幼馴染と平和な学校生活を謳歌したい   作:外崎 赫一

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 コロナワクチン3回目を打ってきました。左肩メッチャ痛いです。

 今回は正直、ネタ回になります。


5.「他クラスとの交流」

 龍園君と屋上で契約を結んできた翌日。

 

「おーい、椎名さーん、氷知くーん!」

 

 ひよりちゃんと朝のランニングをしていると一之瀬さんに会った。

 

「おはよう、一之瀬さん」

 

「おはようございます、一之瀬さん」

 

「二人共おはよう!」

 

 こちらが軽く手を振ると彼女は手を振り返し、長い髪を揺らしながらこちらへと小走りでやって来る。

 

「もしかしてだけど、いつもこの時間に走ってるの?」

 

 僕達の格好を見た一之瀬さんがそう聞いてきた。彼女も体育着姿であるので目的は同じのようである。

 

「はい、中学からずっと一緒に続けてますよ。……よろしければ、一之瀬さんも一緒に走りませんか?」

 

「え、いいの? それなら参加させてもらおうかな!」

 

 ひよりちゃんが一緒に走らないかと誘ってみると、一之瀬さんは快くOKしてくれた。

 

 それにしても、二人が一緒になると周囲がおおらかな雰囲気になるのは僕の気のせいだろうか。控えめな美少女と元気な美少女が並ぶと思わぬ化学反応を引き起こすものだなぁ。そんなことを考えている間に、ひよりちゃんと一之瀬さんで競争することになったらしい。準備体操を終えた彼女達は既に走り出す体勢に入っている。

 

「それでは……行きます!」

 

 ひよりちゃんの掛け声で二人は同時に走り出した。ゴールは今居る公園から少し離れた所の、特別棟にある自動販売機までとのこと。ここから一直線で行けるのだが、二人のレースの邪魔はしたくないので僕は遠回りしていこうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自販機の前で買う飲み物を選んでいると、二人の走る足音が段々とこちらに近づいてきて止まった。

 

「走るの、速い、ね……椎名、さん」

 

「3年前から毎日、ずっと走り、込んでいましたから。……ですが、一之瀬さんも、十分速かったです。後少しで、追いつかれてしまうところでした」

 

 話を聞くに、中々な接戦だったみたいだ。二人共々、額からポタポタと汗を垂らし、ハァハァと乱れた呼吸を整えながら話している。この表現は何だか卑猥に聞こえるな。……ともかく、お互いにベストを尽くした競走はひよりちゃんの勝利というのだけはわかった。

 

 二人が膝に手を着き、身体を小刻みに上下させている様はなんとも色っぽい。身体のある部分が揺れて……いい加減にそういう思考から離れろ、僕。そんな目で見てしまったことに気付かれたら人生終わるってば。

 

 僕は煩悩を振り払い、いくらか呼吸の整った二人の元へと歩み寄って飲み物を差し出す。

 

「二人共おつかれさま。汗掻いたでしょ、これ飲みなよ」

 

「「ありがとう!(ございます)」」

 

 差し出したのはスポーツドリンク。さっき自販機から購入したものだ。決して無料のを選んではいない。あんなことを考えてしまった罪悪感もあったので、そのお詫びという形で渡した。以後は気を付けなければ。

 

 受け取ったスポーツドリンクを一之瀬さんは片手でクイッと持ち上げ、豪快に飲み始めた。逆に、ひよりちゃんはボトルを両手で持ってゆっくりと飲んでいる。こういうところにも性格の違いは表れるのかと、当たり前のようなことを僕は今更ながらに考えていた。

 

 

 

   ◇◆◇

 

 

 

「おまえら全員、一旦教室に残れ。重大な発表がある」

 

 午後の授業も終わって放課後になると同時に、龍園君が皆に呼び掛けた。それを聞いて席を立つ者は居ない。統制が取れている。

 

「この約2週間で俺が知り得た情報をおまえらに提供してやる。金田」

 

「了解しました、龍園氏」

 

 金田君が黒板に大きく文字を書く。書き終えた金田君が退くと、黒板には『Sシステムの内容について』という文字がデカデカと書いてあった。

 

「全員、上を向け」

 

 龍園君の命令でクラスの全員が天井に目を向ける。最初は監視カメラの存在について知らせるようだ。

 

「えっ、監視カメラ!?」

 

「俺達……今までのこと、全部見られてたのか?」

 

「やべーってそれ! 内申に響くじゃんか!」

 

