綾小路がCクラスに来てしまったIfの物語   作:悪い奴

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第二話 入れ替わるクラス

5月1日。

Cクラス全員でポイントを節約することを決定してから今日で一か月が経過した。

 

今月を迎え、オレの学生証端末に振り込まれたポイントは『72000』ポイント。

先月が10万ポイントだったから、比較すると『28000』ポイント減った形だ。

 

Cクラスの教室内は今月各自に振り込まれたポイントに関する話題で持ち切りだった。

 

「なぁ、今月ポイント何ポイント振り込まれたよ?」

 

「小宮も山脇も72000ポイントか…ってことはクラス全員同じポイントが配布されたってことか?」

 

「やっぱり最初の月だけサービスで多かったんでしょうか? それならそうと言ってくれれば良いと思いますがねぇ……」

 

「ねー、ひどいよねー、さいあくー。今月も10万ポイント貰えたらシャネルの鞄買おうと思ったのにー」

 

いくつもの憶測が飛び交う騒がしい教室だったがHRのチャイムが鳴り、

担任の坂上が丸めたポスターらしきものを手に持ち教室に入ってきた。

 

坂上は手に持っていたそれを黒板にバンと張り出すと、物凄い良い笑顔でオレ達に向き直った。

 

 

「おめでとう、君たちは今日からBクラスだ」

 

 

静まり返る教室。

坂上が何のことを言っているのか、今の一言で理解できた奴はまだ少ないようだ。

 

 

一学年クラスポイント一覧

Aクラス 940cp

Bクラス 690cp → Cクラス

Cクラス 720cp → Bクラス

Dクラス 180cp

 

 

張り出されたポスターには1年全クラスの現在の保有ポイントが記載されている。

 

Cクラスに今回配布されたポイントが72000であったことを鑑みるに、

720cp=月額72000ポイントを表しているのだろう。

 

そしてCクラスがBクラスになったということから察するに、

Cクラスよりポイントが低くなったBクラスがオレ達と入れ替わったということである。

 

記載されていた表を見て動揺するクラスメイト。

初日にオレが立てた予想はどうやら見事に当たっていたらしい。

 

 

「あぁ、全く君たちには関心するよ。初月からクラスが入れ替わるなど、私は想定もしていなかった。君たちは学校から与えられたポイントに疑いを持ち、各々がその疑問を共有し、見事学校のシステムを見抜いた。賞賛に値する成果だ――今回のCクラスは本当に素晴らしい」

 

 

感慨深そうにCクラスをべた褒めする坂上は上機嫌に説明をしてくれた。

 

ここに記載されたポイントは現在各クラスが保有するポイントを示しており、

1ポイントにつき生徒全員に100の個人用(プライベート)ポイントが付与される仕組みとなっているそうだ。

 

4月1日の入学時、あの時は全クラス平等に1000のクラスポイントが支給されていた。

Cクラスはそこから一カ月の間に、280ものクラスポイントを失った形となる。

 

授業態度には皆気を付けていたようではあるが普段から荒々しい言動や行動が目立つ生徒もいたので、学校外で大きく減点がされている可能性がある。

 

 

「まだ分かっていない者もいるようなので説明すると、この学校ではA・B・C・Dの4クラスは保有するクラスポイントによって決定する。君たちは今月でBクラスの保有ポイントを上回ったので、今日からBクラスに昇格したということだ」

 

「……ポイントは分かったけどよ、クラスが変わることになんの意味があんだよ?」

 

全員が思っていた疑問をぶつける石崎。

ただクラスが変わったからといって、それがいったい何になるのか。

 

坂上は意味深に口角を上げると、爆弾を落とした。

 

「――意味ならある。この学校は高い進学率と就職率を保有しているが、その恩恵を得ることができるのは、『卒業時にAクラスに所属している生徒』だけなのだからな」

 

「は? ……はああぁぁぁあああああああぁっ!?」

 

石崎の悲鳴に呼応するように、今度はクラス全員から悲鳴が上がった。

 

国が運営する進学率100%の高校に入学出来たと思っていた者たちからすると、

たまったものではないのだろう。

 

「そ、そんなの入学時に聞いてねーぞ! 無茶苦茶だろ! 詐欺だ詐欺!!」

 

