・男主視点。
・キャラ崩壊注意。
――空条承太郎だって、親友がぶちギレる瞬間を見て青ざめる時があるはず。
それは、花京院達との交流を終えて、全員で財団の拠点から出ようと、ロビーに向かった時に起こった出来事だ。
「――あれー?承太郎さん?」
「あ?……億泰?」
虹村億泰。前世でも今世でも、仗助の親友である高校生。今世で彼と出会ったのは初めてだが……胸が、ざわざわする。
理由は、既に分かっていた。――嗚呼、嫌な予感がする。
「……お前、何故ここに?」
「兄貴と一緒に財団から頼まれた仕事を終わらせてよぉ、兄貴が今日中に報告終わらせたいっていうから、ここまで来たんだ」
「兄貴――っ、あいつもいるのか!?」
「えっ?おう」
あ、それはやばい。
「――おい、億泰!勝手に他所に行くな!」
「あ、兄貴」
咄嗟に、声が聞こえた方へ振り向いてしまい、その存在を認識して――思い出す。
全身が熱くて、苦しくて、痛くて、腰に……矢が刺さった場所から広がる、熱と痛みと苦しみ。熱い、熱い、熱い、痛い、痛い痛い痛い熱い痛い――苦し、い。
――また駄目だった。……あいつを殺せる奴は、一体いつになれば――
「――――息をしろっ!!志人!!」
「っ、は!?ぁ、かは……っ!!」
「園原!?」
「イギィッ!?」
「お、おいどうした!?」
「園原くん!」
「待てぇっ!!てめーは近づくんじゃねえぞ、形兆!!」
「な、何っ!?」
「えっ?あ、えっ?ジョ、ジョセフさん??あの人、一体どぉしたんスか?」
「承太郎!こいつらには俺が説明するっ!お前はそいつを抱えてさっきの部屋に戻れ!そいつを落ち着かせろォ!!」
「分かってる!!志人、抱えるぞ!……イギーはついて来てくれ。お前の力を借りたい」
「イギ?……イギギ」
……気がつけば、俺はまた息を止めていて、必死に呼吸を整えている間に承太郎に抱えられ、さっきまでいた別室に戻って来た。
俺はソファーの上に下ろされて、膝の上にはイギーを乗せられる。……撫でてると、ちょっと落ち着く。
「イギー。お前はそのままシドに付き合ってやれ。お前でもアニマルセラピーにはなるだろ」
「…………イギィ……」
仕方ねぇな、と言わんばかりに鼻を鳴らし、俺の指を少し舐めると、膝の上で丸くなった。……慰めてくれたのか?
「……そろそろ落ち着いたか?」
「あぁ……ありがとう、承太郎。イギーも……付き合わせて悪いな。ありがとう」
「ん」
「イギ」
そして静かになって……俺から、また口を開く。
「――虹村形兆」
「っ!!……知って、たのか」
原作で知った、とは言えないので。別の理由を話す。
「そりゃ、ファンクラブ持ちのジョースター家の人間と、その周辺にいる奴の顔と名前ぐらい、覚えてるさ。下手に近づいたら、ファンクラブが怖いからな。
だが、その中でも虹村形兆の事は、苦手だった。あいつ、俺達と同学年だろ?だから、記憶を取り戻す前も学校ですれ違う事があったんだが……その度に、胸がざわざわしてさ……嫌な感じがしたんだよ」
「……シド」
「あれってやっぱり、本能的に察してたんじゃねぇかな――前世で、自分を殺した相手を」
そうだ。俺は以前から……それこそ、前々世の記憶を思い出す前から、形兆の事を警戒していた。だが、今まではそれすらも忘れていた。
おそらく、無意識に形兆に関する記憶を封じていたんだ。俺の心を、守るために。
それが今回。4部時代の前世を思い出した俺が、改めて本人を目にしたから、パニックになったのではないか?最近は学校でも奇跡的にすれ違ってなかったし。
「……なぁ、承太郎。お前、億泰くんが"兄貴もいる"って言ってた時、妙に焦ってただろ?」
「!」
「あれって、知ってたんじゃねぇのか?前世の俺を殺した人間が、あいつだって」
「…………それ、は」
「あ、待った!……そう泣きそうな顔すんなよ。俺はお前を責めるつもりはない。不器用で優しいお前の事だ。俺が殺された時の事をなるべく思い出さないように、黙っててくれたんだろ?」
「…………」
「無言って事は、そうなんだな。ありがとう、俺を気遣ってくれて。……でも、できればあいつの事で、お前が知っている事があるなら、今ここで教えて欲しい」
