。
片方の扉が外れ、無惨に地面に倒れてしまっている。それをただの板として踏みしめ、ランボーたちが中へ侵入していく。
「ここは、馬鹿な夢想家たちが、自分達の理想を叶えるために作り上げた国。
あるひとつの“世界”を作ろうとした、夢の残滓です」
古びた扉を開けると、とても広い部屋が現れた。
恐らくは、ここで集会をおこなったり、なんらかの儀式をしていた事が伺える。
「ここなるは、かの教団の聖地。
ご覧ください、おじさま――――あの壁にある文字が見えますか?」
1 0 才 こ え た ら 、 女 じ ゃ な い !
ず っ と 幼 女 だ っ た ら 、 い い の に な !
「
なんでも、幼女の王国を作ろうとしたとか」
「――――大統領にコールを! ここに核を落とせッ!!!!」
地下やとゆーとるのに、ランボーがメチャクチャな事を言う。
だがそれも、分からないでも無かった。
「7歳までは神のうち、という言葉が東洋にありますが……。
まさかリアルに、幼女を崇拝する教団があろうとは。
これを知った時は、私もビックリでした♡」
「よく分かったよ! 本当どうしようもないな! 人間ってヤツはッ!!」
ちなみにこの【10才こえたら女じゃない! ずっと幼女だったらいいのにな!】という言葉は、彼らが掲げる理念であり、思想であり、目指すべき到達点である。
びっくりするくらい、壁にでかでかと書かれてある。
「カリーナが調べた所によりますと……。
このメスガキシティは、
「ロリコンざこシャーマンッ?!?! 聞いたこと無いぞ!? 祈祷ッ?!」
「ょぅι゛ょと暮らしてぇ~。お話してえな~。俺もな~。
その一念のみを以って、1000人のロリコンざこシャーマンは、連日飲まず食わずで祈り倒したのです」
「倒すな! メシくらい食えッ! そんなに幼女が好きかッ!!」
「でも幼女の王国を作り上げ、悲願を達成したその瞬間に、1000人のロリコンざこシャーマンは力尽き、全員死にました」
「――――ばっきゃろうッ!!!!
ロリコンってのは、皆そうなのかッ?! 恐ろしいよ俺はッ!!」
そうして残ったのが、小さな女の子“だけ”が住む王国。メスガキシティという一個の世界です。
カリーナが神妙な顔で説明してくれるが、ランボーはもうそれどころでは無い。血管が切れてしまいそうだった。
♥ ♥ ♥
「同志よ、冗談はよせ。
そんな馬鹿な軍団が、この世に存在するハズもない」
「いやホントだから。
できればアタシも、そう思いたいんだけど……」
メスガキ署の近くにある、洒落た雰囲気のBAR。
まぁここは少女しか居ないので、酒など取り扱ってはいないが。あくまで雰囲気を楽しむ為の、一部の大人っぽい子たちが利用する場所。
あまり人が居ないので、話をするのにうってつけだ。
「拗らせたロリコン共の願いによって、作り上げられた世界……。
想像していたよりも、ずっと忌まわしかったな。メスガキシティってヤツは」
「夢をこわして悪いけど、ゲンジツはそんなもんよ。
絵本に出てくるマジョとかだったら、アタシもナットクできたんだけど……」
若さを羨む醜い魔女によって、この世界に閉じ込められた美しい少女たち――――
そんなロマンチックな物語だったら、どれほど救いがあっただろう? こちとらロリコン共の執念によってエラい目に合ってるのだ。アタシの人生を返せってなもんだ。クソが。
「というか……あんた何でも知ってるようなソブリだったけど、いがいと何も知らないのね?
