空条承太郎の友人   作:herz

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・最初、男主視点。途中から康一視点。


 ――空条承太郎だって、お茶目な一面があるはず。




空条承太郎の友人の、新たな日常

 

 

 

 数日前、ジョースター家の談話室で話し合った時。ディオがこう言った。――どうせなら、堂々と素顔を見せてしまえばいい。

 

 

 それから、今後俺や承太郎達が取るべき行動について語った。

 

 実際に写真を撮られてしまった以上、下手な誤魔化しは通用しないだろう。

 だからファンクラブの人間を牽制するために、承太郎達ジョースター家の人間や、その仲間達が常に俺の側にいた方がいい。

 

 出来る限り、俺を1人にしない事。俺も、1人で行動しない事。……これは絶対だと、ディオは言った。

 そうだな。1人になった途端、囲まれるのは目に見えている。特に、承太郎のファンクラブは学内最大らしいからな。

 

 ただ、それだけでは現状の維持にしかならない。むしろ、ファンクラブからのヘイトを俺に集中させるだけだ。……そこで、俺が堂々と素顔を見せるという話に繋がる。

 

 沖縄旅行中に、俺の見た目がディオの手で劇的に変化した、あれ。……あれを、生徒達の前でもやれという。

 見た目の良さを利用して、承太郎のファンクラブ以外の女子生徒を味方につける。あとはそんな俺と、承太郎達が一緒にいる事が日常になれば、そのうち周りも文句を言わなくなるだろう。

 

 ……というのが、ディオの提案だった。それを採用した結果が、今朝の下駄箱前でのやり取りだ。

 

 既に、俺の現状は学校に通う前世の仲間達に知らされている。

 特に、高校生組は俺を見掛けたら話し掛けても良い、むしろ話し掛けて俺が彼らに受け入れられている事を周囲に見せつけろ、という話になっていた。

 

 

 閑話休題。……ジョセフ、ポルナレフと別れ、俺は承太郎、花京院と共に高2の教室がある階へ向かう。

 周囲からの視線は痛いが、もちろん無視。俺は堂々としていないといけない。ファンクラブの人間が付け入る隙を見せてはいけないのだ。

 

 2人は念のため、俺のクラスまでついて来てくれた。……俺の机が無事ではなかった場合、片付けを手伝ってくれるという。優しい。

 俺の席は、廊下側の1番前。だから、教室に入ってすぐに自分の机の惨状が目に入った。先ほど花京院と話した"いじめあるある"の通りに、机いっぱいに落書きされている。

 

 

「……うん。やっぱりレパートリーが少ない」

 

「そうだね。……それにしてもいつも思うが、学校の備品にこんな事をするとは、なんて奴らだ」

 

「ちなみに。学校の机は椅子とセットで、1つの値段が一万を越えるらしいよ?」

 

「うわ、なかなかの損害」

 

「……シド。机の中身は無事か?」

 

「あぁ、そうだったね。……あれ?意外と無事みたい」

 

 

 承太郎に言われて机の中を見ると、意外な事に何もされていな、……おっと?

 

 

「…………あー、いや。俺の手が、危うく無事じゃ済まなくなるところだった」

 

「何?」

 

「……どういう事だい?」

 

「ちょっと待って、今取るから…………はい、じゃじゃーん」

 

 

 と、俺がふざけた声で机の中から取り除いたのは――剃刀の刃。

 

 

「教科書やノートで上手く隠されてたよ。何も確かめずに手を突っ込んでいたら流血沙汰だ。……いやぁ、これは新しいパターンだね」

 

「――あ"ぁ?」

 

「待て承太郎!落ち着くんだ!!」

 

「そっ、そうだよ!俺は無事だったから!何とも無いから暴力は止めて!?」

 

 

 流血沙汰と聞いてキレたのか、黒豹が拳を握って俺のクラスに押し入ろうとした。慌てて花京院と2人掛かりで止める。……クラスメート達から恐怖の悲鳴が上がった。

 

 

「君が暴力振るったら全部君が悪い事になっちゃうよ!」

 

「園原君の言う通りだ!気持ちはよく分かるが、頭を冷やせ!」

 

「…………ちっ」

 

 

 俺達の言葉は届いたようだ。冷静になった承太郎が引き下がった。……と、教室の外から承太郎を呼ぶ声が聞こえる。

 