「なにっ!?」
まぁ、聞かなくても前々世の記憶のおかげで大体知ってるんだけど。
聞ける時に聞いておかないと、後で俺が知るはずの無い事をうっかり言ってしまったら、まずい事になる。
ぎょっとしている承太郎を見て、強く頷く。
「今の俺なら、大丈夫だと思う。……俺が前世のトラウマを乗り越えるために、その第一歩として、お前が知っている事を教えてくれ。承太郎」
「…………分かった。だが、お前が辛くなったらすぐに止めるからな」
「おう。頼む」
……承太郎が話してくれたのは、原作でも知られている、虹村兄弟の過去。弓と矢を使った理由。俺以外にも、何人も殺害している事。そして、最期は弟を庇って死んだ兄。
「そうか……うん、大体分かった。ありがとな、承太郎」
「……平気そうだな?」
「あぁ。意外と落ち着いてる。……多分、虹村が俺の予想通りの人間だったから、かな」
「予想通り?」
「お前と同じで、不器用だけど優しいタイプの人間」
まぁ、原作読んだ時から分かってたが。承太郎から話を聞いた事と……俺がさっき、こいつに運んでもらう前に一瞬目にした彼の表情から、やっぱりそうなんだと確信した。
「虹村の奴、お前が俺を抱えた時に――ほんの一瞬、凄く心配そうな顔で俺を見てたんだ。その顔が……俺が高熱出して寝込んだ時に、お前が見せた表情と似ていた」
「……俺と、似ていた?」
「そう。……きっと、あいつはお前と同じタイプの人間だなと思った。そう思ったら、ちょっと安心したんだよ。だから落ち着いてる。……また本人を目にした時にどうなるかは、分からないが」
その時、部屋のドアがノックされた。承太郎が応対する。……相手は、アヴドゥル、ポルナレフ、花京院だった。
「……ジョセフから事情は聞いたか?」
「あぁ……弓と矢、だろ?前世で死んだのに、今世ではスタンドを発現した例なんて、聞いた事はないが……」
沈痛な表情の3人だが、特にポルナレフはそれが顕著だった。こいつは前世で弓と矢との関わりが深いからな。
「……で、あいつらはどうなった?」
「…………」
「……おい?」
承太郎の問い掛けに、3人は黙ったまま、互いにアイコンタクトを取り合っている。……やがて、ポルナレフがこう言った。
「――形兆が、園原に会って罪を償いたいと言っている」
「――あ"?」
「わあっ!ちょっ、落ち着け!!」
「スタープラチナをしまってくれ、承太郎!!」
「気持ちは分かるがスタンドを出すのは止めなさい!!」
ポルナレフ達が怒れる黒豹を宥めようとしている中、俺はこう言った。
「――俺も会いたいんだけど、それでも駄目か?」
「あ"ぁ!?……馬鹿か、てめえは。何言ってんだよ」
幸い、スタンドはしまってくれたので、そのまま話を続ける。
「さっきも言っただろ?俺は、前世のトラウマを乗り越えたいんだ」
「……焦るな。それは今じゃなくてもいいだろ?」
「今じゃないと、駄目なんだ。……今日を逃したら、虹村はもう俺と会ってくれない気がする。
おそらく、お前もそうなんじゃないかと思うが、時間があればある程いろいろ深く考え過ぎて、ドツボに嵌まって自滅する、もしくは自己完結して周りの人間を拒絶するタイプだと思う。だから、時間を与えたら駄目だ」
「…………悔しいが、お前の言いたい事はよく分かるし、当たっていると思う。だが……本当に、大丈夫なのか?」
承太郎の目と雰囲気で、めちゃくちゃ心配されている事が分かる。良い親友を持ったなぁ、俺。
「大丈夫。いける」
「……分かった。一応、俺が間に入るが……無理はするな」
花京院にジョセフと虹村兄弟を呼んでもらい、部屋で対面する事になった。最初に花京院、ジョセフ、億泰が入り……最後に形兆が姿を見せる。
最初の3人までは良かった。だが、形兆が近づいた時。思わず体が震えそうになり、それを抑えて耐える。
「――ヴウゥゥ……!!」
「イギー?」
「……形兆。それ以上進むな。シドが耐えられない」
「……分かりました」
突然、イギーが唸った。それからすぐに、承太郎が形兆を止める。……どうやら、イギーが俺が緊張した事に気付き、承太郎がその意図を察したらしい。実はこいつら、気が合うんじゃないか?
