英雄と饅頭とアカデミア 作:パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ..
「12歳より前の記憶がないんですよ」
えび先輩は真顔のままそう呟いた。まるでそれが当然であるかのようにその言葉にはなんの感情も込められてなかった。
何か言葉を返そうと口を開くが、パクパクするだけで言葉は出てこない。唐突な状況に脳が追いつかないのだ
(赤くなったり青くなったり..信号機みたいだな..黄色くなったりもすんのかな...てかなんでパクパクしてんだろう、餌待ってる鯉みたいな...ハッ!)
「俺のおかずはあげませんよ!?」
「なんの話だよ!?」
え?ほんとになんの話??
何も気にしてないのか..?いや、えび先輩はああ見えて意外と思慮深いタイプ....場の空気を温めるためにあえて....
「えび先輩って意外と優しいよね」
「?まあはい。意外とは余計ですが」
ただ実際気になりはするんだよなぁ....えび先輩の強さの秘密があるのかもしんないし...でもプライベートな部分に踏入るのは気が引けるって言うか....
「気になりますか?当時の話」
「...気になるけど...いいの?えび先輩は辛くない?」
「いえ全然」
「あ、そう..」
「とは言ってもあんま話せることはないんですけどね。気がついたら街中にいて、自分の名前しか思い出せない状態でした。そこからはまあ...なんだかんだあってヒーローに保護されて、施設に入って今に至る感じです」
「ふえぇ....街中で気がつく前のことは何も覚えてないの?」
「まじで何も覚えてないんですよ。それに、保護されたあと警察とかに身元調べてもらったんですけど、何も分からなかったですし」
「えぇ....えび先輩ってほんとに何者なのさ..」
エクス・アルビオだから外国人?でもえび先輩英語下手だしな....
「不思議なんですよねー、なんか最初から体の動かし方が分かってたっていうか、体が覚えてる..みたいな?師匠の魔法で何とかなりませんか?」
「記憶を操る魔法....ないことはないと思うけど..」
「マジすか!?」
「うん..でもぼくの個性ってなかなか複雑で...実家にある魔法の本から記憶関係のを探さなきゃ..」
「魔法の本?」
「うん、うちって一族みんな魔法に関わる個性だから、家に開発した魔法を記した本みたいなのがいっぱいあるんだよ。その中に記憶に関わる魔法書がないか探してみるね」
「よっしゃ!師匠まじで天才!頭脳がでかいだけある!」
「フフフッまあね!ぼくにかかればこれくらい今なんていった?」
頭脳が..でかい??
聞き間違いじゃねえよなぁ?今確かにデカいって言ったな!?モッチーン!!ライン越えだからなぁ!?あーもういいよ!
「ごちそうさま!じゃあねっ!」
「えっ?ちょっ、師匠!?ごめんって!悪気はほとんどなかったんですって!ほんと!2割くらい!!ああまって!師匠!」
ぜってえこの後の競技でボコボコにしてやる。それはそうとお父さんに記憶関係の魔法書あるか聞かないと..
◆◆◆◆◆◆◆◆
「師匠行っちゃったなー...結局ぼっち飯やん...」
「アノ!隣いいですカ!」
突然後ろから声を掛けられた。
声のした方へ向いてみると、そこにはギザ歯で角の生えた少女が立っていた
「予選見てましタ!かっこよかったでス!」
「え、えーと、サインとかいります?」
「ハイ!」
せっかくなので彼女の持っていたメモ帳にサインをしておいた。なかなか見る目のある子ではないか。誰か知らんけど
「あの...お名前は?」
「...やっぱリ...分かりませんカ?」
「え?」
「アアいえ!こっちの話でス!」
目の前の少女の顔に一瞬陰りが見えた。すぐに明るい笑顔に変わったが、一瞬見えたあの顔はとても悲しげであった
「初めましテ!レヴィ・エリファでス!よろしくネ!エクスくん!!」
何をよろしくするんだろう?ていうか名前言ったっけ?...ああ、放送なりなんなりで聞いてるか。でもなんか懐かしいような...胸が苦しいような...?
「ソウソウ!実は一緒にお弁当を食べに来タだけじゃなくテ!あるものを渡しにきたんダ!」
レヴィさんはそう言うとポケットから奇妙なアクセサリーを取りだした
「これはネ!不死のトーテムって言っテ、1度だけ所有者の身に降りかかった不幸から助けてくれるんだっテ」
レヴィさんはキラキラとした笑顔と、ハキハキとした声で、手に持ったアクセサリーの良さを語っていた
この手法は昔テレビで見たことある...怪しい壺を買わされるやつだ!!
「いいいいいえ!大丈夫です!お金もってないんで!」
「イヤイヤイヤイヤ違うかラ!!怪しいヤツじゃないから!!お金もいらないってば!!」
あれ?違うの?まあタダでくれるって言うなら貰いましょうかね。にしても変な形のアクセサリーだな...
ズキリ
「...?」
今一瞬頭が...?それに苦しさも増して...
