【挿絵表示】
よければ見てください。変更してほしいところとか有れば行ってくれるとありがたいです。今回はグラスと一流のウマ娘が出てきます。
再び年越しの季節がやってきた。しかし,この時期のジュニア級のウマ娘は忙しかった。この時期はジュニア級のGⅠレース,そして有マ記念がやってくる。有マ記念は出走こそできないものの年末のグランプリレース。興奮しないなんて無理な話だ。
そして今日は朝日杯フューチュリティSが行われる。かつてマルゼンスキーが勝った時の恐ろしさは今でもすぐに思い出せる。故に彼女は『怪物』と呼ばれた。
少し話は変わるがグラスワンダーは世間で『怪物二世』と言われている。しかし二世,彼女はこれが少し気に入らなかった。グラスは怪物を超えるものとして大衆に証明する。そのための闘志を宿していた。そんな彼女に二人のウマ娘が近づいてきた。
「こんにちはデース,グラス」
「今日も調子は良さそうだ」
グラスは軽く会釈をするといつものおっとりした顔つきになった。
「あらあら,二人とも。わざわざこんなところまで。それにヒノマルくんはホープフルSに出走するんですよね?」
「ああ。でも,俺とも戦うことになるグラスのレースを見逃すわけにはいかない」
ヒノマルの心はずっと騒いでいる。今のグラスを絶対に見逃してはならない。そんな警告をずっと鳴らしていた。
グラスは軽く微笑むと、再び鋭い顔つきに戻った。彼女はまさしく求道者。無論大和撫子のような柔らかさも兼ね備えているが,レースにかける思いはとても重い。
「それでは参ります」
──不退転、それがグラスワンダーの在り方であった。
◆◆◆
『ジュニア級の王者を決めるこのレース,一番人気はもちろんこの娘,グラスワンダー!』
冬にも関わらずこの熱狂。それほどグラスの持つ力は大きかった。
全てのウマ娘がゲートに入った。あとはスタートするだけ。その瞬間からグラスはもう大和撫子ではない。
『スタートしました!』
彼女の在り方はもう一度言おう、不退転だ。意味は怠らずに励み,退かないこと。その意志は誰かに止められるものではない。そしてその走りも止められるものではない。
『グラスワンダー,外目を回って上がってきた!』
第四コーナーを曲がり,実況も熱が入る。
『どこまでちぎるんだ,グラスワンダー!もう先頭との差はわずか!いや,差した!差したぞグラスワンダー!先頭との差は広がるばかり!勝ったぞグラスワンダー!』
そこにいたのは栗毛の怪物。勝ちタイムは脅威の1.33.6。レコード勝ちだった。まさしくマルゼンスキーの再来としか言えなかった。しかし,その評価はグラスにとって不服だった。
「やりましたね,グラス!」
「本当にすごかった」
「ふふ,ありがとうございます」
グラスは顔こそ笑っているもののその心は晴れていない。エルもヒノマルもそれがわかった。別にグラスとて不名誉に思っているわけではない。マルゼンスキーとはそれほど恐ろしいウマ娘だった。ただ『怪物二世』となると人の目に映るはマルゼンスキー。グラスではない。
「わたしはこのレースであの人のイメージを超えるつもりでした。しかし今も人が思い馳せているのはあの深紅の衣装,わたしではない。──なんと不甲斐ない」
二人はかける言葉が見つからなかった。しかし,それでここで腑抜けてもらっては困る。なんとかして激をいれてやりたかった。ちょっとした沈黙。エルはいてもたってもいられず大声を上げた。
「何言ってるんですか! グラス,貴女がエルの親友なら,怪物を超えてみろ!! 貴女はその『意志』がないのですか!?」
思わず片言がなくなっている。それほど大きな叱咤だった。ヒノマルもちょっと耳が痛いと思いながらも言葉を紡いだ。
「そうだよグラス。俺はエルほどおまえを理解できてないけどグラスの勝利に秘めた思いは絶対俺たちにも負けない。いや,怪物にも負けないはずだ。世間はグラスのことを怪物二世というが少なくとも俺は──いや、俺とエルはおまえが怪物二世にとどまるやつなんかじゃないと思っている。グラスはもっと強いウマ娘になれるだけの力と『意志』がある」
二人は本気の眼差しでグラスを射抜いた。エルもヒノマルも絶対にグラスが怪物を超えると本気で信じている。グラスはそれが,嬉しくありがたかった。
「……そうですね。わたしがやらなければいけませんね。二人ともありがとうございます。『雨垂れ石穿つ』,わたしはいつか彼女を超えてみせます」