 今まで監視カメラの存在に気付かなかった生徒から驚きと動揺の声が上がる。先に気付いていた人は少数だ。普段、上を向く機会など全くといってないのだから仕方ないといえば仕方ない。

 

「こんなのにも気付けねぇとは、本当にバカな奴らだ。気付かせてやった俺に感謝しておけよ?」

 

 龍園君の言った「バカ」というワードに何人かは顔を顰めるが、監視カメラがあることに気付けなかったのは事実なので言い返せない様子だ。

 

「次にだが、来月の俺達に10万ポイントが支給されることは絶対にねぇ」

 

 それはすなわち、ポイントの支給額が変動することを示している。どういう原理で支給額が変わるのかについては、僕がまだ知れていないことだ。彼はどんな真実にたどり着いたのだろうか。

 

「そっ、それってどういうことっすか!? 龍園さん!」

 

「落ち着け、石崎。そもそも最初から10万()()こと自体がほぼ不可能なんだよ。入学初日にでも気付かなきゃ出来っこねぇんだ」

 

「つまり、来月支給されるポイントは10万ポイント未満ということですか? 龍園氏」

 

 眼鏡をクイッと上げながら金田君が聞く。動作が凄く様になっていると思ったのはここだけの話だ。

 

「そうだ。ある時に2、3年のクラスを見に行ってきたが、机の数が40個に揃っていなかった。これがどういうことか、わかるよな?」

 

「上級生のクラスでは退学になった生徒が居る、ということですか?」

 

 他の生徒が問い掛ける。それを聞いた龍園君は(元からだけど)悪そうな顔で肯定した。

 

「その通りだ。ついでに言っておくと、どの学年でもDクラスの生徒は山菜定食を食ってる奴が多かった。山菜定食は()()()()()()から良いよなぁ、ククク」

 

 山菜定食……食堂で唯一無料で注文できる料理だが、食べていたのは上級生の割合がとても多かったと記憶している。僕も一回食べてみたが、美味しいとも不味いとも言い難い不思議な味だった。注文した時に周りから「マジかコイツ」みたいな視線を向けられたことも付け加えておく。僕は以前に山籠りで山菜を食べまくったことがあるから、味に慣れていたというのもあるのだろう。ひよりちゃんが試しに一口食べたら眉をしかめて口を押さえていたし、他の生徒からすれば苦くて仕方がない代物なのかもしれない。でも、ご飯と味噌汁に漬物も付いてくるのだから無料で食べるには贅沢だと思うんだ。あれって元取れてるのかな?

 

「それが来月10万貰えないのと、どういう関係があるんだよ」

 

「まだわからねぇのか時任。()()を進んで食える奴なんてそうは居ない。ポイントが枯渇してるから仕方なく食ってるとしか思えねぇだろ?」

 

 龍園君、アレ食べたのか。後で食べた感想を聞いてみようかな。

 

「……これまでの龍園氏の話は全て関連していることなのですか?」

 

「あぁ。これだけヒントをくれてやれば気付く野郎は居るだろうな。その足りない頭使ってよーく考えてみろよ、おまえら」

 

 監視カメラの設置、来月のポイント支給額の減少、上級生から出ている退学者、無料で食べられる山菜定食……なんとなくわかった気がする。

 

「―――おまえはもう気付いてるだろ? 氷知」

 

 突き刺すような龍園君の言葉で僕にクラス中の視線が集まってしまった。余計なことを……。屋上のこと根に持ってるのかな?

 

 いつまでも視線を集めているのは気分が悪いから、さっさと思ったことを言って終わらせてしまおう。

 

「買いかぶり過ぎだよ、龍園君。大体のことは理解出来たつもりだけど、それが合っているかなんてわからないよ?」

 

「それでもいい。言ってみろ」

 

「……わかったよ。まず、監視カメラの存在とプライベートポイントを関連付けて考えてみようか。教室に設置されている監視カメラだけでもかなりの数がある。ただ僕達の行動を監視するだけなら少々やり過ぎなくらいにね。ということは、それだけ細かく監視する理由があるわけだ。……えーっと、ひとまずはこれを聞いて欲しいかな」

 

 僕は端末を操作し、マイクをスピーカーに切り替えると、ある音声を再生した。

 

『―――この学校は実力で生徒を測ります。入学した皆さんにはそれだけの価値と可能性があるということです』

 

「これは入学初日の坂上先生が説明していたことを録音した音声なんだけど、何か気付けた人は居るかな?」

 

 音声を止めて皆に問い掛ける。すると、金田君が挙手した。

 

「はいどうぞ、金田君」

 

