・男主視点。
――空条承太郎だって、不意打ちで親友と呼ばれたらこっそりテンションが上がるはず。
そしてちゃっかり、自分も相手の事を親友と呼んで既成事実にするはず。
――【悲報】自転車が盗まれました。
脳内で、そんなテロップが流れた気がする。……昨日まで自転車があった場所を見つめて、ため息をついた。
今日は学校も、バイトも無い休日だ。朝から自転車で生活用品と、食材の買い出しに行こうとアパートの駐輪場へ向かったら、既に自転車が消えていた。
どうやら無理やり鍵を壊されて、持っていかれたらしい。その形跡が残っている。……念のために、スマホで現場の写真を撮っておく。
盗難届を出すかどうかは、後で考えよう。買い出しに行く方が先だ。あ"ー……ついてねぇなぁ。
――この時点で、俺の運命が確定したのかもしれない。……そう思ったのは、全てが終わった後だった。
普段買い出しの時に利用しているスーパーまで、歩いて向かっていた時。俺は小さな公園の前を通り掛かったのだが……その公園から誰かがすっ飛んで来て、俺の目の前に転がった。
思わず悲鳴を上げると、何故かボロボロになっている男が俺を見て――ニヤリと嗤う。
刹那。俺の体は、見えない何かによって切り刻まれていた。
「――――」
視界がぐらりと傾き、地面に倒れ込む。……体中が、痛い。そして何故か、俺の血が空中に浮いて、男に向かって急速に流れていく。
俺の血は、立ち上がった男の背後に流れ付くと、見えない何かに吸い込まれているようだった。それに比例して、男の怪我が治っている。
おい、これ、まさか、
「――ふはは、ひひ、あっははははは!!今日はついてるぜぇ!まさか負ける直前に
男は笑い狂い、恍惚とした表情を浮かべている。奴は吸血鬼のように、俺の血を吸収して怪我を治したらしい。
「――――園、原……?」
そして、今世で聞き慣れた声が聞こえた。……公園の入り口で、美丈夫――承太郎がこちらを見て、立ち尽くしている。
はい、確定。――スタンド使い同士の戦いに、巻き込まれた。
(……マジで、ついてねぇぞ、俺……)
と、バタバタと駆け寄って来た承太郎が、俺の体を抱き起こす。
「園原!園原、園原……っ!!」
「……聞こえ、てる」
いつもの仏頂面はどうした?……そう聞きたくなる程、承太郎は必死に俺の名前を呼んでいる。
目の前に焦っている奴がいると、逆に冷静になるっていうのは、本当だったんだなぁ。吸血されてる最中なのに、頭は冷えていた。
すると、承太郎は俺の血が奴に向かって流れている事に気づいたらしい。恐ろしい形相で、男を睨んだ。
「てめえっ!よくも俺のダチを……!!」
「おやおやぁ?トモダチだったのかぁ、それは御愁傷様。なかなか美味だぜぇ!」
「っ、スタープラチナ――」
「おっと待て待ていいのか!?今オレをボコボコにすれば、その分トモダチの血もなくなるぞぉ?オレはそれを吸収して回復すればいい話だからなぁ!!」
「っ!!」
「これ以上血を失えば――そのトモダチ、死ぬかもよぉ?」
「……ぐ、うぅ……っ!!」
歯軋りをして男を睨む承太郎に対して、男はニヤニヤ嗤っている。……俺を、人質に取った。
承太郎の、足枷になってしまった。
これでは原作の時と同じだ。ラバーズ戦でジョセフを人質に取られた承太郎は、花京院達がジョセフの頭の中にいたラバーズを追い出すまで、その本体のスティーリー・ダンにいいように使われていた。
あの時は頼りになる仲間達がいたが、今は承太郎だけだ。……このままだと、こいつはきっと――
「そうだなぁ……やっぱり君の血が欲しいなぁ!君の血をオレにくれるなら、もうトモダチから血は取らないと約束しよう!!」
「…………」
「……っ、承太郎……!」
駄目だと、そう言いたくて、震える手で彼の服を掴んだ。……承太郎は俺の手を優しく包み、服を掴んでいる指をほどく。
それから俺を置いて立ち上がり、男の方へ向き直る。両手を大きく広げた。
「……いいぜ。そのナイフで、好きなように刺せよ」
「いやいやぁ、その前にスタンドをしまってもらわなきゃなぁ」
「…………ほら。これで満足か?」
「だめ、だ……承太郎、やめろ……っ!!」
腕で体を支えて起き上がり、承太郎を引き留めた。……彼は俺の方へ顔だけ振り向き、優しく微笑む。
――嗚呼、駄目だ。こいつ、もう覚悟が決まってやがる。
「……俺には当てても良いが、間違っても俺の後ろにいる園原に当てるんじゃねーぞ。少しでも当たったら、その時は――死んでも、呪ってやるぜ」
「…………は、はは……分かってるさぁ……」
男は顔を引きつらせながら、両手を承太郎に向ける。……肌を刺すような空気を感じた。俺の目には見えないが、奴のスタンド能力が承太郎を狙っているのだろう。
このまま、俺は黙って見ているしか無いのか?
