【完結】ウマ漢 〜燦々レーシング〜   作:プレブレム

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いや、読んだら分かると思うすよ。
なんかチョクセンバンチョーの回みたいになってんだよ

追記:めちゃくちゃサブタイつけんの忘れてました


24R 流れる『エレジー』

 チョクセンバンチョーは思わず彼と言いたくなりそうな風貌だったが顔のパーツや体型はしっかりと女性的なそれだった。

「その髪型は、自前なんですか?」

「アタボウよ! こいつがアタイの変異?ってやつだ。襟足も無駄に伸びまくる。今ここでコイツを切ったってまた伸びるんだ。ほんとッウゼェんだ!」

 そう言ってバンチョーは髪をくるくる触る。言葉は厳しかったがどこか愛らしく髪の毛をいじる。

 

◆◆◆

 

 彼女は生まれたてのころ、なんの変哲のないウマ娘としてこの世におちてきた。母がかつてレディースの総長であり父は熱心なレース愛好家であるため『直線をかける最強の番長』という意味でその名を名づけられた。彼女自身はこの名前を気に入っており誇りに思っている。

 そんな彼女がすくすく育ったある日のことだ。いつのまにか襟足が腰のところまで伸びていたのだ。それだけではない。前髪と頭頂部の髪の毛がガチガチに固まりリーゼントになってしまったのだ。せめての救いとして九州の成人式のような派手なものではなく、軽く前に突き出ている程度だった。

 しかし、その特徴が芽生えたのは小学一年生の時である。この時期は幼稚園から上がりたてという精神が安定してない時期もあり両親は手を焼いた。変異種は珍しいので周囲の理解が少なく友達からも揶揄され、同じウマ娘からも蔑まれた。

 ──そして彼女は『グレた』。

 次第に心は摩耗し、耐えられなくなった彼女は小学三年生で六年生のガキ大将をしめた。そしてその噂は他校にも知れ渡り挑戦者も現れた。そして彼らは返り討ちにあった。彼女の名は小学校最強の勢力として広まった。もう誰も止められないと思ったとある日、一人の教師が赴任した。

 その男は立派な彼女と同じくリーゼントをこさえ、強面だった。当然そんな奴が現れてはバンチョーは喧嘩を売った。それに対して彼は、

「そんなんじゃ、ダサいんだぜお嬢ちゃん」

 大人の対応をした。ごく普通の当たり前のこと。モラルを持つなら至極当たり前のこと。

 

『だがそれが、バンチョーの逆鱗に触れた!』

 

 初めて取られたスカした態度に怒りを止められなかった彼女は彼を呼び出し、舎弟を連れてリンチした。その暴行にはバンチョーも加わり全力で痛めつけた。憤怒に身を任せた彼女はその過程で彼の骨にヒビを入れた。

 しかし、それでも彼は反撃をせずに痛みを和らげることに集中した。

「ふざけた態度とんなや! 舐めとんのか我ぇ、ええ!!」

「……俺はどんなことをされても、決して俺より弱い奴に『殴る』という行為はしない。」

「んだとォ──人間である貴様がアタイに敵うったって言いてぇのか!?」

 彼はぶんぶんと首を横にふった。

「弱い奴とは、単純に力がない奴だけを指すんじゃあない。弱い奴とは心の悪に屈したものを言うんだ、チョクセンバンチョー!」

 『屈した』、この言葉が何度も響き渡ったような気がした。

「いいか、もう一度言うぜ。おまえは屈したんだ。周りの悪意だけじゃあない。自分の中にあるそれを抑えれずに屈しただけの弱いやつよ。バンチョー、おまえは『弱い』!」

 そんなことを言われるのは初めてだった。プライドとか誇りとかそんなものではない。なにか見たくないものが大きな音を立てて崩れた。

 そして翌日、バンチョーは両親と共に学校で土下座をした。もちろん許されない行為だ。治療費だって負担する。一生かけて謝る。そう言おうとした時、彼は一言だけ言い放った。

 ──ならば、テレビに移れるだけ大きくなって、そして強くなったらまた払いにきてくれ。

 そしてバンチョーは目の前で髪を全て刈り取った。襟足は伸び続けたが、心機一転した彼女はすぐにグループを解散。そしてレースの舞台へと進むことになった。

 

◆◆◆

 

「エレジーは、凄味がある。アタイにはなかった揺るぎない力がある。アタイはアイツの行く末をみたい。心の悪に屈しないやつを見ていたい……!」

 バンチョーは初めてエレジーを見た時に強い以上に『美しい』と感じた。心の悪を知り、それに呑まされそうになりながらも、決して堕ちはしない。そこに美しさを感じてしまった。

「それでも、奴は危ねぇモン持ってんだ。後輩やチームメイトとしてアンタがエレジーをしっかり見てやんなよ」

 バンチョーはヒノマルの頭を叩いた。

「あの、つながりが見えないんですけども」

「ああ、そいつは悪かったね。アタイが初めてエレジーにあったのは入学前の顔合わせみてぇなもんでな。あの時はまだ素顔でなぁ、なかなかの美人だったな」

 変異種のウマ娘は入学前に別の変異種と会わせることを義務付けられている。ヒノマルはそんな機会はなかったが、これの目的は孤独感を与えないことに尽きる。変異が違えど逸脱したものをもつもの同士ならば分かり合うことも容易くなるだろう。バンチョーもその機会を楽しみにしていた。

 その日にあったのはギンシャリボーイ、そしてハリボテエレジー。ギンシャリは元より社交性が高いので問題はなかった。

 しかし、この機会が余計にエレジーの心を抉った。同じ変異種なのにどうして自分よりも高い身体能力を持っているんだ。その悲嘆は余計に彼女の呪いを拗らせた。

「エレジーはアンタとは違う意味で『孤独』だ。アイツも心が痛ぇんだよ。アタイじゃあどうにもならない痛みってのがあるんだよ。わかりきった未来を乗り越えられない痛みってのが放さないんだ。それに立ち向かう『勇気』にアタイは惚れたんだ」

 そこまで言うとバンチョーは天を仰いだ。眼球スレスレに無機質な瞳が現れた。そう、エレジーが見下ろしていたのだ。ヒノマルはそれに気づいていたが、なにも言うなと書かれたメモから口を噤むしかなかった。

「エ、エレジー……その、今言ったことは忘れんだよぉぉー!!」

 迷惑行為に匹敵する全力の逃げ。いつか絶対に事故を起こすだろう。それを遠目に見ながらエレジーはヒノマルに向き合った。

「君は私について知りたいか。」

「いえ、別に。貴方にも話したくないことはあるはずです」

「気遣い感謝する。私の過去は出来るだけ知らないでいてほしい。特にこの顔については質問すら許さないつもりだ。」

 目の前奥が光っているような感じだった。

 絶対に知られたくない過去は誰にでもある。ヒノマルだってまだ一つや二つある。それを察し彼はなにもしないことを選んだ。

「そういえば君はダービーに出られるのか?」

「それに関しては大丈夫です。距離が伸びて直線も長い。今までで一番の好条件ですよ」

 そうは言ったがエレジーには不安がよぎる。そもそもはじめての馬場なのだ。東京2400での激戦に耐えうるのか、不安でしかなかった。

 

◆◆◆

 

 誰しもが負けられない栄誉を目指す中、コンドルは大きく羽ばたこうとしている。ライバルがいなくとも高みを目指して。




次回、エルのNHKマイルカップです。
今日の方はマテンロウオリオンぶちかまします。ノリさんを僕は信じてます。
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