【完結】ウマ漢 〜燦々レーシング〜   作:プレブレム

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6R 進め,『先』へ

 現在午後一時四十分,なんとかヒノマルは正気を取り戻した。未だに口はヒリヒリしていたが気にしないことにした。

「本当にゴメンなさい!」

「いいよ,謝らなくても。ほら,逆に新しい味覚を感じたって考えたらいいしさ」

 これ以上謝っても仕方ないと考えたエルは次の場所に向かった。

 今度は服屋に寄って行った。それは,ヒノマルは服のバリエーションがあまりにも少なかったからだ。それは木場が全品自腹で買うほど少なかった。

「なあエル,俺は別に服はこれさえ有れば……」

「いいえ,買ってもらいます!初めて、ヒノマルの私服を見た時ほんと驚いたんデスよ!」

 それはパーチで練習がなかった日のこと。

 ──ヒノマル,なんデスかそれ!?

 ──ん,これか?

 ヒノマルは白尽くめ服を着ており、しかも何一つ特徴のない服だった。

 ──昔使っていたやつだ。新しく送ってもらったが外に出ないならこれだけでいいのにな

 ──んな……笑い事じゃっないデース!!

 施設にいた頃,普段着ていた服をずっと使っていたのだ。あろうことか、所長がわざわざ何万円かして買ってきた服も着用せずわざわざもう着る必要のない白尽くめを着ていたのだった。

 その後,エルが木場に相談して,いくつか買ってきてもらいその件は終わった。

「いや,正直私服なんて季節に上下二着ぐらい有れば大丈夫だろう」

「いいえ,だめデス!」

 とはいえ,ヒノマルは本当に服に興味がない。一体どんな服を選べばいいか頭を捻っていると

「あら,偶然ですね,エル」

 振り返ってみるとそこには一人の栗毛のウマ娘がいた。まさに清楚,美麗,そして『大和撫子』を体現しているかのようなウマ娘。

「グラス!」

 グラスワンダーはエルと寮での部屋が同じで二人は大親友だ。彼女はアメリカ生まれながら両親も根っからの日本文化好きで趣味の中に茶道があるぐらいだ。あちらも同じく休養日なのでここに来たのだろう。

「ええと,そちらの方は?なにやらフードを深く被ってますが」

「彼はヒノマル,アタシのチームメイトでほら,男の子デース……」

 エルはなるべく小声でグラスに伝えた。すると彼女はハッとしたような面持ちになりお辞儀をした。

「はじめまして、グラスワンダーと申します」

「俺もはじめまして,センジンヒノマルだ。みんなからはヒノマルと呼ばれている」

 二人は握手を交わすとエルがここに来たいきさつと悩んでいることを伝えた。

 すると意外な提案が挙がった。

「それではこのお店でエルとわたしがとってきた服を選んでもらう,なんてどうでしょう」

「ブエノ!やりましょう、ヒノマル!」

 ヒノマルの返事などいざ知らず。二人は風のごとく店内に入っていった。

 

◆◆◆

 

