・男主視点。
・後半、承太郎がちょっと弱っています。
・キャラ崩壊と、いろいろ捏造注意。
――空条承太郎だって弱ってしまう時があり、そんな気持ちを友人に吐き出したくなる事が、きっとあるはず。
「よーし、来い!今度こそ――」
「――オラァ!!」
「え、ちょっ……!?速過ぎ速過ぎ!無理ゲー!」
「……おいおい、頑張れよ園原。お前、まだ0点じゃねーか」
「承太郎てめぇ、大人気無い野郎だな」
「大人じゃねえからな。お前と同い年だ」
あぁ、今世はそうだろうよ。だが前世を含めるなら、精神年齢が40代である事を知っているぞ!言えないけどな!
……さて。昼飯を食べ終わった俺と承太郎が何をしているのかというと、現在ゲームセンターで遊びまくってます。
今やっているのは、エアホッケー。会話から分かる通り、承太郎の圧勝だ。こいつは力に物を言わせて、ご自慢のパワーとスピードで円盤を打ち込んで来る。……まさか、スタンド使って無いよな?
「くっそ……!これが終わったら、俺がやりたいゲームに付き合わせるからな?覚悟しろよ」
「いいぜ。これが終わったら、な。せめて俺から1点だけでも奪ってみせろ」
「1点だけは絶対取る!」
……最終結果、0点。承太郎の哀れみの視線に、プライドが傷付いた。
という事で、復讐実行。
「…………本当に、これをやるのか?」
「覚悟しろって言っただろ?俺が付き合えって言って、それに頷いたのはお前だぞ」
「……仕方ない、か」
俺が選んだのは、ダンスゲームだ。筐体が大きい最新の機械で、高1の頃、クラスメートと共に何度か遊んだ事がある。承太郎はやった事が無いらしい。
「とりあえず。1回俺がプレイするから、見てろよ」
お手本代わりに、俺がやっているところを見せる。これ、慣れると良い運動になるんだよな。
「よっ、ほっ……おっと!」
視界の端で、承太郎が唖然としているのが見えた。何だその顔。面白いぞ。
プレイが終わって、画面に結果が表示される。……よっしゃ。なかなかの高得点。久々だったが、体は鈍ってなかったようだ。
「……とまぁ、こんな感じだ。さぁ、君もレッツプレイ!」
「いや、無理だろ。何だ、あの動きは!」
顔をひきつらせて拒否する承太郎を、無理やりゲームの台の上に立たせて、プレイ開始。……俺はまだエアホッケーの屈辱を忘れていないからな。諦めろ。
「ほらほら、動きが固いぜ!頑張れー」
「くそったれ……!」
最初は愉快だった。承太郎は大分戸惑っていたからな。見ていて楽しかった。……だがしかし、主人公属性は腐っても主人公属性だったのだ。
「……なるほどな。コツが分かって来たぜ」
「嘘だろ承太郎……!」
「嘘じゃねえぜ」
なんと、こいつはたった数回のプレイで、俺ほどではないが高得点を出せるようになってしまった。3部主人公、半端ねぇ。
その後。そろそろ別の場所に移動しようと、ゲームセンターの出口に向かっていた時。承太郎が急に立ち止まった。
「承太郎?」
「…………」
彼の視線の先にあったのは――クレーンゲーム。それも、大きなイルカのぬいぐるみが景品になっている。
元海洋学者だから、海洋生物が好きなのか?そういえば、原作では帽子にイルカのバッチを付けている事もあったな……
「……承太郎。お前、大きい景品を取るコツ、知ってるか?」
「……いや、知らない」
「俺が教えてやるよ。やってみようぜ」
「…………だが……」
「やりたくないなら、このまま別の場所に行ってもいいが……どうする?俺はどっちでもいいぞ」
「…………やる」
承太郎が何故躊躇ったのかは分からないが、とにかく挑戦。
イルカのぬいぐるみは、既に落下口の近くにある。それも、重そうな頭の方が落下口の方に向いている。これは狙い目だ。
承太郎に指示をして、頭側が落下口に飛び出るように、クレーンで掴んでは離しを繰り返す。数回程度で、頭と胸ビレが落下口に飛び出す形となった。あとは簡単だな。
「ここまでくれば、終わりが見えて来る。尻尾を持ち上げれば、後は頭の重さで落ちるはずだぜ」
「分かった」
いつの間にか、承太郎の表情はかなり真剣になっていた。……クレーンが尻尾を掴み、それを持ち上げる。
「あ、――」
「――よし。取れたぞ、承太郎。ほら!」
取り出し口から、イルカのぬいぐるみを手にする。なかなかの大きさだ。俺が笑ってそれを承太郎に差し出すと、やけに慎重な……壊れ物を触るような手つきで、受け取った。
そしてぬいぐるみを見つめて――ゆるりと、微笑む。
(おお……!?)
