ランボー / 怒りのメスガキわからせ   作:エロスはせがわ

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三人以上いる時は、ぜんぜん喋らないよね。

 

 

 

 

「アタシここに住むわ。家賃いくらよ?(真顔)」

 

 運転中のランボーに、コアラのように抱き着くメスガキ刑事(デカ)が、首筋のあたりをクンカクンカしながら言った。とても息が荒い。

 

「おじさんの腕の中、ドロドロに甘やかされて生きてゆくの。

 あと5年はこの体勢でいるわ」

 

「いや……、保安官の仕事はどうするんだ?

 君がいなければ、この町の安全が……」

 

「そうね。じゃあ条件をテージしていってちょうだい。

 お互いの意見を擦り合わせ、より良い形でケーヤクしなきゃね。

 敷金返金はいかほど?」

 

「話を聞いてくれん……。君は一体どうしてしまったんだ」

 

 おめめがグルグルしている。この子がいま正気ではない事が、もう一目で分かった。

 あったかーい☆ いい匂ーい♪ うっほほーい! みたいな事を、延々と口走っている様子。

 喜んでくれるのは嬉しいのだけれど……ずっとこのままは困る。

 

「“子連れ狼”ってゆーのあるでしょ?

 あんな風にアタシをだっこしながら、町の保安をやればいいと思うわ♥」

 

「そんなの、俺は見たこと無いな……。

 治安を守るんなら、ある程度の威厳は必要だろう」

 

「そぉ? いい考えだと思うんだけどなぁー。

 おじさんつよつよだしぃ~、みんなゆーこときくと思うよ♥」

 

 そんな事は無い。現に今、ランボーは少女を膝から降ろせずにいるんだから。

 たった一人の女の子にすら、言うことを聞かせられないのに、威厳もクソもあったものじゃない。

 いくつもの勲章を授与され、ベトナムの英雄と言われた男も、メスガキにかかっては形無しであった。甘々だ。

 

 とにもかくにも、まるで親子のようにこの子を膝にのせ、引き続きメスガキシティを巡回中のランボー。

 先程までは少しおかしくなっていたが、いま彼女はニコニコと微笑んでおり、ランボーとのドライブを楽しんでくれている模様。

 たまに彼女の中の“何か”が爆発する事はあれど、この子は実際の年齢よりもずっと大人びていて、ちゃんと良識もわきまえている子だ。

 流石はこの町の守り手たる、保安官と言った所。

 

 ランボーの方も、メスガキ刑事との心地よい雑談に興じつつ、安全運転を意識して車を飛ばす。

 ここは何もない田舎町と称されてはいるが、穏やかで温かい人の営みがある。平凡だけど美しい景色がある。

 それを車内からのんびりと眺めつつ、二人でパトロールを続けていた。

 

「いい町だな、ここは。

 君が誇りに思うのも分かる」

 

「でっしょ~!

 まぁぶっちゃけ、住んでるのは、ひとクセもふたクセもあるような子達ばっかだけど……。

 でもみんな良い子よ♥ なかよくしてあげ……」

 

 ――――それを言い終わる前に、急ブレーキが踏まれる。

 今ランボー達が乗る車の前に、突然小さな影が飛び出して来たのだ。

 

「んぎっ……!」

 

「ッ!!」

 

 咄嗟にブレーキを踏みつつも、しっかり右腕で少女を抱きかかえる。

 さっきまでの穏やかなムードを、キキーッという耳障りな音が消し飛ばす。

 けれど、二人とも無事だ。

 

「大丈夫かッ! 怪我はッ!?」

 

「うん……アタシはノープロ。

 おじさんがギュッて守ってくれたし……」

 

 急停止したパトカーの車内で、二人が見つめあう。

 片方は必死の形相で、もう片方はキョトンとしつつも「ぽっ♥」と頬を赤く染めている。

 優秀な戦士であるランボーの、類まれな反射神経。危険に対処する能力。

 それがあったからこそ、いまメスガキ刑事は無事でおり、突然飛び出して来た人物にも怪我を負わせずに済んだのだった。

 