「先程の音声ですが、『入学した皆さんにはそれだけの価値と可能性がある』という節の説明に違和感を覚えました。もしかするとですが、10万ポイントというのはあくまで僕達が入学した時点での『価値』を示しているのではないでしょうか?」

 

「僕もそういう風に考えてるよ。……さて、ここでもう一度監視カメラのことと関連付けると、何か見えてくるものがあると思うんだ」

 

 監視カメラ、価値……と金田君が呟いていると、突然ハッとした顔になる。

 

「……学校側は、監視カメラで僕達の価値を現在進行系で測っているということですか?」

 

 真剣な顔つきで彼は聞いてきた。そんな金田君の考察に、龍園君がわざとらしくパチパチと拍手をしている。

 

「正解だ。褒めてやるぜ金田。もう一つ聞いておくが、価値は個別で評価されるか、それとも全員同じ評価になるか、どちらだと思う?」

 

「後者の可能性が高いかと思います。連帯責任ならば支給される額がクラスごとに統一され、評価の低いクラスが貧困状態になるのも納得がいきます」

 

「……だそうだが?」

 

 ここで龍園君はギロリと皆の方へと視線を向けた。半数以上の生徒は事の重大さが理解出来てきたようで、焦ったような顔をする生徒も見られる。

 

「大体の奴は状況が掴めてきたようだな。4月は後半に入ったが、それまでおまえ達は何をしてきた? 授業を真面目に取り組まず、携帯を触っていた奴も居れば、居眠りしたり机の上に足を掛けてカッコつけてるバカも居やがったな。そういうのが俺達Cクラスの『価値』を下げてんだよ。……俺が言いたいことはわかってるよな? 石崎」

 

「はい! これからは授業に真剣に取り組んで遅刻や欠席をせず、クラスの評価を下げない模範的な生徒として努めるべきだと思います!」

 

「……俺が言いたかったのはそういうことだ。これからはクラスの評価を下げないように精々努めるんだな。来月も十分なポイントが欲しいのならそうしろ」

 

 最後に龍園君は「ククク、足を引っ張る奴は退学になるかもなぁ?」と付け加えて教室から出ていった。そういえば上級生の中に退学した生徒が居ることについての説明がなかったな。脅し文句に『退学』という言葉を使ったのかもしれないけど、十中八九これから学校側が新しい情報を開示してくるだろうし、特定の条件次第では退学になるのかもしれない。この学校は隠し事が多いことも段々とわかってきたし、油断は禁物だ。

 

 静まり返ったクラスメイト達に目を向けると、これから好き勝手しようと考えている人は誰一人として居ない様子だ。完全に静まり返って、誰も席を立とうともしない。ずっとこの雰囲気の教室に居るのは憚られるので、僕は後ろを向いてひよりちゃんとアイコンタクトをし、同時に席から立ち上がって教室から出ようとした。

 

「おい待てよ、氷知」

 

 だが、時任君から呼び止められる。デジャヴじゃないか。顔だけ彼の方へ向けると、時任君は煮え切らない表情をしていた。

 

「龍園の野郎が言ってたことが本当なら、前からこのこと知ってたのかよ? なら、なんで教えなかったんだ?」

 

 龍園君……本当に君は僕に面倒事を振り撒いてくれるね。含みを持たせた発言で意趣返しをしてくるとは。本人がここには居ないのに影響を与えてくる。何が『おまえはもう気付いてるだろ?』だ。やっと全貌が掴めてきたばかりなのにそれはないって。

 

「僕が気付けたのは龍園君の言葉があったからこそで、前からわかってたわけじゃないよ。皆と同じで、さっき理解したばかりだよ」

 

「本当かよ? ……前から思ってたんだが、既に龍園の連絡先を持ってたのはアイツと裏で繋がってるからじゃないのか?」

 

「そんなわけないよ。どちらかといえば、僕にとって彼は警戒対象だ。……ねぇ、石崎君?」

 

 石崎君の方を見ると、少し怯えた表情で頷いてきた。屋上での一件以来、石崎君は僕への印象が変わってしまったようだ。

 

「お、おう。確かに氷知は龍園さんとはあまり仲が良くない。近くで見てきたからわかる。……けど、いざという時には役に立つ奴だから、龍園さんは気に入ってるみたいだがな」

 

 ……明らかに最後の言葉は『言わされた感』が強かったぞ。こうなるのを見越して、予め龍園君は石崎君に伝えておいたな?

 

「―――そうかよ。それなら、おまえは俺の敵だ」

 

 ……は? なんでそうなった?

