【完結】ウマ漢 〜燦々レーシング〜   作:プレブレム

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日曜日までに皐月賞入れたら嬉しい。


20R 『スプリングステークス』、その三

 いかにも気さくな声だった。

 ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎はゆっくりとヒノマルに近づいた。

「いきなり、なんだ……おまえは」

 なんだって俺なのに酷いな。まあ気にしない。こんな調子だからな。君も元気だと嬉しいが

「元気だけど、そっちに元気とかあるのか?」

 ふふ、そのとうりだ。俺にはどうこう言えるものではない。それにしても昨日のあれはちょっと良くなかったとは思うけど。彼女もつらかっただろう。

「うッ……それは、そうだと思う。でも本当に許せなかった。俺だってライバルでありたい。おまえはそうではないのか」

 どうだろう。一度諦めたかも知らないやつが名乗るには少し重い気がするね。そんなことより次のレースは頑張れよ。俺は応援しかできないからね。まあ、本番は皐月賞だ。負けても気にすることはないと思うよ。

「それは無理な話だ。君もわかってるはずだ。俺がそんなに自由じゃないことぐらい。俺にはまだ背負うものも多い。託されたものもある」

 ──それがおまえの魅力だ。ともかく俺は慣れない距離だから無理はするなとだけ言っておこう。色々言っておけば君はしっかり納得してくれるだろう。そして次に繋げるんだ。

 

「おまえは俺に勝ってほしいのか」

 それに関しては間違いなく、『頑張れ』と言ってあげるよ。

 

◆◆◆

 

 また、夢を見た。しかし、その内容はすっかり頭から出ていったようだ。この感覚にはいい加減飽きてきた。

 ヒノマルは重たい身体を持ち上げるとさっさと着替えて校門の前に着いた。

「今日こそがスプリングS。円盤には慣れたか?」

「逆に慣れた方が俺は恐ろしいと思う」

「違いねぇ」

 木場はニカッと笑うと車を発進させた。車内にはアップテンポの音楽が流れていた。曲名はサプライズドライブ、朝から聴くにはちょうどいい爽やかさだった。レースの後もこんな爽やかさがあればいいな、そんな小さなお願いをうかべずにはいられなかった。

 道中、ちょっとした渋滞にあった。余裕ある時間からなので問題はなかったが流れているCDも一周して暇になった。

「ヒノマル、俺に何か聞きたいこととかあるか?」

「別にない。そもそもいったい何を質問すればいいんだ」

 木場はなんの可愛げもないヒノマルに内心イラッとした。

「あるだろ、一つや二つ。例えばタキオンとの出会いとか、エレジー……それこそエルとか気になってんじゃねぇの!」

「……確かに、エルほどの実力者がこんな変人のもとにいるのもおかしい」

 なんて酷いこと言うんだ。もちろんそんなこと木場が言える立場ではない。

 しかし、ヒノマルは実際気になっていた。エルならば学園最強のリギルにいてもおかしくない。むしろ、タキオンぐらいしか実績のないパーチに入るのは不都合なことも多いだろう。それにグラスという伝手もある。チーム内で競う相手がいるのも互いにとってプラスになる。

 その後疑問を呟こうとしたその時、渋滞から抜けていた。安全運転に気を配る木場に話しかけるのも気が引けたので何も言わずに窓の外を眺めた。

 

◆◆◆

 

 どれだけマイルに自信がなくともやらなければならない。余力は残すべきだがなんとしてでも優先出走権を得たかった。おそらく戦績的には問題はなくとも、それが有ると無いとでは安心感が違う。

 スタンドの最前列にだった木場は特に意味もなく呟いた。

「期待したるぜヒノマル」

 届くはずのない声。それでもちょっとぐらいは言いたかった。本番でなくとも負けたくない戦いがある。スプリングSはヒノマルがいかに課題をクリアしていくかを観察するためのレースであった。もう無様な姿は見せない。絶対に奪い取ってみせる。

 春の風はまだ少しだけ冷たかった。身体は震えるが心は何も起きてない。そうだ、ここは気楽に行こう。手を抜くつもりはないが、予定がある。勝たせてもらおう。

 

 今ゲートが開いた。

 ヒノマルは殿から三番手──ではなく中団のやや後ろの位置についた。学ばない阿呆はいない。タキオンに言われた言いつけをしっかりと守りいつもより前を走っていた。いつもより早いペースだが問題はない。しっかりとフォームも保っている。走りにくさなど微塵にもなかった。

 ──とはいえ、普段ならまだまだ加速段階だ。調子が狂うな。

 そんな事を考えながら800mを通過した。ここから怒涛のコーナーが立て込んでくる。まだ小回りの効かない彼は一気に外に出た。もちろん走行妨害にならないぐらいで。

「距離は伸びる分、加速する時間が増えるものだ」

 ここまで外に出れば急なコーナーなど関係ない。あとはエレジーの曲がり方を周到しつつ、加速を止めない事だ。

 しかし、

『センジンヒノマル、ここで無理がたたったか、先頭に追いつくには距離が足りないぞ!』

 割と無理矢理外に出たため予定よりロスが大きくなった。加えて、まだ単純にキレがなかった。

「くっ、だめなのか。だいぶロスしてるし、周りの方が速い。でも──

 

 タキオンの中山についてのレポートにはこんなことが書いてあった。『中山は第四コーナーから直線の途中までには下り坂がある』、『最後の坂は高さは低くともかなり急である』。

「タキオンさん、つまり高低差がすごいから好みの幅が広いということですか」

「ああ、そうだ。中には中山しか勝てないものもいるぐらいだからねぇ。最後の坂がいつも鬼門となるのだよ。なんと言っても──

 

 ──あそこはスピードが出にくい」

 ならば、トップスピードが遅い俺でも行けるはずだ。

 もう一度あの快感を。進め、力の限り。決して勝てなくてもいい。だが、もぎ取らせてもらう!

 

 本気のスパート。もう一人、抜かせばいい。欲を言えばあと一人──いやもっとだ。ヒノマルは前にいるウマ娘を片っ端から淘汰した。

『センジンヒノマル、驚異的だ! 驚異的だぁぁ!』

 ゴール板を今横切った。ヒノマルに後悔はなかった。マイルは無理だったが行けるところは行けただろう。悔しさは置いておくんだ。今は敗北は関係なかった。

 

『センジンヒノマルは二着だぁー!』

 

◆◆◆

 

 こつ、こつ、と音が響く。ヒノマルのなのか木場のなのかはわからない。二人はゆっくり近づいた。

「負けた割にはさっぱりだな」

「手を抜いたわけじゃないぞ」

「当たり前だ」

 

「行けるか、もっともはやい冠を」

「勝てる自信はない。あと少しだけなんだ。」

 どれだけ問答をしても顔は変わらない。

「ならば、『負けない』ようにすればいい」

「だったら、目標はダービーの出走権が得られる五着以内だ。蹴落とすんだぞ」

 ヒノマルはこくりを首を振るともう一度中山のターフを見つめた。




今回はガッツリ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎が出てきましたね。
彼の正体はまだ秘密です。ただいつになったら明かそうか回ってます。
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