結局、戦争はなくならなかった。
でも、変化はあった。
―――超大型兵器オブジェクト。
それが、戦争の全てを変えた。

この物語は、そんな苛烈な時代を生きる青年たちの、数々の伝説の内の一つ。
『オブジェクト・セレモニー』で巻き起こる、国家規模の陰謀を止める奔走劇。

【宣伝】
「Uncharted_Bible」
「RED's_Right」
「敵役なりのジンテーゼ -Kihara-」
「魔神とホワイトデーと『私』」
「Am_I_me...?」
「朝起きたら人生勝ち組エリートコースだった俺が通りますよ」
「雷神伝 ~常戦飢闘のルサンチマン~」
「インテリビレッジの座敷童 ~フェイト・ロンダリング~」

も読んで頂けると嬉しいです。

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ヘヴィーオブジェクトの二次創作小説です。1話完結の短編です。

感想・評価など、気軽にお願いします。

※pixivにて、同じ白滝という名前でマルチ投稿しています。


ヘヴィーオブジェクト ~新時代の大名行列~

 結局、戦争はなくならなかった。

 でも、変化はあった。

 ―――超大型兵器オブジェクト。

 それが、戦争の全てを変えた。

 

 

 

     1

 

 

 結局、戦争なんてものはオブジェクトとオブジェクトの戦いだ。

 生身の身体でちっぽけなライフルを後生大事に抱えたところで、どうにかなるものではない。

 一万、一〇万の兵が集まったところで、戦車や戦闘機を山ほど用意したところで、あの五〇メートル級の化け物は悠々と雑兵達を蹴散らしていく。ものによっては核兵器が一発二発直撃しても動き回るというのだから、もう真面目に戦おうとするのも馬鹿馬鹿しく思えてくるだろう。

 だから、主役なんてオブジェクトに任せてしまえば良い。

 主役なんて面倒臭い役割は化け物に押し付けおいて、脇役はそれをのんびり眺めていれば良いのだ。

「いい時代になったよな、ホント。……ふわぁぁぁ~~」

 そう呟いた戦地派遣留学生、クウェンサー=バーボタージュは、欠伸を噛み殺しながらぐぐぐっと身体を伸ばした。

「『クリーンな時代のクリーンな戦争』に万歳、ってやつだね。おかげで、俺達兵士は現場で汗水垂らして死ぬ思いなんてしなくても、ぜーんぶオブジェクトが代わりに戦ってくれるもんな」

「だな。俺様のように、軍歴に箔をつけたい貴族にとってもいい世の中になったもんだ」

 そう言ったのは、クウェンサーの隣に立つ軍人だった。

 ヘイヴィア=ウィンチェル。

 有名貴族『ウィンチェル家』の嫡男であり、現在は武勲を立てるためにレーダー分析官として軍に属している。

 彼は続けて言う。

「オブジェクトっつう大戦力を前にしたら、『国連崩壊』前の旧世代兵器じゃ勝ち目なんてねぇぜ。今じゃあ、戦争は全部オブジェクト同士のバトル。どっちかのオブジェクトが破損して、負けた側が領土を明け渡し『白旗』を上げればそれで戦争は終了。血も涙もいらない安全で死人ゼロの平和な戦争だ」

「俺達兵士はオブジェクトの整備だけに専念し、あとはパイロット『エリート』が戦場まで出張して頑張ってきてくれる。いいもんだねぇ」

「だからこそ、戦場じゃない場所に出張させられてる場合の俺らの現在に任務について、こう思っちまう訳だ」

 そこでヘイヴィアは一息つき、言葉を区切った。

 クウェンサーとヘイヴィアが、同時に大きく息を吸った。

 そして、一声、

 

 

 

「「面倒臭ェぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッ!!!!!」」

 

 

 

「『安全国』に来た方が仕事多いよ!!バカスカバカスカ砲撃だらけの実際の戦場よりも、ただの護衛任務の方が仕事多いよ!!」

「戦場ならオブジェクトに乗ったお姫様がぜーんぶやってくれるから何もせず待ってりゃ済む。だけど、護衛任務は俺ら歩兵がクーラーきいたベースゾーンからお外に出なきゃいけないじゃん!!炎天下の中ッッ!!ファッキュー!!俺、貴族よ?神様は舐めてんの?」

『うるさいな馬鹿共!!警備に集中しろ!!』

 二人の叫び声に無線機で返答したのが、フローレイティア=カピストラーノ。

 階級は少佐。そして、彼らが所属する第三七機動整備大隊の上官であり、全権を担う指揮官でもある。

「いやいや、ちょっと待って下さいよ、フローレイティアさん!!なんで俺達こんな事しなきゃいけないんですか?」

「警備してやらなきゃいけない連中って、同じ『正統王国』とはいえ、俺ら第三七機動整備大隊とは関係ないじゃねぇか、爆乳女!!」

『そのクソ生意気な減らず口を慎め。誰のせいで私達がこんな任務をやらされる事になったと思ってる』

「はいはいはい!!どうせ俺達のせいですよーだ!!怪物兵器を相手に生身で奮闘!!得られた成果は、ちっとばかしの自己満足と問題児のレッテル!!そんでもって、こーんな雑用をやらされる訳ね!!……っつか、恨むんなら俺じゃなくて、いつも一人で突っ走るナイト気取りの馬鹿だけにしてくれよ」

「あ、てめ、ヘイヴィア!!自分だけ助かる気だなこの野郎!!さっき屋台でパチンコ台をハックして、確変してやった恩を忘れたのか!!」

「あ?違ぇだろそりゃ!!てめぇがパチンコ台に工作仕掛けてる間、屋台のオヤジの注目をひたすら引きつけてた俺様の交渉術のおかげだろ!!そもそも、七が三つ揃わなかったじゃねぇかアホ」

「なんだとォ、脳筋ッッ!!」

「やんのかァ、インテリッッ!!」

『どこに行っても元気だなぁ、お前達は……』

 そう言って、喧嘩を始めた二人に対して、フローレイティアは無線機越しでも分かるような大きな溜め息をついた。

『……お祭り気分を楽しむのは構わんが、セレモニーが始まったらしっかりゲスト様の「エリート」を警備するんだぞ』

「……ぐ、ぎぎぎ、わ、わがりまじだ」

 ヘイヴィアの足払いで華麗に宙を舞い、そのまま関節を決められたクウェンサーが情けない声を漏らす。

 クウェンサーに八の字固めという軍隊格闘術なんて全く関係ないただのプロレス技をかけ、クウェンサーの悲鳴(音色)を聞きつつ、ヘイヴィアはふと空を見上げた。

「お祭り、ねぇ……」

 何度も何度も打ち上がる祝砲。

 民衆の熱気。

 パレードのやかましい音楽。

 フロリダの海岸をまるでバリケードで囲うかのように、野営テントの一群が海岸一帯に敷き詰められていた。数十キロに渡って広がる屋台には、現地人のみならず、多彩な人種が入り混じる巨大なお祭騒ぎとなっていた。

 国連の崩壊後に、世界地図を新たに色分けする四つの勢力、『正統王国』『資本企業』『情報同盟』『信心組織』。それぞれに野営テントを構える位置がまとまっているとはいえ、お祭り気分の観客は、各々の屋台を見物しながら雑多に入り乱れている。

 クウェンサーとヘイヴィアは、そんな野営テントの一群の中で、『正統王国』の仮整備基地として設置されたテントの下にいた。

「ったく、『安全国』の連中は暇な事を考えるよな」

「痛ででででででででッッ!?放せ、ヘイヴィア!!ギブギブギブ!!」

 目に涙を浮かべるクウェンサーにお構いなく、

「『情報同盟』が主催で開く『国際軍事開発工学・新オブジェクト応用技術博覧会』……通称、オブジェクト・セレモニー。俺達『正統王国』だけじゃなく、『資本企業』や『信心組織』まで参加ってなると、やっぱ規模がすげーよなぁ」

「痛だだだだッッ!!……『クリーンな戦争』のイメージ戦略の一環でしょ。『旧時代の方針で開発をしない事を世界に広報する場』って位置付けだし」

「だからって、国連が崩壊してバラバラになった各勢力が、揃いも揃って自分のオブジェクトの情報を晒し合うなんて正気の沙汰とは思えないぜ。現代の戦争はオブジェクトで決まる。だからこそ、オブジェクトの情報は貴重だ。戦う前から自分の弱点を教えちまうようなもんだろ」

「もちろん、そんなことはどこのせいりょくもかんがえているでしょう。きづかれない形で『手を抜いて』いるのよ」

 そう口を挟んだ声の主は、クウェンサー達の背後、テントの奥にいた。簡易肘掛け椅子に腰を下ろした、一四歳くらいの少女だった。

「……えぇと、名前はなんていうんでしたっけ?」

 無線越しに黙って会話を聞き流していたフローレイティアが、ガクリと椅子から転げ落ちるような音を響かせた。

『作戦前会議ブリーフィングで一体何を聞いていたんだ、お前らは……彼女はニーナ=ペッツェリン。私達第三七機動整備大隊が預かり、警護する事になったセレモニー用オブジェクトの操縦士エリートよ』

「つかえないぶかね。オブジェクトをうごかせるかず少ないエリートなんだから、もっとていちょうにあつかってちょうだい。『耐G調整』や『演算処理速度』とか、とうやくでからだをかいはつしているわたしたちに、替えがきかないのはわかっているでしょう?」

「ヘイヴィア!いい加減腕を放して!!……ふう。エリートが貴重の存在だってことくらい分かってるよ。うちのお姫様だって、オブジェクト本体と同じくらい厳重にメンテナンスを日々受けてるし。……で、その『手抜き』っていうのはどういう意味なの?」

「なにもしらないのね。おろかだわ」

 そう言って、ニーナはふふっと笑った。

 自他ともに認める和風マニアのフローレイティアが、無線機から面倒臭そうに返答を返してくる。

『「島国」で昔行われていた、江戸時代の「参勤交代」って制度を知ってるかしら?』

「あぁ、それ知ってる」

 と答えたのはクウェンサーだった。雑学馬鹿め、とヘイヴィアが悪態をつく。

「『島国』の各土地を支配する大名を、わざわざ首都『エド』に参拝させるって制度ですよね。そうする事で各大名に財政的な負担をかけさせ、政府に反旗を翻す力を削ぎ落す、っていう」

