・男主視点。
・ご都合主義、捏造過多。
――空条承太郎だって、気心知れた秘密の仲間達と、お祭り騒ぎしたい時があるはず。
ブックフェスティバルの会場は、広い。三谷さんが規模がデカイと言っていたが、その通りだった。予想以上に賑わっている。
3人で見て回り、いくつか気になる本を見つけて購入。……さすが古本市。値段がかなり安いので、貧乏学生にとっては大助かりだ。
「……っ、と」
「どうした?」
「悪い、靴紐が解けた。……2人は先に行っていいぞ。すぐに直して後を追うから」
「分かりました。ゆっくり歩いてますね」
靴紐が解けた事に気づき、承太郎とジョルノに声を掛けてから道の端へ。そこでしゃがみ、靴紐を結んでいると……誰かの影が掛かって暗くなった。
2人が戻って来たのか?そう思って顔を上げたら、
「――やぁ」
にっこり笑う紳士がこんにちは――って、
「っ、うおおう!?ジョナサン!?」
「ちょ、ふふ……っ!志人君、何だい、その声!?」
「ハハハッ!!愉快な反応だなァ?園原」
2人も会場のどっかにいるだろうなと思っていたが、まさかこんなに早くに合流できるとは思ってなかったし、そもそもさっきの影は承太郎とジョルノだと思ってたし!
想定外過ぎて、変な声を出して驚いてしまった。……靴紐を結び終えて立ち上がると、承太郎とジョルノが戻って来た。
「……いやあ、偶然ですねえ。兄さん達」
「――"スタンド使いは、ひかれ合う"。このルールは侮れねえな」
「っく、……!全くだ」
ジョルノのわざとらしい言い方に笑いそうになりながら、承太郎に同意する。
ブックフェスを旧図書館組の5人で楽しむために、財団からの勘繰り対策としてジョルノが提案した事は……スタンド使い同士がひかれ合うというルールを、逆手に取る事だった。
ジョナサンとディオには、メッセージアプリのグループ内でブックフェスの存在と開催日時は教えたが、2人と待ち合わせはしていない。
俺達3人と彼らで互いに何処にいるのかと、グループ内でやり取りしていた訳でもない。
本当に、偶然、この場で出会ったのだ。……スタンド使いである俺達3人と、同じくスタンド使いであるディオ……と、一緒にいたジョナサンが。
……そんな屁理屈で、財団側には旧図書館組のグループの存在を隠し、俺達はここで出会うつもりはありませんでしたよー、という事にする。
子供騙しだが、万が一財団の人間に目撃されて、後日問い詰められたとしても、"偶然の出会い"という理由を押し通すつもりだ。
最初から一緒に行く予定だった、と話すよりも、互いの予定を知らずに当日に偶然出会った、という話の方が、財団の一部からの疑いも多少はマシになる……はず。
そして出会った後は、"前世のジョースター家とディオの関係について深くは知らない園原の前で、一応は家族である者同士が険悪な雰囲気を出す訳にはいかない"。
"園原に不信感を抱かせないために、あえて5人で行動していた"……という事にしておいて、共に行動していた本当の理由を隠す。
付け焼き刃だが、財団の一部にまた何か言われた時は、これで誤魔化す予定だ。グループの存在さえバレなければ、俺達の出会いが意図的だったという証拠は残らないしな。
さて、閑話休題。
「良い本は買えた?」
「はい。……これとか」
「あっ、それ!僕も探してたんだ!」
「それなら、読み終わった後に貸しましょうか?」
「本当に?ありがとう、ジョルノ」
「ジョナサンは何か良いやつありました?」
「あったよ、志人君。……ほら、これ!」
「んん?……そ、それ、絶版本じゃないですか!俺、まだ読んでない!」
「ふふ。じゃあ今度貸してあげるね」
