ランボー / 怒りのメスガキわからせ 作:エロスはせがわ
「アタシここに住むわ。家賃いくらよ?(真顔)」
運転中のランボーに、コアラのように抱き着くメスガキ
「おじさんの腕の中、ドロドロに甘やかされて生きてゆくの。
あと5年はこの体勢でいるわ」
「いや……、保安官の仕事はどうするんだ?
君がいなければ、この町の安全が……」
「そうね。じゃあ条件をテージしていってちょうだい。
お互いの意見を擦り合わせ、より良い形でケーヤクしなきゃね。
敷金返金はいかほど?」
「話を聞いてくれん……。君は一体どうしてしまったんだ」
おめめがグルグルしている。この子がいま正気ではない事が、もう一目で分かった。
あったかーい☆ いい匂ーい♪ うっほほーい! みたいな事を、延々と口走っている様子。
喜んでくれるのは嬉しいのだけれど……ずっとこのままは困る。
「“子連れ狼”ってゆーのあるでしょ?
あんな風にアタシをだっこしながら、町の保安をやればいいと思うわ♥」
「そんなの、俺は見たこと無いな……。
治安を守るんなら、ある程度の威厳は必要だろう」
「そぉ? いい考えだと思うんだけどなぁー。
おじさんつよつよだしぃ~、みんなゆーこときくと思うよ♥」
そんな事は無い。現に今、ランボーは少女を膝から降ろせずにいるんだから。
たった一人の女の子にすら、言うことを聞かせられないのに、威厳もクソもあったものじゃない。
いくつもの勲章を授与され、ベトナムの英雄と言われた男も、メスガキにかかっては形無しであった。甘々だ。
とにもかくにも、まるで親子のようにこの子を膝にのせ、引き続きメスガキシティを巡回中のランボー。
先程までは少しおかしくなっていたが、いま彼女はニコニコと微笑んでおり、ランボーとのドライブを楽しんでくれている模様。
たまに彼女の中の“何か”が爆発する事はあれど、この子は実際の年齢よりもずっと大人びていて、ちゃんと良識もわきまえている子だ。
流石はこの町の守り手たる、保安官と言った所。
ランボーの方も、メスガキ刑事との心地よい雑談に興じつつ、安全運転を意識して車を飛ばす。
ここは何もない田舎町と称されてはいるが、穏やかで温かい人の営みがある。平凡だけど美しい景色がある。
それを車内からのんびりと眺めつつ、二人でパトロールを続けていた。
「いい町だな、ここは。
君が誇りに思うのも分かる」
「でっしょ~!
まぁぶっちゃけ、住んでるのは、ひとクセもふたクセもあるような子達ばっかだけど……。
でもみんな良い子よ♥ なかよくしてあげ……」
――――それを言い終わる前に、急ブレーキが踏まれる。
今ランボー達が乗る車の前に、突然小さな影が飛び出して来たのだ。
「んぎっ……!」
「ッ!!」
咄嗟にブレーキを踏みつつも、しっかり右腕で少女を抱きかかえる。
さっきまでの穏やかなムードを、キキーッという耳障りな音が消し飛ばす。
けれど、二人とも無事だ。
「大丈夫かッ! 怪我はッ!?」
「うん……アタシはノープロ。
おじさんがギュッて守ってくれたし……」
急停止したパトカーの車内で、二人が見つめあう。
片方は必死の形相で、もう片方はキョトンとしつつも「ぽっ♥」と頬を赤く染めている。
優秀な戦士であるランボーの、類まれな反射神経。危険に対処する能力。
それがあったからこそ、いまメスガキ刑事は無事でおり、突然飛び出して来た人物にも怪我を負わせずに済んだのだった。
けれど……車がしっかり停止してから、約3秒くらい後……。
少しだけ間を置いてから、何かが〈どんっ!〉と車体にぶつかって来た。
「――――いったぁ~いっ! マジ
キョトンとする二人を余所に、なにやら外から女の子の物らしき声がする。とても幼い感じの。
その子が今、道路に倒れて「うぎゃーっ!」とワチャワチャしている姿もあった。
というか、ランボーにはバッチリ見えていたのだが……。先程あの子は、完全に停止している車に対して、何故かえーい! と
あたかも「ヤバッ! 失敗しちゃった!」って感じで慌ててタックルし、ワザとらしくドテーッと倒れたのだ。
「わーんいたいよぅ! これ死んじゃうかもじゃーん!
