ただ最近文字数少なくなってきたんですよね。
やっぱり皆さんも多い方が嬉しいですかね
皐月賞が迫り、残すことあと一週間。
エルはスプリングSから少し後のニュージーランドトロフィーで一着を重ねていた。本来そのレースにはグラスも出走予定で例の件ででなくなっていた。彼女はそれで例の件のようなことになったわけだが迷いなく勝利を掴んだ。この調子ならNHKマイルも堅い。
それもあって感化されたヒノマルは走っている途中、昇る朝日を眺めていた。自主練で外を走っていたが途中で土手によった。どうしてこんなところに来たかはわからない。でもここに来れば何かある気がした。
「おや、こんなところで珍しいですね」
いつものやる気のない声。スカイは若干眠気があるのか目を細めていた。
「スカイはこの前のスプリングSは見ていたのか」
唐突な疑問にスカイは動揺を隠せなかった。
「見えたんだ、おまえの特徴的な頭髪が。やはり獲物の研究か」
スプリングSの最後、木場に会う前に一瞬だけ観客席をみた。そこにはスカイと同じ髪色の後ろ姿があり、ヒノマルはそう予想付いた。
「いやぁバレバレだなぁ。気づかれないと思ったけど無理だったか……」
彼女のオーバーリアクション気味な態度に思わずヒノマルは笑みが溢れた。しかし彼は焦っていた。あの時のレースは調子が良かった。余力を残したとはいえ結構本気に近く、直接観察されれば敗北が近くなってしまう。
「スカイ、俺はおまえの事を応援するよ。たぶんおまえは俺より前にいそうだから」
「おやおや、ずいぶん自信無さそうじゃん。どうしたの?」
彼女はやたら食い気味に迫ってきている。あまりこの距離感になれずにヒノマルはのけぞっていた。
「いや、だって俺にはまだ2000も短い距離だから」
途端にスカイは絶句した。心なしか日に光がないような気がしている。やがて大きなため息をつくとしゃがみ込んだ。
「なんですか〜、自分にはスタミナありすぎるって自慢なの〜」
「えっ、いや、そんなつもりは……ってそれを言えばおまえの考える作戦もすごいからこの前だって嫌味にしか聞こえなかった!」
互いに自信を持たなないから自虐勝負、むしろ自画自賛になっていき次第には結局相手を褒め合うだけの論争になってしまった。
そんなことでかれこれ十分以上時間が経った。二人は特に何もしてないのに息絶え絶えだった。
「……ップ、あははは!」
「ふふ、……ははは!」
二人はもうバカらしくなって笑い続けた。互いに褒め尽くして、本当にこれから闘うやつなのかと疑いたくなった。しかしその真実は変わらない。絶対に最後に笑うやつは一人だけ。二人のうちの一人かもしれないし全く別の誰かかもしれない。それでも今の瞬間ぐらいは仲良くしていたかった。
◆◆◆
最後の追い切り、ペースも上がってきた。円盤にもだいぶなれてきた。ヒノマルははっきり言って直接的に関係するとまったく思わなかったがだいぶ遠心力のかかり方も理解してきた。ならば後は実践のみ。余すことなく戦うこと。
最後の課題は坂だ。いくらヒノマルにスタミナやパワーがあろうとなの急で短い直線には骨が折れる。だが、中山レース場と相性が悪いわけではない。あそこはその特徴から最後にスピードが出にくい。もとよりトップスピードが劣っている彼にとってはむしろありがたいものだ。
「皐月賞は距離は短いけど相性は悪くないはずだ。勝てない道理なんてないんだ」
「全くそのとうりだよ、ヒノマル君!」
突然タキオンが生えるように出てきた。思わず「うわ!」と叫んだが、タキオンは満面の笑みを浮かべていた。
「君はホープフルSでは三着で、慣れない距離でもニ着。しかも二つとも中山ときた。君が期待されるには十分さ。それにわたしがかつて渡した資料も有効活用してくれているなら──間違いない、勝てる要素が溢れているぞ」
タキオンもかつてこの皐月賞を制している。そこまでは順風満帆と言った戦績をしているがダービーの時に全てが変わった。
彼女は今でも後悔している。あの時にあの話をしていれば、今の彼の指導を知っていたら、こんなことにはならなかったかもしれない。
淡い期待と意味もない空虚な欲望が幾つもよぎったあの日。それは今でもずっと染み付いて離れない、離してくれない。それはある意味もっともどす黒い感情なのかもしれない。
「タキオンさんはダービー出走後、訳あって完全に走ることを辞めたんですよね」
「そうは言わない。『辞めさせられた』というのが正しい」
タキオンは結構すぐに諦めがつくドライな性格をしていた。それは木場にである前の話だった。彼に会ってからは絶対に最後までやり切るとか表立って言わないがそんな感じになっていった。しかし、悲しいかな。それがなんの因果かここまで酷いことになるなんて誰も知らなかった。
「一つ、昔話をしよう。そいつは単純に才能を持っていた。自他ともに認めるほどにね。しかし、なかなか面倒臭いやつだった。学園内でも十分に変人の部類に入るもので一時期追い出されることにもなりかけた。
そんな時に運命と出会ったのさ。彼女の前にだった男は運命に惹かれたとか言い出して彼女に忠誠を誓った……
どうだい、面白かったかい?」
どんな顔をすればいいんだ。話の流れからわかった。これは完全に木場とタキオンの話だ。
ヒノマルはタキオンの昔を知らない。ほんの少し聴いただけで詳しいことは知らない。今のタキオンと少し印象の違いが見受けられ、困惑していた。
「まあ、つまらない話は別の機会にしよう。それよりも君は勝たなくてはならないからねぇ」
まだ続きが聞きたかったが中断されてしまった。仕方がないのでもう一度最後の追い切りをした。その日は疲れがすっかり抜けていた。
◆◆◆
この服に袖を通すのもニ回目。
次の機会がある事を願いながらヒノマルは前へと進んだ。このときから既に勝負は始まっている。負けてなどいられない、全力をかけた一度きりの──三つの冠の奪い合いが──
「ヒノマルくん、期待どうり勝たせてもらいますよ」
そのゲートが開くと共に、
『スタートしました!』