この町のことは、やっぱそーなってんの?」
「ああ、機密だ。
地図にも載っていないし、一部の人間しか知らん。
国のトップや、軍のお偉いさん方だけだな」
「それでよく、ここに入って来られたわね。
いったいどんな手を使ったんだか」
「まぁそこは、わたくしだからこそ、だな♪
たとえメスガキであろうとも、とても同じ真似は出来まい。
数少ない文献を手に入れ、国が持つ情報を盗み、あらゆる仮説を立てて実行。
ふふ♪ 陸軍大佐サミュエル・トラウトマンの孫を、舐めて貰っては困る♥」
だがまぁご覧の通り、無知を晒してはいるがね――――
BARでミルクを飲むという、西部劇みたいな事を実際にしつつ、メスガキ大佐が苦笑する。
「わたくしが知っていたのは、この町が
そして……少しずつではあるが、それが年々
仮に、このまま何千年か経ったなら、我らが合衆国の領土は、全てメスガキシティに飲み込まれる。世界を侵食しているんだよ。
霊長類ヒト科の雄、という生き物は、存在しなくなるかもな?」
存在は確認できる。影響もある。……だが決して入ることは出来ず、手出しすること能わず。
それがここメスガキシティという“異界”だ。
「ジャパニーズ・カルチャーの創作物の中に、“GENSOUKYOU”というのがあるそうな。
住む者達や、理念の違いはあれど、その在り方はメスガキシティと近いかもしれない。
まぁHAKUREIの巫女ではなく、ロリコン共の執念で結界張っとるワケだが」
「でもバカにはできない……というかタチがわるいのよ。
アイツらアホだから、奇しくも“命がけ”でケッカイはりやがったのよ。
これもうジュツというより、
「拗らせたロリコン共の、千人がかりの呪い(驚愕)
そりゃあ時とともに膨れ上がり、世界を危機に陥れるわなぁ。……なんと厄介なヤツらだ」
「というか、『世界滅べ!』くらいのことは、フツーに考えるヤツらだからね?
あー今日はいい天気だなー。いんせき落ちて世界ほろんだら良いのにー。
……とかニチジョーテキに思ってるよ、ロリコンだもん♥」
関係は無いが、これは
「ふむ、いわゆる“はじまり”は分かった。
まぁ思ったより残念な話だったが……、メスガキシティが生まれた理由については、理解出来たつもりだ」
おかわり! おかわり! おかわり!
そうまるで“わんこそば”のように、次々とミルクをがぶ飲みするメスガキ大佐。
前におっぱいについての件があったし、もしかして気にしているのだろうか?
デカちゃんはそう思ったけれど、お酒ちっくなアセロラジュース(通称ざこカクテル)を飲み干す事で、口に出すのを我慢した。武士の情けである。
「しかし、この町はどうやって、成り立っているんだ?
外からは入れず、ロリコン共(男)は死に絶え、初潮前の少女しか居ない」
「……」
「これでは人口が増やせず、維持すらも出来んハズだ。
しかし、この町の存在が観測されてから、はや半世紀以上が経過しているという。
滅ぶどころか、人口は増え、この町はどんどん膨張を続けている――――
なぁ、
確信を突く。まっすぐな目で。
それは部外者ではなく、「自分を仲間にしろ」という要求。メスガキシティに骨を埋めるという宣言でもあった。
強い覚悟を以って、放たれた言葉。
「……GENSOUKYOUっていったけ?
さっき“異界”の話をしてたけど……、それ当たりよ。
ホントにここは、まともじゃない所なの」
だがメスガキ刑事は、その覚悟をあざ笑うかのように――――
「出ていけって、チューコクしたのに……もうきっとテオクレよ。
アンタ死ぬわ。大人になること無く、
♥ ♥ ♥
きっと、鉱石が含まれているのだろう。
この洞窟の岩盤は、どこも青い光を放っており、とても神秘的な光景。
まるで、いま自分達は、美しい海の底にいるかのようだった。
「当然ですけれど、ここを誰かに見せるのは、おじさまが初めてですわ♡
私のお気に入りの場所……」
陰鬱で、みすぼらしく、光の届かない地底。
けれど、こんなにも美しく、神聖な場所があった。
カリーナに連れられるがままに、ここへやって来たのだ。
「ここにいると、自分が魚になったような気持ちになります。
こんな閉じられた世界じゃなく、どこまでも続く広大な海を泳いでいるんだって……想像する事が出来ます」
まぁメスガキシティには海がありませんし、私は泳いだ事がありませんけれど。
そうカリーナが苦笑し、ペロッと可愛く舌を出した。
「こんな場所ですし、ふと思い出したのですが……。
おじさまは、“人魚姫”をご存じですか?