『このオブジェクト・セレモニーもその一環よ。敵に情報を知られるオブジェクトを作るなんて、わざわざ金をドブに捨てるようなもの。他勢力にそれを強いる事で、「情報同盟」は財力と情報を削り取る魂胆なのよ』

「じょうしはゆうしゅうなようね」

 笑いながらニーナはそう呟き、屋台で買ったであろうフランクフルトにかじりつく。

「じゃあ、『クリーンな戦争』のためのイメージ戦略ってのはただの建前で、実際は『情報同盟』が仕組んだ新時代の参勤交代制度って事なのか。……だからこそ、金と情報を温存するために『手抜き』をするって訳ね。なるほど」

「なーに納得した気になってんだ、優等生。じゃあ、こんなのわざわざ参加する意味ねぇじゃねーかよ!!なんで『資本企業』も『信心組織』も馬鹿正直に参加してやがんだ?デメリットしかないだろ」

「ぶかはまぬけらしいわ」

 ブチリ、とこめかみをピクピクひくつかせるヘイヴィアを後ろから羽交い絞めにし、クウェンサーは、

「多分、強制圧力ってやつじゃないかな?現代の戦争はオブジェクト同士で決まる、流血のないクリーンな戦争。それがスローガンだ。明記されていないとはいえ、実質的にはもはや国際条約みたいなもんだよ。……そう謳うセレモニーに、『参加したくない』って言い出す勢力が現れたらどうなると思う?」

「……ハブられて、クラスのイジメられっ子になるとか?」

『……まぁ、ニュアンス的にはそういう解釈でもいい。ただし、そのスケールはちっぽけな教室一部屋ではなく、地球という世界規模になるが』

「参加しないって事は、『旧時代の戦争を支持してる』と世界の大衆に捉えられかねない。実際には機密を知られたくないって思いなだけなのに、軍事情を知らない民間人には『旧時代の戦争を起こす気だ』という風に映ってしまうんだよ。だから、参加せざるをえない。参加したくなくても、誤ったレッテルを張られて世界勢力の『クリーンな戦争』の枠組みから弾かれたら、貿易も外交も一気に不利になる。そうしたらもう、不況どころかデフレとか起きちゃって国がお終いだ」

「だから、嫌でも参加するしかないって訳かよ。……けっ、『情報同盟』らしいセコイ真似しやがるぜ。じゃあ、どれだけ『手抜きできるか』がこのセレモニーの重要なポイントになるな!!コスト削減!!情報の温存!!」

「さっきわたしがそう言ったでしょう?そのおとこは、ほんとうにサルからしんかできているのかしら?」

 ムッキャァァァぁぁぁあああああ!!と。

 猿のような金切り声を上げてニーナに掴みかかろうとしたヘイヴィアが、第三七機動整備大隊の皆に抑え込まれたのだった。

 平穏な日常だろうが戦火飛び交う命のやり取りの中だろうが、問題児はどこまでいっても問題児なのだった。

 

 

 

     2

 

 

 五〇メートル級のオブジェクトはさすがに市街地でパレードを行えないため、海上でセレモニーを行う。そこで、走行やら主砲の試射やらの凱旋が行われ、セレモニーは終了となる。そのため、開始前の各勢力のセレモニー用オブジェクトは、海上に待機させられていた。

 海上に鎮座する四機のオブジェクトが並列する、そのさらに一〇キロほど沖合。

 そこに、さらに四機のオブジェクトがあった。自軍のセレモニー用オブジェクトを警護するために派遣されている、それぞれの勢力が保有するオブジェクトだ。

 セレモニー用とは異なり、こちらは正真正銘の『本物』のオブジェクトだ。勝つため、壊すため、潰すために特化した、戦闘のためのオブジェクト。

 そんな四機のオブジェクトの中の一つ、『正統王国』のベイビーマグナムにミリンダ=ブランティーニは搭乗していた。

 彼女が所属する第三七機動整備大隊において、兵士達から『お姫様』と呼ばれる少女である。無線機によって部隊の会話聞き、クウェンサーとヘイヴィアの馬鹿騒ぎにちょうどほくそ笑んでいた、その時だった。

『おほほ。オセアニア軍事国いらいですわね、「正統王国」ぐんのどろくさいエリートさん』

「……だれ?おぼえてないんだけど?」

 ミリンダの無線に割り込みをかけてきた人物がいた。

 いや、正確には彼女の知り合いだった。過去に一度、共同戦線を張った事のある『情報同盟』の搭乗者エリートである。

『あらぁ、いまだにあの「とのがた」に言いよれないまけいぬにむけて、せっかくアドバイスをしてあげようと思ったのに。おほほ』

「……うっとしい。アンタたち『情報同盟』がひらいたこんなめんどうなセレモニーのおかげで、せかいの四分の三がめいわくしてる。とっとひれ伏してあやまれ」

『おほほ!さすがはやばんな「正統王国」ぐんのおさるさん。口からでることばも品のないもんばかりですわね』

「だ!!ま!!れッッ!!」

 ぶつん!と、一方的に無線を切った。

 腹が立って、七門ある主砲のレバーに思わず指がかかったが、冷静に自分を落ち着かせる。ここで攻撃したら最期、他勢力のオブジェクト三機を敵に回す事になってしまう。

 おまけに、『資本企業』も『情報同盟』も『信心組織』も、警護についているオブジェクトは皆、揃いも揃って第二世代のオブジェクトだった。

 ミリンダの搭乗しているベイビーマグナムが『旧世代の兵器との戦闘』を前提として設計された第一世代のオブジェクトであるのに対し、警護に当たっている他勢力のオブジェクトはみな『敵オブジェクトの破壊』に特化して設計されている第二世代のオブジェクトだ。ただでさえ勝ち目の薄い勝負を、さらに厳しいものにしてしまっている。

 苛立つ気持ちは、座席シートの横に置いてあるネズミのぬいぐるみを殴る事で憂さ晴らしする。

(はやくセレモニーが終わって、クウェンサーとやたいをめぐったりしたいなぁ……)

 

 

 

     3

 

 

「うっひょー、壮観だねぇ。見ろよクウェンサー!!オブジェクトがあんなにいっぱい並んでるぜ!!」

「あー……そうだねー……」

 小型船の上で、やる気なく手すりにうなだれたクウェンサーが適当な相槌を返す。波風から守られる快適な操舵室は、ニーナによって独占されていた。よって、第三七機動整備大隊のクウェンサー達は操舵室の外で、振り落されないように手すりにしがみつくしかないのだった。

 クウェンサー達『正統王国』と同じように、いくつも海上に鎮座している各勢力のセレモニー用オブジェクトへ向けて、それぞれの搭乗者エリートが護衛達と共に小型船で運ばれていく。

「なぁ、いくら沖合でお姫様たちが監視してくれてるとはいえ、こんな武装の薄い乗り物でエリートを運んでて大丈夫かよ?急に襲われたりしねぇか?」

「あー……うーん……他勢力の前で、まさか自分だけがマナーを乱すような真似はしないんじゃなーい?……他勢力に攻撃される建前を与えちゃうだけじゃーん。一対三で、自分が不利になるだけだよー……」

「……なぁ、お前なんでそんなテンション低い訳?いつものお前なら、オブジェクトだらけのこういうシチュエーションは、気持ち悪いぐらい興奮するはずじゃん」

 すると、はぁ~~~~と、クウェンサーはさらに大きな溜め息をついた。

「だってさー……あそこのセレモニー用オブジェクトを見てみろよ?」

 んぁ?と、ヘイヴィアが双眼鏡を取り出し、『情報同盟』のオブジェクトを眺めた。

「あれが何?」

「『情報同盟』のあのオブジェクト、この間うちの諜報部門が必死になって掴んだばっかの第二世代だよ。大方、俺らに情報を掴まれたからこのセレモニーで使い捨てちゃおうって魂胆なんだろうさ。そうすりゃ、ヤツらは情報の損失は最低限に抑えられる。おまけに、新たにオブジェクトを開発する資金は必要なくなる。思い切った判断だけど、一石二鳥だ」

 さらに、とクウェンサーは双眼鏡を引っ張って、ヘイヴィアの視線を『資本企業』のオブジェクトに向けさせる。

「あれ、多分この間に破損したばっかの第一世代だよ。修理してもどうせ他勢力の第二世代相手じゃ負けるから、在庫処分の感覚でセレモニーに参加させたんだと思う。外装を換装しただけで、多分、オブジェクトを走らせる程度が限界の『〇・五世代』にすら劣る破損品だよ」

 んで、と、クウェンサーは隣の『信心組織』のオブジェクトに双眼鏡を向ける。

「『信心組織』のオブジェクトは毎回、神話をモチーフにしたモデリングにするらしいんだ。……モデリングだけをね。主砲も副砲も推進方式も毎回同じ。でも、ヤツらは『大神官が祈りを捧げた大変ありがたい兵装』とかなんとかで満足しちゃうらしい。適当な安物でデコレーションして『大天使の加護を受けた砲門です』とか出まかせ言っとけば、簡単に『手抜き』ができるんじゃない?っていうか、現に今そうなってる」

 話を聞いてげんなりとし始めたヘイヴィアは、最後に『正統王国』の自分達のオブジェクトを見て、さらにげんなりと気分を落とした。

 そんな二人の様子を操舵室の窓から見下ろしていたニーナが、無線の信号を飛ばしてきた。

『わたしのオブジェクトが目についたようね。どう、すばらしいでしょう?』

 そう、堂々と語られたオブジェクトを目の当たりにしたクウェンサーの感想は、

 

「――――いくらなんでも派手すぎでしょ……」

 

 そう。

 メインカラーリングはシルバー。これに、ゴールドのフレームできっちりと枠組みされており、さながら西洋騎士の甲冑のような印象を与えてくる。

 いや、外観の派手さだけなら問題ない。他勢力も同等に『外観だけ』は力を入れている。

 問題はそこではない。

 ヘイヴィアは、野営テント群の中で配られていたパレードのカタログに目を移した。

 

『   【ナイトプライド】 Knight Pride

 

       全長…60メートル(主砲最大展開時)

     最高時速…時速550キロ

       装甲…1センチ厚×1000層(溶接など不純物含む)

       用途…対オブジェクト用駆逐兵器

       分類…海上戦特化型第二世代

      運用者…正統王国(専用エリート)

       仕様…エアクッション式推進システム+姿勢制御用エアクッションサイドアーム×60

       主砲…超音波式水流放射装置

       副砲…レールガン、コイルガンなど

   コードネーム…騎士道精神:主砲を切断し装甲へほとんどダメージを与えず、敵に『白

                旗』を上げさせる事がコンセプトのため

メインカラーリング…シルバー、ゴールド

                                         』

 

