同じころ、ほど近い森林地帯では別動隊が派遣されていた...
「なんとおぞましい....」
客人の前でそう漏らすのはヴァナルガンドの操縦手だった。後方に座っていたのは例の自称学者である。
自称学者は得体のしれない人型の黒い物体を見ても操縦手ほど動じていない。自称学者も見たことはなかったが、全く見覚えがなかったわけでもなかったのだ。
(やはりモビルスーツだったか...背部に翼状のバインダーがあるあたり、可変機とみていいな)
「う、動きます!」
「間違えても発砲はするなよ、あれがレギオンなら我々は瞬殺だ」
黒い巨体は直立した。ツインアイも光っていた。
(よりにもよってガンダムタイプか...)
自称学者は表情を曇らせていた。彼は「ガンダム」を知っている。そして彼の経験上、黒い「ガンダム」にろくなものはない。今回のGAT-X370が機体コードと思われるガンダムもまた黒かった。
「頭が動きました!」
「絶対に動いてはダメだ!(こういうときにミノフスキー粒子があればな...)」
沈黙の10分が流れた。戦場では2分でも十分に長く感じられるものだが、その状態での10分というのは息を殺すにはあまりに長すぎる。
沈黙は黒いガンダムによって破られた。レギオンが放ったであろう流れ弾(ミサイル)が偶然「ガンダム」に命中した。しかし、このガンダム、頭に当たったのに傷ひとつついていない。
操縦手は震えあがる一方で、自称学者は見たこともない装甲に開いた口が塞がらなかった。
「ガンダム」はあたりを索敵するかのようにしばらく森林地帯を闊歩すると、やがて空へ向けて飛翔した。その際は学者の予想通り、飛行機のような形状に変形していた。
85区の旧地下鉄ターミナル、ターミナルと聞くと立派な響きがあるが、現状はレギオンの巣窟だ。周囲のヴァナルガンドが闇の中で次々と狩られていく一方、シン、ライデン、セオ、アンジュ、クレナは苦戦しながらも地下の奥へと進んでいく。先の見えない闇とどこからくるのか分からない敵、パラレイド越しに指揮官も判断に苦しんでいるのがよく伝わる。
それでも止まれない理由があった。作戦のため、ではなく、隊員のアネット(シンの幼馴染にしてレーナの親友、少佐)が拉致されたからだ。
プラットフォームがあったと思われる場所に近づくにつれ、違和感が強まる。パラレイドなど、各設備を念入りにチェックするが特に異常はない、はず。なのになぜか使ってはいけない気がした。
願わくばこの場に自称学者が同行していたことが理想だったかもしれない。
一瞬ではあったが、シンの目に緑色の光が見えた。仲間に伝えようとするが、どうにもパラレイドを使う気になれない。
ほんの思いつきでライトを照らそうとした瞬間、再び緑色の光が見えた。まるで人の目のようにも見えるものだったが、間もなく赤に変色した。赤い目は明らかにこちらを捉えていた。そして赤い目の持ち主は発砲した。
発砲したときの光で見えたのは蒼い人型の機動兵器と、周囲でうずくまる「廃人」たち。
蒼い悪魔は背部のスラスターと思われる個所から赤い光を出しながらこちらを目掛けて突っ込んでくる。そのかすかな光で見えたのはシールドにあった型式と思われるものだった。
RX-79BD-1
シンの脳裏にはただひたすら「EXAMシステム発動」が連呼されるだけだった。
次回:解放/介抱