小さいころ、絵本は読みましたか♡」
記憶に無い。自分はそれよりも、TVのヒーロー達に夢中だったし、本を読むよりは、外で身体を動かすのが好きだったように思う。
両親が呆れるほどにワンパクで、活発な子供だったようだから。
「そう。なら人魚姫のエンディングは、ご存じありませんね。
私と……いえこの町の子達と似てる気がして、とても好きなのですけれど」
なんだろう? 幸せに暮らすんじゃないのか? ランボーはきょとんと首を傾げる。
童話というからには、女の子が好きそうな話のハズだ。
きっと素晴らしい結末を迎える、夢のある話なんだろうと思った。……けれど。
「人魚姫は、海の泡になって消えるんです――――
流石にこれは酷いのか、本によっては、アレンジもされるそうですが」
少女が何気なしに、海を歩いて行く。
鉱石によって、青い光を放つ地面を、散歩するようにトコトコと。
静かな、でもどこか嬉しそうな表情で、
「きっと、同じなんだと思います。
おうじさまと結ばれなかった女の子は、泡になって消えていく。
この箱庭で、私たちはそれを繰り返す――――ずっとずっと、永遠に」
幻想的な光の中で、カリーナが微笑む。
この世の物とは思えず、本当に人魚を目にしているような感覚でいた。それほど目の前の少女は美しく、そして儚げに見えた。
ふとした瞬間に、消えてしまいそう。
あまりにも非現実的な光景だから、夢から覚めるように、この子が居なくなってしまうんじゃないかって、そんな気がした。
「ときにランボーおじさま? つかぬことをお訊ねしますが……。
ここメスガキシティでの、ほぼ唯一と言ってもいい“死因”は、なんだと思われます?
シンキングタイム・スタート♡」
突然の問いかけに、言葉が詰まる。ドキッと心臓が波打ち、思考がフリーズしてしまう。
彼女に言葉を返すことが、出来ない。
「残念。正解は――――
まだ10才にも満たない少女たちが、この世を儚み、絶望し、自ら死を選ぶのです」
「けれど、逃れられない……。
また必ずこの町に生まれ、閉じられた箱庭の中で、生きることになる」
「私たちの魂は、この町に
鳥のように空を飛べるのは、勇気を出してビルから身を投げた時の、ほんの数秒間だけです」
その記憶があると、彼女は言う。
ハッキリとは思い出せずとも、これまで繰り返してきた多くの“自分”が、何度も何度もビルから身を投げたという、その事実だけは憶えていると。
「少女たちの楽園を作ろう。
小さな女の子が、何者にも脅かされる事なく、安心して生きられる世界を作ろう。
……たとえ発端は欲望だとしても、そんな想いもあったのだと思います。
とても醜悪で、歪な形ではありますが、確かに彼らは、子供を愛していたんです」
「堕胎や、育児放棄、虐待――――
それらにより死んでいった、報われない女の子の魂が、ここメスガキシティに集います。
今度は大人など居ない、誰にも傷付けられない“少女の楽園”に、生まれ落ちる。
そして永遠に、囚われ続けるんです」
「恨みを覚えています。愛されなかったという悔しさが、ずっとこの胸にあります。
魂に刻まれている。だから私たちは、大人というものを侮蔑する。
大人をバカにする子供、
死んでも、記憶の一部が継承される。
これまで培ってきた知識や技術を、ゲームのように引き継いだまま、次の人生にいける。
それこそが、彼女たちが優秀な理由。大人の力に頼らず、自分達だけで生きていける理由だ。
だが、そうやって転生を繰り返す内に、憎しみや恨みが蓄積していく。
鬱屈し、大人を憎む気持ちが強くなる。どんどん心が
それがこのメスガキシティにおける、独自の輪廻転生だ。
「けれど、不完全な形なのか……。
彼らの“幼女だけ”という、クソみたいな信念からなのかは、分かりませんけども……。
私たちメスガキは、
元から何にもなかったみたいに、スッと身体が薄くなって、消滅してしまうのです」