 

「龍園は俺の敵だ。アイツに気に入られてるならソイツも同類だ。それに、前から個人的におまえのことも気に入らなかったんだよ」

 

「……嫌われるようなことしたかな? 皆が見てる前でそんなこと言ったら、敬遠されると思うんだけど」

 

「ハッ、最初から誰かと仲良し小好しする気なんざ、これっぽっちもないんだよ! ダチなんか要らねぇな。欲しがるような奴は自分一人で動けない臆病者だけだ」

 

「クラス全体を敵に回すような発言だね。タイマンなら龍園君には負けないと思ってるの?」

 

 僕の問いに、時任君は自信満々気に言い返す。

 

「ああ? 当たり前だろうが。一対一なら、俺が勝つ。龍園は一人じゃ所詮ただのカスだ」

「時任、テメェ! 龍園さんが弱いってのかよ! 喧嘩売ってんなら、俺が買うぜ!」

 

 時任君の煽りに石崎君が激昂した。龍園君より弱いならカス以下って言われてるようなものだから怒るのは当然か。

 

「良いのかよ? クラスの評価が下がっちまうんだろ? イジメは発覚したら退学案件だし、誰も俺に手出しは出来ねぇんだよ!」

 

 その代わり、君に話し掛ける人は居なくなりそうだけどね。皆の前で堂々と敵対宣言をするのはかなりリスキーなことだ。勝算もなしに言ってのけたのだとしたら、それはもう自分に酔いしれているだけのバカである。

 

「くっ……だが、Cクラスでのおまえの立場はないと思えよ! 足を引っ張るようなマネしたら許さねぇからな!」

 

「上等だ。そのうえで俺は龍園を倒す。おまえらの王様が引き摺り落ろされる時を楽しみに待ってるんだな」

 

 そんな捨て台詞を吐いて席から立ち上がる時任君。すれ違う時に睨まれたが、下らない理由で因縁をつけられるのは本当に困る。どうしてこのCクラスは問題児が多いのだろうか。高校生活まで荒れるのは嫌だよ。

 

 

 

   ◇◆◇

 

 

 

 時任君の盛大な敵対宣言から3日後。昼休みに一之瀬さんからメッセージが届いた。

 

 

【一之瀬 帆波】:やっほー! 今日の放課後にBクラスの皆や他クラスの人達とカラオケに行くんだけど、椎名さんと氷知くんも一緒にどうかな?

 

【椎名 ひより】:今日は図書館が閉館で部活もないので、ご一緒させてもらいますね♪

 

【氷知 澄春】:僕も今日は特に用事がないから参加するよ。よろしくね!

 

【一之瀬 帆波】:大歓迎だよ! Cクラスからは二人しか呼んでないけど、他にも行きたいっていう子が居たら誘ってあげてね!(^○^)/

 

 

 さて、どうしよう。Cクラスが鎖国状態だから僕達以外に行ける人が居ない。龍園君を誘うか? いや、雰囲気ぶち壊しにしそうだから却下だ。取り敢えずは二人で行くことを報告だけしておこう。

 

 

【氷知 澄春】:Bクラスの一之瀬さんからカラオケに誘われたから行ってくるよ。他クラスからも何人か来るみたいだけど

 

【龍園 翔】:ひよりも一緒か? それに、行くなら他クラスの動向も探っておけ。情報は多いに越したことはないからな

 

【氷知 澄春】:了解。ひよりちゃんも一緒だよ。本人の許可なく下の名前で呼んでる件に関しては後でゆっくり話そうか?

 

【龍園 翔】:ククッ、怖え怖え。情報収集に関してだが、特にAクラスが重要だ。それとなく会話して情報を引き出せ

 

【氷知 澄春】:スパイの真似事は苦手なんだけどなぁ……。ていうか、何でAクラス?

 

【龍園 翔】:これからの戦いにおける重要な鍵になるからだ。もうじきわかるぜ。詳しくは話さんがな

 

【氷知 澄春】:そうかい。まぁ、情報収集は出来る限り頑張ってみるよ

 

 

 友達からカラオケに誘われただけなのに、こんなに背徳感のある作業も同時並行でこなさなければならないなんて。僕が思うに、これから他クラスとは敵対しなければならないんだろうなぁ。ウチのクラスのリーダーは好戦的過ぎる。厄介事に巻き込まれないことを願おう。

 

「はぁ……それはそれとして、カラオケ行ったことないから何歌えばいいんだろう……?」

 