(誰か――誰かいないのか!?承太郎を助けてくれるスタンド使いは、近くにいないのか!?)
誰でもいい!承太郎を、俺のダチを、
(……いや、誰かって、誰だよ?そんな奴、今は何処にもいないじゃねぇか)
ここは漫画やアニメの世界じゃなくて、現実だ。そこにスタンドバトルなんて危険な要素が混ざれば、いつ死んでもおかしくない……俺は以前、自分でそう思った。
そう、現実なんだ。都合よく誰かが駆け付けてくれる訳が無い。
承太郎が自分の身を守る気が無いなら、こいつを助けられる人間は……俺しかいないだろ!!
他の誰かじゃねぇ!!俺だけが、俺が――
「――俺の手で!承太郎を護るんだ!!」
そう叫び、邪魔くさい前髪と眼鏡を取っ払い、自身を奮い立たせ、自力で立ち上がる。
――その瞬間。白いドーム状の何かが、俺と承太郎の周りを包む。
それは透き通っていて、外から
ドームの先で、男の背後に赤黒いコートを着た
「「「――はっ?」」」
奇しくも、その場にいた人間3名の声が重なる。承太郎がばっとこちらに振り向き、俺を見て目を点にした。
いや、違う。見ているのは俺じゃなくて、俺の後ろだ。……ある事を確信しながらも恐る恐る、振り向く。
――純白の鎧と、翼。肌も真っ白で、顔には不思議な模様の金の刺青があった。長くて細い杖を手にしている。髪と瞳は黒い。そして、目付きの鋭い男だ。
「な……っ、誰だ?」
「――俺は、君自身だよ」
って、喋るのかよ!?
「おいおいおいおい!?聞いてないぞぉ!?君までスタンド使いだったのかぁ!?」
「園原、お前……!?」
あーっと、どうしよう。下手にスタンドの事を知ってたのがバレる発言をしたら、承太郎に怪しまれてしまう。この場では、どうするのが正解だ?
「大丈夫。俺に任せて」
「えっ?」
「……さぁ、志人。分からない事は俺が教えるから、まずは君が何をしたいのか、もう一度言葉にしてくれ」
「俺が、何をしたいのか……?」
……そんなの、決まってる!
「承太郎を――俺の親友を、俺の手で護りたい」
「そうだ。その意志を緩めないように、心を強く保ってね。……承太郎」
「!?」
「俺はね。護る事はできるけど、
今の時点では?……それはいずれ、攻撃もできるようになる可能性があるという事か?
