一週間いないには絶対にさせます。
今回の年越しは長引き二つに分けました。
あと設定はもう少しだけ待ってください。
夢を見ているのだろうか。
君は何者なのだろうか。俺にはなにもわからない。
わかるのはただ君が誰かを追いかけていて,届かずに悔しくて涙を流しているところ。嫉妬した君は優れた才能に打ちのめされて悔しくて悔しくてたまらない。
俺は君と大して違わないのかもしれない。俺も誰かを追いかけては羨ましくて、その度に申し訳なくて、みんなに喜んで欲しくなる。
あの時は本当に悔しかった。おそらく君もそうだろう。必死に己を駆り立ててそれでもあいつに届かなかった。別の時は呆然とするしかなかった。あの時の二人はただただ恐ろしくて、前に進めなかった。
最後のあの日に君が報われることを祈ろう。
それにしても,ああ不思議だな。本当に君は誰だ。
──おまえは『誰』だ
◆◆◆
朝起きればなんともない朝が迎える。
夢を見ていた気分に似ている今はここが現実かもわからなかった。
ヒノマルの今日は予定がなかった。そろそろ年越しでチームも練習を休みにしていて一段と暇だった。
来年はとうとうメイクデビュー。これにより,今までこそこそ隠していたヒノマルの存在は公になる。施設に閉じ込められていたのもヒノマルを大衆の目に晒さないためだった。男のウマ娘がどれだけマスコミのネタになるかなんて容易に想像出来る。もっと早くから知れ渡っていればヒノマルの精神がもたなかったであろう。
「誰だ,あれは……いや,なんの話だ」
まだ夢から覚めていない様子のヒノマルは尻尾と耳がしっかり隠れる服装に着替えた。ヒノマルの存在はまだ未公開。それを外に知らせるのはメイクデビューのときからだ。
いそいそと着替えたヒノマルは寮の外で待つエルの元に向かった。今日はエルと一緒に外で買い物をする約束をしていた。もちろんそのリスクは高いし、学園もいい顔はしなかっただろう。だが,木場やルドルフの説得でしっかり変装するなら許可を取った上で外出してもいいことになった。
「ごめん,ちょっと寝坊した」
「大丈夫デス!それでは行きましょう!」
現在午前九時三十分、二人はショッピングモールに出かけた。
最初に行ったのは靴屋だった。ウマ娘はその脚力ゆえ靴の消費がバカにならず必ず行きつけの店を見つける。ヒノマルはそれがまだ作れておらずいつも施設から送られている靴を使っていた。
「この靴はデスね,結構重たくなっていまして」
「それでパワーとかを鍛えるのか」
「その通りデース!」
二人は小一時間ほど靴屋でどんな靴がいいかを話し合った。例えば,この靴は曲がりやすいだとかカラーリングがいいだとか。
現在午前十時二十五分,次は日用品だった。
「そういえば,ヒノマルは足りてない筆記用具はお有りデスか?」
「いや,必要なのは筆箱に定規、コンパス,他には消しゴム三個と鉛筆六本……あとは,ハサミ,ホッチキス,ノリ,サインペンぐらいか。大丈夫だ,全部ある」
何という細かさだ。普通の中学生はもっとざっくりしているはずだ。そう思うような答えだった。ともかく文房具は全て揃っていたので買う必要はなかった。
その次に行ったのは化粧品売り場だ。
「エル,俺はこういうのには疎いが早いと思う」
ヒノマルはそんなことを言ってしまった。さすがにエルも大きなため息をついた。
「やれやれ。わかってませんね,ヒノマルは。アタシ達ウマ娘は走ったあとに何がありますか?そう,ライブデスよ,ライブ!そのため常に美白、美肌,艶肌を保たなきゃいけないデスよ!」
失言をしてしまいヒノマルは気圧された。
実際にエルの言ってることは正しい。普通の女子中学生でも肌のケアはよくやっている。加えてウマ娘となれば公に姿を晒すことになる。より一層のケアを施すことは当然であった。
そんなことをしてる間に正午が近づいてきた。二人は息が合ったように腹の虫を鳴らした。
「エル,俺はよくわからないからおすすめの店はないのか?」
「あーっ,そうだ!エルについてきてくださいデース!!」
現在正午,ヒノマルが連れてこられたのはとあるファストフード店だった。席に着くとヒノマルは当たりを見回した。こう言ったところに来るのは本当に初めてでキラキラと目を輝かせていた。
エルがメニューをとりにいくらしいのでヒノマルはそれに従った。待ち時間というのは暇だ。ヒノマルは編入してから今日までのことを振り返っていた。
本当にいろいろなことがあったな。短い期間だったが施設にいた時より濃い思い出がある。
トレーナーとの出会いなんて最悪そのものだし、それからもタキオンさんの人体実験やエレジーさんと全然話せなかって,大変なことばっかりだ。
でも,同じくらい楽しかったな。こうやって外に出て『友達』と一緒に何かをしている。
考えたこともなかった。こんなこと,していいなんて思ってなかった。
ありがとう,
◆◆◆
「お待たせしました!
真紅に燃えるのは皿か衣か!いいや,ポテト自身が燃えているのだ!!
辛さこそが旨さ!旨さこそが辛さ!レッド,ホット,スパイシー!エル特製ポテト,お待ちどうさまデェェェエス!!」
エルが運んできたのはまさしくマグマとも形容出来そうな真紅に染まったポテトだった。その味は見ればわかる。語るまでもないだろう。
「すごく赤いな,何がかかっているんだ?」
この赤さになぜかヒノマルは疑問を持たない。
「これはデスね、エルの家に伝わる秘伝のソースなのデス!昨日送られてきて全部使っ切ってきました!」
「全部?大丈夫なのか,これからも使わないのか?」
疑問はそこじゃないだろう。周りから見ればそう突っ込まれるだろう。
「このソースはママから家族以外に使っちゃダメだって言われてました。けど,ヒノマルは同じチームのメンバーなので特別デース!」
エルの純粋な優しさが光る。
ヒノマルは驚いたが直ぐに微笑んだ。とても穏やかな顔でありがとうと伝えるとポテトを一本つまみ,口に運んだ。
ここで誰かは疑問を抱いただろう。
なぜヒノマルは躊躇わないのかと。
ヒノマルは生まれてこのかた健康的な食事しかしていない。たとえて言えば毎日給食を食べていたどうことだ。そして,彼にとって辛い料理はカレーライス。それもとあるリンゴと蜂蜜の溶けたカレーの中辛レベルだ。
よってここから出せる結論は二つ。
ヒノマルは激辛を知らない。
ヒノマルは辛さに耐性がない。
口にポテトを運んだヒノマルがどうなるかは容易に想像がつくだろう。
「これはおいし───っァ」
「えっ,ヒノマル?大丈夫デスか!?」
彼はこの日火を吹くことに成功した。
今回の話に年越し要素ないとか言わないでほしい(切実)