 

「承太郎さーん!持って来たっスよ!」

 

「ん、来たか」

 

 

 承太郎を呼んだのは、仗助だった。何故高2の階に?……そう思って首を傾げたが、彼が机を運んでいるのを見て納得した。

 いつの間に連絡したのか、承太郎が仗助に、俺のために空き教室から新しい机を持って来いと、指示したのだろう。

 

 

「あ、志人さん!おはようございます!」

 

「おはよう、仗助。……わざわざ持って来てくれたんだね。ありがとう」

 

「いやいや。俺の恩人の志人さんのためなら、これぐらいどうって事ないっス!」

 

 

 ニコニコと、俺を恩人と呼ぶ仗助の好意的な態度に、周囲が驚きの声を上げ、ざわざわと話し出す。

 

 

「で、問題の机は……あぁ、派手にやられてるなァ。胸糞悪い……んん?剃刀の刃!?剥き出しじゃないスか!どうしたんスか、これ」

 

「シドの机の中に仕込まれていた物だ。教科書やノートで隠されていたらしくてな。もしもシドが何も知らずに手を突っ込んでいたら……あとは、分かるな?」

 

「――はぁ?」

 

「わあー!待って待って!待て!!」

 

「仗助まで暴力で解決しようとするな!承太郎も火に油を注ぐような真似は止めてくれ!!」

 

「事実を言っただけだ」

 

「君なぁ!?絶対こうなるって分かっててやっただろ!?」

 

 

 今度は黒柴狂犬くんがキレた!おっかねぇ。……再び花京院と共にそれを止めた後。机の中を片付けて、新しい机と交換する。

 

 

「そんじゃあ、ボロボロになった方は俺が持って行くので!」

 

「本当に助かるよ。ありがとう仗助」

 

「どういたしまして!……あ、ついでに剃刀の刃も処分しておくっスよ」

 

 

 仗助は最後に、ハンカチで剃刀の刃を包み、それをポケットに入れて、ボロボロの机を持って立ち去った。

 

 

「……さて。僕達も自分の教室に戻ろうか」

 

「あぁ。……シド。また何かされたらすぐに俺達に言え。それから――昼休み、迎えに来る。あいつらも一緒に、屋上で飯食うぞ」

 

「うん、分かった。また後でね」

 

 

 ……再び、クラスメート達が騒ぎ出す。屋上と聞いて驚いたんだろうな。

 この学校の屋上は、生徒同士の暗黙の了解で、昼休みは立ち入り禁止となっている。なぜなら、そこはジョースター家の人間とその仲間達が昼食を取る場所だからだ。

 

 一般生徒が入ろうとしない場所に、俺が呼ばれた。……後ろから視線が刺さる。

 このクラスには、承太郎のファンクラブに入っている人間が多いから、敵意を持って睨んでくる奴も多いのだろう。

 

 これでますます、1人で行動するのは危険になったな。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ――会わせたい人がいる。……数ヵ月前。仗助くんにそう言われて、由花子さんと一緒にその人と顔を合わせた。

 

 

 園原志人さん。目付きは凄く怖いけど、話してみるとごく普通の人だった。……前世の仗助くんの恩人である、その人。

 

 今世では僕達よりも1つ年上で、高校2年生の先輩。そして、あの承太郎さんが親友と呼び、信頼している人だという。

 承太郎さんの親友と聞いて驚いたけど、僕にとってはそれよりも、仗助くんの恩人だという話の方が気になった。

 

 実は前世で、仗助くんから彼について聞いた事がある。中学生の時に出会った、"シドさん"という人物。それが、志人さんの事だったんだ。

 

 仗助くんのもう1人の恩人の髪型を真似した、リーゼント。当時は誰もがそれを馬鹿にする中、"シドさん"だけが認めてくれたと、仗助くんは嬉しそうに話していた。

 "馬鹿にされたくないなら、心と頭で勝負しろ"、"周りに歩み寄る事を諦めるな"。……その言葉に従ったら、本当に髪型を馬鹿にする人が減った、と。

 仗助くんは、志人さんとの再会を楽しみに待っていた。僕も、そんなカッコいい人に会ってみたいと思っていた。

 

 ……でも結局、仗助くんと志人さんが前世で再会する事はなかった。その理由は――彼が、あの弓と矢によって形兆さんに殺されていたから。

 