 けれど……車がしっかり停止してから、約3秒くらい後……。

 少しだけ間を置いてから、何かが〈どんっ!〉と車体にぶつかって来た。

 

「――――いったぁ~いっ! マジ()()()()()()()()じゃーん! もーっ!!」

 

 キョトンとする二人を余所に、なにやら外から女の子の物らしき声がする。とても幼い感じの。

 その子が今、道路に倒れて「うぎゃーっ!」とワチャワチャしている姿もあった。

 

 というか、ランボーにはバッチリ見えていたのだが……。先程あの子は、完全に停止している車に対して、何故かえーい! と()()()()()()()

 あたかも「ヤバッ! 失敗しちゃった!」って感じで慌ててタックルし、ワザとらしくドテーッと倒れたのだ。

 

「わーんいたいよぅ! これ死んじゃうかもじゃーん!

 だれか助けてマジで! このあいすべき乙女をーっ! はやくーぅ!」

 

「えっ? あ、ああ……」

 

 のそのそと車を出て、とりあえずは現場に向かう。必死な声に思わず、といったように。

 いまランボーの目の前には、とくに怪我もしていない小さなあんよを押さえ、クネクネ地面をのたうち回っているメスガキの姿がある。

 ティーン向けのファッション誌に出て来そうな、金髪でキラキラした見た目の子。防犯ブザー付きの、赤いランドセルも背負っているようだ。

 

「ちょっとおじさーん!? 女の子をはねるなんて、なに考えてんのマジでぇ~!? 

 このクソざこドライバぁー! もーサイアクぅー!」

 

「は……?!」

 

 ランボーが駆け寄ってくるなり、もう烈火の如く喚き散らす、見知らぬ少女。

 

「お、俺はちゃんと止まったッ!

 なぜ君は、自分から車にッ……!」

 

「うっさぁーい! いいわけとか、マジありえないからーっ!

 このゴにおよんでセキニン逃れとかぁ、大人のする事じゃないでしょおーっ!?

 しんじらんなーいっ!」

 

 両手を突き上げて、プンプン怒る。

 もう微塵も、こちらの声に耳を傾けるつもりは無いようだ。

 まるで、勢いで誤魔化すかのように。

 

「あーあ! こーんなひどいコトされちゃったらぁ、ただで許すとかマジむり♥

 いひひ! じゃあセイイってもんを見せてもらおっかなー♥

 ちんぽ見せるとかぁ、さわらせるとかして貰わないとぉ~、マジおさまりが付かn

 

「――――あんた身分証を見せなさいな。このおバカ」

 

 少女がメスガキ刑事にグイッと肩を掴まれ、すごすごと道路脇に連行されて行く。

 電信柱に手を付くよう言われ、あっという間に無力化されてしまった。

 未だ茫然とするランボーを、置き去りにして。

 

「まさかパトカーに当たり屋するだなんて……。しかも失敗してるし。

 観念なさい。ドライブレコーダーもあるし、言い逃れは出来ないわよ?」

 

「ゆっ……ゆるして刑事(デカ)ちゃんっ! 出来心なのぉ!

 ごめんなさいっ! マジごめんなさいっ!」

 

「あんた大ケガしてたかもしれないのよ?

 たまたま今回は、運転してたのがあの人だったから、助かったの。

 なに命を粗末にしてんのよっ! まだメスガキの身空で!」

 

「ちんぽが見たかったッ! 見たかったのよぉぉーーッッ!!(号泣)

 お話しするキッカケがほしかったのぉーっ! かんにんしてぇーっ!!」

 

 えっとぉ? 詐欺罪とぉ~、公務執行妨害とぉ~、脅迫罪とぉ~。

 そうメスガキ刑事が、ひいふぅみぃと罪を数えていく。容赦なかった。

 

「わああああ!」

 

「うおおおっ!」

 

「ええーーい!」

 

 そしてふと振り向けば、そこには誰も乗っていないパトカーに次々とタックルしていく、何人ものメスガキ達の姿が。

 その誰もが「いったーい! はねられちゃったー♥」と(うそぶ)き、ちらっちらっとランボーの方を見ている。責任とってよと。

 

「困ったわねぇ。さすがにこの人数は、しょっぴけないわ。

 車に乗りきらないもの」

 

「なぁ、彼女たちは何を……?