今までにも、こいつが小さく笑う顔は見た事がある。表情はその時と変わらないが、雰囲気が全然違う。
なんというか、背後で花が飛んでいる感じだ。ふわふわしている。超絶ご機嫌状態だという事が、よく分かった。
そんな承太郎が、俺の目を見る。翡翠の瞳が、細められた。
「――ありがとう、園原」
「――――」
「……園原?」
「いや、何でもない。何でもないんだ。その……あぁ、もう、何でもねぇよ!」
「?」
ほんの一瞬。俺に見せた、今まで見た事が無い表情――目元も口元も緩んだ、あの幸せそうな笑顔は、一生忘れられないだろう。
―――
――――――
―――――――――
あの後。承太郎がぬいぐるみを持ちながら、何やら困った雰囲気を出していたので、何か心配事があるのかと聞いてみたら……
「……自室にこれを置いておくと、一緒に住んでいる奴らに見られるかもしれない」
「あぁそういえば、お前。親戚も含めた家族皆で、デカい家に住んでるんだっけ?……もしかして。似合わないとか言われるのが嫌なのか?男のくせにー、とか?」
「……そうだ」
そういう事を気にするのは意外だったが、それなら俺が預かろうか?と申し出た。
もしも卒業後など、この先俺のように一人暮らしをする可能性があるなら、その時に俺から引き取ればいい。友人なのだから、遠慮するな、と。
すると、承太郎が大きく目を見開いた。珍しく仰天しているらしい。
「…………卒業後も、俺と友人関係を続けてくれるのか」
「そうだが?……えっ、何?お前、俺と縁切るつもりでいたのか?」
「違う!そんなわけねえだろ。……あー、……悪かった。ありがとう」
「あ?おう……どういたしまして?」
謝罪された理由も、礼を言われた理由も分からなかったが、それはさて置き。
街をぶらぶらと歩いたり、本屋に寄ったり、他の店にも寄ったりして……気が付けば、もう夕方だ。承太郎が時計を見て、"そろそろか"と呟く。
「今日の最後に行きたい場所か?」
「あぁ。……駅の方に戻るぜ」
承太郎の後をついて行き、駅まで戻って来た。しかし足は止まらず、駅を通り過ぎる。
やって来たのは、駅から近い場所にある、海辺まで続く階段の側。そのちょうど真正面に、海に沈みかけている夕陽が見えた。
――絶景だった。夕陽が海に反射している様子は、まるで夕陽まで続く一本の道のようだ。それが、俺達が立っている階段まで続いているように見える。
承太郎が、徐に階段を下りて行き、その中程の手すり側に座った。俺はその後ろに続き、立ったまま手すりに寄り掛かる。
しばらく、2人して黙ったまま夕陽と海を見つめていたが、その沈黙を破ったのは承太郎の言葉だった。
「……たまに、1人でここに来る」
「うん」
「――昔の事も、何もかも、忘れたくなった時に……ここに来て、夕陽が沈むまで眺めている」
思わず夕陽から目を離し、承太郎の後ろ姿を見る。……不思議と、その背中がいつもより少しだけ、小さく見えた。
「……もう、宿命も使命も無い。一度失ったものが、今ではどういう訳か側に在る」
ポーカーフェイスが崩れそうになり、必死に耐えた。
宿命に、使命。それは――ジョースター家の運命や、DIOとの因縁の事か?それに"一度失ったもの"や、"今では側に在る"とは……まさか原作、いや前世で失った仲間達の事を言ってるんじゃないだろうな?
もしもそうだとしたら、何故それを"何も知らない"俺に話す?俺はこのまま話を聞いていいのか?
俺は今、承太郎の心の内側に触れてしまっているのでは?
