できれば、その想いも叶えてあげたい。

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知っているゲームの世界に転生したので好きなキャラを救いたい

―――――死んだな。

 

生前はもし死ぬならどんなこと思って死のうかな。やり残したこと語るのが物語性あっていいかなーとか馬鹿な事考えていたものだけど、最期に思ったのはそんな単調な言葉だった。

 

不運による事故としか言いようのない死にざまだったと思う。だってさ、まさか事故ったバイクが俺に飛んでくるとか考えないよ。中途半端に避けたせいでバイクに飛ばされ車道に出てそのまま轢かれたし、なんつー死に方だよ。世界よそんなに俺が嫌いか。

 

それはともかく、そのまま死んだなーと思ってたけどどうやら俺はまだ終わりじゃなかったらしい。

 

異世界転生。

 

フィクションの世界でよく目にした言葉だが、俺自身が体験するとは思ってもみなかった。

 

視界に映るのはコンクリートの地面ではなく、土で構成された大地。奥に見えるのは緑色は木々だろうか。

 

神様的なものに説明されたわけではないが、そういうものである、という謎の確信めいたものが自分の中であった。でなきゃ、急に景色が変わった理由が説明つかないし。

 

ってかなんで異世界転生したのに体制が横たわったままなの?普通こういうのは立ってたりしない?

 

仕方ないので立ち上がろうと全身に力を入れようとするがうまくいかない。金縛りというより徐々に力が抜けていく感覚。

 

あれ、これ俺死にかけてない?

 

いやいやちょっと待てや。転生先で死にかけてるってなにこれ?どういう嫌がらせ?無限死亡編でもやらせる気か?

 

あ、もうこれどうしようもないわ。痛みを感じないのはありがたいけど、徐々に意識が保ってられなくなってきた。血がなくなって死にかけているんだろうなぁ。

 

どうせ死ぬなら……てんせいさせないでよ……。

 

「……!こ…人……息…!」

 

意識を失う寸前。どこかで聞いたことのあるような優し気な声が耳に響いた。

 

 

 

 

 

――――――――――▼

 

 

 

 

 

レッドエコーズというゲームがある。

 

人間と魔族が争いを続けている世界で、主人公が魔族の王である魔王の討伐を目指し黒幕を倒すという王道的な設定のタクティクスRPGだ。

 

ベタなストーリーながらも各キャラクターの設定や物語の伏線や展開がうまく、界隈ではそこそこ流行ったゲームでもある。

 

「ゲーム、だったんだがなぁ……」

 

転生を果たしまた倒れた後、俺はフィリア解放軍とやらの軍隊に助けられた。死に際だったみたいが、何とか息を吹き返した俺は意識を取り戻し、生前のこの体の持ち主の所属であった解放軍に戻ったのだが、大きな問題があった。

 

その問題が先ほどの発言だ。

 

どうやらこの世界はレッドエコーズ通称レコの世界によく似ている。世界情勢や文化、地名など、ゲーム自体が中世レベルの剣と魔法のファンタジーを舞台としていたため、偶然といった可能性も捨てきれなかったが、ある人物と出会って確信した。

 

『よかった、無事だったのね』

『礼なんて構わないわ。私も軍の一員だもの、当然のことだわ』

『名前?リコリスだよ。私アルスに会いに行くからじゃあね』

 

ベージュでおさげで1アウト、リコリスという名前で2アウト、極め付きにはアルスという名前と恋しているような様子で3アウト。

 

ゲームセット!第三部完!

 

ということがあって、この世界がレコの世界だと理解させられると同時に色々と見えてくるものがあった。

 

俺が所属している解放軍というものがどういうものなのか、そしてこれからどうなるのか。

 

詳しく物語背景を話すと、魔族の国である魔国の大規模侵攻により、王国の首都であったカピタルが陥落し、人類は北と南に分断されており、北では帝国エンパイア率いる先鋭部隊によりなんとか持ちこたえているが、南では数々の国が落とされ事実上敗北。しかし、フィリア解放軍が結成され今もなお抵抗を続けている。ってのが背景なのだが、そこのフィリア解放軍ってやつが俺の所属している解放軍そのものなのだ。

 

つまるところ、ヤバい。俺戦争に巻き込まれるヤバい。

 

戦争の結果としては主人公君のいるこっちが勝つことはわかっているが、一雑兵の生き死になんてわからない。現にこの体の持ち主は戦争で巻き込まれて死んでいるわけだから死ぬ可能性のほうが高いだろう。

 

じゃあ解放軍やめてしまえと言われそうだが実際のところそう簡単にはいかない。

 

まず前提として俺は解放軍に所属しており、解放軍は国を落とされ生き延びたものが集って出来上がった組織だ。つまり祖国を取り戻すという意思がある以上、かなり士気は高い。

 

そこで一兵士である俺が辞めるという宣言をするとどうなるか。かなりの確率で裏切り者として追われる羽目になる、そうでなくても俺は一生引け目を負って生きることになるだろう。それは俺の精神状態的に辛い。

 

それに、故意ではなかったとはいえこの体を奪ってしまった負い目がある。それをなかったことになんてしたくない。

 

以上の理由で俺は解放軍を続けることにした。

 

しかし、せっかくゲームの世界へ来たのだから、この世界でしかできないこともやってみたい。そこでこの世界で生きる上でいくつか目標を立てることにした。

 

まず前提としては、俺が死なないこと。俺が死んでは元も子もない。そのためにも力を付けなければならない。

 

そのうえで俺の目標は、まず原作キャラを救いたい。

 

具体的にはリコリスという少女のことだ。彼女は物語の中盤、仲間の裏切りにあい、主人公を逃がすために犠牲になるという運命を背負っている。

 

ゲームであればどう足掻こうと避けようのないそのイベントに仕方ないで済ますこともできたが、現実となるとそうもいかない。一人の命が奪われるのだ。

 

無論、戦争だから彼女以外にも死んでる人間がいることもわかっているし、それを理解してなお自分の私欲でたった一人を助けようなど虫の良すぎる話だというのもよくわかっている。

 

でも、何の因果か、俺がこの世界で倒れたさいに見つけ出してくれたのは彼女だったし、彼女が応急処置をしてくれたおかげで五体満足で目を覚ますことができた。

 

助けてくれたんだ。その恩は返したい。

 

加えて、できれば原作では叶わないままだった彼女のアルスへの想いも叶えてあげたい。そこまでして、命を救ってくれた恩返しってもんだ。

 

後のやりたいことは……そうだな。この体の持ち主の家族や友人を探すことかな。友人は皆戦争に行っているみたいだから生きているかはわからないし、俺にその記憶はないけどどこかに手がかりがあるはずだ。