 何故ラグビーの練習をしてるんだ?」

 

 とりあえず身分証だけ確認して、後で全員出頭させましょっか。

 メスガキ刑事はそうため息をつき、ランボーの手を引いてソソクサと車に乗り込む。

 どうやら、ここに留まるのは、あまり得策ではないようだから。

 

「おい、バンバン音がしてるぞ。大丈夫なのかこれは」

 

「いくらクラクションならしても、どいてくれないねぇ……」

 

 そして、二人がパトカーに乗り込んだ途端、大勢のメスガキ達が周りを取り囲む。

 みんな「わーん!」とか「やーん!」とか言いながら、必死の形相でバンバン車を叩いているのだ。

 ――――いやーっ! 行かないでぇ~! 男の人ぉー!

 そう目を血走らせて。

 

「なんか、()()()()()()()()()()()()()()

 さっき『みんないい子よ』って、言ったばかりなのに……ゴメンね?」

 

「……」

 

 確かここは、小さな女の子達が住む町だったハズだが……何故かラクーンシティみたくなっている。

 しかもみんな「ちんぽいかないで~!」と必死なので、ホントのゾンビに勝るとも劣らない勢いであった。

 

 コワイ。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「よゆーでしょ、男なんて。

 バカで程度の低い生き物だし」

 

 青い髪をツインテールにした女の子が、「はんっ!」と小馬鹿にしたように笑う。

 手のひらを上に向け、いかにも“ツンデレのお手本”といわんばかりの仕草だ。

 

「ぎゅ~ってして、チュッチュして、乳幼児かってくらいバブらせんの。

 後はごはん食わせて、甲斐甲斐しく身の回りのお世話して、ガンガン酒代とタバコ代とパチンコ代を貢いでりゃ、それでイチコロだし!

 ちょろいわ男なんて!」

 

 同僚たちから「おー!」と賞賛の拍手を受けながら、得意げな顔。

 彼女はここメスガキ署に務める、通称“メスガキブルー”と呼ばれる女の子。

 おしゃまで、大人っぽく、みんなのリーダー的な存在であるメスガキポリスだ。

 ちなみに、ここは正式には“保安官事務所”であり、彼女もポリスではなく保安官なのだが、みんな分かりやすくこう呼んでいる。あしからずである。

 

「ブルーちゃんすごぉ~い♡

 じゃあね、じゃあね? えっちをおねだりするときって、どんなふーにすればいいかなぁ?」

 

「そりゃあんた、決まってんじゃない。()()()()()()()

 哀れに、みじめったらしく、プライドかなぐり捨てて、必死におねがいなさい。

 ちんぽの前では、人の尊厳なんてクソよ!!」カッ!

 

「そっかぁ~。ちんぽしてもらうんだから、それくらい“せいい”がひつようだよねっ♪

 さすがはブルーちゃん♡」

 

 いま感心したようにウンウン頷いているのは、同じくここの保安官である“メスガキピンク”ちゃん。

 肩のあたりで揃えられた桃色の髪と、ほんわかした笑顔がチャーミングな女の子だ。

 両手をグーにして口元に添え、きゃっきゃと喜ぶ仕草も愛らしい。

 どこか儚げで、庇護欲をそそる雰囲気の少女だった。

 

「ま、あたしの想像の中では……、だけどね。

 まだちんぽ見た事ないし……」

 

「わたしもないよぉ……。

 それどころか、おとこのひとと、おはなししたことも、なぁい」

 

「……したいね、ちんぽ」

 

「……したいねぇ」

 

 はぁ~、と深くため息。二人の背中に「どよーん」と影が落ちている。

 いくら思いを馳せようとも、憧れを抱こうとも、ここはメスガキシティ。霊長類ヒト科の男など、一人も存在しないのだ。

 

「ぶっちゃけあたい~?