「――――力入れ過ぎじゃねッッ!!??何お前!!さっき自分で『手抜きが大事だ』的な感じの偉そうなウンチクかましてきたじゃん!!自分のオブジェクトを鏡で見てみろ!!とんだ金の無駄遣いだぜッッ!!」

『なんてなさけないことを言うのかしら。「手を抜いて」いるふぬけどもの前で、わたしたちだけがあっとうてきな力をアピールできるでしょう?わたしにふさわしいぶたいじゃない』

「な、ヘイヴィア。ちょっと期待すれば、すぐこれだよもう。『正統王国』のこういう無駄に見栄を張りたがる気質はホントやめて欲しい……君主議会や評議会の老いぼれジジイ共はそれで満足かもしれないけど、現場で苦労するのは俺達なんだって……はぁぁぁぁああああああああああーーーーー…………」

『まったく、なさけないへいしね。まもなくセレモニーのはじまりよ。きあいをみせなさい』

 高飛車なニーナにはどんな悪態も効果がないらしい。仕方なく愚痴を開く口を休ませた二人だったが、そこで、今度はカタログに目を移したクウェンサーが疑問の表情を浮かべた。

「運用者って項目に『専用エリート』ってあるね。他勢力のオブジェクトはみんな即席の『代理エリート』って記載されてるけど、なんでうちの『正統王国』だけは専用エリートを用意してるんだろ?」

「だからよぉ、騎士道精神に溢れすぎて頭のネジが飛んじまった老いぼれジジイ共が、こんな手の内バレバレなオブジェクトを実際の戦争にも流用しようとしてるからだろ?」

「いや、『安全国』の民衆向けのカタログならそう紹介しとけばいいんだろうけどさ……本物のエリートを用意するのって、いくら見栄を張りたいからって無駄な労力だろ?」

 そう言って、クウェンサーは後ろを振り返り、操舵室の窓から陽気に顔を覗かせているニーナへ向けて無線で話しかける。

「君主議会や評議会の老いぼれジジイ共が、セレモニー用オブジェクトに力を入れるのは分かる。やたらプライドの高い『正統王国』流なんだろうさ。でも、エリートまで本物を用意する必要はない。だって、『安全国』の民衆はエリートの違いなんて判別できないから!オブジェクトの性能ならば、パレードの凱旋で行われる主砲の試射やら走行試験やらでなんとなく確認できる。でも、エリートの違いなんて見た目で分かる訳ないだろう?そんなの、軍人である俺らにだって分からないさ」

『……いい点にきづきましたね。そこのおさるさんとちがって、あなたはゆうしゅうなようだわ』

 ヘイヴィアが無言で背中に背負うアサルトライフルを担ぎ出し、スコープでニーナに狙いをつけ始めたので、クウェンサーが慌ててカタログ用紙を丸めてスパーン!!と頭を引っ叩いた。

 その勢いで、ヘイヴィアが船から転げ落ちた。適当に縄を結んだ浮き輪でも投げておく。小型といえど結構なスピードで海上を走ってるいるので、逆立つ波を頭から被り続け、浮き輪一つじゃ一般人なら呼吸もままならないだろう。

 でもまぁ、多分生きてるので放置した。

 ヘイヴィアの生死など気にも止めず、ニーナは会話を続ける。

『そう。なぜわたしが「労力を割く必要がない」エリートになっているのか?……レディのじじょうをせんさくするのはほんらいならぶさほうだとたしなめるのだけど、ひさびさにセンチメンタルな気分になったのでおしえてあげるわ』

 そう言って、ニーナはエリートが身に纏う特殊スーツのファスナーを開けた。

「な、なにィ!?昼間から女の子が無防備に胸元のファスナーを下ろしただとォ!??」

「ごがばぐばばばっっ!!クソ!!サービスシーンを独占するこの状況までテメェの計画通りって事かクウェンサー!!ごがっ、ばっ、あば!!ゲホッ、畜生!!早く浮き輪の縄を引っ張り上げやがれ!!」

「ぬおおおおおおおおおおおおーーーーッッ!!透き通るような白いお肌が汗でキラキラしてるー!!」

「クウェンサー、テメェマジでぶっ殺す今すぐケータイで録画して下さいッッ!!」

『……お前たちが今日まで「りせい」をたもちつづけてきたどりょくはひょうかしておくわ。わたしが見せたかったのは、これよ』

 ニーナが特殊スーツの下から取り出したのは、首から下げたロケットペンダントだった。チャームを開けると、ニーナを中心に男性と女性、それからニーナよりもさらに幼い男の子が映っている写真がはめ込まれていた。

「家族写真?」

『そうよ……亡命前の、「信心組織」のね』

 その瞬間。一拍だが、確かにクウェンサーの呼吸が止まっていた。

 他勢力からの亡命者。

 彼の所属する第三七機動整備大隊にも亡命者がいるが、それはオブジェクト開発の高い知識を持つ技術屋だったから、という稀有な背景がある。

 普通の亡命者は、そんな特例の待遇など受けられない。血統と名誉が重要視され、封建的な旧制度を復古させた『正統王国』ならば、亡命者への冷たい対応は尚更の事であった。社会でまともに仕事に就けるとは思えず、まして、まともな生活保護を受けられるはずがなかった。

 そんな少女の、行き着く先の予測がつく。彼の目の前にいる、という現状が全てを物語っていた。

 すなわち、身売り。

 『クリーンな戦場のクリーンな戦争』。

 そう謳われる現代の戦争だが、そこにはただ一人、平穏を享受する事のできない人間が存在する。

 オブジェクトのパイロット。『エリート』と呼ばれる搭乗者だ。

 平和ボケした無気力な兵隊の代わりとなり、ただ一人、エリートだけが戦場という矢面に立たされる。

 優に時速五〇〇キロを超えて高速挙動を取るオブジェクトの慣性Gに耐えうる身体の開発。様々な情報処理を統括するインターフェースに対応するための演算処理速度。テレビの特集に組まれるような「世界のどこかにいるビックリ人間」を、意図的に、人工的に、国家規模で開発する。

 そうして、ようやく作られるのがエリートだ。その人生に自由はなく、ストレス軽減といって過保護な体調管理に縛られる。病気になる事すら許されず、いずれ負けて使い捨てられるまで、エリートは戦い続けるのだ。

 平和のための人柱。

 たった一人の天才にすがり、彼ら『エリート』に主人公も脇役も悪役も、全ての配役を押し付けたのが現代の戦場という舞台だ。

 なりたくもない損な役回りを押し付けられたのだろう。もはや彼女に、祖国の家族と会う術はない。父親とも母親とも弟とも、奇蹟があっても出会う事はない。

「なんか、悪い事を聞いちゃったね……ごめん」

『べつにかまわないわ、わたしが自分からはなしたことだもの。それに、ひげきにどうじょうしてくれるかんきゃくがいるってのも、ありがたいものだわ。どうじょうすらしてもらえないひげきなんて、せかいにはいくらでもあるもの。わたしはこれでもこううんなほうよ』

 そう気丈に語り、ニーナは先程までと変わらない笑みを浮かべた。

「だぁぁぁぁああああああああああああらっしゃああああああああああいぃぃぃ!!自力で船の看板に上がったぜクウェンサァァぁぁああああああああああああ!!絶対絶命から窮地を脱するこの俺の圧倒的なヒーロー資質を見たか?これがナイトの器ってヤツだぜ!!」

「……空気をぶち壊しだよ。あれだよね。ヘイヴィアの勇姿ってさ、尺の都合で原作から活躍シーンをカットされる低予算ドラマの脇役みたいだよね。編集の段階で削られそう」

「こ!の!ク!ソ!野!郎ッッ!!ついに言ってはならない禁句をぬかしやがったな!!仲良しごっこもこれまでだぜ、クウェンサー!!いつもいつもおいしいトコばっかかっさらいやがって!!ふん、俺との間に友情なんてあると思うなよ、戦地派遣留学生!!」

「ヘタレて愚痴ばっかのお前に言われたくはないよ、不良貴族!!工兵を舐めてると痛い目をみるぞ、レーダー分析官!!」

「上等だこの野郎!!信管を刺す時間ぐらいはハンデとしてくれてやる!!構えろォ!!」

「そっちこそ!!ヘルメットを被った方がいいんじゃないの、ヘイヴィア?」

 馬鹿二人が喧嘩を始めた。

(せんじょうでみかたどうしのけんか……へいわなじだいになったものね)

 そんな様子を操舵室から眺めながら、クウェンサー達一行はようやく『ナイトプライド』の横に到着した。船を停泊させ、オブジェクトに梯子をかける。

「たのしかったわ。くだらないざつだんにつきあってくれてありがとう」

 梯子を登りながら、そう小さく呟いた。

 後ろで馬鹿騒ぎをしており、ちょうど同じ部隊の大男から二人まとめて海に突き落とされたクウェンサー達に、彼女の呟きが届く事はなかった。

 

 

 

     4

 

 

 野営テントに戻ってきた護衛達と同様に、クウェンサーとヘイヴィアもフロリダ海岸の屋台だらけの一群を散歩していた。あとはオブジェクトの凱旋が終わり、ニーナを再び迎えに行くまでは自由時間となる。

 パレードは既に始まっていた。

 主催者である『情報同盟』のお偉いさんが開会の辞を述べているが、『安全国』の観客はいちいち耳など傾けない。各勢力のオブジェクトの紹介をしているカタログを手に握り、「早くオブジェクトを動かせろ」という、サーカスのような熱気を見せていた。人垣だらけで視界を確保できないので、二人は時々その場でジャンプしながら海を眺めていた。

「凱旋の順番は、『情報同盟』、『資本企業』、『正統王国』、『信心組織』だってさ。あ、『情報同盟』のオブジェクトが動き出した!」

 隊列を成していた水平線上のオブジェクトの内、一機がこちらの海岸へ向けて走行を開始した。その様子を眺めながら、ヘイヴィアがカタログの紹介文と見比べる。

「海上戦特化型第二世代『ウェーブレット617』――――さすがの動きだな。あのオブジェクト、意図的に大波を起こして敵機のセンサー類の精査を狂わすらしいぜ。頼りは光学標準のみ、だとよ」

