幼馴染と平和な学校生活を謳歌したい   作:外崎 赫一

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 はじめまして。小説投稿をするのはこれが初なので拙い部分が多いかと思いますが、よろしくお願いします。



第1章「ようこそ実力至上主義の教室へ」
1.「入学」


 僕の名前は氷知(ひじり)澄春(すみはる)。今日から高校生になる、思春期真っ只中の15歳だ。髪は灰を被ったような薄いグレーで瞳は黒の、至って普通の高校生男子だと思う。

 

 そんな僕は今、進学先の高校へと向かっているバスの中で、桜の並木をゆったりと眺めて目的地に到着するまでの時間を過ごしている。本当ならば読書の時間に充てたいのだが、車酔いしそうなので僕はやめておいた。

 

 桜の並木の道を駆け抜けるバスの中で、この先どんな学校生活が待っているのだろうかと思いを馳せながら、腕時計の時間を確認した僕は隣の座席で読書に(いそ)しんでいる幼馴染に声をかける。

 

「もうそろそろ学校に着くよ、ひよりちゃん」

 

「……もうそんな時間ですか?」

 

 読んでいた本をパタリと閉じ、件の少女――椎名(しいな)ひよりはこちらを見てそう言った。

 

「うん。あと5分くらいで到着するよ」

 

 それを聞いて本をスクールバッグに仕舞った彼女は、ふわぁと小さな可愛らしい欠伸(あくび)をしてからこちらに向き直った。

 

 小学生の時から9年間ずっと見てきた顔だが、やはり改めてしっかりと見ると、ずば抜けて整った容姿をしていると思う。

 

 僕の胸中を知ってか知らずか、綺麗に整えられた銀色の髪の彼女のアメジストの様に透き通る瞳がこちらに向いた。読んでいた本が物語の佳境に差し掛かっていたからなのか、少々名残惜しそうな感情を瞳の奥に秘めているようにも見えるが。

 

 申し訳ないことをしてしまったと思いつつも、降車する前に話題を振っておくことにする。バスが停車するまで会話もなく無言というのは寂しいからだ。

 

「ひよりちゃんは高校生活、楽しみ?」

 

「はいっ。早く学校の図書館に行って、本が沢山読みたいです」

 

「あはは、君は本当に昔から本を読むのが好きだね」

 

「ええ、大好きです。この『Xの悲劇』というエラリー・クイーンの作品なのですが――」

 

 ふわりとした笑顔を見せながら、彼女は先程まで読んでいた本について楽しそうに語る。僕もよく本を読むのだが、ひよりちゃんはそれ以上だ。

 

 本にかける情熱の大きさを表すとすれば、僕を月に例えるならなら彼女は太陽になるだろう。僕達二人は俗に言う本の虫なわけだが、彼女はその度合いが違い過ぎる。いつの日にかは「私の恋人は本です」と言い出してもおかしくないほどに、椎名ひよりという子は本を愛してやまない文学少女なのだ。

 

「悲劇シリーズの第一作にして内容は推理小説の王道そのもので、事件の矛盾点から犯人を導き出す解決編が素晴らしくて特に伏線回収は――」

 

 ……結局、ひよりちゃんの本の話(マシンガントーク)はバスが停車するまで止まらなかった。

 

 

 

   ◇◆◇

 

 

 

 5分後。

 

 目的地に到着し、彼女と一緒にバスを降りる。その先には天然石を連結加工して作られた大きな門が僕達入学生を待ち構えていた。

 

「今日から私達は、この場所で学校生活を共にするんですね」

 

 横に並び立っているひよりちゃんが門を見上げながら感慨深そうに言った。

 

――東京都高度育成高等学校。日本政府が作り上げた、これから先の未来を支えていくであろう若者たちを育成する学校だ。今日から僕達が通うことになる場所でもある。

 

「そうだね。後は一緒のクラスになれるといいかな」

 

 僕の願望(ねがい)とも受け取れる台詞(せりふ)に、彼女は微笑みを浮かべて肯定の意を示してくれた。

 