 ちんぽって()()()()()()()()()()()()()()()って、そう疑ってんのぉ~。

 神とかドラゴンといっしょでぇ~、人の夢が創り出したヤツなんじゃないのぉ~w」

 

「ちんぽ、ない。見たことない。

 ならちんぽ……存在しないのと同じ。リョウシリキガク的に」

 

 金髪のお団子頭をした子と、綺麗な黒髪ロングの子が、それぞれの意見を言い合う。

 気だるげな口調の子が“メスガキイエロー”、静かな口調の子は“メスガキブラック”と、それぞれ呼ばれている。

 

「みんな知ってるけどぉ~、でも見たことある人は居ないでしょお~?

 きっと昔の人が考えたんだよぉ~、ちんぽという神話を~w」

 

「自然の驚異や、壮大さを()の当たりにした時……、人は神の存在を感じる。

 それと同じようにして、ちんぽ創造された説」

 

 ちんぽは、私たちの心の中に――――ちんぽインマイハート。

 そうイエローとブラックは語る。真剣な表情で。

 

「うそよ! ちんぽあるし! ちゃんと実在するし!」

 

「そうだよぉ! ちんぽはげんそーなんかじゃないよっ! きっとあるもんっ!」

 

「ええ~、二人とも夢見すぎだってぇ~w

 あたいは朝昼晩の三回、まいにち欠かさず神棚に祈りを捧げてるけどぉ~、でも姿を見せてくれないもぉ~ん。

 全然ちんぽ迎えに来ないじゃ~んw」

 

「御姿を思い浮かべようにも、ボンヤリして像が結ばない。

 ちんぽ見たこと無いから……、ハッキリ思い描くことが出来ない……。

 時折、私たちは無駄な事をしているのでは? という虚しさが胸をよぎる」

 

 4人はいつものように、「わーわー!」と騒ぐ。

 ブルーとピンクが所属する“ちんぽある派”と、イエロー&ブラックを擁する“ちんぽ無い派”のふたつに別れて、壮絶な議論を繰り広げるのが、彼女たちの日常であった。

 

 ここメスガキ署には、沢山の事務員たちがいるが、主にこの4人のメスガキポリスが主力となって、運営されている。

 ひどく(かしま)しいし、可愛らしい女の子ではあるが、その見た目からは想像も付かないほどに優秀な子達。まさにエリートメスガキなのだ。

 事務仕事や法律の知識のみならず、それぞれが高い身体能力を有しており、車や銃の扱いだってお手のもの。

 彼女たちは今日もメスガキシティの平和のため、10秒に一回くらい「ちんぽ」と口走りながら、頑張っているのだ。

 

「じゃあいいわよっ!

 もしちんぽ見つけても、絶対あんたらには教えたげないし!」

 

「ちょ……!? ずるくなぁ~い?

 あたいだってちんぽ欲しいんだけどぉ~。願ってやまないんですけどぉ~w」

 

「ちんぽ教えるべき。ちんぽ独占禁止法に抵触」

 

「メスガキけんぽー、だい23じょーだねっ♡

 ちんぽをはっけんしたばあい~、げんじゅーかつ、すみやかにほごしぃ~…………って、あれぇ?」

 

 デスクの上に胡坐をかいたり、あっつぅ~とか言いながらパンツ丸出しでスカートをパタパタしたり。

 そんな女子高のような光景を繰り広げつつ、4人で楽しくダベっていた時……とつぜんメスガキピンクが「きょとん?」とした顔になる。

 

「ん? どーしたのよピンク、なんかあった?」

 

「えっと……ブルーちゃん、あれなんだろぅ?

 あっちにおおきな()()()()が……」

 

 メスガキピンクが指を指した方向に、みんなが顔を向ける。

 そちらには事務所の出入口があり、いま誰かがドアを開け、ゆっくりとこちらへ歩いてくるのが見えた。

 なにやら見慣れない、女の子からしたら熊のように大きく思えるような、ある人物の姿が。

 

「ごめんね? つき合わせちゃって。

 いちおうトージ者ってことで、おじさんにも話を聞かなきゃだからさ♥」

 

「構わない。気にせんでくれ」

 

「「「 !?!?!? 」」」

 

 その瞬間――――メスガキ署の所内に「きゃあぁぁーーッッ☆☆☆」という叫びが木霊した。

 まるで爆発したみたいに。

 

「あー、おほんっ! みんなセーシュクにね~っ!

