・前半、第三者視点。後半、男主視点。
――空条承太郎だって、目の前で友人に危機が訪れたら、心臓が止まるような思いをするはず。
即座に、時も止めるはず。
「――あー、やっと終わったぁ!」
「腹減ったな。食堂行こうぜ」
「……園原。行けるか?」
「うん」
授業が終わり、昼休みに入った。自作の弁当を手にした園原は、クラスメートである3人の男子生徒と一緒に、教室から出る。……園原は基本的に、学内ではこの3人と行動を共にしていた。
彼らは3人は全員、同じ部活の部員同士だ。1年の頃から仲が良かったらしく、2年で同じクラスになってからはずっと3人で行動していた。
園原は、2年になってからすぐにそのグループの1人と仲良くなり、自然と残りの2人とも仲良くなった。それ以降、彼らは4人で行動している。
教室から出た彼らだったが、前方で女子生徒達の黄色い声援が聞こえ、その足が止まる。
「うおっ……相変わらず、すげー……」
「あぁ、A組の空条と花京院な。いつもいつも女子からキャーキャー言われやがって……!」
「男の嫉妬は醜い。モテない奴のそれは特に醜い」
「なんだと、コラ!」
「……あ、そろそろ来るよ。3人共、端に寄って」
「おっと」
道の真ん中にいた3人は、園原の声に従い、廊下の端に寄った。
万が一、前から来る2人にぶつかってトラブルになってしまった場合、何処かにいるであろう承太郎のファンクラブの人間に、目を付けられてしまう可能性がある。
彼のファンクラブには承太郎に恋する女子生徒だけでなく、承太郎の強さに憧れた男子生徒まで入っているというのだから、恐れ入る。
ファンクラブ持ちの人間やその仲間達を見つけた時は、必ず道を譲る。もしくはその場から離れる事。……これは、この学校で余計なトラブルを生まないための、暗黙のルールである。
「お腹空いたな。早くお昼食べようか」
「おう。……あいつらは?」
「えっと……あ、今連絡来た。いつもの場所で待ってる、との事だ」
「ん」
そんな会話をしながら、承太郎と花京院が横を通り過ぎて行く。
(――!)
その時、園原は一瞬目を見開く。すれ違い様に、承太郎と目が合ったからだ。……彼は、園原だけに分かるように目を細め、一度だけゆっくりと、瞬きをした。
(器用な事するなぁ、あいつ。瞬きで挨拶って、お前は猫かよ。さながら黒猫……いや、黒豹か?)
園原は自然な動作で口元を隠し、笑いを耐える。……今度すれ違った時は、自分も同じ事をしてみようか、なんて思いながら。
「……女にモテるし、なんか仲間がたくさんいるらしいし、あの2人試験でいつも1位と2位勝ち取ってるし、頭も良いんだろ?いいよなぁ、人生勝ち組って感じで」
「そうだなー。苦労する事が何も無さそうで、羨ましいや」
「――いや。苦労する事が何も無さそう、というのはさすがに無いんじゃないかな?」
一緒にいたクラスメート達の会話を聞いた園原は、思わず口を挟んでしまった。
「彼らだって、1人の人間なんだよ?きっと何かしらの苦労はしているはずだ。……むしろ、苦労して努力を重ねた結果が、君達の言う人生勝ち組?なんじゃないかな?」
園原はそう言って、承太郎達がいる方へ振り返る。……彼らの背中を見て、原作のストーリーを思い浮かべた。
3部の、戦い続きのあの旅を経験した彼らが、何も苦労していないはずが無いのだと、園原は思う。
「……もしそうだとしたら、その苦労や努力をひけらかす事なく、堂々としている彼らって――凄く、カッコいいと思わない?俺なら、尊敬するね」
それからクラスメート3人の方へ振り向き、最後にそう言って笑い掛けると、彼らはポカンと口を開き、園原の発言に言葉を失っていた。
3人の心境は、こうだ。――嫉妬するどころか純粋に人を尊敬する園原の方が、余程カッコいいのでは?