だれか助けてマジで! このあいすべき乙女をーっ! はやくーぅ!」
「えっ? あ、ああ……」
のそのそと車を出て、とりあえずは現場に向かう。必死な声に思わず、といったように。
いまランボーの目の前には、とくに怪我もしていない小さなあんよを押さえ、クネクネ地面をのたうち回っているメスガキの姿がある。
ティーン向けのファッション誌に出て来そうな、金髪でキラキラした見た目の子。防犯ブザー付きの、赤いランドセルも背負っているようだ。
「ちょっとおじさーん!? 女の子をはねるなんて、なに考えてんのマジでぇ~!?
このクソざこドライバぁー! もーサイアクぅー!」
「は……?!」
ランボーが駆け寄ってくるなり、もう烈火の如く喚き散らす、見知らぬ少女。
「お、俺はちゃんと止まったッ!
なぜ君は、自分から車にッ……!」
「うっさぁーい! いいわけとか、マジありえないからーっ!
このゴにおよんでセキニン逃れとかぁ、大人のする事じゃないでしょおーっ!?
しんじらんなーいっ!」
両手を突き上げて、プンプン怒る。
もう微塵も、こちらの声に耳を傾けるつもりは無いようだ。
まるで、勢いで誤魔化すかのように。
「あーあ! こーんなひどいコトされちゃったらぁ、ただで許すとかマジむり♥
いひひ! じゃあセイイってもんを見せてもらおっかなー♥
ちんぽ見せるとかぁ、さわらせるとかして貰わないとぉ~、マジおさまりが付かn
「――――あんた身分証を見せなさいな。このおバカ」
少女がメスガキ刑事にグイッと肩を掴まれ、すごすごと道路脇に連行されて行く。
電信柱に手を付くよう言われ、あっという間に無力化されてしまった。
未だ茫然とするランボーを、置き去りにして。
「まさかパトカーに当たり屋するだなんて……。しかも失敗してるし。
観念なさい。ドライブレコーダーもあるし、言い逃れは出来ないわよ?」
「ゆっ……ゆるして
ごめんなさいっ! マジごめんなさいっ!」
「あんた大ケガしてたかもしれないのよ?
たまたま今回は、運転してたのがあの人だったから、助かったの。
なに命を粗末にしてんのよっ! まだメスガキの身空で!」
「ちんぽが見たかったッ! 見たかったのよぉぉーーッッ!!(号泣)
お話しするキッカケがほしかったのぉーっ! かんにんしてぇーっ!!」
えっとぉ? 詐欺罪とぉ~、公務執行妨害とぉ~、脅迫罪とぉ~。
そうメスガキ刑事が、ひいふぅみぃと罪を数えていく。容赦なかった。
「わああああ!」
「うおおおっ!」
「ええーーい!」
そしてふと振り向けば、そこには誰も乗っていないパトカーに次々とタックルしていく、何人ものメスガキ達の姿が。
その誰もが「いったーい! はねられちゃったー♥」と
「困ったわねぇ。さすがにこの人数は、しょっぴけないわ。
車に乗りきらないもの」
「なぁ、彼女たちは何を……?
何故ラグビーの練習をしてるんだ?」
とりあえず身分証だけ確認して、後で全員出頭させましょっか。
メスガキ刑事はそうため息をつき、ランボーの手を引いてソソクサと車に乗り込む。
どうやら、ここに留まるのは、あまり得策ではないようだから。
「おい、バンバン音がしてるぞ。大丈夫なのかこれは」
「いくらクラクションならしても、どいてくれないねぇ……」
そして、二人がパトカーに乗り込んだ途端、大勢のメスガキ達が周りを取り囲む。
みんな「わーん!」とか「やーん!」とか言いながら、必死の形相でバンバン車を叩いているのだ。
――――いやーっ! 行かないでぇ~! 男の人ぉー!
