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皐月賞の『はやい』にはいくつかの意味が込められている。
一つ目は単純に『速い』。バ馬を高速で駆け抜ける単純で純粋な
二つ目は成長が『早い』。まだまだジュニアからのしあがったばかりの舞台で以下に他とは違う成熟加減、これが大事だった。いかに才能を持っていようとそれが開花しなければ意味はない。そしてらそれをいかに早く爆発させるか、皐月賞ではこれが重要だった。
今から走っている瞬間まで決して速度は緩めない。負けやしない、圧倒的な差を見せる、その気概こそが勝利へと導くのだ──
そんな皐月賞ではヒノマルに自信はなかった。ローペースになれば勝ちはもっと狙いやすくなるかもしれないがおそらくそんなことはない。なのでこんな作戦を木場が提案した。
「最初から外を回ろう」
今回の枠順は十三番。確かに内に入るには少し骨が折れる。だが、ロスの心配の声を上げたが、
「おまえは疲れると本気が出やすくなる。だからこそ、外で走ってもらう。そうすれば行けるだろ、トップスピードが遅くても」
かなり理にかなっていた。ヒノマル自身も勝ちたいとは思っていたが互いに難しいことはわかっていた。だから全力で食い込む。何がなんでも次の舞台へ駒を進める。ドライな考えだが今はそうすることしか出来ない。
「もちろん、期待はしている。よく言われる2000以下の優勝経験もないし、まだ距離を求めていることもわかっているが勝てない訳ではない。ヒノマル、いいか。おまえはまだまだ伸びるやつなんだ。初めて出会った日から成長してもまだ伸び代はあるんだ。」
木場は指導者としての目で見ていた。彼だって勝てるものなら勝ちたい。負ける可能性が高いのは否定したい。だが、焦らない。まだある伸び代に全部を賭けるつもりだ。最後の目標を成し遂げるため、今はまだ準備段階なんだ。
彼はそれを伝えるとサングラスを外した。
「……はっきり言って、勿体無いと思ってる。おまえら二人は強い。ぶっちゃけ俺より優れたところに行ってほしいとも思ったこともある。それこそ、東条とか沖野とか、あいつら優秀だからなぁ。
でもよ、おまえらは俺に夢を見せてくれるって信じてる。ヒノマル、夢を押し付けるようで悪いが絶対に進むんだ。エルはフランスのロンシャンで、おまえは
それだけいうと木場は控え室から出て行った。
地下バ道を通って本バ場に向かう途中スカイから呼び止められた。
「ヒノマルくん、勝ちたい?」
「当たり前だ。悪条件は……言い訳にはするかも入れないが、なんとしてでも俺は一冠以上もらうつもりだ」
「にゃはは♪ なんかそれを聞いたら安心したよ。それにしても正直だねぇ」
「確かにみっともない気はするが俺だってただのウマ娘で見栄をはりたくなることもある。あまり、揶揄わないでほしい」
気まずそうに顔を背けて顔を赤らめる。男子のそういう反応がスカイには新鮮で余計ににんまりとした笑顔になった。
「悪いこと考えているな、もうやめてくれ」
「そんな顔で言われてもセイちゃんどーしよーかなー」
「正確悪いぞ」
ヒノマルはほんの少しだけ不機嫌な顔つきになったがスカイの顔を見ればすぐに元に戻った。やはり彼女の目はメラメラと燃えていた。
「ヒノマルくん、期待どうり勝たせてもらいますよ」
スカイの言葉が耳から離れないまま、ヒノマルはスタートを切ることになった。
◆◆◆
『セイウンスカイは二番手この位置、キングヘイローも前に着きました』
『中団外を回っておりますセンジンヒノマル、その後方にスペシャルウィークはこの位置』
最初の坂登りは結構きつい。俺は周りを確認しながら言われたとうりの位置についた。やはり普段より前の方になると視線がささって動きが悪くなる、ような気もする。スカイは変わらず二番手の位置。今回はハナを切らずに黙々と進んでいる。しかし絶対に位置は譲らない。
なんとも恐ろしいことだ。おそらく脚を残しているのだろうか、あのまま前に疲れると絶対に追いつけなくなる。短い距離の中で追いつくなんて無理に決まっている。しかし、算段は付いている。いつもよりしっかりと走り込んでいる状態のため身体もまだ早いが熱も入っている。スプリングSの時よりもトップスピードは早いぞ──!
だが、不幸というのは突然降りかかるものだ。
『さあ残すこと800近く、後方からスペシャルウィーク上がってきた!』
「なにぃ!」
予定外だった。この前加速したかったが横切ったスペのせいで進むことができない。このままでは無理だ。
「ッ仕方ない、もっとだ」
もっと外に出る他なかった。しかし、ここまでのロスは本当に想定外だ。もうコーナーは曲がり切った。完全に出遅れた。スペとの差はどれくらいだ? 一バ身ぐらいか? 全くわからない。
追いつけるのか? いや、違うだろ──俺は追い付かなくてはならない!
◆◆◆
なんというか、調子が良かったのかもしらない。前にいる子は無理に抜かすべきではなかった。多分直線で抜ける。いや絶対に抜ける。それが何故だかよくわかった。
後ろにはキングもいる。結構追いついてきてる。でも、あえてここは末脚勝負にでよう。
『第四コーナー回った! 大外からスペシャルウィーク、さらに外からセンジンヒノマル!』
やっぱり二人は上がってきた。でも、関係ない。わたしはすごいんだって。
今、直線に入って最後の前に誰もいない。つまりわたしが先頭だ。先頭にたったなら、もう順位は誰にも渡さない。たとえどれだけ周りが強くても──もう渡さない!
『セイウンスカイ、現在一番手! キングヘイローも上がってきたがその差は二バ身! 懸命に保っている! 外から登ってきた二人もキツいか!?』
みんなどんどん近づいてくる。でも、まだわたしにも脚が残っている。間違いない、わたしは勝てる。
ああ、見ててくれてるかな。わたしは今一着だよ。どう、すごいでしょ。
◆◆◆
電光掲示板には確定の二文字が浮かんでいた。もう揺らぐことはない。ヒノマルは四着だった。想定より多く走っていたがまだ息切れはしていない。ただ目の前にある結果を見つめていた。
結構険しい顔つきで見ていたのだろうか、周りはあまり近づかないようにしていたが彼女だけがゆっくり歩いてきた。
「どうだった〜セイちゃんの走りは」
「やっぱり、すごいよ。みんなもそうだったけど、おまえがすごかった。俺は全く手も足も出なかった」
したくもない謎の納得が胸を包む。
「最後の粘りは特にな」
いまだに顔には黒い表情が支配している。
「うん、スカイは強い。」
揺るぎない事実が前にある。ただそれがすんと収まることが許せなかった。
今回は謎の納得感に感謝するしかなかった。もしあのままだったら思いもよらない言葉を吐き捨てていたかもしれない。後悔は残っても仕方ない。
言われた通りに進むしかもうないのだから。
次回は日常回です。
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