「まア、エクスくんは自力で何とかしそうだかラ、また誰か大切な人にでもプレゼントしてあげてネ」
「わ...かりました?....あの、どうしてそんなに辛そうな顔を?」
「...アッ!!ごめんね!もう戻らなきゃダ!!じゃあ、まタ!!」
レヴィさんは早口でそう告げると走ってどこかへ去ってしまった。にしてもこのアクセサリー...見れば見るほど胸が苦しくなってくるような...?ワンチャン呪われてる?
まあ後で師匠辺りにあげようかな?
◆◆◆◆◆◆◆
「だ、騙しましたわね!!峰田さん!!」
ぼくはなんでチアリーダーの格好をしてポンポンを持ってるんだろう....
焦った様子の百ちゃんに勢いのままこれを着せられて...
「すみませんアルスさん...わたくし峰田さんの口車に..」
「まあ相澤先生の名前を出されたらしょうがないよ。下手人は後でしばきまわすけどさ」
この場にえび先輩がいなくてよかった。こんな姿を見られたら。記憶操作魔法を習得し、悪用しなければならない
「とりあえずぼくは、あのバカが帰ってくる前に着替えるね」
「あっ居た!おーい師匠!!あれ?なんでチアの格好してんの?」
一番最悪なタイミングで帰ってきやがった!?
こうなったら仕方がない。プランB、強力な電流を流してワンチャン記憶を消し飛ばす作戦を...
「ようわからんけどめっちゃ似合ってますね師匠!!」
「ふぇ?!」
いいい、今こいつなんて言った?!まて、落ち着くんだアルスアルマル。まずは落ち着いて深呼吸を...
「めちゃくちゃ可愛いですよ!」
「「「ええええええええええ!」」」
なななななななななんて!?そして葉隠ちゃんと三奈ちゃんはニヤニヤしてんじゃねえ!!やめろ!!退路を塞ぐな!!
にしても..えぇそうなんだぁ..えび先輩...ええぇ!?!
「どうしたんですかね師匠」
「エクスくん、今のはどういう意図で言ったん?」
「いや頭身的にマスコットっぽくないですか?」
「あーなるほど。それ絶対アルスちゃん言っちゃダメやからね」
「..?わかりました?」
なんかお茶子ちゃんと話してるけどなんだろ...
ええいっ!恋バナ
ぼくの両腕をホールドするなっ!
「そんなことより師匠!このアクセサリー貰ってくれませんか!!」
「「「えええええええええ!!」」」
「なんだかオイラたちの頑張りが、リア充のイチャイチャのために消費されちまったな」
「まあ目標達成はできたんだ。いいことにしてやろう。上鳴電気はクールに去るぜ..」
今日のお前どうしたんだよっ!!!!!さっき別れてから一体何があったの!!?あの一瞬でどうやってアクセサリーを!?まさか前々から準備を...!?
「...ってなにこれ」
「不死のトーテム?って名前みたくて、お守りみたいなもんですね。要らなかったら捨てますけど..」
「ああいや、ありがと?うん。ちょっと変わった造形してるから気になっただけで...うれしいよ」
モアイみたいな形をしたお守りみたいだけど...素材は案外ちゃんとしてる...なんかの合金かな?
「ただあの...今度からもうちょいタイミングっていうのを考えていただけると...」
「..?わかりました!あとそろそろ抽選が始まるみたいですよ?」
ああ行っちゃった...おいやめろ!そこの中毒者2人裏切られたって顔でこっちを見んじゃねえ!!何もねえからっ!!
◆◆◆◆◆◆◆◆
尾白達の辞退といったイベントはあったものの、抽選自体は滞りなく行われた
俺と師匠は反対ブロックだったので、決勝で当たる予定だ
「師匠1回戦誰とですか?」
「ぼくは飯田くんとだね。えび先輩は?」
「八百万さんですね」
「ぼくと戦う前に負けんなよ?」
「こっちのセリフですけどね。絶対ヴォコヴォコにしてやるんで覚悟しててください!」
これから午後のレクリエーションが始まるが、師匠は魔力回復のため出ないようだ。僕はせっかくなので出ることにした
借り物競走でデカイものというお題を引き、師匠を呼びに行った僕は何も悪くないと思う
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「だから言ったじゃないですか。辛くなるだけだからやめとけって」
「だってェ...だってェ...」
「ほら涙拭いてください。せっかくの可愛い顔が台無しですよ?」
「...エクスくんなら、忘れてても思い出してくれるって思ってたの二...」
「まあまあ、この先も記憶を思い出さないって決まったわけじゃないんだ。もしかしたらふとした瞬間に思い出すことだってあるんじゃないかい?」
「ウゥ....」
「どうします?今日はもう帰りますか?教祖に無理をさせて用意した席ですし。お金的に損はしないんで」
「イヤ!最後まで見てきまス!!!」
「そうですか..ならほら、ちゃんと座って応援しましょう?」
「ウン...」
「お母さんみてえだな」