 目下の問題は、カラオケに行った経験がない僕はどうすればいいかだ。知ってる曲とか一部のアニソンくらいで、流行りの曲とかは全く知らない。折角誘われて行かないのはもったいないから勢いでOKしちゃったけど……。

 

「澄春くん……」

 

 頬杖をつきながらどうしようかと悩んでいると、ひよりちゃんから声が掛かった。少し申し訳なさそうに聞こえるが、嫌なことでもあったのだろうか。

 

「どうしたの?」

 

「それが―――」

 

 顔を俯かせ、モジモジしながら彼女は口を開いて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――カラオケって、何を歌えば良いのでしょう……?」

 

「……」

 

 ひよりちゃんも僕と同じこと考えてたよ。こんな時、どう返事をすれば良いのかわからなくて、お互いにしばらく沈黙していた。

 

 

 

   ◇◆◇

 

 

 

 そんなこんなで放課後を迎えた。

 

 カラオケに着くなり、受付を済ませると指定された番号のルームへと向かう。廊下の地図を見ると、店内で一番大きな部屋の番号だったことから、かなりの人数が来ていることが予想できる。

 

「「お邪魔します……」」

 

 ドアを開けると、既に一之瀬さんとBクラスの生徒と思われる人達が揃っていた。人数から見るに、他クラスの生徒はまだ来ていないようだ。

 

「いらっしゃーい、二人共! 今日は楽しんでってね!」

 

 一之瀬さんが満面の笑みで出迎えてくれた。彼女の横では数人の男女が座って、機械を操作しながらワイワイしている。一之瀬さんの声でこちらに気付いた彼らも続いて歓迎してくれた。

 

「俺、柴田颯っていうんだ。よろしくな!」

 

「安藤紗代でーす。よろしくね!」

 

「浜口哲也と言います。よろしくお願いします」

 

「私は南方こずえ。よろしくね〜二人共」

 

 そんな感じで次々と自己紹介が進んでいく。皆、言葉にそれぞれの特徴があって馴染みやすい生徒ばかりだ。こちらも簡単に自己紹介を済ませて椅子に座ると、部屋のドアが開かれた。

 

「おっす、少し遅れちゃったかな?」

 

 金髪を後ろに纏めたイケてる風の男子を筆頭にゾロゾロと入ってくる。

 

「俺達はAクラスだ。ついでに言っとくと、俺の名前は橋本正義だ。今日はよろしくな」

 

 その生徒―――橋本君はニカッと笑って挨拶する。他のAクラスの生徒も続いて挨拶を終えると、空いている席に座った。

 

「Dクラスの櫛田桔梗ですっ、今日はよろしくお願いしまーす!」

 

 それからすぐにDクラスの生徒達も合流して、来る人は全員集まったようだ。全員が着席すると、一之瀬さんが進行役で交流会が始まった。

 

「今日は皆、集まってくれてありがとう! これから同じ学び舎で過ごす仲間として、親睦を深めていこうね!」

 

 マイクを取った一之瀬さんがそう言うと、「おーー!」とクラス関係なく男子達が声を上げて盛り上げる。女子達も楽しげに会話をしていて、皆テンションは上がっているようだ。こういう集まりに来たのは初めてだけど、なるべく沢山の人と交流していきたいな。

 

「じゃあ、まずは誰から歌う?」

 

 名前も知らない男子が聞くと、Bクラスの男子から声が上がる。

 

「やっぱり一之瀬さんが最初でいいんじゃね?」

 

「私もそう思うねー。一之瀬さんの歌声聞いてみたいし」

 

「うん、俺も気になる。まずは一之瀬さんが歌ってみてよ!」

 

「頑張って一之瀬さん!」

 

 それを期に同じような意見がBクラスから沢山出た。Bクラスの一之瀬さん人気凄いな。Bクラスの熱気に気圧されて、他のクラスも一番手は譲りたいようだ。最終的に満場一致で歌い始めは一之瀬さんということになり、彼女は「にゃはは、下手かもしれないけど頑張るね!」と苦笑しながらマイクを手に取って立ち上がった。

 

 

 

『Heart Pattern』

 

 

 

 大きな画面に曲名が表示されると、少し後に音楽が流れ出す。

 

 

 

 直らない機嫌は裏返しのFace

 

 ほんとはもっと自重だってしたいの

 

 愚痴ばっかりで愛嬌なし

 

 ……

 …………

 ………………

 

 眺めた愛の重さ計って

 

「わからない」恋愛って何だ?