「ここは、幼女だけの王国。
それ以外の存在を、この世界は許さない――――
だから幼女でなくなった者を消し去り、プラスチックのように再構成するのでしょう」
「ここは町であり、哀れな幼き魂の受け皿。
決して逃がさぬための監獄であり、私たちを殺す
彼女の顔は、見えない。今こちらに背を向けているから。
けれど、彼女の小さな身体が震え、ギュッと血が滲むほどに拳を握っているのが分かった。
「楽園だなどと、片腹痛い……。これはまごう事なき“呪い”。
今は亡き、カルト教団のロリコン共が、永遠にょぅι゛ょを愛でる為に作った鳥籠。
それがメスガキシティなのです――――おじさま」
♥ ♥ ♥
「構わん、覚悟の上だよ。
死ぬのなら、所詮その程度の女だった、という事さ♥」
ほとんど独白に近い、メスガキ刑事の言葉。
それを全て聞き終えた大佐が、表情を変えることなく告げた。
本当に何気ない声色。さも当然のことのように。
「いくら神童と持て囃されようが、わたくしはあの御方とは違う。
物語の主役にはなれん、ただのいちキャストでしか無い。
ならば、途中で退場する事もあるだろうさ。
「……っ!!」
のほほんとした笑みに、怒りがこみ上げる。
確かに昨日今日あった仲ではあるが、こちとら本気で心配して言っているのだ。
関係がない筈のアンタまで、ここで囚われる事は無いと。懇願するような気持ちで「逃げろ」と言ったのに……。
だがそんなメスガキ刑事の想いも、どこ吹く風。今も大佐は飄々とした態度を崩さない。
「たいしたカクゴね……。それが軍人のココロガマエってヤツ?」
「いやいや、今は国にも上官にも、忠義は尽くしていないさ。
ただ自分の思うがまま、したいように。
それで命を捧げるのだから、そこいらの女と、なんら変わりないだろう?」
恋のために人生をかける者もいれば、我が子のために命をはる母親もいる。
それは素晴らしい生き方だと思わんか? もっとも……我が国が戦争をしていない状態であるならば、の話だが。
そうクックと笑いながら、彼女がまたグラスを傾ける。もう今日何杯目になるか分からないミルクだ。ぜったい後でお腹を壊すだろうコイツは。
「そのワリには、あんたのコードーって、なんかイミフ。
おじさんが好きとか、手に入れたいだとか、そんなんじゃないように見える……」
「ん、そうか?
あの御方を愛しているというのは、天地神明に誓い、偽りない気持ちだが」
「だったらおじさん連れて、さっさと町から出りゃーいいでしょうが。
なんであの人じゃなく、アタシたちのテダスケをするのか。メスガキとはいえ、がいらい人のアンタが、なんでほかのオンナがおじさんにふれるのを、OKしてるのか。
そこはいまだに、ナットクできてない」
ぶすっと頬を膨らませ、じとぉ~っと睨む。
今度はお前の番だ。こっちは散々しゃべったんだから、そっちも腹割って話せ。
ぶっちゃけ微塵も迫力という物がなく、ただただカワイイばかりの姿ではあったが、メスガキ大佐はそれを受け入れるように、ふぅとひとつため息をつく。
「三千世界の鴉を殺し、主と朝寝がしてみたい――――
知っているか? シンサク・タカスギの言葉だ」
片方の眉だけを上げた、どこか愛嬌のある表情で、“同志”と呼ぶ彼女を見つめる。
「全ての煩わしさを消し去り、のんびりあの御方と、添い寝でもしたいなぁーと♥
座右の銘だ。所詮わたくしの願いなど、その程度のものさ」
「……」
静かで優しい瞳が、メスガキ刑事に向けられている。
これまで見たことがなかった、サリーの温かみのある表情に、彼女は胸がキュッとするのを感じた。
真心。たしかな想いの籠った言葉。
そんなのを聴かせてくれる友達が、いったい自分に何人いただろうか。メスガキ刑事は思う。
「まぁぶっちゃけ、ここのメスガキたちを開放し、
「――――何させようとしてんのよ!?!?