 この人は、今日メスガキシティにやって来た、お客さんなの♥

 ちょーっとじけんに巻きこまれちゃってぇ、ちょうしょを取るためにおこし頂いたのよー。

 だいじょーぶだから、みんな仕事にもどって! ほら早く早くっ!」

 

 胡坐をかいていた足を閉じたり、バッとスカートを押えたり、コンパクトを取り出して化粧を直し始めたりと、そこら中で乙女心が吹き荒れる。

 とつぜん目の前に現れた、生まれて初めて見る男性の姿に、みんなもう気が気ではない。

 いくらここのトップであるメスガキ刑事が諫めようとも、焼け石に水。みんなソワソワしぱなっしだ。仕事なんか手につくものか。

 

「おはよ、4人ともっ♪

 いま手があいてる子はいる?」

 

「ぼ……ボス?!

 いやっ、みんな空いてるケド……」

 

 ブルーが目をひん剥きながら答え、ほかの3人もこくこく。

 だがその視線は、ずっとランボーから外される事はない。

 もう穴が空いちゃうくらいガン見している。

 

「その人はっ! あのっ……、いわゆる?」

 

「ええ、()()()()

 彼はジョン・ランボー。とびっきりのタフガイなの♥」

 

 おぉ!! と事務所内が沸く。みんな仕事もそっちのけで、キャー☆ と歓声を上げる。

 あと「ありがたや、ありがたや」と拝みだす者や、「あの言い伝えはまことじゃった……」とホロホロ涙する者まで、その反応は様々。

 ――――これがッ! あのッ! 夢にまで見たッ! 伝説のッ!!!!

 そうメスガキポリスの4人は、〈ピキーン!〉と身体を硬直させている。もう言葉も出ない。

 

「んじゃま、わるいけどあんた達、おじさんを“おーせつ室”にあんないしてもらえる?

 アタシ書類とか作らなきゃだし、しばらくのあいだ、彼のお相手してあげて。

 くれぐれも失礼のないようにね? だいじなお客さまだから♥」

 

「りょりょ……了解よボスっ!」

 

「は、はい~っ!」

 

 ブルーとピンクの二人が、もうアワアワしながら返事する。

 その足はガクガクと震え、だいぶ声が上擦っていた。未だ動揺から立ち直れない様子だ。

 しかし……。

 

「……ん、君は?」

 

 いまランボーの方に、メスガキブラックがてててと近寄って来る。

 彼女は綺麗な黒髪を揺らしながら歩き、彼のすぐ目の前でピタッと止まって、その顔をじぃ~っと見つめる。

 まっすぐ、感情の伺えない、無垢な瞳で。

 

「ちらっ」

 

「――――ッ!!??」

 

 パサッと音を立てて、おもむろに()()()()()()()()()()()

 メスガキブラックはコテンと小首をかしげつつ、何故かランボーにぱんつを見せたのだ。

 突然、なんの脈絡も無く――――

 彼はびっくりしすぎて、また「ふ゛お゛っ!(cvささ〇いさお)」的な声が出た。

 

「どう?」

 

「なッ……! ッ!?!?」

 

 思わず後ずさる。

 それを他所に、ブラックちゃんは「きょとん?」って感じの、とても無垢な顔。

 まるで算数の答えを先生に告げる時みたく、「これでいいですか? あってますか?」と、ランボーに訊いているかのような。

 

「おじさぁ~ん、ちんぽ勃ったぁ~?w

 ちっちゃい女の子の白パンだよぉ~☆ リボンが超カワイイっしょ~?」

 

 そして、メスガキイエローが彼の腰にピトッとしなだれ*1、猫なで声で甘える。

 

「あたい~、ちんぽ勃ってるとこ見たいなぁ~☆

 ねーいいでしょ~、おじさぁ~ん?

