・承太郎視点。ちょっと女々しい。メンタル弱めかもしれません。
・原作では、ジョナサンは茨のスタンドがあるようですが、このシリーズではスタンドを持っていないという設定で進めます。
――空条承太郎だって、"最強のスタンド使い"という肩書きに重圧を感じる時が、きっとあるはず。
夜中。自宅であるジョースター家の邸宅にある談話室で、俺は約束の時間が来るのを待っていた。
「――おっ。承太郎さん、早いっスね」
「……ちょっと意外。てっきり、父さんはもっと遅くに来るんじゃないかと思ってたわ」
談話室の扉が開き、最初にやって来たのは仗助と徐倫だった。
この2人は前世の記憶を取り戻した後、いつの間にか仲良くなっていた。どうやら気が合うらしく、よく2人で話し込んでいたり、徐倫が仗助に付き合ってゲームをしている事もある。
次いで、約束の時間の5分程前に談話室に入って来たのは、ジョナサンとジジイ――今世ではジョセフと呼んでいる――だった。
「おっとォ?1名意外な奴がいるが、みんな時間前行動か。感心、感心!」
「待たせてごめんね。……あれ?残り2人はまだかい?」
「さっき、ジョルノと会いました。あの人連れて来るって言ってたっスよ」
「あぁ、なるほど……」
それから、あと2人が来るまで俺以外の面子が談笑している。普段、俺は向こうから話を振られるまでは口を開かない。
……やがて、再び扉が開く。中に入って来たのはジョルノと――
「あ、来た。――ディオを呼んで来てくれてありがとう、ジョルノ」
「いえ、構いませんよジョナサン。ついででしたから」
「……ふん」
金髪金眼の、無駄に容姿の整った男……ディオは、ソファーや椅子に座る俺達から離れた壁際に、腕を組んで寄り掛かる。
今世のディオは、ジョルノと共にジョースター家の養子になっていた。
俺が前世の記憶を取り戻した時、既に養子となっていたため、前世の因縁が原因で一騒動起きたが……俺達の間にジョナサンが入り、いろいろと話し合った結果。今では俺もジョセフも、同じ屋根の下で生活する事に納得している。
仲良し小好しはごめんだが、少なくとも俺は"敵対しないならそれで良い"というスタンスだ。向こうも俺も、互いに話し掛ける事がほとんど無いからな。
この関係に落ち着いたのは、ジョナサンの働きが大きいようだ。
ジョナサンとディオが記憶を取り戻したのはほぼ同時期で、ジョナサンが何度もディオに話し掛け、2人で話し合い、それを繰り返した末にディオの方が丸くなった……らしい。詳しくは知らないが。
「ディオ。こっちに座らないのかい?」
「……私はここで良い。それより、さっさと話を進めろ。――例の変死体の事件について」
そう。奴が言うように、俺達がここに集まったのは、ジョセフからその話を聞くためだった。
数日前に、隣町で変死体が立て続けに発見された事件。……前世とは違い、表舞台には全く出ずに裏で活動しているSPW財団の調査によって、この事件の犯人がスタンド使いである事が判明した。
変死体は何らかの方法で血液のほとんどを抜き取られ、干からびた状態で発見されている。それが、犯人のスタンド能力によるものと推測されているようだ。
これらの情報は、俺達の中で(一応)代表者として扱われているジョセフが、財団からの連絡で得たものだった。そして今日、新たな情報が入って来たという。
「――ついに、うちの地域でも変死体が出た」
ジョセフの言葉で、談話室は緊張感に包まれた。
「遺体が発見された時の状況から、隣町の事件と同一犯である事は間違い無いってよ」
「うえぇ、マジかよ」
「ちっ……胸糞悪いわ。今あたし達が話し合っている間にも、犯人は次のターゲットを探しているんでしょうね」
「そうだね。……僕達の手で、何とか捕まえられるといいんだけど……」
「スタンド使いでは無い貴様はすっ込んでいろ、ジョナサン」
「うっ……分かってるよ」
この中でただ1人、スタンドを持っていないジョナサンに対し、ディオが釘を刺す。