そう目を血走らせて。
「なんか、
さっき『みんないい子よ』って、言ったばかりなのに……ゴメンね?」
「……」
確かここは、小さな女の子達が住む町だったハズだが……何故かラクーンシティみたくなっている。
しかもみんな「ちんぽいかないで~!」と必死なので、ホントのゾンビに勝るとも劣らない勢いであった。
コワイ。
◆ ◆ ◆
「よゆーでしょ、男なんて。
バカで程度の低い生き物だし」
青い髪をツインテールにした女の子が、「はんっ!」と小馬鹿にしたように笑う。
手のひらを上に向け、いかにも“ツンデレのお手本”といわんばかりの仕草だ。
「ぎゅ~ってして、チュッチュして、乳幼児かってくらいバブらせんの。
後はごはん食わせて、甲斐甲斐しく身の回りのお世話して、ガンガン酒代とタバコ代とパチンコ代を貢いでりゃ、それでイチコロだし!
ちょろいわ男なんて!」
同僚たちから「おー!」と賞賛の拍手を受けながら、得意げな顔。
彼女はここメスガキ署に務める、通称“メスガキブルー”と呼ばれる女の子。
おしゃまで、大人っぽく、みんなのリーダー的な存在であるメスガキポリスだ。
ちなみに、ここは正式には“保安官事務所”であり、彼女もポリスではなく保安官なのだが、みんな分かりやすくこう呼んでいる。あしからずである。
「ブルーちゃんすごぉ~い♡
じゃあね、じゃあね? えっちをおねだりするときって、どんなふーにすればいいかなぁ?」
「そりゃあんた、決まってんじゃない。
哀れに、みじめったらしく、プライドかなぐり捨てて、必死におねがいなさい。
ちんぽの前では、人の尊厳なんてクソよ!!」カッ!
「そっかぁ~。ちんぽしてもらうんだから、それくらい“せいい”がひつようだよねっ♪
さすがはブルーちゃん♡」
いま感心したようにウンウン頷いているのは、同じくここの保安官である“メスガキピンク”ちゃん。
肩のあたりで揃えられた桃色の髪と、ほんわかした笑顔がチャーミングな女の子だ。
両手をグーにして口元に添え、きゃっきゃと喜ぶ仕草も愛らしい。
どこか儚げで、庇護欲をそそる雰囲気の少女だった。
「ま、あたしの想像の中では……、だけどね。
まだちんぽ見た事ないし……」
「わたしもないよぉ……。
それどころか、おとこのひとと、おはなししたことも、なぁい」
「……したいね、ちんぽ」
「……したいねぇ」
はぁ~、と深くため息。二人の背中に「どよーん」と影が落ちている。
いくら思いを馳せようとも、憧れを抱こうとも、ここはメスガキシティ。霊長類ヒト科の男など、一人も存在しないのだ。
「ぶっちゃけあたい~?
ちんぽって
神とかドラゴンといっしょでぇ~、人の夢が創り出したヤツなんじゃないのぉ~w」
「ちんぽ、ない。見たことない。
ならちんぽ……存在しないのと同じ。リョウシリキガク的に」
金髪のお団子頭をした子と、綺麗な黒髪ロングの子が、それぞれの意見を言い合う。
気だるげな口調の子が“メスガキイエロー”、静かな口調の子は“メスガキブラック”と、それぞれ呼ばれている。
「みんな知ってるけどぉ~、でも見たことある人は居ないでしょお~?
きっと昔の人が考えたんだよぉ~、ちんぽという神話を~w」
「自然の驚異や、壮大さを
それと同じようにして、ちんぽ創造された説」
ちんぽは、私たちの心の中に――――ちんぽインマイハート。
そうイエローとブラックは語る。真剣な表情で。
「うそよ! ちんぽあるし! ちゃんと実在するし!」
「そうだよぉ! ちんぽはげんそーなんかじゃないよっ! きっとあるもんっ!」
「ええ~、二人とも夢見すぎだってぇ~w
あたいは朝昼晩の三回、まいにち欠かさず神棚に祈りを捧げてるけどぉ~、でも姿を見せてくれないもぉ~ん。
全然ちんぽ迎えに来ないじゃ~んw」
「御姿を思い浮かべようにも、ボンヤリして像が結ばない。
ちんぽ見たこと無いから……、ハッキリ思い描くことが出来ない……。
時折、私たちは無駄な事をしているのでは? という虚しさが胸をよぎる」
4人はいつものように、「わーわー!」と騒ぐ。
ブルーとピンクが所属する“ちんぽある派”と、イエロー&ブラックを擁する“ちんぽ無い派”のふたつに別れて、壮絶な議論を繰り広げるのが、彼女たちの日常であった。
ここメスガキ署には、沢山の事務員たちがいるが、主にこの4人のメスガキポリスが主力となって、運営されている。
ひどく
事務仕事や法律の知識のみならず、それぞれが高い身体能力を有しており、車や銃の扱いだってお手のもの。
彼女たちは今日もメスガキシティの平和のため、10秒に一回くらい「ちんぽ」と口走りながら、頑張っているのだ。
「じゃあいいわよっ!