「ありがとうございます!」
「……おい、ディオ。その本は……」
「ああ、これか?内容が面白そうだったから買ったんだが……」
「それも絶版本だぜ」
「何?……それは知らなかったな」
「…………」
「……ふっ。読みたいか?ならば、お前が持っているその本と交換だ。私はそっちの方が先に読みたい」
「……いいだろう。交渉成立だ」
互いに収穫した品を見せ合い、貸し出しを約束したり、その場で本を交換したり。……その後、今度は5人で古本を見て回る。
「……そういえば、志人君は今日は眼鏡を外さないの?」
「あ、はい。さっきまで三谷さんと一緒にいたので。……あの人は学校の人だから、素顔は見せないようにしています」
ジョナサンが言うように、今日の俺は学校にいる時のように、前髪を片側だけ耳に掛けて眼鏡を付けている。
おかげで周りの視線が痛い、痛い。今は承太郎達4人も一緒にいるから、尚更だ。
「それに、俺の目付きの悪さがバレたら何を言われるか分かりません。今は眼鏡坊主って呼ばれてますけど、もしかしたら承太郎じゃなくて、俺の方が不良坊主って呼ばれるかも」
「あぁ……やっぱり、三谷さんにあだ名を付けられたんだね」
「あの人、絶対に本名で呼ぼうとしませんよね。僕は金髪坊主って呼ばれてます。……兄さんはどうでした?」
「貴族坊主、だそうだ」
「おお、それっぽい……」
というか、確かにディオは前世では元貴族だよな。ジョースター家の養子だったし。
「ふん……承太郎は園原曰く、不良坊主との事だが?」
「それは出会った時に呼ばれたあだ名だ。……ジョナサンの親戚で、教養があると知られてからは学帽坊主になった」
「なんだ、つまらん」
「つまらねえって何だ。俺は不良じゃねーぞ」
「今はそうだろうが、むかーしは、なァ?……あの改造された学ランでは説得力が無いだろう」
「ぐっ」
「ところで園原、知っているか?承太郎はむかーし、学ランの上着にデカい鎖を、」
「あああっ!止めろディオ!!」
「ハハハハハッ!!」
珍しく、承太郎がディオにからかわれて取り乱している。……もちろん、俺は前々世の記憶で承太郎の前世の格好を知っているが、それを悟られないように首を傾げておく。
「それよりも!……ジョナサンは?あんたは何て呼ばれてた?」
話を逸らすためだろう。承太郎がジョナサンにそう聞くと……彼は笑顔のまま固まった。おや?
「あぁ……えっと、ね、」
「――毒舌坊主だ」
「ちょっとディオ!!」
「あれはお前の自業自得だろう」
「そうだけど!」
「なるほど納得しました」
「ぴったりですね」
「そのままだな」
「止めてくれ、3人揃ってそんな言い方!」
うん、仕方ないな。ジョナサンが顔に似合わず毒舌だって事は、この場にいる4人全員が知っている。
「……そうだ、この際聞きたいんだけど。承太郎と志人君が、出会った経緯や仲良くなった経緯を話してくれなかった理由って、やっぱり旧図書館が絡んでいたから?」
「そうですよ。……今はもうファンクラブの問題が解決したので、旧図書館の外でも普通に話してますけど、当時は俺達が何処で会っているのか、その情報をファンクラブに漏らさないために隠してました。
三谷さんとの約束もあって、旧図書館の存在を知られたくなかった、という理由もありますけどね」
「いつ出会ったの?」
「高校1年の……あ、ちょうど今頃でした」
「へぇ……どんな出会いだったんですか?」
ジョルノに問われ、承太郎と出会った時の事を話す。……懐かしいな。もう1年が経つのか。あの偶然の出会いが無かったら、俺は今頃どんな風に過ごしてたんだろうな?