ジョナサンは優れた波紋使いだが、スタンド使いでは無い。目に見えないスタンドが相手となると、多少は気配を察知する事ができるが、どうしても不利になる。
「……ジョセフさん。犯人について、他に何か分かった事はありますか?」
「おう、よくぞ聞いてくれた!財団の人間の調査の結果、犯人の特徴が分かったぜ!」
ジョセフから聞いた、犯人の特徴を頭に叩き込む。その後は今回の情報を、各自知り合いのスタンド使い達……特に、同じ学校に通っているスタンド使い達とは必ず共有するようにと、指示された。
スタンド使いは、ひかれ合う。……何かの拍子に今回の事件の犯人と、仲間のうちの誰かがひかれ合い、接触してしまうかもしれない。ジョセフが危惧しているのは、それだ。
万が一、財団からの連絡が来る前に接触してしまった時に備え、少しでも情報を共有しておいた方がいい。
俺達は基本、財団からの要請があるまでは動く事が無い。しかし現在、今回の犯人を捜索し、捕らえる作戦を財団で立案中だという。近いうちに、俺達も作戦への参加を求められる可能性が高い。
「えーっと、もう伝え忘れは無いか?……無いな。よし!そんじゃあ今日の会議はこれにて終了っ!お疲れちゃん!」
「あ、お疲れ様でした。では、失礼します」
「ふん、やっと終わりか」
「ディオ。まだ眠くないならチェスでもどう?」
「…………まぁ、いいだろう」
「徐倫、良かったらまた対戦ゲームやらねえか?今から」
「いいわよ」
「…………相変わらず、揃いも揃ってリアクションが薄い!なァ、承太郎!お前もそう思わねえかァ?」
「興味ねーな」
他の奴らに続いて、談話室の外に出る。1人残されたガキ(精神年齢は老人)はうるさいが、無視して自室に戻る事にした。
(園原のためにも、早く犯人を取っ捕まえて、安心させてやりたいんだが……)
あいつには無茶をするなと、この前心配されたばかりだからな。ほどほどに取り組むとしよう。……心配、か。あれほど真剣な顔で心配されたのは、いつぶりだ?
"自分の力を過信してるのか?"……だったな。それは否だ、園原。――俺は、自分が如何に無力であるかをよく知っている。
財団の人間や、あまりよく知らないスタンド使い達から、俺は"最強のスタンド使い"だと言われる事がある。仗助なんかは、前世で"無敵のスタープラチナ"とか言ってたな。
最強?無敵?……そんな事、一体誰が言い始めたんだ。俺は最強なんかじゃねえし、スタープラチナだって無敵じゃねえ。
本当に最強で、無敵だったら、前世の俺は"大切なもの"を全て守る事ができたはずだ。
「――っ、」
携帯から通知音が聞こえ、我に返った。……自室のベッドで仰向けになっていた俺は、傍らに置いてあるスマホを手に取る。
画面には、園原からのメッセージが映っていた。……そういえば、あの会議が始まる前にもメッセージアプリで会話していたんだった。
"もしかして、寝落ちしたか?"
"してねえよ"
"起きてたか。別に無理しなくていいぜ。眠いなら寝ていい"
"いや、まだ起きてる。明日は学校休みだからな、多少は遅くても問題ない"
"そうか。じゃあ、もう少し話そう"
自然と、口元が緩んだ。先程まで心に巣食っていた、鬱々とした思いが晴れていく。……そう。お前は違ったな、園原。
お前は、俺の事を"自分と同じ人間だ"と言ってくれた。
"ところで、さっき親戚同士でちょっとした話し合いをしていたんだが"
"おう?"
"話し合いの最後に、お疲れちゃん!とか言ってふざける何処ぞの生徒会長サマの事をどう思う?"
"は"
"は?……どうした?"
"wwwwwwww"
"なんだ、ツボに入っただけか"
"なんだ、じゃねぇよ!おい、嘘だろ会長さん!お疲れちゃんとか、死語じゃね?"
"なるほど、奴はジジイだったか"
"おい、こらw身内をジジイ扱いすんなww"
実は精神年齢が本当にジジイだったと知ったら、お前はどんな顔をするんだろうな?