「君らの気持ちも察するが、そこはもう諦めてくれとしか言いようがない」

 

「なっ、――そっ……、そんなんで諦められっかよ!」

 

「前評判では聞いていただろう? この学校は『実力至上主義』の学校であることを。争いに敗れた者に学校は…国は一切の手を差し伸べることはない。非情だ、理不尽だと思うのも無理ないがここはそういう学校なのだ。……だがまぁ石崎、そう悲観する必要はない。現時点でCクラス――いや、もうBクラスだったな。BクラスとAクラスとのポイント差は220。この程度の差であれば、十分Aクラスは射程圏内だ。」

 

「……チッ」

 

「先ほども言ったが、君たちは全く悲観する必要はないのだ。遅刻や欠席、普段の生活態度などでクラスポイントは簡単に減少する。君たちはこの一か月を、誰に言われるでもなく、自らを律することで-280ポイントに留めたんだから誇っていい。……しかし前代未聞だったのはCクラスだけではない様だな、今年のAクラスはたったの60ポイントしか失っていないのだからな。これからも油断せず、試験に臨んでいって欲しい」

 

「くそが……クラスポイントの減少についてはわかったけどよ、その口ぶりからするとポイントが増えることもあるってことだよな?」

 

「その通りだ。クラスポイントは学校から与えられる試験によって増やすことも可能だ。特に注意するべき点として中間・期末試験で一科目でも赤点を取るものがいれば『即退学』となるので勉学にはしっかりと励むように」

 

「た、……退学ぅ!? たかが赤点一回で!? 冗談はその辺にしとけよ!」

 

「冗談ではない。赤点を補修で補うことも不可能なので、日頃から勉強には手を抜かないことだな」

 

「……嘘だろぉ…」

 

 

一通りの説明は終えたのか、坂上は前回行われた小テストの点数が書かれたポスターを張り出す。

そして赤点を取った者、点数が赤点ギリギリだった者の名前を呼びあげ、注意を促していった。

 

見方を変えれば晒し者みたいな感じにはなっているが、この教師なりに退学者を出さない為クラスメイトにフォローを促しているのだろう…分かりづらいが。

 

赤点を告げられた生徒の数は数名。

だが前回のテストが比較的簡単な問題の多い小テストであったことから考えると他の生徒も中間・期末に向けた勉強は必須になるだろう。

 

(このクラスポイントというシステムまさに()()()()といった具合だな。否応なしに連帯感は高まっていくだろうが、厄介事に巻き込まれるリスクもあがるわけだ)

 

赤点を告げられた生徒は数名ではあるが、

前回のテストが簡単な小テストであったことから考えると他の生徒も中間・期末に向けた勉強は必須になるだろう。

 

隣の席のアルベルトをチラリと横目に見ると、

サングラスの上の眉毛がハの字を描いていた。

 

今回の赤点組に名前は上がっていなかったが、苦手な科目があるのは間違いない。

……勉強を見てやる必要があるかもしれない。

 

HRを終え教室を後にする坂上を見送ると、

それまで口をつぐんでいた金田が席を立ち、教卓の前へと進んでいく。

 

「皆さん、坂上先生から話がありましたがどうやら今後の試験は個人だけでなく、クラス全員で力を合わせて乗り切っていく必要があるみたいです。今回は……」

 

チラリとオレの方へ向く金田。

 

「綾小路君のお陰でクラスが一体になり九死に一生を得ましたが、これからもそう上手くいくと思わない方が良いでしょう。授業態度、生活態度での減点は積み重なると一か月でポイントの大部分を失うレベルということも……Dクラスを見て分かりましたしね」

 

クラス全員その意見には納得しているのか、誰も口を出すことはなかった。

 

Bクラスに上がったことは皆喜ばしいと思っているようだが、

Aクラスとの差が既に220ポイントついていることは目を反らせない事実。

 

Aクラスにしか将来が保証されないということが分かった今では、

オレ達BクラスはAクラスを上回らなければ結局上がった意味すらないということになる。

 

「皆さんご納得いただけたようなので、ここからは私の意見を述べさせていただきます」

 

特に反論の声も上がらなかったので、

金田は『赤点で名前を呼ばれた組』、『勉強に不安がある組』に放課後残ってもらい、クラスで勉強会を開催することを提案してきた。

 