そう思いながら話し終えると、ジョルノがゆっくりと首を傾げる。
「――少女漫画?」
「「ぶふっ……!!」」
「んふ、ふふ、ジョルノ……!」
「あえて、っ、言わずにいたというのに貴様、ククッ……!!」
「いや、だって、……ふっ……!!」
承太郎と同時に噴き出す俺。笑いを耐えようとして耐えられないジョナサンとディオ。そして、遅れて噴き出すジョルノ。
やっぱり、そう思っていたのは俺だけじゃなかったようだ。後々承太郎との出会いを冷静に考えてみたら、少女漫画だとしか思えなかったんだよな……!
「ふふ、なるほど、っ、あの出会いは運命だったようだなシド、いや、ハニー……!」
「おい、やめ、止めろ、これ以上笑わせんじゃねぇよ、ダーリン……!」
「それは、はは、っ、こっちのセリフだよ!!」
「ふざけるなよ貴様ら……!ハハハ、……ッ!!」
「あははっ!ははははははっ!!」
ジョルノが大笑いしたのを皮切りに、全員が耐えられなくなった。駄目だ、腹筋、腹筋が、死ぬ。
人前で全員揃って大笑いしたせいか、周りからの視線が別の意味で痛くなったが、それはさておき。
会場内を大体見て回り、一度会場の外に出て昼食を取った俺達は、再び会場に戻って来た。今度は、三谷さんのところに顔を出すつもりだ。
ジョナサンとディオも久々に会いたいと言っているし、あの大量の本を1人で売っている彼が疲れたりしていないか心配になったので、様子を見に行く。
「意外な事に、三谷さんはライトノベルもいくつか読んでいるらしく、それも売っていたんですよ」
「えっ?あの三谷さんが?」
「はい。……本人曰く、内容さえ気に入れば何でも読む、との事で」
「その気持ちは分からなくは無いが……確かに意外だな」
俺の話を聞いて、ジョナサンとディオが驚く。俺も、三谷さんが持って来た古本の中にライトノベルを発見した時は驚いた。
ジョルノの1番のお気に入りで、承太郎が初めて嵌まったラノベである、某旅人シリーズや、池袋を舞台とした某首無しさんが登場するシリーズまで。その他にも知っているシリーズがいくつか……
「さて。そんな若者にも人気の本に加え、絶版本やその他の貴重な本。それらが保存状態ばっちりで綺麗なまま、安値で売られていたら……どうなると思う?承太郎」
「…………他の出店に並べられた本と比べて、綺麗な本は手に取りやすい。さらに幅広い種類の本があれば、買いに来る年齢層の幅も広くなる。
つまり――あのように、大勢に囲まれる」
「はい、大正解」
俺達の視線の先には、大勢の老若男女が集まる、三谷さんの出店があった。……予想以上に忙しそうだ。人混みを避けて裏から回り、三谷さんの後ろ姿に声を掛ける。
「三谷さーん」
「あ"?……って、眼鏡坊主?」
「お久しぶりです、三谷さん」
「忙しそうだな」
「毒舌坊主に貴族坊主まで……何しに来た?」
「お客さん捌くの大変でしょう?良かったら手伝いますよ」
「あんた、昼飯もまだ食ってないんじゃねえか?」
「僕達が代わりに対応するので、その間に昼食を取って来てください」
5人揃って手伝いを申し出ると、三谷さんは眉間にシワを寄せた。
「……俺は本を紙のカバーで丁寧に包む作業までやってる。本を守るためにな。お前らのようなガキが、そんな事までできるのか?俺の代わりに?」
あぁ、そこまでやってくれるから、こんなに人気なんだな。……しかし、だ。ガキを嘗めるなよ、おっさん。
俺は三谷さんの横に立ち、ちょうどテーブルの上にあったカバーで包む前の本を手に取り、さっと包む。
「な、何……?」
「会計終わってます?」
「あぁ、終わってるが……」
「じゃあ、はいお姉さん。お待たせしてすみません」
「あ、ありがとう……」
営業スマイルで手渡すと、何故か周りから女性達から黄色い声が上がる。……あ、ディオ様プロデュースの髪型だったせいか。納得。