 後に仗助くんから、志人さんが今世で形兆さんと出会った時に、自分が死んだ時の事がフラッシュバックして、呼吸困難に陥ったと聞いた。

 だから仗助くんは、形兆さんが側にいる時は少しピリピリしている。……恩人を殺した相手だから、無理もないと思う。

 

 しかし驚く事に、今世の志人さんは形兆さんと友人になったらしい。今では、以前よりもトラウマを克服しているとか。

 前世で自分を殺した相手と友人になれる、その度胸の良さというか、器のデカさというか……うん。純粋に凄いと思う。さすがは承太郎さんの親友。

 

 

 授業終わりの昼休みに、屋上でいつもの面子が集まってご飯を食べている中。堂々と形兆さんに話し掛けている志人さんを見て、僕はそんな事を考えていた。

 

 

「形兆。お前、その弁当は自分で作ったのか?」

 

「……あぁ、そうだ」

 

「やっぱり?弁当の中身がきちっと整えられてるから、そうじゃないかと思ったんだよな。超几帳面だろ?お前」

 

「何だ。文句でもあるのか?」

 

「何でそうなるんだ。違う違う。俺も自分で作ってるから、ダチがどんな弁当作ってるのか気になったんだよ。……え、すげぇ。卵焼きの形が綺麗」

 

「……そういうお前の方はボロボロだな。作るならちゃんと作れ」

 

「いや、だって。卵焼き用の四角いフライパン持ってねぇし」

 

「馬鹿め。丸いフライパンでもやり方次第で綺麗になるんだぞ」

 

「えっ、マジ?そのやり方、教えてくれ」

 

「自分で調べろ。……それより、お前。卵焼きの中に何か入れているようだが、それは何だ?」

 

「これ?明太子だけど」

 

「明太子?」

 

「そうそう。明太子の塩気、卵焼きに合うんだぜ?ご飯と一緒に食べると最高のおかず」

 

「…………前言撤回だ」

 

「ん?」

 

「情報料代わりに、さっき言ってた卵焼きの作り方を教えてやる」

 

「やったぜ!ありがとな、形兆!」

 

「……ふん」

 

 

 ……会話の内容が主婦のそれ、というのがちょっと気になるけど、予想以上に彼らの仲が良い。形兆さんが丸くなってる。

 

 

 今まではファンクラブの事を気にして、学校では僕達と関わらなかった志人さんだが、今日からはむしろ、僕達と一緒に行動した方が安全になる。

 

 いつかはバレるんじゃないかと心配していた通り、承太郎さんと一緒にいるところを写真に撮られてしまったらしい。

 承太郎さんのファンクラブは、他の人のファンクラブよりも規模が大きく、過激派も多い。志人さんが1人になった時に狙われたら、どうなるか分からない。

 

 ファンクラブ対策は、主に3つ。僕達と一緒に行動する事。僕達が積極的に話し掛けて、志人さんが僕達に認められているという事をアピールする事。

 それから、志人さんの素顔を見せて、味方を増やす事。……確かに、志人さんは目付きはとても悪いけど、承太郎さんや仗助くんと同じくらいカッコいい。

 その目付きの悪さを眼鏡で隠せば、女子生徒からも次第に人気が集まると思う。

 

 ……それにしても、仗助くんの話を聞く限り、志人さんって今世ではいろんな事に巻き込まれてるんだなぁ。

 

 数ヶ月前に、志人さんがスタンドを発現させて、前世の記憶を取り戻した時の事件。ジョースター家の人達と仲良くなって、定期的に夕飯を一緒に食べていたり、沖縄旅行に一緒に行ったり。

 それから最近の、人同士の縁を切れるスタンド使いの事件。そしてこの事件が解決したと思いきや、今度はファンクラブの人間に承太郎さんとの繋がりがバレてしまった。

 

 

(露伴先生が、志人さんの事を知ったら――)

 

 

 あ、駄目だ。あの人絶対本にしたいって暴走する!そうなると、志人さんをとにかく尊敬している仗助くんがプッツンして――うん、駄目だ。黙っておこう。

 

 その仗助くんはというと、志人さんと仲良く話している形兆さんの事を静かに睨んでいる。億泰くんがそれを宥めていた。

 

 

(――そういえば、)

 

 

 仗助くんは、志人さんと形兆さんが仲良くしている事を、あまり良く思っていないみたいだけど……承太郎さんはどうなんだろう?