もしちんぽ見つけても、絶対あんたらには教えたげないし!」
「ちょ……!? ずるくなぁ~い?
あたいだってちんぽ欲しいんだけどぉ~。願ってやまないんですけどぉ~w」
「ちんぽ教えるべき。ちんぽ独占禁止法に抵触」
「メスガキけんぽー、だい23じょーだねっ♡
ちんぽをはっけんしたばあい~、げんじゅーかつ、すみやかにほごしぃ~…………って、あれぇ?」
デスクの上に胡坐をかいたり、あっつぅ~とか言いながらパンツ丸出しでスカートをパタパタしたり。
そんな女子高のような光景を繰り広げつつ、4人で楽しくダベっていた時……とつぜんメスガキピンクが「きょとん?」とした顔になる。
「ん? どーしたのよピンク、なんかあった?」
「えっと……ブルーちゃん、あれなんだろぅ?
あっちにおおきな
メスガキピンクが指を指した方向に、みんなが顔を向ける。
そちらには事務所の出入口があり、いま誰かがドアを開け、ゆっくりとこちらへ歩いてくるのが見えた。
なにやら見慣れない、女の子からしたら熊のように大きく思えるような、ある人物の姿が。
「ごめんね? つき合わせちゃって。
いちおうトージ者ってことで、おじさんにも話を聞かなきゃだからさ♥」
「構わない。気にせんでくれ」
「「「 !?!?!? 」」」
その瞬間――――メスガキ署の所内に「きゃあぁぁーーッッ☆☆☆」という叫びが木霊した。
まるで爆発したみたいに。
「あー、おほんっ! みんなセーシュクにね~っ!
この人は、今日メスガキシティにやって来た、お客さんなの♥
ちょーっとじけんに巻きこまれちゃってぇ、ちょうしょを取るためにおこし頂いたのよー。
だいじょーぶだから、みんな仕事にもどって! ほら早く早くっ!」
胡坐をかいていた足を閉じたり、バッとスカートを押えたり、コンパクトを取り出して化粧を直し始めたりと、そこら中で乙女心が吹き荒れる。
とつぜん目の前に現れた、生まれて初めて見る男性の姿に、みんなもう気が気ではない。
いくらここのトップであるメスガキ刑事が諫めようとも、焼け石に水。みんなソワソワしぱなっしだ。仕事なんか手につくものか。
「おはよ、4人ともっ♪
いま手があいてる子はいる?」
「ぼ……ボス?!
いやっ、みんな空いてるケド……」
ブルーが目をひん剥きながら答え、ほかの3人もこくこく。
だがその視線は、ずっとランボーから外される事はない。
もう穴が空いちゃうくらいガン見している。
「その人はっ! あのっ……、いわゆる?」
「ええ、
彼はジョン・ランボー。とびっきりのタフガイなの♥」
おぉ!! と事務所内が沸く。みんな仕事もそっちのけで、キャー☆ と歓声を上げる。
あと「ありがたや、ありがたや」と拝みだす者や、「あの言い伝えはまことじゃった……」とホロホロ涙する者まで、その反応は様々。
――――これがッ! あのッ! 夢にまで見たッ! 伝説のッ!!!!
そうメスガキポリスの4人は、〈ピキーン!〉と身体を硬直させている。もう言葉も出ない。
「んじゃま、わるいけどあんた達、おじさんを“おーせつ室”にあんないしてもらえる?