 少し心を躍らせながら校舎の中まで来ると、クラス表が貼られている掲示板の前には人(だか)りができていた。

 

「これでは見えませんね」

 

 彼女は遠巻きにその光景を眺めながら呟く。小柄なひよりちゃんでは、この人集りの中で自分のクラスを確認するのは至難の業だ。

 

「僕が見てくるから、ひよりちゃんはそこで待っててよ」

 

「分かりました。気をつけてくださいね」

 

 幼馴染からのささやかなご忠告を頂き、僕は集団の中に入った。身長180cmの僕が見に行った方が効率が良い。背が高い人がそんなに居なかったお陰で、割と早めに僕達の所属するクラスは特定することが出来た。

 

「おかえりなさい。クラスはどうでしたか?」

 

 戻ってきた僕に、ひよりちゃんが尋ねてきた。心做しか、少しドキドキしているようにも見える。きっと、彼女も僕と同じくらいこの学校生活を楽しみにしていたのだろう。

 

「僕達二人共、同じCクラスだったよ」

 

 そう伝えると、ひよりちゃんの不安と期待の入り混じった表情は、嬉しそうな表情一色の笑顔に変わった。

 

 彼女の笑顔はとても魅力的だ。もし都会に繰り出したとしたら、100人中100人が思わず二度見してしまうだろう。9年間ずっと傍にいた僕でも、未だにこれを見たら心打たれる破壊力なのだから。

 

 思わず頬が緩みだしそうになるのを僕はグッと堪えた。

 

 彼女には悟られなかったようで、なんとか無事に1年Cクラスの教室へと移動することできた。

 

 

 

   ◇◆◇

 

 

 

 Cクラスの教室をさり気なく一瞥すると、既に大半の席が埋まっていた。扉を開けたときに大半の人から目を向けられたのはなんというか、居心地が悪くて良い気分はしないものだった。

 

 初っ端から嫌な予感を感じてしまったが、気持ちを切り替えよう。自分の名前が記載されているネームプレートを探すこと数十秒。そして、それは見つかった……が。

 

「席がド真ん中って……」

 

 よりにもよって、どの席からでも注目されてしまいがちな中心、センター、またの名を『授業で一番先生に指名されやすい席(勝手に考えた名称)』なってしまうなんて……チクショウめ。これじゃあ授業でうっかり寝てしまったときに周囲から笑い者にされてしまうじゃないか……! 余談だが、ひよりちゃんの席は廊下側の一番後ろでしたとさ。おのれぇ、席を決めた存在Xめぇ……。

 

 席順を決めた誰とも分からない存在Xに向けて、お門違いな恨み節を内心で愚痴りながら落ち込む僕に更に追い打ちをかけたのは、それから3分後の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう白目向いても良いかな? 僕は悪くない。僕の右隣の席には髪の長いガラの悪そうな男子生徒が、左隣にはもはや同い年とは思えないガッシリとした体格でサングラスをかけた黒肌の巨漢の男子生徒が座っていた。左の人、属性過多にもほどがあるよね?

 

 前者は僕の勘が物凄く警戒のサイレンを鳴らすほどの、特にヤバイ雰囲気(オーラ)を放っている生徒だ。チラッとネームプレートを見ると龍園(かける)と書かれていた。名前の時点で既にヤバイ奴ではないかと思ってしまうインパクトがある。

 

 いや、これは僕の偏見だ。人を見た目や名前だけで判断するなと道徳で習ったじゃないか。まずは一声掛けてから考えることにしよう。

 

 ()くして、僕は右隣の生徒である龍園翔に声をかけようとしたのだが……。

 

(うわっ……)

 

 目線を少しだけ右の方に向けて龍園君の横顔が視界に入ったとき、戦慄してしまった。彼は獰猛な笑みを浮かべながら教室全体を眺めていたのだ。

 

 ヤベェなコイツ、と僕が思ったのは勿論のこと、龍園君と目が合った生徒は皆、萎縮しながら即座に違う方向を向いている。イケメンに見られると女性はキュンと来るものだが、流石に怪しそうな顔の人に見られても嬉しくはないし、怖がる。そりゃあ、皆そういう反応するよね……僕だってそうするに違いない。