「……シドに会って、罪を償いたいと言ったそうだな」
「……はい」
承太郎の言葉に頷くと、形兆は床に両膝をつき、俺に向かって深く頭を下げた。所謂、土下座だ。
「あ、兄貴!?何して、」
「お前は黙ってろ!!億泰っ!!」
「っ、……兄貴」
弟の悲痛な声を聞いても、兄は止まらなかった。曰く、自分は許されざる者だ。やってはならない事をした。俺を含め、何人もの人間を私欲のために殺した。
罪を償いたいとは思っているが、許して欲しいとは思っていない。一生恨まれても構わない。俺にはその権利がある。なんなら――
「――あなたが望むなら、この命も捨てます」
「兄貴ぃ!?」
そう言われた途端、自分の中で何かが切れる音が聞こえ気がする。
「――――はぁ?」
「っ、シ……シド……?」
思ってたよりも自分の声が低く聞こえたな、とか。振り向いた承太郎の顔が少し青ざめてるな、とか。イギーが脱兎の如く逃げて行ったな、とか。
全部どうでもよくて、とりあえず立ち上がって形兆の胸ぐら掴んで無理やり立たせた。
「な、何を――」
「――そんなに軽々しく!自分の命を捨てるとか言うなぁっ!!」
「は、」
あぁ、そうだよ。俺はその言葉に腹が立ったんだ。
「てめぇ、その命が自分1人だけの物だと、そう思ってんのか!?あ"ぁ!?」
「それ、は、」
「違うに決まってんだろっ!?てめぇの命はてめぇだけの物じゃねぇ!!――今もそこで泣きそうになってる弟の物でもあるんだよぉっ!!」
「えっ……?お、俺?」
俺に指を指された億泰が、ポカンと口を開く。……その間抜け面を見て多少冷静になった俺は、形兆の胸ぐらから手を離した。
力が抜けたように尻餅をつく彼の前に、俺もしゃがみ込んで目を合わせる。
「……承太郎から聞いた。お前と弟くん、前世では母親を亡くして、父親がロクデナシだったって?」
「あ、あぁ……」
「――俺もだ」
「はっ?」
「今世の俺も、母親を亡くした。残った父親は、あらゆる意味で酷い野郎だ」
背中に、強い視線が刺さる。……承太郎かな?
「詳しくは、話せない。自分の過去を最初に明かす相手は親友だと、心に決めている」
あ、視線が痛くなくなった。やっぱり今の承太郎の視線か。
「まぁ、お前らの父親は救いようがあるロクデナシで、俺の方は救いようがないクソ野郎という違いがあるが、それはさておき。
俺はまだ良いさ。母親亡くして父親がクソ野郎でも、兄弟がいなかったから。当時は俺が死んでも後に残されて悲しむ奴がいないからと、結構気楽だった。
あ、今はもちろん親友を始めとした知り合いがたくさんいて、俺が死んだら悲しむ奴らがいる事は分かってるし、そんな事は考えて無いぜ?