アタシ書類とか作らなきゃだし、しばらくのあいだ、彼のお相手してあげて。
くれぐれも失礼のないようにね? だいじなお客さまだから♥」
「りょりょ……了解よボスっ!」
「は、はい~っ!」
ブルーとピンクの二人が、もうアワアワしながら返事する。
その足はガクガクと震え、だいぶ声が上擦っていた。未だ動揺から立ち直れない様子だ。
しかし……。
「……ん、君は?」
いまランボーの方に、メスガキブラックがてててと近寄って来る。
彼女は綺麗な黒髪を揺らしながら歩き、彼のすぐ目の前でピタッと止まって、その顔をじぃ~っと見つめる。
まっすぐ、感情の伺えない、無垢な瞳で。
「ちらっ」
「――――ッ!!??」
パサッと音を立てて、おもむろに
メスガキブラックはコテンと小首をかしげつつ、何故かランボーにぱんつを見せたのだ。
突然、なんの脈絡も無く――――
彼はびっくりしすぎて、また「ふ゛お゛っ!(cvささ〇いさお)」的な声が出た。
「どう?」
「なッ……! ッ!?!?」
思わず後ずさる。
それを他所に、ブラックちゃんは「きょとん?」って感じの、とても無垢な顔。
まるで算数の答えを先生に告げる時みたく、「これでいいですか? あってますか?」と、ランボーに訊いているかのような。
「おじさぁ~ん、ちんぽ勃ったぁ~?w
ちっちゃい女の子の白パンだよぉ~☆ リボンが超カワイイっしょ~?」
そして、メスガキイエローが彼の腰にピトッとしなだれ*1、猫なで声で甘える。
「あたい~、ちんぽ勃ってるとこ見たいなぁ~☆
ねーいいでしょ~、おじさぁ~ん?
幼女でぼっきしちゃう、変態ロリコンちんぽ、あたいに見せてぇ~♥」
イエローちゃんの手がヘビのように動き、サワサワとランボーをまさぐり始める。
右手は、彼の逞しい胸板に。もう片方の手は、彼のキュッと引き締まった尻にのびる。
「ざぁ~こ♥ ざぁ~こ♥ ざこちんぽ♥
ダメなのに勃っちゃう! くやしいのうw くやしいのうw
でもいーよ☆ 別にぼっきしてもぉ~♪
ぜーんぶあたいが受け止めて あ げ る ♥♥♥」
愛おし気に身体をまさぐり、こちらに体重を預けてくる少女の体温――――
そしてすぐ目の前には、自分でスカートをたくし上げている、無垢な女の子の姿――――
その両方が、彼には理解の及ばない物。
いったい彼女たちは、何をしているのか? それが分からず、ただただ身体を硬直させるばかり。
ランボーの額から、一筋の汗が流れる。
何故か、身体が震える。危機を知らせるサイレンが、絶え間なく頭の中で鳴る。
相手は……、この場にいるのは、こんなにも幼い少女ばかりだというのに。
たとえば、痛みを伴う拷問であれば、散々ベトナムで経験した。
自分はグリーン・ベレー出身だし、当然ながら“苦痛に耐える訓練”も受けている。
どれだけ辛く、身体が傷付こうとも、最後まで耐えきる自信がある。決して根を上げる事はないだろう。
けれど……
いったい何をされているのか、自分がどうされるのかが分からず、心底恐ろしい。
苦痛など関係ない。
身体的だろうが、精神的だろうが、痛みは怖くないのだ。
けれどランボーは、今なにか得体の知れぬ、
――――このままでは、喰われる。
こんなちいさな女の子達に、何をどうされるのかなど、皆目見当が付かないのだが。
倒される気も、負ける気も、当然ながら全くしないのだが。
でもなんか“喰われる”という表現が、妙にしっくりくるような……、そんな耐え難い敗北を喫するという、確固たる予感がある。
これから俺えらい事になっちまうぞ、と直感。
妖艶な雰囲気を醸し出す、二人の幼い少女――――
ギラギラと熱っぽい目でこちらを見つめている、沢山の女の子達――――
そして、この異常な雰囲気の空間――――
彼の脳裏に、自分が猛獣の入った檻に閉じ込められ、それを沢山の観客達に見つめられているという情景が浮かぶ。
今の状況が、それにそっくりに思えてならない。
サバンナの草食動物にでも、なったような気分。
ここにきて、ランボーは初めて思い知ったのだ。
これが少女ッ!
これが女の子ッ!!
これがメスガキッ!!!!
其は捕食者也――――決して抗うこと
「はいは~い! とっとと言われたとーりにやるぅ!!