 

……こう思い返すとやりたいことというか、やるべきことばっかりだな。まぁ無責任なことにもできないし仕方ないことか。

 

「さて」

 

やるべきことを思い返したし、今はとりあえず実直に進むのみ。

 

当面の問題は―――。

 

「おぅアイラ!丁度一周差だな!じゃお先ー」

「おま、まじ、早すぎって……」

 

なんとか力をつけないとな。

 

走り込みを終え、訓練所へ戻っていく同期の背を見て深くそう思った。

 

 

 

 

 

――――――――――▼

 

 

 

 

 

「俺思うんだけどさ、見張りって敵襲を知らせる役割もあって滅茶苦茶大切な仕事じゃん」

「ん?あぁ、そりゃそうだな」

「それをさ、訓練後で心身ともにクタクタな兵士にやらせるっておかしない?」

「当番制だから仕方ねぇよ」

「仕方ないでは何も変わらない。今こそ革命を起こす時であると思う」

「何言ってんだお前」

 

走り込み、剣術の訓練後、俺は同期であるマーセと共に見張り台に立っていた。やっていることはもちろん、見張りという名の雑談だ。

 

「だってさ、俺半月前には死にかけてたんだぜ?加えて記憶吹っ飛んだんだぜ?なんで平然と隊列に戻ってんの?」

「そりゃ有事だからなぁ……。辛かったらリーダーに相談したら休ませてくれると思うぜ?」

「ただの愚痴だ」

「そうかよ」

 

そう言って眠そうに欠伸をもらすマーセ。こいつも口では真面目ぶっても眠いのは変わりないのだろう。

 

ちなみにこいつは主人公の幼馴染の一人であり原作キャラだが、適当な性格をしているせいか何の気遣いもなく話すことができる。友人キャラ様様である。

 

「そういやさ」

「ん?」

 

しばらくボケーと外を眺めていると、横から声がかかる。

 

「お前、リコリスのこと好きなの?」

「……は?」

「だって、訓練中ちらちら見てただろ?」

 

鼻につく口調とどこか半開きの口。からかわれていることは間違いないが、何言ってんだこいつ。見当違いにも程がある。

 

「いやそんなんじゃねぇよ。ただ……ちょっと事情があるだけだ」

「事情ねぇ……?」

 

あ、こいつ信じてねぇな。俺がリコリスを見てたのは目標を思い返していただけで、そういった恋心がなんとかとかじゃねぇんだよ。ただ、それを話すわけにはいかないが。

 

「まぁ別にいいけどよ。あいつ、アルスに惚れてるぜ?」

「んなことはわかってるし、関係ねぇよ。むしろ、応援する」

「ふぅん?」

 

リコリスは幼馴染であり主人公であるアルスに恋心を抱いている。そんなことはとうにわかっているし、だれの目から見ても理解できる。

 

「まぁ別にいいけどよ。一応俺ら戦争しているんだし、いつ死ぬかもわからないんだ。お互いが生きている今しか、伝えられないことだってあるんだぜ?」

「わかってるよ。そんなこと」

 

だって俺は想いを秘めたまま死んだあの子を俺は知っているから。だからこそ、俺はそんな未来を変えたい。

 

「……まぁそれっぽいこと言ってるけど、俺もまだまだ新兵だけどな!」

「あ、ってか、てめぇこそ気になっている子いるって言ってたじゃねぇか!あの最近入った貴族の娘!」

「お前バカそんなでかい声で話すな、気づかれたらどうすんだよ!」

「ヘタレめ!」

「お前が言うな!」

 

「おい貴様ら。私は見張りを行えと伝えたはずだがな」

 

「「すみませんでした!」」

 

「バツとして明日の外周はプラス十周だな」

 

「ノー!!!」

 

 

 

 

 

――――――――――▼

 

 

 

 

 

 

「ふむ、弓の腕はいいものだな」

 

マーセと見張り台で話してから時は流れ、いよいよ首都カピタルにあるフィリア城の奪還寸前までやって来た。

 

目立った犠牲はこれまでなしとされているが、少なくとも三桁以上の人は亡くなっていると思う。それで犠牲は少ないとされるんだから戦争って本当に怖い。幸い……幸いと言っていいのかわからないが、マーセだったり上官だったり原作メンバーは皆無事だ。

 

あと模擬戦しているさいになんとなく気づいていたんだが、俺に剣の才がないことに気づいた。敵を斬る感覚がわからないのと、近づかれると恐怖心が勝ってしまうみたいだ。上官に相談してみると、弓を与えてくれたので使ってみるとあら不思議、あっという間に的を射抜けてしまいました。

 

ってことで弓兵にクラスチェンジしました。やったね、初期値ボーナスが加算されるよ!まぁ現実にそんなものはなかったわけだが。

 

「学問に秀でていたものだから事務に回そうかと考えていたんだがな」

「勘弁してください」

「今となっては貴重な戦力だからな。冗談さ」

 

ふふふ、と笑う上官ことヒネーテさん。彼女は元々副騎士団長を務めていたこともあり、実力的にはこの解放軍でもトップクラスの実力者だ。上に立つものとしても、指導者としても、裏方の役割についても理解があり、この人ありして解放軍ありといっても過言ではないだろう。

 

その代わり兵に対しては滅茶苦茶厳しいけど。

 

「ふむ。雑談はこれくらいにして、本題に移ろう。……といっても堅くするな。今回は……謝罪をしに来た」

 

「すまなかった。私の不手際でお前たちを危険に晒した」

 

そう言って頭を下げる上官。何が起きたか理解できず呆気に取られてしまったが、すぐに意識を取り戻した。

 

「いやいや、上官のせいじゃないですって。あれは誰にも予測できませんって」

 

ひとつ前の戦場でのことだ。見通しの悪い戦場での騎兵による突撃で俺らの軍は体制を崩された。そこまではある意味予測の範囲内だったのだが、そのあとの魔法による爆撃で俺らの軍は完全に混乱。

 

分断されたところにさらに奇襲されたりと完全に罠に嵌っていたのだろう。

 

「しかし、進軍位置から罠を仕掛けるであろう地点は予測できていた。それに対する策が足りなかったのは私の責任だ」

「いやでも味方をも巻き込むような爆撃はさすがに予想できないでしょう。それに最初の騎兵の突撃もその後の混乱も、上官の対応策とその後の一声によって大きく被害を抑えれたと思いますよ。私らが孤立したのは敵の奇襲地点の近くだったといった話だけで」

「それでも、謝罪させてくれないか」

 

信念の通った真っすぐな瞳。……そんな目を向けられたら受け取るしかなくなるわな。

 