アタシらは大量発生したイナゴかっ!!」
「いやいや、メスガキたちで軍隊を組織し、クーデターを起こすんだ。国家転覆をだな。
もしくは、メスガキシティの膨張を加速させ、それによる平和的な国盗りもアリだ♥
メスガキ合衆国、初代大統領、ジョン・ランボー誕生。……どうだ、胸が躍らないか?」
「やめたげてよ! そんなのになったら、おじさん泣いちゃうよっ!
人見知りのPTSDだよ!?!?」
「安心しろ。本願はもちろん、メスガキハーレムを築くことさ♥
ここには児童保護法が存在しないので、小学生でも誰にはばかる事なく、ちんぽ出来る。
――――こんな夢のような町があるだろうか!! いや無いっ!!!!(迫真)」
「 よくぼー丸出しじゃないのっ!! 成功を約束された人生を、棒にふってまで!? 」
「もしロリコンざこシャーマン共がやらなければ、わたくしが作っていた所だぞっ!?
今ここに
「 こいつブッコロしといた方がいーんじゃない!? そんな気がするのアタシ!! 」
「ふはは! ランボーさまのPTSD治療の為、存分にメスガキシティを活用させて貰うぞ!!
この国の構造を破壊するより、二人でこっちに引っ越した方が早いんじゃないか~と、前々から思っていたのだよっ!
どんだけ人見知りで豆腐メンタルな、くそざこコミュ力、社会不適合者のゴミ人間でも、幼女が相手ならワンチャンあるだろう? どうせしょーもない父性とかで、心の扉を開くんだろう?」
「 大人をバカにしてるっ!?
こいつやっぱメスガキだ! ショーネがくさってるもん!!!! 」
「さぁ同志よ! ょぅι゛ょ様のぬくもりで、あの御方を救って差し上げろ!!
ランボー様さえ幸せならば、後はワリとどーでも良い! どーなってもいーのら♥
意外とそんな感じだぁ! わたくしなんてモンはぁーっ!!」
「 ――――出てってよ! まだワンチャンあるって! この町から出てけ!! 」
♥ ♥ ♥
「ひとつ、聞いていいか……?」
ここはロリコン地下王国のちょうど中心に位置する、巨大な洞穴。
これ自体が強力な神殿となっており、霊感が皆無なランボーでさえも、ここに入るだけで肌がざわつく心地がした。いわゆる“神気”のような物が満ちているのだろう。
カリーナに連れられてここを巡り歩き、最後にこの場所に辿り着いた時、これまでずっと聞き手をやるばかりだった彼が、その口を開いた。
「あの子は知っているのか?
この場所の事や、メスガキシティのことを」
未だに彼は、妙に「君」とか「彼女」とか言って、名前を呼ぼうとはしない。
それは何かしらの遠慮なのかもしれないし、恥ずかしさからくる物かもしれない。またきっと、未だ彼のなかで強固に存在する“心の壁”の表れなのだろう。
けれど名前を言わずとも、すぐに誰のことかは分かった。
ほんの少しだけ親しみを感じる、「あの子」という呼び方だったから。
「君がしている事が“悪事”だなんて、俺には思えない……。
協力出来るんじゃないのか? あの子に事情を話し、一緒に調査をすればいい」
「君はすごい女の子だ。きっとあの子たちの力になれる。この町の為になる。
なにより、これまで君がしてきた努力を、あの子たちが無駄にする筈がない」
許可なく施設や敷地に立ち入る、侵入罪。
もしそういう物が“悪事”となっているのなら、それはメスガキ署の子達と協力し合うことで、解決できるはず。
破壊工作などは、たしかに物騒な話だが、その必要性をしっかりと訴えるのなら、情に厚いあの子が無下にするワケがない。
きっと、ただ一人で孤独に戦い続けるよりも、良い方向に進むのではないかと思った。
けれど……。
「駄目ですよ。デカちゃんは“管理者”の立場ですから♡
協力は出来ません……」
どこか寂しそうに微笑みながら、カリーナが振り向く。
「この町を維持する、この仕組みを守るのが、デカちゃんの使命です。
乱し、壊し、この仕組みから逃れようとする私とは、手を取り合えない」
敵同士だと、ハッキリ告げる。
私たちは、決して分かり合うことは無いのだと。どこか感じ入るように、そっと目を閉じながら。
「私程度が知っている事など、デカちゃんは全て承知しています♡
その上で、この町を守っている。
疑問が湧く。それはとてもじゃないが、あの子に似つかわしくないから。
ここは哀れな少女たちを捕らえ、閉じ込める檻だと聞いた。
10才という年齢に至れば、悲しい最後が待っているとも聞いた。
ならば、なぜあの子は動かない? それをカリーナのように調査し、変えようとしない?
