【完結】ウマ漢 〜燦々レーシング〜   作:プレブレム

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お久しぶりです!
遂に完結まで駆け抜けます!
ただモチベーションの都合でダイジェストも増えると思います。
ですがせめてこの作品は完結させたい、その一心でPCに向き合っています。
皆さん、この作品に最後までお付き合いよろしくお願いします。

それでは39R、スタートです


シニア編 ~そして明日はやってくる~
39R 自分との『対話』


 菊花賞が終わって、それからの話をしよう。

ある秋の中、JWCが行われた。結果、ハリボテエレジーの惨敗。再び第三コーナーでの転倒ということであり、受身が取れていたため大事には至らなかった。

 

「というわけで、また負けてしまった。すまないみんな」

「……魔の第三コーナー、んぐぐ」

「こればっかりは私もどうにかできないねぇ」

 

 タキオンから聞いた話だがエレジーがコーナーを回り切れないのはメンタル的なこともある。あまりそこに触れるのはいくらチームメイトであるとはいえヒノマルも、トレーナー助手ポジションのタキオンも、そしてトレーナー本人の木場も不用心には行けなかった。

 それぞれが悩みぬく中、レース終わりにエレジーは控室でその被り物を脱いだ。その行為にチームのみんながみんな驚いた。真っ先に声を上げたのはタキオンだった。

 

「エレジー君、どうしたんだい? 君自らそれを晒すとは」

「なにも言わないでくれ。どうかみんなに聞いてほしい」

 

 それからの話はシンプルだった。エレジーの体自体、もうコーナーを曲がることは可能になっていた。だからただのコースについては問題なかった。しかし本物のレース場ではそうはいかない。初めて転倒して以来、エレジーの傷から語りかけてくるのだ。『こわい』と。

 

「私は未だに乗り越えられない恐怖がある……どうしても怖いんだ!」

「エレジーさん」

 

 簡単に頑張れと言えるはずがない。本来ウマ娘の転倒は死にも直結する。その恐怖を誰がどう取り除けようか。少なくともヒノマルは何も言えなかった。だが誰よりもエレジーを見てきた二人は違う。

 

「そうだよな。けど怖いもんなんて無理に乗り越える必要なんてないぜ」

「そうだとも。君の恐れは正しい。だからこそ私たちで切り拓く」

「エレジー、俺ぁ不甲斐ないトレーナーだ。でもお前がどうなっても見届けてやる。絶対だ」

 

 何の解決にもなってない、ただの励ましの言葉。だがエレジーにとってそれはたまらなくうれしかったのだ。

 

◆◆◆

 

 十一月の末、そのレース、「ジャパンカップ」は行われた。

 栄誉あるGⅠの一つであり海外からの強豪も来るレースだが、その彼女たちや一番人気のスペシャルウィーク、女帝エアグルーヴさえも突き放しエルコンドルパサーは見事に一着をつかみ取ったのだ。

 

「優勝、快勝、エル圧勝! 皆さん次にエルは世界最強を証明デース!」

 

 その宣言は東京レース場に大きく響き日本中を沸かせた。そしてレースが終わり、トレセンにも戻ってきたころ、チームでは祝勝会が行われた。やはり毎度のことながら皆で鍋を囲う様子。もう誰もが遠慮なく箸をつつきあった。

 そして〆の一品も食べきったところでチームはもう来年の話をする空気に切り替わった。

 

「エレジーは他の伝手も借りてコーナーを曲がれるようにしよう。まあ、無論勝ちは目指すがJWCの完走、やってやろう」

「わかった」

「ヒノマルは年内まだ一戦だな。ステイヤーズステークス……長丁場になるが冷静に考えてやれ」

「任せろ。むしろ得意なくらいだ」

「最後にエル! ……春からフランス、寂しくなるな」

「デスね。アタシもみんなとしばらく会えないのは、ちょっと寂しくなります……」

 

 エルは敢えて、長いことフランスのトレセンにいてもらうことになっている。洋芝や時差ボケ、不慣れな環境に慣れさせるための選択。当然、向こうに行っている間、木場の指導ではなくなる。彼からすれば、本当に彼の実力で凱旋門賞を取った、という、世間からの評価はもらいにくくなる。

