【完結】ウマ漢 〜燦々レーシング〜   作:プレブレム

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今日のタイトルはスペイン語でできてます。
しかし、あくまでGoogle翻訳なのです何卒、


クラシック編 〜宵闇の冠〜
16R “Cóndor” muy aterrador


 トレーナーは優秀でなければならない。そこには蓄えた知識だけでは及ばず、教える才能、積み上げたコネクション、確かな実績。あらゆる面が絡んでくる。木場は上記のコネと実績以外は持っていた。実績がないわけではないがタキオン以外はあまりパッとしない感じだった。

 そんな彼は家のこたつの前でぽつんと立っていた。

「おまえら、なんで俺の家にいるの」

 木場は今回年越しの催しをしなかった。そのため自宅のアパートに帰ってきたのだが、そこにはスピカのトレーナー、沖野とリギルのトレーナー、東条がいた。二人は大学時代からの同期であり今でも交流はある。彼らも木場同様に優秀なトレーナーだが二人は対照的だった。

 リギルは徹底管理主義。対して沖野は自主性を重んじる放任主義。もちろん沖野はしっかり指導はしているが、その方針ゆえ切り捨てられることも多い。次に対照的なのは懐の温まり具合だろう。沖野はよく奢ってもらってる。

 そんな彼は悪びれもなく平気な顔をした。

「ああ、悪いと思っている。でもな、久しぶりにおまえの作ったメシが食いたい」

 殺意を抑えた木場はため息をついた。木場は沖野に合鍵を渡した記憶は一切ない。おそらくパーチの誰かから借りたのだろう。そしてもう一つため息をつきたくなることがあった。

合鍵(それ)は返せよ。それとな、沖野はともかくなんで東条までいるんだ!? おまえそんなにノリ良くないだろ!」

 普段は堅物というイメージが先行する彼女の印象は正しかった。だから沖野と並んでくるわけも想像できなかった。

「わたしも彼と同じ理由よ。だって貴方の料理は美味しいから」

 木場は今回は出費が少ないと贅沢していいものを買ってきたばかりだった。残念ながら食材は吹っ飛んだ。

「「「ご馳走様でした」」」

 薄くなった財布を胸に木場は泣いた。悲しいのではない、悔しかったのだ。大学からの同期に搾り取られるのが悔しかった。

「慈悲を寄越せよ。まあそれはそれとして、おまえら今年はクラシックどうなんだ。」

 もう面倒くさくなった木場は業務の話に切り替えた。お互い三人ちょうど同じ時期にクラシック戦線でぶつかる。ここは敢えて情報を交換したかった。

「んー、俺はスペが三冠目指す。多分ヒノマルと当たると思う」

「わたしのグラスはマイル戦線に行くわ。NHKマイルカップを目指して調整している」

 二人は鍋をつつきながら方針を伝えた。奇しくもパーチの二人とぶつかることになる。

「んだよ、どっちもぶつかるのか。まあ、グラスワンダーとならこっちのエルも楽しめるだろうな! ヒノマルも有力なやつが集まるし今年は荒れるぞ」

 いつも変わらない瞳。沖野と東条は知っている。木場は自分が負けそうだったり不利になっても周りと競り合えばすぐに目を輝かせる。学生のころからいつも勝負ごとを仕掛けては目を輝かせる。木場はわくわくすれば結果は二の次だった。

「アグネスタキオンを担当していろいろ変わったけど、あなたはそこだけは変わってないわね」

「同感」

「なんの話だよ」

 木場だけ何も理解出来ずに野菜をよそおった。白菜は程よく溶けて胃に優しい。はー、と息を吐くと無言で虚空を見上げた。

 

◆◆◆

 

 巡る季節は好きになれない。

 いつも遠くに行ってしまうから、

 知らない間にすぎるから、

 前をゆく彼らに似ているから、

 

 俺もちょうどこの季節から競り合った。

 懐かしいような新しいような、

 君のせいでわからない。

 せめて俺のようになるな。

 祈らずにはいられないな。

 

◆◆◆

 