「うちの諜報部が掴んだ情報だとそれだけじゃないっぽいね。一瞬だけ潜水し、海面下から砲撃できるらしいよ。……なんて無駄機能。サーカスかよ」

 『ウェーブレット617』が、海上に浮かぶブイを目印にジグザグ走行を行う。その後、仮想敵と称されたハリボテの旗が海上に用意され、主砲であるレールガンの試射が行われた。

 息を呑み、静まり返る観衆。一拍の静寂。

 直後、目の眩む閃光が駆け抜けた。

 轟音。

 それは突風と共に遅れてやってきた。

 背筋が凍るような思いで、反射的に身を強張らせてしまう二人とは対照的に、『安全国』の民衆から歓声が巻き起こる。

「あんな布切れ一枚を撃ち抜いたって、威力なんて分かる訳ねーだろ。……軍人の俺らと『安全国』の民衆じゃあ、ここまで危機意識の反応が違うかね?」

「しょうがないでしょ。そういう風に思わせるためのイベントなんだし、それが現代の戦争ってやつさ。世直ししたいんなら、批評する前に政治家にでもなれば?」

 二人がそんな風に失望を露わにする間にも、オブジェクトの凱旋は続く。

 今度は『資本企業』の番だ。

 カタログを見ると、総合マルチロール型の第一世代『カリア』、とあった。

 並みの高速艇すら凌ぐ超スピード移動する様子に観衆が歓声を上げている。が、軍人であり、本物を目の当たりにしてきた彼らの目にはそう映らない。

「見ろよ。破損してるかもっていうお前の予測は当たってるっぽいぞ。さっきの『ウェーブレット617』の機動力に比べたら月とスッポンだぜ。こんな調子なら、主砲にも弾は二、三発しか入ってないんじゃねぇのか?」

「競馬じゃないんだし、予測が当たっても嬉しくないよ」

「え?パレ-ド前に観衆が投票して、MVPオブジェクトを予想する抽選会があるけど?俺は、我ら『正統王国』の第二世代『ナイトプライド』に票を入れたぜ。因みにレートは、投票数×一〇〇〇ドルだぜ」

「はァぁぁああああああ!!そんな賭けあるの!?なんで俺には教えてくれなかったのさ!!」

「だから言っただろう、優等生。お前にばっかおいしいところはやらん、となァ!!ハッハー、策士ヘイヴィアの前に咽び泣け!!ドゲザすれば賞金の一割をくれてやってもいいんだぜ?」

「人でなし!!この貧乏貴族!!金にガメつく銭浅りめっっ!!」

「貧乏貴族って言うなァ!!……しょうがねぇ、申込み用紙は余ってたからお前にくれてやるよ。今からでも急いで記入すれば間に合うかもな」

 そんな間にも、『カリア』の走行試験が終わる。海上に大きな旗が用意された。主砲の試射が行われる。

 『カリア』の砲撃の合図と共に、クウェンサーが抽選の受付テントへ走り出す――――

 

 

 ――――その、寸前だった。

 

 

 一拍早く轟音が突き抜けた。

 

 『正統王国』の『ナイトプライド』が、『資本企業』の『カリア』を撃ち抜いたのだ。

 

 

「「――――――――――――へ?」」

 

 熱気に包まれていた『安全国』の観客が、沈黙した。

 静まり返る海岸の一群に、破壊の音が淡々と響いた。

 黒煙が上り破損する『カリア』を前に、『ナイトプライド』はさらに副砲のレールガンで装甲を削り取りにかかる。

「……おい、攻撃してないか、あれ?」

 そう、観客の誰かが呟いた。

 それを引き金に、沈黙が決壊する。あとはさざ波のように悲鳴が連鎖した。

「『正統王国』が『資本企業』を攻撃したぞ!!」

「どういう事だ!!どうなってるんだ!!」

「戦争だ!ここで戦争を始める気なんだ!!」

「国際法違反だ!!主催者の『情報同盟』に連絡しろ!!」

「『正統王国』がテロを起こしたぞ!!兵士を逃がすな!!捕えろ!!」

(―――やべぇ!!やべぇやべぇやべぇやべぇやべぇッッ!!???)

 その熱気を一目散に察知したのはヘイヴィアだった。

 クウェンサーの襟を引っ掴み、野営テントを突き抜けて、海岸から離れる。丘を越えて、地面に蹲って隠れた。

「どうなってんだ、こいつぁ!?」

「知らないよ!!作戦前会議ブリーフィングは寝てたけど、他勢力の前でこんなテロを起こす訳がないだろ!!『ナイトプライド』が勝手に暴走したとしか考えられない!!」

「はァ!?じゃあ、あの高飛車のエリートが裏切り者だったって事かよ!?」

「かもしれないし、そうじゃないかもしれない。……でも、超A級の機密事項であるオブジェクトのシステムが、外部からハッキングされるなんて有り得ない。搭乗者エリートであるニーナがオブジェクトを動かしているに違いない!!」

 二人がそっと丘から顔を覗かせた。

 海岸でパニックに陥る民衆と同様に、海上でもオブジェクト同士のパニックが起きていた。

 破損し、海岸線の野営テントへ向けて撤退する『資本企業』の第一世代『カリア』。

 『カリア』の逃走経路を守るように、情報同盟の第二世代『ウェーブレット617』が『ナイトプライド』の進路に立ち塞がる。追撃を阻止し、足止めするつもりなのだ。

 『ナイトプライド』は慌てたように迂回路を取ろうとするが、『信心組織』の第一世代『ヴァーユ・ガルーダ』が支援射撃で進行先を潰す。

 躱せるはずがなかった。

 現代の戦争とはオブジェクト戦である。これはすなわち、オブジェクトの数がものを言う時代が到来した事を如実に示していた。

 一対二では絶望的。

 錯乱した『ナイトプライド』が勝てるはずがなかった。

 

 それなのに、

 

 当たらない。

 『ナイトプライド』は二機の砲撃を巧みに躱す。

 致命傷となりえる主砲を急旋回で悉く回避し、威力の低い副砲には敢えて『オニオン装甲』で受け止めながら直進する。

 通常のオブジェクトが敵の照準のロックから逃げる際に行う、ただのジグザグ走行とも異なる。なにより、慣性のベクトルを受け流しながらのターンではない。

 急ブレーキと急発進の往復ビンタで、ほとんど減速しない鋭角のジグザグ走行だ。

「おいおいおい!!??なんだあの動き!?急カーブっつても限度ってもんがあるだろ!?」

「オブジェクトは時速数百キロで高速挙動を行う。総重量で二〇万トン超えるし、なにより五〇メートル級の超巨大兵器だ。あんな鋭角に急旋回なんかできる訳がない!!」

 想定外の挙動で二機のオブジェクトと渡り合う『ナイトプライド』を前に、驚愕を隠し切れない。

 そんな風に冷や汗を浮かべる二人の無線機に、通信が入った。

『こちらフローレイティア=カピストラーノ。第三七機動整備大隊へ通達する。海岸線の野営テントで護衛任務中の兵員で、誰か生き残ってる奴はいるか!?誰でもいい、返事をしろ!!』

「はーい、イケメン貴族のヘイヴィア様だぜ」

「フローレイティアさん!!俺です、クウェンサーです!!」

『……一番嬉しくない連中が生き残ったか。だがまぁ、悪運良くて感謝しよう。今は一刻が惜しい』

「……生き残ったって、どういう意味ですか?」

『そのままの意味だ。なぜか「ナイトプライド」が暴走して他勢力のオブジェクトを攻撃している。上層部も混乱しているが、このまま世界中の人々に「テロを起こした」と思われる事態が一番まずいという意見で一致した』

「回りくどいぞ爆乳!!急いでんなら、簡潔に説明しろよ!!」

「……優しくオブラートに包んで任務を伝えようと思ったが、やめる事にしよう。猿並みの馬鹿でも分かるように、簡潔に説明してやる。

 

 

 

 ―――――お前ら二人だけでオブジェクトをぶっ壊せ。幸運を祈る」

 

 

「「…………は?」」

 

 

 

     5

 

 

 『ナイトプライド』の狂行。

 それを目撃したミリンダは、反射的に自分が搭乗している『ベイビーマグナム』をフロリダ海岸に走らせようとしていた。

 事態を飲み込むとか。

 誰かに説明を求めるとか。

 そう言った事を考える前に、反射的に腕を動していた。

 「オブジェクトが砲撃した」……その事実を前に、守れるべき人達を救う事ができるのは自分だけなのだから。

 他人に頼る前に、自分でなんとかしろ。

 人に助けを乞う前に、自分の頭で考えろ。

 ハリウッド映画のヒロインのように、助けを待ち望むままではいられない。自分が助けを求める人々は、彼女よりもずっとか弱い存在なのだから。

 オブジェクトのパイロット『エリート』には、そういった責任がある。そういった権利を与えられ、そういった義務が課せられている。

 守るべき人の顔を思い浮かべながら、ベイビーマグナムを全力で発進させた。

 しかし、

『うごくなよ』

 直後だった。

 ベイビーマグナムの目の前に、下位安定式プラズマ砲が撃ち込まれた。海水を抉り焼き、水蒸気爆発で海面が荒れ狂った。

 慌てて、バランスを崩しかけたベイビーマグナムの姿勢制御を行う。

『このじょうきょうはどういうことだ?せつめいしてもらおう』

 無線に通信が入った。暗号化処理されていない、オープンに開かれた波長である。ベイビーマグナムの左隣に鎮座している、『信心組織』の第二世代のオブジェクトからだった。

「……わたしもわからないわ」

『しらばっくれるな。げんに、おまえたち「正統王国」のオブジェクトが、「資本企業」のセレモニーようオブジェクトをこうげきしているぞ』

 そこに、右隣に鎮座していた『資本企業』の第二世代のオブジェクトからも通信が入った。

『わがセレモニーようオブジェクト「カリア」へむけて、せんせんふこく無しでほうげき。これは国際法をむしした、じゅうだいないはんこういである』

「ちょ、ちょっとまって!?わたしはなにも―――――」

『こうせんきょかがおりた。わが「資本企業」のセレモニーようオブジェクト「カリア」をすくうため、「正統王国」へこうげきをかいしする』

 咄嗟に海岸を視線に戻す。

 『正統王国』が国際法を無視して戦争を始めたと解釈されてしまった。

 交戦許可が降りた以上、ニーナの搭乗する『ナイトプライド』は他勢力の三機に集中砲火を受けるだろう。そうなればひとたまりもない。

 焦り、急いで『ナイトプライド』の暴走を止めに向かおうとした。

 その時だった。

 

 

 右隣の『資本企業』のオブジェクトが九〇度回転し、主砲のレールガンをベイビーマグナムに向けた。

 

(――――――――――え?)