 

 この時点で、僕の頭の中にあった『龍園君に話しかけてみよう作戦』は中断されたのだった。

 

 

 

   ◇◆◇

 

 

 

「Hallow. My name is Sumiharu Hijiri. As the person in the seat next to me, thank you from now on.(こんにちは、はじめまして。僕の名前は氷知澄春。隣の席ということで、これからよろしくね)」

 

「Oh,you can speak English. Um,by the way, I haven't introduced myself yet. My name is Alberto Yamada. Nice to meet you too. Also,you can call me Alberto.(おお、君は英語が話せるのか。ああ、自己紹介がまだだった。私は山田アルベルトだ。こちらこそよろしく。それと、私のことはアルベルトと呼んでくれて構わない)」

 

 僕の差し出した右手を黒い右手がガッチリと握った。見かけによらない人もこの世には居るものだよね。

 

 さっきまで怖い奴だと思っててごめんよ、アルベルト君。君はこの学校で僕に最初に出来た友達だ。これからは友好を深めていこうじゃないか。

 

 左の席の生徒――山田アルベルト君は良い人だった。右隣の席の不良君とは大違いの温厚でおおらかな性格をしている。

 

 彼と握手をした後は、会話に花を咲かせた。聞いてみれば、登校した直後は周りからの視線が気になったり、他の人と上手く意思疎通(コミュニケーション)出来るか心配だったらしい。そんな時に僕が話しかけたことには感謝しているようだった。お陰で少し緊張が和らいだ、とアルベルト君は(英語で)言っていた。名前からしてなんとなくわかっていたことだが、彼は日本人とアメリカ人のハーフということもわかった。

 

 そんなやりとりが終わってから程なくして、このクラスの担任と思われる先生が入ってきた。

 

「皆さん、一旦席に着いて下さい」

 

 来た先生は……教師と言ったほうが合っている気がするかな、四角い眼鏡をかけたサラリーマンに近い雰囲気を感じられる人で、数学の教師をしていそうな風貌だ。完全に偏見だけれど、几帳面そうな感じがする。教師の人は全員が席に座ったのを確認したのか、話を始めた。

 

「……まずは新入生の皆さん、入学おめでとうございます。私はこのCクラスの担任を務めることになった坂上数馬です。担当科目は数学です」

 

 予想通りというか、坂上先生は数学担当だった。まぁ、それで何かあるわけじゃないんだけれど。

 

「この学校には学年ごとのクラス替えはありません。卒業までの3年間は私が担任教師を務めます。よろしくお願いします」

 

 クラス替えはないのか。ひよりちゃんと三年間一緒のクラスなのは凄く嬉しいけれど、このクラスに馴染めるか心配だな。中学校は不良の溜まり場みたいな場所だったし。このクラスはその雰囲気にとてもよく似ている。周りのメンツを見る限り、明らかに不良のような面構えや格好をしている生徒ばかり居るのだ。

 

 まさかとは思うけど、他のクラスも同じような生徒ばかりだったらどうしよう。そうだったら、来る学校を間違えたかもしれない。

 

 でも、それは流石にないか。一応、ここは政府主導で作り上げられた学校なのだし、採点基準も他の高校と比べて厳しいはずだ。皆、外見が悪そうなだけで案外頭は良いのかもしれないな。たまたま()()()()()()()()()()()()()()()配属されているのかもね。

 

「今から1時間後に入学式が行われますが、その前にこの学校の特殊なルールについて記載された資料を配ります」

 

 前の席の青い髪の女子生徒から資料が回されてきて確認すると、どこか見覚えがある資料だった。

 

「先程配った資料は、皆さんが合格通知を受け取った際に同封されていたものと全く同じものです。内容を覚えている人は読まなくても大丈夫ですよ」

 

 確かこれは、入学案内と一緒に入ってた資料だ。合格したと分かったときはウキウキしながら何回も読み返したんだっけ。改めて思い出すと、あのときの僕はとても恥ずかしかった。ひよりちゃんと手を取り合って喜んでいた気がするな。……これ以上思い出すのはもうやめにしよう。

