【完結】ウマ漢 〜燦々レーシング〜   作:プレブレム

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中途半端な気がしてやまないけど投稿します。
やはり前の文章がいかに淡白かを思いしらされます。

さて、前回のヒノマルの髪型の件について。
書いていて気づいたんですが設定集の中では、トレセンに来た時には既に髪型が26R時の物になっています。
ガチガチに決めすぎるというのも考えてものです。今後は注意します。



27R 太陽への「出逢い」

 今から話される内容はあまり意味がないのかもしれない。だが彼には立派な両親がいた。

 その事実だけは彼を知るために必要なのだ。

 

「長話になると思うが大丈夫かい」

「トレーナーさんには頼んでおきました」

「わかった。では話すとしようか──

 

 

◆◆◆

 

 

 ──あれは高校時代だった。

 私か通った高校は割と偏差値が高くカリキュラムも良く私にあっていた。順風満帆の人生のためにも良い選択をしたものだと思いながら、私は一人で休み時間を過ごしていた。

 そんな様子で私は数ヶ月間、友達が零の状態から学園生活を過ごしていた。その時から私はウマ娘の身体能力の謎が知りたくいきたい大学もある程度決めいた。だがそれを他人に知られたくなかった。私だけ純粋にウマ娘を愛してないような感じで周りとの疎外感を感じていたからだ。

 そしてある日、どうしても早く読みたかった資料があり柄にもなくウマ娘の研究資料を読んでいた。その時に彼は現れたのだ。

 

「君、それってウマ娘については書いてる本だよね! レースの見方でもあるの?」

「誰だ君は。僕に話しかけるな」

「いいじゃないか! 俺もウマ娘好きなんだよ!」

 

 初めは無神経な奴だった。いきなりずかずかと人の領域に踏み入る阿呆がいるのだと彼を罵倒してしまった。

 そう言えば彼はもう来ない──なんてことはなくむしろグイグイしてきて流石に私は根負けした。そしてここで気づいた。まだ彼の名前すら知らない状態であることに。

 

「そういえば互いに名乗ってなかったな、僕は福井悠一。君は?」

「あー本当だ! ごめんごめん、俺は新田隆二って言うんだ。よろしくなユーイチ!」

 

 最初は休み時間にたまに話す程度だった。だが時間が経つにつれたまに家に行ったり、逆に連れてきたりなんてした。大概の時間は勉強をしたりレースの予想だったりした。学生同士でゲームをするなんてことはほとんどなかった。

 

「リュウジ、東京は左周りだ。過去の戦績から見て彼女はそれが苦手そうだから残念ながらダービーは勝てそうにないだろう」

「えぇ〜、俺ずっと応援していたのに〜! ずるいな! 勝ってくれよ!」

「……まあ、距離適性から見れば勝てない距離じゃないとは思うよ」

「ッ、ゆーいちぃぃ!!」

「やめてくれ、僕に抱きつくな!」

 

 そして私にとってのはじめての親友になった。彼は特にGⅠレースがあるならばよく観戦に誘ってくれた。

 

「なあユーイチ、わざわざ金かけて観にくる有マ記念はどうだ?」

「直にウマ娘を観察することは素晴らしいと思うよ。ほら見てくれよリュウジ、例えば彼女の脚を。あんなにしなやかそうな脚なのに僕たちが絶対に出せないような力を出すなんてすごいじゃないか」

「んー、たしかになぁ」

「……興味がなさそうだね」

「まあ、俺はレースばっか観てるからそういう細かいとこは見ないな。お、始まったな、ガンバレー! 負けるなー!」

「なあ、リュウ、ジ……」

 

 そこで彼の瞳を見て感じてしまった。

 やつは私とは違う、決して同じにならない境界を知ってしまった。その間には海にも感じてしまうほどの大河が流れていた。

 

 それ以来、どうしてもとっつきにくくなってしまった。リュウジの距離感は変わらないが迫った習慣に磁石の反発のように私が避けることになった。

 

「おい、ユーイチ! 最近どうしたんだ? お腹でも痛いのか? 教えてくれ」

「……リュウジ、僕は君と親友には成れないよ」

 

 リュウジは本当に純粋にウマ娘が好きなんだ。彼女たちの走る様を見て自分のことのように熱くなり、悲しみ、喜ぶ。

 私はそんな風にウマ娘を見ていなかった。未知なる可能性として、新たな生物の扉として、平たく言えば研究対象としてしか見たことがなかった。

 リュウジのあの瞳のせいでどうしてと自分が浅ましい屑にしか思えなくなっていた。だからすまない、近づかないでくれ。僕には君が明るすぎるんだ。だからやめてくれ。

 

「ユーイチ、なに言ってんだよ。俺はお前と過ごした日々は楽しかったぜ。そりゃ最初は無視されて悲しかったけどこうやってレース観に行けたりして嬉しかったんだぜ」

「……だが、君と違って僕はウマ娘のことを」

「お前がどう思ってるかはぶっちゃけどうでもいい!」

「えぇ……」

「だって、別に酷いことしようとか思ってないんだろ。ユーイチはウマ娘の謎を知りたいだけだろ。別にそれがいけないことなのか? 俺はそうは思わない。だって誰だって気になるだろあんなもん!? 俺だって知りたいよ!」