「だから、承太郎――
俺と志人がこの結界を保っている限り、そいつはもう志人から血を吸い取る事ができない。思う存分に、殴れるよ!」
「なっ、何だってぇ!?そんなはずは――な、なっ、本当だぁ!吸い取れない!?」
これには俺も承太郎も驚いた。……確かに、さっきよりも体が楽だな。血も吸い込まれていない。
承太郎が嘲笑を浮かべ、男を見下す。美形の嘲笑&見下し、怖い。
「……そいつは、良い事を聞かせてもらったなぁ」
「ひ、ひひっ!?」
「スタープラチナ……!」
承太郎の背後に、屈強な戦士のスタンドが現れる。……な、生スタープラチナだ!!背中しか見えないけどカッコいい!!
「ほら、志人。見とれている場合じゃないよ。承太郎を護りたいんだろう?」
「お、おう!……って、俺は何をすれば?」
「簡単さ。イメージだよ。まずは、奴の目の前まで結界を広げる事を想像して。あ、奴を結界の中に入れたら駄目だからね。気を付けて」
言われた通りの事をイメージすると、結界が一気に広がった。男のスタンドが何度もナイフを投げても、結界は壊れない。そこへ、承太郎とスタープラチナが迫る。
「そう、上手。次は承太郎を護りつつ、スタープラチナによる攻撃の邪魔をしないように、結界の性質を少し変える必要がある。……さぁ、志人ならどうする?」
「イメージすればいいんだな?――結界は敵による攻撃を防ぐが、味方による攻撃なら通す!」
「正解!」
「承太郎!結界はスタープラチナの邪魔をしない!そのまま殴れ!俺達の分まで!!」
「――任せろ、
嬉しい事を言ってくれた承太郎は、休日でも被っている帽子のつばを触り、男に向かってびしっと人差し指を突き付ける。
「……親友とそのスタンドの分まで、この空条承太郎が、じきじきにブチのめす。――てめーは俺を怒らせた!それこそが敗因だ!!」
名台詞の重ね掛けと共に、オラオララッシュが始まった。……えっ、ちょ、長い?長いな!?ラバーズ戦の最後よりも長いかもしれない。
…………生きてると、いいな。あの男。
というか、生きてないと承太郎が殺人犯になってしまう。もしも死んでたら、さっきの承太郎じゃないが呪ってやる。
「――オラオラァ!!」
それにしても生オラオララッシュ、迫力満点!半端ねぇ!!
―――
――――――
―――――――――
戦闘後。結界の外に出た承太郎はブチのめした男を拘束し、地面に転がす。……男は気絶しているだけで、生きているようだ。承太郎が殺人犯にならなくて良かった。
安心すると同時に、念のためにまだ出しておいた結界と俺のスタンドが消えて、俺自身は体の力が抜けて倒れてしまった。承太郎が慌てて駆け寄って来る。
「園原!!」
「う……ありがと、な。俺達の分まで、ちゃんと、仕返ししてくれて、」
「もういい!無理に喋るな!気をしっかり持て。今から治療ができる奴を呼ぶ!!」
「――その必要は無いぜ、承太郎!」
「承太郎さん!!」
前世のアニメで聞き慣れた声が、2人分聞こえた。
「っ、ジョセフ!仗助!」
「お前がなかなか帰って来なかったんで、探しに来てみたら……いやぁ、派手にやったなぁ」
「その人、血だらけっスね!俺が治療しますよ」
「頼む、仗助」
……何だ?何かを、忘れている気がする。
「そんじゃ、すぐに治すんで、ちょっと待って――あ、え……?」
「……仗助?」
「ん、どうした?」
「――
シド。――そう呼ばれた瞬間、俺の頭に激痛が走った。
「あっ、がっ、あ"あ"あ"あぁぁぁ!?」
「園原!?」
「しっ、シドさん!?」
「こいつは……まさか、記憶が戻る前兆!?」
「うぐ、ぁ、いた、い……っ、があぁぁっ!?」
「しっかりしろ!園は、っ――志人!!」
「シドさ、っ、シドさん!シドさん!!」
「ぎっ、!!あ、――ジョー……?」
「え、」
痛みで目を限界まで開いた時。見知ったリーゼントの少年の、泣きそうな顔を目にしたのを最後に、視界が真っ暗になった。