 

 若かりし頃(約1ヶ月前)の黒歴史を頭の中で抹消した僕は、配られた資料を簡単に読み返すことにした。

 

 高度育成高等学校の特殊なルールは大体こんな感じだ。

 

・在学中は施設内の寮での生活が義務付けられる

・特例を除き外部との連絡の一切を禁ずる(肉親であろうと学校側からの許可が降りない限り不可)

・許可なく学校の敷地内から出ることを固く禁ずる

・Sシステムを導入し、それによるポイントを敷地内での通貨として使用する(現金の使用は不可)

 

 寮生活は初めてだが、これも僕がこの学校に進学することに対して喜びを感じていたことの一つでもある。だってほら、寮生活ってことは個室が使えるわけでしょ?修学旅行みたいで謎の高揚感があるんだよね。他の人の部屋に行くこともできるから休日とかに気軽に遊びにも行けるし、最高じゃないか!

 

 外部との連絡については、特に思うところはない。情報漏洩を防ぐためとか色々あるから仕方ないのだろう。

 

 許可なく敷地外に出ることを禁じているが、その点に関しても困るようなことはないはずだ。この敷地内にはカラオケや映画館、カフェ、ブティックなどの商業店が展開されていて、それらが小さな街を形作っている。勿論のこと、本屋があるのも確認済みだ。休日はそこでのんびりと欲しい本を探したいものだ。図書館には置いていないような本もあるだろうし。

 

 とにかく、生徒が生活に不自由するようなことがないようにあらゆる施設が配備されていて、その広大な敷地は60万平米もを超える。こんなに土地を使って、政府は財政面の方は大丈夫なのか心配になってくるが、国民の僕が言ってどうにかなる話ではないので考えないでおこう。

 

 そしてこの学校最大の特徴ともいえるルールこそが、Sシステムだ。

 

「今から学生証カードを配ります。これ一つで、敷地内にある全ての施設を利用することや、商品を購入することが可能です。しかし、それにはポイントを消費することになるのでくれぐれも注意して下さい。学校内においてこのポイントで買えないものはありません。学校の敷地内にあるものならば、()()()購入が可能です」

 

 何でも、か…………この言葉を聞くと変なことを想像してしまいがちだが、何かしらの権利を買うといったことも可能だったりするのだろうか。授業中に寝ても怒られない権利とか、テストの点数を改(ざん)する権利とか……流石にテストの点数を改竄出来る権利なんてないよね。あったら色々と悪用されそうで怖い。自分で考えてしまったことだが、この権利はあってほしくないし、あったとしても買いたくもない。人の道を踏み外しそうで一度やってしまったら戻れなくなりそうだ。汚職に手を染めてしまうことと同じだと思う。

 

 それに何より彼女のためにも、極力そういうことはしたくないのだ。

 

「施設ではこの学生証を機械に通すか、提示することで利用が可能になります。それからポイントは毎月1日に自動的に振り込まれることになっています。皆さん全員には平等に10万ポイントが既に支給されているはずです。念の為に確認をして、振り込まれていない人がいたらここで申し出て下さい」

 

 配られた学生証は、カードというよりも端末に近い形状をしている。画面をタップして残高確認をすると、キッチリ10万ポイントが支給されていた。

 

「……振り込まれていない人は居ないようですので、話を続けます。このポイントは1ポイント1円の価値があるという認識でお願いします。その方が価値観が分かりやすいと思うので」

 

 話を静かに聞いていたクラス内がざわつき始めた。支給額の多さに純粋に驚いている人も居れば、困惑している人、喜んでいる人も見受けられる。僕は純粋に驚いている人に該当するだろう。入学したばかりの高校生に10万という大金を与えるのは何か意図でもあったりするのだろうか?