 

 とりあえず答えはまだ保留で

 

 驚く君の相手しよう

 

 ねぇ頭の中混乱してヤダ!バカみたい

 

 

 

 一之瀬さんが歌い終わると、拍手が巻き起こった。あれは歌手レベルなんじゃないかと思う。女子達は途中から合いの手を入れて盛り上がってたし、彼女の歌は物凄く上手かったのだけは良くわかった。

 

「……今のは『ニセコイ』のエンディングテーマですね」

「そうなの? 聞いた感じだとラブコメ系のアニメっぽいけど」

「そうですよ。私もアニメは見てたので、聞いてて凄く楽しかったです」

 

 そういえば、ひよりちゃんも合いの手を入れてたな。一部の男子も盛り上がってたけど、女子の盛り上がりようはそれ以上に凄まじかった。全然知らないけど、ラブコメ系のアニメって凄いんだなぁ……。

 

 

 

 それからというもの、最高潮で迎えたスタートの勢いで次々と各々が熱唱していった。途中で『DEATH NOTE』の『the WORLD』を歌う生徒も居れば、『脳漿炸裂ガール』を歌う猛者も現れた。これらは聞いたことがあったら少しはわかったけど、皆の曲のチョイスがわからない。流行についていけない僕は大丈夫なのか心配になってくる。歌うのアニソンでも引かれないよね? 他の人も歌ってるっぽいし。

 

「じゃあ、後は……氷知くんと椎名さんかな?」

 

 内心で歌える数少ない曲を選考していると、そんな声が聞こえてきた。い、いつの間にそこまで回ってきたのか。

 

「では、私が先に歌わせて頂きますね」

 

 ひよりちゃんが立ち上がり、マイクを手に取る。

 

 

 

『世界は恋に落ちている』

 

 

 

「!?」

 

 曲名を見て仰天したが、そんなことは関係ないように音楽が流れ始めた。

 

 

 

 世界は恋に落ちている

 

 光の矢胸を射す

 

 君をわかりたいんだよ

 

 「ねぇ、教えて」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 世界は恋に落ちている

 

 光の矢胸を射す

 

 全部わかりたいんだよ

 

 「ねぇ、聞かせて」

 

 手繰り寄せてもう0センチ

 

 駆け抜けた青春(ひび)

 

 忘れない忘れられない

 

 輝く1ページ

 

 

 

 曲が終わると、一之瀬さんの時にも負けないくらいの大きな拍手が巻き起こった。男子陣は涙を流しながら手を叩いているし、女子は暖かい眼差しで拍手している。かくいう僕はというと―――

 

「お、おい、大丈夫か? 滅茶苦茶泣いてるけど、次歌えるのか?」

 

―――顔を伏せて、隣の席の橋本君に心配されるくらいに号泣していた。

 

 彼女の声に聞き惚れてしまったとか、そういうレベルではない。歌詞の一つ一つが()()()()()()()()、序盤で静かに泣き崩れた。

 

「じゃあ最後は氷知くん、お願いできるかな?」

 

 一之瀬さんからお呼びが掛かり、全員の視線が僕に集中する。鼻を啜り、ハンカチで涙を拭い終えた僕は静かに立ち上がり、マイクを持った。

 

 僕が選んだ曲は―――

 

 

 

『unravel』

 

 

 

 教えて 教えてよ

 

 その仕組みを

 

 僕の中に誰がいるの?

 

 

 

 彼女の言葉に応えるように―――

 

 

 

 歪んだ世界にだんだん僕は

 

 透き通って見えなくなって

 

 見つけないで 僕のことを

 

 見つめないで

 

 誰かが描いた世界の中で

 

 あなたを傷つけたくはないよ

 

 覚えていて 僕のことを

 

 鮮やかなまま

 

 

 

―――僕は狂ったように歌い続けた。

 

 

 

 誰かが仕組んだ孤独な罠に

 

 未来がほどけてしまう前に

 

 思い出して 僕のことを

 

 鮮やかなまま

 

 忘れないで 忘れないで

 

 忘れないで 忘れないで

 

 

 

 周囲の反応など気にせず、自分の感情に任せて只管に喉を震わせる。

 

 

 

 教えて

 

 教えて

 

 僕の中に誰がいるの?

 

 

 

 歌い終わると、僕には周りの音が聞こえなかった。

 

 

 

   ◇◆◇

 

 

 

【一之瀬 帆波】:今日は楽しかったよ! 今度もまた行こうね、ひよりちゃん!

