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もう聞き飽きた。波が押し寄せて砂をかき乱し、退いてはまたかき乱す音が延々と続いた。自然現象のためどうにもならないが、気が狂いそうになるのは言うまでもない。とはいえ、現状を打破する方策は何も見つからないし、思いつきもしないし。せめてもの策で耳を手で塞ぐことがあろうが、手では密閉は不可能のため微かに音が入って来た。文明の利器のイヤホンでもあればよかったが、周囲一帯は赤く染まった瓦礫だらけである。仮に見つけたとしてもリユースすることは叶わない。よって、もう吹っ切れて慣れるしかなかった。
「あんたも波の音が聞き飽きたって、いい加減に認めたら?」
「…」
「そのだんまりもいつまで続くのかしら。こう見えてアタシは我慢にも強いわよ?」
「…」
「こんの馬鹿っ!」
「…」
「はぁ、茶番は疲れた。なんやかんやで色々とあったけど、このアタシが人を愛おしく思うことは一度も無かった。アンタを除いてね。ちゃんと愛しているんだから。何か反応してくれたら嬉しいかなって」
「…」
あまりにも非情な世界だった。いや、ここを世界を言うべきなのだろうかについて議論を尽くす必要があるかもしれない。しかし、議論が必要だとしても、題を論じる者は2人しかいなかった。流石に2人だけで議論を尽くしても、その結果が万人に納得のいくようなものであるかは確証できない。まぁ、答えを受け取る万人は万はおろか、十さえいなかった。
総じての故は全ては終末を迎えしサードインパクトにたどり着く。厳密にはもっと遡るだろうが、簡潔にはサードインパクトの一単語で事足りる。分かり易くするために仮称でここを世界と呼ぶことを前提にし、世界はサードインパクトの発生によって浄化された。全ての穢れあるモノは隅々まで浄化され、甘美なる永遠を得ている。永遠は究極的な「無」だったが、誰も文句を言わないので満場一致であろう。それとも、文句の一言も出せないからであろうか。それはさておき、砂浜に座り込んでいる少年と少女は『源』と『例外』だった。前者は説明も何もサードインパクトを起こした張本人であり、後者は文字通りの例外である。
少年は一人で他者の繋がりを断絶して生きることを望み、実行に移したのだから目論見は見事に叶った。
対して、少女は強く拒んだ。誰もが抗えぬ光に包まれようとも、一生懸命に拒み続けて得も言われぬ哀しき抵抗に徹した。皮肉にも彼女の抵抗は実を結び、高貴なる浄化を皆と違った形で終える。己を失うことなく維持したが、何もかもは原形を留めていなかった。するとたちまち嫌悪感が襲い掛かってくる。
「素直さが足りなかったのかな…」
湧き上がる嫌悪感を隣で体育座りして海を見る少年にぶつけることがあった。だが、いくらぶつけても彼は動じない。否、彼こそが真なる無だった。叩かれようと、雑言を吐かれようと、刺激的な姿を見せられても何も言わない。微動だにしなかった。それでも彼女は毎日繰り返していると、真実に気づくことになる。
「私はシンジを愛していた。そして、今もこれからも。だから、こうして生きてる」
いったい、自分には何が足りなかったのであろうか。答えは素直さであることを今更になって知った。過去の辛すぎる経験が自分を無意味な殻に閉じこもらせ、周りを拒絶したツケが回り回って今に至ると。唯一無二、自分の感情をむき出しにして接したモノが彼で、彼が無を生み出しても自分は彼へのアイを以て躱した。そして、巡り巡っての終末の世界で彼に身を寄せる。
「無から帰ってくるまで…私は待ち続ける。今度は素直になるからね。シンジ」
今ばかりは波の音が心地よかった。