「すまなかった」

「……その謝罪受け取りました。だから頭を上げてください。調子狂います」

「そうか。……お前も言うようになってきたな?」

「そりゃ俺も一緒に戦ってきましたからね。上官の性格もわかってきましたよ」

 

ヒネーテ。フィリア騎士団の副団長で元解放軍のリーダー。性格は真面目で誠実で騎士道を重んじる堅物。しかしその実誰よりも仲間想いな彼女はフィリア攻防戦時に誰よりも心を痛めている。

 

設定ではこんな感じだったが、実際に話してみると色々と知らない点も見えてきた。

 

堅物に見えて意外と冗談を言うのが好きだったり、雑談や相談にも乗ってくれるなど面倒見がよかったり、ほかには甘いものが好物だったりと可愛らしい印象も覚えた。

 

そんな姿を見てきたから、だろうか。いつの間にか変にかしこまらず自然体で話せるようになっていた。

 

「それは気になるがあえて聞かないでおこう。それよりもだ。話を戻すようで悪いが、アイラ。お前、あの戦場からどう生き延びた?絶望的状況だったと思うのだが」

 

まぁ確かに混乱している中でさらに奇襲を受けたあの戦場。あれは正直地獄だった。

 

「あれは…正直運がよかったです。勘が冴えていたというか、どこから敵が来て何をしてこようとしているのかがなんとなく視えたのでそれを避けるように動いて射っただけです。兵の皆も声かければ協力してくれたんで助かりました」

「……ふむ。なるほどな」

「……まぁつまり俺が最強だったって話ですね!」

「なるほど。よくわかった」

「うんうん、そういうことで…ちょっと待ってください。なんでおもむろに模擬刀取り出しているんですか!」

「最強と名高いお前に一つ稽古をつけてもらいたくてだな」

「待ってください!俺、剣の才ないんですって!死んじゃいます!」

「何安心してくれ。これでも私はフィリア王国で副団長を務めていた身。そう易々と負けてはやらぬぞ!」

 

 

/(^o^)\オワタ。

 

 

 

 

 

――――――――――▼

 

 

 

 

 

無事フィリア城を取り返し、首都カピタルから魔族を追い出し数日後。未だ戦勝ムードが続く街並みを眺めながら俺は街の外へと向かっていた。

 

王城、首都を取り戻したが囚われていたはずである王女の姿は見当たらず最悪の予感が脳裏をよぎる中、北を守っている帝国軍から伝令が届く。それは王女の身は帝国にあるといったものだった。疑念が浮かぶアルスたちだったが、対魔族のための同盟の結成。そして王女の身を引き渡してもらうため、アルス一行は帝国へと足を運んだ。

 

……確か原作はこんな感じだったか。疑念を晴らすというか、ネタ晴らしをすると、帝国はもとより魔国と同盟を組んでおり実際のところは戦争はしていない。その情報を秘匿するため魔族は帝国の支援のもと、フィリア城を落とし北南に分断。北は帝国が制圧し、南は魔国が支配していたってのが落ちだ。

 

まぁ目的は伝説の竜の一族を消し去るためと言いつつ、陰で魔神とその教徒が暗躍していたり、実は主人公君であるアルスが伝説の竜の一族の末裔だったりするんだが今はいい。

 

問題は、これから向かう先である帝国のど真ん中で刃を向けられる展開になる、ということだ。これが原作でいう仲間の裏切りであり、そしてリコリスが死ぬ原因となる。

 

……できれば行きたくはない。でも、ここで引き止めればこの後の展開がどうなるのかが全くわからなくなる。最悪、魔神の完全復活を許し世界が滅びましたっていう展開になってもおかしくはないのだ。

 

止めるわけにはいかない。けれども、原作通り進ませるわけにもいかない。

 

だから俺は裏切ることにした。

 

街の外、深い森の洞窟で俺は待っているとやがて、黒いフードを被った男が現れた。

 

「あんたか?タレコミを流したやつってのはよ」

「……あぁ」

「あぁそうかい。あぁめんどくせぇなぁ。なんたって俺がこんなことを

「それで首尾は?」

「おかげさまで滞りねぇよ。なんたって、軍の編成や備蓄、移動ルートやもしものための逃亡ルートまで情報を流してくれたからよ。ありがてぇことこの上ねぇよ」

 

くそったれ。言外にそういったのが聞こえた気がするこの黒フードも今の帝国には不満を抱いているってことか。

 

「それで?わざわざ呼び出したんだ何か用があるんだろ?」

「あぁ、一つだけ届け物を」

「まためんどくせぇもんを。それで誰に渡せばいい?」

「帝国の将軍にスピアという男がいるだろう?そいつに頼む」

「あん?」

 

懐から取り出した手紙を黒フードに渡そうとして睨まれた。何か不手際をしたかと思ったが、理由がわからない。

 

「どうした?」

「あんた今帝国の将軍のスピアって言ったか?」

「……あぁそうだが」

 

もしやスピアさんこの黒フードにとって地雷だったか?原作に出てくる人で信頼でき、リコリスの救出の解決策になると思ったが早まったか?

 

「はぁ……」

 

そう深いため息を吐くと同時、その黒フードは問答無用で渡した手紙を開き始めた。

 

「おい!」

 

まずい。中身を見られた。一目ではわからないように友人への手紙と物流の横流しのお願いとして細工してあるとはいえ、気づかれる可能性は大いにある。

 

どうする、やるか?しかし、ここで問題を起こすと俺が流した情報が信用されなくなる。

 

くそ、なんなんだよこの野蛮人はよ!

 

「…………あー、なるほどねぇ」

 

これは……気づかれたな。こうなったら仕方ない、目先の俺の命の安全のためだ、恨むなよ。

 

「あー待て。俺にてめぇをどうこうする気はねぇよ。その弓仕舞いな」

 

「って言っても信用できねぇか。そうだな自己紹介がまだだったな」

 

そう言って彼は黒フードに手をかけその姿を晒した。

 

「俺の名はスピア。よろしくな、裏切り者さん?」

 

おいおいまじかよ……。最高についてるわこれは。

 

 

 

 

 

――――――――――▼

 

 

 

 

 

見渡す限りの大地と海と綺麗な星空。木々の種類や農作物の違い、それに伴う建造物の違いなど細かな違いはあれど景色は王国にいたころと対して変わりはない。

 

王国も、帝国も、戦火の跡があちこちに残っている。

 

「……」

 

今更悔やんでも仕方のないことだ。俺だって戦争に参加しているんだし、人だって殺した。綺麗ごとだけじゃ世の中は回らないことも身に染みて理解させられた。

 

だからこそ、悩むんだ。本当にこのやり方しかなかったのかって。

 