 彼は志人さんと形兆さんが今世で初めて出会った時に、その場にいたらしい。親友が呼吸困難になったところを見ていたはずだし、承太郎さんだって仗助くんと同じなのでは?

 

 そう思って恐る恐る、彼の様子を窺う。……あれ?普通だ。いつも通りの無表情で、怒っているような雰囲気は感じない。

 

 と、承太郎さんが顔を上げて、志人さんの事を見た。そして――

 

 

(…………えっ?)

 

 

 ――ふわりと、笑った。……一瞬で無表情に戻ってしまったけど、何というか、ほっと安堵しているかのような、そんな笑顔だった。

 承太郎さんのあんな顔は、前世でも見た事がない!僕が唖然と彼を見つめていると、何の前触れもなくこちらを見た彼と、目が合ってしまった。

 

 承太郎さんは一瞬、目を見開き――それから片目を閉じて、人差し指を一本立てて、唇の前に。

 

 ばっと、顔を背けた。……今の、何だ?ウインク?あれっ?承太郎さんってあんなにお茶目な人だったっけ??

 それとも今世ではまだ高校生だから、精神的にも若いって事かな?……い、意外な一面だ。でも、何だろう。この見ちゃいけない物を見たという感覚は。

 

 

「……康一くん?どうかしたの?」

 

「なっ、何でもないよ由花子さん!」

 

 

 隣にいた由花子さんに問われて、慌ててお弁当を食べたら喉に詰まった。由花子さんをさらに心配させてしまった。……恥ずかしい。

 

 あの貴重な笑顔を目撃した事は、当分は僕だけの秘密にしておこうと思った。

 

 

 

 

 

 





※仗助が園原の机を回収した後(仗助視点)
 
 
 ボロボロになった志人さんの机を、空き教室まで持って行った。
 中に入って机を置き、スマホで落書きされたところを写真に撮り……ジョルノに送信っと。

 今回、志人さんがいじめられている証拠は全て、ジョルノの元に集められる。
 最終的には志人さんの意思次第だが、犯人達を追い詰めるのに役立つので、念のためにこうして、いじめの証拠になりそうな物は残しておくのだ。

 ……おっと。これも撮っておかねえとな。

 ポケットから、ハンカチに包んだ剃刀の刃を取り出して机に置き、写真に撮って追加で送信した。
 もちろん、これがどんな風に仕掛けられていたのかも報告する。

 すると、ジョルノから即座に電話が掛かってきた。
 
 
「もしもォーし」
 
「仗助、いきなり爆弾放り込むの止めてくださいよ。この怒りの行き場が無いんですが」
 
「俺だってそうだ。承太郎さんから話聞いてすぐに志人さんのクラスに殴り込もうとしたけど、その場で志人さんに止められちまったんだよ」

「……気持ちは本当に、本当によく分かりますが、僕も君も落ち着きましょうか。あの縁切りのスタンド使いはともかく、今回の相手は一般人なので、被害者である志人さんが望まないなら、僕達も行動に出る事はできません」
 
「…………分かってるよォ」
 
 
 ため息を吐き、怒りを飛ばした。……やっぱそうなるよなァ。残念だが、我慢するしかない。
 
 
「……そうだ。その机なんですが、直さないでそのままにしておいてください。一応、その机自体を証拠として残しておきたいので、後で別の場所に移動して保管します」
 
「了解」
 
「あと、剃刀の刃もそのままで。……机も合わせて、ジョセフさんの念写で犯人を突き止める事もできるかもしれない」
 
「そうだな、分かった。残しておく」
 
「では、よろしくお願いします」
 
 
 電話が切れたスマホを仕舞い、落書きされた机を見下ろす。
 
 
 ――ガァンッ!!
 
 
「……あっ。やべ」
 
 
 気がついたら、隣にあった別の綺麗な机の方に拳を叩き付けていた。……へこんでしまった机をスタンドで直し、空き教室から廊下に出る。
 
 
(――嗚呼、殴りたいなァ)
 
 
 俺の恩人を貶す奴らを、1人残らず。……まぁ、志人さんが駄目っていうなら、我慢するけど。
 
 
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