 

 彼は私を否定しなかった、というよりする要素なんてなかったのだろう。そんなあっけらかんな態度に、いかに私の悩みがちっぽけで意味のないことだと理解させられた。

 

 そんなこんなんで高校時代は過ぎて行った。互いにやりたいことが違い目指すところは同じじゃなかった。しかし夢を目指す意志は同じだった。

 

「ユーイチ、お前トレーナーとかならないの?」

「僕には向いてないし、何よりやりたいことと手段が一致しない」

「まぁそうか。それじゃあまたな! ユーイチ!」

「ああ、また会おう。リュウジ!」

 

◆◆◆

 

 それから私は東京の方へ行った。

 親もいず友達も顔見知りも誰もいない場所で過ごすことになった。それから私は友達を作ることが出来なかった。

 どうやら私は孤独に弱い人間だったらしい。一人で二度ほど越えた春はどことなく寂しかった。はじめて友達を深く求めた。一人で眠るのが怖いとかそういうものじゃない。誰にも見られていない漠然とした恐怖が身を包んでいた。

 それが剥がれたのは三度目の春、リュウジからの一通の連絡だった。

 内容はいたって簡潔だった。

 

「彼女ができた。」

 

  あまりに突然のことで驚いたが私はすぐに地元に戻った。相談に乗るという名義だったがはっきり言って故郷に恋しくなった。そうと決まった私は日を跨ぐ前に急いで実家に戻った。

 当然の帰郷に両親はひどく困惑した。大変申し訳ないことをしたが久々だったこともあり快く泊めてくれた。

 それにしてもあそこは東京に比べて閑散としていた。それなのに充実感は勝っていた。再びリュウジに会える喜びもあったが単純に纏う空気が安心という形で恐怖を取っ払ってくれた。

 幾年ぶりの再会だ。あの日の高校の正門前に行くとリュウジともう一人、ウマ娘がいた。しかしその様子を調べると見るからに未成年だった。

 

──ああ、なんてことだ。

「まさか犯罪者になるとは、見損なったぞ」

「いやユーイチ違うから!」

 

 移動した喫茶店でリュウジは彼女に気遣うように座らせた。

 

「ヒマワリダッシュと言います」

 

 そう名乗った彼女は顔が青かった。リュウジは宝石を扱うように彼女に優しく触れさすった。

 

「リュウジ、はっきり言って僕はなんで呼ばれたんだ。あくまで口実として利用したがなんの相談で?」

 

 リュウジはいつもとなく真剣な目をしていた。婚前前の紹介に向かうような態度だった。

 

「ユーイチには知ってほしいんだ、俺と彼女のことについて。いつかはお前に助けを求めるかもしれない」

「……どうして僕なんだ」

「なに言ってんだよ。ユーイチは親友だからに決まってるだろ! 俺たちのこと、聴いてくれるか?」

 

 本当に迷いなく臭い台詞を吐けるものだ。

 回答なんて決まっていた。なぜなら目の前には「はい」か「YES」しかなかった。

 肯定の意思を伝えるとヒマワリさんと何かを確かめるように頷き、息を吐いた。

 

 

◆◆◆

 

 

 あれはユーイチと最後にあってから数ヶ月後のことだった。実は俺も最近までは一人暮らしをしていてトレセン学園付近に住んでいたんだ。その日はいつもよりじめじめして大学から帰るのも億劫になってた。だから軽く寄り道をして──つまり夜遊びしたわけだ。

 そこで彼女と出逢った。トレセン学園指定のジャージを着ていて路地裏にこじんまりと三角座りをしていた。初めは見ぬふりをしようと思った。寮の門限は確実に過ぎている時間でいかに危ないことをしてたとしても、その時僕は既に二十歳の誕生日を迎えていて未成年に突っかかるのは危ないから。

 でも、次に彼女を見たら黙ってるわけにはいかなくなった。

 

「君、怪我してない?」

「……え」

「その、もし寮とか家とかに帰りたくないなら」

 

 待ってくれ、やっぱり犯罪では。

 理性が冷静にイエローカードを出す。というか普通にレッドカードに片足どころか半身ぐらい入っている。

 とはいえ、その身体を見れば放っておくなどできなかった。上半身はよく見えなかったが下半身には軽くあざが見えた。顔の方も若干腫れてるようにも見えた。少なくとも何かのトラブルに巻き込まれていることは目に見えていた。

 これを前にもはや理性も犯罪も関係なかった。

 

「大丈夫、なにもしないから。早く行こう」

「え、ちょっと待って」

 

 それからの行動は早かった。

 借りているアパートの部屋に着くなり急いでお風呂に入れて、温かいポタージュを作った。というのもこれぐらいしか得意料理がなかったからだ。それでもスープはしっかり温めてくれるはずだ。