もっと賢い方法が、それこそ戦争を起こさない方法もあったんじゃないかって。

 

まぁそれも綺麗ごと、か。

 

「アイラ、こんなところでどうしたんだい?」

「ん?」

 

不意にかけられた声に振り向くと、そこにはアルスの姿があった。

 

「……まぁ…ちょっとこれからのことが心配でな」

「そうだね……明日の同盟交渉も、エア…王女様の引き渡しも、例えうまくいったとしても魔国との本格的な戦いが待っているからね、その気持ちはわかるよ」

 

もうだいぶ前か、初めてアルス…原作主人公にあったときのことだ。俺は思わず呆気に取られてしまったのを覚えている。

 

『できないとか、無理だとかは関係ない!俺が助けるんだ!』

 

今思い返しても無茶苦茶な言葉だと思う。何の根拠も策もない、ただの感情論。だけど、その瞳は誰よりも真っすぐで、そしてそれを叶えるための強さがそこにはあった。

 

だからこそ、皆アルスに惹かれてしまうんだろうな。リコリスがアルスに惚れた理由もなんとなく理解できる。

 

「なぁアルス、お前リコリスのことどう思っている?」

「どうって大切な仲間だと思っているよ」

「そうじゃなくて、異性としてって話だ」

「え……」

 

先ほどまでの堂々とした様子はどこにいったのか、言葉に悩むように表情をころころさせるアルスの姿。

 

そういや、こいつまだ十八くらいだっけ?現代だと高校生程度だし、性格柄そういったこととは無縁だろうし、単に慣れていないのだろう。対して年齢も変わらない俺が言えることでもないが。

 

そんなことを考えているとようやく言葉がまとまったのか、アルスは絞りだすように話し始めた。

 

「……リコリスの想いは率直に嬉しいとは思うよ。でも正直今は答えられそうにはない。それに……僕には救い出したい人がいるから」

 

救い出したいね、惚れているの間違いだろうけど、そこに突っ込むのは野暮ってやつか。

 

まぁいい、この答えは予想通りだ。

 

「戦争が終わればお前は英雄として奉られるだろう。王女様と結ばれたとしても文句言うやつはいないだろうよ。それは仲間の一人と結ばれたとしてもだ」

「待て、何の話だそれは?」

「今はまだわからなくてもいい。だがな、この国には一夫多妻制という言葉が存在することは知っておけ」

「ちょっと待ってくれ!何の話をしているんだ君は!」

「要は自分の想いを優先し人の想いを無下にするか、人の想いを叶えてあげるか、よく考えておけって話だ」

 

焦ったような表情から一転、真剣に悩むような様子を見せるアルス。……ちょっといじめすぎたかもしれないが、リコリスの想いを叶えるためだ。これくらいはいいだろう。

 

それに……これが最後の言葉になるのかもしれないのだから。

 

「リコリスのことよろしく頼むぜ」

「アイラ…君は……」

 

その言葉の先は聞きたくはない。話していると決心が鈍りそうになる。

 

「じゃあな」

 

星空に俺は背を向け、キャンプ場へと戻っていった。

 

 

 

 

 

――――――――――▼

 

 

 

 

 

「ちょっとかっこつけすぎたか?なんか…恥ずかし」

 

キャンプ場へと戻り、自分のテントへ向かっている途中、先ほどの発言を思い返し俺は一人身をよがらせていた。

 

「そういや、明日の朝も普通に顔合わせるよな?え、ちょっと待って、さすがにそれはきつくない?まじで恥ずか死しそう……」

「あ、丁度よかった。アイラ、アルス見てな……頭を下げてどうしたの?」

「ん?」

 

頭を上げ真っ先に目に入ったのはベージュの長髪。夜だからかいつもはおさげにしているその髪を深く降ろしているのだろうか。可愛い。

 

じゃないわ。リコリスじゃん!

 

「え、いや、これはその俺なんかが貴方様の御身を眺めるなど極めて無粋であり無礼だと感じたため首を垂れていた次第であります」

「なぁに、そのしゃべり方」

 

ふふふ、と笑顔を向けるリコリス。可愛らしい……じゃない。要件があって話しかけられてたな確か。

 

「アルスならさっきまで崖の近くにいたから、その辺まだいると思うよ」

「そっか。じゃあ戻ってくるまでアイラとお話しようかな」

「え……」

「嫌だった?」

「そんなことはないです。むしろ嬉しいっす」

 

思わぬ不意打ちに動揺したところにその発言と悲しそうな表情は卑怯だぞリコリス。そういう手が取れるならアルスにでもやっておきなさい。

 

「それで、どうしたんだ?」

「えっとね。間違いだったらごめんなさいなんだけど、アイラが覚悟を決めたような目をしていたから気になって」

「……」

 

……気づかれてはないはずだ。情報を流す時も段取りを確認するときも尾行には念入りに気を付けていた。だとすると、本当に彼女の目利きによるものか。……すげぇな。そんなこともわかるのか。

 

「……明日が大事な日になりそうだから、それによるものかもな。俺も無意識に緊張していたみたいだ」

「嘘。何か隠していることあるでしょ?」

「……」

 

これは……参ったな。まさかこんなことで問い詰められる展開になるとは思ってもみなかった。

 

「あー……まぁそうだな。あるにはある。だけど、今言うべきことじゃないな」

「それはどうして?」

「言ったろ?明日が大事な日になりそうだって、だから今は余計な心配を増やしたくないんだよ」

 

嘘ではない。ただ、明日になればこの問題もなくなるわけだから、今を耐えしのげばそれでいい。

 

「本当に大丈夫なの?」

「あぁ大丈夫さ。心配には及ばない」

 

あぁよかった。とりあえずこれで計画通り明日へいけるはず……っ!

 

「目を見て話して」

 

いつの間にか伸びていたリコリスの両手が俺の頬をつかみ、強引に正面に向き直される。赤い大きな瞳が俺を覗いていた。

 

「もう一度聞くからね。本当に大丈夫なの?」

「……大丈夫だよ」

「だったら……なんでそんな辛そうな表情しているの?」

 

なんでって、そりゃ俺だって好き好んでお前らを危険に晒したくはないんだよ。人が死ぬ戦場なんかにお前らを誘導したくなんかねぇよ。でも、そうしないと、そうでもしないと、お前が死ぬから、俺は……。

 

「手を離してくれ」

「……嫌だと言ったらどうするの?」

「こうする」

「きゃ!」

 

首を引き腕で強引に両手を払いのける。まさか手を出してくると思っていなかったのであろうリコリスは小さく悲鳴を上げた後、どこか悲しそうな様子でこちらを見た。

 

「……私ね。アルスのことは確かに好きだけど、皆のことも仲間だと思っているし、好きなんだよ?だからアイラことも私にとっては大切で……だから……」

「すまんリコリス。俺はそれを裏切る羽目になる」

「え……?」

「じゃあな……幸せに生きろよ」

 

俺は最低だ。誰かを裏切ることでしか人を救うことのできないクズで、人を失うことの痛みを知っていてなお自分を犠牲にしようとする最低の野郎だ。

 

自己犠牲なんてする気はなかった。でもこうなってしまった以上、もう戻ることはできないだろう。

 

ならば、できることはただ一つ。

 

神様が授けてくれた二度目のこの命、堂々と散らして見せようか!