 

「ポイントの支給額に驚いている人が多いようですが、無理もありません。この学校は実力で生徒を測ります。入学した皆さんにはそれだけの価値と可能性があるということです」

 

 まるで僕達を褒め称えるかのように坂上先生は言った。

 

 途端に上機嫌になる生徒達。何故かそれが宗教勧誘のように聞こえてしまった僕はおかしいのだろうか。先生の言葉の選び方に違和感が感じ取れた。言葉足らずというか、重要な部分を削ぎ落として伝えているような気がしてならなかった。

 

「ポイントについては、各個人が自由に使って頂いて結構です。ただし、卒業後には学校側が全て回収します。現金化は出来ませんので注意して下さい。他の人にポイントを譲渡することは可能ですが、強奪や恐喝のような手段を行うことは厳禁です。発覚次第、処分が下されます。また、いじめなどの非道徳的と思われる行為も同様に処分が下されますので、くれぐれもそういったことをしないように努めて下さい。学校はいじめ問題には敏感ですので。何か質問がある人は挙手をお願いします」

 

 一通りの説明が終わったのか、坂上先生は質問がないか確認をする。

 

「おい」

 

 その時、僕の右隣の席の龍園君が(おもむろ)に手を上げた。

 

「龍園君。目上の人には敬語を使うものですよ。今回は良しとしますが、次からは気を付けるように」

 

 敬語を使わないことに対して先生が注意を入れたが、彼は粗暴な態度を隠そうともせず質問を始める。

 

「ポイントは毎月10万支給されるのか? さっきの説明にはなかったが、もしかしてわざと言わなかったのか?」

 

「……ポイントは毎月1日に振り込まれます。今はそれだけしか伝えられません」

 

「ハッ、何か隠してるみてぇな物言いだな。……まあいい。俺からは以上だ」

 

 龍園君は「きな臭ぇな」という言葉を呟いた後、黙り込んだ。

 

「……他に質問がある人は居ないようですね。それでは、良い学校生活を送って下さい」

 

 

 

   ◇◆◇

 

 

 

『――それでは、良い学校生活を送って下さい』

 

 うん、録音はしっかり出来てるみたいだ。先生からの説明が途中から怪しいと思った僕は、支給された学生証端末に内蔵されていたボイスレコーダー機能を使い、さっきまでの会話を一通り録音しておいた。音質に問題はなし。これなら後で確認することが出来るから一安心かな。

 

「アンタ、さっきまでの話、録音してたの?」

 

「うん?」

 

 突然、前の席から声をかけられた。下を向いていたので顔を上げると、青い髪の女子生徒が怪訝そうな顔をしてこちらを見ていた。

 

「え、えーっと、どちら様でしょうか?」

 

 訝しむような視線だったので思わず(ども)っちゃったよ。

 

「そういえば自己紹介してなかったな。私は伊吹(みお)だ、よろしく。それであんたの名前は?」

 

 今度こそは焦らずしっかりと喋ろう。初対面の印象は大事だ(既に遅い)。

 

「僕は氷知澄春。よろしくね、伊吹さん。……えっと、会話を録音してたのは、聞き漏らしがないようするためだよ。何か変なところでもあった?」

 

「ない。けど、会話を録音する奴が居たことには正直驚いた。後、いくら何でも生徒全員に10万支給するこの学校はどうかしてると思う」

 

「な、中々ストレートに言うね……」

 

 伊吹さんは思ったことをはっきりと発言するタイプのようだ。

 

「言い方はアレだけど、僕もそれに関しては同感かな。毎月10万支給するのかどうかの質問についてもはぐらかしてたし、5月は支給額が変わるのかもね」

 

「あー、ありそう」

 

 声のトーンを物凄く低くした声で伊吹さんは言った。呆れているのか嫌そうにしているのか、よくわからない表情だ。

 

「取り敢えず、今月はポイントを節約して様子を見た方が良いかもね」

 

「……そうする」

 

 これで話は終わったとばかりに伊吹さんは前に向き直ると、端末をいじり始めた。割とアッサリ会話が終わってしまった。

 

(さて、ひよりちゃんにも話を聞いてみようかな)

 

 そう考えて席を立とうとした僕だが、誰かに突然右肩を掴まれた。

 

「おい待てよ」

 

「……何か用かな?」

 