それどころか、変えようとしている者を阻害し、この檻を維持しているという。
それがどうしても、彼が持つイメージと結びつかない。
「きっと、分からないからだと思います。
檻の鍵が解かれた後、私たちメスガキが、
「果たして私たちは、外の世界で生きていけるような、存在なのでしょうか?
「普通にお母さんのお腹から産まれ、普通に生きて、普通に死ぬ。
そんな“普通”がない私たちが、もしいたずらに水槽を飛び出せば、呼吸が出来なくなるかもしれない。干からびて死ぬかもしれない」
洞穴の置くまで進むと、そこには彼の身体ほどもある、巨大なクリスタルが姿を現した。
そんな名前の石なのかは知らない。だがこれが何かしらの力の源であり、このメスガキシティという世界において、何らかの役目を果たしているのだという事は理解できる。
ランボーはなんとなしに、それを頭の中で“メスガキクリスタル”と名付けてみる。
どうせここに居た者達は、ロリコン拗らせて死んだのだし、誰に咎められることも無いだろう。
「この結界が壊れたら、この仕組みが無くなれば、私たちは一体どうなるのか。
それが分からず……もしくはもう
たとえどう言い訳をしようと、私はこの平穏を乱す者。
仲間達の身を脅かす、ワルモノに他なりません……♡」
――――この静けさを守るのが、仕事よ♪
この町に来た、一番最初の日。パトカーであの子がそう言っていた事を、ふと思い出す。
立派だと思った。掛け値なしに良い子だと思った。……だがあの時、彼女の胸にはどんな想いがあったのだろう? あの信念が宿る強い瞳は、どうやって培われた物なのだろう?
ここに来て、そんなことに思い至る。
素敵だ。とても良い子だと思う。……だがアレは、まだ無邪気に遊び、色んな夢や恋に想いを馳せるような、そんな年頃の女の子が
自分たち兵士のような、何かを背負って戦う者の目なんだ――――
「俺に、どうして欲しい?」
ふいに、そんな言葉が口を突いた。
「何をすれば良い? どうすべきだ?
言って欲しい……。俺は全力で、それをやってみる」
考えるんじゃなく、彼の心から溢れ出た言葉。
彼女はこれまで、ランボーをからかうような事(?)ばかりを言ってきたけれど、もうそれでも構わない。
次に、彼女が望んだ事……彼女が言ってくれた事を、自分はなりふり構わずにやろう。
たとえそれが、どんな結果を招こうとも、これまで頑張って来た彼女に報いよう。
誰も彼女の手を取らないのなら、俺がその想いに手を貸そう。……そう思ったのだ。
「――――さぁ? カリーナには分かりません♡」
けれど返って来たのは、彼女の「ふふっ」という、茶目っ気のある声だった。
「まだ子供ですので、分かりかねます。
なんでもすると誓って差し伸べた手は、スルッと彼女をすり抜けていった。
楽しそうに、でもどこか申し訳なさそうに、カリーナが笑っている。
とても儚く、神秘的なほどに……キレイだ。
「けれど、おじさまは違います。大人ですからっ♡
私には分からなくても、おじさまなら分かるかもしれない。見つかるかもしれない。
だからこそ……ここへお連れしました。貴方に知っておいて欲しかったんです」
「なのでぇ、私が望むことなど、もう叶っちゃってます♡
たった今、ぜんぶ全部、おじさまに叶えて頂きました。
ありがとう御座います――――私のおうじさま」
青く眩しい
嬉しそうに、とても幸せそうな顔で、そっと慈しむように手を引いた。
「もしかしたら、ですけれど……。
ひとつだけ、あの子さえも知らない事を、教えて差し上げられるかも」
誘われるように、身を低く屈めた。
すると、どうした事だろう。とても小さくて美しい人魚姫の顔が、その瞳に映るものすらも見て取れるほど、すぐ近くにあった。
これは、俺の姿なのか? 俺は