 

 

 

 

 

――――――――――▼

 

 

 

 

 

「ふむ、ではフィリア軍は予定通りここへ到達するということだな?」

「はい、事前情報と相違はございません」

「そうか。それはご苦労であったな。そろそろ下がっておくがいい」

「いえ、私も戦場へ出ます故」

「あぁそういえばフィリア軍に恨んでいる相手がいるとのことだったな。復讐相手が驚き、倒れるざまが見たいか」

「はい」

「わかった。では貴殿もここに残るがいい」

 

いよいよ帝国との会談の時間だ。俺は一足先にフィリア軍を抜け出し、帝国側へやってきた。理由は……今更語るまでもないだろう。どうせ裏切られるとわかっている会談、ならばせめて主導権はこっちが握ってやるよ。

 

そのためにできる手は打ってきた。最終手段としても俺はここに立っている。絶対にリコリスは殺させはしない。

 

「始まったようだな」

 

会談は帝国領中心部近くのフォート砦で行われる。内部には俺含め大勢の軍隊が潜んでおり、どうやら外部にも布陣は完了しているみたいだ。

 

一見、最悪なこの状況だが、対策はすでに打っている。包囲も分断もうまくいくと思うなよ。

 

「さて、そろそろ我々も始めようか」

「……?始めるとは?」

 

作戦を脳内でシミュレートさせていると突然そんな言葉をかけられる。振り向くと片手に槍を構えた騎士の姿が目に入り――

 

「っ!!!」

 

大きく突き出されたそれに慌てて身を傾け回避する。腰の弓を取り出し構えを取りながら俺は口を開いた。

 

「なんの仕業だ?」

「我らに下された命令はもとより変わってなどいない。フィリア軍の抹殺だ」

「……最初からこのつもりだったか」

「あぁそうだとも、裏切り者など元より信用してなどいない」

 

その言葉と裏付けるかのように先ほどまで背に並んでいた兵が一斉に武器を構える。

 

会談や仲間が待機しているであろう控えからも物音が響き始めた。どうやら一斉に戦闘が始まったみたいだ。

 

俺にとっては絶望的な状況。だが、俺一人に向けてこの将軍っぽい騎士とこれだけの兵を向けてくれたのは正直ありがたい。こっちに戦力を割けば割くだけあいつらが逃げやすくなる。

 

無論、俺一人ですべてを倒せるほどうぬぼれてはいない。だがせめて時間稼ぎくらいは務めてやる。

 

「上等だこら!好きな女のためだ!やってやるぞおい!」

 

 

 

 

「畜生やっぱきついわこれ!」

 

走り続けながら曲がり角で振り向きざまに一発。その結果を確認する間もないまま俺は走り続けた。

 

宣言から数分後。まず囲まれたら死という前提上、一定の距離を保ちながら矢を射っていたんだが、如何せん敵の数が多すぎる。加え、弓という武器の性質上、屋内では戦いづらいのがきつすぎる。さっきだって障害物で射線を切られた。無理ゲーすぎるだろこれ。

 

外は外で大量の兵が待ち構えているし、いよいよ逃げ道がない。……いや、あることにはあるが、それはあいつらが向かっているだろうからこの兵たちを近づけるにはいかない。

 

できるだけ反対の方向に。少しでもあいつらから遠ざけるように。

 

「いたぞ!あいつだ!」

「ちっ!」

 

事前に回り込んでいたのだろう前方から鎧を着た騎士が三人迫ってくる。それを見て舌打ちをもらすと矢を三本同時に構えた。

 

弓は鎧に弱いのは通例だ。何せ鎧が矢を通さないのだから。でもな。

 

「たった三人で俺を止められると思うなよ!」

 

この世界には魔法といったものが存在する。それは矢に乗せることも可能で。

 

「フレイムアロー!」

「ぐあぁ!」

 

衝突点から発火の魔法を発動させ、相手を燃やすフレイムアロー。これであればいくら鎧を着ていようと問題はない。ただ魔法を発動させる魔力には限りがあるから連発はできないが。

 

「もっと反対側へ部隊を回せ!魔法、弓が使えるものは直線上の通路でのみ使用を許可する!」

 

状況がどんどん悪化していくな、ただでさえきついのに遠距離攻撃まで対応しないといけないのかよ。

 

と悪態を吐いた途端、背後から魔法の詠唱のような声が響く。

 

「させるかよ!」

 

振り向きざまに二射。一つは前方の騎士にはじかれたが、もう一つが今魔法の詠唱を行っていたであろう術者の腕に刺さり、詠唱を中断させる。

 

「詠唱中は鎧を着てるものが死守せよ!詠唱終了のタイミングは悟られないようにしろ!」

 

あの指揮官ふざけんなよ。一人に対して対策を練ってくるな!大人しくやられろ!

 

T字路を左に曲がりながら背後の確認。距離は問題なしと判断すると同時に、視界に銀色の光が見えた。慌てて体を傾けたが間に合わず、腹部がえぐれる。

 

「角待ちしてんじゃねぇよ!フレイムアロー!!」

 

ほぼゼロ距離での一発。衝突のさいの爆風が俺にも襲い掛かるが、そんなの気にする暇もない。慌てて足を動かし先へと進む。

 

腹部の傷はすぐに動けなくなるものではないが、血を止めないと死ぬなこれ。あとめっちゃいてぇ。

 

簡易的に服を破りは巻きつけたが、動き回るこの状況じゃあまり役には立たないだろう。……これは本格的に死が近づいてきたな。

 

……あまり大きく魔力を使いたくはなかったが、この傷じゃどの道長くはもたない。ここらで一度足止めするか。

 

ターンする要領で振り向きながら弓を構え、片膝を床につける。

 

「総員警戒!」

「爆裂矢!」

 

狙いは軍勢でなくその上の天井。放った矢は命中すると同時に先ほどとは比べ物にならないほどの爆発を起こし、天井を破壊した。

 

「魔力の残量的に次一回がラストか……」

 