いずれ、園原には前世の話をしたいが、そうなるとスタンドの事も話さなくてはならない。あいつは既に、俺が側にいる時に何度か"不可思議な体験"をして、それを疑問に思っているはずだからな。
……スタープラチナの事を知っても、園原は俺の事を普通の人間だと言ってくれるだろうか?この前のように、俺の事を本気で心配してくれるだろうか?
しばらく話した後。園原の方が眠気に負けてしまったらしく、"ねむい、ごめん、おやすみ"というメッセージの後に既読が付かなくなった。
俺も"おやすみ"とだけメッセージを送り、ベッドに横になる。……良い夢が見れそうだ。
―――
――――――
―――――――――
翌日の朝。俺は徐倫と共に、家の最寄り駅へ向かっていた。
徐倫は今日、友人と遊びに行く約束をしていたらしい。以前から計画していて、今日が来る日を楽しみにしていたようだ。
前世での娘、今世での妹が上機嫌で歩いている様子は、見ていてとても微笑ましい。決して、顔には出さないが。
しかし朝とはいえ、例の変死体事件の犯人が潜伏している中、女を1人で歩かせるわけにはいかない。だから俺が、徐倫を駅まで送る事にした。
「ここまででいいわ。ありがと、兄さん」
「あぁ。……楽しんでくるといい」
「ん……兄さんだから心配いらないと思うけど、1人で帰るんだから、一応気を付けてよね」
「…………分かっている。まぁ、家までそう遠くない距離だ。その間に例の犯罪者と遭遇する事は、さすがにねえだろ」
それから徐倫と別れ、歩いて家に帰る。……この時の俺のセリフを園原が聞いていたら、きっとこう言っていただろう――
――承太郎、それはフラグだ。……ってな。
「ひひ、ひひひ――っ、お前の血を寄越せぇぇ!!」
「…………やれやれだぜ」
事の始まりは、帰り道にある小さな公園の前を通り掛かった時だった。
普通に道を歩いていた俺は、突然背後から殺気を感じたため、長年で培った勘に従い、公園の中に逃げ込んだ。
スタープラチナを出しながら振り向くと、先程まで俺がいた場所を、無数のナイフが通り過ぎていく。
そして現れたのは、昨夜ジョセフから聞いた犯人の特徴と一致する男と、その背後に佇む、赤黒いコートを着た人型のスタンドだった。
男は俺がスタンド使いだった事に驚いていたが、それよりも俺の血に興味があるらしい。曰く、俺からは美味しそうな血の匂いがする、と。
てめえはDIOか。……いや、今はもう吸血鬼じゃなかったな。
それはともかく、敵は自分のスタンドの能力について得意気に語った。
奴のスタンドは無数のナイフで相手を攻撃し、傷付ける事で、相手の血を吸い取る事ができるという。また、本体はスタンドの影響で血の匂いや味に敏感になる。
スタンドが血を吸い取ると、その味が本体にも伝わるらしい。……血の味に魅了された結果、男は殺人を繰り返すようになった。それが、一連の事件の真相だ。
さて。能力さえ分かってしまえば、こっちのものだ。要は、あのナイフに当たらなければいい。
奴のナイフは、一気に出してしまうと次の発動まで少し時間を置く必要があるようだ。ならば、わざとそれをやらせて、無防備になった瞬間を狙って時を止め、ラッシュを決めて終わらせる。
「――オラァ!!」
簡単にまとめた作戦は成功し、男は殴り飛ばされて公園の外へ。……殴ったのは本体だから、手加減はしている。あとは拘束して財団に引き渡せば解決だな。
その時。男を飛ばした方向から悲鳴が聞こえた。
急いでその場に向かった。男にはまだ意識が残っていたのか?あの悲鳴は誰のものか?――それらの疑問は、現場を見た瞬間に氷解し、直後に絶望へと変わる。
「――ふはは、ひひ、あっははははは!!今日はついてるぜぇ!まさか負ける直前に
「――――園、原……?」
男の狂った笑い声が響く中。体中から血を流して倒れている、大切な友人の姿を目にして、俺は固まるしかなかった。
何故。何故だ。何故俺は、いつも、いつも、いつも。肝心な時に大切なものを守れない?
(――もう、何も失いたくないのに、何故いつもこうなる?)