 もう少し春の遠い季節、ヒノマルは再びマイルで勝てるように調整していた。今回皐月賞の前哨戦としてスプリングSを選んだために不得意な距離に四苦八苦していた。

「文句はない。弥生賞だとライバルが多いわけだ。しかし、マイルでは短い」

 弥生賞にはスペ、キング、スカイの三人が出走する。いずれも前評判は高い。

「それを人は文句と言うんだぞ。まあまだ余裕がある。三月までになんとか出来る」

 ヒノマルはぼやきながらもまじめに練習に取り組んだ。今年こそ、結果を残すべきなのだ。三冠はあらゆるウマ娘たちの誇りであり、それを奪いに行くのは当然の摂理。ヒノマルの目標である生きた証拠にも繋がる筈だ。そのためには強くあらなければならない。強者が集まった時代にヒノマルは強さを望んでいた。

 対してエルは無事勝利を重ねていた。この前のレースでは九バ身の差をつけてまさしく余裕綽々。この次も重賞の共同通信杯を控えていた。そしてそれも勝てるだろう。そんな予想が容易だった。しかし、才能に胡座をかくわけではない。油断などしない。やるならば徹底的にだ。

「ヒノマルくん、ちょっとこっちにきてくれないか」

 タキオンがヒノマルを呼ぶ。ヒノマルが駆け寄るとタキオンは一枚の紙を渡してきた。中身を見てみると中山の攻略方が書いてあった。

「君の前のレースを見せてもらった。あそこは得意が分かれるからね、出来る限りのことはさせてもらうよ」

 タキオンは普段は危険なやつだ。しかし稀に見せる優しさは、確かなものだ。タキオンだって仲間には勝ってほしい。ヒノマルはその思いが嬉しかった。

「ありがとうございます、タキオンさん」

「ああ、それと短い距離ならいつもより前に着くべきだ。追い込み以外の戦法も学びたまえ」

 まるでトレーナーのようにタキオンは教える。もう自分で戦えない、でも戦わせることはできる。

「頑張んだよ、ヒノマルくん」

 ヒノマルは頭を下げるとターフに戻った。

 

◆◆◆

 

 不安や恐怖というのはどこから湧くのだろうか。それは永遠の疑問点である。では逆にそれらを取り除くことはできんのだろうか。

 答えは可能だ。しかし、そのためには大小さまざまな努力がいるのだ。そしてそれを根本から覆していくのが『才能』だ。才能一つで努力をあしらうことなど可能なのだ。

 故にエルコンドルパサーには不安はない。あるのは勝利という道だけ。

「共同通信杯はいわゆる出世レース。勝てば後々有利に立ち回れる。エル、勝つぞ」

 木場は来たるNHKマイルカップでのグラスワンダーとの対決を見据えていた。グラスは決して才能だけで勝てる相手ではない。へたをすれば相手の方がポテンシャルは高いかもしれない。

「もちろんデス。グラスはエルが捩じ伏せます。彼女を倒すことが──『世界最強』の一段となる」

 これほどまでに闘志に燃えたエルを見たことがなかった。間違いない、勝利の風はひたすらに怪鳥を押し上げている。ここまでの高揚はタキオン以来だ。木場は再び勝利を確信した。

 

『スタートしました』

 走り出せば一気に空気は重くなる。どれだけ鍛え上げられたものでも関係ない。しかし、そこから抜け出せるものは一握り。飛んでいってしまえば全て変わる。

 エルは中団の位置についている。この位置ならば確実に行ける。

「負けるわけにはいかないデスッ!」

 第三コーナーを回って直線に入る。

 その時すでに四番手、いや気づいた時にはもう先頭に迫っている。隣の追い上げもすごいがこちらはまだ止まらない。その差は縮まらない。縮んでゆくのはゴールとの距離だけ。エルは重賞でも二バ身の差をつけた。

 しかしそれでも足りない。友とのいずれの対決のため、世界最強のためならば、エルはどこまで飛んでゆく。今ここにいるウマ娘は眼中にない。悉く無礼なことだがそれが成立するほどに強かった。

 

◆◆◆

 

 思わず漏れたのは畏怖の念。

 普段通りのエルなら笑えたかも知らないが、今のエルは『怪鳥』である。例え話にならない本物である。そしてそれは木場にとって悪い話ではないはずなのに懸念を漏らしていた。エルの夢は変わらず、勝利への飢えは上がってそれ自体はいいことだ。しかし、そのままではいけない。

「……まずいかもしれない、こいつは早くぶつけてやらねぇと」

 急がなくてはならない。今すぐにでも勝つまでの待ち時間(たいくつ)という鎖が引きちぎれそうだから。




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