天井を落下させた瓦礫で背後からの通路は防いだ。ただ、隙間から聞こえる声から察するにそう時間を経たずして回り込まれるに違いない。

 

「……いっそのこと、前方の天井も壊して引きこもるか?……いやダメだ。今いる箇所の天井も耐え切れず落ちてくる」

 

「天井…壁を破壊するってアイデアはありかもな。砦のマップと現在地は把握しているしいけるか?」

 

「こうなったら自棄だ!一か八かやるしかねぇ!爆発矢!」

 

右側の壁に向かって最後の爆発矢を放つ。爆音とともに破壊されたその先には予想通り中庭の姿が見えた。

 

「いやちょっと想定より高いなこれ……。まぁしゃあねぇ行くぞ!」

 

勢いよく飛び込み、受け身を取りながら着地。衝撃と振動で腹部の傷が痛むがもう気にしてられない。

 

無理やりにでも足を動かし俺は逃げ続けた。

 

 

 

 

 

 

逃げ続けなんとか追っ手を撒き砦の柱に腰を下ろした俺は、息を整えながらも傷口に布を巻き続ける。

 

……それにしても足をやられたのは痛い、これではもう逃げれない。矢も全て打ち切ったし、いよいよ詰みの状況が近づいてきたか。

 

……そういえば、戦闘が始まってからどれくらい経っただろう。あいつらはもう逃げきれたのだろうか?

 

そう思い、周りの音を聞こうとして耳があまり聞こえなくなっていることに気づいた。近くで爆裂音を聞いたせいだろうか。

 

ともかく、足も動かなく、音でも情報を仕入れられなくなった以上、あいつらの動向を追うことはできなくなった。心配な気持ちは残るが、元々俺がいないもっと酷い状況でもなんとか逃げきれていたんだ。大丈夫だと信じるしかない。

 

問題はリコリスだが……スピアには目を離すなと伝えているからこっちも大丈夫だと信じたい。そのためにスピアの部隊を隠し通路への道のりに配置できるよう調整したり、情報をばれない程度にずらして伝えたり、俺自身も少しでも相手の敵意が俺に向くように色んなところに矢を打ち続けたし危機的状況にはならないと思う。

 

……信じる、思う、希望的観測ばっかりだな。嫌になってしまう。

 

思えば俺はいつも、そんな楽観的が考えが苦手で一人で行動してきた気がする。

 

帝国の裏切りについて、誰にも相談しなかったのがその大きな証左だ。相談すれば、自分に非難が向けられるのではないか、今まで培ってきた信頼が壊れるのでないか、なんてことばかり考えて、挙句このざまだ。

 

……信用して、相談していればもっと結末は変わっていたのだろうか。

 

マーセ、上官、アルスそしてリコリス。

 

『だったら……なんでそんな辛そうな表情しているの?』

 

あの時のリコリス悲しそうにしていたな……。喧嘩別れもそうだし、手を出してしまった負い目もある。それに、実際に裏切ってしまった以上、もう元の関係には戻れないだろう。

 

「でもまだ死にたくはないなぁ……」

 

あの時決めた目標もまだ一つも達成できていない。これじゃ死んでも幽霊として化けて出るぞ。

 

「■■■!」

「っ!」

 

声が聞こえた。それがどんな声で何を意味するのかはもう理解できないが、それでも音という情報として理解することはできた。

 

矢はもうない。後は緊急用の短剣しかまともに戦える武器が残っていない。だが、戦える手段があるならばもうそれで十分だ。

 

短剣を逆手に構え、柱からそっと顔を覗かせる。

 

壊れた柱と燃え盛る砦。その奥に見えたのは見慣れたベージュ色とそれに向かう鈍い銀色。

 

考える間もなく、俺は反射的に弓を構えた。

 

弓、というものは本来。挟み込んだ糸を引っ張ることで発生する反動を利用して物を飛ばすことができる、という原理を矢という棒状のもの限定で飛ばしやすいよう調整したものにすぎない。

 

つまり、糸を使って木材を飛ばすことができるように、弓を使って矢以外のものを飛ばすことも不可能ではない。

 

糸による反動と、力のバランスを考慮し、最大限糸を引き絞る。そして――

 

「リコリィィィィィス!!!!!!」

 

短剣を射った。

 

放たれた短剣は俺の指を切り裂き弓を削りながらも力を落とさず、そして、今突き出されている槍に直撃した。

 

「■■!!」

 

槍の軌道がずれ、視線が一つこちらを向く。その隙にリコリスは手元の槍で顎を打ち上げ、その勢いのまま脳天に振り下ろした。

 

「■■■!」

 

相手が動かなくなったのを確認してから、こちらへと駆け寄るリコリス。気が付けば俺はリコリスの腕の中にいた。

 

「よかった……」

 

どうしてここにいるんだとか、他の皆はどうしたとか、これからどうする気だとか、聞きたいことはいっぱいあったのに、怪我もなく無事な様子のリコリスを見て口からこぼれだしたのはそんな言葉だった。

 

「■■■■■■■■■!■■■■■!」

 

……安心したからか、徐々に意識が薄れ、眠たくなってきた。

 

「■■■!■■■■■■■■■!」

 

あぁ……。好きな子を守れて……その腕の中で眠ることができるなんて………俺は…幸せものだな。

 

アイラ!死んじゃダメだよ!

 

ごめんな…………リコリス。俺は……ずっと…お前のことが…………―――――。

 

 

 

 

 

―――――好きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知っているゲームの世界に転生したので好きなキャラを救いたい。

 

できれば、その想いも叶えてあげたい。

 

初めに目標を設定したときは、そんな単純な気持ちからだった。でも、現実はそう甘くはなかったし、ゲーム気分でモノを見ていてはすぐに命を奪われそうになった。

 

でも同時に、そんな過酷な世界を見たからこそ、解放軍の仲間がどれだけ強くて優しいものなのかを知ることができた。困っている人に手を差し伸べることができることがとても凄いことなんだって知ることができた。

 

だからこそ俺は、そんな優しい皆に幸せに生きていてほしかった。戦争なんてものに巻き込まれてほしくなかった。

 

死ぬなんて絶対に許せないと、そう思った。

 

リコリスも初めはそのなかの一人だった。でも、共に過ごし話しているうちに自分の中の感情が少しずつ変化していることに気が付いた。

 

いけない感情だと思った。自分みたいな、人をゲームの中のキャラとしか見てなくて一人の人間として見ることができなかった俺が特別な感情を持つなど自分自身が一番許せなかった。

 

だからこそ、俺は押し殺した。決して洩らさないように、バレないように、墓場まで持っていこうって。そう決心した。

 

そのはず……だったんだがなぁ。

 