 十分ぐらいたっただろうか、彼女は髪を濡らしたまま出てきた。着替えは俺のジャージだったからぶかぶかで締まらない格好になってしまった。とはいえ仕方ないので特に何も言わないようにした。

 

「えと、名前とか教えてくれる? あとこの件はトレセン学園に連絡……」

「しないで……」

「わかった。それじゃあハイ。俺の作ったスープ。あったまるから」

 

 彼女は恐る恐るお椀を手に取った。この小さな身体に一体何が覆っているのだろうか。あまり踏み込むべきではないが放っておくことなんてできない。

 賢い選択をする思考は残ってなかった。俺の中にあるのは目の前の娘を助ける意志だけだった。

 

「ヒマワリダッシュです」

「え」

「名前です。ヒマワリダッシュです」

「……わかった! じゃあヒマちゃんって呼ぶね!」

 

 その日から三日に一回ぐらいの頻度でヒマちゃんが来るようになった。かなり冷や冷やしたけどそれ以上に楽しんだ。

 例えば料理、いつもは決まった食材で決まった料理のローテーションだったが彼女が来る日は彼女の好みのものを作るようになった。あまり知らないものが出たりして、それはとても美味しかった。どうしても作れない時は一緒にちょっと話しながらしたり、失敗したり。でもそれが楽しかった。

 次に掃除。どうしてもそれは苦手だった。家に誘ったユーイチに毎回文句を言われるほど苦手だった。今でも思い出せる、彼の発言を。

 

「リュウジ、この部屋は君に対して唯一軽蔑するところだね」

 

 逆に言えば彼はそれ以外悪いところがないとか言っているのか、もしかしてそっち方面なのかな?

 つまらない冗談はさておきヒマちゃんはよく掃除、というか整理をしてくれた。辺りに散らかった参考書、捨てきれない箱、置き方のなってない冷蔵庫とかを一緒に片付けた。途中で黒光りする昆虫が出た時の反応は可愛かった。俺はなんともないからいつも外に逃しているけど、その時の掃き溜めを見るような目を忘れはしない。

 

 でもこんな日常をいつまでも続けるわけにはいかなかった。トレセン学園からいつ告発されるかもわからないし、何より彼女の傷は増えるばかりだった。──そんなの許して良いわけがなかった。

 

 

◆◆◆

 

 

 真実を知ると必ず元には戻れなくなる。

 それでも俺は踏み込まなくてはならなかった。

 その日は初めて出会った時の道を辿った。名残惜しむようにゆっくり、ゆっくり歩いた。これから今の距離感は変わってしまうことに俺は今更恐れていた。

 

「でも彼女の方が、」

「なんの話をしてるの?」

「ふえ!?」

 

 いきなり飛び出た彼女に尻もちをついてしまった。今日は晴れだったからお尻に何もなかったのは幸いだった。

 

「ねぇ、そんなに驚くことないでしょ」

 

 目を閉じてやれやれ言うように首を振った。

 

 ──ああ、やっぱり言いたくないなぁ

「でも、ダメだよね。こんなんじゃみんなに、特にユーイチあたりには……」

「?」

 

 ……顔向けできない。

 ヒマちゃんはきっとハテナマークでたくさんのはずだ。もう腹を割るしかない。

 

「どうして、君はいつも傷ついているの?」

「ッ──」

「俺は、出来るだけ聞かないことにした。君に無礼をはたらきたくないし、何より俺が怖かったからだ」

「やめて」

「でも、君の傷は増えるばかりで本気で心配なんだ!」

「……それ以上きかないで」

「だからお願いだ。こうやってタメ口つけるぐらいになったからこそだ」

「もうやめてッ!」

 

 ウマ娘の力でのはたき打ち。本当に身体がバラバラになるかと思ったけど、それ以上に周りの目が心配だ。

 急いで見回しだが辺りに人気はない。元より人の出入りが少なく結構遅い時刻なのも原因だろう。普段は怖いけど今日ばかりは助かった。

 

「ぁ──ごめんなさい」

 

 目の前の彼女はさっき飛び出した手を全力で握っていた。顔も耳も垂れ下がり顔が見えない。

 辺りは閑寂を保っていた。それだけに先ほどの音がまだ反響しているような感覚だった。

 急いで立たないと、彼女が罪悪感で埋もれてしまう。それじゃ本末転倒だろう。

 

「心配しないで、君の苦しみ(いたみ)に追いついたぐらいだから」

 だから、泣かないで。

 

 海にも似た暗さの中でそっと抱きしめた。

 せめて俺の体温が伝わってくれたら、ココロを溶かしてくれれば。

 

 次第に空気の音がまた聴こえるようになった。

 胸許がかなり濡れたが彼女の頬に比べればなんてことはない。彼女はゆっくりと離れた。体温がなくなり胸に冷たい温度が伝わる。

 

「わ、私は」

 

 言葉はまごついていたが決心した目つきだった。まさしくゲートに入ってウマ娘のように迷いがなかった。

 

「──正確には父が、DVを受けてるの」

 

 俺が思うよりも自体は深刻だった。

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