「テメェもポイントの変動に勘付いてやがったんだろう? 何故質問しなかった?」

 

「いや、だって君が先に質問しちゃったから「とぼけんなよ。お前は他のことについても質問しようとしてたんじゃねぇのか?」……仮にそうだとしたら?」

 

 僕の問いかけに龍園君はニヤリと笑い、返事の代わりに折り畳まれた小さなメモを差し出してくる。

 

「端末にあった俺の連絡先だ、登録しておけ。詳しい要件は後で話してやる。その時にこの話の続きをしようじゃねぇか」

 

 連絡先の書かれたメモを受け取ると、クククと怪しげな笑みに変わった龍園君は席を立った。その間際に、僕にしか聞こえないくらいの小さな声で―――

 

 

 

 

 

「氷知澄春。昔のお前のことはよく知ってるぜ?」

 

 

 

 

 

―――僕が最も恐れていたことを囁いた。

 

 

 その瞬間、体全体に電流が流れたような衝撃が走る。僕という不完全な鏡の端に(ひび)が入り始めた気がした。

 

 

 

   ◇◆◇

 

 

 

「――はる君、聞いてますか? 澄春君?」

 

 ハッとなり、肩を揺すられていることにようやく気が付いた。

 

「ごめん。少しボーッとしちゃってたかな?」

 

「はい。心底驚いたという表情になっていましたが、お隣の席の方から何か言われたんですか?」

 

 心配した顔で僕のことを見てくるひよりちゃん。彼女からの曇りのない綺麗な瞳を向けられて、僕は幾分か心が苦しくなった。

 

「……もう居ないけど、さっきまで僕と話してた龍園君が、どうやら昔の僕のことを知ってたみたいなんだ」

 

「! ……それは、彼も同じ中学の出身ということですか?」

 

 それは違うかな、と僕は首を横に振って否定する。

 

「うーん、そうじゃない気がするよ。あんな危なそうな人が居たら少なからず噂ぐらいにはなると思う。今まで彼のような顔を見たこともなかったし、僕達とは違う中学なのは間違いないと思うんだ」

 

 龍園翔という男が、昔の僕の何をどこまで知っているのかわからないのがとても怖い。それは即ち、僕の弱みを握っているのと同じようなことだからだ。

 

 ……参ったなぁ。平和な学校生活を謳歌するのは、少し先になりそうだ。

 

 僕は無意識に頭を掻き毟っていた。ホント、悪い癖だな。釈然としない気持ちのまま、僕は入学式の行われる体育館に向かった。

 

 

 

 

 

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高度育成高等学校学生データベース

 

氏名:氷知澄春(ひじり すみはる)

クラス:1年C組

学籍番号:S01T004649

部活動:無所属

誕生日:2月10日

 

 

評価

 

学力:A-

知性:B+

判断力:A-

身体能力:A

協調性:C

 

 

【面接官からのコメント】

 入学試験において全体的に高い成績を残したが、面接時の受け答えは平々凡々というのが当てはまった。また、中学時代にいくつかの暴力事件に関与したとされているが、調査によると当人はほとんどの事件においての被害者であることが判明している。しかし、一部の事件では過剰防衛によって被疑者とはいえ相手を全治半年間以上などの怪我を負わせたりや、一時期不登校になるなどの暴力的な面、精神的に不安定である可能性も明らかになった。本来ならばポテンシャルを考慮してAクラスに配属されるのが妥当であるが、以上の出来事を考慮して、Cクラス配属とする。

 

【担任のコメント】

 入学してすぐに打ち解けて話せる相手が何人か出来ていたことから、交友関係に関しては特に問題ないと思います。今のところは特に怪しい行動も見受けられないため、このままの安定した学校生活を送ってもらいたく思います。




 氷知君のポテンシャルが全体的に高いかもしれませんが、中学時代がヤバかったからこれくらいはないと生き残れなかった、ということにしておいて下さい。後々、彼の過去については掘り下げていきたいと思いますので。

 変だと思った箇所があれば、誤字報告や感想で教えて頂けると幸いです。
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