 キュガッッッ!!と。

 次の瞬間、レールガンがベイビーマグナムの主砲の接合部をぶち抜いた。

 轟音と衝撃。

 いや、轟音なんてものは錯覚だった。

 音が衝撃波となって攻撃になってしまうような。そんな超至近距離から放たれた破壊の嵐。

 大口径レールガン。オレンジ色の軌跡を描く、灼熱の槍に貫かれた。

 吹き飛ばされて水没しかけた機体を回転させながらミリンダは器用にベイビーマグナムを復帰させ、後方へ一気に距離を取る。

(七もんあるしゅほうのうち、五つをうちぬかれた!!)

 前方を確認すると、『資本企業』、『情報同盟』、『信心組織』の第二世代のオブジェクトが一斉に主砲の照準をベイビーマグナムに合わせた。

 そこで気付かされる。

 そうだ、甘かった。

 海岸付近で『ナイトプライド』が暴れたからといって、彼らにとって『ナイトプライド』などは全くの脅威にならない。

 眼中にないのだ。第二世代なんて謳ってはいるものの、それは『安全国』の民衆向けの広告にすぎない。実際の戦場では、実用性ゼロのオモチャだ。

 だからこそ、彼らの脅威はそこではない。

 まず始めに狙うべきターゲットは、すぐ間近にいる。

 総合マルチロール型第一世代『ベイビーマグナム』。

 そう、ミリンダが搭乗しているこのオブジェクトだ。

「おほほ!これでアナタをこうげきするたてまえができましたわ!おもうぞんぶんたたきのめますわね!!」

「……クソったれッッ!!」

 歯ぎしりしたミリンダが、逃走姿勢に入る。

 勝ち目なんてない。

 全力疾走で後退する。その背を、三機のオブジェクトが追いかける。

 そこで、『正統王国』の無線に通信が入った。

『こちらフローレイティア=カピストラーノ。第三七機動整備大隊へ通達する。海岸線の野営テンテで護衛任務中の兵員で、誰か生き残ってる奴はいるか!?誰でもいい、返事をしろ!!』

 おそらく、野営テントの護衛の任に就いていた『正統王国』の兵士達が、テロリスト扱いされて他勢力に襲撃されているのだろう。ちょうど、海上で襲撃を受けている今のミリンダと同じように。

(はやくしなきゃ!!はやくにげて、むかえにいかないと!!……クウェンサーがしんじゃう!!)

 

 

 

「え?俺達がオブジェクトと戦う?え?……頭がおかしいのかな、この人?ヘイヴィア、フローレイティアさんって痴呆になるような歳だったっけ?」

「ファッキュー、通信切れてやがるぜ!!なんだこのヤロー!!突然泣き出して一方的に通話を切るメンヘラ女っかつーの!!」

「……これは違う。多分、野営テントの無線アンテナを壊されたんだ!!増援を呼べない!!」

「げっ、お姫様にヘルプできないのかよ!!どうすんだよ相棒。隠れて見てるか?それとも、飛び入り参加で舞台の主役を奪いに出るか?」

「冗談キツイぜヘイヴィア。無理に決まってるだろ。それに、俺らがわざわざ出張らなくたって、現代の戦争にはきちんと主役がいるじゃん」

 そう言って、クウェンサーは海上に視線を戻した。

 そこには、『情報同盟』の第二世代『ウェーブレット617』と『信心組織』の第一世代『ヴァーユ・ガルーダ』が、『正統王国』の第二世代『ナイトプライド』と交戦を繰り広げていた。

「さすがは海上戦特化の『ウェーブレット617』!!大波を起こして器用に赤外線レーダーの精査を誤魔化してるな。『ナイトプライド』の攻撃を躱してるぜ!!この分じゃ、俺らが何もしなくても、ヤツらが暴走したニーナの『ナイトプライド』を止めてくれるんじゃねぇの?」

「いや……ちょっと待て、様子がおかしい」

 そこでクウェンサーが深刻な表情を浮かべた。

「あ?何が変なんだよ?……ほら、見ろ!!確かに『ナイトプライド』の急旋回には驚かされたけど、逆に『ナイトプライド』だってうまく攻撃できてねぇじゃねぇか!!きっと『ウェーブレット617』に照準を狂わされて、うまく狙えてねーんだ!!」

「……違う、これは全然違う!!『攻撃できない』んじゃない、『攻撃する必要がない』んだ!!」

 そう叫び、クウェンサーがヘイヴィアの持っていたセレモニー用オブジェクトの紹介カタログをひったくる。

「『ナイトプライド』の設計コンセプトは、『敵の主砲を“斬り落とし”、オニオン装甲をほとんど削らず、敵に白旗を上げさせる』事だ!!そもそも、主砲なんて存在しない!!見ろよ、普通は一〇〇門以上搭載されてる副砲も、『ナイトプライド』には全然ついてない!!」

「……確かに。ありゃ、三〇門程度しかねぇな。……あれ?でも、その代わりに色々と変な四角い装置が接続されてねーか?」

 『ナイトプライド』のオニオン装甲には、様々な砲門が接続されていた。

 しかし、その数は圧倒的に少ない。

 三〇門以上のレールガン、コイルガンを搭載しているというだけで旧世代兵器とは一線を画しているが、しかしながら、平均一〇〇門を超える同じオブジェクト同士の戦闘においては欠陥にしかならなっていない。攻撃力が低すぎる。

 しかし、クウェンサーの意見は違った。

「主砲が存在せず、副砲が少ない……この攻撃力の低さは欠陥なんかじゃない!!オブジェクトの生命線『JPlevelMHD方式動力炉』が生み出す莫大なエネルギーを、その機動力に費やしてるんだ!!」

「じゃあ、副砲の代わりに、脚部ユニットに全エネルギーが出力されてるって事かよ!?冗談だろ!?」

「いや、エアクッション式推進システムは下方面にしか推進ベクトルを生み出せないよ。いくら前傾姿勢になったところで、あの急旋回は不可能だ。……多分、カタログの紹介文に書いてる『姿勢制御用エアクッションサイドアーム』ってのがその正体なんだ」

 そう言って、クウェンサーは『ナイトプライド』の副砲……正確には、本来あるべきその位置に設置されている四角いユニットを指差した。

「あれが多分、エアクッション装置だよ」

「は!?あの装置が全部、加速ユニットだって言ってんのか!?五〇個以上あるぜ!?」

「おそらく、旋回の際にエアクッション装置で機体の姿勢を脚部ユニット以外でも補強するんだ。まるで、騎士が暴れ馬の手綱を引くみたいに」

 おそらく推測は当たっているのだろう。でなければ、あの急旋回に説明がつかない。

 こうしてる今も、『ナイトプライド』は敵対する二機のオブジェクトから豪雨の如く降り注ぐ集中砲撃を、急制動システム『暴れ馬』で回避している。

 あるいは躱し、あるいはオニヨン装甲という名の『盾』で受け止め、確実に間合いを測る。

「馬に盾……へっ、騎士様は随分古臭い方式に拘るじゃねぇか。じゃあ、お次は『剣』って事か」

「だろうね。……たぶん、そろそろ来るんじゃないかな」

 ちょうど、クウェンサーがそう言った時だった。

 円運動のような挙動で間合いを一定に確保していた『ナイトプライド』が、急旋回で『ウェーブレット617』のレールガンを回避し、突進を開始した。互いの距離を、一気に詰める。

 『ウェーブレット617』の主砲の冷却は間に合わない。副砲の一斉射撃も、掠る程度がやっとだった。

 鋭角でジグザグに突き進む『ナイトプライド』は、稲妻を描くように空を裂いた。

 そして、瞬きする時間さえなく、二機のオブジェクトが交錯した。

 オブジェクト同士の近接戦とはおよそ五キロ程度を意味し、五〇メートル程度まで接近する目の前のような状況は、本来は起こりえない。

 しかし、それが銃を用いない『騎士の誇り』だった。

 直後、『ナイトプライド』からオレンジ色の閃光が飛び出した。

 薄い薄いオレンジ色の円盤が、『ウェーブレット617』の主砲の砲身を真っ二つに斬り落としたのだ。

 砲身が暴発した。

 轟音が炸裂し、『ウェーブレット617』から黒煙が立ち昇る。

 まるで武士の居合斬りの如く、すれ違い様の一撃だった。

 『ナイトプライド』が、再び鋭角なジグザグの急旋回の挙動に戻る。

「おい、あれりゃあまさか!?」

「……『白旗』だッッ!?」

 『ウェーブレンス617』のオブジェクトから、『白旗』の信号が上がっていた。

 オブジェクトの搭乗口から、両手を上げたエリートが出てきた。

 それを確認したのか、『ナイトプライド』が今度は『信心組織』の第一世代『ヴァーユ・ガルーダ』を標的に間合いを測り始めた。

 一対一を不利とみなし、『信心組織』の『ヴァーユ・ガルーダ』が即座に逃走に移る。

 ヘイヴィアが口をあんぐりと開き、パクパクと声にならない悲鳴を上げていた。言葉を紡ぐのに、しばらく時間がかかった。

「おいおい、ちょっとヤバくねぇか!?主役が敗けちゃってますけどォ!?情けねぇぞ!!ちゃんと仕事しろよ!!」

「っていうか、『ヴァーユ・ガルーダ』はどこに向かってるんだ!?そっちには―――」

 そうクウェンサーが言いかけ、『ヴァーユ・ガルーダ』の進行方向に視線を向けた二人は、そこで初めて事態の深刻さに気付いた。

 そう。

 沖合の数キロメートル遠方には、各勢力のオブジェクトが1体ずつ待機しているはずだ。『ヴァーユ・ガルーダ』は、彼らに救援を求めに撤退しているのだろう。

 では。

 緊急事態の今、なぜ彼らはわざわざ呼びに行かねば救援に来てくれないのか。

 答えは単純。別の敵に応戦中で、それどころではないからだ。

 それが意味する事に気付いて、悪寒が背中を駆け抜けた。だらだらと、気持ち悪い冷や汗が流れる。

「――――お姫様が狙われてるってのかッッ!?おい、ヤベぇぞ!!三機相手じゃあ逃げるのだって不可能だ!!テロリスト扱いされてんなら、俺達『正統王国』側には『白旗』なんて許されねぇ!!早くしないとお姫様の『ベイビーマグナム』が海の藻屑になっちまうぜ!!」