だからその拳を下ろしてください承太郎くん。……おう、ありがとう。
で、話の続き。……よく見ろよ。――てめぇが死んだら、こんなに悲しそうな顔した弟を残して死ぬ事になるんだぞ」
「――――」
俺が再び億泰を指で指すと、形兆はそちらを見て、ゆっくりと目を逸らした。ほぉら、罪悪感感じただろ。
「……お前らの両親が今世ではどうなってんのかは知らないが、少なくともお前が死んだら、弟くんは確実に悲しむだろう」
「そ、そうだぜぇ、兄貴!!俺、兄貴が
「あぁ、よく言った弟くん。そう、
もう分かったな?てめぇの命は、てめぇ1人だけの物じゃねぇんだよ」
「……それなら――っ、それなら俺は!どうやって償えばいいんだ!?」
「生きろ」
「……何?」
「ただ、生きてろ。前世ではできなかった事をやれ。弟くんや他の家族を大事にして、学校の友達と遊んだり、喧嘩したりして、将来は愛する女性と結婚して、子供作って、孫も出来て、最期はその家族に看取られて死ね」
おそらく、こいつにとっては最も困難な事だろう。
「――普通の、幸せな人生を送れ。……それが、お前が出来る唯一の償いだ。俺や弟くんに対して罪悪感を感じなくなれば、なお良し、だな」
「なん、だと……?」
「お前、自分は許されない人間だからって、自分から不幸になる事を望んでるんだろ?
だから俺は、お前の望みの正反対の生き方をしろって言ってるのさ。――自分を殺した人間が望む断罪なんて、俺は一生やってやらねぇ」
「なっ……!?」
「っは!ざまあみろ!!」
精一杯、ゲスな顔で笑ってやる。存分に幸せになりやがれ、虹村兄弟!!
「弟くん、話は終わりだ。そいつ、連れ帰ってくれ。あと、そいつが償いをサボってまた不幸になろうとしないように、お前が見張っておくんだぞ。そいつが幸せにならなきゃ、償いにならない」
「っ、おう!任せろ!!」
「ふ、ふざけるな億泰!何を勝手に返事をしてるんだ!?あっ、おい離せこらぁっ!!」
「ありがとなぁ、あんた!あんた、えっと……?」
「園原志人だ」
「志人さん!ありがとなぁ!!」
「億泰ぅっ!!」
最後は弟に引きずられて出て行く情けない兄貴を、笑顔で見送ってやった。
「……と、いう訳で解決ですね。ジョセフ先輩達にはご迷惑をお掛けしました。すみません」
「お、お、前――っ、めちゃくちゃ良い奴だな志人!!」
「はい?」
なんか、ポルナレフが号泣してるんですが。
「形兆に殺されたんだし、あいつを恨むのは当然だろうなって思ってた!でも、お前は恨まなかった!それどころか幸せになれだと!?どんだけお人好しなんだ、ちくしょう!!」
「は、はぁ……」
「俺も下に妹がいるから、あいつら兄弟の事を知ってからはちょっと気にしてたんだけどよ!あれならきっと、もう大丈夫だろ!うう、ありがとな、志人……!!」
「いや、あの……?」
「やっと、やっと承太郎がお前を親友と呼ぶ理由が分かった気がするぜ!さっきは疑ってごめんなぁ!!」
「……その謝罪は受け取っておきます」
苦笑いするしか無かった。こっちの話を聞こうとしない。俺は自分を殺した相手に仕返しをしただけだから、礼を言われる筋合いは無いのだ。
形兆を振り回した事で復讐は終わってるし、その後彼らがどんな風に幸せになるかは、知った事ではない。
「……それにしても、園原くん。自分を殺した相手に対して、よくあんなに強気に出られたね?怖くなかったのかい?」
「いや、怖いぞ」
「は?」
「今、花京院に言われて恐怖を思い出した。見てくれ。両手が超震えてる。……あ、膝も震えてきたわ。これはやばいな、ハハ」
血の気が引くのを感じながら、花京院に向かってそう言えば、一瞬静かになり、
「――ばっっっか野郎ぉっ!!」
承太郎にそう叫ばれて、耳が死んだ。