「さて――現在、本屋でアルバイトやってる俺ですが、何か問題あります?」
「…………よし、頼んだ」
「任されました!今のうちにお昼食べて来てください」
「では、園原はその作業を継続。私とジョルノで会計。ジョナサンと承太郎は客を上手く整列させろ」
「はい、兄さん」
「了解!」
「おう」
ディオの指示で役割を分担し、さっそく行動開始だ。俺は客から渡された本をひたすら紙カバーで包み、ディオとジョルノはその間に手早く会計。承太郎とジョナサンは、客を並ばせて混雑を解消する。
で、顔の整った奴らがそんな事をしていれば、女性客が惹き寄せられる。……おかげで、三谷さんが帰って来る頃には人がさらに増え、結局そのまま手伝い続行。
日が落ちる前に、あれだけたくさんあった古本が完売してしまうという、驚きの結果となった。
「……何冊かは売れ残るだろうと思っていたのに、完売だと……?信じられん」
「皆、お疲れ様でーす!」
「お疲れ様でした……」
「やっと終わったな……」
「お疲れ。……女共が喧しくても怒鳴るの我慢した俺を誰か褒めてくれ」
「承太郎、よく我慢したね!凄いよ、偉いよー!」
「もっと褒めろジョナサン」
三谷さんが唖然とする中、俺達5人は互いを言葉で労う。いやー、働いた働いた。まさか本屋アルバイトの経験が、こんな場面で活かされるとは……
「……こりゃあ、奮発しないとな。おい、毒舌坊主と貴族坊主。今度時間がある時に旧図書館に来い。あそこから好きな本をそれぞれ1冊だけ、好きに持っていけ。その時にバイト代も必ず払う」
「旧図書館の本を!?本当にいいんですか?」
「あぁ。眼鏡坊主達3人にも、同じ報酬を約束している。遠慮はいらん」
「それは良い。あそこにはどうしても欲しい本があったんだ」
ついでにテントの下で後片付けも手伝いながら、そんな話をしていると、
「――
「今来たのか、
後ろから誰かの声と、三谷さんの応対する声が聞こえる。……三谷さんの下の名前って、"たいせい"って言うのか。初めて知った。
兄さん……って事はもしかして、三谷さんの従兄弟?どんな人だろう?
「は?完売?あんな大量にあった古本が、全部か!?」
「あぁ……そっちの坊主達が手伝ってくれたおかげでな」
「坊主達って――あ、え?……空条さん?」
承太郎と共に振り向き、従兄弟さん(仮)を見る。……その人は、どう見ても俺がよく知っている人で。
「――六車さん!?」
私服姿だが、間違いなく財団職員の六車さん……俺が財団に登録する時や、父親の件でお世話になった人だった。
「……えっと、あなたは?」
「えっ?」
「シド、顔」
「あ、そうか!……はい。これで分かりますよね?」
「園原さん!?も、申し訳ありません!すぐに気づけなくて……」
「いやいや、しょうがないですよ。この顔を六車さんに見せたのは、初めてなので」
眼鏡を外し、前髪を上げて素顔を見せると、平謝りされた。相変わらず真面目な人だ。……三谷さんが俺を見てぎょっとしたので、さっと元に戻す。
彼は俺から目を外し、六車さんに声を掛ける。……良かった。突っ込まれなかった。
「……おい、拓海。お前、この坊主達とはどういう関係だ?」
「あぁー……うん。兄さん曰く、"へんてこな力"が関わった仕事の、知り合いだ」
「何ぃ?まさかこの坊主達もお前と同じ、あの見えない力が使えるってのか!?」
「そうだよ」
"へんてこな力"……もしかしなくてもスタンドの事だな。三谷さんは見えないと言っているから、彼はスタンド使いでは無いらしい。
「あの……三谷さん?あなたが言ってた従兄弟って、六車さんの事ですか?」
「あ、あぁ。そうだ。こいつが、俺の母方の従兄弟の拓海」
