ギアーデ連邦首相謁見室に1人の男が入室しようとしていた。その男は自らのことを古代兵器学者だという。実際のところはただの学者なんぞではないのだが、本人には都合が悪いので基本的には冴えない学者という人物像を押し通している。
「悪いね、はるばる呼び出して」
「何をおっしゃる、たかが研究室でたたき起こされて800m歩いただけにすぎませんよ」
呼び出したのは現ギアーデ連邦首相、エルンスト・ツィーマン。エルンストがソファに腰をかけ、自称古代兵器学者も腰を下ろす。
「それにしても冴えない学者に呼び出しとは天変地異でもあったのですか?」
「天変地異ならとっくに起きてるさ」
「そうでしたな」
自称古代兵器学者もエルンストの人物像を十分に分かっている。「86」が生還しなかった場合は天変地異の阻止をサボタージュするなんて思考の持ち主、思えば似た思考回路の人間が自分の周りにもいたなと思い出す。そのうちの1人に最悪なネーミングセンスの名前を持つ人もいただろうか。
「君を呼び出したのは他でもない、あの噂についてだ。」
「伝説にあったのと似た『巨人』の出没ですか...」
「そうだ、あれをどう思う?」
「迷信だと信じたいですが....」
自称学者は言葉を詰まらせる。対するエルンストは催促することもなく、紅茶を飲みながらただ自称学者の次の言葉を待つ。
「仮に本当だとすると、従来の兵器では全く対抗できません。」
コックピットの中は真っ暗だった。いや、非常時を知らせる赤いランプは点滅していた。そこには意識を失った1人のパイロットがいた。まさか地上に戻ってきたことを知る由もなしに。本人は目覚めないまま、コックピットのモニターが明るくなっていく。周囲は森の海といったところだろうか。霧も濃かった。
モニターに表示されていたのは一言でいえば絶望だった。
Calamity Lost
Forbidden Lost
Dominion Lost
仲間は全員墜とされた。調教者も地獄に送られたのだろう。
ALERT
この文字がひっきりなしにモニターで表示される。エネルギー残量はもうあと数%もない。これでどこにも帰ることは叶わない。
目の前には中破した敵機とその援護に回る機体が1機。相手方の高エネルギービームライフルは黄色く光り始めていた。何もかもどうでもよくなってきた、せめて消える前に道連れだけでも、と自機も頭部に赤い光をため込む。
「僕は....僕はねぇ...!」
結局道連れは叶うことなく、乗機は漆黒の宇宙の中で爆散した。
霧は晴れ始め、コックピットモニターも明るくなってきた。操縦席のパネルはOSの起動を表示していた。
O.M.N.I
植物から青い球体が咲いたようなロゴで始まった。
General
Unilateral
Neuro-link
Dispersive
Autonomic
Maneuver
OSの起動が完了したころにはパイロットの意識が少しづつ戻っていた。だが、身動きは全くとれない。目も開けられない。
森林の真ん中で肘をついたまま微動だにしない黒い巨人だったが、ついに頭部のツインアイが緑色に光った。背中には赤枠の黒い翼もある。
頭部には型式番号と思われるものも。
GAT-X370
黒い巨人は腰を上げて直立するとそこで再び動きはとめ、今度はあたりを見回す。
目撃者は...いた。
次回:蒼い悪魔