空条承太郎の友人   作:herz

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・承太郎視点。


 ――空条承太郎だって、親友の異変にはいち早く気づくはず。


園原志人の過去
空条承太郎は、親友の仮面を剥がす


 

 

 

 

 

 放課後。俺は旧図書館でシド、ジョルノと共に静かに本を読んでいた。

 

 こいつらとは愚痴の言い合いをする時もあるが、今日のように何も話さず、なんとなく近くに集まってそれぞれが好きに読書をして過ごす事もある。

 これが不思議と、居心地が良いのだ。……側にいる2人の顔を盗み見て、先日の出来事を思い出す。

 

 

 先日、俺は2人の行動のおかげで救われた。

 

 俺の様子がおかしい事に気づき、シドに連絡してくれたジョルノ。そしてジョルノの頼みを引き受けて、様子を見るために俺を呼び出し、その後も俺の心を癒してくれたシド。

 2人には何かお礼がしたいと伝えたのだが、シドは"改めて礼をされるような事はしていない"と、相変わらずのお人好し発言。

 ジョルノは"最初にお礼を言ってくれた時の激レアな笑顔を見れただけで充分"と、よく分からん事を言って遠慮した。

 

 仕方ないから、いつかこいつらに何かがあった時、無条件で力を貸す事で借りを返すと決めた。

 

 

(……そういや、結局俺が前世の事を話す方が先になったな)

 

 

 シドがスタンドを発現させた日の夜。自宅の図書室で話した事を思い出す。

 俺はあの時。どんな話を聞こうが、シドの事を丸ごと受け入れるし、過去を話してくれるまでいつまでも待つと伝えた。

 

 現時点でシドの隠し事について分かっている事は、高校入学以前の自分について話したがらない事。素顔を隠したい何らかの理由がある事。

 母親が既に亡くなっており、父親が存命である事。……その父親は、お人好しのシドが"救いようが無いクソ野郎"と罵る程に、酷い人間だという事。

 

 それ以上の事は、まだ分かっていないが――

 

 

「おい、眼鏡坊主」

 

「あ、はい。何ですか?三谷さん」

 

 

 と、管理人の三谷が顔を出した。彼は俺と目が合うと、さっと目を逸らす。

 シドが梯子から落ちた時に俺が怒りをぶつけた件が、未だに尾を引いているようだ。すまない、管理人。

 

 

「……今から本の補修をやるが、お前さんも付き合うか?」

 

「やります!」

 

 

 シドの表情が、パッと明るくなった。……普段、俺達以外の人間の前では猫を被るシドも、この時ばかりは素が出る。

 読書を好むシドは本を修理する事にも興味が向くようで、俺と出会う前から何度も本の補修を見学しており、今では三谷に簡単な作業を任されるようになったという。

 

 

「……本の補修って、専門業者には依頼しないんですか?」

 

「金髪坊主はまだ知らなかったか?旧図書館にある本は、全て俺が補修している」

 

「へぇ……見学してもいいですか?興味があります」

 

「……静かにするなら、構わん」

 

「ありがとうございます」

 

「……なら、俺も見学させてもらうぜ」

 

「…………好きにしろ」

 

 

 三谷の後をついて行き、入口のカウンターの先にある事務室に向かった。中に入ると、本が積み上げられたテーブルと、いくつかの椅子。小さな本棚などがある。

 

 

「眼鏡坊主はそっちを片付けてくれ。全部、ページが取れている本だ。補修の方法は覚えてるな?」

 

「はい。覚えてます」

 

「よし。……それが終わったら、俺の作業を好きに見学していい」

 

「はい」

 

 

 テーブルを挟み、向かい合って座った2人は、それぞれ作業を始めた。

 

 シドの方は、取れたページを水糊で張り合わせて元に戻す、一見簡単な作業だ。

 しかし糊を付け過ぎると、張り合わせる時に他のページにくっついてしまう場合があるため、意外と気を使う作業なのだと、以前シドが言っていた。

 

 そして向かい側にいる三谷は、破れてしまったページや、背表紙の補修をしていた。かなり慣れているのか、手際が良い。

 短い時間で補修が終わり、いくつもの本が綺麗になっていく様子を、静かに観察する。……横目でジョルノを見ると、こいつも面白そうに観察していた。

 

 シドの様子に目を向ける。……真剣な表情と、本に優しく触れる手つき。陳腐な表現になるが、本に対する愛が滲み出ているように見えた。

 

 

 それを見た時、ふと思った事を口にする。

 

 

「なぁ、シド。――お前将来、司書になったりしないのか?」

 

「…………司書って、図書館司書?……俺が?」

 

 

 手を止めて顔を上げ、思ってもみない事を言われたと、そんな表情で俺を見るシド。……本当に意外そうな顔をしている。少しも考えなかったのか?