まったくアンタたちはぁ~!」
ゴイン☆ という音が二回鳴り、ブラックとイエローが「ぎゃーん!」と声を上げる。
二人とも涙目になり、クシクシと頭を押さえて蹲った。
いまメスガキ刑事が、トンファー型の警棒で、かる~く二人を叩いたのだった。
成敗ッ☆ って感じで。
「早くあんないして、お茶でも出してやって。
さっきは大変だったし、少し休ませてあげたいのよ。
テンション上がっちゃうのはわかるけど、だいじなお客さまだ~って言ったでしょ?」
「……あい」
「……ふぁい」
しゅんと項垂れる二人を尻目に、デカちゃんがパチッ☆ とウインク。ランボーに微笑みかける。
まさに地獄に仏。ランボーは心から感謝を抱く。
彼女はなんて良い子なんだと感動。
「あっ、なんなら仮眠室とかもあるよぉ♥
もしひと眠りしたいんなら、そっちの方にあんないさせるけどぉ。おじさんどーするぅ?」
これまで長旅をし、そして先ほどゾンビ映画めいたトラブルに遭ってしまった彼を、メスガキ刑事が気遣う。
遠慮しないでいーよ☆ と微笑む顔が、彼には本物の天使のように見えた。
心が癒される。
「いや、大丈夫だよ。
それより早く、調書というヤツを頼む。
日が暮れる前に、この町を出たいんだ。
暗くなると、野営の準備が出来なくなる」
そう朗らかに、言葉を返す。
少女の心遣いに感謝し、自分に出来る限りの笑みを贈ったつもりだ。
しかし……。
「――――は? なに言ってるのおじさん。本気で言ってる?」
突然、目の色が変わる。
さっきまでの柔らかな笑みは、もう無い。
メスガキ刑事が、スッとハイライトの消えた瞳で、まっすぐにランボーを見る。
「この町から出るだなんて、なに考えてんの?
おじさんの心臓が動いてる内は、
――――ピキリ! と空気が凍る。
メスガキ刑事の射殺すような眼差しが、物理的な力すら伴い、ランボーの身体の動きを止める。
女の子の圧力……いや
「 当然じゃん。逃がすワケないじゃん。
なんで逃げられると思うの??? 」
「 言ったよねー?
いっしょに保安官やろうーって。ずっといっしょにいるーって。
お家賃いくらですかーって 」
「 おじさん、ちゃんと聞いてなかったの……?
女の子とのお話を、聞き流してたの……???
あらら。悪い人ねぇ――――おじさんは 」
メイデイ! メイデイ! メイデイ!
こちらローンウルフ!
今すぐ救援と砲撃支援を求む! 持ちこたえられんッ!!
そんな通信が、ランボーの頭の中で響く。
助けてくれ! ここは死地だ! いつの間にか地獄に迷い込んじまったッ!
ちきしょう! 俺の戦争はまだ続いているというのか! もう戦場はたくさんだクソッタレ!
そうランボーは、半泣きで空を見上げ、手榴弾のピンを抜いて自害する~、というパントマイムを無意識におこなっていたのだが……。
「なーんちゃって!
ごめんごめんおじさん♪ ジョーダンよ♥」
突然、打って変わって満面の笑みを浮かべたメスガキ刑事が、「てへっ♪」と舌を出す。
「おどろいたぁ? アタシ前は劇団にいたし、ちょっとしたモンだったでしょ♪
女はみんな女優なのよ? お、じ、さ、ん♥」
「そ、そうか……」
迫真の演技。まるで人が変わってしまったような、狂気を感じる雰囲気。
それをパッと脱ぎ捨てたメスガキ刑事が、気を取り直して部下に指示を出す。
先ほどまで震え上がり、顔面蒼白となっていたメスガキポリスたちが、止まっていた時が動き出したかのように、そそくさとランボーの手を引く。
「まぁ、いっしょに保安官やろうってゆーのは、はんぶん本気よ?
元兵士のおじさんなら申し分ないし、きっとみんなの人気者になれるわっ!
無理にとは言わないケド、頭のかたすみにでも置いててね♪ おねがい♥」
それじゃ、また後でねぇ~。アタシも終わったら行くから~♪
4人と共にエレベーターに乗り込んだランボーを、フリフリと手を振って見送る。
彼女らしい、あたたかな笑み、優しい表情に、ランボーはほっと胸を撫でおろす。
さっきのは演技だ……俺の考えすぎだ。
そう自分に言い聞かせ、すぐに平常心を取り戻すことに成功。
流石はベトナムの英雄であった。
「お前がパパになるんだよ――――」
扉が閉まる瞬間、彼女がボソッとなにか呟いた。