「おぅアイラ!似合ってんじゃねぇかその服!」

 

フィリア城、城下町。噴水の上がる公園の前で、俺は一人佇んでいると聞き飽きるくらいまで聞いたそんな声が耳に入った。

 

「うるせ」

「照れんなって!友人として本心で言ってやってんだから素直に受け取れよ」

「茶化しに来た奴に返す言葉はねぇ帰れ帰れ」

「おうおう緊張してんのか?初心だねぇ」

「マーセ、お前次しゃべったらフィーナに昨夜他の女と会っていたのばらすからな」

「人聞きの悪い言い方するな!?あれは単に打ち合わせしてただけじゃねぇか!まじで止めろよ?」

 

あいつまじで怒ると怖いんだよ……とその時のことを思い出したのか身震いするマーセ。すっかり尻に敷かれているみたいだ。

 

建物をかけられた大きな時計を確認する。集合時間までまだ時間はある。

 

「ふむ。どうやら間に合ったようだな」

「げっ」

「げっとはなんだマーセ。久しぶりに模擬戦でもしたいのか?」

「カンベンシテクダサイ」

 

そんな声と共に現れたのは上か……ヒネーテさん。全くお前は…と息を吐きながらも俺に視線を向けた。

 

「久しぶりだなアイラ。あの戦争が終結して以来か」

「お久しぶりです。変わりないようで安心しました」

「そういうお前も……いや少し雰囲気が以前と変わったか?」

「そうっすかね?あんまり自覚ないですけど」

「あぁなんというか、以前はもっとこう…常に張り詰めたような空気をまとっていたが、今はそれを感じない」

「……まぁ毎日のように戦場でしたからね。それから解き放たれれば緩くはなりますよ」

「つまりたるんでいるということか」

「え?いや違いますって!今のは言葉の綾というか、緩くはなったけどまだ緩くはないと言いますか、緩いの最終系には至っていないというやつです!」

「何言ってんだお前」

 

俺もそう思うわ。

 

「ふふ、冗談だ。……あぁそういえばスピアからも伝言を預かっている。『女の扱いに困ったら相談しに来いよ』…だそうだ」

「じゃあ俺からも伝言お願いします。『行くことはないから安心しろ。後、近衛の仕事サボって街に降りてきてるのバレてるぞ。王女様が切れてた』って」

「了解した。……私は聞かなかったことにしておこう」

「あいつは一回怒られる必要があると思います」

「私も常々そう思うよ」

 

「さて、元気な姿も見れたところで私はそろそろ戻るよ」

「あれもう帰るんですか?集合時間まだまだ余裕あるんで話す分は問題ないですけど」

「騎士団長としての業務がまだ残っているのでな」

 

そういえばそうだった。フィリア解放軍で部隊長を務めていたころイメージ強かったから騎士団長になっていること忘れていた。大きく出世したなぁ……いやでも元々副団長だったからそうでもないのか?

 

「また会おうアイラ。次は式場でな」

「まだ早いですって!……ヒネーテさんこそ、遅れないように気をつけてくださいねー!」

「はははは、殺す」

「冗談ですまじトーンやめてください怖いです」

 

 

その背が見えなくなり、命の危機がようやく過ぎ去ったころ、マーセが安堵するように息を吐いた。

 

「いやーなんかヒネーテさんとお前が変わってなくて安心したわ」

「ん?別に俺ヒネーテさんと喧嘩したことないぜ?」

「喧嘩ではないけど、あっただろ。あれ」

 

あれってなんだ?と思ったけど心当たりがありすぎるわ。

 

「あー……あれね。俺がやらかしたやつ」

「お前が帝国に裏切ったやつな。……あの時お前いなかったからわかんないだろうけど、ヒネーテさんぶち切れていたんだぜ?」

「まじかよ。……それは悪いことしたな」

「あーいやお前が裏切ったことに対してではなくて、お前が裏切ったことを信じそうになっていたやつらに対してだけどな」

「え?」

「『自分の気持ちに素直になれないような不器用さと、感情がすべて表情に乗っているような馬鹿顔で、スパイなんてできるわけないだろう!』…って言ってたな」

「……え、それ俺めっちゃ馬鹿にされてない?」

「でもそのおかげで皆納得してたぜ?」

「俺実はそんな目で見られてたの!?」

「たぶんお前だけだぜ?気づいかれてないと思っていたの」

 

嘘だろ?裏切る前の気づかれないようにするためのポーカーフェイスも、感情を押し殺した演技も全部バレてたの……?嘘でしょ……。

 

「……え、ってことは……その…リコリスへの…想いも?」

「それこそバレバレだっての。むしろ知らない人のほうが珍しいと言えるレベルだぜ?」

「ノー…………」

 

あんなに葛藤していたのに皆にはもうバレていたのかよ……。え、何じゃあ俺がアルスに、リコリスは異性としてどう?って聞いているときにも、カマかけてきてんのかこいつふふふ可愛らしいことって笑われてたってこと?嘘だろ?え、ちょ、それ俺めちゃめちゃ恥ずかしいやつじゃん……。

 

「もう殺してくれ……」

「バカ言えこれからが本番だろうがよ」

 

 

 

「それじゃ俺もそろそろ戻るわ」

「ん?あぁもうこんな時間か」

 

時計を見れば、約束の時間までもう少しに迫っている。結構長いこと話し込んでしまっていたみたいだ。

 

「じゃあな!楽しんでこいよ!」

「おう!ありがとな!」

 

……良い奴だなあいつは。人の緊張をほぐしに来てくれて、そして結果として空振りだったけどヒネーテさんとの問題も取り持とうとしてくれて、できた男だよほんと。

 

「あ、そういやアルスも話したいことがあるって言ってたからもうすぐ来るかもな!修羅場にならないように気をつけろよー」

「お前そういうことは先言えよ!」

 

前言撤回。やっぱくそだわあいつ。

 

 

 

 

「やぁアイラ。傷はもう大丈夫かい?」

「……久しぶりだなアルス。忙しい時期だけど抜けてきてよかったのか?」

「友人に会うくらい構わないさ」

「そうか……」

 

……正直気まずい。あの一件のことはすでに皆に説明し納得と拳をもらったから心残りは少ないのだが、問題はリコリスの件だ。

 

リコリスはアルスのことが好き。それは誰しもが知っていることで、俺もその想いを叶えるために必死にサポートした。リコリスのことよろしく頼むぜ、なんて後方兄貴面をやったりもした。

 

にも関わらず俺はリコリスの想いではなく自分の我儘を押し通そうとしている。恥ずかしいことこのうえない。

 

「アイラ、悩むことはないよ。きっとうまくいく」

 