「分かってるよ!!フローレイティアさんから通信が切れる前、俺達との会話を聞く余裕はお姫様にもあったはずだ。でも、『助けて』ってお姫様は一言も喋らなかった!!俺達が呑気に騒いでる間、無言でじっと耐えてたんだ!!無線で助けを求める事もできたのに!!きっと……きっと、助けを求めたら俺達が戦場に来ちゃうから!!」

 そこでヘイヴィアが顔を引き攣らせた。その口角がピクピクと痙攣している。クウェンサーが今から何を言い出すのか予測できてしまい、その無理難題に恐怖しているのだ。

 彼がクウェンサーから一歩距離を取った。じりじりと後ずさりする。

「おい……おいおいおい。まさかとは思うが、あの『ナイトプライド』を止めようとか思ってんじゃねぇだろうな?」

「俺らしかいないだろ」

「冗談キツイぜ!!無茶苦茶言うのもいい加減しろよクソ野郎!!敵はオブジェクトだぞ!!俺らを殺すのに主砲なんていらない、副砲すらいらない。ヤツらからすれば、俺ら生身の兵士なんて近くを走ってたら勝手に死んでる蟻みたいなもんだ!それだけ!!たったそれだけで、俺達生身の人間は突風に煽られて死んじまう!!分かってるよなァ!?」

「分かってるよ!!でも、このままじゃお姫様は助からないだろう!!時間はないんだよ、お前が自分で言ったんだぞヘイヴィア!!」

 ガッ!!と、ヘイヴィアがクウェンサーの胸倉を掴み上げた。

「時間がねぇのは分かってる!!お姫様がこのままじゃ死んじまうっつう事だって分かっちゃいるんだよクソ野郎!!だけど!!それで自分の命を懸けるってのは別問題だろうが!!無線機だって壊されたんだ、俺ら以外の『正統王国』の兵士に協力を仰ぐ事だって不可能じゃねぇか!!俺らたった二人で、あの化け物兵器相手に一体何ができるってんだよ!!」

 しかし、クウェンサーはヘイヴィアから視線を逸らさなかった。彼は怯まない。

「どうせここで黙って指を咥えて隠れてたとしても、お姫様の『ベイビーマグナム』がぶっ壊されたら、その次はニーナの『ナイトプライド』、そして最後には俺ら兵士の皆殺しだ。処刑のギロチン台に、もう首は晒されてるんだよ!!じっと待ってても何も解決されない!!できるかどうかは知らないけど、どうせ死ぬなら俺は生き残る可能性が高い方に懸けるよ」

 ヘイヴィアがギリギリと奥歯を噛み締める音が聞こえた。

 だァぁぁぁぁぁぁぁ!!と、ヘイヴィアが奇声を上げながらグシャグシャと髪を掻きむしった。ボロボロと涙を零しながら鼻水をすすり、アサルトライフルを担ぎ直す。

「結局これかよ、畜生めェ!!『クリーンな戦争』は一体全体どこいきやがった!!ホンッット、主役共はもうちょい気合い入れて戦えよ!!毎度毎度背中を蹴り飛ばされ、転がり出た舞台の上でアドリブ満載の即興ヒーローやらされるのはご免被るぜ!!地獄に片足突っ込むんだ、小細工の一つや二つは考えてるんだろうなァ、ナイト様!!」

「……へっ、お前も結構ナイト様が似合ってると思うよ。いい案があるんだ、ヘイヴィア。もうすぐ『タクシー』がやって来る頃だから、待ち合わせ場所に移動しよう。……『ナイトプライド』に、本物の『騎士の誇り』ってやつを教えてやろうぜ」

 大きく深呼吸をして、猛る。

 

「「覚悟しろよ、ニーナ=ペッツェリン!!」」

 

 

 

     6

 

 

 『資本企業』のセレモニー用オブジェクトの第一世代『カリア』は、フロリダの野営テントに向けて撤退していた。

 真後ろで情報同盟の『ウェーブレット617』が破壊され、『白旗』を上げられるのを見て、冷や汗をかく。

(クッソ!?『情報同盟』の第二世代は、セレモニーの中で一番性能の高かったはずだろ!!それが、どうしてあんな『正統王国』のクズに負けてんだよ!!)

 『ナイトプライド』は、主砲や副砲の数を減らし、敵オブジェクトの主砲を斬り落とす事に特化したオブジェクトだ。『主砲を失う』という事は、強固な外殻を持つオブジェクト戦において決定的な事実を意味する。

 オブジェクトのオニオン装甲は、高耐火反応剤を絶妙なバランスで混合した鋼板を何十何百と重ねた積層構造となっており、それによって従来兵器を無効化する圧倒的な堅牢さと核爆発すら耐える驚異的な衝撃拡散効果を有する。この積層鋼板を一気にぶち抜く威力は、同じオブジェクトに搭載されている『JPlevelMHD方式動力炉』のエネルギーが生み出す主砲クラスの大出力しか実現できない。一〇〇門以上搭載している副砲クラスでは、せいぜい装甲を一枚一枚削り落とすのが関の山だ。

 つまり、『主砲を失う』という事は、オブジェクト戦においてほぼ詰んだ戦況を意味している。その状況へ追い込み、敵エリートの戦意を喪失させ、『白旗』を上げさせるのが『ナイトプライド』の戦法だ。『騎士道精神』というコードネームが名付けられた所以だ。

 

 

(――――実用性のない、とんだ的外れなコンセプトだ)

 

 彼、『カリア』の代理エリートは、そう胸の内で一蹴した。

 主砲を失ったところで、実際のオブジェクト戦でそんな簡単に『白旗』を上げるエリートなどいない。副砲を収束させ、こちらも敵の主砲を撃ち抜けば、副砲同士の消耗戦に持ち込む事ができる。また、一旦は整備基地ベースゾーンに撤退し、パーツを換装すれば戦線に復帰できるだろう。

 戦い方はいろいろとある。『白旗を上げさせる』なんてコンセプトは、理想論で塗り固められた現場を知らない上層部の戯言だ。

(第二世代なんて謳っちゃあいるが、あんなのは実用性ゼロのガラクタだ!!畜生!!なぜ『情報同盟』の第二世代『ウェーブレット617』が負けたんだ!!)

 エリートの能力差……というのもあるのだろう。『ナイトプライド』は専用エリートを用意してきたようだが、他勢力は皆、代理エリートしか用意できていない。

 この第一世代『カリア』の代理エリートも、基本的な走行訓練と主砲の照準の合わせ方と発射の行い方。その三つしか教えられていなかった。

 操縦の技量に差がありすぎたのだ。

 溜息をつきながら、野営テントを目指す。整備基地ベースゾーンなんて用意されていない。

 元々、セレモニー用に突貫修理した使い捨ての破損品だ。破壊された別の第一世代の外殻を一〇層ほど換装して作っただけ。副砲は故障したまま放置されているので使えないし、主砲のレールガンには、二発しか弾を装填されていなかった。その内の一発も、セレモニーでの試射で使ってしまっている。

 だから、海岸に適当に乗り捨てて、逃走しようと彼は考えていた。鹵獲され情報機密が漏洩しようと、知った事ではない。自分の命が最優先だった。

 幸運な事に、『ナイトプライド』は今、『信心組織』の第一世代『ヴァーユ・ガルーダ』を追い駆けている。今なら逃げ切れる。

 と、そこで。

「ん?」

 海岸の砂浜に辿り着く前の、断崖絶壁の崖。

 数多の光学レンズが拾った膨大な視界の中、その崖に同じ『資本企業』の軍服をまとった二人組の兵士が手を振っていた。

(しめた!!護衛が思ったより早い!!)

 てっきり暴走した『正統王国』の整備兵達の鎮圧に、彼の護衛部隊が全員駆り出されていると思っていたが、きちんと彼を迎えに来てくれた兵士もいたようだ。

 おそらく、砂浜はなお残る『正統王国』の兵士と他勢力の整備兵が交戦中なのだろう。危険だ。だから、少し離れた断崖に迎えに来たのだ。

 機体を断崖に寄せる。ちょうど五〇メートル程の高さで、搭乗口と断崖の高さが同じくらいだった。梯子などは必要ない。完璧な位置取りに誘導してもらえた。

(ラッキー、助かった!!あとはこいつらに護衛してもらいながら逃げるだけだ!!)

 そう思いながら、天井の搭乗口を開け、外に顔を出した。

 

 そして、ガチャリと。

 

 彼、代理エリートの頭に、黒光りするアサルトライフルの銃口が押し付けられた。

「なっ、は――――――――――ッッ!?」

 驚愕に目を見開く代理エリートと前にして、『資本企業』の軍服を着た二人組が、陽気に話しかけてきた。

「ほらな。手を上げたから、ちゃんとタクシーが来てくれただろう、ヘイヴィア?」

「こいつァいいぜ!!こんないい車に乗れるなんて、人生でもう二度とねぇかもなァ!!」

 半笑いで顔を引き攣らせる代理エリートは、

「……お、お客さん。どちらまでですか?」

 二人組の男達は、ニヤリと笑った。

「ちょっとそこの海まで行ってくれや。適当に指示を出すから、ドライブ気分で陽気に走ってくれ」

 

 

 

 そんなこんなで『資本企業』のセレモニー用オブジェクト、『カリア』の中に搭乗したクウェンサーとヘイヴィアの二人組は、代理エリートを脅しながら、『ナイトプライド』を追い駆ける事になった。

 ヘイヴィアのアサルトライフルが、代理エリートの首筋に突きつけられている。

 狭い球状の空間に、男三人がぎゅうぎゅう詰めになっていた。

「……で、運よくオブジェクトに乗れた訳だが、こっからはどうする気だよ、クウェンサー」

「運よく?計算通りだと言ってくれよ」

「はァーッッ!?『資本企業』の整備兵を襲って、軍服を奪ってくるのがどんだけ大変だったか分かってんのかテメェ!!ほら、ここ見ろ!!銃弾掠ったのよ!!ちゃんと見ろォ!!その間、テメェは一体何してんだ!!」