 

 

「お前、本が好きだろ?なら将来の選択肢として、少しは視野に入れてるんじゃねえかと思ってたが……違うのか?」

 

「……あー……うん、ええーと……考えた事、無かった、かも」

 

「本当ですか?……僕は志人さんが三谷さんの仕事を手伝っているのは、その将来のためだと思ってました」

 

「……俺もそう思っていたが、違うのか?眼鏡坊主」

 

 

 俺達3人が揃ってそう言うと、シドは目を泳がせた。……こいつがここまで動揺するのは珍しいな。

 

 

「……本の補修を手伝うのは、本が好きだっていう理由もあるけど……個人的に、本自体に恩返しをしているつもりでいるんだ」

 

「恩返し?」

 

「うん。……昔から、本には何度も助けられていたから」

 

 

 昔から?……過去に何かがあるのか。そういえば、以前本についてこんな事を言っていたな。"時には、生き残る術を教えてくれる"……と。

 

 

「ボロボロになっても、読む人を楽しませてくれる数多くの本に対して、"いつもありがとう"、"お疲れ様"っていう気持ちを籠めて直しているんだ。

 ……いや。壊れた本を直すというより、怪我をした(・・・・・)本の治療をしているような気分になっているのかもね」

 

 

 照れ笑いを浮かべたシドに対し、普段は仏頂面の三谷が、珍しく微笑む。

 

 

「……この子達(・・・・)も、お前さんのように本に優しい奴が治療してくれたら、喜ぶだろう」

 

「はは……本当に、そう思ってくれてるといいな」

 

「……志人さんも三谷さんも、心から本を愛しているんですね。しかし、だからこそ気になります。志人さんは本当に、司書になろうと考えた事は無いんですか?」

 

「そう、だね。……卒業したら、すぐに働く事しか考えて無かったな。今やってるバイトをそのまま続けようかな、と」

 

「……大学は行かないのか?坊主。そこで必要な科目を取るか、もしくは2年以上在学してから司書講習を受ければ、図書館司書になれるぞ」

 

「いや。それよりも、自立する事の方が俺にとっては優先度が高いですね。……あっ、そろそろ補修再開しませんか?俺、早く三谷さんの作業の見学したいので!」

 

「あ?お、おう……仕方ねぇな」

 

 

 あからさまに、話を逸らしたな。……司書になる事を考えた事が無かったというのは、本心だろう。大学より自立する方が優先度が高いという言葉にも、おそらく嘘は無い。

 

 だが……何か、引っ掛かる。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 学校でシドと別れ、ジョルノと共に家まで帰って来た。

 

 最近はシドが定期的にうちに夕飯を食べに来る。今日がその日だった。シドは一度自分の家に戻ってからこっちに来るだろう。

 元々、これはうちの女達が提案した事だった。1人暮らしをしているシドが寂しくないように、たまにはうちに呼んでみたらどうか、と。

 

 反対する者はいなかった。あとは俺と仗助、女達が説得するだけ。……押しに弱いシドは、こちらが粘れば頷いてくれた。

 

 

 後にシドも合流し、全員で夕飯を食べ終わった頃。俺は徐倫の様子がおかしい事に気づいた。

 表情はあまり変わっていないが、少し顔色が悪く見える。夕飯の時も、いつもより食欲が無さそうだった。そして下腹部によく触れている――あっ。

 

 

「……徐倫。そっちのソファーに座って待ってろ。辛いなら、横になってもいい」

 

「えっ?ちょ、兄さん……?」

 

 

 すぐに別室に移動し、必要な物を取ってリビングに戻る。……ん?シドがいない?

 いや、今は徐倫優先だ。ソファーで大人しく座っている徐倫の下半身に、持って来たひざ掛けを掛け、クッションも持たせる。

 

 

「……無理に動くな。少し休んでから部屋に戻れ。……いつもより、腹の痛みが強いんだろ?」

 

「なっ、何で分かったの?」

 

「あー……前世での経験だ。あいつ(・・・)も、普段はそこまで辛くならないが、たまに……今のお前のように、痛みが強くなって調子が悪くなる時があった」

 

 

 あいつ――前世の妻に対しても、今の徐倫にやっている事と同じ事をやった記憶がある。

 俺の言うあいつが、前世の自分の母親の事だと分かったのだろう。徐倫は気まずそうに、俺から目を逸らした。……しまったな。気を使わせたらしい。

 

 

「……とにかく、そこで少し休みなさい。いいな?」

 

「……ん。ありがと」

 

 

 思わず、徐倫の父親だった時の口調が出てしまった。素直に頷く徐倫の頭を撫でる。……いつもなら振り払われるところだが、今回はそうされなかった。

 

 と、背後から人が近づいて来る気配を感じる。振り向くと、いつの間にか何処かに消えていたシドが、コップを手にしてこちらに向かっていた。

 