「改めて、お見知り置きを。……私の従兄弟が大変お世話になりました。テントの設営などを高校生2人と中学生1人に手伝ってもらうと聞いていましたが、まさか、それが空条さん達の事だったとは……それに、」
そこで言葉を切り、俺達の後ろを見る。
「――ジョルノさん達まで、大星さんの知り合いだったとは……驚きました」
……相手は、いくらお世話になったとはいえ、財団職員。この場にいるのは、前世で因縁を持っていた主人公2名とラスボス。そしてラスボスの息子。
六車さんが、例の財団内でディオとジョルノを敵視している一部の職員に含まれているのかどうかは、不明。……が、今はとりあえず、
「六車さん。もう本は完売したけど、まだ片付けが残ってるんですよ。手伝ってもらえませんか?」
「え?」
「おお、そうそう。後片付けぐらいは坊主達の代わりに、お前が働け」
「わ、分かった。やろう」
六車さんも加わって、片付けを再開する。……承太郎が何か言いたげな目で俺を見ているが、今は無視。それよりも、俺にはやるべき事がある。
「ディオさん、ディオさん」
「ン?……何だ?園原」
視界の端で、六車さんの肩が跳ねた。そうそう、こっちを気にしてくれよ?
「ディオさんはライトノベル読まないんですか?ジョルノが大好きなんですよ。なぁ?ジョルノ」
「え?あぁ……はい。ミステリや歴史小説とかも好きですけど、1番はラノベですね」
「承太郎も最初は全く興味がなかったんですけど、俺とジョルノが好きなシリーズがあって、それを貸したら見事に嵌まったんですよ。……承太郎!まだあのシリーズ読んでる?」
「……あぁ。読んでる。あの世界観は好きだ」
「ほう……?お前までライトノベルを?」
「僕も気になってきた。それってどういうシリーズ?タイトルは?」
ジョナサンも加わり、4人で某旅人シリーズについて仲良く話し始める。俺はそこから一歩引いて、六車さんの様子をこっそり観察した。
ふむ……驚いているな。そして疑いの目を向けてはいるが、ディオ達を睨んだり、顔をしかめたりするような素振りは見られない。
その後も片付けをしながら観察し――彼なら、まだ
「六車さん」
「は、はい」
「あれを見て、どう思います?」
会話をしながらテントを片付ける承太郎達を示し、六車さんにそう声を掛ける。
「どう、とは?」
「――俺には、普通の大学生2人と、普通の高校生1人と、普通の中学生1人が仲良く話しながら片付けをしている様子にしか見えませんよ」
「――――」
「あなたは、どう思いますか?」
「…………そう、ですね。――私にも、そう見えます」
「ですよね?」
良かった。彼の目は正常だ。
「今世の彼らは、基本あんな感じです。……前世で吸血鬼になって、ジョースター家と敵対した巨悪。
それからその息子で、前世のヨーロッパ全土に影響を及ぼした元マフィアのボスが混ざってますけど、それでも楽しそうに会話してるでしょう?」
「っ、園原さん……あなたはディオ・ブランドーとジョルノ・ジョバァーナの前世を知った上で、」
「訂正してください」
「え?」
「彼らは今世ではもう、ディオ・ジョースターと、ジョルノ・ジョースターなんです。……すぐに訂正してください」
「……申し訳ありませんでした。確かに、その通りですね。訂正します。……今の彼らは、ディオ・ブランドーと、ジョルノ・ジョバァーナでは、無い」
そう言うと、六車さんは視線を落とし、何かを考えるような仕草を見せる。
「……園原さんは、ディオさんとジョルノさんの事が怖く無いんですか?」
「……正直に言うと、ディオさんの事は最初はちょっと怖かったです。でも……話してみたら、全然そんな事はなかった。普通の年上のお兄さんでした。
やっぱり人間って、直接会って話をするまでは、相手の事が永遠に分からないままだと思うんです。