もう憂いを持ったウマ娘はなかった。そこにあったのはどれほど時間がかかってもいい,だがわたしは怪物すら生ぬるいそれ以上だと言いたげのウマ娘だった。
◆◆◆
一週間後,木場に誘われてヒノマルは中山レース場に来ていた。目的は有マ記念,年末のグランプリレース。あらゆる人とウマ娘の夢を背負った舞台である。
「ヒノマル,しっかり目に焼き付けろ。ここが俺の最初の夢だ。今でも俺は夢に駆けている途中なんだ」
その顔はいつも以上に子供のようだった。木場は有マ記念を見るときは必ずサングラスを外す。木場が初めて見た有マ記念からこのレースで勝利したいと夢見ていた。今でもそれは変わらない。
すでにレースは始まっていた。中山2500。なかなかトリッキーな形をしたレース場で行われるこのレースは得意不得意が分かれ目にもなる。そんなことを言っているうちにすでに最終コーナーだ。みんな競い合っている。観客も沸いている。誰も彼もがこの一瞬を噛み締めていた。しかし本当に一瞬。決着は終わっていた。
ヒノマルはこの景色を見たことがあった。ほんの少し角度は違ったが間違いなく見たことのあるレース。あぁあれか,やっと思い出した。ヒノマルは悟ったような顔になった。
「トレーナー」
「なんだ」
「あんたと会った日に話したレース。おそらくこの有馬記念だ」
ヒノマルにまたあの時の記憶が出てくる。
「やはり、素晴らしいな。勝利したあの人は本当にいい笑顔だ」
──あぁ,羨ましいなぁ
最後の一言は自覚がないまま放り出されたものだ。木場は何も言わずに会場の雰囲気にも身を任せた。
ライブも終わり,早く寮に帰ろうとするなか、木場は車を進めなかった。
「何をしてるんだ? 帰らないのか」
木場はおもむろに言い放った。
「ヒノマル,おまえの目標,宝塚と有マな」
ものすごくあっさりに伝えられた。ヒノマルの最終目標はまさかの二つのグランプリ制覇。あっさりいうには重すぎた。
「……え」
「多分,おまえの求めるものはこの二つのレースにある。だからよ,『勝て』。」
木場はそのまま車を発進させた。
◆◆◆
数日後,ヒノマルは控え室にいた。衝撃の目標の発表から気持ちは落ち着き,なんともなくなったがそれでもふざけてんのかと言ってやりたかった。
「しかし,現実味が感じられない。でも、掴んでみたい」
もう少し,遠い目標に目を輝かせていた。だが目の前のものに油断してはならない。強敵はどこにいるかいつだってわからないのだから。
「ヒノマル,調子どうデスか!」
ほんの少し緊張していたらエルとグラスが入ってきた。今度はヒノマルが応援される番。頑張らなければ漢が廃る。そんな思いを持っていた。
「ヒノマルくん,頑張ってくださいね。油断大敵,気を引き締めて」
「ヒノマル,貴方はタフ,パワフル,ストロング,デス! 帰ったらまたエル特製ポテトを食べましょう!」
ヒノマルの脳裏にあのマグマがよぎる。あの初めて感じた辛さではない痛み。あの瞬間は誰よりも強いとさえ感じるほどの錯覚を起こす辛さ。エルの好意は嬉しかったがちょっとだけ遠慮した。
「ありがとう,エル。でもまた今度にしてほしいかな」
「も〜ヒノマルくん。断るときはちゃんと断らないとまた食べさせられますよ」
「んな! エルはちゃんと許可とってるデェェェエス!」
騒がしくなってしまった。でも不快な感じは一切なくヒノマルは笑った。
そろそろ本バ場に向かう時間だ。ヒノマルは立ち上がって足をすすめた。ヒノマルはすこぶる調子が良かった。そこに一人のウマ娘が近づいてきた。
「ごめんなさい,どいてくれるかしら」
少し,上から目線だったが特に気にする様子もなくヒノマルは道をあけた。その先にいたウマ娘をヒノマルは知っていた。しかし名前が思い出せない。
「あれ,誰だ?」
その声が聞こえたのか上から目線のウマ娘は踵を返してきた。
「ちょっとちょっと,まさか貴方,このわたしを知らないわけ?」
「……はい、」
若干,責めるような問い方に動揺したが素直に伝えることにした。相手は少し悩む素振りをするとすぐにポージングを取った。
「……ここではキングコールが出来ないから……,おーほっほっほ! ならせめて覚えていきなさい! わたしは一流のウマ娘,『キングヘイロー』よ!!」
高らかに自己紹介をしたウマ娘,キングヘイロー。彼女もまた,黄金世代の一人である。
頑張って五月前にはクラシックの一発目を出したいところ。本当に皆さんご愛読ありがとうございます。一応,三年間は完結させたあとあいつとの対決もやりたいけど時間があればになります。
クラシックはマジで頑張りたいです。