 幼女でぼっきしちゃう、変態ロリコンちんぽ、あたいに見せてぇ~♥」

 

 イエローちゃんの手がヘビのように動き、サワサワとランボーをまさぐり始める。

 右手は、彼の逞しい胸板に。もう片方の手は、彼のキュッと引き締まった尻にのびる。

 

「ざぁ~こ♥ ざぁ~こ♥ ざこちんぽ♥

 ダメなのに勃っちゃう! くやしいのうw くやしいのうw

 でもいーよ☆ 別にぼっきしてもぉ~♪

 ぜーんぶあたいが受け止めて あ げ る ♥♥♥」

 

 

 

 愛おし気に身体をまさぐり、こちらに体重を預けてくる少女の体温――――

 そしてすぐ目の前には、自分でスカートをたくし上げている、無垢な女の子の姿――――

 

 その両方が、彼には理解の及ばない物。

 いったい彼女たちは、何をしているのか? それが分からず、ただただ身体を硬直させるばかり。 

 

 ランボーの額から、一筋の汗が流れる。

 何故か、身体が震える。危機を知らせるサイレンが、絶え間なく頭の中で鳴る。

 相手は……、この場にいるのは、こんなにも幼い少女ばかりだというのに。

 

 たとえば、痛みを伴う拷問であれば、散々ベトナムで経験した。

 自分はグリーン・ベレー出身だし、当然ながら“苦痛に耐える訓練”も受けている。

 どれだけ辛く、身体が傷付こうとも、最後まで耐えきる自信がある。決して根を上げる事はないだろう。

 

 けれど……()()()()()()()

 いったい何をされているのか、自分がどうされるのかが分からず、心底恐ろしい。

 

 苦痛など関係ない。

 身体的だろうが、精神的だろうが、痛みは怖くないのだ。

 けれどランボーは、今なにか得体の知れぬ、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ――――このままでは、喰われる。

 

 こんなちいさな女の子達に、何をどうされるのかなど、皆目見当が付かないのだが。

 倒される気も、負ける気も、当然ながら全くしないのだが。

 でもなんか“喰われる”という表現が、妙にしっくりくるような……、そんな耐え難い敗北を喫するという、確固たる予感がある。

 これから俺えらい事になっちまうぞ、と直感。

 

 

 妖艶な雰囲気を醸し出す、二人の幼い少女――――

 ギラギラと熱っぽい目でこちらを見つめている、沢山の女の子達――――

 そして、この異常な雰囲気の空間――――

 

 彼の脳裏に、自分が猛獣の入った檻に閉じ込められ、それを沢山の観客達に見つめられているという情景が浮かぶ。

 

 今の状況が、それにそっくりに思えてならない。

 サバンナの草食動物にでも、なったような気分。

 ここにきて、ランボーは初めて思い知ったのだ。

 

 

 これが少女ッ!

 これが女の子ッ!!

 これがメスガキッ!!!!

 

 其は捕食者也――――決して抗うこと(あた)わず。

 

 

 

「はいは~い! とっとと言われたとーりにやるぅ!!

 まったくアンタたちはぁ~!」

 

 ゴイン☆ という音が二回鳴り、ブラックとイエローが「ぎゃーん!」と声を上げる。

 二人とも涙目になり、クシクシと頭を押さえて蹲った。

 いまメスガキ刑事が、トンファー型の警棒で、かる~く二人を叩いたのだった。

 成敗ッ☆ って感じで。

 

「早くあんないして、お茶でも出してやって。

 さっきは大変だったし、少し休ませてあげたいのよ。

 テンション上がっちゃうのはわかるけど、だいじなお客さまだ~って言ったでしょ?」

 

「……あい」

 

「……ふぁい」

 

 しゅんと項垂れる二人を尻目に、デカちゃんがパチッ☆ とウインク。ランボーに微笑みかける。

 まさに地獄に仏。ランボーは心から感謝を抱く。

 彼女はなんて良い子なんだと感動。

 

「あっ、なんなら仮眠室とかもあるよぉ♥

 もしひと眠りしたいんなら、そっちの方にあんないさせるけどぉ。おじさんどーするぅ?」

 