「……ヘイヴィアの勇姿って、なんか尺の都合でカットされそうな地味な場面が多いよね」

「ファック!!ぶっ殺すぞクウェンサー!!整備兵四人を相手にたった一人で立ち回ったんだ!!ハリウッド映画なら見所あるワンシーンじゃねぇか!!あァ!?」

「なーに言ってんの。見所はこれからだろ。ハリウッドスターは、悪役を爆発させて勝つってのが王道じゃん!!」

「……おいおいおい。せっかくオブジェクトに乗ったのに、わざわざ外に出て爆弾使うとは言わねぇよな?」

「え?使うけど?」

「なんでお前はそんなに死にたがるの!?馬鹿なの!?死ぬの!?死ねよ!!俺から離れた場所で!!」

「死なないよ。少なくとも、俺の作戦通りなら。……なぁ、『資本企業』の代理エリート」

「な、なんですか?」

 ガチッ!と、ヘイヴィアがアサルトライフルのセーフティを外すわざとらしい音を鳴らした。代理エリートが竦み上がる。

「そのままの低速でいいから『ナイトプライド』のいる方向に進んで欲しい。で、ある程度近づいたら、主砲のレールガンを撃って欲しいだけど」

「あ、あと一発しかありませんけど」

「当てなくていいよ。『ナイトプライド』に、俺らが乗ってる『カリア』がまた戦線に戻ってきたってアピールできたらそれでいい」

「はァ!?」

 そう叫んだのは、代理エリートではなくヘイヴィアだった。

「一発しか主砲を撃てないんだろ!?なんで無駄撃ちしなきゃならねぇんだよ!!それこそ、テメェのプラスチック爆弾『ハンドアックス』を花火みたいに爆発させればいいじゃねぇか!!」

「それじゃあ駄目なんだよ、ヘイヴィア。俺達がこの『カリア』に乗ってるって事に、ニーナに気付かれたらまずいんだ」

「どうして!?なんで!?毎度毎度、お前の説明は分かりづらいんだよッッ!!」

「『ナイトプライド』の主砲……まぁ、正確には、主砲の代わりであるあの『超音波式水流放射装置』って仕組みが関係してる」

 そう言って、クウェンサーはセレモニー用オブジェクトの紹介カタログと、遠方を走行している『ナイトプライド』の外観を見比べる。

「さっき、『ナイトプライド』が『ウェーブレット617』の主砲をオレンジ色の『剣』で切り裂いてただろ?あの正体は、きっと海水だ」

「あ?……じゃあ、『ナイトプライド』の主砲はただの水鉄砲って事か?」

「『ただの』じゃなくて、『超すごい』水鉄砲だよ。多分、吸い上げた海水を噴射して、超音波を発生させて高速振動させてるんだ。ほら、『ナイトプライド』の機体前面に、変なマスクみたいな装置が取り付けられてるだろ?あれがその超音波発生装置だ」

 それを聞いて、代理エリートが呻くように呟いた。

「なるほど……あまりに水分子が高速振動されるから、摩擦で海水のミネラル成分が灼熱して、オレンジ色に見えてるって事か」

「あっそ!!細かい理屈なんて知ったこっちゃねーよ!!で、一体その水鉄砲ブレードの仕組みが、どうしてレールガンを無駄撃ちする話に繋がるんだよ!!」

「射程の問題さ。超音波自体は広く飛ばす事はできるだろうけど、あんな高速振動させて金属の塊をぶった切れる『剣』レベルまで昇華させられるのは、近距離までだ。詳しくは分からないけど、三〇メートルくらいが限界なんじゃないかな?」

「……で、それがなぜレールガンの無駄撃ちをする――――」

「いいから発射しろよ。えい」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!?」

 クウェンサーが、代理エリートの掴んでいるレバーの引き金を押した。

 直後、大口径のレールガンが、明後日の方向に発射された。

 轟音。

 その発砲に、気付かない者はいなかった。

 例え遠方にいる『ナイトプライド』に搭乗しているニーナも、聞き逃すはずがなかった。

 『信心組織』の第一世代『ヴァーユ・ガルーダ』の背を追い駆けていた『ナイトプライド』が、ぐるりと反転した。

 その照準を、この『カリア』に合わせる。

「馬ッ鹿ァぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!何やってんですかァ、アナタ!!死ぬ気ですか!!」

「うるせぇ、黙れぇぇぇええええええええええ!!でもこの代理エリートの言う通りだぞクソ野郎ォぉぉぉおおおおお!!何考えてやがんだ、遂に頭のネジがぶっ飛んだか!!」

「時間はないんだ!!ゆっくり説明してる時間はない!!」

「ちょっ!?何しがる、クウェンサー!!」

 クウェンサーが、代理エリートの座席シートの固定ベルトをサイバルキット用のナイフで切断していた。そのベルトで、三人の腰をグルグルと巻き付けてきた。

「うげっ!?なんで見知らぬオヤジとくっつかされなきゃいけねぇんだ!!そういう趣味は隠れて発散しろよ!!」

「んな訳あるか!!さっさと固定しないと、吹き飛ばされるぞ!!」

「そりゃそうだろ!!テメェがわざわざ『ナイトプライド』を焚き付けたおかげでなァ!!」

 『ナイトプライド』が鋭角なジグザグ走行でこちらに突進してきた。

 副砲を故障しているし、主砲の残弾はゼロ。実際には一発も撃てない訳だが、ニーナには分からないのだろう。警戒しながら詰め寄ってくる。

「今ニーナはこう思ってるはずだ!!『副砲でぶち抜いたはずの欠陥品オブジェクトが、私の「ナイトプライド」に攻撃してきた。敵対する意志がある』ってね!!だからこそ、この『カリア』の主砲を切り裂きに来る!!絶対に!!」

 代理エリートとヘイヴィアが悲鳴にも似た抗議の叫び声を上げる。

「そりゃあ『ナイトプライド』は副砲が少ないですし、決定力のない攻撃よりも『剣』の突進攻撃をしに来ますでしょうよ!!私達三人とも殺されますよ!!恨みますからね!!」

「こいつの言う通りだ!『暴れ馬』で急旋回しながらオニオン装甲の『盾』を構え、水鉄砲ブレードの『剣』で襲いに来る!!当たり前だろ、何しでかしてんだテメェ!!呪う!!呪ってやる!!死んでも天国に行けると思うなよクソ野郎!!」

 遂に50メートル程目の前にまで『ナイトプライド』に接近される。

 『カリア』には、それを止める術はなかった。

 『暴れ馬』の急旋回により、懐に潜り込まれる。

 『ナイトプライド』の機体前面に搭載されている超音波発生装置が不気味な音を響かせた。

「――――今だ!!」

 その一瞬前に、クウェンサーが座席シートの後部にある緊急脱出用レバーを足で踏みつけた。

 

 視界が狂った。

 

 ゴッッッッ!!と。

 

 エリートの緊急脱出装置が作動し、三人が空高く吹き飛ばされた。

 

「ぐ、ぎ、ぎィ―――――ぐ、ァ――――――ッッ!!」

 跳ね飛ばされた衝撃で、身体中の骨がミシミシと悲鳴を上げた。風圧で、息ができない。

 グルグルと上空で回転し、天地の判別がつかず、上下左右の平衡感覚が追い着かない。休息で背景が流れゆく視界のどこかで、『カリア』の主砲が切り裂かれる様子を目に捉えた。熱波が三人の肌をピリピリと焼いた。息ができない事が幸いだ。

 しかし、このままでは、パラシュートが作動したところで、身動きが取れず無防備なこの姿は格好の的だ。文字通り消し炭になる。

(なんとかしなきゃヤバイッッ!?)

 咄嗟にクウェンサーにしがみついたヘイヴィアだったが、ふとそこで、違和感に気付いた。

 彼がいつも背中に背負っている、工兵に支給されているプラスチック爆弾『ハンドアックス』のポーチバックがなかった。

 クウェンサーの顔を見ると、笑っていた。

 困惑する。なぜ彼が笑っているのか分からない。

 ヘイヴィアの視線に気付いたクウェンサーが、その答えを示すように、その手に握る起爆用の無線機のスイッチを押した。

 

 直後だった。

 

 

 クウェンサーが『カリア』内部に置いていった『ハンドアックス』が起爆した。

 

 そう。

 

 莫大なエネルギーを生み出すフル稼働中の『JPlevelMHD方式動力炉』のすぐ傍で、爆発する。

 

 起きうる事態は明白だった。

 

 臨界爆発。

 

 

 ―――――超巨大兵器オブジェクトが、丸々一つの巨大な爆発と化す。

 

 

 瞼を抑え、腕で覆い、それでも上から叩きつけるような圧倒的な閃光が網膜を貫いた。

 爆風という概念を超えていた。

 五感の感覚が消えていた。

 衝撃なんて感じる暇はなく、轟音なんて聞き取れるスケールではなく、熱波なんて規模は当に越えていて、痛みなんて感じるレベルではなかった。

 その爆圧は、世界から弾き飛ばされるような表現できない『何か』だった。経験した事のない、心臓の鼓動を狂わせるような爆発だった。

 三人が、爆風によってさらに空高く打ち上げられた。

 ぐん、と。肩が引き上げられる感覚があった。

 くらくらと眩暈がしてうまく見えないが、代理エリートのパラシュートが作動したのだろう。

「生き残ってるか、ヘイヴィア!?」

「ほぼ死んでるよクソ野郎!!ふざんけんな!!次からちゃんと説明しやがれ!!」

 ようやく視界が確保できてきた。白色の世界が、色を取り戻してくる。

 

 しかし、

 

 視界の先には、『ナイトプライド』が主砲の『剣』の照準を三人に合わせていた。

 

 オニオン装甲が多少削り飛ばされているとはいえ、ほとんどダメージは見られなかった。

 

 

「―――――――――――――――へ?」

 

 

 そう。

 『資本企業』の第一世代『カリア』は、破損品の使い捨てオブジェクトである。その動力炉も、通常のオブジェクトほど高いレベルで設定されていない。

 せいぜい低速走行し、セレモニーで主砲を二、三発撃つ程度に留められていた。

 もし本物の主力で臨界爆発が起きていたら、そもそもクウェンサー達はこんな二〇〇メートルという至近距離で爆風を受け、生きてなどいない。

 クウェンサーとヘイヴィアという生身の人間が生きているという事は、つまり、生身の人間が耐えうるレベルの衝撃でしかなかった、という事だった。

 

「……は、はは。ははははは……」

 ヘイヴィアの口から、乾いた笑いが零れた。

 死んだ。

 そう思った。

 

 しかし、

 

 

 じゅじゅじゅじゅっ………、と。

 