 それでもエルに凱旋門賞という栄光を掴ませてやりたいのだ。その想いは誰よりも強い。そのことは誰もが重々承知している。無論エルだって。

 

「トレーナーさん!」

「どうした?」

「必ずアタシは世界最強を証明してみせます。あなたを、凱旋門賞を取ったトレーナーにして見せます!」

 

 木場の指導があったからこそ()()まで来られた。この宣言はその証明だ。

 

「そっかぁ。ありがとな」

 

 その言葉は普通にうれしかった。思わずうるっと来てはいたがまだそこまで涙もろくない。こらえた木場は一呼吸置くと手を大きく鳴らした。

 

「それじゃ、今日はここまでだ! 今年の年末は自由で構わん。んじゃ解散!」

 

 お開きということで各々自分の部屋に戻っていった。

 

◆◆◆

 

『前方にセンジンヒノマル! 後方は豪脚で追うがセンジンヒノマル先行してゴールイン!』

「なるほど……先行も大分理解した」

 

 ステイヤーズステークス、ヒノマルは勝利を収めた。前回の菊花賞をふまえて先行策にも適性があるのではないか、それを図るためのレースとして今回出走した。後方からのウマ娘も活躍した今回だったがそれは上がりが早いウマ娘、ヒノマルはそこまで優れた末脚はない。

 だが彼には無尽蔵のスタミナがある。それを活かすためにハイペースを作りやすい先行にも適性があるはずと見たのだ。

 ──結果は正解でもあったが、だが向いてないのも確かである。

 今回のレースをふまえて中山から戻る中で木場とヒノマルは反省をしていた。

 

「まず俺は駆け引きが苦手だ。前について後ろはどうとか考えるのが苦手だ」

「だろうな。お前、ニブいもん」

「そうか?」

「……まあいい。次は」

「前につくにはスタートが下手だ。俺の反応が悪いんだ、ちょっと無駄に体力を使う」

「なるほどね……ぶっちゃどっちが走りやすい」

 

 ヒノマルは回答に困った。どっちも一長一短。それに先行は始めたばかり。すぐに結論を出すのは難しいというよりできない。もちろん、トレーナーである木場は百も承知である。

 

「悪い。結論を急ぎすぎた。どっちかに絞れって話じゃないしな」

 

 一抹の気まずさを含みながら歩みを進める。

季節は冬、もう空は暗い。ヒノマルは思い出したようにあのことを尋ねた。

 

「そういえば、菊花賞のときに不思議な感覚があったんだ。なんか世界が止まって見えるというか、真っ赤に見えたというか」

「そりゃ領域(ゾーン)のことだな。いるんだってさ、本気が一気にはじけるヤツ」

「本気がはじける……その時、声みたいなのが聞こえたんだ」

「だれの?」

「わからない。でも……ずっと近くにいたようなそんな声」

 

 正直感覚の話なので話半分に木場は聞いていたが、ヒノマルの力への戸惑いにその態度を改めた。目線を合わせて、真摯に、ヒノマルの目を見据えた。

 ──そういえばこういう些細なことを見逃したからあんなことがあったんだったか。

 

「俺はヒトだからお前の走る感覚もよく分からん。はっきり言ってその声もよく分からん。けど俺たち仲間だろ、困ったことは何でも相談してくれよ」

「うん。ありがとう」

 

 ふとふたりは空を見上げた。トレセンの方向には月が輝いている。仄暗い夜を照らしてくれるそれはよく目立っていた。

 

「ヒノマル、じゃあおやすみ」

「ああ、おやすみ」

 

 美浦寮に戻り、食事と風呂を済ませる。一日の疲れが抜けた、とまではいかないのでヒノマルは思いっきりベッドに体をなげだした。ふかふかの布団に包まれて、何だか体がぽかぽかする。そこから一気に睡魔が押し寄せて、完全に寝落ちした。

 目覚めるとは彼はなんの物音一つない暗闇、というには明るい奇妙な空間にいた。やがて景色は鮮明に見えて、目をこすると、そこには青空とどこまでも続く草原が目に見えた。

 ヒノマルは察した。ここは夢だ。だが、限りなく現実に近いとも感じた。若葉のにおいや太陽の熱が五感を通してひしひしと感じるのだ。

 