前世の事とか、他人の話だけを聞いて"この人はこういう人だ"って決めつけて、その人を拒絶する――それは、空条承太郎が嫌っている、レッテル貼りそのものですよ?」
「っ!!」
「あんた、そのままでいいのか?」
はっと、俺を見た彼に向かって静かにそう告げると、彼は俺に深く頭を下げた。
「――貴重なご指摘を、ありがとうございました。……彼らは、私と話してくれるでしょうか?」
「ディオさんもジョルノも、最初は六車さんの事を不審に思うかもしれませんが、ただ話すだけなら、応じてくれると思いますよ」
「分かりました」
よーし、修正成功!あとは2人と話せば、自ずと今世の彼らは無害だと理解してくれるだろう。
で、ディオ達の味方になった六車さんから、財団内で彼らを敵視する一部の職員達について情報をもらえるようになったら、御の字だ。
しかし。予想外だったのが、六車さんの行動の早さだった。
彼はテントの後片付けを終えた俺達に、従兄弟を手伝ってくれたお礼がしたいから、夕飯を奢らせてくれと言い出したのだ。
きっとこの機会に、ディオとジョルノと会話したいのだろう。そう思って、俺は財団職員である彼を疑うディオ達を説得した。
疲れが溜まっているから先に帰るという三谷さんを見送り、俺達6人は一緒に夕食を食べに行く。
……その結果。六車さんはディオとジョルノを信用してくれたし、ディオ達も六車さんを信用してくれた。良かった、良かった。
「……で、シド。お前、さっき六車と2人で何か話してたよな?」
「あれから急に態度が変わりましたし、志人さんが彼に何かを話した事がきっかけになってますよね?」
「今思うと、後片付けの時に私に声を掛けたあの時から、お前の策略が始まっていたんだろう?」
「一体何をしたのかな?」
「んん?――内緒!」
後に承太郎達から問い詰められても、俺は口を割らなかった。別に大した事は言って無いし、結果良ければ全て良しってな!
――しかし。この時の俺は、知る由も無い。……俺のこの行動が、とある人物が動く間接的なきっかけとなった事を。
※園原達と別れた後の六車の話(第三者視点)
ディオ・ジョースターと、ジョルノ・ジョースターは、今世では信用できる人物である。……それを確信した今、六車は悩んでいた。
六車は園原達と、彼ら5人の関係や、ブックフェスティバルで出会った事は誰にも言わないと、約束した。
しかし……どうしても、今回の一件を報告したい相手が、1人いる。
その相手は前世ならともかく、今世であれば、今回の話を聞いても悪いようにはしないだろう。
できれば、"あの方"にはディオやジョルノと直接会話してもらいたい。
(人間は、直接会って話をするまでは、その相手の事が永遠に理解できないままである。……全くもって、その通りだ)
六車は、園原に言われた言葉を反芻する。……彼が発した何気ない言葉は、六車に大きな影響を与えていた。もちろん、園原にその自覚は無い。
大切な事に気づかせてくれた園原や、尊敬する承太郎。そしてジョナサン、ディオ、ジョルノとの約束を守るか。
それとも。彼らとの約束を破り、今すぐに"あの方"に報告するか。
園原達を裏切るような真似は、したくない。……だが、"あの方"に報告し、ディオとジョルノに直接会って話をしてもらえたら――
(――彼らを敵視する一派を押さえ、彼らを本当の意味で自由にする事も、可能かもしれない)
同僚から"真面目過ぎる"とよく言われる六車は、悩んだ。大いに、悩んだ。……そして、天秤が傾く。
(……空条さん、園原さん。――申し訳ありません!)
心の中で、神に懺悔するような勢いで謝罪した六車は、スマホを取り出し、"あの方"に電話した。
「……お忙しいところ、恐れ入ります。実は、ご報告したい事がありまして――」
※"あの方"が動き出すまで、あと――?