 フライパンで何かを炒める時のような、不可解な音が鼓膜を震わせた。

 『ナイトプライド』の主砲から、いつまで経っても『剣』が発射されない。

「…………な、ん?」

「簡単な事さ」

 ヘイヴィアの疑問に、クウェンサーが答える。

「機体前面に搭載させている『超音波式水流発射装置』の射出口を歪ませた。主砲を斬り落としたタイミングでオブジェクトを動力炉ごと爆発させれば、爆圧が主砲を真横から押し潰す事になる。堅牢なオニオン装甲をぶち抜く威力はないけど、その射出口を歪ませて、海水の抜け道を塞ぐ事ならできる。……すると、どうなると思う?」

 超音波で高速振動された水分子は、海水中のミネラル成分が灼熱するほど熱せられる。

 それが、圧力の逃げ道のない空間に塞ぎこまれたら。

 

 答えは、爆発で返ってきた。

 

 ボンッッッッッ!!と、低く唸るような水蒸気爆発が炸裂した。

 

 『ナイトプライド』の主砲が、粉々に砕け散る。

 爆発に押され、その五〇メートルは超えようかという巨体が、海面にひっくり返る。

 慌てて『暴れ馬』で姿勢を制御しようとする。しかし、『カリア』の動力炉の爆発にてこちらも歪んでおり、上手く機能しなかった。転倒の勢いを殺せない。それは、ドミノが倒れるようにゆっくりとした動きだった。上下逆さになり、『ナイトプライド』が海中へブクブクと沈んでいく。

 生身の兵士二人が、オブジェクトを破壊した瞬間だった。

 

「……なぁ、ヘイヴィア。俺達の給料がこのままなのって、どう考えてもおかしくない?」

「同感だ。この世界は、ヒーローに対して恩恵が少なすぎる。もっと美少女とかを用意して欲しいもんだ。……でもまぁ」

 そう言って、ゆっくりとパラシュートで海面へ降下しながら、

「誰かを助けられたって気分は、やっぱいいモンだぜ……」

 

 

 

     7

 

 

「ぶはっ!!」

 ニーナ=ペッツェリンが、海面から顔を出した。海中で緊急脱出装置を作動させ、必死に海面まで泳いできたのだ。

「ゲホっ、ゴホ、ガハッ……はぁ、はぁ」

 呼吸を整えてる最中だった。

 ぐっと、彼女の首が何者かに締め上げられた。

 太陽を照り返す海面が、鏡のように彼女の背後の人物の顔を映し出した。

「……ヘイヴィア=ウィンチェル!?」

「おおっと、ナイトは俺一人だけじゃないぜ」

 そう言って、彼に無理矢理顔を横に向けさせられる。その先には、オブジェクトの残骸の上に腰をかけた少年がこちらを眺めいていた。

「……クウェンサー=バーボタージュまで!?」

 ニーナは驚愕に目を見開く。

 しかし、一呼吸し、すぐに冷静さを取り戻す。

「わたしがうらぎったことをきゅうだんするのね。しょけいでもする気かしら?」

「いーや、そんなのどうでもいいね。お前が『信心組織』から亡命してきたって話は、つい数時間前に聞いた話だ。多分、お前って『信心組織』のスパイなんだろ?それで間違いねぇだろ?」

 沈黙。しかし、くつくつと笑いながら、すぐに返答が返ってきた。

「そうよ!!わたし、ニーナ=ペッツェリンは、『信心組織』のスパイよ!!わたしと同じように、『ぼうめいした』っていうにたてまえで、何人ものどうしが『正統王国』にもぐりこんだわ!!でも、オブジェクトのエリートにまでもぐりこめたのは、わたしだけだった!!のこりのどうしは、みんなにんむのとちゅうで死んだわ!!」

 金切り声だった。血を吐きそうな程甲高い、絶叫するような訴えだった。

「エリートなれば、せんじょうはどこでもよかった!!どこでもいいから、『正統王国』にふりになるようたちまわれればよかった!!」

「んで、たまたま今回のオブジェクトセレモニーのエリートになったって訳か。……俺達第三七機動整備大隊が護衛に選ばれてよかったぜ。じゃなきゃ、こうして止められなかった」

「……とめる、ですって?」

 ニーナは笑う。絶叫のような笑いだった。

「あハ、あははははははっはははははははははっはははっははッッ!!むりよ!!むりにきまってる!!たしかに、アナタたちはわたしの『ナイトプライド』をはかいした!!でも、わたしがおこしたテロこういは、けっしてなくならない!!……それに、わたしはまだ負けたわけじゃない!!」

「あ?軍人の俺に勝てるっていうつもりか?」

「ちがうわ!!ここまで言って、まだきづかないのかしら!!やはりさるなみのちのうだったようね!!『信心組織』のセレモニー用オブジェクト『ヴァーユ・ガルーダ』は、わたしとないつうしてるなかまなのよ!!」

「なるほどな……二人芝居の演技だったって事か」

「そうよ!!じきに『ヴァーユ・ガルーダ』が、わたしをたすけにやって来る!!アナタたちはいきのこれはしないのよ!!」

 そう、叫んだ。勝ち誇ったような笑みが刻まれていた。

 対して、ヘイヴィアも笑う。

「な、なによ……なにがおかしい!!」

「いや、だってよ。わざわざ犯人が自分で裏切り者の仲間を晒してくれるとはな?

 

 

 ――――全部聞こえたか、フローレイティアさん」

 

『あぁ、全オブジェクトに回線は繋いであるぞ』

 

 

「―――――――え?」

 

 ニーナの表情が硬直した。固まる。その顔から、完全に笑みが消え去る。

「ど、どういうこと!?『正統王国』のむせんは、『信心組織』のせいびせいがはかいする手はずになっていたはずよ!!そ、そんな!!むせんなんてよういできるわけが―――」

「だーから、この無線機は『正統王国』の通信じゃねぇんだって」

 そう言って、ヘイヴィアがクウェンサーに手を振った。

 クウェンサーが何か四角い物を握って、手を振り返してきた。

 『資本企業』の無線機だった。

「そ、そんな―――――ッッ!?」

「あー、あー、こちら『正統王国』軍第三七機動整備大隊所属、上等兵ヘイヴィア=ウィンチェル。エリートのみなさーん、聞こえてますかー?この事実を前に『正統王国』へ攻撃する事は、国際裁判に発展しますよー?」

 陽気に冷やかすように、彼は告げる。

「てめぇら、好き勝手に俺達をタコ殴りにしてくれやがったが、ぜーんぶ『信心組織』の破壊工作だったじゃねぇか!!これ以上の攻撃は、テメェらの過剰防衛だぞ!!罪悪感が少しでもあるなら、お姫様じゃなくて、狙うべき敵は別にあるだろうが!!」

 ヘイヴィアの通信に応じるように、水平線の向こうに浮かぶ三機の第二世代オブジェクトが、ぐるりと反転した。

 三機のオブジェクトの照準が、今まさに、彼らへ救援を求めようとしていた『ヴァーユ・ガルーダ』に合わせられる。

 『ヴァーユ・ガルーダ』が急ブレーキをかける。

 しかし、間に合う訳がなかった。

 三機の第二世代オブジェクトから放たれた三つのレールガンが、『ヴァーユ・ガルーダ』のオニオン装甲をぶち抜いた。爆発と共に、黒煙が立ち昇る。

 ぶくぶくと、破壊されたオブジェクトの残骸が海中に沈んでいく。

「そ、そんな……わたし、は……」

 ぐっと、頸動脈を絞めて、彼女の意識を落とす。

「終わったぜ。お姫様は無事だろうな?」

『大丈夫そうだよ。半壊してるけど、こっちに戻ってきてる。さすがはお姫様。格上の第二世代とはやり慣れてるって感じだね』

 双眼鏡で水平線の先を覗いているクウェンサーが、そう無線機で返答してきた。

 ヘイヴィアが、ニーナを引っ張りながら海面を泳ぐ。

「ニーナはどうなるんだろうな」

『さぁ?まぁ、処罰は受けるんじゃなかな?でも、フローレイティアさんがなんとか減刑させるよう裏で色々とコネを回すって言ってたよ』

「そりゃいいな。珍しく後味がいい」

 そう言って、ヘイヴィアがクウェンサーの腰かける残骸へと登る。

 だぁぁぁぁああああ!!と、二人して残骸の上に寝転んだ。

「各勢力とのドンパチ……とんだ大名行列だぜ」

「これで『クリーンな時代のクリーンな戦争』って言うんだから、笑えるね」

 言いながら、二人くつくつと笑う。

「さーて、今回もヒーローやっちゃったし、後でお姫様にお礼を要求しちゃおうかなぁ?」

「あ、いいなそれ!!ハイハイハイ、この後ここで、水着になってもらおうぜ!!爆乳もセットで!!」

「え?ヘイヴィアはなんかしたっけ……?」

「はァーーーーーッッ!?おま、お前ェ!!イケメン貴族のヘイヴィア様が、一体どれだけテメェの無茶に付き合ってやったと思ってる!!俺がいなきゃあ、実現しなかった作戦だったろうが!!」

「いや、でも作戦思いついたのは俺だし」

「あァ!?アイディアに著作権なんてねーんだよ!!お姫様の水着は俺が独占する!!いっつもいっつもおいしいトコばっか持ってかれてたまるか!!」

「何をー!!上等だ、ヘイヴィア!!かかってこ……って、あ!?もう『ハンドアックス』を全部使っちゃってたんだ!?」

「ハッハー!!今回ばかりは俺の勝ちのようだな相棒!!地獄のスープレックスゥ!!」

 元気に馬鹿騒ぎを始める二人だった。

 プロレス技に悶絶するクウェンサーのポケットから、一枚の用紙がひらりと海面に落ちた。

 そこにはこう書いてあった。

 

 

『  第一八回 国際軍事開発工学・新オブジェクト応用技術博覧会

                            ~オブジェクト・セレモニー~

  凱旋パレード、性能MVPオブジェクト予想抽選申し込み用紙

 

 名前:クウェンサー=バーボタージュ

 

 あなたが予想するMVPオブジェクト:ベイビーマグナム

                                         』




という訳で、禁書の二次創作の気分転換に書いてしまいました(汗)


私が創作活動を始めてちょうど一周年記念という訳で、禁書以外の投稿です。いつか「インテリヴィレッジの座敷童」についても二次創作を書きたいですね。
3万字という短編ですが、執筆時間は2週間くらいしかかかりませんでした。書き始めると意外と楽しくなってしまい、ついつい勢いで書いてしまいましたww
ただ、新オブジェクトの設定を考えるのが大変で、そう何度も二次創作で書けないなぁと痛感しました。

お暇でしたら、他の作品も読んで下さると嬉しいです。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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