そんな俺の様子を見てか、いつも通り堂々とした様子でアルスは口を開く。違うんだよ、そういうことじゃないんだよ。と言おうとして少し考える。

 

リコリスがアルスのことを好きなのはきっと今も変わらない。だというのに、こいつは何食わぬ顔でここにいて俺の応援をしている。

 

なるほど。ギルティ。

 

「アルス。歯食いしばれ」

「え?」

「何でてめぇは蚊帳の外みたいな面してんだバカヤロー!全部てめぇのせいだろがぁぁ!!!」

 

振り絞った拳をアルスの頬へ向けて思いっ切り突き出す。まさか、殴られると思っていなかったのかアルスはその拳を正面から受け軽く吹っ飛ぶ。

 

「アルス様!?」

 

往来から何人か人が飛び出す。今やこいつも英雄だ。護衛の数人、潜んでいたんだろう。

 

「ど、どうして……?」

「うるせぇ!リコリスはあんなにアタックしているのにどうしててめぇは何も返事を返さないんだよ!」

「だって君が」

「俺なんて気にしてんじゃねぇよ!」

「え?だって君はこれからリコリスと」

「うるせぇ死ね!」

 

感情のままに叫び倒す。突然殴ったから警戒していた護衛も事情がわかると、途端目が死んでいく。

 

「……なんで僕が怒られているかわからないんだが」

「惚れた女の思慕を応援することはおかしなことじゃねぇだろうがよ」

「でも君、これからリコリスとデートしにいくんだろ?」

「……そうだけど」

「………あまり言いたくはないが、君よくめんどくさいやつだと言われない?」

「うるさい」

 

そんなことは自分が一番わかっている。リコリスのことが好きだけど、リコリスの想いも尊重したい。考えの時点で矛盾してんだよ。

 

「……そういやなんか話あるって聞いたけど」

「あぁそうだった。つい忘れてしまうところだったよ」

 

そう言うとアルスは手招きでこちらに来いとアピールする。……ほかの人に聞かれるとまずい話だろうか。

 

「まだ公にしていないからここだけの話にして欲しいのだけど、実は……エア…王女様と婚約が決まったんだ」

「てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」

「理不尽なぁぁ!!!!」

 

悪は再度宙を舞った。

 

 

 

「もう時間だろうし僕は行くよ」

「帰れ帰れ」

「酷い言いようだな……。まぁいいさ、じゃあねアイラ。デート、成功するといいね」

 

こちらに手を振り、背を向け去っていくアルス。……婚約かぁ。アルスの想いも知っているだけに理解はできるけど、納得いかん。なんであいつはリコリスにあれだけアタックされてスルーできんの?眼球取り替えてやろうか?

 

「……」

 

まぁそれは今は置いておくか。もうそろそろ時間だ。身だしなみを整えて、今日の予定の確認を……。

 

 

「おはよう、アイラ。待たせちゃったね」

「っ!?」

 

突然横から鈴のようなきれいな声が響く。慌てて向けば、そこにはいつにもまして綺麗なリコリスの姿があった。

 

「あっ……んんん、おはようリコリス。……服似合ってます」

 

白のシンプルなセーターにフリルの付いた緩めの桜色ワンピース。それに――

 

「……髪飾りもいいと思います」

 

今までピンクのリボンだったのが、花をあしらったものに変わっている。綺麗、可愛い。そんな言葉しか浮かばない。天使が降りてきたのか?

 

「もう、間違い探しじゃないんだから、そんなにジロジロ見ないでよ」

「あ、すみません。申し訳ないです。以後気を付けます」

「あと口調もだよ」

「は……んんん、すまん、直す」

「それでよし」

 

ふふふ、と可愛らしく笑みを浮かべるリコリス。……よし、少しトラブルや失敗はあったけど、打ち合わせ通りファーストアプローチの普段とは違う部分を褒めるは成功だ。次は……。

 

「ねぇアイラ」

「ん?」

「さっきまでアルスと話していたでしょ?」

「え……」

「隠さなくても大丈夫だよ。アルスが来た時にはもう噴水の裏にいたから」

「え」

 

時間が止まったような気がした。最初からいたってことはつまり、話したことも全部聞こえていたってことだよな?

 

「……噴水の音で何を話しているかはわからなかったけど、私見ちゃったんだよ。アイラがアルスを叩いて飛ばしているところ」

 

……首の皮一枚繋がったと思ったらもっとまずい事態だこれ。リコリスが想いを抱いているのはアルス。そのアルスを俺が殴り飛ばしているのを見たリコリスがどう思うかなんて想像に容易い。

 

「待ってくれ!いや言い訳はする気はないけど、これだけは言わせてくれ!悪意を持って殴ったわけじゃない!あれは友達同士のじゃれ合い的な、そういうやつだ!」

「でも死ねって聞こえたよ?」

「男友達間ではよく、こんにちは死ね!みたいなことをよく言いあうんだ!だからあれもその一種というか、派生版というか、つまりそういうやつだ!」

「何言っているかわからないよ……。でも、喧嘩じゃないんだね?」

「あぁそれはない。何ならアルスにでもその護衛にでも聞いてみてくれ」

「よかった。安心したよ」

 

リコリスにとってはアルスは常に自分の中の中心にある人物。ただでさえ英雄となり忙しそうなのに余計な悩み事を増やさせたくはないのだろう。

 

「じゃあそろそろ行こっか」

 

太陽を背に笑顔でこちらを向き、手を伸ばすリコリス。本来の歴史では見ることができなかったその姿に思わず目頭が熱くなる。

 

「……あぁ!行こうか!エスコートは任せろ!」

 

 

 

 

 

――――――――――▼

 

 

 

 

 

知っている世界に転生したので好きなキャラを救いたい。

 

できれば、その想いも叶えてあげたい。

 

当初の目標のそれは、達成することはできなかった。

 

だって俺が助けたのは好きな人であってキャラじゃない。その想いも叶えることはできなかった。

 

だから、俺は叶えられなかったその想いの分まで幸せを与えたいと心から思う。

 

「アイラー、ご飯できたよー」

「おう、今行く」

 

ふと外を眺めると、見渡す限り一面に花々が咲いているのが目に入る。土から耕し、一本ずつ苗を植えた俺たちの自慢の庭。そこに、小さな若木が生えかけていた。

 

以前と比べ大きく育ったその様子に小さく笑みを浮かべると、居間へと向かう扉を開く。

 

「あ、やっと来た。ほら、早く座って」

「はいはい」

「それじゃ、皆揃ったし手を合わせて」

 

「「「いただきます!」」」

 

こんな幸せな日常を一生守り続けていこうと、心からそう思った。

 




読了感謝いたします。

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