 これまで長旅をし、そして先ほどゾンビ映画めいたトラブルに遭ってしまった彼を、メスガキ刑事が気遣う。

 遠慮しないでいーよ☆ と微笑む顔が、彼には本物の天使のように見えた。

 心が癒される。

 

「いや、大丈夫だよ。

 それより早く、調書というヤツを頼む。

 日が暮れる前に、この町を出たいんだ。

 暗くなると、野営の準備が出来なくなる」

 

 そう朗らかに、言葉を返す。

 少女の心遣いに感謝し、自分に出来る限りの笑みを贈ったつもりだ。

 しかし……。

 

 

「――――は? なに言ってるのおじさん。本気で言ってる?」

 

 

 突然、目の色が変わる。

 さっきまでの柔らかな笑みは、もう無い。

 メスガキ刑事が、スッとハイライトの消えた瞳で、まっすぐにランボーを見る。

 

「この町から出るだなんて、なに考えてんの?

 おじさんの心臓が動いてる内は、()()()()()()()()()?」

 

 ――――ピキリ! と空気が凍る。

 メスガキ刑事の射殺すような眼差しが、物理的な力すら伴い、ランボーの身体の動きを止める。

 女の子の圧力……いや()()という単語が、脳裏によぎった。

 

「 当然じゃん。逃がすワケないじゃん。

  なんで逃げられると思うの??? 」

 

「 言ったよねー?

  いっしょに保安官やろうーって。ずっといっしょにいるーって。

  お家賃いくらですかーって 」 

 

「 おじさん、ちゃんと聞いてなかったの……?

  女の子とのお話を、聞き流してたの……???

  あらら。悪い人ねぇ――――おじさんは 」

 

 メイデイ! メイデイ! メイデイ!

 こちらローンウルフ! エマージェンシー( 緊急事態 )だ! 凄まじい敵の攻勢に遭っているッ!

 今すぐ救援と砲撃支援を求む! 持ちこたえられんッ!!

 

 そんな通信が、ランボーの頭の中で響く。

 助けてくれ! ここは死地だ! いつの間にか地獄に迷い込んじまったッ!

 ちきしょう! 俺の戦争はまだ続いているというのか! もう戦場はたくさんだクソッタレ!

 そうランボーは、半泣きで空を見上げ、手榴弾のピンを抜いて自害する~、というパントマイムを無意識におこなっていたのだが……。

 

「なーんちゃって!

 ごめんごめんおじさん♪ ジョーダンよ♥」

 

 突然、打って変わって満面の笑みを浮かべたメスガキ刑事が、「てへっ♪」と舌を出す。

 

「おどろいたぁ? アタシ前は劇団にいたし、ちょっとしたモンだったでしょ♪

 女はみんな女優なのよ? お、じ、さ、ん♥」

 

「そ、そうか……」

 

 迫真の演技。まるで人が変わってしまったような、狂気を感じる雰囲気。

 それをパッと脱ぎ捨てたメスガキ刑事が、気を取り直して部下に指示を出す。

 先ほどまで震え上がり、顔面蒼白となっていたメスガキポリスたちが、止まっていた時が動き出したかのように、そそくさとランボーの手を引く。

 

「まぁ、いっしょに保安官やろうってゆーのは、はんぶん本気よ?

 元兵士のおじさんなら申し分ないし、きっとみんなの人気者になれるわっ!

 無理にとは言わないケド、頭のかたすみにでも置いててね♪ おねがい♥」

 

 それじゃ、また後でねぇ~。アタシも終わったら行くから~♪ 

 4人と共にエレベーターに乗り込んだランボーを、フリフリと手を振って見送る。

 彼女らしい、あたたかな笑み、優しい表情に、ランボーはほっと胸を撫でおろす。

 

 

 さっきのは演技だ……俺の考えすぎだ。

 

 そう自分に言い聞かせ、すぐに平常心を取り戻すことに成功。

 流石はベトナムの英雄であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前がパパになるんだよ――――」

 

 

 

 扉が閉まる瞬間、彼女がボソッとなにか呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

*1
体の力を抜いて、よりかかる事


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