「一度でも赤点を取ったら退学ということなので、…少しでも不安のある方は勉強をしましょう。まずは今までの復習も兼ねて、放課後クラスで勉強会を開催したいと思います。私も勉強は幸い出来る方なので当然協力させていただきますし、出来れば他の方も積極的に参加していただけるとありがたいです。私たちはわずか一か月で、CクラスからBクラスに上がりました――みんなで力を合わせれば、絶対にAクラスに届く筈です。これからクラス一丸となり、頑張っていきましょう」

 

「良く言ったぞ金田ぁー!」

 

「そうだな、俺たちもうBクラスに上がったんだもんな! 来月にはAクラスに行くぐらいの気持ちで頑張んぜ!」

 

石崎や小宮などのお調子者たちが金田をはやし立てる。

何はともあれBクラスに上がったオレたちは、今まで以上の団結力を持つことになってしまった。

 

これは間違いなく良い事なのだろうが、

自分がクラス抗争に巻き込まれる可能性も上がったので一長一短だ。

 

(まぁなるようになるか…しばらくはこのクラスの行く先を見せてもらうことにしよう)

 

不確定なものばかり予想は立てづらいが、今のオレにも少し見えたものがある。

このクラスはきっと――どこかで一度苦汁を舐める事になるだろう。

 

その時立ち上がれるかどうか……オレはそれを少し、見てみたいと思った。

 

 

 

 

 

 

放課後の勉強会には参加をしなかった。

 

ホームルーム後アルベルトがオレに勉強を教えて欲しいと言ってきたので、

沢山の生徒がいる教室では少しやりづらいため図書館で行うことにした。

 

どうせなら椎名も誘おうかと思っていたのだが、

小テストでの点数がかなり高かったためクラスの女子に引っ張られてしまったようだ。

 

合掌。

 

オレはと言うと目立たないように70点付近で点数を纏めていたのもあり、

クラスの男子たちから引き留められることはなかった。

 

……悲しくなんかはない。

 

今は次のテストに備えてアルベルトの国語を見てやっている。

アルベルトはやはり外国の生まれのためか、国語を非常に苦手にしているらしい。

 

現代文のテストなんかは作者の気持ちを読み取れとかいう問題が良く出てくるが、

あの手の問題が本当に嫌いだと教えてくれた。

 

お前の気持ちなんか知るかと珍しく憤慨しているアルベルトに吹き出しそうになった。

温厚なアルベルトも怒ることはあるようだ。

 

 

しばらく勉強を教えている内に分かったことだが、

アルベルトは学習能力といった点では他の生徒よりも優秀であるようだ。

 

オレがある程度かみ砕いて説明をしてやると一度でちゃんと理解してくれる。

この調子なら数学も同じ要領でやってくれるだろう。

 

思ったより手がかからないことに喜んでいると、

突然後ろから肩をツンツンとつつかれる感触があった。

 

「あのー……君たちってCクラス…いや違うか。Bクラスの生徒だよね?」

 

声のかけられた方向に振り向くとそこにはストロベリーブロンドの髪をした女生徒が立っていた。

 

美人である。

どこのクラスの生徒だろうか、初めて見る顔だ。

 

「にゃははー、二人とも勉強中にごめんね。私はCクラスの一之瀬帆波って言います。ちょっとだけお話出来たらなーって思うんだけど、どうかな?」

 

「…敵情視察ってやつか?」

 

「うわっ、ストレートに聞き返された! そうだねー、隠しても仕方ないから話すとそうだよ。今日クラス替えの発表があって、本当にビックリしちゃった。私たちCクラスも結構気を付けてはいたんだけど、AクラスとBクラスには適わなかったみたいだからちょっとお話聞きたいなーって……だめ?」

 

口元に指を添え首を傾げる一之瀬という生徒。

普通の男子高校生だったらイチコロであろう困り顔に思わず頷きそうになる。

 

「そうだな……やっぱりだめじゃないか? あまりクラスのことをペラペラ話してしまうとオレがBクラスから怒られる」

 

「言い辛いことは言わなくてもいいよ? 私も無理やり聞こうって訳じゃないから」

 

「だったらいいが…」

 

「ありがとう! それじゃあねー、綾小路君って『Bクラスのリーダー』なのかな?」

 