(……いや。そもそも、絶対に俺に聞かせたく無い話なら、こいつが口を滑らすわけが無い、か)
それなら俺は、承太郎の言葉にできる限り過剰な反応をしないように気をつけて、かつ、話を聞いているという態度を取らなくてはならない。
前世の事を知らないはずの俺に、わざわざそんな話をするのは、きっと何か理由があるのだろう。
寄り掛かっていた手すりから離れ、承太郎の隣に座った。……痛いほど視線を感じても、俺は夕日から目を逸らさない。
よく分からない話をされても突っ込まないし、話す理由を無理に聞くつもりは無い。でも、話自体はちゃんと聞く。……俺のそんな意思が伝わったのか、視線が無くなると同時に再び口を開いた。
「……俺は、ずっと求めていた日常を手に入れた。一度失った者達と、共に笑い合う……昔ならあり得なかった日常だ。
最初は嬉しかった。あいつらや、昔は仲違いしていた子や、あえて連絡を断っていた者達と互いに歩み寄り、穏やかな時間を共にする事が、何よりも幸せだった。
だが、そのせいなのか……欲が出てしまった。
皆と話している時に、気づいた。――皆が見ているのは今の俺ではなく、昔の俺なのだ、と。無意識なのか否かはともかく、誰も、今の俺を見ようとしない。
だから俺は、昔の俺よりも今の俺を見て欲しいという、欲が出た。……昔の俺は、自分でも記憶を抹消したくなる程に、酷い有り様だったからな。
今の俺を見てもらうために……言葉で主張するのは苦手だから、態度でいろいろ示してきた。
昔のような"不良のレッテル"を貼られないように、できる限り真面目にやってきた。
あいつらや、あの子達が遊びに誘ってきた時も付き合った。……苦手なりに、少しでも言葉で気持ちを伝えようと、頑張っていたつもりだ。
それでも……通用しなかった。いつの間にか昔と同じく"不良のレッテル"を貼られていて、あいつらもあの子達も――"昔の俺"こそが"俺の全て"なのだと、信じている。少しも疑おうとしない」
承太郎は、いつになく饒舌だった。……それ程に、溜め込んでいたのだろう。こんなにも複雑な感情を、たった1人で抱え込んでいるのだ。
「決して、あいつらやあの子達に対して不満を持っているわけではない。これは、そう――俺の、我が儘。ただの願望だ。
……そんな事を考えていると、だんだん疲れてきてな……昔の事も、何もかも、忘れたくなる。
そういう時は1人でここに来て、この光景を見てひたすらぼーっとして、満足したら帰る。すると、多少は心が楽になるんだ」
「…………」
「……悪かったな。訳の分からねえ話だっただろ?どうか、忘れてくれ」
最後にそう言って黙り込んだ承太郎に対し、俺はこいつの話を思い出しながら、慎重に言葉を掛ける。
「……確かに、俺には何が何やら、分からん話だ。……でもな。承太郎の話を聞いて、分かった事がある」
「分かった事……?」
「お前が、今まで本当によく頑張ってきた事。お前には、昔の自分よりも今の自分を見て欲しいという、強い願いがある事」
「…………」
「そして――訳の分からない話をしてようが、何しようが、俺が承太郎の友人である事に変わりは無い事」
大きく見開かれた翡翠と目を合わせ、さらにこう続けた。
「あと、これは俺の考えだが……"昔のお前"と"今のお前"で区別する必要って、あるのか?」
「……何?」
「"昔のお前"と"今のお前"。その全てをひっくるめて――空条承太郎という、1人の人間である。……そんな解釈じゃ、駄目か?」
「――――」
……あれ?固まった?
「お、おい、承太郎?……大丈夫か?おーい!」
「っ!!」
肩を揺さぶると、我に返ったようだ。見開かれた目が元に戻る。……しかし次の瞬間。承太郎は片手で目を覆って天を仰ぎ、大笑いし始めたのだ。何で!?
呆気に取られていると、笑いを収めた承太郎は俺を見て、少年のような無邪気な笑みを浮かべた。
「そう……お前がそういう男だから、俺は今も、これからも、お前の友人であり続けたいんだよ。園原」
「……はぁ?」
「くくっ……!はははは……!」
まだ笑うか、こいつ。……よく分からん奴だな。やれやれだぜ。
(でも、まぁ……すっかり元気になったみたいだし、何でもいいか)