 

【椎名 ひより】:こちらこそ、お誘いありがとうございました、帆波さん。カラオケは初めてでしたが、とっても楽しめました♪

 

【一之瀬 帆波】:そっかあ。なら良かったよ! ひよりちゃんの歌、凄く上手だったからびっくりしちゃった(゚д゚)!

 

【椎名 ひより】:帆波さんの歌も上手でしたよ。いつも聞いていた曲だったので、テンション上がりました!

 

【一之瀬 帆波】:にゃはは、そう言ってくれると嬉しいなー。トリを飾った氷知くんも上手かったと思うよ♪

 

【椎名 ひより】:はい。とても感情の籠もった歌い方で、まるで彼の心情を表しているように聞こえて、私は途中で泣いてしまいました……(T_T)

 

【一之瀬 帆波】:確かにそうだったよね。サビのところで泣き出しちゃう女の子が多かったもん。氷知くんの歌声、聞いてると段々惹き込まれる感じがするんだよね。

 

【椎名 ひより】:ある意味では、澄春くんは女の子を泣かせる天才ですね……(・o・)

 

【一之瀬 帆波】:あ、あれは仕方ないと思うよ? 多分、皆感動して泣いちゃったんだと思うし、彼が歌い終わった後はシーンとしちゃってたから……

 

【椎名 ひより】:少し気まずかったですよね……澄春くんも何が起こったかわからなくてオロオロしてました

 

【一之瀬 帆波】:正直、あれはちょっと可愛かったと思うな。普段と違った一面が見れて面白かったよ。いつも真面目そうだったから尚更ね

 

【椎名 ひより】:そうですね。彼は普段しっかりしてるので、ああいう表情はあまり見せないんですよ。そういう意味では、今回彼が参加して良かったと思います

 

【一之瀬 帆波】:でも、ひよりちゃんにとってはライバルが増えちゃったんじゃないかにゃ? あの後皆で連絡先を交換した時に、氷知くんのところに沢山女の子達が集まってたけど

 

【椎名 ひより】:大丈夫ですよ♪ 私は彼のことを信じてますから

 

【一之瀬 帆波】:おお、絶対的な信頼だね……

 

【椎名 ひより】:彼も私に絶対的な信頼を置いています。お互いに助け合ってきましたから、それは揺るぎない事実ですよ

 

【一之瀬 帆波】:凄いなぁ。二人は固い絆で結ばれてるんだね!

 

【椎名 ひより】:その通りです!

 

 ……

 …………

 ………………

 

【一之瀬 帆波】:そろそろ寝る時間になってきちゃったし、一旦終わりにしよっか

 

【椎名 ひより】:わかりました。おやすみなさい(-_-)zzz

 

【一之瀬 帆波】:(つ∀-)オヤスミー

 

 

 

   ◇◆◇

 

 

 

【龍園 翔】:何か収穫はあったか?

 

【氷知 澄春】:Aクラスの橋本君っていう男子と個人的に仲良くなれたけど……中々に曲者だったよ

 

【龍園 翔】:Aクラスの橋本か。そいつから何か情報は得られたか?

 

【氷知 澄春】:今のAクラスは二つの派閥に分かれてるらしくて、二人の生徒のどちらがリーダーにふさわしいかで揉めてるみたい

 

【龍園 翔】:その二人の生徒の名前は?

 

【氷知 澄春】:葛城康平っていう男子生徒と、坂柳有栖っていう女子生徒だね

 

【龍園 翔】:葛城と坂柳か。ちなみに橋本はどちらの派閥に所属している?

 

【氷知 澄春】:坂柳さんの派閥って言ってたよ。得られた情報はそれくらいかな

 

【龍園 翔】:もっと他にはねぇのか?

 

【氷知 澄春】:ないかな。強いて言うなら、他クラスの女子達からやけにアプローチが多くて、アドレス帳の8割が女子の連絡先で埋まったことくらいだね

 

【龍園 翔】:ムカつく野郎だな。ハーレムでも狙ってんのか?

 

【氷知 澄春】:ハァ………………?何言ってんの?喧嘩売ってるなら買うけど。今度はフルボッコにしてさしあげようか?(#^ω^)

 

【龍園 翔】:丁重にお断りするぜ。生憎、テメェに売る喧嘩はねぇんだよ。……それより、どうしてそうなった

 

【氷知 澄春】:知らないよ。むしろ、僕の歌で大半の女子を泣かせちゃったんだけど?( ´Д`)=3

 

【龍園 翔】:訳のわからねぇこと言ってんじゃねぇぞ

 

【氷知 澄春】:ホントのことなのに……。橋本君の連絡先送るから、彼から聞いてみてよ

 

【龍園 翔】:あ? 何で俺がそんな面倒くせぇことしなきゃならねぇんだ?