「……は?」

 

単刀直入に切り出された問いにオレは少し固まってしまう。

 

話してもいないのにいきなり名前を呼ばれたこともそうだが、

オレがBクラスを率いているという予想も一体どこからきたのだろうか。

 

「あははー、こんなこといきなり聞かれても答え辛いよね。実はCクラスの子でBクラスの生徒と仲が良い人がいて、その子が綾小路君の事すごいって話してたみたいなんだ。――あ、詳しくは聞かないでね! 私もそこまでは答えられないから!」

 

「そうか……」

 

若干懸念はしていたが、クラス対抗戦であることが分かる前に情報を漏らしてしまった生徒がいたようだ。

放課後部活をしている生徒であれば、世間話がてら話すことも十分考えられる。

 

「その子は責めないで欲しいんだ。こんなことになるのが分かる前だったし、その子も詳しく話してた訳じゃないから」

 

「そんなつもりはない。オレだって確証があった訳じゃなく適当に思いついたことを話しただけだし……たまたまだぞ」

 

「ほんとかなー? 怪しいぞー?」

 

一之瀬はオレの隣に腰を下ろすと下から顔を覗き込んでくる。

イチイチ蠱惑的な美人にやられてしまいそうになるが鋼の精神で耐える。

 

恐らく彼女がCクラスの中心的な生徒なのだろう。

遠巻きに彼女の友人らしき生徒たちがこちらの方を伺っているのが分かった。

 

ハニートラップを断ち切り返事をする。

 

「……一之瀬の問いに対する答えは『NO』だ。見ての通りオレは根暗な男なんだ。あまり協調性があるわけでもないし、クラスを率いるなんて無理に決まってる。今は他の奴が仕切ってるさ」

 

「根暗じゃないと思うけど……そうかぁ、他の人かー。その人の名前は?」

 

「答えられない」

 

「むむむ、これは思ったより口が堅そうですぞ」

 

腕を組んで困ったと顔をしかめる一之瀬は可愛らしく、

他クラスの生徒とも円滑に話せる明るい性格であることからもクラスの人気者なのだろう。

 

彼女はとぼけた感じではあるが、

確実にこのやり取りからこちらの情報を見極めようとしている。

 

(油断のならない生徒だ…頭に入れておくか)

 

それから世間話のようなものを交えながら相手をしてやるとしばらくして満足したのか、

『じゃあねー! ありがとー!』といって自分の居たグループの元へ帰っていった。

 

BクラスとCクラスの差はわずか30ポイント。

あの感じから察するに、Cクラスもそこまで気落ちした感じではないのだろう。

 

むしろ来月にはBクラスに返り咲こうとやる気に満ち溢れているに違いない。

Bクラスからしたら今一番の脅威はCクラスになるんだろうな。

 

彼女が去るとずっと問題に向かっていたアルベルトが顔を上げてこちらを見る。

 

「Springtime of life.(青春だな)」

 

「……no(違う)」

 

本でしか知らないが、オレの知っている青春はこんなものでは決してない。

 

こちらをからかってくるアルベルトに

『そこ、間違えてるぞ』、と指摘してやると不服そうに再度問題集に視線を落とした。

 

入学してから一か月という時間が経過し、アルベルトともかなり打ち解けることが出来た。

しかしBクラスにはまだクラスになじめていない者、粗暴な性格が目立つものも多数いる。

 

オレが見る限り、現在の金田にはそういった者たちを従わせるカリスマ性が足りないように見えた。

 

そういった意味では一之瀬のいるCクラスはBクラスに勝っており、

次回以降の試験で本気を出して取り組めば入れ替わりが起こるのは容易に想像が出来た。

 

そこまで考えてオレは、――ふわぁとあくびを噛み殺す。

 

他のクラスがどう動こうと、Bクラスが何をしようと、正直今の自分にはなんら問題がない。

オレからしてみればこの学校の空気ですらまだ弛緩している。

 

 

足りないのだ――貪欲さが。

 

足りないのだ――勝利に固執する意思が。

 

(まぁそんなもの、普通に生きるには必要ないのかもしれないけどな)

 

せいぜい今後火の粉が降りかからないことを祈りながら、

オレはゆっくりと目に滲んだ涙を拭った。

 

 

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