 数十分が経った。流石に暇になってきたころに二人は戻ってきた。

「それでは行きましょうか、フィッティングルーム」

 今回服は上のものだけだった。ズボンには木場から尻尾隠せるように施されておりそれを脱げば周りに正体を晒すことになるからだ。

 フィッティングルームに入ったヒノマルは二つの服を見た。とても二人の個性が溢れているのでお洒落を知らない彼でも似合うかどうかと考えてしまった。

 まず初めにエルの選んだ服だ。先程の激辛ポテトに似た色の縦のラインの入ったセーター。

決めてはタートルネックでありその保温性能は抜群だった。

「どうデスか、ヒノマル?」

「良いと思うけどちょっと派手かもしれないな。今はまだ目立ちたくないし」

 ヒノマル的にはよかったがいかんせん赤い服は目立ちやすくなおかつこの服は彩度が高い。故に保留となった。

 次はグラスの選んだものだ。こちらは一風変わって和風な感じのコーデだった。色は落ち着いた緑であり質素な趣が感じられる。

「どうでしょうか?」

「そうだな,今の季節にはまだ早くけどもう少ししたらたくさん着れるようになると思う」

 グラスの選んだ選んだ上着は洋服にもマッチしてカジュアルなファッションを組みやすいものとなっていた。七分丈ということも相まって幅広い季節に使えそうだった。

 しかしここで一番の問題が発生した。

「でもこれだと,正体隠す用の服と合わせられないな」

 グラスワンダー,一番大事なところが抜けていた。

 結局,どちらも買うことになり今日の買い物は終わった。

「ヒノマル,今日は楽しかったデスか?」

「うん。ありがとう,エル。俺なんか誘ってくれて」

「いえいえ。それと今日は夜に年越しパーティーをするみたいデス。トレーナー室に来てくださいね」

 どうやら,お楽しみはこれからのようだ。

 

◆◆◆

 

 現在午後七時散二十五分,パーチの面々は一つのコタツを囲んでいた。テレビには年末の歌番組が放送されており、ヒノマルは雰囲気でしか楽しめなかった。

 そして,料理がやってきた。木場特製のすき焼きだ。少し高そうな牛肉に糸こんにゃく,お麩,椎茸などがしっかり煮込まれていてけむりがあたりに漂う。

 木場は全員に具材を小分けするとビール缶を開けながら号令をかけた。

「それでは来年の新しい歴史の始まりを祝して,今年の出会いと共に過ごした時間を祝して,乾杯だぁぁぁ!!」

 今宵は無礼講,と言っても元々年齢も立場もないようなチームだ。

 ヒノマルは初めて、栄養バランスも量も考えずに悉くを口に放り込んだ。誰もがそうした。その日のパーチはいつも以上にうるさかった。しかし,不快な気持ちなど一切なかった。

 

 具材もなくなりそろそろお開きとしたかったが来年の予定を一通り伝えたいと木場に引き留められた。もっともそうした本人が酔い潰れてしまったためエルと二人でベランダにいた。

「そろそろ俺たちもデビューなんだよな」

「そうデスね。そしてエルは示します。アタシが,最速,最高,世界最強のウマ娘であることを!」

 エルは高らかに宣言する。ヒノマルの目にはそこに怯みも恐怖もないようにその姿が映る。なんと力強いのだろうか、そう思わずにはいられなかった。

「エルは,すごいな。強いし,かっこいいし,何よりしっかりとした『夢』を持っている」

「ヒノマルはないんデスか」

 疑問の声があがる。

「俺は,わからないとしか言えない。今の目標は父さんと母さんに誇れる『息子』になること,そして,後悔なんてさせないこと。レースとか自分とか全然考えてなくてさ、漠然と未来を見ているだけなんだ」

 今のヒノマルには未来を気にする余裕などなかった。今は自分にまとわりつく重いものを『過去』に進めることで手がいっぱいなのだ。

「ヒノマルは両親思いデスね、普段から連絡したりしてるんデスか?」

 その瞬間ヒノマルの耳はペタンと折れてしまった。顔色もやや青くなっている。まるで最近家族を亡くし墓前に立つかのように。

「……実は,もう二人はいないんだ。どっちも俺のせいで、」

 エルは呼吸ができなくなった。エルには両親がいる。そして,今すぐ会えなくても仕送りをしてくれたりなど確かにつながっている。

 ヒノマルにはそれがないし,感じたこともない。それがどんなことかなんて考える方法がわからなかった。

「そんな顔をしないでくれ。年越しにはもったいないだろう。

 まあ,両親は俺のせいで,そうなった。だからなにもせずに終わろうと思っていた。でももうそんなことは考えない。だって,この日々を生きてたいから,」

 力のなさそうな笑顔だった。無理矢理取り繕ったその顔からは一筋の水滴が流れていた。もったいない顔は一体どっちなんだろう。区別なんてつけられてなかった。

「おーい,おまえら,酔いが覚めたから早く来てくれ」

 現在午後十時五十五分,どうやらやっと木場が元に戻ったらしい。

 

 

 そして季節は巡り出す。ついに彼の三年間は始まりを告げることになる。




次回メイクデビューです。
ジュニア級はあっさりしてると思います。頑張ってキャラの掘り下げもできたら嬉しいなという感じで進めていきます。
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