 

【氷知 澄春】:Aクラスの情報と引き換えにCクラスの情報を伝えたら、橋本君が君と個人的に話がしたいって言ってたんだよ

 

【龍園 翔】:ふざけんな。勝手にCクラスの情報を教えるんじゃねぇ。橋本に何を教えた?

 

【氷知 澄春】:Cクラスが鎖国状態で、許可された人しか他クラスと交流が出来ない状態ってことと、Cクラスのリーダーが君だってことの二つ。タダで情報くれるほど優しい相手じゃないよ、橋本君は

 

【龍園 翔】:……そうか、ならまだ許してやる。だが、次はないと思えよ?

 

【氷知 澄春】:はいはい。Cクラスの王様は人使いが荒いお人ですね

 

【龍園 翔】:茶化すな

 

 

 

   ◇◆◇

 

 

 

「チッ、得られた情報はそれだけか。しかし、有益な情報は得られたな」

 

 氷知の奴が交流会でAクラスの情報を手に入れた。葛城と坂柳の派閥に分かれているらしいが、叩くのは時期尚早だろう。どちらかが弱みを見せた時がチャンスだ。争いは双方に綻びが出るものだと俺は知っている。

 

 ピコン!

 

 携帯が鳴ると、ヤツからAクラスの橋本とかいう野郎の電話番号とアドレスが送られてきた。仕事の早い奴は嫌いではないが、生意気な野郎は嫌いだ。そう思いながら橋本の連絡先を登録した俺は、すぐに橋本へと電話を掛けた。何度かコール音が鳴ってようやく掛かり、応答が返ってくる。

 

『もう掛かってくるとは思わなかったよ。君が氷知君の言ってたCクラスの王様、龍園翔君だね?』

 

「気持ちワリィ話し方はやめろ。素の状態で話せ。次にその喋り方したら切るぞ」

 

『……もう見抜かれっちまったか。氷知といい、あんたといい、勘が鋭いな。あんたとは上手くやってけそうで何よりだ』

 

「その喋り方の方が不快感は少ねぇな。さっきよりもよっぽどマシだぜ」

 

『そうかい。……で、本題は何かな?』

 

「おまえの目的は何だ?」

 

『色々な生徒と繋がりを持つことだけど? 人脈は多くて困らない。いざという時に役に立つからな。あんたとも個人的な付き合いをしたいってことだよ』

 

「ハッ、それは大変なことだな。だが、俺はそう簡単にはOKしねぇぜ? 俺にメリットがないからな。個人的な関係を築きたいならそっち(Aクラス)の情報を寄越せ」

 

『氷知とは違って優しくないねぇ。俺にメリットがなくなっちまうけど?』

 

「俺様と個人的な繋がりが出来るだけでも良いと思えよ。()()()()のことに十分な利益があるんだからな」

 

『……その様子だと、Sシステムについて大体は理解してるみたいだな』

 

「ああ。もうすぐ()()()()()()()()()ことも既に知っている。……どうだ?決心はついたか?」

 

『おう、そこまで知ってるならあんたの条件は飲んでやるよ』

 

「ククッ、決まりだな。おまえは俺と個人的な繋がりを持つ条件として、Aクラスの状況を定期的に報告しろ。有事の際は協力してやっても構わん」

 

『オーケー。それで良いぜ』

 

「この会話は録音してある。裏切ればどうなるか、わかるな?」

 

『怖えこと言うなって。これから仲良くしていこうぜ? 龍園』

 

「それはおまえの行動次第だな。こちらに有益な情報を寄越せば優遇してやるよ」

 

『わかったわかった。じゃ、切るぞ』

 

 そこで橋本との通話は終了した。まさかAクラスのスパイをやろうとするとは、橋本も中々にイカれた野郎だ。場合によっては奴と氷知がAクラスとCクラス間の外交的立場になりうるが、それはそれで面白い。俺にとって退屈しない学校生活が送れれば、それで良い。最後はAクラスもBクラスもDクラスも全て潰してやる。氷知の野郎も、全て俺が支配する。

 

「ククククク……楽しくなってきやがったぜ」

 

 これから起こるであろう出来事を想像しながら、俺は眠りにつこうとして思い出した。

 

「そういや、ヤツの歌の話について聞くのを忘れていたな」

 

 どうでもいいことだが、後で橋本に聞いておくか。

 




 主人公の氷知君は割と中性的な見た目です。一応、理由も考えてあります。
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