(――まぁ、そんなカッコいい奴らも、過去には"不良の
しかし、3人に尊敬されていた園原は内心でそんな事を考えていたため、いろいろ台無しである。
―――
――――――
―――――――――
放課後。俺は旧図書館に向かった。
旧図書館には、大体週一回ぐらいのペースで通っていた。基本的にバイトが休みの日に行って、最終下校時間ギリギリまで本を読んでから、帰る。
前世でも今世でも、俺は本が大好きだ。しかし、今世ではバイトで生活費を稼ぐのが精一杯で、本はたまにしか買えない。
だから、バイトが無い日に旧図書館で本を読む事で、その欲を発散させているのだ。ここの本は全て貸出禁止だから、その場で読まなければいけない。
ここには貴重な書籍も、まだ読んだ事がない小説もたくさんある。……さすがに卒業するまでに全て読み終わるのは、無理だろうなぁ。
そんな訳で。今日は先週来た時に、読み終わらなかった本の続きを読むために来たのだが……旧図書館に入って早々、三谷さんから仕事を頼まれる。
「……悪いな。先日その本を取って読み終わるまでは良かったんだが、今日は腰が痛くて梯子を上れない。それで困っていたんだ」
「いえいえ。大丈夫ですよ。それじゃあ、戻して来ます」
先日。三谷さんは旧図書館の本棚の一番上からとある本を取り出し、今日それを読み終わった。さっそく元の場所に戻そうとしたのだが、朝から腰が痛くて、このままでは梯子が使えない。
そこに若い男である俺がやって来たので、三谷さんは俺に本を戻して欲しいと頼んだ訳だ。
三谷さんにはカウンターで休んでもらい、俺は梯子が掛けられた本棚に向かう。本を持ったまま一番上まで上がり、それを元の場所に戻した。
ちらっと下を確認したが、想像以上に高い場所だ。早く下に戻ろう。
「……園原」
「あ、承太郎くん。ちょっと待ってて。今降りるから」
本棚の入り口付近に、承太郎が立っている。……決して示し合わせた訳でも無いのに、この遭遇率の高さよ。最近では驚く事が無くなった。
どちらか一方が"直接会おう"と携帯で連絡しない限りは、互いにいつ旧図書館にいるのかが分からない。……そのはずなのに、かなりの頻度で出会うのだ。
承太郎は、"連絡しなくてもどうせ会えるだろう"と考えている節がある。俺もこの遭遇率の高さが面白くなってきたので、こいつにはあえて、バイトがいつ休みなのかを教えていない。お互い様だ。
今日もいつも通り、互いの隣で本を読み、たまに会話を楽しんで、時間が来たら別々に帰る。そんな平和な流れになるのだろうと……そう、思っていた。
――バキッ、という。不吉な音が聞こえるまでは。
「っ、!?」
「――園原ぁっ!!」
足場が無くなって息を呑んだ、刹那。俺は突然の浮遊感に襲われていた。
承太郎の、今まで聞いた事が無い程の必死な声。そして、仰向けに落下している事を自覚した俺は、咄嗟に両腕で頭を覆って目を瞑る。
――落下の衝撃を覚悟していた俺だったが、何かに受け止められたのを感じて、恐る恐る瞼を開けた。
「…………承、太郎?」
「…………やれやれだぜ。危ねえな。無事か?」
「あ、あぁ……」
俺を受け止めたのは、承太郎だった。……どうなってる?
「お前、今、……あぁ?何でだ?どうやってあの場所から、ここに、」
「それより、園原」
「な、何だよ?」
「――俺の後ろに、何か、見えないか?」
混乱している俺は、訳も分からずに承太郎の背後を見た。
「――何も見えねぇけど……それがどうかしたか?」
「……ふ、……そうか。見えないなら、それでいい」
何故か、嬉しそうに微笑を浮かべた承太郎は、俺を抱えていた状態から慎重に床に下ろした。地に足が着いて、ようやくほっとする。
「おい、坊主共!何があった!?」
「あ、三谷さ――」
「――おい、そこの管理人」
獣の唸り声のような、恐ろしい声が聞こえた。三谷さんが震えている。
「……ここの整備は、一体どうなってやがる。この木製の梯子は随分古いぞ。――だから園原が、梯子の天辺から落ちる羽目になった。あれを見ろ。踏み場の一部が腐って折れてるだろうが。園原はあそこで踏み外して落ちて来たんだぞ……!!」
「な、なに!?」
「間一髪で俺が受け止めたから良かったものの、間に合わなかったら俺のダチが大怪我するところだったぜ――殴られる覚悟はできたか?」
「じょ、承太郎!待て、落ち着けぇっ!!」
承太郎よりも背が低く、細身の俺が頑張ってしがみついて引き留めた結果。なんとか怒りを収めてくれた。昼間にこいつを黒豹に例えたが、なるほど確かに猛獣だった。
今日はもう読書をする気になれず、早めに帰る事にした。承太郎に改めて助けてくれたお礼を言い、さすがに肝を冷やしたのか、素直に平謝りする三谷さんを宥め、旧図書館から外に出る。
しばらく歩き、周りに誰もいない事を確認した俺は、顔面を覆って深めのため息をついた。
(――あっっぶねぇ……!!)
先程、承太郎に助けられた時の状況を冷静に確認した俺は、自分が綱渡り状態にあった事に気づいた。
梯子から落ちる前。俺がいたのは、本棚の一番奥。読書スペースに繋がる出口付近だ。
承太郎が立っていた入り口付近から、あいつが走ったとしても、梯子から落ちた俺を助けるのは不可能だったはず。それ程に距離があったのだ。
しかし、承太郎は間に合った。つまり――
(――あいつ、時を止めやがった)
自分の分身の力を使い、俺を助けてくれた。それには本当に感謝したい。
だが、問題はここからだ。その後、承太郎は自分の後ろに何か見えないかと、俺に聞いた。梯子から落ちた直後で混乱していた俺は、それに対して何も考えずに正直に答えた。何も見えない、と。
どう考えても、その時承太郎の後ろに
見えなくて良かった。本当良かった!スタンド使いじゃなくて本っ当に良かったぁ!!
もしもスタンドが見えて、万が一スタープラチナの名前を呟いてしまったら?確実に怪しまれていただろうな。
あの承太郎を前にして誤魔化せるはずが無いし、下手したら俺の前世まで明かさないと納得してもらえない事態に陥っていたかもしれない。危なかった……
それから、もう1つ。……俺、あいつの前で素の口調で話してしまったんだが。
あれは"真面目な特待生"の口調ではなく、高校に入学する前の、乱暴な口調を使っていた時の俺だ。……承太郎が何も突っ込んで来なくて良かった。これなら、次会った時も大丈夫だろう。
だがしかし、後日。俺の考えが甘かったのだと知る。