 

「徐倫ちゃん、豆乳は飲めるか?」

 

「豆乳……?飲める、けど」

 

「なら良かった。ほら、温かい豆乳。……豆乳には、女性のそういう時の(・・・・・・)痛みを和らげる効果があるぜ。苦手じゃないなら飲んでおいた方がいい」

 

「志人さんまで、何で分かるんだよ!?」

 

「んん、まぁ、何となく?それより、ほら。どうぞ」

 

「あ、ありがとう……」

 

 

 シドがいなかったのは、それを準備していたからか。……両手でコップを受け取った徐倫は、一口飲んで目を見開き、ほっと息をつく。気に入ったようだ。

 

 

「……なんか、ちょっと痛みが引いた気がする」

 

「それは何よりだ。女の子は、体を冷やさないようにしないとな」

 

「……明日もまた学校だからな。暖かくして早めに寝ろ」

 

「うう、2人共優しい……」

 

「男が弱ってる女性に優しくなるのは当たり前だろ。なぁ?」

 

「あぁ。そうだな」

 

 

 徐倫はたまに男よりも強い時があるが、それでも女である事に変わりはない。シドの言う通り、こういう時は特に優しくしてやるべきだ。

 

 

「…………」

 

「……徐倫?」

 

「――志人さんも、お兄ちゃんに欲しいわ……」

 

「はっ?」

 

 

 シドが間の抜けた声を出し、目を点にしている。……なるほど。

 

 

「うちの子になるか?シド」

 

「はあぁ?」

 

「お前なら、兄弟になっても良いな」

 

「面白そうな話をしてますね」

 

「ジョルノ?お前、いつの間に……」

 

 

 いつから会話を聞いていたのか、ジョルノがするっと間に入ってきた。

 

 

「志人さんもジョースター家の養子になりますか?それなら、僕の兄になりますね」

 

「はいはい!東方家の養子もありっスよ!」

 

「仗助」

 

 

 お前も何処から来た?

 

 

「何言ってんのよ、あんた達。志人さんは空条家の養子になるのよ」

 

「いやいや、ジョースター家ですよ。僕やディオ兄さんのような前例がありますから」

 

「いや、そこは俺の家だろ!だって俺、一人っ子だぞ!志人さんみたいな兄貴が欲しい!」

 

「…………おい、お前ら……」

 

 

 ……俺はシドに対する冗談のつもりで言ったんだが、話がややこしくなってしまった。これは俺が悪いだろうと、シドに謝る。

 

 

「シド、悪かっ――おい、どうした?」

 

「……あ?何が?」

 

「お前、その顔、」

 

「さぁて、俺はそろそろ帰るぜ」

 

「えー!?」

 

「いつもはもう少しいるじゃない」

 

「……それでも帰るなら、せめて何処の養子がいいか教えて欲しいです」

 

「…………どの家族も暖かそうで、俺なんかには勿体ねぇよ。ジョルノ。……じゃあ、またな」

 

 

 俺達に背を向けたままひらひらと手を振って、シドはリビングから出て行った。すると、ジョルノが俺の隣に並び、小声で話し掛けて来る。

 

 

「……先程の質問への答えから察するに、養子よりも家族というキーワードがネックになっているように見えました」

 

「あぁ。……ちょっと、見送って来る」

 

「お願いします」

 

 

 急いでシドの後を追いかけ、その背に声を掛けて呼び止めた。……振り向いた、その表情は、

 

 

「……やっぱりな。――お前、泣きそうじゃねえか」

 

 

 さっき謝ろうとした時に見た顔と、同じだった。それを確認したついでに、1つ問い掛ける。

 

 

「今日のお前、なんか様子がおかしくねえか?……旧図書館で俺達が司書にならないのかと聞いた時も、さっきの話も、いつもならもっと上手く答えてかわしてるはずだろ」

 

「…………」

 

「……何かあったのか?それとも、これから何かがあるのか?」

 

「――なんでバレたのかなぁ……本当に。その観察力は俺なんかに発揮しなくてもいいだろ……!」

 

 

 そう言って頭を抱えたシドは、上手く取り繕っていた表情を崩し、誰が見ても分かる程に涙を我慢する。

 

 

「……親友が無理しているかどうかを見抜くのは、観察力の正しい使い方だ。……この前はお前だって、俺が無理をしている事を見抜いたじゃねえか」

 

「それは、そうだが」

 

「それで?……何があった?」

 

「……何かがあるのは、これからだ。……承太郎」

 

「何だ?」

 

「ちょっと、予定空けといて欲しい日があるんだが……いいか?」

 

 

 不安そうに俺の様子を窺う親友の問いに、俺は一も二もなく頷いた。

 

 

(――俺はお前に何度も心を救われた。だから今度は、俺が助ける)

 

 

 

 

 

 

 

 

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