「俺は死んだのか?」

「いいや、生きてる」

「じゃあなんで俺は寮にいないんだ。なあ()()()()()()()()!」

 

 振り返ったヒノマルの後ろにはセンジンヒノマルがいた。ただし、ウマ娘だったりとかウマ漢ではなく四足歩行で真っ黒い毛皮を持つ、馬としてここにいるのだ。

ヒノマルはその姿を見て一目でわかった。このよくわからない生物は自分自身であると。しかし決定的に違う別世界の自分であると。

 

「え、こういうことってよくあるのか?」

「ない。僕らが例外さ」

「そうだよな」

 

 このようなこと、本来起きるはずもないだろう。よくわからないが自分だと思える何かと流暢に意思疎通ができるなんて精神を病んだかと思う。だがヒノマルはこの会話にはちゃんと意味がある、その確信があった。きっと、この馬のセンジンヒノマルこそに自分の秘密があるのだと、目に見えているのだ。

 

「じゃあ質問なんだが、領域のときに俺が聞いた声はお前か?」

「そうだろうね。君自身に語りかけてたよ」

 

 実を言うとヒノマルには自分の中に何かいるというのは勘付いていた。過去に言われたこと、ときどき身に覚えのないことから二重人格でもあるかと思っていたがやはり居た。このセンジンヒノマルこそが自分に厄介ごとを押し付けていたのだ。

 そしてヒノマルにはもう一つ聞きたいことがあった。

 

「……もう一個。お前、本当は俺じゃないだろう」

「その根拠は?」

「違和感。……俺という存在の違和感はお前と俺、そこに決定的な違いがあるからだと思った」

 

 ヒノマルがなぜこんな形で生まれたのか、その核心にふれた。センジンヒノマルは何も喋らない。だがその眼差し、口にできないその雰囲気から沈黙は肯定であると考えられる。

 

「お前をセンジンヒノマルとしているが、俺じゃないのか」

「そうとも言えるしそうでないとも言える」

「やめろ、そういうこと言うの。分かりにくい」

「すまない。簡単に言えば僕は君が走ったレースを駆けた。でも名前はセンジンヒノマルじゃないし、君という肉体に宿る予定もなかった。僕らはこの世界での歯車にうまくかみ合わなかったんだ」

「説明が難しいが、もしかして俺より先に生まれる予定だった──」

 

 センジンヒノマルは首肯した。本来、センジンヒノマルはヒノマルではなく■■■■■■■■■という名前で走っていた。そしてこの世界でウマ娘として生れ落ちるはずだった。しかしバグが起きた。本来の器がなくなってしまい、そこにヒノマルという新しい器が誕生してしまった。そこに魂が宿ったことによりウマ漢、センジンヒノマルが生を受けたのだ。

 

「……スピリチュアルすぎてなに言ってるのかさっぱり」

「だろうね。要約すれば、僕が必要以上に生を望んだ。だから君が生まれてしまった。申し訳なく思って──」

「ふざけるな!」

「なに?」

 

 センジンヒノマルの言葉がヒノマルという漢の逆鱗に触れた。

 

「『生まれてしまった』だと。もう一度言ってみろ! 俺は確かに生まれたことを後悔した。でも仲間たちのおかげで『生きたい』って思えたんだ! 今の俺は生まれたことに後悔はない。全力で応えたんだ、ここにいることを! だから二度と言わないでくれ」

 

 存在を後悔し続けた自分を変えてくれたこの世がある。そして助けてくれた仲間たち。みんなに生きてることを応えたヒノマルには、今更生まれたことを否定したり謝られたりするのはどうしても許せなかった。

 

「お前がなに言おうと関係ない。俺は生きてやりたいことをやらせてもらう」

 

 力強いその宣言はこの空間の太陽のように輝いている。それを見たセンジンヒノマルは大きく鳴いた。その急さにヒノマルは驚くが彼に構うことなくセンジンヒノマルは語りかけた。

 

「だったら、僕を超えよう! 君と僕にできる最高を、やってやろうじゃないか!」

「ああ! まずは目指すぞ、天皇賞・春!」

 

 太陽はまた昇る。新しい一日が始まる。

 そしてヒノマルは目覚めた。

 

 

シニア編「そして明日はやってくる」、開始

 

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