暫しの間、全てを忘れるように、ランボーはそんな事を考えていた。
唇と唇が、触れあって離れる……そのほんの少しの間だ。
「知ってますか? キスというのは、粘膜接触なのです♪
ブルーのセリフではありませんが……これはもう
彼女が薄く微笑み、彼がポカンとした時、突然この場の風景に、ちょっとした変化が訪れる。
「やはり思った通り。“女になる”という言葉の通りです♡
せっくすをし、少女じゃなくなった娘は、この世界から消える……。ロリコンは非処女を許さない」ボソッ
見間違いかと思った。ここは青白い光に満ちた幻想的な場所だから。
けれど、そうじゃない。いま彼女の身体が、どんどん色を失くしていくのが分かる。
ゆっくりと透明になり、彼女という存在が消失していくのが、見て取れた。
「実を言うと、アレから身体が軽いなって、なんとなく思っていたんです。
あの限界ギリギリ超絶セクシーバトル! ~この世で一番エロいやつ~ でわからせられた時……、ずっと心にあった黒い物が、すーっと四散していくのを感じました」
「大人を憎む気持ち、愛されなかった悔しさ……。
それを失った私は、きっともう、
メスガキではなくなったから――――」
「きっと、ポリスの4人もそうですよ?
わからせられたから。憎むのではなく、貴方に恋をしたから。
もうこの世界に来ない。私たちはようやく開放される――――人として死んでいけます」
手を握っているのに、確かにここにいるのに、何も出来ない。
こんな忌まわしいクリスタルなんかじゃない。そんな物よりもよっぽど綺麗な“涙”を流すカリーナを、助けることが出来ない。
何でもしてやりたいのに、守りたいのに、命なんていらないのに。
彼女がゆっくりと消えてくのを、止められなかった。
今の彼に出来るのは、ただ彼女をギュッと抱きしめたまま、無力に立ち尽くす事だけ。
「ずっと疑問でした。
なぜ私たちメスガキは、憎みながらも
――――やめてくれ、せっかく真面目な気持ちでいるのに、ちんぽとか言わんでくれ。
そうランボーは、心の中で悲痛な叫びを上げるが、一応これは訊いておくべき事だと感じ、頑張って耳を傾ける。
「きっとこれが、唯一の方法だから、かもしれません……。
おうじさまと出会い、結ばれることが出来れば、私たちの呪いは解ける。
ちんぽが私たちに、翼をくれる――――」
最後の一文は、正直いらなかったッ!! 全部ぶち壊されたッ!!
今ランボーが歯を食いしばっているのは、悲しみに耐えているからなのか、それとも必死に真面目であろうと頑張ってるからなのか。
とにもかくにも、彼の眼からキラリと涙がこぼれる。どっちの理由であるにせよ。
「最後にひとつだけ……。
私たち“個人”を縛る呪いと、この町“全体”を覆う呪いは、別々の物です」
「あの子は特別。ほかのメスガキ達とは、根本的に存在として違う。
だからきっと、あの子です。
デカちゃんが鍵を握っている――――この楽園の鍵を」
「あ、鍵穴に差すとも言いますし……もしかしたら逆かもしれませんわっ!
貴方のちんぽが鍵で、デカちゃんは扉の方かも???
あーっはっは♡ えっろッ!!!!(爆笑)」
――――いらんかった! ソレいらんかったッ!!!!
そんなこんなをしている内、やがて愛すべき少女は、この世界から消失していった。
姿を無くし、忌まわしい鎖は解かれ、その魂は天に帰っていく。
ようやく彼女の苦しみは、ここに終わりを告げる。
最後は人として……女の子の本懐を遂げて。幸せそうに微笑みながら。
いま――――鳥は空に羽ばたいたのだ。ちんぽという名の翼で。
そして、一人っきりになったこの場に、静寂が訪れる。
でもランボーに出来るのは、もう地面にガンガン頭をぶつけまくる事、それのみだった。